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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013800042 審決 特許
無効2011800177 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2012800032 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 原文新規事項追加の補正  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1287720
審判番号 無効2011-800051  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-01 
確定日 2013-12-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4255515号発明「安定化された成長ホルモン処方物およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4255515号の請求項1?12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第4255515号の請求項1?14に係る発明についての出願は、1997年(平成9年)年2月12日(パリ条約による優先権主張1996年(平成8年)2月12日(AU)オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、平成21年2月6日にその発明についての特許の設定登録がなされ、その後、平成21年9月3日に請求された訂正審判(訂正2009-390107)により、訂正審判の審判請求書に添付の訂正明細書のとおり訂正されたものである(審決確定日:平成22年1月7日)。
(2)これに対し、請求人は、平成23年3月31日に「特許第4255515号の請求項1-14に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、本件審判請求をした。
(3)被請求人は、平成23年9月12日に訂正請求書を提出し、請求項1?14に係る発明を、訂正後の請求項1?12に係る発明に訂正すること求めると共に、「訂正を認める、本件無効審判の請求はいずれも成り立たない 審判費用は請求人の負担とする」との審決を求める旨の答弁書を提出した。
(4)その後、審判合議体は、被請求人に対して、平成23年9月12日にした訂正請求後の請求項1?12に係る発明は、無効とすべきものと認められる旨を記載した無効理由通知書を、平成23年10月18日付けで通知した。
また、請求人に対しては、上記無効理由通知書に記載の内容と同じ内容の職権審理結果通知書を通知した。
(5)これに対し、被請求人は、平成23年12月14日に訂正請求書を提出して訂正を求めると共に意見書を提出した。
また、請求人は、平成23年12月9日に意見書を提出した。
(6)口頭審理に先立ち、請求人並びに被請求人は、それぞれ、平成24年4月12日に口頭審理陳述要領書を提出した。
そして、口頭審理の後、請求人並びに被請求人は、それぞれ、平成24年5月8日、平成24年4月27日に上申書を提出した。
(7)その後、審判合議体は、被請求人並びに請求人に対して審尋を通知し、これに対し、被請求人並びに請求人は、それぞれ、平成24年6月5日に回答書を提出した。

2.訂正事項
平成23年9月12日に訂正請求がされた後、平成23年12月14日に訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)が新たにされたので、平成23年9月12日にされた先の訂正請求は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成23年改正前の特許法」という。)第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。
そして、本件訂正請求の内容は、本件特許権の設定登録後、平成21年9月3日に請求された訂正審判(訂正2009-390107)により、訂正審判の審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正された特許請求の範囲、及び、本件特許の設定登録時の明細書を、それぞれ、本件訂正請求書に添付した特許請求の範囲、及び、明細書のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、以下の特許請求の範囲

「1.成長ホルモンと、緩衝剤と、安定化有効量の下記:
(i)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー非イオン界面活性剤、
(ii)タウロコール酸またはその塩もしくは誘導体、および
(iii)メチルセルロース誘導体、
からなる群より選択される少なくとも1種の安定剤と
を含んでなる安定な成長ホルモン液状処方物を製造する方法であって、
処方物中の緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを、緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤と混合することを含んでなり、
ここで、処方物における安定剤の最終濃度が0.01?5.0%w/vであり、処方物のpHが、5.0?6.8である、方法。
2.成長ホルモンがヒト成長ホルモンである、請求項1に記載の方法。
3.処方物が、0.05?2.0%w/vの1種もしくは2種以上の安定剤を含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
4.処方物が、0.08?1.0%w/vの1種もしくは2種以上の安定剤を含んでなる、請求項3に記載の方法。
5.1種もしくは2種以上の安定剤が、プルロニックポリオール、タウロコール酸およびその塩、および、ヒドロキシプロピル-メチルセルロースから選択される、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
6.処方物が、1種もしくは2種以上の安定剤として0.08%w/vのプルロニック・ポリオールを含んでなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
7.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、2.5?50mMの濃度で含んでなる、請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
8.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、10?20mMの濃度で含んでなる、請求項7に記載の方法。
9.薬学上許容される緩衝剤がリン酸塩またはクエン酸塩である、請求項7または8に記載の方法。
10.処方物のpHが、5.2?6.5である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
11.処方物のpHが、5.4?5.8である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
12.最終体積の調節直前に1種もしくは2種以上の安定剤を処方物に添加する、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。
13.請求項1?12のいずれか一項に記載の方法により製造される、安定な成長ホルモン液状処方物。
14.成長ホルモンを必要とするヒトまたは動物の患者を治療するための、請求項13に記載の安定な成長ホルモン液状処方物。」

を、以下の訂正特許請求の範囲のとおりに訂正すると共に、当該訂正に対応するように明細書の記載事項を訂正することを求めるものである。

「1.成長ホルモンと、緩衝剤と、安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって、
処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを、緩衝剤および1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり、
ここで、処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08?1.0%w/vであり、
処方物のpHが、5.0?6.8である、方法。
2.成長ホルモンがヒト成長ホルモンである、請求項1に記載の方法。
3.前記プルロニック(登録商標)ポリオールが、プルロニック(登録商標)F-68である、請求項1または2に記載の方法。
4.処方物が、物理的に安定である、請求項3に記載の方法。
5.処方物が、物理的に安定である、請求項1または2に記載の方法。
6.処方物が、1種もしくは2種以上の安定剤として0.08%w/vのプルロニック・ポリオールを含んでなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
7.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、2.5?50mMの濃度で含んでなる、請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
8.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、10?20mMの濃度で含んでなる、請求項7に記載の方法。
9.薬学上許容される緩衝剤がリン酸塩またはクエン酸塩である、請求項7または8に記載の方法。
10.処方物のpHが、5.2?6.5である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
11.処方物のpHが、5.4?5.8である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
12.最終体積の調節直前に1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールを処方物に添加する、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。」

3.訂正の可否に対する判断
(1)特許請求の範囲の訂正について
・請求項1の訂正について
請求項1での訂正事項は、以下の(a)?(d)である。
(a)「成長ホルモン液状処方物」を、「成長ホルモン治療用医薬液状処方物」に訂正。
(b)「(i)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー非イオン界面活性剤、(ii)タウロコール酸またはその塩もしくは誘導体、および(iii)メチルセルロース誘導体、からなる群より選択される少なくとも1種の安定剤」を、「プルロニック(登録商標)ポリオール」に訂正。
(c)「処方物中の緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下」を、「処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下」に訂正。
(d)「処方物における安定剤の最終濃度が0.01?5.0%w/vであり」を、「処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08?1.0%w/vであり」に訂正。

上記訂正事項(a)?(d)について順に検討する。
・訂正事項(a)について
訂正事項(a)は、「成長ホルモン液状処方物」を、「成長ホルモン治療用医薬液状処方物」にすることを求めるものである。
この訂正事項について検討すると、訂正前の請求項14(引用する請求項13が請求項1を引用するから、訂正前の請求項14は、請求項1を実質的に引用する。)では、「成長ホルモン液状処方物」が、「成長ホルモンを必要とするヒトまたは動物の患者を治療するため」であると、用途について特定していたことからも明らかなように、訂正前の請求項1で特定する「成長ホルモン液状処方物」には、その用途として、「患者を治療するため」、すなわち、「治療用医薬」が含まれていたものと認められる。
よって、訂正事項(a)は、請求項1で特定する「成長ホルモン液状処方物」の用途について、「治療用医薬」のみに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「国際出願の明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

・訂正事項(b)について
訂正事項(b)は、「(i)」?「(iii)」として特定される「安定剤」を、「プルロニック(登録商標)ポリオール」のみにすることを求めるものである。
この訂正事項について検討すると、「プルロニック(登録商標)ポリオール」は、その構造より、「(i)」?「(iii)」として特定される「安定剤」のうちの、「(i)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー非イオン界面活性剤」に該当する成分であることは明らかであるし、しかも、訂正前の請求項5(請求項1を引用。)において「安定剤」として特定していた成分でもある。
よって、訂正事項(b)は、請求項1で特定する「安定剤」の成分について、特定の成分のみに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。

・訂正事項(c)について
訂正事項(c)(「…最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、…最終濃度の2倍より高い濃度の…プルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下」)により、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤とプルロニック(登録商標)ポリオールの両方に、成長ホルモンをさらさないことがより明確になったと認められる。
よって、訂正事項(c)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

・訂正事項(d)について
訂正事項(d)は、プルロニック(登録商標)ポリオール(安定剤)の最終濃度を、「0.01?5.0%w/v」から、「0.08?1.0%w/v」にすることを求めるものである。
この訂正事項について検討すると、訂正後の濃度範囲は、訂正前の濃度範囲よりも狭くなっていることは明らかであるし、しかも、訂正後の濃度範囲は、訂正前の請求項4(請求項1を引用。)において特定していた濃度範囲でもある。
よって、訂正事項(d)は、プルロニック(登録商標)ポリオールの濃度範囲について限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

・請求項3の訂正について
請求項3での訂正事項は、請求項1、2で特定する「プルロニック(登録商標)ポリオール」を、「プルロニック(登録商標)F-68」とすることを求めるものである。
この訂正事項について検討すると、「プルロニック(登録商標)F-68」が、「プルロニック(登録商標)ポリオール」の一つであることは、その名称より明らかであるし、しかも、「プルロニック(登録商標)F-68」は、本件明細書の例3において用いていた成分でもある。
よって、この訂正事項は、「プルロニック(登録商標)ポリオール」の成分について限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

・請求項4、5の訂正について
請求項4、5での訂正事項は、請求項1?3で特定する「安定」な成長ホルモン液状処方物を、「物理的に安定」なものとすることを求めるものである。
この訂正事項について検討すると、成長ホルモン液状処方物の「安定性」の種類について、本件明細書には、物理的安定性、化学的安定性及び長期貯蔵安定性が記載されているし(本件特許公報第2頁下から第11行、第5頁第26行)、加えて、製剤の分野においては、「安定性」とは、物理的安定性、化学的安定性、及び、生物(微生物)的安定性を意味することは、本件優先日前に広く知られていたことでもある(例えば、仲井由宣 外1名編、製剤学、(株)南山堂、1977年2刷、第189頁の「1.薬物の分解と安定性」参照。)。
よって、請求項1?3で特定する「安定」の種類の中には、少なくとも物理的安定性が含まれていたものと認められるから、この訂正事項は、「安定」の種類について限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

・請求項12の訂正について
請求項12での訂正事項は、「安定剤」を「プルロニック(登録商標)ポリオール」にすることを求めるものである。
この訂正事項については、上記「・請求項1の訂正について ・訂正事項(b)について」で既に述べたように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

・請求項13、14の訂正について
請求項13、14の訂正は、請求項13、14の削除を求めるものである。
そして、請求項の削除が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないことは明らかである。

(2)特許明細書の訂正について
特許明細書の訂正は、いずれも、特許請求の範囲の訂正に対応するように明細書の記載事項を訂正することを求めるものである。
特許請求の範囲の各訂正については、上記「(1)特許請求の範囲の訂正について」で既に述べたとおりであり、特許明細書の訂正についても、同様に、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

以上のとおり、平成23年12月14日付けの訂正は、平成23年改正前の特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項の規定によって準用する平成23年改正前の特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

以後、訂正特許請求の範囲に記載された請求項1?12に係る発明を、各々「本件発明1」?「本件発明12」、あるいは、単に「本件発明」ともいい、また、訂正明細書を、「本件明細書」ともいう。

