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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1287355
審判番号 不服2012-10677  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-07 
確定日 2014-05-07 
事件の表示 特願2005-502061「リビングラジカルを含む分散体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月26日国際公開、WO2004/016658、平成17年12月2日国内公表、特表2005-536626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成15年8月14日(パリ条約による優先権主張 2002年8月19日、2003年8月1日 ともにアメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成18年8月2日に手続補正書が提出され、平成21年4月23日付けで拒絶理由が通知され、同年11月12日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成22年11月22日付けで拒絶理由が通知され、平成23年5月17日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成24年1月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成24年6月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、前置審査により、同年7月10日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成25年1月17日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年2月6日付けで前置報告がなされ、当審において同年4月4日付けで審尋がなされ、同年10月9日に回答書が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?13に係る発明は、平成25年1月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、並びに、明細書及び図面(以下、併せて「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「分散媒中に分散しているポリマー粒子を含んでなる分散体であって、前記ポリマー粒子が、重合を開始するフリーラジカルの源を利用し、ポリマー分散体を安定化する界面活性剤、安定剤または分散剤を任意に利用し、分散媒中で1種または複数のモノマーを重合することにより形成されており、各ポリマー粒子中に平均で1を超えるリビングラジカルをそれぞれ含んでおり、リビングラジカルは、化学キャッピング剤の保護なしに存在し、そして前記ポリマー粒子がフリーラジカル逆沈殿重合により生成されるものではなく、前記ポリマー粒子が20から400ナノメートルの平均粒径を有し、
前記分散媒が水であり、前記フリーラジカルの発生剤が水溶性開始剤であり、前記ポリマー粒子中のモノマーおよび前記ポリマー分散体の固形分濃度を制御することにより形成される分散体。」



第3 前置審査における拒絶理由の概要

前置審査における平成24年7月10日付けで通知した拒絶理由(以下、「前置拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりのものを含むものである。

「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

以下、理由1を実施可能要件違反といい、理由2をサポート要件違反という。



第4 実施可能要件違反及びサポート要件違反の有無についての判断

1.本願明細書等の記載
本願明細書等の記載を確認すると以下のとおりである。

ア 「本発明は、ポリマー粒子の分散体であって、前記ポリマー粒子が平均で粒子あたり1を超えるリビングラジカルを含み、前記リビングラジカルが化学的に保護されていない分散体に関する。次いで、前記リビングラジカルを利用して、構造が制御されたポリマーを形成できる。」(段落0002)

イ 「驚くべきことに、粒子あたり平均で1を超えるリビングラジカルを有する粒子を含む粒子の安定な分散体が、化学キャッピング剤または媒介なしに、そしてフリーラジカル逆沈殿重合法により前記ラジカルを生成する必要なしに、生成可能であることが見いだされた。」(段落0009)

ウ 「特定の理論に拘束されるのではないが、小さな粒径に加えて開始剤およびモノマー添加の注意深い制御により、内部にトラップされたラジカルを有する安定した粒子が形成すると考えられている。小さな粒径により、ラジカルには立体障害があり、非常に低い停止速度を生み出す。
本発明のポリマー分散体を製造する方法は、重合条件を注意深く制御して、トラップされたラジカルを含む小さい粒子を生成および維持するものである。これは、開始剤、モノマーおよび安定剤の濃度の注意深い制御により達成される。これにより、粒子の核形成が最大になり、粒径が最小になる。本発明のポリマー分散体は、一般的に連続相として水を有する。水/混和性アルコールなどの混合水性溶媒の連続相を使用してもよい。さらに、逆エマルションプロセスを利用してもよい。以下の一般的な説明および実施例は、主に水連続相を説明している。当業者は、同じ概念および技術を他の重合系に適用することができる。」(段落0013?0014)

