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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C05G
管理番号 1287301
審判番号 不服2012-21577  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-31 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2001-178713「被覆生物活性粒状物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年3月8日出願公開、特開2002-68880〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成13年6月13日(優先権主張、平成12年6月14日)の出願であって、平成23年7月29日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月3日に意見書および手続補正書が提出され、平成24年7月27日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同日付けで手続補正書が提出され、同年12月13日に手続補正書(審判請求書)が提出され、平成25年3月19日付けの審尋に対して、同年4月25日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年10月31日付け手続補正の却下の決定について

[補正却下の決定の結論]
平成24年10月31日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年10月31日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲である、
「【請求項1】生物活性物質を含有する芯材粒子の表面を、フィラーを含有する被膜で被覆した被覆生物活性粒状物において、該被膜おけるフィラー分散の変動係数が5?35%である被覆生物活性粒状物。
【請求項2】生物活性物質を含有する芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させ、該表面に被膜を形成させる被覆生物活性粒状物の製造方法において、該被膜材料溶解液の粘度が0.5?40[mPa・s]の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の被覆生物活性粒状物の製造方法。
…」
を、
「【請求項1】
生物活性物質を含有する芯材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で被覆され、該被膜におけるフィラー分散の変動係数が5?35%である被覆生物活性粒状物の製造方法であって、
生物活性物質を含有する円形度係数が0.8以上の芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させて該表面に被膜を形成させる工程を含み、
前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?30[mPa・s]の範囲であることを特徴とする被覆生物活性粒状物の製造方法。
…」
と補正するものであって、補正後の請求項1は、物の発明に係る補正前の請求項1を削除して、物の製造方法の発明に係る補正前の請求項2を新たな請求項1としたうえで、以下の補正事項1?4に係る補正を行ったものと認められる。
(なお、補正前の請求項2は、請求項1を引用せずに記載すると、次のとおりのものである。
[補正前の請求項2]
「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させ、該表面に被膜を形成させる被覆生物活性粒状物の製造方法において、該被膜材料溶解液の粘度が0.5?40[mPa・s]の範囲であることを特徴とする、
生物活性物質を含有する芯材粒子の表面を、フィラーを含有する被膜で被覆した被覆生物活性粒状物において、該被膜おけるフィラー分散の変動係数が5?35%である被覆生物活性粒状物の製造方法。」)

・補正事項1:生物活性物質を含有する芯材粒子の円形度係数が記載されていなかったところを、「円形度係数が0.8以上」との事項を加える補正。

・補正事項2:被膜材料溶解液の粘度が「0.5?40[mPa・s]」と記載されていたところを、「0.5?30[mPa・s]」とする補正。

・補正事項3:「…被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させ、該表面に被膜を形成させる被覆生物活性粒状物の製造方法…」と記載されていたところを、「…被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させて該表面に被膜を形成させる工程を含み…被覆生物活性粒状物の製造方法」とする補正。

・補正事項4:「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面に…、該被膜材料溶解液の粘度が…、生物活性物質を含有する芯材粒子の表面…フィラーを含有する被膜…。」と記載されていたところを、「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面…フィラーを含有する被膜…、生物活性物質を含有する…芯材粒子の表面に…前記被膜材料溶解液の粘度が…。」とする補正。

2.補正の目的要件について
上記補正事項のうち、補正事項1は、補正前の請求項2に記載された発明特定事項である「生物活性物質を含有する芯材粒子」を円形度係数が0.8以上のものに限定する補正である。
補正事項2は、補正前の請求項2に記載された発明特定事項である「被膜材料溶解液の粘度」の数値範囲を狭い範囲に限定する補正である。
補正事項3は、補正前の請求項2に記載された発明特定事項である「被覆生物活性粒状物の製造方法」を、「被膜材料を…被膜を形成させる」ものから、「被膜材料を…被膜を形成させる工程を含」むものにする補正であって、「被膜材料を…被膜を形成させる」ことを、工程の一つに限定する補正である。
そして、補正事項1?3は、補正の前後で請求項に記載された発明の属する技術分野、および、解決すべき課題を変更するものではないから、これらの補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
また、補正事項4は、引用形式で記載されていた補正前の請求項を非引用形式で記載したこと等に伴って、請求項に記載された発明特定事項の記載の順番、語句の形式、等を整えるための補正と認められる。
よって、補正事項1?4はいずれも、補正の目的要件に違反するものとは認められない。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について検討する。
具体的には、本件補正発明が、後記「(2)(2-1)」に記載した刊行物1?3に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、平成24年10月31日付け手続補正の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で被覆され、該被膜におけるフィラー分散の変動係数が5?35%である被覆生物活性粒状物の製造方法であって、
生物活性物質を含有する円形度係数が0.8以上の芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させて該表面に被膜を形成させる工程を含み、
前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?30[mPa・s]の範囲であることを特徴とする被覆生物活性粒状物の製造方法。」

(2)刊行物および刊行物に記載された事項
(2-1)刊行物
刊行物1:特開昭62-197385号公報
刊行物2:特開昭54-97260号公報
刊行物3:特開平11-92261号公報
(刊行物1、2は、平成24年7月27日付け拒絶査定での引用文献1、2であり、刊行物3は、平成25年3月19日付け審尋での周知例である。)