4.請求人が主張する無効理由・証拠方法
請求人は、以下の無効理由1?6を挙げ、そして、証拠方法として甲第1A・B?14A・B号証を提出し(いずれも、審判請求書と共に提出。)、本件特許は、特許法第123条第1項第2、4、5号の規定により無効とされるべき旨を主張している。
(1)無効理由1?6
[無効理由1]
特許請求の範囲及び特許明細書に記載された事項は、国際出願の明細書等に記載した範囲内のものではない(審判請求書第12頁下から第4行?第13頁第1行)。
[無効理由2]
請求項1?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(審判請求書第13頁第2?5行)。
[無効理由3]
特許明細書の記載は、当業者が請求項1?14に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(審判請求書第13頁第6?10行)。
[無効理由4]
・請求項1に係る発明に対して
(a)請求項1に係る発明は、文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第33頁下から第3行?第35頁第12行)。
(b)請求項1に係る発明は、文献2又は文献3に記載された発明に基づいて、あるいは、文献2又は文献3に記載された発明と文献1、4?10のいずれかに記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第35頁第13行?第38頁第7行)。
(c)請求項1に係る発明は、文献4?8のいずれかに記載された発明に基づいて、あるいは、文献4?8のいずれかに記載された発明と文献1?3のいずれかに記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第38頁第8行?第41頁下から第3行)。
(d)請求項1に係る発明は、文献1、4?8のいずれかに記載された発明と文献11又は文献12に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第41頁下から第2行?第43頁第15行)。
(e)請求項1に係る発明は、文献9又は文献13に記載された発明と文献1?8のいずれかに記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第43頁第16行?第46頁第1行)。
(f)請求項1に係る発明は、文献10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第46頁第2行?第47頁第4行)。
・請求項2?14に係る発明に対して
請求項2?14に係る発明も、上記「・請求項1に係る発明に対して」で述べた理由と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(審判請求書第13頁第11?15行、第50頁下から第9行?第52頁第15行、第53頁下から第14行?下から第4行、第54頁第4行?第56頁第12行、第57頁下から第11行?第58頁第8行)。
[無効理由5]
請求項1?14の記載は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない(審判請求書第13頁下から第10行?下から第7行)。
[無効理由6]
請求項13、14に係る発明は、文献1、4?8、10に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(審判請求書第13頁下から第6行?最下行)。

(2)証拠方法
甲第1A号証:特開昭62-70319号公報(文献1)
甲第1B号証:欧州特許出願公開第0211601号明細書(文献1の対
応英語文献)
甲第2A号証:M.KATAKAM et. al., Journal of Pharmaceutical Sciences,
Vol.84, No.6, 1995, p.713-715(文献2)
甲第2B号証:文献2の抄訳文
甲第3A号証:特表平8-507064号公報(文献3)
甲第3B号証:国際公開94/19020号(文献3の対応英語文献)
甲第4A号証:米国特許第5013714号明細書(文献4)
甲第4B号証:文献4の抄訳文
甲第5A号証:特表平6-502724号公報(文献5)
甲第5B号証:国際公開92/08985号(文献5の対応英語文献)
甲第6A号証:特表平3-503764号公報(文献6)
甲第6B号証:国際公開89/09614号(文献6の対応英語文献)
甲第7A号証:特表平7-509719号公報(文献7)
甲第7B号証:国際公開94/03198号(文献7の対応英語文献)
甲第8A号証:特表平5-507278号公報(文献8)
甲第8B号証:国際公開91/18621号(文献8の対応英語文献)
甲第9A号証:特開平2-204418号公報(文献9)
甲第9B号証:欧州特許出願公開第0374120号明細書(文献9の対
応英語文献)
甲第10A号証:国際公開90/07923号(文献10)
甲第10B号証:文献10の抄訳文
甲第11A号証:特開昭60-38398号公報(文献11)
甲第11B号証:欧州特許出願公開第0131864号明細書(文献11
の対応独語文献)
甲第12A号証:特表平7-501560号公報(文献12)
甲第12B号証:国際公開94/07510号(文献12の対応英語文献)
甲第13A号証:Ajay K. Banga, THERAPEUTIC PEPTIDES AND PROTEINS,
Technomic Publishing Company,Inc.,1995, p.148-152
(文献13)
甲第13B号証:文献13の抄訳文
甲第14A号証:Mats Reslow博士による宣誓書
甲第14B号証:甲第14A号証の翻訳文

5.当審が通知した無効理由の概要
当審が通知した無効理由(無効理由7、8)の概要は、以下のとおりである。
[無効理由7]
本件発明1、2、5、7?11は、文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
[無効理由8]
(1)本件発明3、4、6は、文献7に記載された発明と文献1に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件発明12は、文献7に記載された発明と文献11に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

6.被請求人の主張・証拠方法
被請求人は、上記「1.(3)」に記載のとおり、「訂正を認める、本件無効審判の請求はいずれも成り立たない 審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、上記「4.(1) 」に記載した無効理由1?6、及び、上記「5.」に記載した無効理由7、8は、いずれも理由がない旨を主張している。
そして、証拠方法として、以下の乙第1?18号証を提出している(乙第1?13号証は、答弁書と共に提出。乙第14?17号証は、審判事件意見書と共に提出。乙第18号証は、回答書と共に提出。)。

乙第1号証:Heidi Elmer氏による宣誓供述書
乙第2号証:postnova社のAF2000 AT Seriesの広告
乙第3号証:THE MERCK INDEX 第10版, 1983, p.1090-1091
乙第4号証:THE MERCK INDEX 第11版, 1989, p.1203
乙第5号証:THE MERCK INDEX 第12版, 1996, p.1303
乙第6号証:THE MERCK INDEX 第13版, 2001, p.1357
乙第7号証:THE MERCK INDEX 第14版, 2006, p.1305
乙第8号証:THE UNITED STATES PHARMACOPEIA THE NATIONAL
FORMULARY, THE UNITED STATES PHARMACOPEIAL
CONVECTION,INC., 1995, p.2279-2281
乙第9号証:THE UNITED STATES PHARMACOPEIA THE NATIONAL
FORMULARY, THE UNITED STATES PHARMACOPEIAL
CONVECTION,INC., 2011, p.1611
乙第10号証:村橋俊介 外2名編、改訂新版プラスチックハンドブック、
朝倉書店、昭和44年、第490-493、498-499頁
乙第11号証:高分子学会・高分子辞書編集委員会編、新版高分子辞典、
朝倉書店、1991年3刷、第400-401頁
乙第12号証:M.KATAKAM et. al., Journal of Pharmaceutical Sciences,
Vol.84, No.6, 1995, p.713-715(甲第2A号証と同じ)
乙第13号証:特表2011-504871号公報
乙第14号証:広辞苑第四版、岩波書店、1991年、第2005、2199頁
乙第15号証:精選版日本国語大辞典第三巻、小学館、2006年、第341頁
乙第16号証:精選版日本国語大辞典第二巻、小学館、2006年、第2125頁
乙第17号証:Mats Reslow博士による宣誓書
乙第18号証:L. E. KIRSCH et. al., Journal of Parenteral Science &
Technology, Vol.47, No.4, 1993, p.155-160

7.当審の判断
無効理由1?8の判断においては、上記「3.」で認めた訂正の内容を主に考慮して、無効理由6、1、5、2、3、7・4・8の順で検討していく。
(1)無効理由6(新規性の欠如)について
無効理由6は、訂正前の請求項13、14に係る発明に対してである(上記「4.(1)[無効理由6]」参照。)。
そして、訂正前の請求項13、14に係る発明については、上記「3.(1)・請求項13、14の訂正について」で既に述べたように、訂正により削除された。
よって、無効理由6は解消され、無効理由6により無効とすることはできない。

(2)無効理由1(原文新規事項の追加)について
無効理由1に関して、請求人は、特許請求の範囲及び特許明細書における、「ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー」との記載は、国際出願の明細書等に記載した範囲内のものではない旨を主張している(審判請求書第16頁第1行?第19頁下から第6行)。
そして、この記載については、上記「3.(1)・請求項1の訂正について ・訂正事項(b)について」及び「3.(2)」で既に述べたように、訂正により、特許請求の範囲及び特許明細書から削除された。
よって、無効理由1も解消され、無効理由1によっても無効とすることはできない。

(3)無効理由5(明確性要件違反)について
無効理由5に関して、請求人は、特許請求の範囲の以下の記載(a)?(d)を挙げ、以下の(A)?(D)のとおり主張している。
(a)「緩衝剤または安定剤にさらされない」
(b)「安定な」
(c)「誘導体」
(d)「プルロニック」(本件発明1における「プルロニック(登録商標)ポリオール」に相当すると認められる。)

(A)記載(a)は、以下のI)並びにII)のように多義的に解釈されるものであり、不明確である(審判請求書第47頁第6行?最下行)。
I)「処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上の安定剤の最終濃度の2倍より高い濃度1種もしくは2種以上の安定剤にも成長ホルモンがさらされない」
II)「処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤か、処方物中の1種もしくは2種以上の安定剤の最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上の安定剤かの、何れか一方に成長ホルモンがさらされない(一方にはされされていてもよい)」
(B)記載(b)は、特許明細書に基づけば、物理的安定性・化学的安定性・長期保存性を示すものと解釈できるものの、「これらの要件のうちの何れかを満たすために、実際にどの水準の安定性が要求されるかは不明確であり、「安定な」と「不安定な」の間のどこに区別が存在するかも不明確」である(審判請求書第48頁第1行?第49頁下から第2行)。
(C)「タウロコール酸またはその誘導体」・「メチルセルロース誘導体」における「誘導体」(記載(c))の範囲が不明確である(審判請求書第49頁最下行?第50頁第17行)。
(D)記載(d)は商標であり、そして、特定の商標が付された製品であっても、具体的内容が保持される保証はないから、記載(d)は不明確である(審判請求書第52頁第16行?第53頁第16行)。

そこで、上記主張(A)?(D)を踏まえつつ、上記記載(a)?(d)について順に検討する。
・記載(a)について
「緩衝剤または安定剤にさらされない」との記載については、上記「3.(1)・請求項1の訂正について ・訂正事項(c)について」で既に述べたように、訂正により、この記載を用いない記載となった。
そして、訂正後の記載をみれば、上記主張(A)における二通りの解釈のうちの、「I)」の意味であると明確に把握できるようになった。
よって、記載(a)を理由として無効とすることはできない。

・記載(b)について
「安定な」との記載の意味について本件明細書で説明されていることは、上記「3.(1)・請求項4、5の訂正について」で既に述べたとおりであるし、また、このことは、請求人自身も認めている(上記主張(B)参照。)。
しかも、製剤の分野においては、「安定」との記載により、その意味するところが限られてくることも、上記「3.(1)・請求項4、5の訂正について」で既に述べたとおりである。
よって、「安定な」との記載自体に不明確な点があるとは認められない。
さらに、本件発明1の記載をみれば(上記「2.」に記載した「訂正特許請求の範囲」の「1.」参照。)、本件発明1で特定する製法
(「…最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、…最終濃度の2倍より高い濃度の…プルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを、緩衝剤および…プルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり、処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08?1.0%w/vであり、処方物のpHが、5.0?6.8である」)
により製造されたものを、「安定な」ものとすることも把握できる。
よって、本件発明1で特定する製法を経たか否かによって、「安定な」とするものと、それ以外のものとの区別もできると認められる。
以上のことより、「安定な」の記載自体に不明確な点があるとは認められないし、「安定な」ものとそうでないものとの区別もできるから、記載(b)は不明確であるとは認められない。
したがって、記載(b)を理由として無効とすることはできない。

・記載(c)について
「誘導体」との記載については、上記「3.(1)・請求項1の訂正について ・訂正事項(b)について」で既に述べたように、訂正により削除された。
よって、記載(c)を理由として無効とすることはできない。