エ 「重合の第1段階では、水、安定剤およびフリーラジカル開始剤を反応器に加え、条件をフリーラジカルの生成に適合させる。選択した開始剤系により、熱、レドックス、UV、ガンマ線または他の方法によりラジカルが発生可能である。フリーラジカルの形成に続き、モノマー欠乏状態を維持しながら、モノマーフィードを追加する。反応は、初期反応段階の後半に向かい開始剤欠乏になるであろう。
重合の第1段階は、分散媒、好ましくは水の中のポリマー粒子の分散体を生み出す。各ポリマー粒子は、平均で1つまたは複数のリビングポリマーラジカルを含む。・・・本発明のリビングポリマー粒子は、当業界に公知でありリビングラジカルの一時的な保護のために加えられる化学キャッピング剤なしに存在する。次いで、一時的な化学キャッピング剤は可逆的にリビングラジカルを露出する。
熱開始条件下で分散体の粒子中にトラップされているリビングラジカルは、開始剤の半減期の7倍より長い期間、好ましくは少なくとも15時間、最も好ましくは2,3日以上残存する。レドックスまたは他の開始剤系中のトラップされたリビングラジカルも長寿命であり、少なくとも10分間残存する。
一般的に開始剤半減期の5から10倍に至るまで、分散されたモノマーがいったん100パーセント近く反応すると、複数のリビングラジカルを含むポリマー粒子に追加のモノマーを加えることができる。同じモノマーを加える場合、より高い分子量のポリマーが形成される。粒子の停止が制御されているので、ポリマー分子量を制御して、どのような所望の分子量を生み出すこともでき、3,000,000を超える分子量が可能である。追加のモノマーは、1種または複数の異なるモノマーでもよく、ブロックコポリマーの形成につながる。本発明の方法は純粋なブロックコポリマーを製造することができるが、その理由は第1段階のモノマーのほぼ全てが第2モノマーの導入前に消費されているからである。1つのモノマーが親水性であり他のモノマーが疎水性である場合のように、第2段階モノマーが第1段階モノマーとは全く異なることが有利である。本発明の方法を利用して、両親媒性ブロックコポリマーおよび新規のブロックコポリマー組み合わせも可能である。前記方法は反応性比ではなく、拡散のみにより制限される。テーパードポリマー組成物も、本発明の方法が与える反応に対する制御により製造可能である。」(段落0015?0018)

オ 「追加のモノマーを加えるプロセスは、追加の開始剤の必要なしに、何段階の間でも継続可能である。
・・・
分散体を、界面活性剤、安定剤,他の分散助剤および分散剤またはそれらの混合物により安定化してもよい。・・・
重合は、フリーラジカル開始反応により起こる。・・・分散剤が水であり、フリーラジカル発生剤が2,2’-アゾビス(N,N’-アミジノプロパン)二塩酸塩または2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩などの水溶性開始剤であることが好ましい。フリーラジカルは、水相中に平衡量で存在するモノマーと反応し、ポリマー鎖を形成する。」(段落0019?0023)

カ 「粒径は、使用する界面活性剤または安定剤の種類および量により、分散体の製造および処理中にも制御可能である。粒径は非常に小さく保たれる。特定の理論に拘束されるのではないが、ラジカルは、ある程度は小さな粒子中の立体障害のため活性を保ったままでいると考えられている。第1段階中の平均粒径は、1から200ナノメートルであるのが好ましく、より好ましくは10から150ナノメートルである。粒径分布は、比較的広い複峰状分布から、ほとんど単峰状の分布まで調整可能である。第2段階の粒径は一般的に100ナノメートルを超え、数ミクロンまでになることもある。
コポリマー分散体の固形分濃度は、5から50重量パーセントの範囲でよく、好ましくは10から30重量パーセントである。」(段落0026?0027)