(2-2)刊行物に記載された事項
刊行物1?3には、次の事項が記載されている。
[刊行物1]
・摘示事項1-a:
「肥料の表面にオレフィン重合物、オレフィン共重合物、塩化ビニリデン重合物、塩化ビニリデン共重合物の少くとも一種と、酸化ワックス、酸化ペトロラクタムおよびそれらの誘導体の少くとも一種との混合物を必須被膜材として被覆したことを特徴とする被覆粒状肥料。」(第1頁左欄特許請求の範囲)

・摘示事項1-b:
「本発明者らは肥効期間が調節でき、その上で作物の養分要求に合せた成分溶出パターンを有する被覆粒状肥料を製造するために被膜材の検討を行ない、本発明に至ったものである。

本発明では、さらに必要に応じて第三被膜材成分として例えば溶出調整剤、フィラー等を均一に分散して用いることができる。」(第2頁左上欄第11行?右上欄第15行)

・摘示事項1-c:
「なお、必要に応じて混合可能な第三被膜材成分としては溶出調整剤としての界面活性剤、不溶性フィラーとしてのタルク、炭酸カルシウム、金属酸化物等を用いることができる。これらの混合物は均一に分散することが必須要件であり、不均一であれば一部の微粒子が片寄って被膜材の連続相が損なわれて被膜の効果が失われる。」(第2頁右下欄第3?10行)

・摘示事項1-d:
「本発明の被覆粒状肥料を作るために供給する被覆溶液の温度は粘度によって規定され、その上限は40cp、好ましくは20cpであり、5cp以上であることが好ましい。」(第2頁右下欄第20行?第3頁左上欄第3行)

・摘示事項1-e:
「[実施例]
本発明の粒状肥料を作製するに適した装置並びに方法を示す。
第1図は好適な一例の装置を示し、1は噴流塔で…肥料投入口2、排ガス噴出口3を有する。噴流用空気はブロアー10から送られ、オリフィス流量計9、熱交換器8を経て噴流塔に至るが…排ガスは排ガス噴出口3から塔外に導かれる。被覆処理に供する粒状肥料は肥料投入口2から所定の熱風を通しながら投入し、噴流を形成させる。被覆処理は被覆粒子温度が所定の温度になってから被覆液を流体ノズル4を通して噴霧状で噴流に向って吹き付ける。被覆液調製は液タンク11に所定量の被覆材と溶剤を入れ、溶剤の沸点近くで攪拌しながら行う。被覆液の供給はポンプ5によってノズルに送られるが…所定の被覆液を供給したらポンプを止めた後、ブロワーを止める。被覆された肥料は抜出口7から取り出される。6はバルブである。なお、本実施例では何れも下記の基本条件を保持して粒状肥料の被覆を行った。
流体ノズル:開口0.8mmフルコン型
熱風量:4m2/min
熱風温度:100℃
肥料の種類:5-7meshの燐硝安加里
肥料投入量:5kg
被覆液濃度:固形分5重量%
被覆液供給量:0.5kg/min
被覆時間:10分
被覆率(対肥料):5.5重量%(但し、界面活性剤分は上乗せ)
溶剤:テトラクロルエチレン
つぎに組成例並びにその窒素溶出量を示す。
前記の製造方法によって第1表に示す各種の被膜組成の被覆燐硝安加里の製造を行ない、それぞれの窒素溶出量を試験して、その結果も第1表に記載した。




」(第3頁左上欄第4行?左下欄第3行、第1表、第4頁第1図)

[刊行物2]
・摘示事項2-a:
「…
6.熱時溶液状を保持するが冷却時はゼリー状を呈する樹脂の溶液中に水不溶性もしくは水難溶性無機粉体を固形分として50重量%以上80重量%以下分散し、該分散液を噴霧状で粒状肥料に連続的または間歇的に添加しながら、その添加位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加溶液を瞬時で乾燥することによって、該粉体を主体とし該樹脂を結合材とした崩壊性カプセルで完全に被覆された被覆肥料の製造法。
7.樹脂がポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン又はその共重合体、酢酸ビニルユニットが5重量%以下であるエチレン酢ビ共重合体から選ばれた少なくとも一種のものである特許請求の範囲第6項記載の被覆肥料の製造法。
8.水不溶性もしくは水難溶性無機粉体がタルク、金属酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ガラス粉から選ばれた少なくとも一種のものである特許請求の範囲第6項記載の被覆肥料の製造法。

11.分散液の粘度が噴霧時40cp以下である特許請求の範囲第6項記載の被覆肥料の製造法。
…」(第1頁左欄?第2頁左上欄特許請求の範囲)

・摘示事項2-b:
「本発明の目的は完全な被覆が行われ且つ溶出速度の自由な調節の可能な被覆粒状肥料であつて、しかも溶出終了后、土壌中で崩壊し易いカプセルで被覆された溶出調整型肥料とその製造方法を提供することにある。」(第2頁右上欄第15?19行)

・摘示事項2-c:
「本発明の主要な被覆資材である無機不溶性粉体の代表的なものはタルク…である。…これらの粉体はカプセルを構成する主体の骨材として均一に分布し、その間の結合材である樹脂層は連続相を形成させることが完全被覆の上で好ましい。」(第3頁右上欄第16行?左下欄第8行)

