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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1288047
審判番号 不服2012-1744  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-30 
確定日 2014-05-22 
事件の表示 特願2007-546855「体液中の検体の測定に使用する透過分光システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月22日国際公開,WO2006/065898,平成20年 7月 3日国内公表,特表2008-523413〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年12月12日(パリ条約による優先権主張2004年12月13日,米国(US))を国際出願日とする出願であって,平成23年5月10日付けで拒絶理由が通知され,同年8月12日に手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされ,同年9月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後,当審において,平成25年7月22日付けで拒絶の理由が通知され,これに対して,同年11月25日に意見書が提出されるとともに,同日付けで発明の詳細な説明について手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年8月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】
流体試料中の検体の濃度を測定するのに使用される全透過分光システムであって,
実質上光学的に透明な材料で構成された,分析される試料を受けるための試料細胞受け領域と,
光源と,
前記光源から光を受けるようになっており,実質的にコリメートされた光ビームで前記試料細胞受け領域を照らすようになっているコリメーティングレンズと,
第1の広がり角で前記試料を通して透過された通常光および散乱光を受けるようになっており,第1の受光角を有する光を受け,前記第1の広がり角より小さい第2の広がり角を有する光を出力する第1のレンズと,
前記第1のレンズから光を受けるようになっており,実質的にコリメートされた光ビームを出力するようになっている第2のレンズと,
前記第2のレンズによって出力された光を測定するようになっており,前記検体の濃度の測定を補助する情報を提供する検出器と,を備え, 前記試料細胞受け領域が,前記コリメーティングレンズと前記第1のレンズとの間に位置するシステム。」(下線は補正箇所を示す。))

第3 当審拒絶理由の概要
(1)記載要件
特許請求の範囲の請求項1には、
「・・・前記検体の濃度の測定を補助する情報を提供する検出器と、・・・」と記載されているが、「検体の濃度の測定を補助する情報」は発明の詳細な説明には記載がなく、何を意味しているのか明確でない。
したがって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)進歩性
本件出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特公平3-47099号公報(引用刊行物1)、特開2002-243642号公報(引用刊行物2)、特表2000-501182号公報(引用刊行物3)、特開平6-18522号公報(引用刊行物4)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 記載要件について
請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において「この『検体の濃度の測定を補助する情報』とは、検体の濃度を測定するために用いられるあらゆる情報、具体的には試料を透過した光出力を測定した情報やその測定情報と比較するための、試料が無い状態での光出力を測定した基準測定情報などを指します。これらは互いに組み合わせて用いる事により検体の濃度測定が成立しますので、それぞれを『補助する情報』と表現しました。」と主張する。
しかし、「検体の濃度の測定を補助する情報」は、本願明細書には記載がなく、一般的な用語でもない。
仮に、「検体の濃度の測定を補助する情報」が、請求人の主張する基準測定情報を含んでいるとしても、それ以外にも種々想定できるので、「検体の濃度の測定を補助する情報」は、明りょうであるとはいえない。
したがって、特許請求の範囲の請求項1?7は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 引用刊行物記載の発明 (下線は当審で付与した。)
(1) 本願優先日前に頒布され,原査定および当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特公平3-47099号公報(以下,「引用刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(1ーア)「特許請求の範囲
1 測定すべき検査部位へ光を照射する光源と,該光源の照射光から,測定スペクトル帯域にある1575±15nm,1765±15nm,2100±15nm,2270±15nmから選択したいづれか1つの近赤外線及び1000?2700nmの基準スペクトル帯域にある近赤外線を分光する手段と,前記検査部位を透過もしくは後方散乱した光エネルギーを集める集光手段と,該集光手段で集めた前記測定スペクトル帯域と基準スペクトル帯域の近赤外線を電気信号に変換する検出手段と,該検出手段の電気信号からグルコース濃度を算出する演算手段を備えてなることを特徴とするグルコースの測光検出装置。」(第1頁左欄1?13行)

(1ーイ)「産業上の利用分野
本発明は,糖尿病の疑いがある患者の血流もしくは生体組織におけるグルコースを測光検出するための測光検出装置とに関する。詳述すれば,本発明によるグルコースの測光検出は,光度計を用いて行うものであつて,特有のグルコース吸収帯が含まれているスペクトル領域における近赤外線吸収量を測定し,この近赤外線吸収量の測定値を,グルコースが近赤外線をほとんど,もしくは,全く吸収しないスペクトルの帯域から得た基準値と比較することによつて行うものであつて,グルコースを含有する周辺組織ないし血液の成分によるバツクグラウンド吸収による誤差の影響を減少させているか,または,定量的に補償しうる程度にしている。」(第1頁右欄13行?第2頁左欄2行)