キ 「実施例1
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(150mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(3g)および開始剤(0.3g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレンモノマー(33mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で(7mL)のスチレンモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸ブチル(78.3mL)を水(25mL)および界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(2.1g)が入っているビーカーに、ミキサーを利用して非常に激しく混合しながら滴下して加え、プレエマルションを作った。プレエマルションを低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で3時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例2
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(150mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(3g)および開始剤(0.3g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレンモノマー(33mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で(7mL)のスチレンモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないスチレン(77.0mL)を水(25mL)および界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(2.1g)が入っているビーカーに、ミキサーを利用して非常に激しく混合しながら滴下して加え、プレエマルションを作った。プレエマルションを低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で3時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例3
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(150mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(3g)および開始剤(0.3g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレンとメタクリル酸モノマーの混合物(35mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で(7mL)のモノマー混合物を5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸ブチル(78.3mL)を水(25mL)および界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(2.1g)が入っているビーカーに、ミキサーを利用して非常に激しく混合しながら滴下して加え、プレエマルションを作った。プレエマルションを低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で3時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例4
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(150mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(3g)および開始剤(0.3g)(2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩またはVA-044、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレンモノマー(35mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて65℃に加熱した。50℃で(7mL)のスチレンモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸ブチル(78.3mL)を水(25mL)および界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(2.1g)が入っているビーカーに、ミキサーを利用して非常に激しく混合しながら滴下して加え、プレエマルションを作った。プレエマルションを低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で3時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例5
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(203mL)、界面活性剤(Igepal CA-897 オクチルフェノールエトキシレート、Rhodia)(2.9g)および開始剤(0.2g)(2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩またはVA-044、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレン(31mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。室温でスチレンモノマーの低速添加を始め、3mLのスチレンを5分かけてゆっくりと加えた。反応混合物を攪拌しながら15分かけて75℃に加熱した。残りのモノマーを1.5時間かけてゆっくりと加えた。スチレンの低速添加の最後に、反応混合物を60℃に冷却しながら1.5時間攪拌した。
第2段階:禁止剤を含まないスチレン(30mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で2時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で1時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例6
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(200mL)、界面活性剤(Igepal CA-897 オクチルフェノールエトキシレート、Rhodia)(3.9g)および開始剤(0.1g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレン(21mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。室温でスチレンモノマーの低速添加を始めた。反応混合物を攪拌しながら10分かけて80℃に加熱し、反応温度が80℃に達する前に5mLのスチレンを10分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを1.5時間かけてゆっくりと加えた。スチレンの低速添加の最後に、反応混合物を80℃で1.5時間攪拌した。不規則な間隔で試料を抜き取り、転化率および分子量を測定した。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないスチレン(36mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で2時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。試料を定期的に抜き取り、転化率および分子量を測定した。
実施例7(25D)
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(175mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(2.5g)および開始剤(0.5g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレン(55mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で、(7mL)のモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないスチレン(55mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で3時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例8(108)
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(200mL)、界面活性剤(Igepal CA-897 オクチルフェノールエトキシレート、Rhodia)(3.9g)および開始剤(0.1g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレン(20.7mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。室温で、スチレンモノマーの低速添加を、80℃に加熱しながら開始し、反応温度が80℃に達する前に5mLのスチレンを20分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを1.5時間かけてゆっくりと加えた。スチレンの低速添加の最後に、反応混合物を30分間80℃で攪拌した。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないスチレン(35mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で2時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例9(137)
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(200mL)、界面活性剤(Igepal CA-897 オクチルフェノールエトキシレート、Rhodia)(3.9g)および開始剤(0.19g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まない酢酸ビニル(21mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。室温で、酢酸ビニルモノマーの低速添加を、80℃に加熱しながら開始した。反応温度が80℃に達する前に5mLの酢酸ビニルを20分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを1.5時間かけてゆっくりと加えた。モノマーの低速添加の最後に、反応混合物を80℃で30分間攪拌した。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないスチレン(41mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で2時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例10
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(200mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(5.1g)および開始剤(0.3g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないメタクリル酸メチル(33mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。室温で、メタクリル酸メチル(MMA)モノマーの低速添加を、80℃に加熱しながら開始した。温度が80℃に達する前に3mLのMMAを5分間でフラスコに加え、残りのモノマーを2.5時間かけてゆっくりと加えた。モノマーの低速添加の最後に、反応混合物を80℃で30分間攪拌した。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸n-ブチル(78mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例11および12は、第2段階のモノマー転化率に与えるモノマーストック由来の残留禁止剤の影響を示している。実施例11は、実施例12よりも高濃度の禁止剤を含むモノマーを使用した。第2段階転化率が実施例11では見られないことが分かる(表1)。
実施例11
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(200mL)、界面活性剤(Igepal CA-897 オクチルフェノールエトキシレート、Rhodia)(4.2g)および開始剤(0.1g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレン(21mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。室温でスチレンモノマーの低速添加を開始し、反応温度が80℃に達する前に5mLのスチレンを10分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを1.5時間かけてゆっくりと加えた。スチレンの低速添加の最後に、反応混合物を80℃で30分間攪拌した。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸ブチル(36mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で2時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
実施例12
第1段階:四口丸底フラスコ中の水(200mL)、界面活性剤(Igepal CA-897 オクチルフェノールエトキシレート、Rhodia)(4.2g)および開始剤(0.1g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレン(21mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。室温でスチレンモノマーの低速添加を開始し、反応温度が80℃に達する前に5mLのスチレンを10分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを1.5時間かけてゆっくりと加えた。スチレンの低速添加の最後に、反応混合物を80℃で30分間攪拌した。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸ブチル(36mL)を低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で2時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。
与えられた実施例の全てで、試料を定期的に抜き取り、転化率、粒径および分子量を測定した。転化率は重量測定により測定し、分子量は、Watersスタイラジェルカラムおよびポリスチレン標準を用いてWaters Associatesシステムでサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。粒径は、Brookhaven Instruments B190またはB190plus粒径分析器を利用してこれらの試料に対して測定した。転化率、分子量および粒径を表1に示す。
ホモポリマーおよびあるモノマーが多いポリマーを抽出するため、各ポリマー成分の溶解度に基づき2種の異なる溶媒を用いて乾燥ポリマーにソックスレー抽出を実施した。残分全てのガラス転移温度は、Thermal Instruments Differential Scanning Calorimeterを用いて測定した。Bruker NMR分光計を利用して全抽出相および残存相に対してプロトンNMR分光法を実施し、組成を決定した。実施例3のソックスレー抽出結果を表2に示す。実施例1の時間に対する粒径の展開を図1に示す。実施例2、1、7および8のGPCクロマトグラムをそれぞれ図2、3、4および5に示す。」(段落0033?0059)