・摘示事項2-d:
「本発明に於ける完全被覆とは粒状肥料表面を一様に被覆し溶出を抑制し得る被覆状態を指し、実用的判断として1日程度の水中浸漬に於いてほとんど溶出しないものである。更に厳密には1粒1粒の溶出試験を行つて不完全被覆の割合を出すことも可能であるが、実際には数グラム単位で初期溶出率で判断することができる。」(第3頁左下欄第11?17行)

・摘示事項2-e:
「従来から種々の目的で被覆粒状肥料の製造に粉体が用い得ることが開示されている。…特に熱可塑性樹脂の粘着防止に用いた場合には、…被覆の効果が充分なものは得られず、完全被覆性を満足できるものではない。これは粉体の分散が不均一であつて、1部に偏在して樹脂相が不連続相となつてそこから肥料が短時間に溶出してしまうためである。本発明では均一相のマトリツクス被膜を形成することが完全被覆を達成するために必要な条件である。
本発明の被覆肥料の好ましい製造方法は熱時溶液状を保持するが、冷時はゼリー状を呈する結合材の樹脂溶液に前記の不溶性の無機粉体をこの樹脂溶液に均一に分散させ、この分散液を噴霧状で粒状肥料に連続的又は間歇的に添加し乍ら、その位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加分散液を瞬時的に乾燥し、無機粉体を熱可塑性樹脂で結合させた被膜で完全に被覆する被覆粒状肥料の製造方法であり、…。本発明方法ではカプセル内に粉体と結合材を均一に分布させる必要があるために分散液を均一化する必要がある。」(第3頁左下欄第19行?第4頁左上欄第15行)

・摘示事項2-f:
「実施例1
本実施例では本発明の被覆粒状肥料とその製造方法を述べる。本例では瞬間乾燥条件を得るために噴流被覆装置を用いる。
第1図は本実施例に於いて用いた噴流被覆装置を示す。1は噴流塔…で肥料投入口(2)排ガス排出口(3)を有する。噴流用空気はブロアー(10)から送られ、オリフイス流量計(9)、熱交換器(8)を経て噴流塔へ至るが、流量は流量計、温度は熱交換器で管理され、排気は排出口(3)から塔外に導かれる。被覆処理に供する粒状肥料は肥料投入口(2)から、所定の熱風を通し乍ら投入し噴流を形成させる。…被覆液は液タンク(11)で攪拌されて粉体が均一に分散されており、…ポンプ(5)によつて送られる…。所定の被覆率に達したらブロアーを止め、被覆された肥料を抜出口(7)から取り出す。尚、被覆液中の結合材(樹脂)と粉体の混合状態(分散)や比率については良好になることを配管中から試料抜出して確認する。
本実施例では何れも下記の基本条件を保持しつつ被覆したものである。
一流体ノズル:開口0.8mmフルコン型
熱風帯 :4m3/min
熱風温度:100℃
肥料の種類:5?8muhの粒状尿素
肥料投入量:10kg
被覆液濃度:固形分5%(重量)
被覆液供給量:0.5kg/min
被覆時間:20分
被覆率(対肥料):5.0%
溶剤:テトラクロルエチレン
第1表は上記被覆操作による実施結果である。




」(第4頁右下欄第3行?第5頁、第6頁図面)

[刊行物3]
・摘示事項3-a:
「【特許請求の範囲】
【請求項1】重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1?6であり、かつ密度が0.865?0.945g/cm3であるエチレン-α-オレフィン共重合体を含む被膜を、粒状肥料100重量部あたり1?50重量部被覆してなることを特徴とする被覆粒状肥料。」

・摘示事項3-b:
「【0038】(2-d)被膜の形成方法
本発明において、被覆の形成方法には、特に制限はなく、噴流搭で流動する肥料に、被覆材料を溶媒と共に供給して熱風で乾燥させる噴流方式、転動ドラム内で転動する肥料に、被覆材料を溶媒と共に供給して熱風で乾燥させる転動方式回転パン内で転動する肥料に、被覆材料を溶媒と共に供給して熱風で乾燥させる回転パン方式、及びこれらを組合せたもの、例えば、噴流パン方式等を用いることができる。被覆材料を溶媒と共に供給するスプレーノズルにも特に制限はなく、1液型のノズル、ガスアシストによる2液型のノズル等を用いることができる。」

・摘示事項3-c:
「【0040】粒状肥料の形は、球状、角状、円柱状のいずれでもかまわないが、被覆欠陥の防止の為、球状が好ましい。さらに好ましくは、短/長径比の平均が0.8以上の球状の粒状肥料である。…」

(3)検討
ア.刊行物1、2に記載された発明
前記「(2)(2-2)[刊行物1]、[刊行物2]」の記載事項からみて、刊行物1、2には、次の発明が記載されていると認められる。

