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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1287985
審判番号 不服2013-9237  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-20 
確定日 2014-05-19 
事件の表示 特願2008-555155「安全性が向上した非水電解液及び電気化学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月23日国際公開、WO2007/094626、平成21年 7月23日国内公表、特表2009-527088〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年 2月15日(パリ条約による優先権主張 2006年 2月15日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成24年 6月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月 2日付けで特許請求の範囲についての手続補正がされたが、平成25年 1月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年 5月20日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに、特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成25年 7月 8日付けで前置報告書に基づく審尋がされ、同年10月 9日付けで回答書が提出されている。


第2 平成25年 5月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成25年 5月20日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I. 補正の内容
平成25年 5月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項を含む(下線部は補正部分である。)。

(A)「【請求項1】
リチウム塩及び溶媒を含んでなる非水電解液であって、
下記の化学式1で表される化合物又はその分解産物を電解液中に1重量%?10重量%と、
下記の化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物を電解液中に1重量%?40重量%とを含んでなることを特徴とする、非水電解液。
【化1】



[前記式中、
X、Yはそれぞれ独立的に水素、塩素又はフッ素であり、
X及びYが全部水素である場合は除く。]
【化2】


[前記式中、
Rは(CH_(2))_(n)-CH_(3)であり、
n=1?11の整数である。] 」

(B)「【請求項1】
リチウム塩と、溶媒と、及び添加剤とを含んでなる非水電解液であって、
負極にSEI層(保護層)を形成する添加剤として、下記の化学式1で表される化合物又はその分解産物を電解液中に1重量%?10重量%と、及び 正極に着物を形成する添加剤として、下記の化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物を電解液中に1重量%?40重量%とを含んでなることを特徴とする、非水電解液。
【化1】


[前記式中、
X、Yはそれぞれ独立的に水素、塩素又はフッ素であり、
X及びYが全部水素である場合は除く。]
【化2】



[前記式中、
Rは(CH_(2))_(n)-CH_(3)であり、
n=1?11の整数である。] 」


II. 補正の目的
上記の補正事項は、本件補正前の「リチウム塩及び溶媒を含んでなる非水電解液」を、「リチウム塩と、溶媒と、及び添加剤とを含んでなる非水電解液」にする補正事項aと、
本件補正前の「下記の化学式1で表される化合物又はその分解産物を電解液中に1重量%?10重量%と、下記の化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物を電解液中に1重量%?40重量%とを含んでなる」を、「負極にSEI層(保護層)を形成する添加剤として、下記の化学式1で表される化合物又はその分解産物を電解液中に1重量%?10重量%と、及び 正極に着物を形成する添加剤として、下記の化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物を電解液中に1重量%?40重量%とを含んでなる」にするという補正事項bとからなる。

ここで、上記補正事項aは、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「リチウム塩及び溶媒を含んでなる非水電解液」に、「添加剤」も含むとの限定を加える補正事項であるし、上記補正事項bは、発明特定事項である「下記の化学式1で表される化合物又はその分解産物」(以下、「化学式1で表される化合物又はその分解産物」という。)、「下記の化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物」(以下、「化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物」という。)について、それぞれ、「負極にSEI層(保護層)を形成する添加剤として」、「正極に着物を形成する添加剤として」との限定を加える補正事項である。

そして、これらの補正事項は、いずれも当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、本件補正の前後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更はないので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正であるか)について、以下に検討する。


III. 独立特許要件について
(1) 本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記I.(B)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2) 刊行物及びその記載事項
原査定、及び、前置報告書に基づく審尋にて示した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-72003号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている(「…」は記載の省略を表す。)。

ア.「【0001】 本発明はリチウム二次電池用電解液及びこれを含むリチウム二次電池に係…るものである。」

イ.「【0080】 (実施例21)
モノマー…1.5重量%と、開始剤…をモノマー対比5重量%の量で電解液である1.3M LiPF_(6)が溶解されたエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びバレロニトリルの混合溶媒(3/5/2体積比)98.5重量%に添加して10分間攪拌した。
【0081】 LiNi_(0.8)Co_(0.1)Mn_(0.1)O_(2)とLiCoO_(2)を6:4重量比で混合した正極活物質を使用し…て正極を製造し、天然黒鉛負極活物質…を使用して負極を製造した。製造された正極、負極及びセパレータを巻き取って製造した組立体(ゼリーロール)をアルミニウムからなるパウチ外装制に入れて部分密封して電池組立体を完成した。前記電解液を利用して電池を組立てた。前記電解液使用量は2.62gとした。組立てられた電池を70℃で4時間放置して、ゲルポリマー電解液が形成された電池を製造した。」

