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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1287906
審判番号 不服2013-12832  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-04 
確定日 2014-05-14 
事件の表示 特願2010-545115「エタノールを使用したクリーンガソリン及びバイオエーテルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日国際公開、WO2009/099848、平成23年 4月 7日国内公表、特表2011-511132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成21年1月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 平成20年2月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年10月30日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月7日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明

本願請求項1?13に係る発明は、平成25年2月19日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項13】
触媒の存在下で、エタノールと、アルカンとオレフインを含む少なくとも1つのガソリン留分とを化学混合及びスプラッシュ混合で接触させ、エチルエーテルとアルカンと未反応オレフインと未反応エタノールとを含む燃料混合成分を生成する接触工程と、
燃料混合物を、ガソリン又はガソリンブレンド基材として使用するために回収する回収工程と、
を備えている燃料の製造方法。」

3.引用刊行物の記載事項

原査定の拒絶理由において、引用文献7として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特公昭48-23325号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)「特許請求の範囲
1 クラツキング帯域からの流出物を少なくとも第1流及び第2流を包含する複数の流に分留し、而して、上記第1流は約15?170°Fの範囲で沸とうし、且つ上記流出物中に存在するC_(4)?C_(6)第3級オレフインの主要部分を含有するものであり、次に上記第1流をエーテル化触媒の存在下に低級アルコールと接触させて上記第1流中の第3級オレフインの実質的部分をエーテルに変換し、次にエーテル-含有第1流を約15?425°Fの範囲で沸とうする少なくとも1つの炭化水素流と集合させて、減少された揮発性と大気反応性を有するガソリンを形成することよりなる減少された揮発性と大気反応性を有する高オクタン価ガソリンの製造方法。」(特許請求の範囲)

(b)「本発明方法のクラツキング帯域として接触分解器を使用することが好ましい。」(4欄37、38行)

(c)「本発明のクラツキング工程において、クラツキング反応器は蒸留コラムと連結しており、この蒸留コラムで流出物が本発明方法における15?170°Fで沸とうする留分を包含する多数の留分に分離される。
第3級C_(4)?C_(6)オレフインの主要部分を含有する15?170°Fカツトは次に第3級C_(4)?C_(6)オレフインを出来るだけ大量の部分をエーテルに変換するためにエーテル化触媒の存在下に低級アルコールと接触させる。」(5欄13?23行)

(d)「本発明の好適なエーテル化触媒は比較的高分子量、水-不溶性で且つ官能基として少なくとも1つの-SO_(3)H基を含有する炭素質物質である。
・・・・・・
樹脂の粒子寸法は特定の範囲の寸法で連想される操作上の利点から選ばれる。小型(200?400メツシユ)はオートクレープ操作にしばしば使用されるが、10?50或いはそれ以上粗いメツシユ寸法が固定床或いはスラリー反応器に使用するに一層好ましく見える。バッチ方式における触媒濃度範囲は所望の触媒効果をうるに十分なものであるべきであり、例えば反応剤の重量で約0.5乃至50重量%である。好適な範囲は約1乃至25重量%(乾燥ベース)例えば5%である。
連続反応器における触媒濃度は容量による毎時空間速度によつて限定しうる」(5欄29行?6欄31行)

(e)「エーテルは炭化水素混合物中の第3級オレフインと単官能性或は多官能性の第1級アルコールとの反応により形成される。第3級オレフイン1モル当り約0.1?100モルの第1級アルコールの割合がエーテル化に使用しうるが、一般的量は第3級オレフインの1モル当り約0.25乃至10モル、好ましくは約1乃至10モルの第1級アルコールである。第3級オレフインに対するアルコールの高割合は混合された炭化水素原料流から除去されるオレフインの量を増加する。
単官能性或は多官能性の第1級アルコールは本発明方法のエーテル化工程に好適である。第2級アルコールは第3級オレフインと反応するけれども、第1級アルコールは同炭素数の第2級アルコールよりも著しく反応性であることが予期されるべきである。しかし乍ら、低炭素数の第2級アルコールは高炭素数の第1級アルコールよりも一層反応性でありうる。経済性及び揮発の容易さが一般に低級アルコール、即ち分子当り1乃至6個の炭素原子を有するものの使用を示唆する。アルコールの選択に影響を与えるもう1つの因子に過剰のアルコールをエーテル化反応塊から分離することが好ましい場合におけるアルコールと、アルコールとそのエーテルとり共沸混合物との沸点範囲の差異がある。一般にエタノールとメタノールは経済性及び一般にこれらが高い交換率を与えることから好適である。」(6欄36行?7欄18行)