ア-1.刊行物1
刊行物1には、「肥料の表面にオレフィン重合物、オレフィン共重合物、塩化ビニリデン重合物、塩化ビニリデン共重合物の少くとも一種と、酸化ワックス、酸化ペトロラクタムおよびそれらの誘導体の少くとも一種との混合物を必須被膜材として被覆した…被覆粒状肥料。」、および、当該被覆粒状肥料の製造方法(摘示事項1-a、1-e)が記載されている。
また、刊行物1には、 タルク等のフィラーを均一に分散して用いることができること(摘示事項1-b、1-c)、被覆粒状肥料を作るために供給する被覆溶液の粘度の上限は40cpであることが好ましいこと(摘示事項1-d)が記載されている。
よって、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「肥料の表面にオレフィン重合物、オレフィン共重合物、塩化ビニリデン重合物、塩化ビニリデン共重合物の少なくとも一種と、酸化ワックス、酸化ペトロラクタムおよびそれらの誘導体の少なくとも一種との混合物を必須被膜材として被覆した被覆粒状肥料の製造方法あって、フィラーを均一に分散して用い、被覆粒状肥料を作るために供給する被覆溶液の粘度の上限は40cpとする、被覆粒状肥料の製造方法。」

ア-2.刊行物2
刊行物2には、完全な被覆が行われ且つ溶出速度の自由な調節の可能な被覆粒状肥料(摘示事項2-b、2-d)について、「熱時溶液状を保持するが冷却時はゼリー状を呈する樹脂の溶液中に水不溶性もしくは水難溶性無機粉体を固形分として50重量%以上80重量%以下分散し、該分散液を噴霧状で粒状肥料に連続的または間歇的に添加しながら、その添加位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加溶液を瞬時で乾燥することによって、該粉体を主体とし該樹脂を結合材とした崩壊性カプセルで完全に被覆された被覆肥料の製造法。」(摘示事項2-a、2-f)が記載されている。
また、刊行物2には、従来の被覆粒状肥料は無機粉体の分散が不均一で1部に偏在するため樹脂相が不連続相となって肥料が短時間に溶出してしまうものであったところ、刊行物2の発明では、無機粉体を樹脂結合材に均一に分布させること(摘示事項2-c、2-e)、樹脂の溶液中に水不溶性もしくは水難溶性無機粉体を分散した分散液の粘度が噴霧時に40cp以下とすること(摘示事項2-a)が記載されている。
よって、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「熱時溶液状を保持するが冷却時はゼリー状を呈する樹脂の溶液中に水不溶性もしくは水難溶性無機粉体を固形分として50重量%以上80重量%以下分散し、該分散液を噴霧状で粒状肥料に連続的または間歇的に添加しながら、その添加位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加溶液を瞬時で乾燥することによって、該粉体を主体とし該樹脂を結合材とした崩壊性カプセルで完全に被覆された被覆肥料の製造法であって、無機粉体を樹脂結合材に均一に分布させ、分散液の粘度を40cp以下とする、被覆肥料の製造法。」

以下において、上記の引用発明1、2をそれぞれ主引用発明とした場合について、当業者が本件補正発明を容易になし得たものであるか否かについて検討する。

イ.引用発明1を主引用発明とした場合についての検討
(ア)本件補正発明と引用発明1との対比
引用発明1の「肥料の表面」、「被覆粒状肥料の製造方法」、「フィラー」、「…被覆した被覆粒状肥料の製造方法あって、フィラーを…用い…」は、それぞれ本件補正発明の「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面」、「被覆生物活性粒状物の製造方法」、「フィラー」、「フィラーを含有する被膜で被覆され、…被覆生物活性粒状物の製造方法あって、…被膜材料を…付着させて該表面に被膜を形成させる工程を含み…」に相当する。
また、引用発明1の「被覆溶液」は、本件補正発明の「被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液」に相当し、「被覆粒状肥料を作るために供給する被覆溶液の粘度の上限は40cpとする」は、本件補正発明の「前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?30[mPa・s]の範囲である」と「0.5?30[mPa・s]」の範囲で重複する(なお、「cp」と「mPa・s」は、粘度の単位として、換算上、等価なものと認められる。)。
そして、本件補正発明は、被覆を形成する材料において、フィラー以外の如何なる材料を使用するかを発明特定事項としないものであるから、引用発明1の「オレフィン重合物、オレフィン共重合物、塩化ビニリデン重合物、塩化ビニリデン共重合物の少なくとも一種と、酸化ワックス、酸化ペトロラクタムおよびそれらの誘導体の少なくとも一種との混合物を必須被膜材として」との点は、本件補正発明と引用発明との相違点とならないものである。

以上によれば、本件補正発明と引用発明1とは、
「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で被覆される被覆生物活性粒状物の製造方法であって、
生物活性物質を含有する芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させて該表面に被膜を形成させる工程を含み、
前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?30[mPa・s]の範囲であることを特徴とする被覆生物活性粒状物の製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

相違点1-1:被膜においてフィラーを均一に分散させることに関して、本件補正発明は「フィラー分散の変動係数が5?35%」のものであるのに対して、引用発明1は「均一に分布させ」るものである点。

相違点1-2:芯材粒子に関して、本件補正発明は「円形度係数が0.8以上」のものであるのに対して、引用発明1は斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