ク 「【表1】

」(段落0060表1)

ケ 「【表2】

」(段落0061表2)

コ 「【図1】図1は、粒径展開のチャートである。
【図2】図2は、6種の異なる試料を表すGPC曲線である。
【図3】図3は、6種の異なる試料を表すGPC曲線である。
【図4】図4は、4種の異なる試料を表すGPC曲線である。
【図5】図5は、4種の異なる試料を表すGPC曲線である。」(段落0062)

サ 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

」(図1?5)

2.理由1(実施可能要件違反)について

(1)本願発明について
本願発明は、分散媒中に分散しているポリマー粒子として、「前記ポリマー粒子が、重合を開始するフリーラジカルの源を利用し、ポリマー分散体を安定化する界面活性剤、安定剤または分散剤を任意に利用し、分散媒中で1種または複数のモノマーを重合することにより形成されており、各ポリマー粒子中に平均で1を超えるリビングラジカルをそれぞれ含んでおり、リビングラジカルは、化学キャッピング剤の保護なしに存在し、そして前記ポリマー粒子がフリーラジカル逆沈殿重合により生成されるものではなく、前記ポリマー粒子が20から400ナノメートルの平均粒径を有し、
前記分散媒が水であり、前記フリーラジカルの発生剤が水溶性開始剤であり、前記ポリマー粒子中のモノマーおよび前記ポリマー分散体の固形分濃度を制御することにより形成される」ものであることを発明特定事項として備えるものであって、摘示アに示されるように、これにより、「ポリマー粒子の分散体であって、前記ポリマー粒子が平均で粒子あたり1を超えるリビングラジカルを含み、前記リビングラジカルが化学的に保護されていない分散体」を提供すると共に、「前記リビングラジカルを利用して、構造が制御されたポリマーを形成できる」ことを解決しようとする課題とするものである。
そして、本願発明に係るポリマー粒子は、発明特定事項として、
1)「重合を開始するフリーラジカルの源を利用し、ポリマー分散体を安定化する界面活性剤、安定剤または分散剤を任意に利用し、分散媒中で1種または複数のモノマーを重合する」ことにより形成され、
2)「各ポリマー粒子中に平均で1を超えるリビングラジカルをそれぞれ含んでおり」(以下、「リビングラジカル事項」という。)、
3)「リビングラジカルは、化学キャッピング剤の保護なしに存在し、前記ポリマー粒子がフリーラジカル逆沈殿重合により生成されるものではなく」、
4)「前記ポリマー粒子が20から400ナノメートルの平均粒径を有し」(以下、「平均粒径事項」という。)、及び
5)「前記分散媒が水であり、前記フリーラジカルの発生剤が水溶性開始剤であり、前記ポリマー粒子中のモノマーおよび前記ポリマー分散体の固形分濃度を制御することにより形成される」ものであること(以下、「ポリマー粒子製造事項」という。)
を備えるものである。

(2)実施可能要件違反についての判断
ア 本願発明に係るポリマー粒子において、上記リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得ることに関し、本願明細書等の記載をふまえ、本願明細書等の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ということもある。)の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて以下に検討する。