(1ーウ)「発明の構成
本発明は前述の諸問題点を解消すべくなされたものである。つまり,1000?2500nmの範囲にある波長で操作すると,相当の皮下深度における検査対象組織までの照射光の浸透と,グルコース濃度の変化を確認するのに充分な感度とが同時に達成され,それも検査対象組織に火傷を負わすことなく達成することができるのがわかつた。例えば0.5?数ミリの深度まで照射光を浸透させると,患者の血流のグルコースが欠乏しているか,または,過剰なのか(低血糖症か高血糖症か)について,患者の症状情報が得られる。従つて,本発明は,糖尿病に患つている,或いはその疑いのある患者のグルコース濃度を非侵襲状態(生体組織を取出すなりにその一部分を破壊しない状態を意味する。)で経皮検査を行う分光光度測定装置を提供するのを目的とするものである。本発明による装置においては,方向性のある光学光源で患者の生体の一部分を照射し,その一部分の皮下における生体組織の測定部位から透過または拡散反射(後方散乱)して来た光エネルギーIを収集するとともに電気信号に変換する。収集した光エネルギーは,グルコースが吸収しやすい測定信号波長λ_(G)を含む少なくとも1つの第1種スペクトル帯域と,それによるバツクグランド吸収による基準信号波長λ_(R)を含む少なくとも1つの第2種スペクトル帯域とを含んでおり,特に組織にはグルコースが含まれているから,グルコースによる光吸収量は零,もしくは無視しうる波長を選ぶ。前者の第1種スペクトル帯域と後者の第2種スペクトル帯域とを夫々「測定スペクトル帯域」と「基準スペクトル帯域」と呼ぶことにするが,測定および基準スペクトル帯域での吸収量にIG,IRに相当する前記測定および基準信号は演算回路にてグルコース濃度情報に処理されて出力される。本発明は斯る測定装置において,前記測定および基準スペクトル帯域が1000?2500nmの近赤外線帯域にあり,しかも,λ_(G)が1575±15,1765±15,2100±15,2270±15nmのいづれかの波長であり,かつλ_(R)も1100?1300nmの範囲内またたは,測定スペクトル帯域の両側にあつて,グルコースが顕著に吸収する波長域以外にある狭い範囲のいずれかにある波長であることを特徴としている。」(第3頁右欄18行?第4頁左欄16行)

(1ーエ)「第1図を参照しながら前述の装置の実施例を詳述すれば,この装置は概して,光源系1と検出系2との2つの部分で構成されている。光源系1は,例えばハロゲンランプよりなる光源3と,例えば反射鏡4および,光ビーム6を生ずる集光レンズ5とからなる光偏向手段とで構成されている。光ビーム6は偏光でもなく,また可干渉光でなくても良いが,所望によつて偏光もしくは干渉光であつても良い。帯域が広く連続したスペクトルを有する光を使う場合,主としてモノクロメータ8の回折格子8cにおける高次回折現象による不要な波長域の光を除去するためにもフイルターもしくはフイルター装置7を用いる必要がある。・・・9はモノクロメータの出射スリツト8bから取出された単色ビームであつて,モーター11により回転駆動されるチヨツパーの回転セクター10を継続的に通過してパルス状の励起ビーム9となる。」(第5頁左欄15?右欄21行)

(1ーオ)「検出系2は,第1図においては,検査すべき人体の器官,例レば耳朶13′にあてがつたものとして示してある。この場合,複合単色ビーム9が検出系2に達するに先立つて耳朶13′を通過し,その際に耳朶13′における検査組織により部分的に吸収されたり,拡散されて減衰するようにする。前述したように,必要なスペクトル帯域での吸光体としてグルコースに匹献しうる人体組織における物質としては,水分,細胞における蛋白質や細胞間液などがあるものの,このようないわばバツクグラウンド物質の分布は一般におおむね一定しており,従つて,グルコースのスペクトルに重なつて現れるバツクグラウンド物質のスペクトルの「形状」も一定であつて,グルコースの濃度にほぼ無関係な強度(等吸収点)を指示する帯スペクトルを有している。よつて,前述したように,等吸収点でのバツクグラウンドの吸収作用(基準波長)を,入射光で走査した検査すべき器官の組織層の有効厚さに関係づければ,前述した特有のグルコースλ_(G)波長にて得た吸収特性データを正規化するのに用いる基準吸収フアクターを求めることができ,それにより,グルコースの濃度情報が最終的に得られることになる。」(第5頁右欄38?第6頁左欄16行)