(イ)相違点についての検討
a.相違点1-1
変動係数は均一性やばらつきの程度を表す指標として周知のもの(なお、この点に関して例示すると、例えば、「化学大辞典8 縮刷版」化学大辞典編集委員会編(共立出版)1989年8月15日発行、566頁「変動係数」の項に「標準偏差を平均で割った量.…変動係数はバラツキを相対的に表すものである.分析値など平均値が大きくなると測定誤差も一般に増すが,このようなとき変動係数で表すのが便利である.」と記載されるように、変動係数は、ばらつきや散らばりの大きさをサンプルの平均値の大きさによらずに相対的に表す指標として周知のものである。)と認められる。
また、刊行物1には、被覆粒状肥料の被覆において、フィラーを均一に分散することが必須であり、不均一であると被膜材の連続相が損なわれて被膜の効果が失われることが記載されており(摘示事項1-c)、被覆生物活性粒状物(被覆粒状肥料)において、被覆が均一なものでないと生物活性物質(肥料)の放出にばらつきが生じることは、周知の技術的事項と認められる(なお、この点に関して例示すると、例えば、特開昭56-164090号公報には、「又被覆肥料の一般的な難点としては、被覆の不均一による肥料成分溶出率のばらつきが避けられないことである。…」(第2頁左上欄第14?16行)と、被覆肥料は被覆の不均一によって肥料成分の溶出率にばらつきが生じることが一般的技術的事項として記載されていると認められる。 また、刊行物2には、フィラーに相当する無機粉体を均一に分布させた完全被覆を有する被覆粒状肥料(摘示事項2-c?2-e)の完全被覆について、「…粒状肥料表面を一様に被覆し溶出を抑制し得る被覆状態を指し、…1日程度の水中浸漬に於いてほとんど溶出しないものである。更に厳密には1粒1粒の溶出試験を行つて不完全被覆の割合を出すことも可能であるが、実際には数グラム単位で初期溶出率で判断することができる。」(摘示2-c)と、フィラーを均一に分布させた完全被覆は初期溶出性である不完全被覆の割合が少ないことを意味するものと解される記載がされており、不完全被覆は被覆粒状肥料の溶出性のばらつきの要因となり得るものと推認されることを考慮すると、刊行物2には、不完全被覆の割合が少なく溶出性のばらつきが少ない被覆粒状肥料、が開示されているものと認められる。)。
そして、以上の事項を考慮すると、引用発明1において、被覆粒状肥料の被覆におけるフィラーの分散、分布の均一性の程度を表すのに、周知の指標である変動係数を採用し、形成される被膜の均一性、生物活性物質(肥料)の放出のばらつきの程度を勘案して、適切な数値範囲として、5?35%との数値範囲を設定することは、当業者が刊行物1に記載された技術的事項および周知の技術的事項を考慮して容易になし得たことと認められる(なお、数値範囲に下限値を設定することも当該数値の信頼性等を考慮して当業者が適宜なし得たことと認められる)。
そうすると、相違点1-1に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物1に記載された発明、および、刊行物2等の周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。

b.相違点1-2
被覆粒状肥料において、欠陥のない均一な被膜を形成するために、粒状肥料を球形度の高いものとすることは、周知の技術的事項であり(なお、この点に関して例示すると、例えば、刊行物3の摘示事項3-a?3-c参照。 また、その他に、例えば、特開平10-158084号公報にも、「…円形度係数が0.7以上である芯材粒子…時限溶出型被覆粒状肥料。 円形度係数=(4π×粒子の投影面積)/(粒子投影図の輪郭の長さ)^(2)」(【特許請求の範囲】【請求項1】)との記載等からみて、「…いびつな芯材粒子が存在すると、芯材粒子の表面に均一な厚みの被膜を形成させることができず…初期溶出抑制機能のないものとなる…」(段落【0005】)との問題に対し欠陥のない均一な被覆を形成するために、芯材粒子である粒状肥料を球形度の高いものとすることが開示されていると認められる。)、被覆粒状肥料において被覆が均一なものでないと肥料の放出にばらつきが生じることも周知の技術的事項と認められる(前記「a.」参照。)。
また、球形度を表す指標として、円形度係数は周知のもの(例えば、前記特開平10-158084号公報参照。)と認められる。
そして、以上の事項を考慮すると、引用発明1において、欠陥のない均一な被膜が形成され、肥料の放出にばらつきが生じないように、芯材粒子を球形度の高いものとし、その球形度を周知の指標である円形度係数によって、適切な数値範囲として、0.8以上と設定することは、当業者が刊行物3に例示される周知の技術的事項を考慮して容易になし得たことと認められる(なお、被覆粒状肥料の芯材粒子として、円形度係数が0.8以上のものは、例えば、前記特開平10-158084号公報の【実施例】に係る【表1】に、円形度係数が0.8以上の芯材粒子(芯材粒子D?F等)が記載されているように、通常使用される範囲のものと認められる。)。
そうすると、相違点1-2に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物3等の周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。

