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審決分類 審判 全部無効 特126 条1 項  A63B
審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  A63B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A63B
審判 全部無効 産業上利用性  A63B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A63B
審判 全部無効 2項進歩性  A63B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
管理番号 1287724
審判番号 無効2011-800252  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-07 
確定日 2014-02-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2670421号発明「筋力トレーニング方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯
本件の手続の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成 5年11月22日 本件特許の出願(特願平5-313949号)
平成 9年 7月 4日 本件特許の登録(特許第2670421号)
平成23年12月 7日 本件審判請求、甲第1号証ないし甲第12号証
提出
平成24年 2月23日 審判事件答弁書、乙第1号証及び乙第2号証提

同年 4月 2日 無効理由通知
同年 4月20日 意見書(請求人)、甲第13号証提出
同年 5月 7日 訂正請求、意見書(被請求人)、陳述書提出
同年 6月20日 弁駁書
同年 7月 6日 審理事項通知
同年 7月27日 第1回 口頭審理陳述要領書(請求人)
甲第14ないし20号証提出
同年 8月23日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
乙第3号証提出
同年 8月24日 第2回 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 9月 6日 証拠書類提出書(請求人)、甲第21号証及び
甲第22号証提出
同年 9月 6日 口頭審理
同年 9月13日 手続補正書、訂正請求についての通常実施権
の承諾書提出
同年 9月13日 上申書、乙第4号証提出

第2 審判請求の概要・被請求人の答弁等
1 請求人の主張の概要
請求人橋本好弘は、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、概略、以下の主張をした。(平成24年9月6日の口頭審理において、その口頭審理調書に記載の通り、請求人は、新規性進歩性及び公序良俗に関する主張を撤回し、被請求人も撤回を承諾した。)

本件特許は、平成24年5月7日付け訂正請求後であっても、下記理由ア、イに違反してなされたものであるから、無効にされるべきである。
ア 請求項1ないし3に係る発明は、反復性を有する技術ではなく、発明に該当しない。また、発明に該当するとしても、産業上利用することができる発明には該当しない。よって、特許法第29条第1項柱書の規定に違反する。
イ 請求項1ないし3に係る発明は、不明であり、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項の規定に違反する。

2 請求人提示の証拠方法
請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。(平成24年9月6日の口頭審理において、その口頭審理調書に記載の通り、請求人は、甲第1号証ないし甲第9号証を撤回し、被請求人も撤回を承諾した。)
甲第10号証:平成22(ヨ)第22071号仮処分申立事件に関する書面
甲第11号証:平成22(ヨ)第22071号仮処分申立事件用に作成した債務者側準備書面(1)
甲第12号証:被請求人が発行する刊行物の一部抜粋(加圧トレーニングの知的財産権に関する事項)
甲第13号証:再公表特許2000/10649号
甲第14号証:仮処分申立の対象となった人体用加圧ベルト(「イ号」)を撮影したもの
甲第15号証:請求人が「イ号」を製作するに至った「陳述書」
甲第16号証:仮処分申立の対象となった書籍(ソフト加圧ダイエット、橋本よしひろ著、幻冬舎)
甲第17号証:臨床スポーツ医学、第21巻3号の、特集/「加圧筋力トレーニングのリハビリテーションへの応用」の記事
甲第18号証:「加圧トレーニングを始めました」と題するチラシ
甲第19号証:加圧国際大学のHP
甲第20号証:日本加圧トレーニング学会の役員の一覧
甲第21号証:2009年5月9日付 朝日新聞記事
甲第22号証:2009年7月23日付 夕刊読売新聞記事

3 被請求人の主張の概要
被請求人株式会社ベストライフは、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、概略、以下の主張をした。
ア 請求人の主張する請求の理由は、いずれも理由がない。
イ 平成24年5月7日付け訂正請求による訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、医師等により患者に対して使用される医療行為(機能回復訓練、いわゆるリハビリを含む)方法を含まない。また、医師等による医療行為に対して、本件特許に基づき、侵害警告、提訴、ライセンス契約締結の求めをしたこともない。

4 被請求人提示の証拠方法
被請求人が本件審判事件にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第1号証:佐藤義昭ほか編『加圧トレーニングの理論と実践』12頁,39頁及び40頁(講談社,平成19年)
乙第2号証:新村出編『広辞苑』1758頁(岩波書店,第5版,平成10年)
乙第3号証:東京大学寄付講座等要領(平成20年3月25日改正)
乙第4号証:平成24年4月29日付けの森田敏宏氏作成の陳述書


第3 当審の無効理由通知の概要
平成24年4月2日付け無効理由通知は、概略、以下の通りである。
請求項1ないし3に係る特許は、下記アないしウのいずれかに該当し、特許法第123条第1項の規定により無効にすべきものである。
ア 請求項1に係る特許は、下記刊行物1に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
イ 請求項1ないし3に係る特許は、下記刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 請求項1ないし3に係る特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項並びに同条第4項の規定に違反してされたものである。

無効理由通知で提示した刊行物1ないし3
刊行物1:五味雅吉、腰痛自分で治すバンドの本、日本、株式会社八広社、平成元年12月20日、p.73?77、p.106?107、p.118?121
刊行物2:実願昭59-68953号(実開昭60-180459号)
のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)
刊行物3:特開平2-215478号公報

第4 訂正請求
1.訂正請求の内容
平成24年5月7日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求の請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、

訂正前に、
「【請求項1】 筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】 緊締具が、筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり、締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】 緊締具が、更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ、少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。」
とあったものを、

「【請求項1】
筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】
緊締具が、筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり、締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】
緊締具が、更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ、少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。」(下線は審決で付した。以下同様。)
と訂正するものであって、次の訂正事項1及び2からなる。

訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項1について、
「筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法」とあったものを、
「筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」と訂正する。

訂正事項2:
特許請求の範囲の請求項1について、
「筋肉に流れる血流を阻害する」とあったものを、
「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前に「筋肉の増大を図るトレーニング方法」とあったものを、「筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」と訂正して、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2は、訂正前に「筋肉に流れる血流を阻害する」とあったものを、「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」と訂正して、特許請求の範囲を減縮するとともに、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)実質変更について
訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)による改正前特許法(以下「平成6年改正前特許法」という。)第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第4 本件訂正後の発明
上述のように、本件訂正請求は認められるから、本件訂正請求による訂正後(以下「本件訂正後」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に係る発明(以下、それぞれ「訂正特許発明1」ないし「訂正特許発明3」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりの次のものと認める。

「【請求項1】
筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】
緊締具が、筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり、締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】
緊締具が、更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ、少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。」


第5 請求人主張の無効理由に関して
1 発明
訂正特許発明1ないし3が、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当するか否かを、以下検討する。

(1)請求人主張
この点に関し、請求人は、概略以下のように主張している。
訂正特許発明1ないし3に係る発明は、反復性を有する技術ではなく、発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書の規定に違反する

