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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06H
管理番号 1287365
審判番号 不服2012-19525  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-04 
確定日 2014-05-07 
事件の表示 特願2008-517015「流体ジェット切断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日国際公開、WO2006/138307、平成20年12月25日国内公表、特表2008-546918〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年6月14日(パリ条約による優先権主張2005年6月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月4日に拒絶査定を不服として審判請求がなされ、当審において平成25年7月4日付けで拒絶理由を通知し、これに対し、平成25年11月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年11月7日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という)。
「ハウジングと、
前記ハウジング内に弾性的に取付けられた脆弱触媒支持構造と、
前記脆弱触媒支持構造を前記ハウジング内に弾性的に保持するために、前記ハウジングと前記脆弱触媒支持構造との間のギャップの中に配置された流体ジェット切断無機繊維取付けマットと、を含み、
前記流体ジェット切断無機繊維取付けマットは、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、カルシア-マグネシア-シリカ繊維、マグネシア-シリカ繊維、カルシア-アルミナ繊維、ミネラルウール繊維、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つを含むことを特徴とする排気ガス処理装置。」

3.引用文献及び引用発明
(1)これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特開2002-348740号公報以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「【0004】上記の触媒コンバータを製造する方法をここで簡単に説明しておく。まず、熔融法によりアルミナ-シリカ系繊維を紡糸した後、そのアルミナ-シリカ系繊維をマット状に集合させてなる材料を作製する。この材料を金型で打ち抜くことによって、帯状の保持シール材を作製する。次に、この保持シール材を触媒担持体の外周面に巻き付けた後、金属製シェル内に前記触媒担持体を収容する。その結果、所望の触媒コンバータが完成する。このような収容状態において保持シール材は厚さ方向に圧縮されるため、保持シール材にはその圧縮力に抗する反発力(面圧)が生じる。そして、この反発力が作用することにより、触媒担持体が金属製シェル内に保持されるようになっている。」
(b)「【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した一実施形態の自動車排気ガス浄化装置用触媒コンバータを図1?図3に基づき詳細に説明する。
【0023】図3に示される本実施形態の触媒コンバータ1は、自動車の車体において、エンジンの排気管の途中に設けられる。エンジンから触媒コンバータ1までの距離は比較的短いため、触媒コンバータ1には約700℃?900℃の高温の排気ガスが供給されるようになっている。エンジンがリーンバーンエンジンである場合には、触媒コンバータ1には約900℃?1000℃という、さらに高温の排気ガスが供給されるようになっている。
【0024】図3に示されるように、本実施形態の触媒コンバータ1は、基本的に、触媒担持体2と、触媒担持体2の外周を覆う金属製シェル3と、両者2,3間のギャップに配置される保持シール材4とによって構成されている。」
(c)「【0025】前記触媒担持体2は、コージェライト等に代表されるセラミック材料を用いて作製されている。この触媒担持体2は断面円形状をした柱状部材となっている。また、触媒担持体2は、軸線方向に沿って延びる多数のセル5を有するハニカム構造体であることが好ましい。セル壁には排気ガス成分を浄化しうる白金やロジウム等の貴金属系触媒が担持されている。なお、触媒担持体2として、上記のコージェライト担体のほかにも、例えば炭化珪素、窒化珪素等のハニカム多孔質焼結体等を用いてもよい。」
(d)「【0029】本実施形態の保持シール材4は、マット状に集合したセラミック繊維(即ち繊維集合体)を主要な要素として構成されたものである。前記セラミック繊維として、本実施形態ではアルミナ-シリカ系繊維6が用いられている。この場合、ムライト結晶含有量が0重量%以上かつ10重量%以下のアルミナ-シリカ系繊維6を用いることがより好ましい。このような化学組成であると、非晶質成分が少なくなることから耐熱性に優れたものとなり、かつ圧縮荷重印加時の反発力が高いものとなるからである。従って、ギャップに配置された状態で高温に遭遇したときであっても、発生する面圧の低下が比較的起こりにくくなる。」
(e)「【0034】なお、アルミナ-シリカ系繊維6の断面形状は、真円形状でもよいほか、異形断面形状(例えば楕円形状、長円形状、略三角形状等)でも構わない。組み付け前の状態における保持シール材4の厚さは、触媒担持体2と金属製シェル3とがなすギャップの1.1倍?4.0倍程度、さらには1.5倍?3.0倍程度であることが望ましい。前記厚さが1.1倍未満であると、高い担持体保持性を得ることができず、触媒担持体2が金属製シェル3に対してズレたりガタついたりするおそれがある。勿論、この場合には高いシール性も得られなくなるため、ギャップ部分からの排気ガスのリークが起こりやすくなり、高度な低公害性を実現できなくなってしまう。また、前記厚さが4.0倍を超えると、特に圧入方式を採用した場合には、触媒担持体2の金属製シェル3への配置が困難になってしまう。よって、組み付け性の向上を達成できなくなるおそれがある。」
(f)「【0036】組み付け状態における保持シール材4の初期面圧は50kPa以上、さらには70kPa以上であることが好ましい。初期面圧の値が高ければ、面圧の経時劣化が起こったとしても、触媒担持体2の好適な保持性を維持することができるからである。」

