• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1287310
審判番号 不服2013-4054  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-01 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2007- 34296「PPP型炭化水素電解質及びその製造方法、PPP、並びに、PPP型炭化水素電解質を用いた電解質膜、触媒層及び固体高分子型燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-294408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年 2月15日(優先権主張 平成18年 3月29日)を出願日とする出願であって、平成24年 9月19日付けで拒絶理由が通知され(謄本送達日 同年 9月25日)、同年11月 2日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされ、同年11月21日付けで拒絶査定がされ(謄本送達日 同年12月 4日)、これに対して、平成25年 3月 1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。
その後、当審において、同年 6月 4日付けで前置報告書に基づく審尋がされ、同年 8月 1日付けで回答書が提出されている。


第2 平成25年 3月 1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成25年 3月 1日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I.補正の内容
平成25年 3月 1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を、以下の(A)から(B)とするものである。

(A)「【請求項1】
次の(1)式で表される構造を有するPPP型炭化水素電解質。
但し、Aは1以上の整数、Bは0以上の整数、Cは1?10の整数である。
Xは、直接結合を表す。
Y_(1)の少なくとも1つは、プロトン伝導部位を表し、残りのY_(1)は、水素原子又はプロトン伝導部位を表し、繰り返しの中で任意に指定できる。
前記プロトン伝導部位は、-SO_(3)H、-COOH、-PO_(3)H_(2)、又は-SO_(2)NHSO_(2)R(Rは、アルキル鎖又はパーフルオロアルキル鎖)からなる。
【化1】

【請求項2】
主鎖に占めるパラ結合の割合が76?100%である請求項1に記載のPPP型炭化水素電解質。
【請求項3】
その数平均分子量が5千?500万である請求項1に記載のPPP型炭化水素電解質。
【請求項4】
そのイオン交換容量が0.1?4.5meq/gである請求項1に記載のPPP型炭化水素電解質。
【請求項5】
次の(2)式で表される構造を有するPPP型炭化水素電解質。
但し、Dは1以上の整数、Eは0以上の整数、Fは、1?10の整数である。
Zは、直接結合を表す。
Y_(2)は、-SO_(3)H、-COOH、-PO_(3)H_(2)、又は-SO_(2)NHSO_(2)R(Rは、アルキル鎖又はパーフルオロアルキル鎖)からなるプロトン伝導部位を表す。
【化2】

(以下、省略) 」


(B)「【請求項1】
次の(1.1)式で表される構造を有するPPP型炭化水素電解質。
【化1】

【請求項2】
主鎖に占めるパラ結合の割合が76?100%である請求項1に記載のPPP型炭化水素電解質。
【請求項3】
その数平均分子量が5千?500万である請求項1に記載のPPP型炭化水素電解質。
【請求項4】
そのイオン交換容量が0.1?4.5meq/gである請求項1に記載のPPP型炭化水素電解質。
【請求項5】
次の(2.1)式又は(2.1)式(審決注:「次の(2.1)式又は(2.2)式」の明らかな誤記と認める。以下、「次の(2.1)式又は(2.2)式」という。)で表される構造を有するPPP型炭化水素電解質。
【化2】


(以下、省略) 」

以下、本件補正について、補正前の請求項1に記載の「(1)式で表される構造」において、Y_(1)を、-SO_(3)Hに限定するとともに、Cを1に限定して、補正後の請求項1に記載の「(1.1)式で表される構造」とする補正事項を、補正事項aといい、補正前の請求項5に記載の「(2)式で表される構造」において、Fを1に、Y_(2)を、-SO_(3)Hに、それぞれ、限定して、補正後の請求項5に記載の「(2.1)式又は(2.2)で表される構造」とする補正事項を、補正事項bという。

II.補正の目的
1 本件補正後の請求項1に係る発明について
補正事項aにより、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)のPPP型炭化水素電解質が有する特定構造は、次の(1.1)式で表される構造となった。