(2)出願当初の明細書及び図面
訂正特許発明1の血流の阻害と筋肉の増大に関して、出願当初の明細書には、下記アないしエの記載がある。
ア 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような事情を背景になされたもので、簡易な構造からなり、目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み、さらにトレーニング期間を短縮できる、筋力トレーニング用の緊締具の提供を目的としている。」
イ 「【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、長年筋力トレーニングの研究に携わって来たが、その中で、以下のような事実を見出した。即ち、目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと、大幅にトレーニング効果が上がるということである。本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、筋肉の所定部位を周囲から締め付けるための締め付けループを所望径サイズに固定的に形成するためのロック手段を備えた帯状ないし紐状の緊締具を提供する。
【0005】
この緊締具は、例えば腕の付け根部分にその締め付けループを巻き付けて用いられ、この状態で例えばダンベルを用いて腕の筋肉トレーニングを行なえば、軽いダンベルで重いダンベルと同様のトレーニング効果が得られ、しかもトレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる。」
ウ 「【0006】緊締具によってこのようなトレーニング効果の増大をもたらすことの理由は必ずしも明かではないが、一応以下のようなメカニズムが推測される。
【0007】
即ち、よく知られているように筋肉増強は、トレーニングにより疲労した筋肉が、疲労の回復過程で以前の状態を越えた状態になる、いわゆる「超回復」によりなされる。従って、トレーニングによる疲労をより効率的に生じさせる条件を与えてやれば、トレーニング効率も上げることができる。
【0008】
ところで、筋肉の疲労は筋肉へのエネルギー源や酸素の供給、さらにはエネルギー代謝過程で生じる乳酸の処理に大きく関係しており、これらはまた筋肉への血行に大きく左右されている。従って、目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させることができる。」
エ 「【0015】
ここで、図1では、三角筋と上腕二頭筋の間の部位を締め付けるようにしているが、この部位に限られるものでなく、さまざまな部位に用いることができるのは勿論である。サイズも様々なものとすることができ、また、例えば両肩からのたすき掛けによってX字状に緊締するように、適宜組み合わせて用いることも可能である。さらにまた、本体2の色、図柄、形状等を適宜デザインすれば、スポーツやトレーニングの場にふさわしい外観意匠性を与えることができる。
【0016】
効果を確認するため、この緊締具を用いたグループと、この緊締具を用いないグループの二つに分け、それぞれのグループにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行った。緊締具を施す部位は三角筋と上腕二頭筋の間とした。トレーニングを始める前とトレーニングを始めてから6か月後の上碗二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、この緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できた。」

オ 上記アないしエの記載からみて、出願当初の明細書及び図面には、その推測されるメカニズムとして、筋肉増強は、疲労の回復過程での超回復によりなされるところ、筋肉の疲労はエネルギー源や酸素の供給、乳酸の処理に大きく関係しており、これらは筋肉への血行に大きく左右されており、特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させて、目的筋肉をより特定的に増強できることが開示されている。
また、効果を確認するため、緊締具を用いたグループと緊締具を用いないグループのそれぞれにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行い、緊締具を用いるグループには、図1のように三角筋と該上腕二頭筋の間に緊締具を施して、該上腕二頭筋部位への血流を適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させ、トレーニングを始めてから6か月後の該上腕二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できたことが開示されている。

(3)本件特許の反復可能性
上記(2)の訂正特許発明1に関する出願当初の開示内容からみて、出願当時において、当業者が、これら開示内容を頼りに、増強しようとする目的筋肉に対する緊締具の巻付け位置、緊締具による締め付け程度、目的筋肉に対するトレーニング強度等について試行錯誤を行うにより、筋肉の増大がなされるものであって、科学的にその再現することが可能であるいえる。
よって、訂正特許発明1の「筋力トレーニング方法」は反復可能性を有するとするのが相当であり、発明として未完成ではない。(参考:最高裁平成10年(行ツ)第19号同12年2月29日第三小法廷判決)

(4)自然法則の利用
訂正特許発明1が自然法則を利用したものであるか否かについて、以下検討する。
訂正特許発明1の方法において、緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に流れる血流の阻害とそれに対する生理反応を利用しいるものであるから、全体として自然法則を利用しているといえる。

(5)発明と発見
訂正特許発明1が単なる「発見」に対してなされたものであるか否かについて、以下検討する。
訂正特許発明1は、上記(2)オのとおり、その推測されるメカニズムとして、筋肉増強は、疲労の回復過程での超回復によりなされるところ、筋肉の疲労はエネルギー源や酸素の供給、乳酸の処理に大きく関係しており、これらは筋肉への血行に大きく左右されており、特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させて、目的筋肉をより特定的に増強できるとの着想に基づくものであり、単なる自然法則の「発見」を超えて、自然法則を利用した技術的思想の創作といい得る要素が含まれているといえる。
よって、訂正特許発明1は、単なる「発見」に対してなされたものではない。

(6)まとめ
上述の通り、訂正特許発明1は、特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であり、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当する。
また、訂正発明発明2及び3は、訂正特許発明1を更に限定したものであり、訂正特許発明1と同様に、いずれも特許法第2条第1項にいう「発明」に該当する。


2 産業上の利用可能性
訂正特許発明1ないし3は、上記1で検討した通り、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当する。
そして、訂正特許発明1ないし3が、特許法第29条第1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に該当するか否かについて、以下検討する。

(1)請求人主張の概略
この点に関し、請求人は、概略以下のように主張している。
訂正特許発明1ないし3は、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当したとしても、下記ア又はイにより産業上利用することができる発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書の規定に違反する。
ア 甲第13号証、甲第17号証、甲第21号証、甲第22号証等から把握されるように、本件特許は、リハビリにも使用可能であるから医療行為方法に該当し、産業上利用することができる発明に該当しない。
イ 訂正特許発明1ないし3は、人体の存在を必須の構成要件とする発明であり、産業上利用することができる発明に該当しない。

(2)医療行為方法
請求人主張の上記(1)アの医療行為方法(人間を手術、治療又は診断する方法)に関して、以下検討する。
ア 「筋力トレーニング」における想定の使用用途
訂正特許発明1ないし3は、「筋力トレーニング方法」に関するものである。
訂正明細書には、「筋力トレーニング方法」、「筋肉トレーニング」及び「トレーニング」との用語が混在して用いられているものの、これらのトレーニングに関して、
「【発明の背景】
筋力トレーニングを行う場合、一般には、ダンベルやバーベル等の重量物や、バネ、ゴム等の弾性力に基づく抵抗力等を利用して所望の筋肉部位に負荷を与え、その状態で一定の疲労を得る程度にその筋肉部位を伸縮運動させることによってトレーニング効果を得るようにしている。このトレーニング方法による場合、トレーニング効果を更に上げるには、器具の重量や抵抗力を増やしたり、伸縮運動の回数を増やしたりするしかなかった。しかし、筋肉への負荷を無定見に増やしても、その増えた負荷を他の筋肉がかばって負荷の分散がおこなわれ目的外の筋肉が増強してしまったり、場合によっては筋肉や関節等を損傷したりする。」(段落【0002】)
「さらにまた、本体2の色、図柄、形状等を適宜デザインすれば、スポーツやトレーニングの場にふさわしい外観意匠性を与えることができる。」(段落【0016】)
等と記載されている。
しかしながら、「医師」、「治療」、「リハビリ」、「機能回復」などの医療に関する事項については何ら記載がない。
また、本件特許の審査経緯において提出された、平成9年1月20日付け上申書の資料2第2頁に、(実験1)として「閉経後の健常な女性11名」及び(実験2)として「健常男子4名」、同資料3第2頁の084欄に「閉経後の健常女性11人」及び同資料4第2頁に「閉経後の健常な女性11名」を被験者とした筋力トレーニングの結果が記載されているものの、その他に平成8年4月12日付け意見書、平成8年8月12日審判請求理由補充書の記載内容から見ても、医療に関する事項については何ら記載がない。
したがって、訂正明細書及び図面、その他に意見書、審判請求理由補充書、上申書といった出願書類を考慮しても、本件訂正後の請求項1に記載の「筋力トレーニング」、「筋肉トレーニング」という事項の意義を解釈すると、訂正特許発明1ないし3の筋力トレーニングは、もっぱらフィットネスクラブ、スポーツジムにおいて行われる筋力トレーニングとしての使用を想定したものであって、筋力が著しく低下した人や、身体の運動機能に障害がある人に対して、医療目的で使用することを想定したものとはいえない。