上記(d)?(f)より、触媒担持体2は、金属シェル3内に、前記金属製シェル3と前記触媒担持体2との間に配置された、圧縮荷重印加時の反発力が高い保持シール材4の厚さを4分の1程度にまで圧縮して、高い初期面圧で保持されるので、金属シェル3内に弾性的に保持されて取り付けられると認められる。
したがって、以上の記載事項及び図面によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「金属製シェル3と、
前記金属製シェル3内に弾性的に取付けられたセラミック製の触媒担持体2と、
前記触媒担持体2を前記金属製シェル3内に弾性的に保持するために、前記金属製シェル3と前記触媒担持体2との間に配置された、金型で打ち抜いたマット状の保持シール材4と、を含み、
前記保持シール材4は、アルミナ-シリカ系繊維6を含む排気ガス浄化装置用触媒コンバータ1。」

(2)同じく、当審の拒絶の理由に引用された特開昭56-9472号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「従来、グラスウールマツトのような繊維質断熱材を定尺に切断するには押切り刃や丸鋸等を用いていたが、切断時や施工時に切断面から多数の繊維が飛散して作業者の皮膚を刺激するので作業性が悪いという欠点があり」(第1頁左欄第18行?右欄第3行)
(b)「本発明は上記のように長尺のグラスウールマツトをウオータージエツトで定尺に切断すると同時にウオータージエツトに吸引させた樹脂バインダーをグラスウールの切断面に吹付けることにより、グラスウールマツトを切断すると同時に切断面を樹脂バインダーで被覆して切断面のグラスウール繊維を固着することができ、切断時に切断面からグラスウール繊維が飛散するのを樹脂バインダーで防止できるから作業性が向上し」(第2頁右下欄第12?20行)
(c)「グラスウールマツト(1)だけでなくその他の繊維質断熱材の切断にも利用できるものである。」(第2頁右下欄第9?11行)

(3)同じく、当審の拒絶の理由に引用された米国特許第6103049号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている(訳は当審で付与。)。
(a)「In the manufacture…adjacent the kerf.(モールドされたまたはされていない、不織の、矯正されたまたはされていないファイバーグラスのマットのような繊維部材、あるいはその他の繊維部材の製造においては、製造工程で切断や成形をする必要がある。…。このような繊維部材の切断や成形では、切り口付近で埃や短い繊維が発生する。)」(第1欄第12?21行)
(b)「The method …the fibrous product.(本発明の器具や方法は、切断もしくは成形中に埃や短い繊維の発生を減らすあるいは最小化する、効果的で効率的な繊維部材の切断もしくは成形法であり、シーラントを含む高エネルギーのウオータージェットで繊維部材を切断もしくは成形し、切断で発生した切り口の端をシーラントでシールするとともに埃や短い繊維を繊維部材中に閉じ込める。)」(第1欄第44?53行)

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「金属製シェル3」、「アルミナ-シリカ系繊維6」、「排気ガス浄化装置用触媒コンバータ1」は、本願発明の「ハウジング」、「アルミノシリケート繊維」、「排ガス処理装置」にそれぞれ相当し、引用発明の「セラミック製の触媒担持体2」は、本願明細書の段落【0039】の記載からみて、本願発明の「脆弱触媒支持構造」に相当し、引用発明の「金属製シェル3と触媒担持体2との間に配置された」は、本願発明の「ハウジングと脆弱触媒支持構造との間のギャップの中に配置された」に相当すると認める。
また、引用発明の「金型で打ち抜いたマット状の保持シール材4」と、本願発明の「流体ジェット切断無機繊維取付けマット」とは、「加工された無機繊維取付けマット」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は、
「ハウジングと、
前記ハウジング内に弾性的に取付けられた脆弱触媒支持構造と、
前記脆弱触媒支持構造を前記ハウジング内に弾性的に保持するために、前記ハウジングと前記脆弱触媒支持構造との間のギャップの中に配置された加工された無機繊維取付けマットと、を含み、
前記加工された無機繊維取付けマットは、アルミノシリケート繊維を含む排気ガス処理装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]
本願発明では、「加工された無機繊維取付けマット」が、流体ジェットで切断された「流体ジェット切断無機繊維取付けマット」であるのに対して、引用発明では、「金型で打ち抜いたマット状の保持シール材4」である点。

以下、上記相違点について検討する。
一般に、ロックウール(ミネラルウール)、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、セラミック繊維等の耐熱性の無機繊維は加工の際には飛散し易いことが課題として認識されており(特開平6-287864号公報の段落【0002】、【0005】、特開平6-294071号公報の段落【0001】?【0003】参照)、また、無機繊維の飛散を防止するために流体ジェットを用いた方法で切断することは周知技術にすぎない(上記3.(2)(3)参照)。
一方、本願発明はガラス繊維を含む(本願明細書の段落【0058】参照)無機繊維一般の切断における課題を解決したものと認められ、特に、ロックウール、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維等に用いたことに格別な技術的意義を認めない。
したがって、前記引用発明のアルミノシリケート繊維を含むマット状の保持シール材4を加工する際に、金型で打ち抜く等の従来の手法で加工する代わりに衝撃が局部的な流体ジェットを用いた方法で切断して、飛散を防ぐことは当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものと認められない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、当審で通知した拒絶の理由によって拒絶をすべきものであり、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2013-11-21 
結審通知日 2013-11-25 
審決日 2013-12-16 
出願番号 特願2008-517015(P2008-517015)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D06H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 熊倉 強
紀本 孝
発明の名称 流体ジェット切断方法  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  
代理人 工藤 由里子  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  

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