イ リビングラジカルについての一般的技術常識
ラジカルは、基本的に不安定なものであるが、ポリマー粒子において、粒子あたり平均で1を超えるリビングラジカルを有する粒子を含む粒子の安定な分散体が、化学キャッピング剤または媒介なしに、そしてフリーラジカル逆沈殿重合法により前記ラジカルを生成する必要なしに、生成可能であるためには、特に何らかの操作・手段を必要とすることが本願優先日の時点における技術常識である。そのことは、発明の詳細な説明において、「驚くべきことに」(摘示イ)と記載されていることとも符合する。

ウ ポリマー粒子の製造に関して発明の詳細な説明の記載内容
1.のア?サで摘示したとおり、発明の詳細な説明には、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子の製造に関して、
○摘示ウにおいて、
「特定の理論に拘束されるのではないが、小さな粒径に加えて開始剤およびモノマー添加の注意深い制御により、内部にトラップされたラジカルを有する安定した粒子が形成すると考えられている。小さな粒径により、ラジカルには立体障害があり、非常に低い停止速度を生み出す。
本発明のポリマー分散体を製造する方法は、重合条件を注意深く制御して、トラップされたラジカルを含む小さい粒子を生成および維持するものである。これは、開始剤、モノマーおよび安定剤の濃度の注意深い制御により達成される。」と記載され、
○摘示エにおいて、
「重合の第1段階では、水、安定剤およびフリーラジカル開始剤を反応器に加え、条件をフリーラジカルの生成に適合させる。選択した開始剤系により、熱、レドックス、UV、ガンマ線または他の方法によりラジカルが発生可能である。フリーラジカルの形成に続き、モノマー欠乏状態を維持しながら、モノマーフィードを追加する。反応は、初期反応段階の後半に向かい開始剤欠乏になるであろう。
重合の第1段階は、分散媒、好ましくは水の中のポリマー粒子の分散体を生み出す。各ポリマー粒子は、平均で1つまたは複数のリビングポリマーラジカルを含む。」と記載され、
また実施例1?12においても、
○摘示キの例えば実施例1では、
「反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で(7mL)のスチレンモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた」と記載されているに留まるものである。

エ リビングラジカル事項が達成できない理由
イで述べたとおり、ラジカルは、基本的に不安定なものであり、リビングラジカル事項が達成されるためには特に何らかの操作・手段を必要とするものと認められるところ、ウのとおり、発明の詳細な説明においては、「小さな粒径に加えて開始剤およびモノマー添加の注意深い制御」あるいは「開始剤、モノマーおよび安定剤の濃度といった重合条件を注意深く制御して、トラップされたラジカルを含む小さい粒子を生成および維持する」こと(摘示ウ)が、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得るための解決手段であると記載されている。
しかしながら、本願優先日の時点における技術常識を考慮しても、開始剤およびモノマー添加の注意深い制御、あるいは、開始剤、モノマーおよび安定剤の濃度を注意深く制御するとの具体的な意味やその具体的な条件が全く不明であって、それらの条件を具体的にどのように、あるいはどの程度の範囲内で設定・コントロールすれば、リビングラジカル事項(及び平均粒径事項)を満足するポリマー粒子を得ることができるかが一切不明であるから、たとえ当業者であっても、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得ることができるとはいえない。
そして、「フリーラジカルの形成に続き、モノマー欠乏状態を維持しながら、モノマーフィードを追加する」(摘示エ)ことが、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得るための解決手段を意味しているとしても、モノマー欠乏状態を維持するとの具体的な意味やその具体的な条件が全く不明であって、それらの条件を具体的にどのように、あるいはどの程度の範囲内で設定・コントロールすれば、リビングラジカル事項(及び平均粒径事項)を満足するポリマー粒子を得ることができるかが不明であるから、たとえ当業者であっても、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得ることができるとはいえない。
また、実施例における「反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で(7mL)のスチレンモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた」(摘示キの例えば実施例1)ことが、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得るための解決手段を意味しているとしても、かかる制御の内容として「モノマーをゆっくりと加え」るとのみ記載されているだけであって、それが具体的にどの程度までの条件であればリビングラジカル事項(及び平均粒径事項)を満足するのか、たとえ当業者であっても理解することができないものである。