(f)「クラツキング反応器流出物の15?170°F部分を分離し、ガソリンに混和する前にエーテル化する本発明の方法は全体的接触分解流出物のエーテル化において従来見られなかつた重要な且つ予期されざる利益をもたらすことは明白である。」(9欄39?43行)

(g)「クラツキング反応器流出物の元の15?170°F留分のオレフイン部分は一般に第3級オレフインが主要部分である。しかし乍ら、第3級オレフインより著しく反応性の少ない他の形のオレフインからなる部分は第3級オレフインを炭素質触媒上でアルコールと反応させる反応器内を実質的に未変化のまま通過する。これらの未反応オレフインはエーテル化反応生成物中に現われ、総オレフイン含有量は第3級オレフインの反応によつて元の15?170°F留分に比較して著しく減少されるけれども残存するオレフインは減少するがまだスモツグの形成の潜在的存在を見せる。その結果、ガソリン混合に送る生成物の最終オレフイン含有量を最少にすることが望ましい。
従って、本発明方法の1具体例においては、形成されたエーテルと全ての未反応炭化水素を包含し、そこから未反応アルコールを分離するか或は分離しないでエーテル化物質をアルキル化帯域に送り、ここでアルキル化触媒の存在下に適当なアルカリ化しうる炭化水素と接触させる。」(9欄44行?10欄44行)

(h)「軽質(C_(4)?C_(6))イソパラフインは一般にガソリン混合物中の成分のごとく見え、総混合物の20%位を構成しうる。・・・・従って、本発明方法の具体化において、少なくとも1つの軽質イソパラフインをアルキル化しうる炭化水素として使用することが好ましい。特に好適なものはイソブタン及びイソペンタンであり、これらは接触分解器からの15?170°Fカツト中に多少の量で存在するので全く好ましい。」(11欄32?12欄1行)

4.当審の判断

(1)引用発明

上記引用刊行物の摘記事項(a)より、引用刊行物には、
「クラツキング帯域からの流出物を少なくとも第1流及び第2流を包含する複数の流に分留し、而して、上記第1流は約15?170°Fの範囲で沸とうし、且つ上記流出物中に存在するC_(4)?C_(6)第3級オレフインの主要部分を含有するものであり、次に上記第1流をエーテル化触媒の存在下に低級アルコールと接触させて上記第1流中の第3級オレフインの実質的部分をエーテルに変換し、次にエーテル-含有第1流を約15?425°Fの範囲で沸とうする少なくとも1つの炭化水素流と集合させて、減少された揮発性と大気反応性を有するガソリンを形成することよりなる減少された揮発性と大気反応性を有する高オクタン価ガソリンの製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明と引用発明との対比(一致点・相違点)

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「高オクタン価ガソリン」は、本願発明における「燃料」に相当するし、引用発明における「第1流」は、クラッキング帯域からの流出物より分留され、約15?170°Fの範囲で沸とうし、且つ上記流出物中に存在するC_(4)?C_(6)第3級オレフインの主要部分を含有するものであるから、本願発明における「オレフィンを含むガソリン留分」に相当するものと解することができる。
また、引用発明における「エーテル-含有第1流」は、約15?425°Fの範囲で沸とうする炭化水素流という他のガソリン留分と集合(混合)され、最終的に燃料としての高オクタン価ガソリンとなることから、該「エーテル-含有第1流」は、本願発明における「燃料混合物」に相当するとともに、高オクタン価ガソリンの一部として、あるいは、上記した他のガソリン留分としての炭化水素流に添加されるいう意味においては、ある種のガソリンブレンド基材として、使用されるものであるといえる。そして、当該「エーテル-含有第1流」の成分は、燃料に混合するために、事前にエーテルを含有するように調製されているという意味で、本願発明における「エーテルを含む燃料混合成分」と言い得るものである。
さらに、引用発明には、「第1流をエーテル化触媒の存在下に低級アルコールと接触させ」る工程の詳細については明示はないものの、当該工程は、何らかのエーテル化反応器内において行われることは明らかであるから(上記摘記事項3.(d)、(g)における「反応器」に関連する記載も参照されたい。)、引用発明においても、上記工程は、エーテル化反応器内で実施され、当然のことながら、エーテル化反応生成物である「エーテル-含有第1流」は、当該反応器から回収された上で、他のガソリン留分との混合に供されると考えるのが妥当である。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「(エーテル化)触媒の存在下で、低級アルコールと、オレフィンを含むガソリン留分とを接触させ、(該低級アルコールとオレフィンとが反応して得られた)エーテルを含む燃料混合成分を生成する接触工程と、
(この燃料混合成分を有する)燃料混合物を、ガソリン又はガソリンブレンド基材として使用するために(エーテル化反応器から)回収する工程と、
を備えている燃料の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

