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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1287838
審判番号 不服2013-19464  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-07 
確定日 2014-05-15 
事件の表示 特願2009-238307「木質系基材用化粧シート」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月14日出願公開、特開2010- 6083〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成10年10月30日に出願した特願平10-309305号の一部を、平成21年10月15日に、特許法第44条の規定による新たな特許出願としたもので、平成21年10月23日に手続補正がなされ、平成24年3月23日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月22日に手続補正がなされ、平成25年2月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月8日に手続補正がなされ、同年7月19日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成25年10月7日に本件審判の請求とともに手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、同年12月18日付けで審尋がされ、平成26年2月14日に回答書が提出された。

第2.本件補正について
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前後の記載は、以下のとおりである。

(1)補正前
「【請求項1】
着色剤を含有したポリエステル樹脂フイルムからなる基材シートの一方の面に、絵柄模様層または着色下地層を有する絵柄模様層、該絵柄模様層上に撥液性を有する硬化型インキによる撥液絵柄層を形成した後、その上面に前記撥液絵柄層によりはじかれる性質を有する硬化性樹脂である透明インキを用いてトップコート層を施すことにより、前記撥液絵柄層を形成した部分の前記トップコート層がはじかれて凹状部を形成した化粧シートにおいて、前記基材シートと前記絵柄模様層の間にポリエステル系ウレタン樹脂よりなるプライマー層を設け、該絵柄模様層のバインダー用樹脂がセルロース-アルキッド系であることを特徴とする木質系基材用化粧シート。

【請求項2】
前記プライマー層の厚みが、1.5?2.5g/m^(2)(ドライ)であることを特徴とする請求項1に記載の木質系基材用化粧シート。

【請求項3】?【請求項5】略」

(2)補正後
「【請求項1】
着色剤を含有したポリエステル樹脂フイルムからなる基材シートの一方の面に、絵柄模様層または着色下地層を有する絵柄模様層、該絵柄模様層上に撥液性を有する硬化型インキによる撥液絵柄層を形成した後、その上面に前記撥液絵柄層によりはじかれる性質を有する硬化性樹脂である透明インキを用いてトップコート層を施すことにより、前記撥液絵柄層を形成した部分の前記トップコート層がはじかれて凹状部を形成した化粧シートにおいて、前記基材シートと前記絵柄模様層の間にポリエステル系ウレタン樹脂よりなるプライマー層を設け、該絵柄模様層のバインダー用樹脂がセルロース-アルキッド系であり、前記プライマー層の厚みが、1.5?2.5g/m^(2)(ドライ)であることを特徴とする木質系基材用化粧シート。

【請求項2】?【請求項4】略」

2.補正の適否
本件補正は、請求人が審判請求理由の(3-2)で主張するように、補正前請求項1と請求項2とを組み合わせて、補正後の請求項1とするとともに、補正前請求項3?5の請求項番号を繰り上げて補正後請求項2?4とするものであり、実質的に、補正前請求項1を削除するものに該当し、適法なものである。

第3.本願発明
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年10月7日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2.1.(2)に示す請求項1に記載されたとおりである。

第4.刊行物に記載された発明
1.刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-226083号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種家具類や建築内装材等に、装飾あるいは表面保護の目的で貼着される、表面における美的効果、立体効果等に優れた、絵柄に同調した凹凸部が設けられた化粧シートに関する。」

「【0010】本発明に用いられる基材シート2としては、例えば、・・・ポリエチレンテレフタレートフイルム、・・・等のプラスチックフイルム等であり、・・・。
【0011】また、基材シート2の上面には、任意にベタ印刷層、及び、例えば、オーク、チーク、ウォルナット等の柾目、板目状の木目模様を現出する絵柄模様層を通常インキによりグラビア印刷によって形成されており、これら通常インキによる下地絵柄層3を形成するインキとしては、従来のセルロース系、・・・。」