しかしながら、請求項1には、式中のxおよびyについては、何らの説明もない。
そのため、補正後の請求項1の記載と補正前の請求項の対応関係が不明である。

そうすると、補正事項aは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとはいえないし、また、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号、第3号、第4号に規定される、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

2 本件補正後の請求項5に係る発明について
補正事項bにより、本件補正後の請求項5に係る発明(以下、「本件補正発明5」という。)のPPP型炭化水素電解質が有する特定構造は、次の(2.1)式又は(2.2)式で表される構造となった。


しかしながら、請求項5には、式中のnについては、何らの説明もない。
そのため、補正後の請求項5の記載と補正前の請求項との対応関係が不明である。

そうすると、補正事項bは、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定される、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとはいえないし、また、同法第17条の2第4項第1号、第3号、第4号に規定される、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。


III.独立特許要件
1 検討の前提
上記「II.」で検討したとおり、補正事項a、補正事項bを含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するが、仮に、上記x、y、nは、いずれも、1以上の整数であるとすれば、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するから、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかにつき、以下に検討する。


2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)についての検討
ア. 本件補正発明1のPPP型炭化水素電解質は、明細書の発明の詳細な説明の【0085】?【0087】に、電解質4として記載され、その電解質4は、ポリマー4をスルホン化することによって製造されるとの記載がある。

イ. しかしながら、ポリマー4をスルホン化することは、何ら反応制御のない、ランダムな反応であるから、電解質4のように、すべてのベンゼン環に過不足なくスルホン酸基を導入することはできないし、また、側鎖のないベンゼン環と側鎖を備えたベンゼン環とが交互に並んでいた、ポリマー4をスルホン化することによって、電解質4のように、側鎖のないベンゼン環のブロックと側鎖を備えたベンゼン環のブロックとが交互に並ぶように、そのポリマー4の主鎖の構造を変化させることもできないことから、ポリマー4をスルホン化することによって製造された、電解質4は、明細書の発明の詳細な説明の【0087】の記載のとおりの化学構造にならないことは明らかである。

ウ. また、明細書の発明の詳細な説明の【0016】の記載によれば、本件補正発明1は、α)化学的耐久性に優れたPPP型炭化水素電解質を提供すること、β)膜化したときに平面方向の膨潤が小さいPPP型炭化水素電解質を提供すること、γ)分子量が相対的に大きく、かつ、相対的に柔軟性が高いPPP型炭化水素電解質を提供すること、あるいは、δ)電気伝導性が高く、かつ、耐膨潤性が高いPPP型炭化水素電解質を提供することを、発明が解決しようとする課題としているところ、電解質4については、明細書の発明の詳細な説明の【0088】?【0095】に、膜化したときに平面方向の膨潤率が著しく小さい電解質1や、化学的に高耐久である電解質2に比べて、数平均分子量が低いことが記載されているのみであり、発明の詳細な説明には、電解質4によって、上記α)?δ)の課題が解決できたことは記載されていない。

エ. それらのため、本件補正発明1は、発明の詳細な説明に、その課題を解決したことが記載された発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


3 特許法第29条第2項に規定する要件(進歩性)についての検討
(3a) 本件補正発明5
本件補正発明5は、上記「I.(B)」に【請求項5】として示すとおりのものである。
但し、上記1で検討の前提としたとおり、仮に、「nは、1以上の整数である。」とする。

(3b) 引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由、及び、前置報告書に基づく審尋にて示した、本件の優先権主張の日前に頒布された刊行物である下記の引用例1には、以下の事項が記載されている(「…」は記載の省略を表す。)。