イ 被請求人の主張
被請求人は、平成24年9月6日の口頭審理において、その口頭審理調書に記載の通り、以下の主張をしている。
「平成24年5月7日付け訂正請求による訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、医師等により患者に対して使用される医療行為(機能回復訓練、いわゆるリハビリを含む)方法を含まない。また、医師等による医療行為に対して、本件特許に基づき、侵害警告、提訴、ライセンス契約締結の求めをしたこともない。」

ウ 権利主張状況
請求人提出の甲第12号証には、下記記載がある。
「加圧トレーニング方法については、幾つもの知的財産権(注1)が成立しています。したがって、加圧トレーニング方法は、個人的に利用する場合などにおいても例外なく(注2)適用されます。」(第3頁)
「(注1)著作権の代表的な一文を下記しました。これにより、日本、米国、ヨーロッパを始めとするベルヌ条約加盟国163ヶ国で権利が主張できます。
【抵触されやすい著作権の範囲】
・・・略・・・」(第3頁)
また、甲第12号証の第4頁に、知的財産基本法の引用として、下線付きで「特許権」とあるものの、甲第12号証としては全体として主に著作権による権利の主張に関して記載されている。
甲第12号証における、このような主に著作権に基づく権利主張の法的な妥当性はさておき、本件特許が医療行為目的であることをについてその特許登録番号も記載されておらず、また本件特許に基づく権利主張が明示的になされていないないことも鑑みれば、甲第12号証は、本件特許により、訂正特許発明1ないし3の筋力トレーニング方法を医師等が医療行為を目的として使用することが妨げられている、と明らかにするものでもない。

エ その他甲号証
請求人提出の甲第13号証、甲第17号証、甲第21号証、甲第22号証等に関して、以下検討する。
これら甲号証におけるリハビリテーション(リハビリ)といった医療行為において、本件の訂正特許発明1の「筋力トレーニング方法」が使用されているか定かではないものの、これら記載から推察するに、訂正特許発明1で規定される「筋力トレーニング方法」について、医師等が、リハビリといった医療行為の一環として使用され得、想定されていた用途よりも使用用途が拡がる可能性がないとは言い切れない。
しかしながら、これら甲号証は、訂正特許発明1ないし3の筋力トレーニング方法が、リハビリといった医療行為の一環として使用するものであることを明らかにするものでもない。

オ 医療行為方法に該当するか
上記アのとおり、訂正特許発明1ないし3は、医療目的での使用が想定されていないものであり、上記イの被請求人の主張、上記ウの権利主張状況も斟酌すれば、使用が想定されていない用途に関して、上記エのとおりリハビリなどへの使用といった用途拡大の可能性を捉えて、訂正特許発明1ないし3は医療行為方法に該当するとして本件特許を無効とすることに、相当の理由があるということはできない。
よって、訂正特許発明1ないし3は、医療行為方法(人間を手術、治療又は診断する方法)には該当しないとするのが相当である。

(3)人体の存在を必須の構成要件とする発明
請求人主張の上記(1)イの人体の存在を必須の構成要件とする発明に関して、以下検討する。
ア 特許庁の基準の経緯
かつて、特許庁の審査便覧(昭和43年3月)の41.02Pにおいて、「人体を構成の必須要件とする発明は、産業上利用することができるものとはみとめられないので特許法第29条第1項柱書の発明に該当しない。」とされていた。そして、昭和56年には、特許庁の審査基準の手引き(昭和56年(改訂第15版))において、「人体を構成の必須要件とする発明のうち、診断方法、治療方法等の発明は、特許法第29条の「産業上利用することができる発明」でないとして拒絶する。」と改訂された。
その後、特許庁は平成5年6月に、基準に類するものを整理、統合して特許・実用新案審査基準(平成5年6月)を作成し、その第II部第1章の2.1(1) においては、上述の「人体を構成の必須要件とする発明」に関する記述は削除され、かわりに
「(1)人間を手術、治療又は診断する方法
・・・略・・・
更に、人間から採取したもの(例:血液、尿、皮膚、髪の毛、細胞、組織)を処理する方法、又はこれを分析するなどして各種データを収集する方法は、手術、治療又は診断する方法に該当しない。ただし、採取したものを採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にして、採取したものを処理する方法は、治療する方法に該当する。」とされた。
この特許・実用新案審査基準は、その後、産業上の利用可能性に関して数次の改訂がなされているが、人間から採取したもの(例:血液、尿、皮膚、髪の毛、細胞、組織)を処理する方法、又はこれを分析するなどして各種データを収集する方法は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当しないとしている。
(基準経緯については、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の報告書「医療関連行為発明に関する特許法上の取扱いについて」(平成15年6月)の第5頁ないし第6頁参照。)

イ 上記アのとおり、本件特許の出願時から一貫して、特許庁の基準によれば、人体の存在を必須の構成要件とする発明であるからといって、必ずしも産業上利用することができない発明に該当するものとはされていない。
そして、人体を構成の必須要件とする発明のうち、診断方法、治療方法等の発明に関する検討は、上記[(2)医療行為方法]において検討したとおりである。

(4)業として利用できない発明
訂正特許発明1ないし3は、上記(2)アで検討したとおり、いわゆるフィットネス業界、スポーツジム業界といった筋力トレーニングを行うための業界において、利用することができるといえる。
よって、訂正特許発明1は、業として利用できない発明に該当しない。

(5)実際上、明らかに実施できない発明
本件の明細書において、緊締具を用いたグループと、緊締具を用いないグループとを比較してその効果を比較していることからも明らかなように、訂正特許発明1ないし3は、実際上、明らかに実施できない発明に該当しない。

(6)まとめ
前記[1 発明]のとおり、訂正特許発明1ないし3は、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当し、上記(2)ないし(5)のとおり、訂正特許発明1ないし3は、医療行為方法(人間を手術、治療又は診断する方法)、業として利用できない発明、実際上明らかに実施できない発明のいずれにも該当せず、特許法第29条第1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に該当する。