・記載(d)について
請求人が主張するとおり(上記主張(D)参照。)、「プルロニック」(プルロニック(登録商標)ポリオール)は商標ではあるものの、被請求人が提出した乙第3?11号証から確認できるとおり、「プルロニック」は、「ポロキサマー」の同義語として当業者に広く認識されており、成分を明確に特定できる技術用語でもある。
よって、「プルロニック」は商標ではあるものの、「ポロキサマー」と同じ成分であると特定できるから、記載(d)にも不明確な点があるとはいえない。
したがって、記載(d)を理由として無効とすることはできない。

以上のとおり、記載(a)・(c)は、訂正により既に削除されたものであるし、また、記載(b)・(d)は、不明確とは認められないから、無効理由5によっても無効とすることはできない。

(4)無効理由2(サポート要件違反)について
無効理由2に関して、請求人は、以下の(A)?(E)のとおり主張している。
(A)請求項1では、「ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー」を用いることを特定するが、特許明細書には、このポリマーを用いて安定な成長ホルモン液状処方物を製造する方法について開示していない(審判請求書第19頁下から第5行?第20頁下から第10行))。
(B)特許明細書には、請求項1で特定する方法により製造される処方物が、所望の安定性の改善を達成することについての実験的証拠は提供されておらず、それどころか、特許明細書の実施例の実験結果は、安定な処方物を製造できないことを示すものである(審判請求書第20頁下から第9行?第21頁最下行)。
(C)特許明細書には、請求項1で特定する安定剤全体にわたって、安定性が達成されるという客観的な証拠が提示されていない(審判請求書第22頁第1行?下から第5行)。
(D)特許明細書には、請求項1で特定するタウロコール酸及びメチルセルロースの「誘導体」全てにおいて、安定性が達成されるという合理的な説明がされていない(審判請求書第22頁下から第4行?最下行)。
(E)甲第14号証に示した試験結果より、請求項1で特定する濃度範囲にすることで、良好な安定性をもたらすことになるとはいえず、むしろ、請求項1で特定する濃度範囲外の方が、より良好な安定性をもたらすことから、請求項1に記載される課題解決手段は、安定性の改善に何ら寄与しないものである(審判請求書第23頁下から第7行?第24頁第13行)。

そこで、上記主張(A)?(E)を踏まえつつ、順に検討する。
・主張(A)に関して
「ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー」との記載については、上記「3.(1)・請求項1の訂正について ・訂正事項(b)について」及び「3.(2)」で既に述べたように、訂正により、特許請求の範囲及び特許明細書から削除された。
よって、主張(A)を理由として無効にすることはできない。

・主張(B)に関して
本件明細書には、「例3」として、処方物1?3を用いての安定性試験結果が記載されている(訂正明細書第20頁第12行?第21頁第12行)。
そして、処方物1の調製法についてみれば、
「精製されたhGH溶液を7?7.5mg/mlに濃縮し、それ以上調節することなくpH5.6の液状処方物を生産するpHに調節したすべての賦形剤を含有する溶液の2倍濃縮物を添加し、最後に水で5mg/mlの最終hGH濃度に調節することによって、処方物1を調製した。」(訂正明細書第20頁第13?17行)
と記載されている。
この記載からでは、濃縮物の濃度に関して、文字どおりの「2倍濃縮」であったのか、あるいは、実質的には、「1.4(7mg/ml÷5mg/ml)?1.5(7.5mg/ml÷5mg/ml)倍濃縮」であったのかは定かではないものの、いずれの濃度であっても、「2倍より高い濃度」に「さらされないような条件下」で調製されたことに違いはない。
よって、処方物1は、本件発明に対応する製法によるものと認められる。
また、処方物2、3の調製法についてみても、要求される濃度(等倍)の「緩衝剤」を含有する緩衝液で交換後に、要求される濃度(等倍)の「プロニック」を添加して調製している(訂正明細書第20頁下から第8行?第21頁第8行参照。)。
よって、処方物2、3も、「2倍より高い濃度」に「さらされないような条件下」で調製されるものであると認められ、処方物1と同様に、本件発明に対応する製法によるものと認められる。
そして、処方物1?3についての安定性の結果をみれば(本件特許公報の【図4】参照。)、処方物2、3に関しては、40日にわたって、hGH濃度が高く維持されており、安定性に優れることが把握できる。
また、処方物1に関しても、処方物2、3の結果に比べれば、日が経つにつれて、hGH濃度の低下が認められるものの、不安定とまではいえない程度の安定性は確保できることが把握できる。
加えて、被請求人が提出した乙第1号証をみれば、本件発明に対応しない製法による処方物iii(3倍濃度)・処方物iv(5倍濃度)と、本件発明に対応する製法による処方物i(1.33倍濃度)・処方物ii(2倍濃度)とを比較した追加試験結果が記載されている。
そして、各データを見比べれば、本件発明に対応しない製法による処方物iii(3倍濃度)・処方物iv(5倍濃度)では、不安定となることが確認できる(例えば、乙第1号証翻訳文第5頁の表参照。)。
しかも、請求人は、本件発明で特定する製法に該当するにもかかわらず、安定な処方物が得られなかった具体例を示してはいない(この点ついては、後述の「・主張(E)に関して」も参照のこと。)。
以上のことより、本件明細書には、本件発明で特定する製法によって、安定な処方物を得ることについて裏付けられていると認められ、主張(B)を理由として無効にすることはできない。

・主張(C)・(D)に関して
上記「3.(1)・請求項1の訂正について ・訂正事項(b)について」で既に述べたように、訂正により、安定剤は、「プルロニック(登録商標)ポリオール」のみに減縮され、タウロコール酸及びメチルセルロースの「誘導体」を用いることについては削除された。
そして、本件明細書には、「プルロニック(登録商標)ポリオール」を用いた実験例が記載がされていることは、上記「・主張(B)に関して」で既に述べたとおりである。
よって、主張(C)・(D)を理由として無効にすることはできない。

・主張(E)に関して
請求人が提出した甲第14B号証をみると、「磁気バーを用いた攪拌はタンパク質の物理的安定性に対して有害となり得る」(第1頁下から第6行?下から第5行)ために、(本件明細書の例で用いられる「渦攪拌」ではなく、)「緩やかに振とう」(第1頁下から第7行?下から第6行、第3頁第2行、第4頁中ほど)するという条件を採用する場合には、3倍濃縮物や5倍濃縮物を用いても、2倍以下の濃縮物と比較して、安定性の点であまり差異がないことが確かに把握できる。
しかし、本件発明は、混合時における、撹拌・振とう条件について特定するものではないから、特定の混合条件(「緩やかに振とう」)での結果に縛られるものではないし、しかも、上記結果(「緩やかに振とう」すれば、2倍濃縮を境として安定性が大きく変わることはない。)は、2倍以下の濃縮物では、安定性が得られないという結果ではない。すなわち、上記結果は、本件発明の製法では、安定性は得られないことを裏付けるものではない。
よって、甲第14号証の試験結果は、本件発明が特定する課題解決手段自体を否定するものではなく、そして、本件明細書には、2倍濃縮物や等倍のものを用いると安定であることについて裏付けられていることは、上記「・主張(B)に関して」で既に述べたとおりである。
したがって、主張(E)を理由として無効にすることはできない。

以上のとおり、無効理由2についての請求人の主張は、いずれも採用できず、そして、本件発明1?12は、本件明細書に記載されていると認められるから、無効理由2によっても無効とすることはできない。

(5)無効理由3(実施可能要件違反)について
無効理由3に関して、請求人は、以下の(A)?(C)のとおり主張している。
(A)特許明細書には、本件発明の処方物が安定性の改善を示すことを裏付ける実験的な証拠は記載されておらず、むしろ、いくつかは、安定ではない(審判請求書第24頁最下行?第25頁下から第9行)。
(B)特許明細書には、本件発明で特定する安定剤とその有効量について、限られた記載しかないため、記載された以外の安定剤を採用し、その有効量を決定するためには、当業者に過度の試行錯誤を負わせることになる(審判請求書第25頁下から第8行?下から第3行)。
(C)甲第14号証に示した試験結果より、本件発明で特定する濃度範囲外の方が良好な安定性になるから、特許明細書には、本件発明が実施可能であることについて記載されているとはいえない(審判請求書第25頁下から第2行?第27頁第17行)。

そこで、上記主張(A)?(C)を踏まえつつ、以下に検討する。
・主張(A)・(B)に関して
訂正により、安定剤が、「プルロニック(登録商標)ポリオール」のみに減縮されたことは、上記「3.(1)・請求項1の訂正について ・訂正事項(b)について」で既に述べたとおりであるし、そして、本件明細書には、「プルロニック(登録商標)ポリオール」を用いた処方物が、安定性を示すことについて裏付けられていることは、上記「(4)・主張(B)に関して」で既に述べたとおりである。
よって、主張(A)・(B)を理由として無効にすることはできない。

・主張(C)に関して
甲第14号証の試験結果は、本件発明による効果自体を否定するものではないことは、上記「(4)・主張(E)に関して」で既に述べたとおりである。
よって、主張(C)を理由として無効にすることはできない。

以上のとおり、無効理由3についての請求人の主張は、いずれも採用できず、そして、本件明細書には、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められるから、無効理由3によっても無効とすることはできない。

(6)無効理由7・4・8(新規性の欠如、進歩性の欠如)について
・本件発明1について
(a)本件発明1
本件発明1は、次のとおりである。
「1.成長ホルモンと、緩衝剤と、安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって、
処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを、緩衝剤および1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり、
ここで、処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08?1.0%w/vであり、
処方物のpHが5.0?6.8である、方法。」

(b)引用例とその主な記載事項
文献7(甲第7A号証:特表平7-509719号公報)には、以下の事項が記載されている。
(7A-1)
「本発明は、ヒト成長ホルモン(hGH)を含有する医薬品製剤、そのような製剤の製造方法および使用方法に関する。とりわけ本発明は、水性製剤中で増大した安定性を有するそのような医薬品製剤に関する。」(第2頁左下欄第4?6行)

(7A-2)
「好ましい態様では、本発明の製剤は、pH6.0で以下の成分を含む。
成 分 量(mg)
hGH 5
塩化ナトリウム 8.8
ポリソルベート20 2.0
クエン酸ナトリウム 2.5
フエノール 2.5
滅菌水 1ml
上記量は先でより詳細に述べた範囲内で幾分変更可能であり、また該材料は、成分カテゴリーの範囲内で代替可能であることが分かるであろう。すなわち、ポリソルベート80、またはポロキサマーをポリソルベート20に代替することができ、コハク酸塩または酢酸塩緩衝液を代わりに使用でき、また他の保存剤および異なったpHを使用することができる。」(第3頁右下欄第2行?下から第15行)

(7A-3)
「非イオン界面活性剤には、ポリソルベート20または80等といったようなポリソルベート、およびポロキサマー184または188といったようなポロキサマー、プルロニック[(Pluronic:商標)]ポリオール、並びに他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー等が包含される。安定な水性製剤を得るのに有効な量を使用するが、これは通常、約0.1%(w/v)?約5%(w/v)、さらに好ましくは0.1%(w/v)?約1%(w/v)の範囲内である。」(第3頁右上欄下から第2行?左下欄第4行)

(7A-4)
「緩衝液には、リン酸塩、トリス、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、およびヒスチジン緩衝液が包含される。該緩衝液は約2mM?約50mMの範囲内が最も有利である。好ましい緩衝液はクエン酸ナトリウム緩衝液である。」(第3頁左下欄第9?11行)

(7A-5)
「緩衝液で調節する、水性hGH製剤に適当なpH範囲は、約4?8、さらに好ましくは約5.5?約7、最も有利には6.0である。好ましくは、脱アミド化、凝集、およびhGHの沈降を最小とする緩衝液濃度範囲を選択する。」(第3頁左下欄下から第11行?下から第9行)