(ウ)本件補正発明の効果について
本件補正明細書の発明の詳細な説明の「本発明の被覆生物活性粒状物であれば、粒子間の放出機能のばらつきが少ない。」(段落【0067】)、「…生物活性物質を含有する芯材粒子の表面を、フィラーを含有する被膜で被覆した被覆生物活性粒状物において、被膜おけるフィラー分散の変動係数が50%以下である被覆生物活性粒状物であれば、該被覆生物活性粒状物1粒1粒の粒子間においてその放出機能にばらつきが少ないこと見出し、この知見にも基づいて本発明を完成させた。」(段落【0006】)との記載、および、単位溶出分散度についての実施例データの記載(段落【0065】【表1】)等からみて、本件補正発明は、フィラーを含有する被膜で被覆した被覆生物活性粒状物において、被覆生物活性粒状物の粒子間の放出機能のばらつきが少ないという効果を奏するものと認められる。
しかしながら、被覆生物活性粒状物(被覆粒状肥料)において、フィラーの分散、分布の均一性を高くすること(すなわち、フィラー分散の変動係数を小さくすること)によって均一な被覆が形成されることが、刊行物1に記載され、均一な被覆がされないと粒状物からの生物活性物質(肥料)の放出にばらつきが生じることは周知の技術的事項と認められること(前記「a.」参照。)を考慮すると、本件補正発明の被覆生物活性粒状物の粒子間の放出機能のばらつきが少ないという効果は、刊行物1に記載された発明、および、刊行物2等の周知の技術的事項から当業者が予測し得たことと認められる。
そして、フィラーの分散、分布の均一性を高くすることによって均一な被覆が形成され粒状物からの生物活性物質の放出にばらつきが生じないことが周知の技術的事項から当業者が予測し得たことと認められる以上、本件補正明細書の発明の詳細な説明に、フィラーであるタルクの分散度(変動係数)が33%である実施例が、それよりも分散度(変動係数)が大きい実施例、比較例よりも被覆生物活性粒状物の粒子間の放出機能のばらつき(単位溶出分散度)が少ないことが示されている(本件補正明細書段落【0065】【表1】)としても、それは、当業者が予測し得た範囲内のことであって、本件補正発明が当業者の予測し得ない程の顕著な効果を奏するものとは認められない。
なお、円形度係数の大きい芯材粒子によって均一な被覆が形成される点に係る効果の点ついても、刊行物3等の周知の技術的事項から当業者が予測し得たものと認められる(前記「b.」参照。)。

(エ)小括
よって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、および、刊行物2、3等の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ウ.引用発明2を主引用発明とした場合について
(ア)本件補正発明と引用発明2との対比
引用発明2の「粒状肥料に」、「被覆肥料の製造法であって…被覆肥料の製造法」はそれぞれ、本件補正発明の「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面が」、「被覆生物活性粒状物の製造方法であって…被覆生物活性粒状物の製造方法」に相当する。
また、引用発明2の「水不溶性もしくは水難溶性無機粉体」(以下、単に「無機粉体」という。)は、タルク等であり被覆における骨材として用いられること(摘示事項2-f)からみて、本件補正発明の「フィラー」に相当し、引用発明の「該粉体を主体とし該樹脂を結合材とした崩壊性カプセル」、「完全に被覆された」は、本件補正発明の「フィラーを含有する被膜」、「(材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で)被覆され…芯材粒子の表面に…該表面に被膜を形成させる工程を含み」との事項に相当する。
また、引用発明2の「分散液」は、本件補正発明の「被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液」に相当し、その「分散液の粘度を40cp以下とする」は、本件補正発明の「前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?30[mPa・s]の範囲である」と「0.5?30[mPa・s]」の範囲で重複する(なお、「cp」と「mPa・s」は、粘度の単位として、換算上、等価なものと認められる。)。
そして、本件補正発明は、被覆を形成する材料において、フィラー以外の如何なる材料を使用するか、および、フィラーをどの程度の量使用するか、を発明特定事項としないものであるから、引用発明1の「熱時溶液状を保持するが冷却時はゼリー状を呈する樹脂の溶液中に(水不溶性もしくは水難溶性無機粉体を)固形分として50重量%以上80重量%以下分散し」との点は、本件補正発明と引用発明との相違点とならないものである。

以上によれば、本件補正発明と引用発明2とは、
「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で被覆され…被覆生物活性粒状物の製造方法であって、
生物活性物質を含有する…芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液…該表面に被膜を形成させる工程を含み、
前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?30[mPa・s]の範囲であることを特徴とする被覆生物活性粒状物の製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

相違点2-1:被膜においてフィラーを均一に分散させることに関して、本件補正発明は「フィラー分散の変動係数が5?35%」のものであるのに対して、引用発明2はフィラーに相当する無機粉体を「均一に分布させ」るものである点。

相違点2-2:芯材粒子に関して、本件補正発明は「円形度係数が0.8以上」のものであるのに対して、引用発明2は斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

相違点2-3:芯材粒子の表面への被膜の形成に関して、本件補正発明は被膜材料溶解液を「付着させて」行うものであるのに対して、引用発明2は被膜材料溶解液に相当する分散液を「噴霧状で粒状肥料に連続的または間歇的に添加しながら、その添加位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加溶液を瞬時で乾燥することによって」行うものである点。