オ 小括
そうすると、本願明細書等においては、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を実現するために必要な事項を教示していないため、当該技術分野における一般的技術常識を考慮しても、本願発明についてどのように実施すればよいのかということを当業者が理解することができない。
なお、本願明細書等の実施例1?12と全く同じ条件により作製されたポリマー粒子であれば、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得ることは容易に実施することが可能であるということができるとしても、上記のとおり、たとえ当業者であっても、ポリマー粒子製造事項(及び平均粒径事項)のどの条件をどの程度変更すれば、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得ることができるのか不明である以上、このようなほとんど同様の条件で製造してなる実施例1?12のみの記載をもって、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子の実施をしたとは、到底評価することができない。
そうであれば、本願明細書等には、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を実現するために必要な事項を教示していないため、当該技術分野における一般的技術常識を考慮しても、本願発明における実施例以外の部分についてどのように実施すればよいのかということを当業者が理解することができない。

カ 過度の試行錯誤について
仮に、「実施例1」?「実施例12」においては、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子が実際に得られているとして、実施例1?12の記載を手がかりとすることができたとしても、ポリマー粒子製造事項(及び平均粒径事項)を満足する製造方法から候補の方法を選択し、それらの具体的な条件を設定し、重合して作成した候補ポリマー粒子に対し、逐一、後段重合を行い、その結果に基いて判断する外はないのであって、かかる候補ポリマー粒子として、モノマーの種類及びそれらの組み合わせやそれらの割合のみならず、水溶性開始剤等の種類や温度や時間等の各種混合、滴下、重合、撹拌等の条件を種々変化させて調製・作製してなる各種候補ポリマー粒子に対して、(平均粒径事項を満足するか測定しつつ、)上記した後段重合を逐一繰り返し、その結果においてリビングラジカル事項(及び平均粒径事項)を満足するか否かを確認する操作を、候補ポリマー粒子の種類及び各種製造条件を種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。

(3)まとめ
以上のとおり、本願明細書等の発明の詳細な説明は、少なくとも「実施例」以外の態様について、本願発明に係るリビングラジカル事項を満足するための具体的条件が不明であるといわざるを得ないから、当業者が本願発明の全般にわたって実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
また、当業者が本願発明を実施するに際して、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要求するものといわざるをえないことから、当業者が本願発明をどのように実施するか理解できないから、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
そうすると、本願明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
してみると、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.理由2(サポート要件違反)について

(1)本願発明について
本願発明については、上記2.(1)で述べたとおりである。
そこで、本願発明に係るポリマー粒子が発明の詳細な説明に記載したものであるか否か、あるいは、本願優先日の時点における当業者の技術常識に照らして、発明の詳細な説明に記載された事項から拡張ないし一般化できるか否かについて、以下に検討する。