引用例1:特開2002-289222号公報

ア.「【0057】
【合成例1】窒素置換したフラスコ中に、2、5?ジクロロフェノール130.4g(0.8mol)、4-クロロベンゼンスルホン酸77g(0.4mol)、無水炭酸カリウム110.4g(0.8mol)、ピリジン15.8g(0.2mol)、銅粉末2g、ヨウ化銅2g、水250mlを混合し、窒素雰囲気下で加熱し2時間還流下反応させた。その後室温に冷却し、炭酸ナトリウム水で処理後、ジエチルエーテルで油分を抽出分離した。分離した水層に塩酸を加え、沈殿した固形物を濾過により回収した。さらに回収した固形物を水酸化ナトリウム水に溶解させ、不溶物を濾過により分離した。残った水酸化ナトリウム水溶液に酢酸を加え沈殿した固形物を濾過により回収した。さらに乾燥後、再結晶法により2、5-ジクロロ-4-フェノキシベンゼンスルホン酸13g(10%収率)を得た。
【0058】
【合成例2】ジエチルエーテル(無水) 中、市販の325メッシュの亜鉛ダストを 1 Mの塩化水素で2回洗浄し、次に、ジエチルエーテル(無水)中で2回洗浄し、そして真空中または不活性雰囲気下で約100 ℃?200 ℃で数時間乾燥した後に活性亜鉛ダストを得る。もし乾燥している間に塊が形成するならば、亜鉛ダストを-150メッシュに再シーブする。この材料は即座に使用するか、または、酸素および湿分から隔離するように不活性雰囲気下で貯蔵する。
【0059】
【実施例1】窒素置換した丸底フラスコに、ビス( トリフェニルホスフィン) ニッケルクロリド0.213g、ヨウ化ナトリウム0.19g 、トリフェニルホスフィン1.02g 、合成例2で選られた活性亜鉛ダスト0.88g 、合成例1で得られた2、5-ジクロロ-4-フェノキシベンゼンスルホン酸1.6g(5mmol) 、ジクロロベンゼン0.74g(5mmol)および、無水N-メチルピロリドン(NMP) を加えた。この混合物を65℃で一晩攪拌した。粘性の混合物を、10%HClを含むエタノール100ml 中に注ぐことにより処理した。粗生成物を濾過し、エタノールおよびアセトンで完全に濾過し、そして120 ℃で乾燥して1.3gのポリマー(A)を得た。

【0063】
【実施例5】得られた粉末ポリマーをN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、ガラス基板上にキャストし、230℃で乾燥させ高分子膜を得た。得られた膜は可とう性に富み、強靭であった。この膜について、前記記載の方法でイオン伝導度を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】


【0065】表1より、実施例1?4はNafion膜(デュポン社製)比べてイオン伝導度同等あるいはやや高めであった。実用上問題のない値であった。」

イ.「【0041】<イオン伝導性高分子の製造方法>本発明のプロトン酸基を含有するスペーサー型モノマーを繰り返し単位に含むことを特徴とするイオン伝導性高分子は以下のようにして合成できる…。
【0042】なお、上記記載のモノマーはT. Kanbara, T. Kushida, N. Saito, I,Kuwajima, K. Kubota, およびT. Yamamoto により、Chemistry Letters,1992,583 ?586 に記載されたニッケル(0) 化合物を用いた還元カップリング、または米国特許第'457号若しくは米国特許第5,241,044 号に記載されたニッケル触媒された還元カップリング、I.Colon,D.R.Kelseyにより、J.Org.Chem,1986,51,2627に記載されたニッケル(0)化合物を用いた還元カップリングにより、本発明のポリマーを生成するように重合することができる。」

ウ.「【0002】
【従来の技術】近年、環境問題の点から新エネルギー蓄電あるいは発電素子が社会で強く求められてきている。燃料電池もその1つとして注目されており、低公害、高効率という特徴から最も期待される発電素子である。…
【0003】このような燃料電池は、用いる電解質の種類によってりん酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型および高分子電解質型に分類される。…
【0004】…高分子型燃料電池は操作温度が最高で約80?100℃程度である。また、用いる電解質膜を薄くすることによって燃料電池内の内部抵抗を低減できるため高電流で操作でき、そのため小型化が可能である。このような利点から高分子型燃料電池の研究が盛んになってきている。
【0005】この高分子型燃料電池に用いる高分子電解質膜には、燃料電池の電極反応に関与するプロトンについて高いイオン伝導性が要求される。このようなイオン伝導性高分子電解質膜材料としては、商品名Nafion(デュポン社製)またはDow膜(ダウ社製)などの超強酸基含有フッ素系高分子が知られている。しかし、これらの高分子電解質材料はフッ素系の高分子であるために、非常に高価であるという問題を抱えている。また、これらの高分子の持つガラス転移温度が低いために、操作温度である100℃前後での水分保持が十分でないために高いイオン伝導度を生かしきれず、イオン伝導度が急激に低下し電池として作用できなくなるという問題があった。