(イ)相違点についての検討
a.相違点2-1
変動係数は均一性やばらつきの程度を表す指標として周知のものと認められる(前記「イ.(イ)a.」参照。)。
また、刊行物2には、被覆において、フィラーに相当する無機粉体の分散が不均一となり1部に偏在することによって、樹脂相が不連続相となって、そこから肥料が短時間に溶出してしまうのを防止するために、無機粉体を被膜における樹脂結合材に均一に分布させることが記載されており(摘示事項2-c、2-e)、被覆生物活性粒状物(被覆粒状肥料)において、被覆が均一なものでないと生物活性物質(肥料)の放出にばらつきが生じることは周知の技術的事項と認められる(前記「イ.(イ)a.」参照。)。
そして、以上の事項を考慮すると、引用発明2において、被覆粒状肥料の被覆におけるフィラーの分散、分布の均一性の程度を表すのに、周知の指標である変動係数を採用し、形成される被膜の均一性、生物活性物質(肥料)の放出のばらつきの程度を勘案して、適切な数値範囲として、5?35%との数値範囲を設定することは、当業者が刊行物2に記載された技術的事項および周知の技術的事項を考慮して容易になし得たことと認められる(なお、数値範囲に下限値を設定することも当該数値の信頼性等を考慮して当業者が適宜なし得たことと認められる)。
そうすると、相違点2-1に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物2に記載された発明、および、刊行物2等の周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。

b.相違点2-2
相違点2-2は、前記「イ.(ア)」に記載した相違点1-2と同様の相違点であって、前記「イ.(イ)b.」に相違点1-2について記載した理由と同様の理由によって、相違点2-2に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物3等の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。

c.相違点2-3
引用発明2は、被膜材料溶解液に相当する分散液を「噴霧状で粒状肥料に連続的または間歇的に添加しながら、その添加位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加溶液を瞬時で乾燥することによって」行うものであるが、斯かるプロセスによって、芯材粒子の表面に、被膜材料溶解液に相当する分散液を「付着させる」ことになることは、当業者にとって明らかなことと認められるから、相違点2-3に係る本件補正発明の構成の点は、引用発明2との相違点とは認められない。

(ウ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果については、前記「イ.(ウ)」に引用発明1について記載した理由と同様のことが引用発明2についてもいえるものと認められるから、本件補正発明の効果は、刊行物2に記載された発明、および、刊行物2等の周知の技術的事項から当業者が予測し得たものであり、円形度係数の大きい芯材粒子によって均一な被覆が形成される点に係る効果の点ついても、刊行物3等の周知の技術的事項から当業者が予測し得たものと認められる。

(エ)小括
よって、本件補正発明は、刊行物2に記載された発明、および、刊行物2、3等の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

エ.請求人の主張について
請求人は、平成24年12月13日付けの手続補正書(審判請求書)において、
「本発明の芯材粒子の表面に被膜を形成させる工程において、例えば噴流装置からのガスによる芯材粒子が上方に飛ばされると空中で芯材粒子が回転しますが、このとき、芯材粒子の円形度係数が0.8以上であることで、いびつな芯材粒子と比べて均一に回転し、芯材粒子表面に付着した被膜材料溶解液が均一に芯材粒子全体に行き渡って均一な層厚の状態となり、この状態で乾燥させることができます。その結果、欠陥部分がない均一な被膜が形成され、時限放出型の徐放性機能を有する被覆生物活性粒状物において十分な放出抑制効果を得ることができる(※後述の実験資料1参照)、という格別な作用・効果を奏するものであります。」(審判請求書第3頁第1?8行)
と主張し、次の表1の「実験資料1」を提出した。


上記の請求人の主張は、噴流装置等を使用して被覆生物活性粒状物の製造を行う際に、円形度係数が0.8以上の芯材粒子を用いると、芯材粒子の回転等によって被膜材料溶解液が均一に行き渡って欠陥部分がない均一な被膜が形成され、時限放出型の徐放性機能を有する被覆生物活性粒状物における十分な放出抑制がなされることが顕著な効果であることを主張するものと認められる。

そこで、斯かる請求人の主張について検討する。
芯材粒子を噴流装置で処理する方法によって、被覆生物活性粒状物を得ることは普通に行われることであり(なお、この点に関して例示すると、例えば、摘示事項1-e、2-f、3-b、および、前記特開平10-158084号公報の【図1】参照。)、粒状物の球形度を高くすれば被覆の欠陥発生が防止されることは周知の技術的事項と認められること(なお、この点に関して例示すると、例えば、摘示事項3-c、前記特開平10-158084号公報の段落【0005】参照。)を考慮すると、円形度係数が大きく球形度の高い芯材粒子を用いて噴流装置等によって被覆生物活性粒状物を製造することによって、欠陥の少ない均一な被膜を形成し、芯材粒子に含まれる生物活性物質の十分な放出抑制をすることは、当業者が周知の技術的事項から予測し得たことであり、芯材物質の球形度の適切な数値範囲として、円形度係数が0.8以上との数値範囲を設定することも、当業者が周知の技術的事項を考慮して容易になし得たことと認められる。
よって、上記の請求人の主張は認められない。

(4)独立特許要件のまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、および、刊行物2、3等の周知技術、ないし、刊行物2に記載された発明、および、刊行物2、3等の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明
本件出願に係る発明は、平成23年10月3日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項2に係る発明は、請求項1を引用せずに記載すると、前記「第2 1.」に[補正前の請求項2]として記載した次に再掲するとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液を付着させ、該表面に被膜を形成させる被覆生物活性粒状物の製造方法において、該被膜材料溶解液の粘度が0.5?40[mPa・s]の範囲であることを特徴とする、
生物活性物質を含有する芯材粒子の表面を、フィラーを含有する被膜で被覆した被覆生物活性粒状物において、該被膜おけるフィラー分散の変動係数が5?35%である被覆生物活性粒状物の製造方法。」