(7A-6)
「<B.製剤調製>
一般に、これらの実験例における分析用の水性hGH製剤サンプルは、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することにより調製した。その溶離緩衝液は、塩化ナトリウムまたはマンニトールのいずれか、緩衝液および非イオン界面活性剤をそれらの最終比率で含有していた。この結果として得られる溶液を所望のhGH濃度まで希釈して、保存剤を添加した。その溶液を滅菌メンブランフィルター(…)を使用して滅菌濾過し、1型3cc滅菌ガラスバイアルの1つに注ぎ入れ、栓をして、水性タイプのブチルゴム栓やアルミニウムフリップオフタイプのふたで密閉した。
実験例で使用する該水性hGH製剤は、溶液1mlにつき、ソマトロビン5.0mg [Genentech,Inc.]、マンニトール45.0mg、フェノール2.5mg、ポリソルベート20 2.0mg、およびクエン酸ナトリウム2.5mgを含み、pH6.0であった。」(第4頁左上欄第11行?下から第6行)

(7A-7)
「<D.実施例II>
水性製剤の物理的安定性

攪拌によっての水性製剤の視覚的透明度における変化は極く僅かであった。」(第4頁左下欄第10行?下から第5行)

(c)引用発明
文献7には、ヒト成長ホルモン(hGH)と、クエン酸ナトリウム緩衝剤と、2.0mg/ml(0.2%w/v)のポリソルベート20とを含んでなり、pHが6.0の安定なヒト成長ホルモン水性製剤が記載されている(上記「(b)(7A-1)、(7A-2)、(7A-4)」)。
さらに、文献7には、このヒト成長ホルモン水性製剤の調製法として、緩衝液(クエン酸ナトリウム)および非イオン界面活性剤(ポリソルベート20)を最終比率で含有する溶離緩衝液を用いて、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することで調製し、得られた溶液を所望のhGH(ヒト成長ホルモン)濃度まで希釈して、保存剤を添加することによって、ソマトロビン(ヒト成長ホルモン)と、クエン酸ナトリウム緩衝剤と、2.0mg/ml(0.2%w/v)ポリソルベート20とを含んでなり、pHが6.0のヒト成長ホルモン水性製剤を調製することが記載されている(上記「(b)(7A-6)」)。
加えて、文献7には、ポロキサマーをポリソルベート20に代替することも記載されている(上記「(b)(7A-2)」)。

以上のことにより、文献7には、
「ヒト成長ホルモンと、クエン酸ナトリウム緩衝剤と、ポロキサマーとを含んでなる安定なヒト成長ホルモン水性製剤を製造する方法であって、
クエン酸ナトリウム緩衝剤、および、ポロキサマーを最終比率で含有する溶離緩衝液を用いて、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することで調製し、得られた溶液を所望の成長ホルモン濃度まで希釈し、保存剤を添加することを含んでなり、
ここで、処方物におけるポロキサマーの最終濃度が0.2%w/vであり、
処方物のpHが6.0である、方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(d)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポロキサマー」は、本件発明1における「プルロニック(登録商標)ポリオール」と同義であることは、上記「7.(3)・記載(d)について」で既に述べたとおりである。
次に、引用発明のpH(6.0)、並びに、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)の濃度(0.2%w/v)は、それぞれ、本件発明1で特定する各範囲(「5.0?6.8」、「0.08?1.0%w/v」)と重複する。
そして、 引用発明のポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)の濃度(0.2%w/v)が本件発明1で特定する濃度範囲内であることから、引用発明の濃度(0.2%w/v)は、本件発明1における「安定化有効量」に相当するとも認められる。
また、引用発明の「ヒト成長ホルモン水性製剤」は、その意味するところを考慮すれば、本件発明1の「成長ホルモン治療用医薬液状処方物」に相当すると認められる。
さらに、引用発明では、ヒト成長ホルモン水性製剤を、クエン酸ナトリウム緩衝剤、および、ポロキサマーを含有する溶離緩衝液を用いて、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することで調製することから、ヒト成長ホルモンは、クエン酸ナトリウム緩衝剤およびポロキサマーと「混合」されることは明らかである。

よって、両者は、
「ヒト成長ホルモンと、クエン酸ナトリウム緩衝剤と、安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって、
成長ホルモンを、緩衝剤及び1種のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり、
ここで、処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.2%w/vであり、
処方物のpHが6.0である、方法。」
である点で一致し、以下の点で、一応、相違する。

[相違点]
ヒト成長ホルモンを、緩衝剤およびプルロニック(登録商標)ポリオールと混合する際において、本件発明1では、
「処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下」
で混合することを特定するのに対して、引用発明では、
「クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)を最終比率で含有する溶離緩衝液を用いて、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することで調製し、得られた溶液を所望の成長ホルモン濃度まで希釈し、保存剤を添加する」
ことは特定するものの、本件発明1で特定する、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンをさらさないことまでは明確には特定していない点。

(e)判断
この一応の相違点について、以下に検討する(なお、以下においては、「ヒト成長ホルモン」を単に「成長ホルモン」という。)。
まず、引用発明における
「クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)を最終比率で含有する溶離緩衝液を用いて、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することで調製し、得られた溶液を所望の成長ホルモン濃度まで希釈し、保存剤を添加する」
との手段は、以下の1)?3)の手順であると把握できる。
1)ゲル濾過カラムに成長ホルモンを加え、そして、クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)を最終比率で含有する溶離緩衝液を加えて、緩衝液交換を行う。
2)緩衝液交換により得た成長ホルモン溶液中の成長ホルモン濃度を測定して、そして、所望の成長ホルモン濃度になるように希釈液を加えて希釈する。
3)保存剤を添加する。

ここで、上記手順1)で用いる「溶離緩衝液」について、「クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)を最終比率で含有する」とされているが、この「最終比率」とは、如何なる濃度を意味し、「溶離緩衝液」は、「クエン酸ナトリウム緩衝液」及び「ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)」が如何なる濃度に調製されたものと解釈できるかについて検討する。
引用発明は、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換して成長ホルモン溶液を得るものであるが(なお、本件明細書の「例3」における処方物2・3も、緩衝液交換により調製されたものである。)、ゲル濾過に用いる溶離緩衝液としては、精製物(本件の場合、「成長ホルモン」)の安定性のために、至適濃度・イオン強度・pHに設定したものを用い、各々設定される至適濃度の数倍、数十倍といった濃度の溶離緩衝液を用いることはないことは、以下の文献A・B(当審が通知した審尋における文献3・4)に記載されるように、当業者に技術常識である(この技術常識に関しては、被請求人は否定していない(回答書第5頁下から第5行?下から第3行参照。)。)。
[文献A]新生化学実験講座1 タンパク質I -分離・精製・性質-、
東京化学同人、第1版第1刷1990年、第180-183,427頁
・「溶出液のpH,イオン強度は,タンパク質の安定性により制限されることが多く…」(第180頁下から第6行?下から第5行)と記載。
・「…pH変動を避けるため,適当な緩衝剤を用いる.0.1MNaClを含む10mM緩衝液などの溶出液がよく用いられる.」(第180頁下から第2行?最下行)と記載。

[文献B]基礎生化学実験法3 物理化学的測定(I)、丸善、第2刷
昭和52年、第170-172頁
・「…ゲル濾過の溶出溶媒としては一般に,適当濃度,適当pHの緩衝液を使うべきであり…」(第170頁最下行?第171頁第1行)と記載。

さらに、上記手順2)をみれば、緩衝液交換により得た成長ホルモン溶液は、「所望」の成長ホルモン濃度に希釈可能な状態になっている、すなわち、特定の希釈率で希釈すべき状態にはなっていないことも理解できる。
しかも、引用発明は、安定な成長ホルモン水性製剤を得ることを目的とするものである(上記「(b)(7A-1)」参照。)。
以上述べた、精製物の安定のために、至適濃度・イオン強度・pHに設定した溶離緩衝液を用いる(各々設定される至適濃度の数倍、数十倍といった濃度の溶離緩衝液を用いることはない)とのゲル濾過の技術常識、緩衝液交換により調整した成長ホルモン溶液は、「所望」の濃度に希釈可能な状態である(希釈率が固定されていない)こと、加えて、安定な成長ホルモン水性製剤を得るとの引用発明の目的を考慮すれば、引用発明で用いる「クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)を最終比率で含有する溶離緩衝液」は、「クエン酸ナトリウム緩衝液」及び「ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)」が各至適濃度に調製されたものである、すなわち、最終的に調製される成長ホルモン水性製剤中の各濃度(最終濃度)に等しいと解釈できる。

そうすると、引用発明における手段(上記手順1)?3))は、以下の1)'?3)の手順であるともいえる。
1)'ゲル濾過カラム上に成長ホルモンを加え、そして、クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)を最終濃度で含有する溶離緩衝液を加えて、緩衝液交換を行う。
2)'緩衝液交換により得た成長ホルモン溶液中の成長ホルモン濃度を測定して、そして、所望の成長ホルモン濃度になるように、クエン酸ナトリウム緩衝液、および、ポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)が最終濃度となっている希釈液(溶離緩衝液)を加えて希釈する。
3)保存剤を添加する。

よって、引用発明において、 溶離緩衝液を用いてゲル濾過カラム上で緩衝液交換する際(上記手順1)')には、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされることはないし、また、 所望の成長ホルモン濃度まで希釈する際(上記手順2)')にも、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされることはない。さらに、保存剤の添加の際(上記手順3))に、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされることはないことは明らかである。
したがって、引用発明も、「処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下」で混合されるといえるから、上記一応の相違点は、実質的な相違であるとはいえない。


また、たとえ、引用発明における、ゲル濾過カラム上での緩衝液交換時の溶離緩衝液中の、緩衝剤及びポロキサマー(プルロニック(登録商標)ポリオール)の各濃度が、最終的に調製される成長ホルモン水性製剤中の各濃度(最終濃度)と等しい(等倍)であるとまでは断定できないとしても、上記したように、ゲル濾過に用いる溶離緩衝液には、精製物の安定性のために、適切な濃度のものを用いており、各々設定される至適濃度の数倍、数十倍といった濃度の溶離緩衝液を用いることはないことは、技術常識であるし、しかも、引用発明は、安定な成長ホルモン水性製剤を得ることを目的とするものでもある。
よって、引用発明において、安定な成長ホルモン水性製剤を得るために、ゲル濾過により調製する際に用いる溶離緩衝液として、至適濃度(最終濃度)からかけ離れた濃度のものは用いないこと、すなわち、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンをさらさないことは、当業者が容易になし得ることである。
また、本件発明1による効果について検討すると、本件明細書には、最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンをさらさないことによって、成長ホルモンの安定性を得ることが記載されている。
しかし、上記したように、精製物の安定性のために、適切な濃度の溶離緩衝液を用いることは、ゲル濾過の技術常識であるから、上記した効果は、当業者が予測し得るものと認められる。
よって、本件発明1による効果は、有利な効果であるとはいえない。