【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような従来技術が持つ問題を解決しようとしたものである。すなわち、イオン伝導性が高く耐熱性に優れたプロトン酸基を持ったイオン伝導性高分子、およびこれを利用した燃料電池用イオン伝導性高分子膜…を提供することを目的としている。」

エ.「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明が提供する燃料電池用イオン伝導性高分子膜は、プロトン酸基が、高分子主鎖構造から1原子以上のスペーサー構造により隔てられていることを特徴とするイオン伝導性高分子であることを特徴としている。

【0011】本発明に係るイオン導電性高分子膜は、実用上問題ない高いイオン伝導性を有し、かつ耐熱性に優れている。」

オ.「【0036】<プロトン酸基>上記式(I)中、Xはプロトン酸基であり、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホンイミド基であることを特徴としている。特定の官能基を単独で用いても、2種類以上の官能基を用いても良い。好ましくはスルホン酸基を用いることができる。
<スペーサー構造の導入方法>このようなプロトン酸基を含有したスペーサー構造の導入方法として、スペーサー構造が組み込まれているモノマー(以下、「スペーサー型モノマー」)を重合する方法を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0037】たとえば、ジクロロフェニルベンゼンスルホン酸、…などスペーサー部分が芳香族基であるモノマー…

【0039】さらにはジクロロフェノキシベンゼンスルホン酸、…などスペーサー部分が芳香族オキシ基であるモノマー」


(3c) 引用例1に記載された発明
ア. 上記(3b)ア.には、実施例1として、ビス(トリフェニルホスフィン) ニッケルクロリド、ヨウ化ナトリウム 、トリフェニルホスフィン 、合成例2で選られた活性亜鉛ダスト 、合成例1で得られた2、5-ジクロロ-4-フェノキシベンゼンスルホン酸(5mmol) 、ジクロロベンゼン(5mmol)および、無水N-メチルピロリドンでなる混合物を65℃で一晩攪拌した、粘性の混合物を、10%HClを含むエタノール中に注ぐことにより処理して得られた、粗生成物を濾過し、エタノールおよびアセトンで完全に濾過し、そして120 ℃で乾燥してポリマー(A)を得たことが記載されている。

イ. 上記(3b)ア.における、合成例1の記載(【0057】)から、合成例1で得られたのは、正確には、4-(2’,5’-ジクロロフェノキシ)ベンゼンスルホン酸であって、2、5-ジクロロ-4-フェノキシベンゼンスルホン酸ではないことが認められる。

ウ. また、上記(3b)ア.における、実施例5の記載(【0063】?【0065】)によれば、ポリマー(A)は、イオン伝導度が2.2×10^(-3)で、Nafion膜(デュポン社製)と同等のイオン伝導度であることが認められる。

エ. 上記(3b)イ.の記載を参酌すると、実施例1において、ポリマー(A)は、4-(2’,5’-ジクロロフェノキシ)ベンゼンスルホン酸(5mmol)とジクロロベンゼン(5mmol)の還元カップリングにより生成されたものである。

オ. したがって、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「4-(2’,5’-ジクロロフェノキシ)ベンゼンスルホン酸(5mmol)とジクロロベンゼン(5mmol)の還元カップリングにより生成された、イオン伝導度が2.2×10^(-3)であるポリマー(A)」(以下、「引用発明」という。)