3 記載不備
(1)請求人の主張
請求人は概略以下のように主張している。
訂正特許発明1ないし3に係る発明に、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」とあるが、その血流阻害の程度が不明であり、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しておらず、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項の規定に違反する。

(2)訂正明細書及び図面
本件訂正請求の請求書に添付された訂正明細書(以下「訂正明細書」という。)には以下の記載がある。
ア 「【0002】
【発明の背景】
筋力トレーニングを行う場合、一般には、ダンベルやバーベル等の重量物や、バネ、ゴム等の弾性力に基づく抵抗力等を利用して所望の筋肉部位に負荷を与え、その状態で一定の疲労を得る程度にその筋肉部位を伸縮運動させることによってトレーニング効果を得るようにしている。このトレーニング方法による場合、トレーニング効果を更に上げるには、器具の重量や抵抗力を増やしたり、伸縮運動の回数を増やしたりするしかなかった。しかし、筋肉への負荷を無定見に増やしても、その増えた負荷を他の筋肉がかばって負荷の分散がおこなわれ目的外の筋肉が増強してしまったり、場合によっては筋肉や関節等を損傷したりする。」
イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような事情を背景になされたもので、目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み、さらにトレーニング期間を短縮できる、筋力トレーニング方法の提供を目的としている。」
ウ 「【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、長年筋力トレーニングの研究に携わって来たが、その中で、以下のような事実を見出した。即ち、目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと、大幅にトレーニング効果が上がるということである。本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、筋肉への血行を阻害させる締め付け力を筋肉部位へ施し、その締め付け力を調整することによって筋肉に疲労を生じさせることを特徴とする筋肉のトレーニング方法を提供する。
【0005】
また、本発明は、筋肉の所定部位を周囲から締め付ける筋肉トレーニング用の緊締具について、筋肉への血行を阻害させる締め付け力を付与し且つ締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えることを特徴とする帯状又は紐状の筋肉トレーニング用の緊締具を提供し、より一層上記筋肉トレーニング方法を効果的に行うことができるようにしている。
【0006】
この緊締具は、例えば腕の付け根部分にその締め付けループを巻き付けて用いられ、この状態で例えばダンベルを用いて腕の筋肉トレーニングを行なえば、軽いダンベルで重いダンベルと同様のトレーニング効果が得られ、しかもトレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる。」
エ 「【0007】
緊締具によってこのようなトレーニング効果の増大をもたらすことの理由は必ずしも明かではないが、一応以下のようなメカニズムが推測される。
【0008】
即ち、よく知られているように筋肉増強は、トレーニングにより疲労した筋肉が、疲労の回復過程で以前の状態を越えた状態になる、いわゆる「超回復」によりなされる。従って、トレーニングによる疲労をより効率的に生じさせる条件を与えてやれば、トレーニング効率も上げることができる。
【0009】
ところで、筋肉の疲労は筋肉へのエネルギー源や酸素の供給、さらにはエネルギー代謝過程で生じる乳酸の処理に大きく関係しており、これらはまた筋肉への血行に大きく左右されている。従って、目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させることができる。」
オ 「【0013】
第1実施例(図1)
【0014】
この実施例による緊締具1は、本体2に、ロック手段3を形成してなっている。本体2は、ゴムのような弾性素材を用いて帯状に形成され、皮膚に直接接触する側には伸縮性と吸水性の高い素材で形成した裏打層4が与えられている。
【0015】
ロック手段3は、本体2の一端側に形成された第1ファスナー面5aと第2ファスナー面5b及び本体2の他端に縫着された角形の支持環6からなっている。その使用法は、第1のファスナー面5aが形成された部分を支持環6に通した後に適当な部位で本体2の中央部側へ折返し、この折返し状態で第1ファスナー面5aを第2ファスナー面5bに押しつけることにより、締め付けループLを所望径及び所望の締め付け力で固定できるとともに緊締具合の一定性を保つことができるようにされている。
【0016】
ここで、図1では、三角筋と上腕二頭筋の間の部位を締め付けるようにしているが、この部位に限られるものでなく、さまざまな部位に用いることができるのは勿論である。サイズも様々なものとすることができ、また、例えば両肩からのたすき掛けによってX字状に緊締するように、適宜組み合わせて用いることも可能である。さらにまた、本体2の色、図柄、形状等を適宜デザインすれば、スポーツやトレーニングの場にふさわしい外観意匠性を与えることができる。
【0017】
効果を確認するため、この緊締具を用いたグループと、この緊締具を用いないグループの二つに分け、それぞれのグループにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行った。緊締具を施す部位は三角筋と上腕二頭筋の間とした。トレーニングを始める前とトレーニングを始めてから6か月後の上碗二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、この緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できた。」
カ 「【0022】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明による筋力トレーニング方法は、目的の筋肉部位への血行を適度に阻害してやることにより疲労を効率的に発生させることができるものであるため、この状態でトレーニングを行えば、トレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる。」

(3)筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する程度
上記(2)の記載からみて、訂正特許発明1ないし3は、締結具を用いて、特定的に増強しようとする目的筋肉「に流れる血流を止めることなく阻害」した状態でのトレーニングにより、緊締具を用い血流を阻害しない従来のトレーニングとを比較して、同じトレーニング量に対して疲労をより効率的に生じさせるものであり、軽いダンベルでも重いダンベルと同様のトレーニング効果が得られるものであって、該目的筋肉をより特定的に増強でき、トレーニング期間を短縮できるものであると認められる。
よって、訂正特許発明1ないし3における「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」程度としては、訂正特許発明1ないし3の筋力トレーニング方法が、緊締具を用いないで行う従来のトレーニングと比較して、同じトレーニング量に対して明らかに優位な目的筋肉の増大効果、同じ増大量となるトレーニング期間の明らかに優位な期間短縮効果が得られる程度に、目的筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する程度であると認められる。
また、訂正特許発明1ないし3において、請求項に記載された事項に基づいて、まとまりのある一の技術的思想がとらえられないものでもない。
したがって、訂正特許発明1ないし3は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されており、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項の規定に違反するものでない。

4 まとめ
以上、上記1ないし3で検討したように、本件訂正後の請求項1ないし3に係る特許は、いずれも特許法第29条第1項柱書、特許法第36条第5項第2号及び第6号の規定に違反してなされたものでなく、請求人の主張は理由があるものとすることはできない。


第6 当審の無効理由通知に関して
1 新規性
(1)無効理由の概略
平成24年4月2日付け無効理由通知における新規性に関する無効理由は、おおよそ以下の通りである。
請求項1に係る特許は、刊行物1に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