ウ.「【0093】 (実施例33)
フルオロエチレンカーボネートを液体電解液対比3%を追加することを除いては、実施例21と同様にして製造した。」

エ.「【0023】 また、本発明の電解液は、添加剤として、例えば、ハロゲン、シアノ基(CN)及びニトロ基(NO_(2))からなる群より選択される置換基を有するカーボネート…などをさらに含んでもよい。このような添加剤をさらに添加することで、高温スウェリング特性、容量、寿命、低温特性などの電気化学的特性がより優れた電池を提供できるので好ましい。また、カーボネート添加剤としては、…フルオロエチレンカーボネートが最も好ましい。…

【0025】 前記カーボネート添加剤は、電解液の総重量100重量部に対して好ましくは0.01乃至10重量部、より好ましくは0.01乃至5重量部含まれる。前記カーボネート添加剤の使用量が0.01重量部未満であると、電池内部でのガス発生抑制効果を期待し難く、10重量部を超えると高温寿命が悪化する傾向にあり、高温で膨らむ問題も発生し易くなる。」

オ.「【0103】 *サイクル寿命特性
前記実施例21乃至36…の電池を1Cに500回充放電した後、サイクル寿命(残存容量%)の特性も評価し…た。」

(3) 刊行物1に記載された発明
ア. 上記(2)ア.?ウ.によれば、実施例33のリチウム二次電池用電解液は、モノマー1.5重量%と、開始剤をモノマー対比5重量%の量で、電解液である1.3M LiPF_(6)が溶解されたエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びバレロニトリルの混合溶媒(3/5/2体積比)98.5重量%に添加した液体電解液に、フルオロエチレンカーボネートを前記液体電解液対比3%追加して10分間攪拌したものである。

イ. ここで、上記(2)エ.によれば、フルオロエチレンカーボネートは電解液の総重量100重量部に対して好ましくは0.01乃至10重量部、より好ましくは0.01乃至5重量部含まれる。

ウ. そうすると、上記ア.における、「液体電解液に、フルオロエチレンカーボネートを前記液体電解液対比3%追加し」たとは、液体電解液に、フルオロエチレンカーボネートを、前記液体電解液100重量%に対して3重量%追加したとのこととなる。

エ. したがって、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「モノマー1.5重量%と、開始剤をモノマー対比5重量%の量で、電解液である1.3M LiPF_(6)が溶解されたエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びバレロニトリルの混合溶媒(3/5/2体積比)98.5重量%に添加した液体電解液に、フルオロエチレンカーボネートを前記液体電解液100重量%に対して3重量%追加して10分間攪拌した、リチウム二次電池用電解液。」(以下、「引用発明1」という。)

(4) 本件補正発明と引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比するに、引用発明1の「 LiPF_(6)」、「リチウム二次電池用電解液」、「フルオロエチレンカーボネート」、「バレロニトリル」は、それぞれ、本件補正発明の「リチウム塩」、「リチウム塩と、溶媒と、及び添加剤とを含んでなる非水電解液」、「化学式1で表される化合物又はその分解産物」、「添加剤として」の「化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物」に相当し、また、 引用発明1における、「フルオロエチレンカーボネート」が電解液中に含まれる量を電解液中の重量%に換算すると、2.9重量%であるし、「バレロニトリル」が電解液中に含まれる量を電解液中の重量%に換算すると、12.2重量%であるから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
リチウム塩と、溶媒と、及び添加剤とを含んでなる非水電解液であって、
化学式1で表される化合物又はその分解産物を電解液中に1重量%?10重量%と、及び
添加剤として、化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物を電解液中に1重量%?40重量%とを含んでなる、非水電解液。

<相違点>
相違点1
化学式1で表される化合物又はその分解産物が、本件補正発明では、「負極にSEI層(保護層)を形成する添加剤」であるのに対し、引用発明1では、添加剤ではあるものの、負極にSEI層(保護層)を形成する添加剤であるのか不明である点。

相違点2
化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物が、本件補正発明では、「正極に着物を形成する添加剤」であるのに対し、引用発明1では、混合溶媒の成分とされており、正極に着物を形成する添加剤であるのか不明である点。