(3d) 本件補正発明5と引用発明との対比
本件補正発明5と引用発明とを対比するに、引用発明における、「4-(2’,5’-ジクロロフェノキシ)ベンゼンスルホン酸(5mmol)とジクロロベンゼン(5mmol)の還元カップリングにより生成された」ポリマー(A)は、4-(2’,5’-ジクロロフェノキシ)ベンゼンスルホン酸における、パラ位でジクロロとなっている部位とジクロロベンゼンにおけるジクロロとなっている部位とが等モルで還元カップリングにより直接結合したポリマーであるから、側鎖を備えたベンゼン環と側鎖のないベンゼン環とがパラ位で等モルで直接結合して、ベンゼン環同士の直接結合でなる主鎖を構成し、その主鎖を構成するベンゼン環と側鎖を構成するベンゼンスルホン酸とが-O-を介して結合しているポリマーであって、そのポリマーは、上記(3b)ウ.によれば、燃料電池用イオン伝導性高分子膜に利用されることから、本件補正発明5における、「PPP型炭化水素電解質」に相当する。
したがって、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
PPP型炭化水素電解質。

<相違点>
本件補正発明5が、次の(2.1)式又は(2.2)式で表される構造、但し、nは、いずれも、1以上の整数である、(以下、「(2.1)式又は(2.2)式の構造」という。)を有するのに対して、引用発明は、側鎖を備えたベンゼン環と側鎖のないベンゼン環とがパラ位で等モルで直接結合して、ベンゼン環同士の直接結合でなる主鎖を構成し、その主鎖を構成するベンゼン環と側鎖を構成するベンゼンスルホン酸とが-O-結合を介して結合しており、すなわち、主鎖は(2.2)式の構造と一致しているものの、側鎖を構成するベンゼンスルホン酸が-O-結合を介して主鎖と結合しているため、(2.2)式の構造を有することとなっていない点。



(3e) 相違点についての判断
ア. 引用発明は、上記(3b)ウ.?オ.によれば、イオン伝導性が高く耐熱性に優れたプロトン酸基を持ったイオン伝導性高分子を提供することを課題とし、その課題を、スルホン酸基等のプロトン酸基を、高分子主鎖構造から1原子以上のスペーサー構造により隔てることで解決したものであって、スペーサー型モノマーとして、ジクロロフェノキシベンゼンスルホン酸を用いることで、プロトン酸基を含有したスペーサー構造が導入されたものである。

イ. ここで、上記(3b)オ.には、スペーサー型モノマーとして、主鎖を構成するベンゼン環と側鎖を構成するベンゼンスルホン酸とが直接結合したポリマーが生成できる、ジクロロフェニルベンゼンスルホン酸が、引用発明で用いられたジクロロフェノキシベンゼンスルホン酸と並列して、選択的に記載されている。そして、ベンゼン環同士の直接結合の方が、-O-結合を介したベンゼン環同士の結合よりも、解離エネルギーが高いため、耐熱性が高いことは周知の技術事項である(CMC出版、「耐熱性高分子電子材料の展開」、第6頁、および、Fuel、1988、Vol.67、p.327?333参照。)。

ウ. してみると、引用発明において、すなわち、主鎖は(2.2)式の構造と一致している、PPP型炭化水素電解質において、スペーサー型モノマーとして、4-(2’,5’-ジクロロフェノキシ)ベンゼンスルホン酸に換えて、4-(2’,5’-ジクロロフェニル)ベンゼンスルホン酸を用いて、その主鎖を構成するベンゼン環と側鎖を構成するベンゼンスルホン酸とが直接結合しているPPP型炭化水素電解質を生成して、耐熱性を高めることは、当業者が容易になし得ることであるし、これにより、当該ポリマーは、(2.2)式の構造を有することとなるから、相違点は解消する。

エ. よって、本件補正発明5は、引用例1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである

4 小括
以上のとおり、本件補正発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、本件補正発明5は、引用例1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


IV. まとめ
したがって、補正事項a、補正事項bを含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、補正事項a、補正事項bを含む本件補正を、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するとみなしたとしても、本件補正発明1や本件補正発明5は、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであり、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