(1ーカ)「検出系2は,内壁面に高反射性塗装が施されているとともに,入射口13aを備えた集光積分球体13よりなる。この球体13は,完全な円球体であつてよく,または図示のように半円球体であつてもよい(一般にウルブリヒト球と称せられる。)。この球体13の作用について説明すれば,入射口13aが検査している耳朶13′にあてがわれた状態にして使うとともに,この耳朶13′を透過ないし後方散乱した光が入射口13aを介して球体13に入るとともに,内壁面の高反射性塗装層でほとんど損失なく反射集光される。・・・幾何学的な配置(例えば第2図に示した使い方からして)の都合でどうしても必要であるとの理由でもない限り,積分球体としては半円球体よりも完全な円球体の方が望ましい。・・・この半球体に入り,かつ,その中で幾回も反射をくり返して集められた光は出射口13bから外部へ出るとともに,集光レンズ14により集光されて受光素子15に入射する。」(第6頁右欄7?第7頁左欄2行)

(1ーキ)「本発明では,積分球体とは異なつた集光手段を用いることもできる。積分球体に代わるものとしては,内部の長円曲面または放物面が鏡面仕上げになつているものがあり,この場合,内部での光の反射回数が積分球体におけるのと比べて少なくすることができるので,むしろ積分球体より集光能が良好である。」(第7頁左欄19?25行)

(1ーク)「本発明による装置の作用は前述の説明からも明らかではあるが,改めて説明すれば,先ず,着座させた患者の耳朶の内側に検出系2を,例えば接着テープ或いはストラツプを使うなりにして取付ける。その際,検出系2の入射口13aが耳朶における検査部位の組織に向くようにする。その後,適当な机,椅子の脇卓などのスタンドに載置した光源系1からの単色光を,検出系2の入射口13aに向かつて耳朶の反射側,即ち,外側から照射する。単色光,即ち,励起ビーム9は耳朶を透過した後積分球体13に入り,出射口13bを経て受光素子15に入射する。かくて,受光素子15は,入射光の強度に応じた出力信号を出す。ところで,光ビーム9は前述のように回転デイスク10によりパルス状に継続されると同時に,光ビーム9を構成する各パルス成分は単一波長,すなわち前段のモノクロメータにより交互に取出された2つかまたはそれ以上の異なつた波長である。換言すれば,光ビーム9を構成する各パルス成分は,波長1575nm,1765nm,2100nm,または2700nmを中心とする少なくとも1つの測定信号と,λ_(G)波長の両側における狭い波長範囲かまたは広い基準範囲の少なくとも1つの基準信号で構成されている。従つて,受光素子15から得られる出力信号は,光学装置のバツクグラウンド,分析対象の物質のスペクトル的なバツクグラウンド,およびグルコースの吸収値に関する情報が,チヨツパー11(出力線12b)とコンピユータ回路(入力線12a)とで制御されたプログラムに応じて繰返された複合信号となつている。」(第7頁左欄36?右欄21行)

(1-ケ)第1図には、集光手段からの光を受けるようになっている「集光レンズ14」が,実質的にコリメートされた光ビームを出力するようになっている上側レンズと、上側レンズによって出力された光を集光する下側レンズからなる構成が記載されている。

上記(1ーア)?(1ーケ)の記載と図1?10を参照すると,上記引用刊行物1には,
「測定すべき検査部位へ光を照射するハロゲンランプよりなる光源3と,光ビーム6を生ずる集光レンズ5と,
光ビーム6が入射し,単色ビームを取り出すモノクロメータ8と,
入射部と出射部を備えた,内部の長円曲面または放物面が鏡面仕上げになつている集光手段と,
上記集光手段から外部へ出る光を、
実質的にコリメートされた光ビームを出力するようになっている上側レンズと、上側レンズによって出力された光を集光する下側レンズからなる集光レンズ14 に入射させ集光させ、
集光レンズ14により集光された光が入射する受光素子15と,
受光素子15の電気信号からグルコース濃度を算出する演算手段を備え,
入射部が検査している耳朶13′にあてがわれた状態にして使うとともに,この耳朶13′を透過ないし後方散乱した光が入射部を介して上記集光手段に入るグルコースの測光検出装置。」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