ここで、上記判断に対して、被請求人は、審判事件意見書、並びに、回答書において、以下の(A)?(E)を主張している。
(A)「「比率」と「濃度」が全く異なる用語であることは明らか」であり、文献7における「最終比率」は「最終濃度」を意図していない(審判事件意見書第8頁第1行?第16頁第11行)。
(B)文献7では、希釈に用いた溶液の詳細については不明であり、「それゆえ、甲第7A号証の記載に整合する溶離緩衝液および希釈に用いた溶液の組成は、理論上はもとより、事実上も無限に存在」する(審判事件意見書第16頁第12行?最下行)。
(C)文献7では、希釈後に保存剤(フェノール)を添加するが、操作性や成長ホルモンの安定性を意図するならば、最初から含ませたはずであり、フェノールを希釈後に添加することは、文献7では、「フェノールの溶解性を困難にするほどの高濃度の溶液が溶離緩衝液として使用されていたと考えるのが、科学的に合理的」(審判事件意見書第17頁第1行?第18頁第10行)。
(D)添加するフェノール溶液の分、成長ホルモン溶液の最終容量が変化するため、「緩衝液交換直後の溶液中の緩衝剤及びプルロニック(登録商標)ポリオールの濃度は、保存剤であるフェノール添加後の濃度とは異な」る(審判事件意見書第18頁第11?16行)。
乙第18号証の第159頁右欄第4?7行の記載より、「フェノール溶液の濃度は1%未満、すなわち、10mg/ml未満であることは明らかで」、「仮に専ら議論のために、乙第18号証において添加されたフェノールの濃度が10mg/mlであったとしても、…、その濃度は、甲第7A号証において使用されるフェノール最終濃度の4倍であり、そのため、最終容量の4分の1もの大量のフェノール溶液を添加することになり」、「添加されるフェノール溶液量は大量で」、審尋での指摘は、「その前提からして誤り」(回答書第6頁下から第3行?第11頁第6行)。
(E)文献7における、界面活性剤・緩衝剤の「適切な濃度」についての記載をみれば、「最終濃度の少なくとも10倍濃度の溶離緩衝液が使用できる」(回答書第6頁第2行?下から第4行)。

しかしながら、以下に述べるように、上記主張(A)?(E)は、いずれも採用できず、上記した判断を覆すには至らない。
・主張(A)に対して
以下の文献C・D(当審が通知した審尋における文献1・2)に記載されるように、「比率」とは、全体に占める割合、つまり、「濃度」を意味する用語でもある。
[文献C]岩波国語辞典第5版、岩波書店、「ひりつ【比率】」の項目
・「数量を、全体のまたは他の数量と比べた時の割合。」と記載。

[文献D]広辞苑第五版、岩波書店、「ひりつ【比率】」の項目
・「また、全体の中でその物事が占める割合。」と記載。

よって、「「比率」と「濃度」が全く異なる用語であることは明らか」とはいえず、上記主張(A)は採用できない。

・主張(B)に対して
ゲル濾過に用いる溶離緩衝液として、精製物の安定性を考慮して、適切な濃度・イオン強度・pHに設定したものを用いることは、技術常識であり、また、この点については、被請求人は否定していないことは、既に述べたとおりである。
よって、現実的・技術的な観点からみれば、「溶離緩衝液および希釈に用いた溶液の組成は、理論上はもとより、事実上も無限に存在」することはなく、上記主張(B)も採用できない。
加えて、文献Aの第183頁の図11・10並びに文献Bの第172頁の図3・42で示されるゲル濾過のクロマトグラムからも明らかなように、分画・溶出液毎に精製物濃度は異なり、さらに、精製条件によっても精製物濃度は異なるものである。
そうすると、既に「緩衝剤」及び「界面活性剤」について最終濃度となっている溶離緩衝液を使用する場合には、該溶離緩衝液中の精製物である「hGH」についても所望の濃度とするために、溶離緩衝液中の「hGH」濃度を測定して、希釈倍率を算出し、これに対応した量の希釈液(溶離緩衝液)を加えるという1段階の操作で、「hGH」、「緩衝剤」及び「界面活性剤」について、全て所望の濃度の溶液を得ることができる。
しかし、仮に、最終(至適)濃度になっていない溶離緩衝液を用いた場合、極めて煩雑な操作(例えば、「緩衝剤」及び「界面活性剤」について所望の濃度にするために、水で希釈した上で、「hGH」の濃度を測定し、希釈倍率を算出し、さらに、希釈に用いる溶液を用意するために、最終割合のみが一致する溶離緩衝液を「緩衝剤」及び「界面活性剤」が最終濃度になるように、調整し、その調整した希釈液を用いて、所望の「hGH」濃度になるように希釈する。)が要求されることになる。
しかも、場合によっては、1段階目の希釈の段階で「hGH」濃度が所望の目標値を下回ることもあり得、その際には、さらに煩雑な操作が要求されることになる。
このような極めて不利な操作を敢えて行うことが技術常識であるとも認められないし、その必要性も見い出せないからことからも、「溶離緩衝液および希釈に用いた溶液の組成は、理論上はもとより、事実上も無限に存在」することはなく、上記主張(B)は採用できない。

・主張(C)に対して
文献Bには、「精製タンパク質は…つぎのような条件で冷暗所に保存する.溶液で4℃に長期間保存する場合は…除菌濾過するか,適当な防腐剤…を添加する.」(第427頁第13-15行)と記載されているように、防腐剤(保存剤)を精製物の保存直前に添加することは、技術常識である。
そして、文献7に記載の工程(サンプルを希釈後、保存剤を添加し、滅菌後、密封。(上記「(b)(7A-6)」参照。)は、この保存に関する技術常識に沿うものと理解できる。
よって、文献7における、フェノールの添加のタイミングを根拠として、「フェノールの溶解性を困難にするほどの高濃度の溶液が溶離緩衝液として使用されていた」ことを導くことはできず、上記主張(C)も採用できない。

・主張(D)に対して
被請求人は、乙第18号証の記載を挙げて、「添加するフェノール溶液の濃度は、1%未満、すなわち、10mg/ml未満であることは明らか」であり、「添加されるフェノール溶液量は大量である」と主張し、上記判断は前提からして誤りであると主張している。
しかし、まず、被請求人が指摘する乙第18号証の記載箇所をみると、hGH(ヒト成長ホルモン)及びフェノールを含む水性混合物を凍結すると、凍結していない溶液中にhGH及びフェノールが濃縮してしまうこと、及び、「1?1.5%の濃度のフェノールの存在下の室温において、溶液中のhGHの凝集が誘導することができた」と記載されている。
そして、この記載をみれば、被請求人が、添加するフェノール溶液の濃度(10mg/ml未満)の根拠として挙げた「1?1.5%の濃度」とは、hGH溶液中のフェノール濃度であることが把握でき、それ故、hGH溶液に添加するためのフェノール溶液の濃度ではないと把握できる。
したがって、上記主張(D)は、その前提からして誤りである。
ここで、文献7の<B.製剤調整>(第4頁左上欄)をみれば、水性hGH製剤溶液1mlにつき、「フェノール2.5mg」を含むことは記載されているものの、フェノールの添加手段については特に明記されていない。
しかし、常温で固体である(下記文献E参照。)フェノールを、固体のままで加えれば、全体に占める増加分は僅かにすぎず(溶液1mlの重さを1g(1000mg)として換算しても、フェノールは全体の約0.25%(2.5mg÷1000mg)を占めるにすぎない。)、各成分濃度に対する影響は実質的にはないといえる。
また、フェノール水溶液(下記文献Eに記載されるように、フェノールの水への溶解度は、8.66%(25℃)であるから、86.6mg/mlのフェノール水溶液が利用できる。)として添加する場合でも、僅か0.029ml添加すればよく(2.5mg÷86.6mg/ml)、やはり、全体(1ml)に対する割合は微々たるものであり、各成分濃度に対する影響は実質的にはない。
[文献E]化学大辞典、(株)東京化学同人、第1版5刷1988年
「フェノール[phenol]」の項目
・「融点40.9℃.…25℃の水への溶解度は8.66%(65.3℃以上では任意に混ざり合う)で,弱酸性を示す.」と記載。

さらに、添加するフェノール水溶液が、86.6mg/mlの飽和フェール水溶液ではないとしても、被請求人が主張するような薄い濃度(10mg/ml)のものを敢えて調製して添加すべき合理的理由は見い出せず、やはり、各成分濃度に対する影響は実質的にはないものと認められる。
よって、この点からも、「添加されるフェノール溶液量は大量である」とはいえず、上記主張(D)は、採用できない。

・主張(E)に対して
文献7における、界面活性剤並びに緩衝剤の各含有量についての記載箇所をみれば(上記「(b)(7A-3)、(7A-4)」参照。)、界面活性剤並びに緩衝剤の各至適濃度が範囲をもって記載されているだけであり、各々設定される至適(最終)濃度の、数倍・数十倍の濃度まで許容することを記載するものではないことは明らかである。
(仮に、被請求人の解釈に従えば、例えば、緩衝剤の至適濃度を、その範囲(2?50mM)内の「25mM」とした場合、「250mM」(10倍濃縮)の条件に設定できることになる。
しかし、この値(250mM)は、上記濃度範囲(2?50mM)から外れてしまうから、このような解釈はできないことは明らかである。)
よって、文献7には、「最終濃度の少なくとも10倍濃度の溶離緩衝液が使用できることを記載している」とは認められず、上記主張(E)も採用できない。

(f)小括
よって、本件発明1は、文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず(無効理由7について。)、また、文献7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由4について。)。


・本件発明2、5、7?11について
(a)本件発明2、5、7?11
本件発明2、5、7?11は、それぞれ、次のとおりである。
「2.成長ホルモンがヒト成長ホルモンである、請求項1に記載の方法。
5.処方物が、物理的に安定である、請求項1または2に記載の方法。
7.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、2.5?50mMの濃度で含んでなる、請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
8.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、10?20mMの濃度で含んでなる、請求項7に記載の方法。
9.薬学上許容される緩衝剤がリン酸塩またはクエン酸塩である、請求項7または8に記載の方法。
10.処方物のpHが、5.2?6.5である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
11.処方物のpHが、5.4?5.8である、請求項1?9に記載の方法。」

(b)引用例とその主な記載事項
文献7とその主な記載事項は、上記「・本件発明1について(b)(7A-1)?(7A-7)」に記載したとおりである。

(c)対比・判断
文献7には、
・「ヒト成長ホルモン」を用いること(上記(7A-1):本件発明2に関して。)、
・物理的安定性に優れること(上記(7A-7):本件発明5に関して。)、
・緩衝剤として、クエン酸塩等を用い、その濃度の範囲を、約2mM?約50mMにすること(上記(7A-2)、(7A-4):本件発明7?9に関して。)、
・pHの範囲の範囲として、「さらに好ましくは約5.5?約7、最も有利には6.0である」こと(上記(7A-5):本件発明10、11に関して。)
も記載されている。
よって、本件発明2、5、7?11で特定する各事項は、相違点とはならない。
そして、上記「・本件発明1について(e)」で述べた理由と同様の理由により、本件発明2、5、7?11と文献7に記載された発明との間にも実質的な相違はないし、また、相違するとしても、文献7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(d)小括
よって、本件発明2、5、7?11も、文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず(無効理由7について。)、また、文献7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由4について。)。


・本件発明3について
(a)本件発明3
本件発明3は、次のとおりである。
「3.プルロニック(登録商標)ポリオールがプルロニック(登録商標)F-68である、請求項1または2に記載の方法。」

(b)引用例とその主な記載事項
文献7とその主な記載事項は、上記「・本件発明1について(b)(7A-1)?(7A-7)」に記載したとおりである。

文献1(甲第1A号証:特開昭62-70319号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1A-1)
「本発明は動物に投与される成長促進ホルモンを安定化する方法を提供する。驚いたことには、ある種のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体の水性溶液は成長促進ホルモンのための安定剤として有用である。」(第4頁右上欄第6?10行)

(1A-2)
「本発明に従って使用するブロック共重合体は次の構造式によって記述することができる:

式1によるブロック共重合体はBASF-Wyandotte Corporation of Wyandotte, Michiganより「PLURONIC」の商標で市販されている。

PLURONICブロック共重合体の例は、PluronicF-68…を含む。」(第4頁右上欄第12行?右下欄下から第5行)

(1A-3)
「ブロック共重合体は一般に総水性成長促進剤の重量の約0.05から約50%の量で成長ホルモン剤中に存在し、…」(第5頁左上欄下から第3行?最下行)

(c)対比
本件発明3と引用発明とを対比すると、本件発明3では、プルロニック(登録商標)ポリオールとして、「プルロニック(登録商標)F-68」を採用するのに対し、引用発明では、この型番のものを用いることについては特定していない点で、両者は相違する。