(2)刊行物1
本件特許の出願前に頒布され、平成24年4月2日付け無効理由通知で引用された刊行物1:「五味雅吉、腰痛自分で治すバンドの本、日本、株式会社八広社、 平成元年12月20日、p.73?77、p.106?107、 p.118?121」には、図及び写真とともに次の事項が記載されている。
ア 「仙腸間接理論とゴムバンド療法
1 バラコン法
胸鎖関節の重要さに注目
健康は何にも勝る宝だ。
文献が進み、人々の生活が豊かになるにつれて、わけのわからない病気は症状が増えてきた。
一億半病人といわれている。病気で寝込むほどではないが、健康でもない、ということだ。
新聞や雑誌にも健康欄は、かならずと言っていいほど載っている。立派な健康器具も数え切れないほどある。高い金を出した健康器具を購入しても、ほとんどの人は三日坊主で終わってしまう。
効果が思ったほどなかった。複雑でやっかいだ。あきれてしまった。と理由はさまざまであろう。
バラコンバンドは、手軽で、ただ巻くだけでよい。ゆるく巻いても強く巻いてもよい。バンドの効果について本書ではいろいろ書いているが、なによりのことは、その場で効果がわかるということだ。
腰に巻けば腰が軽くなる。片足に巻けば、その場で巻いた足が二倍軽くなって歩くのが楽だ。それが、疲れを半減させる。
人間の病気の大部分は疲れ、慢性疲労からくるものだ。疲れた体は抵抗力を失い、バイ菌にやられるわけだ。
(バラコンバンドの効能)
1。エネルギーの消耗が半分ですむ。
筋肉は、伸び縮むという弾力があるから、人体の行動がとれる。
伸び縮みの幅が大きいほど、弾力があって理想的である。これを筋肉に巻き付けて動作の時、筋肉の弾力と協調して働くから人体のエネルギーが半減するのだ。
2。血管内を清掃し血管にも弾力がでる。
バンドを強く締めると、そこで血流が止まる。
心臓からは絶え間なく血液は送られてくる。
血液は、バンドの所で滞留し、血量はその部で倍加される。
バンドをはずすと、血は倍の速力で血管内を流れる。その時血管壁を掃除し、動脈硬化を治し、血管そのものも弾力がでる。
3。筋肉に弾力がつく。
筋肉は筋細胞の集まりで、筋繊維を造り、さらに束になって伸縮する。筋細胞の一つひとつは、膜があって中はコロイド状で、栄養素と酸素が化合してエネルギーを造り出すという、生命に直結する重要な働きをしている。疲れると老廃物がたまり、栄養素や酸素が欠乏している。この状態のとき、バンドを巻くと、その圧力で細胞内の老廃物がにじみ出る。
動作の際、体に力が入れば巻いたバンドはゆるむ。そのとき、血液は細胞内に流れ込む。(栄養素、酸素を供給する)力が抜ければ、バンドは締まる。そのとき、老廃物が排泄される、といった繰り返しで筋細胞が復活する。
つまり、あんま、マッサージ、指圧をしているようなもので、筋肉は復する。神経管、靱帯なども同じ。
4。骨に弾力がでる
骨は常に、破骨細胞、増殖細胞が同時に働いて新陳代謝が行われている。
カルシウム、燐などの必要物質があり、膠原質もあって骨に弾力を保ち、骨折などをふせぐ。カルシウムは血液が酸性化すると、中和し、その他の重要な働きを数々している。
5。造血作用
骨髄で造血作用をしている。
思春期までは、長骨で造られているが、大人になると扁平骨(骨盤、頭蓋骨)で造られる。
筋肉は刺激(運動や動作)に対応して鍛えられる。骨もまったく同じ原理である。
宇宙飛行士が無重力の中に一定期間生活していると、筋肉が弱り、特に骨はぼろぼろになる。地球上では、何もしなくても、地球の重力が常にかかっている。それに対応するため骨は常に抵抗し、人体を支える力ができているのだ。
骨は、特に老化すると復活しにくくなる。バンドで締める刺激、更に行動、動作という運動の刺激が加わって骨は太くガッチリする。骨が太いのは健康のバロメーターである。ローマは一日にしてならず、常に適刺激を加えることが大切である。バンド巻きは理想的と言える。」(73頁1行?77頁2行)
イ 「ワンタッチたすき巻き(肩)用バンドの応用法
手軽でよく効くニューバンド解説
腰痛に悩む人は実に多い。それ以上に多いのが肩こりの人だ。だが、ほとんどの人が「肩こりは体質だから」とあきらめているようだ。そして、これはもむ。
しかし、肩こりはもんでも治らない。むしろ、もみ過ぎると炎症をおこして逆効果になることがある。ところが、仙腸関節と胸鎖関節を矯正すると、たちどころに肩こりが解消されてしまう。つまり、肩こりの原因は「腰」にあるのだ。腰の要である骨盤(仙腸関節)が狂うと脊柱がS字状に歪み、胸鎖関節が変位するため肩の筋肉を萎縮させて肩こりや痛みとなるのだ。それと、手と腕での疲れ。それが血液の循環を悪くし、鬱血状態にする。肩を動かす筋肉や酸素に栄養素が送れなくなるのである。こうした症状が悪化すると、呼吸が荒くなる、胃が重い、心臓が苦しい、風邪をひきやすくなる、といったことになる。
だから、肩こりだからとたかをくくってはいけない。
そうした肩こり等を解消するには、L(大)2mのバンドで「たすき巻き」にするのが一番効果的であるが、下着の上に着けて洋服を着るにはかさばりすぎて適さない。長時間着用して日常の動きでも同じことが言える。大バンドはもともと治療用だからだ。そこで新たに開発したのが、ニューバンド「ワンタッチたすき巻き(肩)用」のバンドである。平ゴムでマジックテープ付きだから、着脱が実に簡単で手軽なうえに、当たりが実にソフトだ。座りっぱなしや中腰になることの多い仕事の人や、肩こりや背中の張る人にはもってこいのバンドだ。また本項で説明しているように、単に脊柱矯正のたすき巻きばかりでなく、いろんな用途に応用できる。今回紹介する他にも「腕巻き」「ゲートル巻き」などもできる。簡単で効果のある、新しいバンドだ。」(106頁1行?107頁末行)
ウ 「ニューバンド「平M2m」の活用法 手と足-おどろき自己療法
血液は生命の源である。血の流れが体に及ぼす作用は測り知れぬ。血液循環は文字通り「神秘の流れ」なのだ。健康とは、正常な血液循環があってはじめていえることである。
バラコン法の基本は、正常で活発な血液循環を促すことにある。正しい骨格の矯正→正常な血液循環→生命の力(良くなろうとする力=自然良能力)を生む。
こうしたことに、1本のバラコンバンドがおどろくばかりの効果を発揮する。ただのゴムバンド。表も裏もない。しかもいたって簡単な方法で、びっくりするほどの効果があがる。その秘密はいったいどこにあるのだろうか? ただ足首に巻く(かかと三角巻き)。手に巻く(腕巻き)。それだけで、おどろくほどの効果がある。例えば、二の腕にぐるぐる巻く。できるだけきつめにする。痛いほどにだ。そして我慢できなくなったらはずそう。これで、腕ばかりでなく、首や肩のこり、痛みがとれて、実に軽くなっている。また、足首に巻く。同じ要領で痛くなったらはずす。下肢の疲れ、しびれ、痛みばかりか、腰の疲れも解消する。その効果はおどろくばかりだ。
なぜか?
血液の流れにその因がある。
人体の骨格筋は両端にある腱によってふたつの骨に付着している。その付着点で、心臓に近いところを起始(不動点)といい、関節1つ通りこしたところを停止(運動点)というのである。
この停止部分にバンドを巻く。一つでも関節を越したほうがよく効くので、手の場合なら肘の下の二つの腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつめに巻いて、我慢できなくなったらはずそう。するとダムの水門を開いたように、血液がどっと流れ込み、これまで充分にいきわたっていなかったところまで勢いよく入り込む。疲れのある場所にたまっていた老廃物が、バンドをしめることでにじみ出て、はずしたことで奔流のように流れ込んできた血液がそれを回収するのだ。体が軽くなったり、痛みが消えるのは当然のことである。そればかりか「足裏指巻き」で長年悩まされた水虫がきれいになくなる。全て同じ原理だ。
こうした手足に巻くバンドとして、新たに開発されたのが『平M2m』で平ゴム状のもの。手足ばかりでなく、はち巻きや、巻いた部分がごろごろしなくて抜群の使用感なので、長時間使用にも適している。このニューバンド、評判は上々である。
手と足を巻く。少し痛いかも知れないが、腕を何度も曲げたり、踵を回す運動をするとより効果的だ。体の他の障害部位にも効果があらわれてくる。おどろくばかりだ・・・・・・。」(118頁1行?121頁末行)
エ 上記イと、106頁ないし107頁の「ワンタッチたすき巻き(肩)用バンド」の写真から、「ワンタッチたすき巻き(肩)用バンド」の端部に、「マジックテープ」が設けられており、該「マジックテープ」で「ワンタッチたすき巻き(肩)用バンド」を固定可能なことが見て取れる。
オ 121頁の「腕巻き」の状態を示した図から、腕の肘あたりにニューバンド「平M2m」を巻いていることが見て取れる。
カ 上記オの「腕巻き」の巻き方が、上記ウ記載の巻き方であることは、明らかである。
キ 上記ア、ウ、オ及びカから、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。