(2)発明の詳細な説明におけるポリマー粒子の製造についての記載
発明の詳細な説明には、2.(2)ウでも述べたとおり、
○「驚くべきことに、粒子あたり平均で1を超えるリビングラジカルを有する粒子を含む粒子の安定な分散体が、化学キャッピング剤または媒介なしに、そしてフリーラジカル逆沈殿重合法により前記ラジカルを生成する必要なしに、生成可能であることが見いだされた。」(摘示イ)、
○「本発明のポリマー分散体を製造する方法は、重合条件を注意深く制御して、トラップされたラジカルを含む小さい粒子を生成および維持するものである。これは、開始剤、モノマーおよび安定剤の濃度の注意深い制御により達成される。これにより、粒子の核形成が最大になり、粒径が最小になる。本発明のポリマー分散体は、一般的に連続相として水を有する。」(摘示ウ)、及び
○「重合の第1段階では、水、安定剤およびフリーラジカル開始剤を反応器に加え、条件をフリーラジカルの生成に適合させる。選択した開始剤系により、熱、レドックス、UV、ガンマ線または他の方法によりラジカルが発生可能である。フリーラジカルの形成に続き、モノマー欠乏状態を維持しながら、モノマーフィードを追加する。反応は、初期反応段階の後半に向かい開始剤欠乏になるであろう。
重合の第1段階は、分散媒、好ましくは水の中のポリマー粒子の分散体を生み出す。各ポリマー粒子は、平均で1つまたは複数のリビングポリマーラジカルを含む。・・・本発明のリビングポリマー粒子は、当業界に公知でありリビングラジカルの一時的な保護のために加えられる化学キャッピング剤なしに存在する。次いで、一時的な化学キャッピング剤は可逆的にリビングラジカルを露出する。
熱開始条件下で分散体の粒子中にトラップされているリビングラジカルは、開始剤の半減期の7倍より長い期間、好ましくは少なくとも15時間、最も好ましくは2,3日以上残存する。レドックスまたは他の開始剤系中のトラップされたリビングラジカルも長寿命であり、少なくとも10分間残存する。
一般的に開始剤半減期の5から10倍に至るまで、分散されたモノマーがいったん100パーセント近く反応すると、複数のリビングラジカルを含むポリマー粒子に追加のモノマーを加えることができる。同じモノマーを加える場合、より高い分子量のポリマーが形成される。粒子の停止が制御されているので、ポリマー分子量を制御して、どのような所望の分子量を生み出すこともでき、3,000,000を超える分子量が可能である。追加のモノマーは、1種または複数の異なるモノマーでもよく、ブロックコポリマーの形成につながる。本発明の方法は純粋なブロックコポリマーを製造することができるが、その理由は第1段階のモノマーのほぼ全てが第2モノマーの導入前に消費されているからである。」(摘示エ)
と記載されているに留まり、これらのポリマー粒子の製造方法が、得られるポリマー粒子に含まれるリビングラジカルとどのように関連し、結果においてリビングラジカル事項を満足するのかについて、一般的な記載はもとより、その具体的な説明も一切なされていない。
また、実施例1?12の記載をみても、その製造方法は、例えば、実施例1では、
○「四口丸底フラスコ中の水(150mL)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(3g)および開始剤(0.3g)(2,2’’-アゾビス(N、N’-アミジノプロパン)二塩酸塩またはV-50、Wako chemicals)を窒素で45分パージした。低速滴下漏斗中の禁止剤を含まないスチレンモノマー(33mL)を、液面下の窒素で30分間パージした。反応混合物を攪拌しながら20分かけて80℃に加熱した。50℃で(7mL)のスチレンモノマーを5分かけてゆっくりと加え、残りのモノマーを3時間かけてゆっくりと加えた。
第2段階:反応混合物を60℃に冷却した。禁止剤を含まないアクリル酸ブチル(78.3mL)を水(25mL)および界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、Rhodia)(2.1g)が入っているビーカーに、ミキサーを利用して非常に激しく混合しながら滴下して加え、プレエマルションを作った。プレエマルションを低速滴下漏斗中で30分間窒素パージし、60℃で1時間かけてゆっくりと加えた。反応混合物を60℃で3時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。」(摘示キ)
と記載されているに留まり、他の実施例もほとんど同じ条件で製造してなるもののみが開示されているにすぎない。

(3)ポリマー粒子についてのサポート要件違反の検討
ア リビングラジカルについて
2.(2)イでも述べたとおり、ラジカルは基本的に不安定なものであり、当該技術分野において、粒子あたり平均で1を超えるリビングラジカルを有する粒子を含む粒子の安定な分散体が、化学キャッピング剤または媒介なしに、そしてフリーラジカル逆沈殿重合法により前記ラジカルを生成する必要なしに生成可能であることは、当業者にとり予測することはできないことである。

イ リビングラジカル事項について
本願発明は、「前記リビングラジカルを利用して、構造が制御されたポリマーを形成できる」ことを解決しようとする課題とするものであることから、ポリマー粒子において、「粒子あたり平均で1を超えるリビングラジカルを有する」こと、すなわち、リビングラジカル事項は、達成すべき結果による物の特定に相当するといえるものであり、発明の課題を解決する手段とはいえない。