V. 付言
ア. 請求人は、平成25年 8月 1日付けの回答書において、特許請求の範囲の補正案を提示し、補正の機会を希望している。

イ. 当該補正案を検討するべき法的な根拠は存在しないが、付言として一応検討するに、その補正案は、平成25年 3月 1日付で補正した、請求項1における、(1.1)式で表される構造を、明細書の発明の詳細な説明の【0085】?【0087】に記載された、電解質4から、新たな、次の(1.1)式で表される構造(以下、新(1.1)式の構造」という。)に変更することを含むものである。



但し、x≧1、y≧1、
Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)は、それぞれ、繰り返し単位(x及びy)の中で少なくとも1つはSO_(3)Hであり、かつ、少なくとも1つはHである。
残りのY_(1)、Y_(2)、Y_(3)は、H又はSO_(3)Hであり、繰り返し単位(x及びy)の中で任意に選択できる。

ウ. しかしながら、上記III.2 イ.で検討したとおり、ポリマー4をスルホン化することによって製造された、電解質4は、明細書の発明の詳細な説明の【0087】の記載のとおりの化学構造にならないことは明らかであるとしても、当該電解質4を根拠とする、請求項1の(1.1)式を補正案のように変更することは新たな技術的事項を導入することになる。また、仮に、そうでないとしても、上記III.2 ウ.で検討したとおり、ポリマー4をスルホン化することによって得られる電解質によって、発明が解決すべき課題が解決できたことは記載されていないから、補正案の請求項1に係る発明もまた、発明の詳細な説明に記載されたものではないし、さらに、新(1.1)式の構造は、本件補正発明5における、(2.1)式又は(2.2)式の構造を含むから、上記III.(3a)?(3e)と同様の検討によって、補正案の請求項1に係る発明もまた、引用例1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第3 原査定の理由についての検討
I.本件発明
本願の平成25年 3月 1日付けの手続補正は、上記のとおり、却下された。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、平成24年11月 2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その発明は上記「第2 I.(A)」に【請求項1】として示すとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。

II.原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の一つは、概略、以下のものである。

本件発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開2002-289222号公報

III.当審の判断
1 刊行物に記載された事項及び引用発明
刊行物1は、上記「第2 III.(3b) 」に記載した、引用例1と同一であるから、刊行物に記載された事項は、上記「第2 III.(3b) 」に記載されたとおりであり、刊行物1には、上記「第2 III.(3c)オ.」に記載のとおりの発明(引用発明)が記載されていると認められる。

2 本件発明と引用発明との対比・判断
本件発明は、上記「第2 I.(A)」に【請求項1】として示されているように、次の(1)式で表される構造(以下、「(1)式の構造」という。)を有する。

但し、Aは1以上の整数、Bは0以上の整数、Cは1?10の整数である。
Xは、直接結合を表す。
Y_(1)の少なくとも1つは、プロトン伝導部位を表し、残りのY_(1)は、水素原子又はプロトン伝導部位を表し、繰り返しの中で任意に指定できる。
前記プロトン伝導部位は、-SO_(3)H、-COOH、-PO_(3)H_(2)、又は-SO_(2)NHSO_(2)R(Rは、アルキル鎖又はパーフルオロアルキル鎖)からなる。


ここで、この(1)式の構造は、A、B、Cをいずれも1に限定し、側鎖のY_(1)を-SO_(3)H、残りのY_(1)を水素原子に限定した場合に、本件補正発明5における、(2.2)式の構造と同じになる。

そして、本件発明についての発明特定事項を減縮したものに相当する本件補正発明5が、前記「第2.III.(3a)」?前記「第2.III.(3e)」に記載したとおり、刊行物1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本件発明も刊行物1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-04 
結審通知日 2014-02-12 
審決日 2014-03-27 
出願番号 特願2007-34296(P2007-34296)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01B)
P 1 8・ 121- Z (H01B)
P 1 8・ 572- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
小川 進
発明の名称 PPP型炭化水素電解質及びその製造方法、PPP、並びに、PPP型炭化水素電解質を用いた電解質膜、触媒層及び固体高分子型燃料電池  
代理人 畠山 文夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