(d)判断
上記相違点について検討すると、文献1には、成長ホルモンの安定剤として用いるプルロニック(登録商標)ポリオールとして、「PluronicF-68」が使用できることが記載されている(上記「(b)(1A-1)、(1A-2)」)。
よって、引用発明において、プルロニック(登録商標)ポリオールを使用するにあたり、成長ホルモンの安定剤として挙げられている「PluronicF-68」を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
また、プルロニック(登録商標)ポリオールの中から「PluronicF-68」を選択したことによる効果について検討しても、本件明細書の記載からでは、有利な効果は見い出せない。

(e)小括
よって、本件発明3は、文献7及び文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由4・8について。)。


・本件発明4について
(a)本件発明4
本件発明4は、次のとおりである。
「4.処方物が、物理的に安定である、請求項3に記載方法。」

(b)引用例とその主な記載事項
文献7とその主な記載事項は、上記「・本件発明1について(b)(7A-1)?(7A-7)」に記載したとおりである。

文献1とその主な記載事項は、上記「・本件発明3について(b)(1A-1)?(1A-3)」に記載したとおりである。

(c)対比・判断
上記「・本件発明2、5、7?11について(b)」で述べたように、文献7には、物理的安定性に優れることが記載されているから、本件発明4で特定する事項は、相違点とはならない。
そして、本件発明4についても、上記「・本件発明3について(d)」で述べた理由と同様の理由により、文献7及び文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明4による効果について検討しても、本件明細書の記載からでは、有利な効果は見い出せない。

(d)小括
よって、本件発明4も、文献7及び文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由4・8について。)。


・本件発明6について
(a)本件発明6
本件発明6は、次のとおりである。
「6.処方物が、1種もしくは2種以上の安定剤として0.08%w/vのプルロニック・ポリオールを含んでなる、請求項1?5のいずれかに記載の方法。」

(b)引用例とその主な記載事項
文献7とその主な記載事項は、上記「・本件発明1について(b)(7A-1)?(7A-7)」に記載したとおりである。

文献1とその主な記載事項は、上記「・本件発明3について(b)(1A-1)?(1A-3)」に記載したとおりである。

(c)対比
本件発明6と引用発明とを対比すると、本件発明6では、プルロニック・ポリオールの配合量が「0.08%w/v」であるのに対し、引用発明には、この配合量にすることは特定していない点で、両者は相違する。

(d)判断
上記相違点について検討すると、文献1には、プルロニック・ポリオールの配合量を、約0.05%からの範囲に設定できることが記載されている(上記(1A-3))。
よって、引用発明において、文献1に記載されるプルロニック・ポリオールの上記配合量の範囲を考慮しつつ、配合量についてさらに検討して、本件発明6で特定する含有量(0.08%w/v)に設定することは、当業者が容易になし得ることである。
また、プルロニック・ポリオールの含有量を「0.08%w/v」に設定したことによる効果について検討しても、本件明細書の記載からでは、有利な効果は見い出せない。

(e)小括
よって、本件発明6も、文献7及び文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由4・8について。)。


・本件発明12について
(a)本件発明12
本件発明12は、次のとおりである。
「12.最終体積の調節直前に1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールを処方物に添加する、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。」

(b)引用例とその主な記載事項
文献7とその主な記載事項は、上記「・本件発明1について(b)(7A-1)?(7A-7)」に記載したとおりである。

文献11(甲第11A号証:特開昭60-38398号公報)には、以下の事項が記載されている。
(11A-1)
「本発明は、蛋白質の界面における吸着、変性および沈殿に対して防護された分子量8,500ダルトン以上の蛋白質の水溶液ならびにそのような溶液の調製法に関する。」(第2頁左下欄第8?11行)

(11A-2)
「本発明による界面活性物質は一般に分子量が8,500ダルトン以上であり、例えばポリペプチド、球状蛋白質および複合蛋白質特に糖蛋白質のように疎水性の界面に吸着され得るような溶解された蛋白質の安定化に適している。」(第4頁左下欄第6?10行)

(11A-3)
「本発明による界面活性物質は界面においてブロツク重合体の疎水性領域が界面との接触を形成し、また親水性のポリオキシエチレン領域が水相中に突出して、その結果溶解された蛋白質と界面との間の直接の交流を妨害するような配列を生ずるものと推定される。」(第4頁右上欄第7?12行)

(11A-4)
「実施例 3
0.01モル濃度の燐酸緩衝液中にヒト免疫グロブリン1%を含有する溶液が調製され、安定化のために平均分子量1,750のポリプロピレングリコールの直鎖よりなり、両側で40%のポリエチレングリコールと重合しブロツク重合体を0.22%(…)を含有する溶液が調製された。」(第5頁左下欄最下行?右下欄第7行)

(c)対比
本件発明12と引用発明とを対比すると、本件発明12では、プルロニック(登録商標)ポリオールを「最終体積の調節直前」に添加するのに対し、引用発明では、この段階で添加することについては特定していない点で、両者は相違する。

(d)判断
上記相違点について検討すると、引用発明は、製剤の安定性に関与するといえる「保存剤」を、製剤調製の最終段階で添加する工程を採用するものである(上記「・本件発明1について(c)」参照。)。
そして、文献11には、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体界面活性剤を配合する安定な蛋白質水溶液の調製に関して(上記「(b)(11A-1)?(11A-3)」)、この界面活性剤を、後工程で添加することが記載されている(上記「(b)(11A-4)」)。
よって、引用発明は、安定性に関与する機能剤を、最終段階で添加する工程を採用するものであることに加えて、文献11には、安定性に寄与する界面活性剤を後工程で添加することが記載されているから、引用発明において、安定性に寄与するプルロニック(登録商標)ポリオールを溶離緩衝剤に予め配合しておくことに代えて、最終体積の調節直前に添加することは、当業者が容易になし得ることである。
また、プルロニック(登録商標)ポリオールを最終段階で添加する効果について検討しても、本件明細書の記載からでは、有利な効果は見い出せない。

(e)小括
よって、本件発明12は、文献7及び文献11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由4・8について。)。

なお、請求人は、無効理由4に関して、文献7、1、11以外の文献に基づく理由も種々主張しているが(上記「4.(1)[無効理由4]・請求項1に係る発明に対して(a)?(f)」参照。)、これらの理由については検討するまでもなく、上記したように、本件発明1?12は、無効理由4を理由の一つとして、無効とすべきものである。

8.むすび
以上のとおりであるから、
(1)
・請求項1、2、5、7?11に係る発明についての特許は、文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり(無効理由7)、
・請求項1、2、5、7?11に係る発明についての特許は、文献7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定の規定に違反してなされたものであり(無効理由4)、
・請求項3、4、6に係る発明についての特許は、文献7及び文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定の規定に違反してなされたものであり(無効理由4・8)、
・請求項12に係る発明についての特許は、文献7及び文献11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定の規定に違反してなされたものであり(無効理由4・8)、
特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)
特許法第123条第1項第5号(無効理由1)、同法第36条第6項第1号(無効理由2)、同法第36条第4項(無効理由3)、同法第36条第6項第2号(無効理由5)、同法第29条第1項第3号(無効理由6)についての請求人の主張によっては、請求項1?12に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