ウ 平均粒径事項及びポリマー粒子製造事項について
本願発明は、発明特定事項である「1)『重合を開始するフリーラジカルの源を利用し、ポリマー分散体を安定化する界面活性剤、安定剤または分散剤を任意に利用し、分散媒中で1種または複数のモノマーを重合する』ことにより形成され、」さらに平均粒径事項及びポリマー粒子製造事項を備えるものであるが、これらの発明特定事項を満足させるだけでは発明の課題を解決することができないものである。
すなわち、ポリマー粒子製造事項において「分散媒が水であ」ることは周知慣用のことにすぎないし、「フリーラジカルの発生剤が水溶性開始剤であ」ることも周知慣用のことにすぎないし、「ポリマー粒子中のモノマー」および「ポリマー分散体の固形分濃度」を制御することも周知慣用のことにすぎないし、それらを組み合わせ適用することもまた周知慣用のことにすぎない。(そもそも、発明の詳細な説明には、「ポリマー分散体の固形分濃度」を制御することに関し全く記載されていない。)
そして、上記ポリマー粒子製造事項を満足する製造方法において、得られたポリマー粒子が「20から400ナノメートルの平均粒径を有し」ていること、すなわち平均粒径事項を満足することは、周知慣用のことにすぎないし、ポリマー粒子製造事項を満足するポリマー粒子製造事項により製造されたポリマー粒子であれば必ず発明の課題を解決するということもできない。
そうすると、リビングラジカルを有する粒子とその製造方法との関係において、発明の課題を解決するために、ポリマー粒子製造事項(及び平均粒径事項)を満足することが、当業者にとり自明のことであるとはいえないし、ポリマー粒子製造事項(及び平均粒径事項)を満足すれば、必ず、発明の課題を解決できることが技術常識であるともいえない。
してみると、本願請求項1の記載は、当業者が、かかる周知慣用あるいはそれらの組み合わせの手段による製造方法により、発明の課題を解決することができると認識できる範囲内のものとはいえない。
したがって、本願発明における発明特定事項である平均粒径事項及びポリマー粒子製造事項は、発明の課題の解決手段とはいえない。

エ 本願発明の発明特定事項について
イで述べたとおり、リビングラジカル事項は、発明の課題の解決手段とはいえないし、ウで述べたとおり、平均粒径事項及びポリマー粒子製造事項も、発明の課題の解決手段とはいえない。
また、リビングラジカル事項と平均粒径事項及びポリマー粒子製造事項を組み合わせて検討しても、それが発明の課題の解決手段とはいえない。
そうすると、本願請求項1において、発明の課題の解決手段が反映されているとはいえない。
そして、2.(2)エでも述べたとおり、「小さな粒径に加えて開始剤およびモノマー添加の注意深い制御」あるいは「開始剤、モノマーおよび安定剤の濃度といった重合条件を注意深く制御して、トラップされたラジカルを含む小さい粒子を生成および維持する」こと(摘示ウ)が、リビングラジカル事項を満足するポリマー粒子を得るための解決手段であるとしても、その具体的な意味やその具体的な条件が全く不明であるし、ポリマー粒子製造事項において、かかる注意深い制御は発明特定事項として規定されていないものである。
そうであれば、かかる注意深い制御をしない条件によりポリマー粒子を製造する場合には、発明の課題が解決できないことが明らかであり、そのような場合までをも包含するポリマー粒子製造事項により規定される本願発明は、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載していない範囲についてまで特許を請求しようとするものである。

オ 小括
以上のとおり、本願優先日の時点における技術常識を参酌しても、本願明細書等の全体の記載からは,本願発明の課題とその解決手段との間に、特定の関連性を見いだすことができず、本願請求項1においては、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、本願発明に係るポリマー粒子が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

カ 拡張ないし一般化について
また、ポリマー粒子の製造方法の各条件のうち、どの条件をどのように変化させれば、結果として発明の課題を解決することとなるのか、たとえ当業者であっても予測が困難であるものと認められるから、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決されているといえるのはせいぜい実施例1?12のものに留まるといわざるを得ず、ポリマー粒子として上記実施例1?12以外の製造方法を用いた場合にも、実施例の場合と同様に発明の課題が解決できることを当業者が認識できるということはできない。
したがって、たとえ当業者であっても、実施例以外のものについて、リビングラジカル事項(及び平均粒径事項)を満足するポリマー粒子を得ることができるとはいえないから、本願優先日の時点における技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において開示されたポリマー粒子を、本願発明に係るポリマー粒子にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願優先日の時点における技術常識を参酌したとしても、本願発明に係る発明特定事項を満足してなるポリマー粒子が、発明の詳細な説明に開示されたものであるとも、当該開示された内容から拡張ないし一般化できるものということもできない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しようとするものであり、また、本願優先日の時点における技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容から、本願発明における範囲にまで拡張ないし一般化できるものということはできない。
よって、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



第5 むすび

以上のとおり、前置審査において通知した拒絶理由は妥当なものであり、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-28 
結審通知日 2013-12-03 
審決日 2013-12-17 
出願番号 特願2005-502061(P2005-502061)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08F)
P 1 8・ 536- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 須藤 康洋
加賀 直人
発明の名称 リビングラジカルを含む分散体  
代理人 小林 浩  
代理人 潮 太朗  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  

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