<相違点1>
本願発明は、低級アルコールとして、エタノールを用いるのに対して、引用発明はこの点の明示がない点。
<相違点2>
本願発明のガソリン留分は、アルカンを含むとともに、燃料混合成分中にも該アルカンが存在しているのに対して、引用発明は、その点の明示がない点。
<相違点3>
本願発明は、エタノールとガソリン留分とを、化学混合及びスプラッシュ混合で接触させているのに対して、引用発明は、その点の明示がない点。
<相違点4>
本願発明の燃料混合成分は、未反応オレフィンと未反応エタノールを含んでいるのに対して、引用発明は、その点の明示がない点。

(3)本願発明と引用発明との対比(相違点の検討)

(3-1)相違点1について
上記引用刊行物の摘記事項3.(e)には、経済性や第3級オレフィンとの反応性の観点から、低級アルコールの中でも、エタノール及びメタノールが好適である旨教示されているから、エタノールは、引用発明における低級アルコールとして、最も有力な候補の一つと位置付けられていることが理解できる。そして、このような教示に従い、引用発明における低級アルコールとして、エタノールを選択することは、当業者にとって容易なことというべきである。

(3-2)相違点2について
上記4.(2)において説示したとおり、引用発明における第1流は、クラッキング帯域からの流出物より分留されるガソリン留分であるから、一般に、ガソリン留分を構成する主要な炭化水素として知られるアルカン(パラフィン)を含むことはいうまでもない(上記摘記事項3.(h)も参照されたい。)。
加えて、引用発明は、クラッキング手法を特定するものではないが、クラッキング手法の一つである接触分解法は、高オクタン価ガソリンを製造するための代表的な手法であって、引用発明が主として想定するものと解されるところ(上記摘記事項3.(b)、(f)、(h)参照)、当該接触分解法により得られる接触分解ガソリンの低沸点留分は、側鎖を有するオレフィン及びイソパラフィン(アルカン)が多いことがよく知られている(要すれば、社団法人石油学会編「新石油精製プロセス」(昭和59年12月25日発行)、第55?63頁の「4接触分解 4.1一般」の項のうち、特に第59、60頁の「6)製品」の項参照)。そして、引用刊行物の上記摘記事項3.(h)から、実際に接触分解法により得られる15?170°Fカット(第1流)中には、イソブタンやイソペンタンといったイソパラフィン(アルカン)が存在することが確認できる。
このように、引用発明における、ガソリン留分である第1流が、アルカンを含むことは自明な事項というべきであり、かつ、該アルカンは、該第1流中の第3級オレフィンと低級アルコールとのエーテル化反応には特に関与しないのであるから、当該反応後もエーテル-含有第1流の成分としてそのまま存在するものと解される。
よって、当該相違点2に関連する、アルカンについての技術的事項は、引用発明が既に具備する事項というべきであるから、この相違点は、実質的なものではない。