(3)
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
安定化された成長ホルモン処方物およびその製造方法
【発明の詳細な説明】
発明の分野
本発明は、安定化された成長ホルモン(GH)処方物(formulation)、特に安定化賦形剤の混入により安定化されたヒト成長ホルモン(hGH)液状処方物、に関する。
hGHのこれらの液状処方物は、改良された化学的および物理的安定性を有する。特に、本発明は、これらの安定化されたGH処方物の製造方法に関する。
発明の背景
ヒトおよび動物の成長ホルモンは、下垂体前葉において見出される約191個のアミノ酸を含有するタンパク質である。GHの主要な生物学的作用は、若いヒトおよび動物において体発達を促進しかつ老年の動物において組織を維持することである。GHにより影響を受ける器官は、骨格、筋肉、結合組織および内蔵を包含する。GHは標的細胞の膜上の特定のレセプターと相互作用することによって作用する。
ヒト成長ホルモン(hGH)は、正常のヒト体細胞増殖の調節に関係する主要なホルモンであり、また、なかでも線状骨成長、泌乳および細胞のエネルギー使用を包含する、種々の生理学的・代謝的機能に影響を与える。幼い子供におけるhGHの欠乏は身長不足を招く。この症状はhGHの外因的投与により治療されてきている。
従来、様々な種の成長ホルモンの分子的機能が注目されている。商業的関心は、医学的および獣医学的双方の分野から強く、そしてhGH遺伝子はクローニングされている。現在、hGHおよびその誘導体、メチオニル-hGH(met-hGH)の双方は、哺乳動物および細菌の細胞培養系において生合成生産されている。
hGHが、治療用医薬製剤として商業的に入手可能であるためには、安定な処方物を製造しなくてはならない。このような処方物は、適当な貯蔵時間の間活性を維持することができなくてはならず、容易に処方されなくてはならず、そして投与のために患者に許容されなくてはならない。
ヒトGHは、種々の方法で処方されている。1例として、米国特許第5,096,885号明細書には、hGHに加えて、グリセロール、マンニトール、緩衝剤および必要に応じて非イオン界面活性剤、を含んでなるhGHの薬学上許容される処方物が、開示されており、hGH:グリシンのモル比は1:50?200である。国際特許公開第WO93/19776号公報には、緩衝物質としてクエン酸塩と、必要に応じて成長因子(例えば、インスリン様成長因子または表皮成長因子)、アミノ酸(例えば、グリシンまたはアラニン)、マンニトールまたは他の糖アルコール、グリセロールならびに/または保存剤(例えば、ベンジルアルコール)、を含んでなるGHの注射可能な処方物、が開示されている。国際特許公開第WO94/01398号公報には、hGH、緩衝剤、非イオン界面活性剤ならびに、必要に応じて、マンニトール、中性塩および/または保存剤、を含んでなるGH処方物、が開示されている。
欧州特許公開第0131864号(および対応するオーストリア国特許第579016号明細書)公報には、8500ダルトンより大きい分子量をもつタンパク質の水溶液が開示されており、これは安定剤として線状ポリオキシアルキレン鎖含有表面活性物質の添加によって、タンパク質の、界面における吸着、変性および沈澱から保護されている。
欧州特許公開第0211601号公報には、成長促進ホルモンと、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン単位を含有しかつ約1,100?約40,000の平均分子量を有するブロックコポリマーとの水性混合物を含んでなる成長促進処方物が開示されており、前記ブロックコポリマーは投与の際の成長促進ホルモンの流動性およびその生物学的活性を維持するものである。引き続いて、欧州特許公開第0303746号公報には、ある種のポリオール、アミノ酸、生理学的pHにおいて帯電した側基を有するアミノ酸のポリマーおよびコリン塩を包含する、水性環境における種々の他の成長促進ホルモン安定剤が開示されている。
hGHの医薬製剤は、特に溶液中で、不安定な傾向がある。化学的に分解した種、例えば、hGHの脱アミド化またはスルホキシル化された形態が生じ、そして二量体またはより高分子量の凝集した種が物理的不安定性から生ずることがある(Becker et al.(1988)Biotechnol.Applied Biochem.10、326;PearlmanおよびNguyen(1989)、In D.MarshakおよびD.Liu(編)、Therapeutic Peptides and Poteins、Formulations、Delivery and Targetting、Current Communications in Molecular Biology、Cold-Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New York、pp.23-30;Becker et al.(1987)Biotechnol.Applied Biochem.9、478)。
溶液中のhGHの不安定性の結果として、hGHの医薬処方物は凍結乾燥された形態で提供される傾向があり、この形態は次いで使用前に再構成しなくてはならない。凍結乾燥は、溶液中の安定性が適切でない範囲の貯蔵条件下で、ポリペプチドの生物学的活性および生化学的完全性を維持するためにしばしば使用されるが、凍結乾燥は費用がかかり、時間を消費する生産工程であるので、凍結乾燥を回避することは有利である。凍結乾燥されたhGH処方物は、使用前に、通常薬学上許容される希釈剤、例えば、無菌の注射用水、無菌の生理食塩水または適当な無菌の薬理学上許容される希釈剤、の添加により、再構成される。再構成されたhGHの溶液は好ましくは4℃で貯蔵され、化学的および物理的分解反応を最小にするが、14日までの期間であり得る、このような貯蔵の間に多少の分解は起こるであろう。
液体形態で、特に長期間にわたってhGHの安定性を維持する形態で、提供されるhGHの医薬処方物は、特に有利であろう。前述したように、現在の液状処方物は、加工および貯蔵の間に起こる化学的・物理的分解反応の生成物により、貯蔵時間が制限される。二量体形成に関連する問題は、Becker et al.、(1987)、上掲のもの、において報告され、そしてhGHの二量体の形成を回避する以前の試みは成功しなかった。
本発明の目的は、望ましくない凝集した種を形成しないか、あるいは生物学的活性を減少させ、またはレセプターの認識を変更させる化学的変化を引き起こさない、安定なhGH液状処方物を提供することである。他の目的は、皮下注射用ニードルレス(needleless)インジェクターを介して送出するか、あるいは肺に使用するためにエーロゾル化することができる処方物、を提供することである。
発明の要約
本発明によれば、成長ホルモンと、緩衝剤と、安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールと、を含んでなる、安定な成長ホルモン液状処方物を製造する方法、が提供される。
この方法は、処方物中の緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤または1種もしくは2種以上の安定剤に成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを緩衝剤および1種もしくは2種以上の安定剤と混合することからなる。
また、本発明は、上記において広く記載した方法により製造された、成長ホルモンの安定な液状処方物にも拡張される。
さらに別の態様では、本発明は、また、成長ホルモンと、緩衝剤と、安定化有効量の、タウロコール酸またはその塩または誘導体、およびメチルセルロース誘導体、から選択される少なくとも1種の安定剤と、を含んでなる安定な成長ホルモン液状処方物、に拡張される。
この明細書を通じて、特記しない限り、用語「含んでなる」は、言及されている完全体(integer)または完全体の群を包含するが、他の完全体または完全体の群を排除しないことを意味すると理解すべきである。
特に好ましい態様において、本発明は、下記成分(a)?(c)を含んでなる安定化された、薬学上許容されるヒト成長ホルモン液状処方物を製造する方法、を提供する。
(a)薬学上有効量のhGH、
(b)0.01?5.0%w/vの上記において広く定義された群から選択される少なくとも1種の安定剤、および
(c)薬学上許容される緩衝剤。
好ましくは、この処方物は、0.05?2.0%w/v、より好ましくは0.08?1.0%w/v、の1種または2種以上の安定剤を含んでなる。
特に好ましい安定剤は、プルロニック(Puluronic)ポリオール、タウロコール酸およびその塩、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、である。
安定化された成長ホルモン液状処方物は、好ましくは、また、薬学上許容される緩衝剤、例えば、リン酸塩またはクエン酸塩緩衝剤、を2.5?50mM、最も好ましくは10?20mM、の濃度で含有する。
処方物のpHは、好ましくは5.0?7.5、より好ましくは5.0?6.8、さらに好ましくは5.2?6.5、最も好ましくは5.4?5.8、である。
安定化された成長ホルモン液状処方物の製造においては、処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを緩衝剤と混合し、次いでこの混合物に1種または2種以上の安定剤を同じ条件下で添加する。
安定化された成長ホルモン液状処方物の特に好ましい製造方法においては、成長ホルモンの暴露は、各成分の最終濃度の2倍以下のリン酸塩またはクエン酸塩緩衝剤およびプルロニック・ポリオールの濃度に制限される。
本発明は、また、成長ホルモンを必要とするヒトまたは動物の患者に薬学上有効量の上記で広く記載した安定化された成長ホルモン液状処方物を投与することからなる、前記患者を治療する方法、に拡張される。
GHの液状処方物は、ボーラスインジェクション、エーロゾル装置またはニードルレス・インジェクター・ガンの使用によるか、あるいは連続的IV注入により、投与することができる。
本発明の文脈においては、「成長ホルモン」に対する言及は、なかでもヒト、ウシ、ブタ、ヒツジおよびサケを包含するGHのすべての種、特にhGH、ならびにGHの生物学的に活性な誘導体、を包含することを意図する。GHの誘導体は、アミノ酸配列の変異型、例えば、少数のアミノ酸の欠失または他のアミノ酸残基によるアミノ酸の置換、を有するヒトまたは動物のGHを包含すること、を意図する。また、このGHの誘導率には、GHのトランケート型およびその誘導体、ならびにタンパク質のアミノ-またはカルボキシル-末端へのアミノ酸付加を有するGH、例えば、メチオニル-hGH、も包含される。hGH修飾の他の型は、反応性hGHアミノ酸へのポリエチレングリコールの共有結合の付加により形成された型である(Davis et al.、米国特許第4,179,337号)。
発明の詳しい説明
本発明により提供されるGHおよび安定剤の液状処方物の製造方法は、凍結点より低いおよび凍結点より高い温度での長期貯蔵および治療用投与に適当な、安定な液状GH処方物を生ずる。これらの安定剤を含有する治療処方物は安定であるが、処方物の治療用投与をなお可能とする。
本発明の好ましい態様によれば、GHはhGHである。
(1)ヒト成長ホルモン組成物
用語「ヒト成長ホルモン」または「hGH」は、例えば、天然源からのhGHの抽出および精製によるか、あるいは組換え細胞培養系により、産生されたヒト成長ホルモンを意味する。hGHの配列およびその特性は、例えば、Hormone Drugs、Gueriguigan et al.、USP Convention、Rockvill、MD(1982)に記載されている。前述したように、この用語は、また、hGHの全配列中の1または2以上のアミノ酸が異なる、生物学的に活性なヒト成長ホルモンの同等物を包含し、特にmet-hGHを包含する。また、この用語は、hGHの置換、欠失および挿入のアミノ酸変異型または翻訳後修飾を包含することを意図する。本発明の処方物において使用されるhGHは、一般に、前述したように組換え手段により生産される。
GH、特にhGH、の「薬学上有効量」は、種々の投与養生法において治療効果を提供する量を意味する。本発明の組成物は、少なくとも約0.1mg/ml?約20mg/mlまたはそれ以上、好ましくは約1mg/ml?約10mg/ml、より特に約1mg/ml?約5mg/ml、の量のGHを含有する製造することができる。
(2)緩衝剤およびpH
緩衝剤は、薬学上許容される緩衝剤、例えば、リン酸塩、tris-HCl、クエン酸塩等であることができる。好ましい緩衝剤は、リン酸塩またはクエン酸塩である。2mMより高いか、あるいはそれに等しくかつ50mMより低い緩衝剤濃度が好ましく、最も有利であるのは10?20mMである。本発明の処方物に適当な、緩衝剤で調節したpH範囲は、約5?約7.5、最も有利であるのは約5.6である。処方物のpHは、GHの脱アミド化を減少させるために7.5より低くすべきである。
(3)安定剤
本発明によれば、処方物はGHの安定性を増大させるために1種または2種以上の安定剤を含有する。安定剤は、プルロニック・ポリオール(例えば、プルロニックF127、F68、L64、PE6800およびPE6400)、胆汁酸塩(例えば、タウロコール酸塩またはその誘導体)、あるいはメチルセルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))、であることができる。処方物は、単一の安定剤または2種またはそれ以上の組合わせを含有することができる。
1種または2種以上の安定剤の濃度は、緩衝剤およびpHの選択により決定されるが、有利であるのは重量/体積基準で0.01%?5.0%、より好ましくは0.05?2.0%、なおより好ましくは0.08?1.0%、の範囲である。凍結点より低いかつ凍結点より高い温度を包含する温度範囲にわたって長期貯蔵に付したとき、あるいは処方物を界面応力にさらしたとき、安定剤の使用は処方物の安定性を改良する。
1種または2種以上の安定剤は、濃度が増加したときの界面応力に対する処方物の安定性を改良する。しかしながら、1種または2種以上の安定剤の濃度の増加は、化学的安定性を低下させる。本発明によれば、付随的な化学的不安定性を最小にして、界面応力に対する安定性を高くするように、1種または2種以上の安定剤の濃度が最適化される。
(4)安定剤およびhGHの、好ましい処方物
本発明による処方物の製造においては、1種または2種以上の安定剤がhGHの液状処方物に添加される。前述したように、配合の過程で、緩衝剤の最終濃度の2倍以下の緩衝剤濃度に成長ホルモンをさらし、そして好ましくは最終体積の調節直前に処方物に1種または2種以上の安定剤を添加する。生ずる処方物は、変性に対する安定性が強化され、そして加工および貯蔵の間に直面することがある望ましくない反応に影響され難い。本明細書において使用するとき、加工という用語は、濾過、バイアルの中へのhGH溶液の充填、および処方物の製造に関係する他の操作、を包含する。
治療用投与のためのhGHの液状処方物は、所望の純度を有するhGHおよび安定剤を、薬学上許容される賦形剤、緩衝剤または保存剤と組合わせることによって製造することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences、16版、Osol、A.編(1980))。許容される賦形剤は、用いる濃度および投与量において患者に対して無毒であるものであり、そして緩衝剤、保存剤、酸化防止剤、pHおよび張度変更剤(tonicity modifiers)、を包含する。
成長ホルモンの液状処方物は、また、必要に応じて1種または2種以上の他の安定化賦形剤を含むことができる。追加の安定化賦形剤は、例えば、アミノ酸(例えば、グリシンまたはアラニン)、マンニトールまたは他の糖アルコール、またはグリセロール、を含むことができる。さらに、液状処方物は、他の成長因子、例えば、インスリン様成長因子または表皮成長因子、を含むことができる。
本発明の好ましい態様によれば、hGHを効果的に安定化させる手段が提供される。好ましい処方物は、プルロニック・ポリオール、タウロコール酸もしくはその塩または誘導体、およびメチルセルロース誘導体、から選択される1種または2種以上の安定剤、を含有する。処方物は、好ましくは、ヒトにおいて見出される汚染性ペプチドまたはタンパク質または感染因子を含まない、実質的に純粋なhGH、を含有する。この好ましい態様の処方物は、薬学上許容される添加剤をさらに含むことができる。これらは、例えば、緩衝剤、等張およびpH変更剤、キレート化剤、保存剤、酸化防止剤、補助溶媒等、を包含し、これらの特定の例は、クエン酸塩、リン酸塩等、を包含することができる。処方物の予測される使用が無菌性を危うくすることがある場合、保存剤を添加することができる。このような場合において、薬学上許容される保存剤、例えば、ベンジルアルコールまたはフェノール、を使用することができる。
本発明に従い製造された処方物により提供されるhGHの安定性が増加するので、安定剤の非存在において普通に使用される濃度よりも高い濃度であることができるhGH処方物のより広い使用が可能となる。例えば、安定化されたhGH液状処方物は、また、hGH処方物のエーロゾル化またはニードルレス注入の間に起こるhGHの表面誘導変性の発生率を減少させる。さらにhGH処方物の最適な計量分配を行うことができ、ここで本発明のhGH処方物を1?50mg/バイアル、好ましくは2?25mg/バイアル、より好ましくは3?10mg/バイアルにおいてバイアルの中に計量分配することができる。hGH処方物の安定性の増加は、適当な温度、例えば、凍結点より低い温度(最も好ましくは-20℃)あるいは凍結点より高い温度、好ましくは2?8℃、最も好ましくは4℃、における長期間の貯蔵を可能とする。
in vivo投与に使用すべきhGH処方物は、無菌でなくてはならない。これは滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成される。
一般に、治療用hGH液状処方物は、無菌のアクセス口を有する容器、例えば、皮下注射針により孔空けすることができる栓を有する静脈内溶液のバッグまたはバイアル、の中に入れる。
本発明に従うhGH液状処方物の投与の経路は、既知の実施、例えば、静脈内、腹腔内、頭蓋内、筋肉内、眼内、動脈内、または病巣内経路による注射または注入、あるいは連続的IV注入、に従う。
本発明の他の特徴は、下記の諸例および添付図面から明らかとなるであろう。
図面の簡単な説明
第1図は、5mMのリン酸塩緩衝液、pH6.0?7.5中のhGH(15mg/ml)の化学的安定性を示す。
第2図は、界面応力(渦撹拌)により誘発されたhGH(10mMの酢酸塩緩衝液、pH4.1?4.5、または5mMのリン酸塩緩衝液、pH6.0?7.5中に2mg/ml)の凝集の溶液pHに対する依存性を示す。
第3図は、界面応力(渦撹拌)により誘発された凝集したhGHの沈澱を減少させる種々の安定剤の能力をグラフで表す。
第4図は、賦形剤へのhGHの導入方法のみが異なる2つのhGH(5mg/ml)処方物、および0.005%w/vのEDTAを添加した第3のhGH処方物の安定性を示す。