「平ゴム状のバンドであるニューバンド『平M2m』を、腕の骨格筋が両端にある腱によってふたつの骨に付着している付着点うち、心臓に近いところから関節1つ通りこしたところにできるだけきつめに巻き、
血流を止め、我慢できなくなったらはずすことで、ダムの水門を開いたように、バンドの所で滞留していた血液がどっと流れ込み、これまで充分にいきわたっていなかったところまで勢いよく入り込み、疲れて栄養素や酸素が欠乏している細胞にたまっていた老廃物が、バンドをしめることでにじみ出て、はずしたことで奔流のように流れ込んできた血液がそれを回収するようにするという原理で、
少し痛いかも知れないが、腕を何度も曲げたりするとより効果的なニューバンド『平M2m』の活用法。」(以下「引用発明1」という。)

(3)対比
訂正特許発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「骨格筋」、「平ゴム状のバンドであるニューバンド『平M2m』」及び「活用法」は、それぞれ、訂正特許発明1の「筋肉」、「緊締具」及び「方法」に相当する。
イ 引用発明1の「平ゴム状のバンドであるニューバンド『平M2m』」(緊締具)は、「腕の骨格筋が両端にある腱によってふたつの骨に付着している付着点うち、心臓に近いところから関節1つ通りこしたところにできるだけきつめに巻き」、「血流を止め」るものであるから、訂正特許発明1の「緊締具」と、筋肉に締めつけ力を付与するためのものである点、筋肉の所定部位に巻付けるものである点、及び、周の長さを減少させ、筋肉に流れる血流を阻害する負荷を与える点で一致する。
ウ 引用発明1の「活用法」(方法)は、「腕の骨格筋が両端にある腱によってふたつの骨に付着している付着点うち、心臓に近いところから関節1つ通りこしたところにできるだけきつめに巻き」、「疲れて栄養素や酸素が欠乏している細胞にたまっていた老廃物が、バンドをしめることでにじみ出て、はずしたことで奔流のように流れ込んできた血液がそれを回収するようにするようにするという原理」を利用したものであり、該「きつめに巻」く状態は、「骨格筋」(筋肉)を「平ゴム状のバンドであるニューバンド『平M2m』」(緊締具)によってしめている状態であるから、引用発明1の「活用法」(方法)と、訂正特許発明1の「方法」とは、筋肉に負荷を与える点で一致する。
エ 上記アないしウによれば、訂正特許発明1と引用発明1とは、
「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与える方法であって、筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を阻害するものである方法」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
訂正特許発明1は、緊締具の周の長さを減少させて筋肉に与える負荷が、「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」であって、「筋肉に疲労を生じさせ」るためのものであり、「もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」であるのに対し、
引用発明1は、バンドを巻き筋肉に与える負荷が、バンドをできるだけきつめに巻いて血流を止めるものであるが、筋肉に流れる血流を阻害する程度も明らかでなく、筋肉に疲労を生じさせるためのものか明らかでなく、「もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」であるかどうかも明らかでない点。

(4)判断
前記相違点について判断する。
ア 引用発明1は、「血流を止め、我慢できなくなったらはずすことで、ダムの水門を開いたように、バンドの所で滞留していた血液がどっと流れ込み、これまで充分にいきわたっていなかったところまで勢いよく入り込み、疲れて栄養素や酸素が欠乏している細胞にたまっていた老廃物が、バンドをしめることでにじみ出て、はずしたことで奔流のように流れ込んできた血液がそれを回収するようにするという原理」を用いるものであり、この原理から鑑みると、その効果が期待される筋肉は、バンドにより締め付けられる部分の筋肉及びバンドによる締め付けより末端側で血流が止められる部分の筋肉であると考えられる。

イ 訂正特許発明1に関し、訂正明細書には、前記[第5 1(2)]でした検討と同様に、その推測されるメカニズムとして、筋肉増強は、疲労の回復過程での超回復によりなされるところ、筋肉の疲労はエネルギー源や酸素の供給、乳酸の処理に大きく関係しており、これらは筋肉への血行に大きく左右されており、特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させて、目的筋肉をより特定的に増強できることが開示され(前記[第5 3(2)エ]の摘記参照。)、効果を確認するため、緊締具を用いたグループと緊締具を用いないグループのそれぞれにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行い、緊締具を用いるグループには、図1のように三角筋と該上腕二頭筋の間に緊締具を施して、該上腕二頭筋部位への血流を適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させ、トレーニングを始めてから6か月後の該上腕二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できたことが開示されている(前記[第5 3(2)オ]の摘記参照。)。

ウ 上記(2)ウ、オ及びカのとおり、刊行物1では、121頁に図示されるように肘のあたりにバンドを巻き、血流を止め、前記アに記載の原理をより効果的に行うために、腕を何度も曲げるものである。
してみると、引用発明1は、上記のとおりのものであって、訂正特許発明1のように「筋肉に疲労を生じさせるために」「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」ものではない。

エ 上記アないしウからみて、引用発明1において、バンドにより筋肉に与える負荷が、「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」であって、「筋肉に疲労を生じさせ」るためのものであり、「もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」である、ということはできず、訂正特許発明1と同一であるということはできない。