「【0014】撥液絵柄層5は表面保護層6を形成する透明インキ7をはじかせるために、シリコン樹脂やフッ素樹脂などの撥液剤を含む印刷インキを用いて設けられる。インキとしては、例えばアミノアルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をベヒクルとし、・・・。
【0015】表面保護層6は、化粧シートの表面に好ましい艶を与えるととに、撥液絵柄層5によってはじかれて凹部9を形成する。この時撥液絵柄層5上の透明インキ7ははじかれると同時に前記撥液絵柄層以外の部分に引っ張られ、その結果撥液絵柄層部分にシャープな凹状部が形成される。・・・。このような目的で使用する透明インキのベヒクルとしてはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の通常、化粧板の表面塗装に用いられる熱硬化性樹脂をベヒクルとするものが良好に用いられる。
【0016】本発明の化粧シートの他の構成として図2に示すように、前記基材シート2の表面に設けられた通常インキによる下地絵柄層3と艶消しインキによる艶消し絵柄層4の表面全面に透明艶消し樹脂層8を形成し、しかるのちに前記透明艶消し樹脂層8面に前記艶消し絵柄層4以外の上面部分に撥液性物質を含むインキを用いて撥液絵柄層5を形成し、次いで、艶消し絵柄層4を抜いた印刷版により前記撥液絵柄層5によりはじかれる性質を有する透明インキ7を前記艶消し絵柄層4に印刷見当を合わせて塗布し表面保護層6を形成する構成とすることも出来る。」

これらの記載事項によると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリエチレンテレフタレートフイルムからなる基材シート2の表面に、通常インキによる下地絵柄層3と艶消しインキによる艶消し絵柄層4の表面全面に透明艶消し樹脂層8を形成し、前記透明艶消し樹脂層8面に前記艶消し絵柄層4以外の上面部分に熱硬化性樹脂をベヒクルとする撥液性物質を含むインキを用いて撥液絵柄層5を形成した後、その上面に前記撥液絵柄層5によりはじかれる性質を有する熱硬化性樹脂である透明インキ7を用いて表面保護層6を施すことにより、前記撥液絵柄層5を形成した部分の前記表面保護層6がはじかれて凹部9を形成した化粧シート1。」

2.刊行物2
同じく、特開平6-64131号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 光輝性を有する熱可塑性樹脂層に絵柄層、絵柄層の絵柄に同調した模様を有する撥液絵柄層が順に積層され、少なくとも前記光輝性を有する熱可塑性樹脂層と他層との界面には凹凸模様が形成されており、さらに前記撥液絵柄層以外の面には該凹凸模様の深さよりも厚い透明樹脂層が積層された化粧シート。」

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、住宅内装材、キャビネット、住器用などに用いられる化粧シートに関する。」

「【0007】光輝性を有する熱可塑性樹脂層としては、・・・等のポリエステル樹脂、・・・が使える。」

「【0009】光輝性層を別に形成する場合の熱可塑性樹脂層としては、無色透明でもよいが着色されていることが好ましい。着色すれば、化粧シート全体の色調を調整できる他に、化粧シートを他の基材に貼合せて使用する場合に、基材の色、汚れ、傷などを隠蔽することができるからである。」

3.刊行物3
同じく、特開平9-109333号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種家具類や建築内装材等に装飾或いは表面保護の目的で貼着される化粧シートに関する。」

「【0011】本発明の化粧シートに使用する積層ポリエステルフイルム1’の構成は、空洞含有ポリエステル樹脂層1aとポリエステル樹脂層1bとの積層体からなる2軸延伸されたポリエステル積層フイルムである。・・・。さらに、空洞含有ポリエステル樹脂層1a面にプライマー層3aおよびポリエステル樹脂層1b面にプライマー層3bを設けた構成とすることが好ましく、空洞含有ポリエステル樹脂層1a面にプライマー層3aを介して印刷層2を設けることにより印刷インキの接着性が改良されるので、従来からのポリ塩化ビニルないしは紙からなる化粧シートの印刷に使用されているアクリルウレタン系樹脂ないしはニトロセルローズ系樹脂からなる汎用の印刷インキをそのまま使用して印刷層2を構成することができる。また、ポリエステル樹脂層1b面に形成されたプライマー層3bは、化粧シートの基板への接着性を良くするためのものである。
【0012】・・・。
【0013】プライマー層3a、3bに使用可能な樹脂としては、ポリエステル樹脂との接着性が優れると共に、アクリルウレタン系樹脂、ニトロセルローズ系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂との接着性に優れた樹脂が好ましく、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂等が最も適している。・・・。」