第4 原査定の理由
平成24年7月27日付け拒絶査定の理由は、「この出願については、平成23年7月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、平成23年7月29日付け拒絶理由通知書を参照すると、次の理由を含むものである。
「…
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・理由:1,2 請求項:1?3 引用文献:1,2

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭62-197385号公報
2.特開昭54-097260号公報
…」

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと判断する。

1.引用文献の記載事項
引用文献1、2は、前記「第2 3.(2)(2-1)」に記載した刊行物1、2であり、前記「第2 3.(2)(2-2)」の[刊行物1]、[刊行物2]に摘示したとおりの事項が記載されている。

2.検討
(1)引用文献に記載された発明
引用文献1、2には、「第2 3.(3)ア.」の「ア-1」、「ア-2」に記載したとおりの発明(以下、同様に、「引用発明1」、「引用発明2」という。)が記載されている。

(2)本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記「第2 3.(1)」に記載した本件補正発明から、
・芯材粒子の「円形度係数が0.8以上」との発明特定事項が除かれ、
・被膜材料溶解液の粘度の範囲に係る発明特定事項が、「0.5?30[mPa・s]」から「0.5?40[mPa・s]」にされた、
ものである点のほかは、本件補正発明と実質的に同様のものと認められる。
そこで、本願発明と引用発明1、2とを、前記「第2 3.(3)イ.(ア)」、「第2 3.(3)ウ.(ア)」において、本件補正発明と各引用発明とを対比したのと同様に対比すると、

本願発明と引用発明1とは、
「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で被覆され…被覆生物活性粒状物の製造方法であって、
生物活性物質を含有する…芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液…該表面に被膜を形成させる工程を含み、
前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?40[mPa・s]の範囲であることを特徴とする被覆生物活性粒状物の製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

相違点1-1’:被膜においてフィラーを均一に分散させることに関して、本願発明は「フィラー分散の変動係数が5?35%」のものであるのに対して、引用発明1は「均一に分布させ」るものである点。

また、本願発明と引用発明2とは、
「生物活性物質を含有する芯材粒子の表面がフィラーを含有する被膜で被覆され…被覆生物活性粒状物の製造方法であって、
生物活性物質を含有する…芯材粒子の表面に、被膜材料を溶剤に溶解させた被膜材料溶解液…該表面に被膜を形成させる工程を含み、
前記被膜材料溶解液の粘度が0.5?40[mPa・s]の範囲であることを特徴とする被覆生物活性粒状物の製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

相違点2-1’:被膜においてフィラーを均一に分散させることに関して、本願発明は「フィラー分散の変動係数が5?35%」のものであるのに対して、引用発明2はフィラーに相当する無機粉体を「均一に分布させ」るものである点。

相違点2-2’:芯材粒子の表面への被膜の形成に関して、本願発明は被膜材料溶解液を「付着させて」行うものであるのに対して、引用発明2は被膜材料溶解液に相当する分散液を「噴霧状で粒状肥料に連続的または間歇的に添加しながら、その添加位置に高速熱風流を噴出せしめ、添加溶液を瞬時で乾燥することによって」行うものである点。

(3)相違点についての検討
相違点1-1’は、前記「第2 3.(3)イ.(ア)」に記載した相違点1-1と同様の相違点であり、前記「第2 3.(3)イ.(イ)a.」に相違点1-1について記載した理由と同様の理由によって、相違点1-1’に係る本願発明の構成の点は、引用文献1に記載された発明、および、引用文献2等の周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。
また、相違点2-1’、2-2’は順に、前記「第2 3.(3)ウ.(ア)」に記載した相違点2-1、2-3と同様の相違点であり、前記「第2 3.(3)ウ.(イ)a.、c.」に相違点2-1、2-3について記載した理由と同様の理由によって、相違点2-1’に係る本願発明の構成の点は、引用文献2に記載された発明、および、引用文献2等の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものであり、相違点2-2’に係る本願発明の構成の点は、引用発明2との相違点とは認められないものである。

(4)本願発明の効果について
本願発明は、前記「第2 3.(3)イ.(ウ)」、「第2 3.(3)ウ.(ウ)」に本件補正発明について記載した、フィラーを含有する被膜で被覆した被覆生物活性粒状物において、被覆生物活性粒状物の粒子間の放出機能のばらつきが少ないという効果を奏するものと認められる。
そして、斯かる効果は、前記「第2 3.(3)イ.(ウ)」、「第2 3.(3)ウ.(ウ)」に記載した理由から、「円形度係数」に関する理由(前記「第2 3.(3)イ.(ウ)」の「なお、円形度係数の大きい芯材粒子…予測し得たものと認められる(前記「b.」参照。)。」、前記「第1 3.(3)ウ.(ウ)」の「…円形度係数の大きい芯材粒子…予測し得たものと認められる。」)を除いた理由と同様の理由によって、当業者が引用文献1、2に記載された発明、および、引用文献2等の周知の技術的事項から予測し得ない程の顕著な効果とは認められない。

3.まとめ
よって、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明、および、引用文献2等の周知の技術的事項、ないし、引用文献2に記載された発明、および、引用文献2等の周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-06 
結審通知日 2014-03-11 
審決日 2014-03-26 
出願番号 特願2001-178713(P2001-178713)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C05G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 拓哉  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 菅野 芳男
小石 真弓
発明の名称 被覆生物活性粒状物およびその製造方法  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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