(5)まとめ
上述の通り、訂正特許発明1は、刊行物1に記載された発明と同一でなく、特許法第29条第1項第3号の規定に違反しない。

2 進歩性
(1)無効理由の概略
平成24年4月2日付け無効理由通知における進歩性に関する無効理由は、おおよそ以下の通りである。
請求項1ないし3に係る特許は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)訂正特許発明1について
引用発明1の「ニューバンド『平M2m』の活用法」は、筋肉を増大させるトレーニング方法に関するものともいえず、引用発明1において、筋肉を増大させる方法とする動機が見出せない。
また、引用発明1は上記1(4)アの原理を用いるものであり、引用発明1において、肘のあたりにバンドをきつめに巻き、血流を止め、筋肉が増大する程度に腕を何度も曲げるようにして結果として筋肉が増大したとしても、バンドによる血流の止めが、「筋肉に疲労を生じさせるために」「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」ものではなく、「もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」ということはできない。
そして、上記1(4)アの引用発明1の用いる原理と同イの訂正特許発明1につき推測されるメカニズムとの差異からみて、引用発明1において、前記相違点に係る訂正特許発明1の構成を採用することが、当業者が容易になし得たとすることはできない。
よって、引用発明1において、前記相違点に係る訂正特許発明1の構成を採用して当業者が容易になし得たとすることはできない。
さらに、平成24年4月2日付け無効理由通知で提示した刊行物2、3のいずれにも、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害し、筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させることは開示されていない。
したがって、訂正特許発明1は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たとすることはできない。

(3)訂正特許発明2及び3について
また、平成24年4月2日付け無効理由通知で提示した刊行物2、3のいずれにも、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害し、筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させることは開示されていない。
そして、訂正特許発明2は、訂正特許発明1を更に限定したものであり、訂正特許発明3は、訂正特許発明2をまた更に限定したものであるから、訂正特許発明1と同様に、刊行物1ないし3に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たとすることはできない。

(4)まとめ
上述のとおり、訂正特許発明1ないし訂正特許発明3に係る発明は、当業者が容易になし得たものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反しない。

3 記載不備
(1)無効理由の概略
平成24年4月2日付け無効理由通知における記載不備に関する無効理由は、おおよそ以下の通りである。
ア 請求項1に係る特許は、筋肉の増大を図る(もくろむ)だけで、実際に筋肉が増大しなくてもよいものを含んでいるのか否か、また、「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ」ること自体を「筋力トレーニング方法」と称しているのか、それ以外の何らかのトレーニング(鍛錬)をすることを必須としているのか不明確であり、請求項1並びに請求項1を引用する請求項2及び3に係る特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項に違反してなされたものである。
イ 発明の詳細な説明には、どのような者に対して、体のどの部位を緊締し、どの程度血行を阻害し、どの程度の強さのトレーニングをすると、どの程度筋肉が増強するのか当業者が実施できる程度に記載されているものとは認められず、請求項1並びに請求項1を引用する請求項2及び3に係る特許は、平成6年改正前特許法第36条第4項に違反してなされたものである。

(2)特許請求の範囲の記載
上記(1)アの無効理由について、以下検討する。
本件訂正請求により、訂正前に「筋肉の増大を図るトレーニング方法」とあったものを、「筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」と訂正し、筋肉の増大を図る(もくろむ)だけで、実際に筋肉が増大しなくてもよいものを含んでいないことを明らかとしている。
また、前記[第5 3(3)]で検討したように、訂正特許発明1ないし3の筋力トレーニング方法が、緊締具を用いない行う従来のトレーニングと比較して、同じトレーニング量に対して明らかに優位な目的筋肉の増大効果、同じ増大量となるトレーニング期間の明らかに優位な期間短縮効果が得られる程度に、目的筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの程度であり、筋肉を増大させる筋肉トレーニング(鍛錬)が行われることも明らかである。
よって、訂正特許発明1並びに訂正特許発明1を引用する訂正特許発明2及び3は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されており、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項の規定に違反するものでない。

(3)発明の詳細な説明の記載
上記(1)イの無効理由について、以下検討する。
訂正特許発明1に関し、訂正明細書には、前記[第5 1(2)]でした検討と同様に、その推測されるメカニズムとして、筋肉増強は、疲労の回復過程での超回復によりなされるところ、筋肉の疲労はエネルギー源や酸素の供給、乳酸の処理に大きく関係しており、これらは筋肉への血行に大きく左右されており、特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させて、目的筋肉をより特定的に増強できることが開示され(前記[第5 3(2)エ]の摘記参照。)、効果を確認するため、緊締具を用いたグループと緊締具を用いないグループのそれぞれにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行い、緊締具を用いるグループには、図1のように三角筋と該上腕二頭筋の間に緊締具を施して、該上腕二頭筋部位への血流を適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させ、トレーニングを始めてから6か月後の該上腕二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できたことが開示されている(前記[第5 3(2)オ]の摘記参照。)。
そして、前記[第5 1(3)本件特許の反復可能性]でした検討と同様に、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載内容からみて、当業者が、これら開示内容を頼りに、増強しようとする目的筋肉に対する緊締具の巻付け位置、緊締具による締め付け程度、目的筋肉に対するトレーニング強度等について試行錯誤を行うことにより、容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているといえる。

(4)まとめ
訂正特許発明1ないし3は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項及び同条第4項の規定に違反するものでない。