(5) 相違点についての判断
(5-1) 相違点1について
化学式1で表される化合物又はその分解産物は、本件補正発明では、電解液中に1重量%?10重量%含まれ、そして、本願明細書によれば、初期充電時に負極にSEI層(保護層)を形成するところ(【0017】、【0024】)、引用発明1では、リチウム二次電池用電解液中に2.9重量%含まれ、そして、引用発明1であるリチウム二次電池用電解液は、上記(2)イ.?ウ.、オ.によれば、充放電されるリチウム二次電池で用いられる。

そうすると、化学式1で表される化合物又はその分解産物は、引用発明1においても、本件補正発明と同様に、初期充電時に負極にSEI層(保護層)を形成することとなるから、相違点1は実質的な相違ではない。

(5-2) 相違点2について
化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物は、本件補正発明では、添加物として、電解液中に1重量%?40重量%含まれ、そして、本願明細書によれば、本件補正発明である電解液に、集電体上に正極活物質が塗布された正極を浸漬した後、60?90℃の温度範囲での高温処理により、または、30?40℃で長期間保存する高温処理により、正極に着物を形成するところ(【0035】?【0037】)、引用発明1では、混合溶媒の成分として、リチウム二次電池用電解液中に12.2重量%含まれ、そして、上記(2)イ.によれば、引用発明1であるリチウム二次電池用電解液を利用して組立てられた電池は、70℃で4時間放置される。

そうすると、化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物は、引用発明1においても、本件補正発明と同様に、電解液中に適量含まれ、その電解液に、集電体上に正極活物質が塗布された正極を浸漬した後、高温処理されており、そして、このような処理によると、正極に着物を形成することとなるから、相違点2も実質的な相違ではない。

(6) 小括
以上のとおり、本件補正発明と引用発明1との間に差異はなく、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

また、仮に、実質的な相違があったとしても、その相違は些細なことであって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

IV. まとめ
したがって、上記補正事項a、bを含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 原査定の理由についての検討
I. 本願発明
本願の平成25年 5月20日付けの手続補正は、上記のとおり、却下された。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、平成24年11月 2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その発明は上記「第2 I.(A)」に【請求項1】として示すとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。


II. 原査定の理由
原査定の理由は、

「本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」、若しくは、
「本願発明は、本願の優先日前に頒布された、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」というものを含む。

III. 当審の判断
(1) 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、上記「第2 III.(2)」に記載した、刊行物1であるから、上記「第2 III.(3) 」に記載されたとおりである、以下の発明が記載されていると認められる。

「モノマー1.5重量%と、開始剤をモノマー対比5重量%の量で、電解液である1.3M LiPF_(6)が溶解されたエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びバレロニトリルの混合溶媒(3/5/2体積比)98.5重量%に添加した液体電解液に、フルオロエチレンカーボネートを前記液体電解液100重量%に対して3重量%追加して10分間攪拌した、リチウム二次電池用電解液。」(以下、「引用発明1」という。)

(2) 本願発明と引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比するに、引用発明1の「 LiPF_(6)」、「リチウム二次電池用電解液」、「フルオロエチレンカーボネート」、「バレロニトリル」は、それぞれ、本願発明の「リチウム塩」、「リチウム塩及び溶媒を含んでなる非水電解液」、「下記の化学式1で表される化合物又はその分解産物」(以下、「化学式1で表される化合物又はその分解産物」という。)、「下記の化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物」(以下、「化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物」という。)に相当し、また、 引用発明1における、「フルオロエチレンカーボネート」が電解液中に含まれる量を電解液中の重量%に換算すると、2.9重量%であるし、「バレロニトリル」が電解液中に含まれる量を電解液中の重量%に換算すると、12.2重量%であるから、両者は、以下の点で一致しており、相違は認められない。

<一致点>
リチウム塩及び溶媒を含んでなる非水電解液であって、
化学式1で表される化合物又はその分解産物を電解液中に1重量%?10重量%と、
化学式2で表される脂肪族モノニトリル化合物を電解液中に1重量%?40重量%とを含んでなる、非水電解液。

よって、本願発明と引用発明1との間に相違はなく、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮に相違があったとしても、その相違は些細なことであって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


IV. むすび
以上のとおり、原査定における他の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-12 
結審通知日 2013-12-13 
審決日 2014-01-07 
出願番号 特願2008-555155(P2008-555155)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐武 紀子原 和秀  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 山田 靖
小川 進
発明の名称 安全性が向上した非水電解液及び電気化学素子  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 堅田 健史  

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