「【0020】
【実施例】
実施例1
厚さ50μmの表面にプライマー層が積層された空洞含有ポリエステル樹脂層とポリエステル樹脂層とが積層され2軸延伸された積層ポリエステルフイルム(東洋紡製、クリスパー)を使用し、そのポリエステル樹脂層面にグラビア印刷によりポリエステルウレタン樹脂からなるインキを使用してプライマー層を1μmの厚さに形成し、反対側のプライマー層面に、アクリルウレタン系樹脂インキによりベタ印刷層と木目絵柄印刷層とをグラビア印刷で設け木目柄の印刷シートを得た。・・・。」

第5.対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「ポリエチレンテレフタレートフイルムからなる基材シート2」は本願発明の「ポリエステル樹脂フィルムからなる基材シート」に相当し、同様に、「表面」は「一方の面」に、「通常インキによる下地絵柄層3と艶消しインキによる艶消し絵柄層4」は「絵柄模様層または着色下地層を有する絵柄模様層」に、「熱硬化性樹脂をベヒクルとする撥液性物質を含むインキを用いて撥液絵柄層5を形成した」は「撥液性を有する硬化型インキによる撥液絵柄層を形成した」に、「熱硬化性樹脂」は「硬化性樹脂」に、「表面保護層6」は「トップコート層」に、「凹部9」は「凹状部」に相当する。
絵柄模様層と撥液絵柄層との関係について、刊行物発明の絵柄模様層の「表面全面に透明艶消し樹脂層8を形成し、前記透明艶消し樹脂層8面に前記艶消し絵柄層4以外の上面部分に」形成される撥液絵柄層と、本願発明の絵柄模様層「上に」形成される撥液絵柄層とは、絵柄模様層「上に」形成される撥液絵柄層である限りにおいて、一致する。

よって、本願発明と刊行物発明とは、以下の点で一致する。
「ポリエステル樹脂フィルムからなる基材シートの一方の面に、絵柄模様層または着色下地層を有する絵柄模様層、該絵柄模様層上に撥液性を有する硬化型インキによる撥液絵柄層を形成した後、その上面に前記撥液絵柄層によりはじかれる性質を有する硬化性樹脂である透明インキを用いてトップコート層を施すことにより、前記撥液絵柄層を形成した部分の前記トップコート層がはじかれて凹状部を形成した化粧シート。」

そして、以下の点で相違する。
[相違点1]
ポリエステル樹脂フィルムについて、本願発明は「着色剤を含有」するのに対し、刊行物発明は明らかでない点。

[相違点2]
絵柄模様層と撥液絵柄層との関係について、本願発明は絵柄模様層「上に」形成される撥液絵柄層であるが、刊行物発明は絵柄模様層の「表面全面に透明艶消し樹脂層8を形成し、前記透明艶消し樹脂層8面に前記艶消し絵柄層4以外の上面部分に」形成される撥液絵柄層である点。

[相違点3]
本願発明は、「基材シートと絵柄模様層の間にポリエステル系ウレタン樹脂よりなるプライマー層を設け」、「プライマー層の厚みが、1.5?2.5g/m^(2)(ドライ)である」のに対し、刊行物発明は、該構成を有さない点。

[相違点4]
絵柄模様層について、本願発明は、絵柄模様層の「バインダー用樹脂がセルロース-アルキッド系」であるのに対し、刊行物発明は、「通常インキ」と「艶消しインキ」により形成される点。