第7 むすび
請求人の主張する無効理由、当審で通知した無効理由についての当審の判断は、以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法並びに当審で通知した無効理由によっては、本件特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
筋力トレーニング方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】
緊締具が、筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり、締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】
緊締具が、更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ、少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、筋力のトレーニング方法及び筋肉トレーニング用緊締具に関する。
【0002】
【発明の背景】
筋力トレーニングを行う場合、一般には、ダンベルやバーベル等の重量物や、バネ、ゴム等の弾性力に基づく抵抗力等を利用して所望の筋肉部位に負荷を与え、その状態で一定の疲労を得る程度にその筋肉部位を伸縮運動させることによってトレーニング効果を得るようにしている。このトレーニング方法による場合、トレーニング効果を更に上げるには、器具の重量や抵抗力を増やしたり、伸縮運動の回数を増やしたりするしかなかった。しかし、筋肉への負荷を無定見に増やしても、その増えた負荷を他の筋肉がかばって負荷の分散がおこなわれ目的外の筋肉が増強してしまったり、場合によっては筋肉や関節等を損傷したりする。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような事情を背景になされたもので、目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み、さらにトレーニング期間を短縮できる、筋力トレーニング方法の提供を目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、長年筋力トレーニングの研究に携わって来たが、その中で、以下のような事実を見出した。即ち、目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと、大幅にトレーニング効果が上がるということである。本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、筋肉への血行を阻害させる締め付け力を筋肉部位へ施し、その締め付け力を調整することによって筋肉に疲労を生じさせることを特徴とする筋肉のトレーニング方法を提供する。
【0005】
また、本発明は、筋肉の所定部位を周囲から締め付ける筋肉トレーニング用の緊締具について、筋肉への血行を阻害させる締め付け力を付与し且つ締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えることを特徴とする帯状又は紐状の筋肉トレーニング用の緊締具を提供し、より一層上記筋肉トレーニング方法を効果的に行うことができるようにしている。
【0006】
この緊締具は、例えば腕の付け根部分にその締め付けループを巻き付けて用いられ、この状態で例えばダンベルを用いて腕の筋肉トレーニングを行なえば、軽いダンベルで重いダンベルと同様のトレーニング効果が得られ、しかもトレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる。
【0007】
緊締具によってこのようなトレーニング効果の増大をもたらすことの理由は必ずしも明かではないが、一応以下のようなメカニズムが推測される。
【0008】
即ち、よく知られているように筋肉増強は、トレーニングにより疲労した筋肉が、疲労の回復過程で以前の状態を越えた状態になる、いわゆる「超回復」によりなされる。従って、トレーニングによる疲労をより効率的に生じさせる条件を与えてやれば、トレーニング効率も上げることができる。
【0009】
ところで、筋肉の疲労は筋肉へのエネルギー源や酸素の供給、さらにはエネルギー代謝過程で生じる乳酸の処理に大きく関係しており、これらはまた筋肉への血行に大きく左右されている。従って、目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させることができる。
【0010】
このような緊締具は、締め付け力の表示手段を接続した構造とすることができる。このような構造によると、最適な締め付け力を目視で確認でき、且つ同じ締め付け力による緊締具合の再現が容易になる。
【0011】
またこのような緊締具については、皮膚に接触する側に、皮膚を保護したり汗を吸収できるような素材を配した構造とするのが望ましく、その素材としては、柔軟性、通気性及び吸湿性を適度に備えたものが好ましい。
【0012】
【実施例】
以下、本発明の方法の筋肉トレーニング方法に用いるために好適な緊締具の実施例を説明する。
【0013】
第1実施例(図1)
【0014】
この実施例による緊締具1は、本体2に、ロック手段3を形成してなっている。本体2は、ゴムのような弾性素材を用いて帯状に形成され、皮膚に直接接触する側には伸縮性と吸水性の高い素材で形成した裏打層4が与えられている。
【0015】
ロック手段3は、本体2の一端側に形成された第1ファスナー面5aと第2ファスナー面5b及び本体2の他端に縫着された角形の支持環6からなっている。その使用法は、第1のファスナー面5aが形成された部分を支持環6に通した後に適当な部位で本体2の中央部側へ折返し、この折返し状態で第1ファスナー面5aを第2ファスナー面5bに押しつけることにより、締め付けループLを所望径及び所望の締め付け力で固定できるとともに緊締具合の一定性を保つことができるようにされている。
【0016】
ここで、図1では、三角筋と上腕二頭筋の間の部位を締め付けるようにしているが、この部位に限られるものでなく、さまざまな部位に用いることができるのは勿論である。サイズも様々なものとすることができ、また、例えば両肩からのたすき掛けによってX字状に緊締するように、適宜組み合わせて用いることも可能である。さらにまた、本体2の色、図柄、形状等を適宜デザインすれば、スポーツやトレーニングの場にふさわしい外観意匠性を与えることができる。
【0017】
効果を確認するため、この緊締具を用いたグループと、この緊締具を用いないグループの二つに分け、それぞれのグループにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行った。緊締具を施す部位は三角筋と上腕二頭筋の間とした。トレーニングを始める前とトレーニングを始めてから6か月後の上碗二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、この緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できた。
【0018】
第2実施例(図2)
【0019】
この例は、本体2に中空構造を有する適当な太さのゴム管を用い、より簡易な構造とした例である。この例では、本体2の一端部7を環状に曲折した後、この環の内径がゴム管の外径より若干狭くなるよう紐12を巻着して固定することにより、ロック手段としての支持環6を形成している。この支持環6に、本体2の他端部8を挿通し、この状態で他端部8を引き締めれば、支持環6と、支持環6内側に接触している他端部8の所定部位とが弾性変形して接触面積及び接触強度が増大し、そのゴム表面同士の摩擦力によって締め付けループLが所望径サイズに固定されるようになっている。
【0020】
第3実施例(図3)
【0021】
この例は、締め付け力の表示手段が本体2に接続された例で、ロック手段3は基本的に実施例1と同様の構造になっている。本体2には布ベルトのような帯状の非伸縮性素材を用いるとともに、皮膚に接触する側には裏打層として不織布9を被着することによって皮膚を保護し快適な装着感が得られるようにしている。この例では、表示手段10の内部にバネ(図示せず)を用い、表示手段10の部位で切り離された本体2の各々の分離端(図示せず)同士をこのバネの両端で接続する構造としている。そして、緊締具1の締め付け力に応じたバネの変形量が、このバネに連結された指針11の変位となって示されるようになっている。この他の表示手段として、締め付け力を電気的に検出し表示するものを用いてもよく、この場合、締め付け力の検出部のみを本体に設け、接続コードによって接続された表示部を別体に設けるようにすれば軽量化をはかることができる。また、本体表面に目盛り等の標章を施すことによって表示手段とすれば、さらに軽量化できるとともに構造をより簡易なものとすることができる。
【0022】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明による筋力トレーニング方法は、目的の筋肉部位への血行を適度に阻害してやることにより疲労を効率的に発生させることができるものであるため、この状態でトレーニングを行えば、トレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる。
【0023】
また、この発明の方法に用いる緊締具は、締め付けループをワンタッチで所望径サイズに固定できるロック手段を備えているため、適度な締め付け力を自在に得ることができるとともに、煩わしい緊締のための操作を不要とすることができる。これにより、本発明の筋肉トレーニング方法をより簡易に行うことができるようになる。
【0024】
そしてまた、緊締具に締め付け力の表示手段を備えることによって、視認による締め付け力の管理が容易になるとともに、常に適切な締め付け力を再現する事が容易になる。
【0025】
さらにまた、緊締具の皮膚に接触する側に、皮膚を保護するための素材を配しているので、皮膚を傷めたりすることなく快適な装着感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る緊締具を示す斜視図。
【図2】本発明の第2実施例に係る緊締具を示す斜視図。
【図3】本発明の第3実施例に係る緊締具を示す斜視図。
【符号の説明】
1 緊締具
2 本体
3 ロック手段
4 裏打層
9 不織布
10 表示手段
L 締め付けループ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-09-28 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-17 
出願番号 特願平5-313949
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A63B)
P 1 113・ 536- YA (A63B)
P 1 113・ 85- YA (A63B)
P 1 113・ 113- YA (A63B)
P 1 113・ 1- YA (A63B)
P 1 113・ 14- YA (A63B)
P 1 113・ 537- YA (A63B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 東 治企
黒瀬 雅一
登録日 1997-07-04 
登録番号 特許第2670421号(P2670421)
発明の名称 筋力トレーニング方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 塩谷 英明  
代理人 友村 明弘  
代理人 友村 明弘  
代理人 根本 浩  
代理人 佐藤 宏樹  
代理人 塩谷 英明  
代理人 三浦 光康  
代理人 佐藤 宏樹  
代理人 根本 浩  
代理人 稲葉 良幸  

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