例1 安定剤をスクリーニングする方法
急速凝集法を使用して、界面応力に応答するGH、特にhGH、の凝集を減少または防止させる安定剤の能力を評価し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析した。2つのTSK G3000SWカラム(7.8mmの内径×300mm、東洋ソーダ、日本国)を直列にを使用して、hGHのクロマトグラフィーを実施した。移動相は、0.1Mのリン酸塩、pH7.0の緩衝剤から成り、0.9ml/分の流速でポンプした。20μlの試料体積を使用して214nmにおける紫外線吸収により、hGHの溶離を検出した。
急速凝集法は、キャップ付ポリプロピレン管(11mmの内径×74mm)中で15?60秒の一定速度においてhGH溶液を渦撹拌することによって、高い空気/水の界面を導入することを伴った。試料を室温において30分間平衡化して沈澱を進行させ、0.2μmの酢酸セルロースのマイクロ遠心分離フィルターを通して濾過し、濾液をSECにより分析した。処理を受けなかった各試料の対照溶液をSEC分析に含めた。
合計の可溶性hGHの残留量(モノマーおよび高分子量の種のピーク面積)を、適当な未処理対照溶液の合計のピーク面積(hGHのための)の百分率として表した。
表1は、pH7.0における界面応力により誘発されたhGHの凝集度への種々の安定剤の効果を示す。
表2は、pH6.0における界面応力により誘発されたhGHの凝集度への種々の安定剤の効果を示す。
表3は、pH5.6における界面応力により誘発されたhGHの凝集度への種々の安定剤の効果を示す。
表4は、pH5.6における種々の緩衝剤中のhGH(1.5mg/ml)の凝集度への等張の調節の効果を示す。
表5は、pH5.6における凍結-融解により誘発されたhGHの凝集度への種々の安定剤の効果を示す。
添付する表に示すように、界面応力により誘発されたhGHの凝集を減少または防止させるとき、多数の賦形剤は非常に有効であった。プルロニック・ポリオールは、0.05%w/vより高い濃度においてほぼ定量的保護を提供し、モノマーのhGHのみが残留した。タウロコレートは、0.02%w/vより高い濃度においてほぼ定量的保護を提供し、モノマーのhGHのみが残留した。タウロデオキシコレートは、界面応力の非存在下でhGHの二量化を引き起こしたので、pH5.6において安定剤として不適当であった。




塩化ナトリウムを添加するか、あるいは添加しない(等張とするために)クエン酸塩またはリン酸塩(5または20mM)緩衝剤中のhGH(1.5mg/ml、pH5.6)の凝集特性を研究した。凝集がリン酸塩濃度に依存することが報告されたからである(PealmanおよびNguyen、1992、J.Pharm.Pharmacol.44:178-185)。
治療時間を変更して(15秒)、前述の実験方法に従った。

hGHの凝集は、緩衝剤の特質または緩衝剤の濃度に依存することは見出されなかった。hGHの凝集はイオン強度に反比例した(NaClで調節するとき)。
賦形剤の存在におけるhGH(20mMの等張クエン酸塩緩衝液、pH5.6、中の1.5mg/ml)の凍結-融解により誘発される凝集を研究した。種々の賦形剤の存在におけるhGH(100μl)の試料を-20℃において24時間凍結し、次いで室温において融解し、30分間平衡化して沈澱を進行させた。濾過した試料を前述したようにSECにより分析した。

凍結-融解後のhGHの凝集は広範ではないが、賦形剤の添加により増加しなかった。
例2
第1図は、5mMのリン酸塩緩衝液、pH6.0?7.5(40℃において貯蔵した)中のhGH(1.5mg/ml)の化学的安定性の代表的なグラフである。United States Pharmacopoeia(USP1990)に記載されている方法に従い、Vydac C-4カラムを使用して逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)により、分解した試料を分析した。U.S.Pharmacopoeial Previews、Nov-Dec.、1990、に記載されている方法に従い、分解した生成物は、デスアミド-hGHまたは酸化されたhGHとして同定された。分解した試料の中に存在する自然hGH(パネルA)、デスアミド-hGH(パネルB)および酸化されたhGH(パネルC)は、pH6.0(○)、pH6.5(●)、pH7.0(▽)およびpH7.5(▼)についての合計のピーク面積(hGHのための)に関するピーク面積(自然hGHまたは分解した種)の百分率として表した。
自然hGHの損失は、pH範囲6.0?7.5において一次速度則に従い、そして8?40℃の温度範囲においてアレニウス挙動に従うことが見出された。40℃における一次速度定数は、pH6.0における2.4×10^(-2)(日^(-1))?pH7.5における7.4×10^(-2)(日^(-1))の範囲であることが見出された。脱アミド化および酸化は発表された報告(PearlmanおよびNguyen、1989、上掲のもの)と一致するhGHの分解の主要なルートであった。デスアミド-hGHは酸化されたhGHよりも速い速度で形成した。化学的安定性は、6.0またはそれより低いpH値において増強された。
第2図は、例1に記載されている方法を使用して界面応力により誘発された、10mMの酢酸塩緩衝液(pH4.1?4.5)または5mMのリン酸塩緩衝液(pH6.6?7.5)中のhGH(2mg/ml)の凝集および沈澱を示す。残留する、モノマーのhGH(モノマーのためのピーク面積)または合計の可溶性hGH(モノマー+高次の凝集した種のためのピーク面積)の量を、適当な未処理の対照溶液のピーク面積に関する百分率として表した。データは、30秒間(○)または60秒間(●)の渦撹拌後に残留する可溶性モノマーのhGH(パネルA)または合計の可溶性hGH(パネルB)の量を表す。
hGHの凝集および引き続く沈澱はpH5?6の領域において最大であった。pH範囲4.1?6.0で界面応力を加えた後においては、モノマーのhGHのみが溶液中に残留する。可溶性の凝集した種(二量体および高次の凝集物)は、主としてpH範囲7.0?7.5において存在した。
第3図は、第2図に記載されているような60秒間の一定速度の渦撹拌による界面応力によって誘発された、hGH(5mMのリン酸塩緩衝液、pH5.6、中の1.5mg/ml)の凝集に対する賦形剤(%w/v)の効果を示す。データは、プルロニックF-68(○)、プルロニックF-127(●)、タウロコール酸ナトリウム(▽)またはHPMC(▼)の存在における適当な対照溶液中の、SEC分析によるhGHのピーク面積に関する百分率として表した、処理後に残留する、合計の可溶性hGH(モノマー+高次の凝集した種)の百分率を表す。
賦形剤の非存在においては、1%より少ないhGHが溶液中に残留した。プルロニック・ポリオール、タウロコレートまたはHPMCの添加は、残留する可溶性hGHを実質的に増加させた。特に、プルロニックF-68およびF-127およびタウロコレートは、hGHを凝集に対してほぼ定量的に保護した。
例3
第4図は、hGH処方物の安定性に対する処方方法の効果を示す。精製されたhGH溶液を7?7.5mg/mlに濃縮し、それ以上調節することなくpH5.6の液状処方物を生産するpHに調節したすべての賦形剤を含有する溶液の2倍濃縮物を添加し、最後に水で5mg/mlの最終hGH濃度に調節することによって、処方物1を調製した。
処方物2を緩衝剤交換により調製し、そして要求される濃度ですべての賦形剤(プルロニックF-68を除外する)を含有する緩衝液に交換することによって、精製されたhGH溶液を所望の濃度に濃縮した。次いで、十分な固体状プルロニックF-68を添加して、要求される濃度にした。次に、pHを調べ、必要に応じて調節した。
処方物1および2は下記のような同一規格を有する。
hGH(成長ホルモン) 5mg
クエン酸一水和物 2.04mg/ml
クエン酸三ナトリウム二水和物 2.85mg/ml
塩化ナトリウム 6.23mg/ml
水酸化ナトリウム 0.388mg/ml
ベンジルアルコール 0.9%
プルロニックF-68 0.08%
pH 5.6
処方物3は、0.005%w/vのEDTAを添加して、処方物1および2と同一規格で処方物2のように調製した。
処方物1?3を40℃において貯蔵し、40日にわたってサイズ排除HPLCによりhGH含量について試験した。第4図に示すように、処方物2および3は、40℃において加速されたこの安定性試験において、特に処方物1と比較して、よりすぐれた安定性を示した。
(57)【特許請求の範囲】
1.成長ホルモンと、緩衝剤と、安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって、
処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に、成長ホルモンがさらされないような条件下、かつ、処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに、成長ホルモンがさらされないような条件下で、成長ホルモンを、緩衝剤および1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり、
ここで、処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08?1.0%w/vであり、
処方物のpHが5.0?6.8である、方法。
2.成長ホルモンがヒト成長ホルモンである、請求項1に記載の方法。
3.前記プルロニック(登録商標)ポリオールがプルロニック(登録商標)F-68である、請求項1または2に記載の方法。
4.処方物が、物理的に安定である、請求項3に記載の方法。
5.処方物が、物理的に安定である、請求項1または2に記載の方法。
6.処方物が、1種もしくは2種以上の安定剤として0.08%w/vのプルロニック・ポリオールを含んでなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
7.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、2.5?50mMの濃度で含んでなる、請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
8.処方物が、薬学上許容される緩衝剤を、10?20mMの濃度で含んでなる、請求項7に記載の方法。
9.薬学上許容される緩衝剤がリン酸塩またはクエン酸塩である、請求項7または8に記載の方法。
10.処方物のpHが、5.2?6.5である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
11.処方物のpHが、5.4?5.8である、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
12.最終体積の調節直前に1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールを処方物に添加する、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-07-26 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-20 
出願番号 特願平9-528821
審決分類 P 1 113・ 562- ZA (A61K)
P 1 113・ 113- ZA (A61K)
P 1 113・ 121- ZA (A61K)
P 1 113・ 536- ZA (A61K)
P 1 113・ 537- ZA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 前田 佳与子
平井 裕彰
登録日 2009-02-06 
登録番号 特許第4255515号(P4255515)
発明の名称 安定化された成長ホルモン処方物およびその製造方法  
代理人 山本 秀策  
代理人 長谷部 真久  
代理人 園田 吉隆  
代理人 駒谷 剛志  
代理人 山本 秀策  
代理人 ▲駒▼谷 剛志  
代理人 長谷部 真久  
代理人 ▲駒▼谷 剛志  
代理人 小林 義教  
代理人 長谷部 真久  
代理人 山本 秀策  

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