(3-3)相違点3について
上記4.(2)において説示したとおり、引用発明における「第1流をエーテル化触媒の存在下に低級アルコールと接触させ」る工程は、何らかのエーテル化反応器内において行われることは明らかであるところ、当該工程において、第1流と低級アルコールとは、反応器への供給前、あるいは、反応器内における接触の際、必然的に、物理的な混合、及び、エーテル化反応による化学的な結合(混合)を伴うのであるから、このような混合形態はまさしく、本願発明でいう、化学混合(化学的混合)及びスプラッシュ混合(物理的混合)にほかならないというべきである。
よって、当該相違点3に関連する、両者の技術的事項の相違についても、実質的なものとはいえない。なお、アルコールの種類については、低級アルコールとしてエタノールを選択するか否かに帰着する問題であり、上記「(3-1)相違点1について」において既に検討したとおりである。
ここで、審判請求人は審判請求書において、本願請求項13に係る発明に関し、引用刊行物(引用文献7)には、化学混合及びスプラッシュ混合についての記載はない旨主張しているが、その根拠は定かでなく、上記のとおり、引用発明も本願発明と同様の混合形態を採用していることは明らかであるから、当該主張は採用の限りでない。

(3-4)相違点4について
引用発明は、「上記第1流中の第3級オレフインの実質的部分をエーテルに変換」するものであって、第3級オレフィンの全てをエーテルに変換するものではないから(上記摘記事項3.(c)も参照されたい。)、一部オレフィンは未反応のまま残存する。
また、引用発明におけるエーテルへの変換に際しては、第3級オレフィンに対して、アルコールを高割合にて混合することから(上記摘記事項3.(e)参照)、該変換後には、少なからず、未反応のアルコールも残存することは容易に予想されるところである。
そして、上記変換により生成された「エーテル-含有第1流」は、その後、必須の追加工程を経ることなく、他の炭化水素流と合流され、高オクタン価ガソリンとなるものであるから、引用発明における「エーテル-含有第1流」は、その成分(燃料混合成分)として、未反応のオレフィンと未反応のアルコールを含むと解するのが相当である。
これに加えて、引用発明は、上述のとおり、エーテル-含有第1流を、必須の追加工程を経ることなく(未反応のオレフィンと未反応のアルコールを含んだまま)、他の炭化水素流と合流することを基本とするものであるが、引用刊行物の上記摘記事項3.(g)には、エーテル化処理後も残存する未反応のオレフィンは、さらなる低減が望まれることから、これを望むときは(つまり、所望により)、該未反応オレフィンを低減すべく、アルキル化工程を追加的に行ってもよいこと、さらには、このアルキル化工程に供するに際し、残存する未反応のアルコールを分離してもよいし、分離しなくてもよいことが教示されているから、このような教示もまた、引用発明における「エーテル-含有第1流」には、未反応のオレフィンと未反応のアルコールとが存在することを裏付けるものである。なお、審判請求人は当該記載について、「(1)そこから(生成した燃料混合物から)未反応アルコールを分離するか」、「(2)或は分離しないでエーテル化物質をアルキル化帯域に送り、ここでアルキル化触媒の存在下に適当なアルカリ化しうる炭化水素と接触させる」と解しているようであるが、この解釈は文意に反し妥当ではない。そして、引用刊行物の12欄9?11行は、「エーテル化に続いて、エーテル化した物質をガソリン原料に混合する。」、又は(所望により)「エーテル化及びアルキル化に続いて、エーテル化した及びアルキル化した物質をガソリン原料に混合する。」との意味に解すべきものである。
これらを考え合わせると、本願発明と引用発明とは、当該相違点4に関連する技術的事項において相違するとはいえず、当該相違点も実質的なものではない。なお、アルコールの種類については上記「(3-1)相違点1について」において既に説示したとおりである。

(4)小括

上記検討のとおり、本願発明と引用発明とは、上記相違点1?4に係る技術的事項において一応相違するものの、実質的な相違点は、相違点1に係る技術的事項であるといえ、当該相違点1に関連する本願発明の技術的事項についても、上述のとおり、引用刊行物の記載事項に照らすと、引用発明から当業者が容易に想到し得るものと認められる。
そして、本願発明が、上記相違点1?4に係る技術的事項を具備することにより得られる作用効果も格別でない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、引用刊行物に記載された引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-03 
結審通知日 2013-12-10 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2010-545115(P2010-545115)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 菅野 芳男
日比野 隆治
発明の名称 エタノールを使用したクリーンガソリン及びバイオエーテルの製造方法  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  

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