第6.判断
相違点について検討する。

[相違点1]について;
刊行物2には、他の基材に貼合せて使用される化粧シートにおいて、絵柄層が積層されるポリエステル樹脂層が、着色されていることにより、基材の色、汚れ、傷などを隠蔽することができる点が記載されている。
刊行物発明においても、基材の色、汚れ、傷などを隠蔽することにより、利用対象が増加する。
よって、刊行物発明の「ポリエステル樹脂フィルム」として、刊行物2記載の着色されているポリエステル樹脂を適用し、その際、ポリエステル樹脂を着色する具体的な方法として、周知慣用手段である、着色剤を含有させる手段により、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]について;
本願明細書には、以下の記載がある。
「【0020】
また、絵柄模様層4と撥液絵柄層6との間にウレタン樹脂からなる透明樹脂層5を形成することで、絵柄模様層4の耐摩耗性、及び撥液絵柄層6の密着性が向上するとともに、より深い意匠性を表現可能とするものである。」
また、図1には、絵柄模様層4と撥液絵柄層6との間に、透明樹脂層5が形成されたものが記載されている。

すなわち、本願発明における絵柄模様層「上に」撥液絵柄層を形成するとは、絵柄模様層「上に」「直接」撥液絵柄層を形成することのみを言うのではなく、他の層を介するものも含むものである。
上記のとおり、刊行物発明の「通常インキによる下地絵柄層3と艶消しインキによる艶消し絵柄層4」は、本願発明の「絵柄模様層または着色下地層を有する絵柄模様層」に相当する。
そして、本願発明は、「他の層」すなわち刊行物発明の「透明艶消し樹脂層8」を介するものも含むことから、相違点2は、実質的相違点ではない。

[相違点3]について;
刊行物3には、化粧シートにおいて、ポリエステル樹脂フィルムからなる基材シートと印刷層の間に「ポリエステル系ウレタン樹脂よりなる1μmの厚さのプライマー層」を設け、印刷インキの接着性が改良される点が記載されている。
刊行物発明においても、印刷インキの接着性は、課題の一つであるから、刊行物3記載事項を適用することは、必要に応じてなしうる事項にすぎない。
その際の「プライマー層の厚み」は、ポリエステル系ウレタン樹脂の比重は、1.2g/m^(2)程度であるから、刊行物3記載事項の「1μm」を換算すると、「1.2g/m^(2)」となり、本願発明のものより、やや小さい。
しかし、具体的数値を最適なものとすることは、製品化にあたり、当然のことであって、発明の詳細な説明をみても、「1.5?2.5g/m^(2) (ドライ)」と特定することに、格別の技術的意義ないし顕著な効果があるとは認められない。
よって、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点4]について;
刊行物発明において、「通常インキ」として「セルロース系」が例示されて(段落0011)いる。
また、印刷用の「インキ」として、セルロース-アルキッド系」は、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-187828号公報の段落0018、同じく特開平6-166159号公報の段落0022にみられるごとく周知である。
よって、かかる周知技術を踏まえ、相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、これら相違点を総合しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。

請求人は、回答書で、「異なる材料からなる層間を接着させるプライマー層は各層の材料に応じて良好な接着性を示す材料の発見とその適切な塗布量の発見が必要であり、上記ベストミックスを見出すことにより良好な接着性が得られる」旨、主張する。
しかし、「材料の発見」、「適切な塗布量」、いずれも、相違点3として検討したとおり、格別なものではなく、「ベストミックス」についても、発明の詳細な説明に、その根拠を見出すことはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

以上、本願発明は、刊行物発明、刊行物2事項、刊行物3事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-12 
結審通知日 2014-03-18 
審決日 2014-03-31 
出願番号 特願2009-238307(P2009-238307)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 紀本 孝
千葉 成就
発明の名称 木質系基材用化粧シート  
代理人 藤枡 裕実  

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