第6 対比・判断
「第4 記載要件について」で述べたとおり、本願発明は明確ではないが、検出器を「光路中に試料の無い状態(空気)で取られた読み取りを含む基準測定もするもの」であると解釈して、以下、引用発明と対比する。

ア 引用発明の「光源3」は,本願発明の「光源」に相当することは明らかである。

イ 本願明細書に「【0024】・・・第2のレンズ40は,第1のレンズ30の発散光出力32を0度から約10度の範囲の発散光42の角度まで少なくし,より詳細には,0度から約5度までコリメートされる。」と記載されているように,本願に用いられるコリメートという用語はある程度の角度範囲で広がる光線に変換することも含んでいる。
そして,引用発明の「集光レンズ5」は,「光ビーム6を生ずる」ものであり,光ビームは,通常ほぼ0度の放射(出射)光を意味しているから,引用発明の「集光レンズ5」は,ほぼ0度の放射(出射)光を生ずるレンズといえる。
そうすると,引用発明の「集光レンズ5」は,本願発明の「コリメーティングレンズ」に相当するといえる。

ウ 引用発明の入射部には,耳朶が接触しているのであるから,耳朶の入射部直前の入射部中心に位置する部分からの前方への光は,全て入射部に入射するといえるので,入射部からの光より出射部からの光のほうが小さい広がり角であるといえることより,引用発明の「入射部と出射部を備えた,内部の長円曲面または放物面が鏡面仕上げになつている集光手段」と本願発明の「第1の広がり角で前記試料を通して透過された通常光および散乱光を受けるようになっており,第1の受光角を有する光を受け,前記第1の広がり角より小さい第2の広がり角を有する光を出力する第1のレンズ」とは,「第1の広がり角で前記試料を通して透過された通常光および散乱光を受けるようになっており,第1の受光角を有する光を受け,前記第1の広がり角より小さい第2の広がり角を有する光を出力する第1の集光手段」の点で共通する。

エ 本願発明は、結合レンズ62を備えた態様を含むものである。
そして、引用発明の「上側レンズ」、「下側レンズ」が、それぞれ本願発明とその態様の「第2のレンズ」、「結合レンズ62」に相当する。
したがって,引用発明は、本願発明の「第2のレンズ」を備えている。

オ 引用発明の「受光素子15」は,「集光レンズ14により集光された光が入射する」のであるから,本願発明の「前記第2のレンズによって出力された光を測定するようになってお」る「検出器」に相当する。
そして,上記(1-イ)の「本発明によるグルコースの測光検出は,光度計を用いて行うものであつて,特有のグルコース吸収帯が含まれているスペクトル領域における近赤外線吸収量を測定し,この近赤外線吸収量の測定値を,グルコースが近赤外線をほとんど,もしくは,全く吸収しないスペクトルの帯域から得た基準値と比較することによつて行う」との記載より,引用発明の「受光素子15」は,グルコースの測光検出のためにグルコースが近赤外線をほとんど,もしくは,全く吸収しないスペクトルの帯域から得た基準値も測定し提供するものである。
さらに,引用発明の「基準値」は,正確な検体の濃度の測定に必要な検出器で測定する情報であるから,本願発明の「検体の濃度の測定を補助する情報」といえる。
結局,引用発明の「受光素子15」は,本願発明の「前記第2のレンズによって出力された光を測定するようになっており,前記検体の濃度の測定を補助する情報を提供する検出器」に相当するといえる。

カ 引用発明の「入射部が検査している耳朶13′にあてがわれた状態にして使う」ことは,耳朶13′には濃度を測定する血液が流れているのであるから,本願発明の「流体試料」を対象とし,「試料細胞受け領域」を備えていることに相当するといえる。

キ 引用発明の「この耳朶13′を透過ないし後方散乱した光が入射部を介して上記集光手段に入る」ことは,光源3からの光が,集光レンズ5を通過して光ビーム6となり,耳朶13′を透過ないし後方散乱し,上記集光手段に入ることになるのであるから,本願発明の「前記試料細胞受け領域が,前記コリメーティングレンズと前記第1のレンズとの間に位置する」ことに相当する。

ク 引用発明は「入射部が検査している耳朶13′にあてがわれた状態にして使うとともに,この耳朶13′を透過ないし後方散乱した光が入射部を介して上記集光手段に入る」のであり,入射部には,耳朶が接触しているのであるから,耳朶の入射部直前の入射部中心に位置する部分からの前方への光は,全て入射部に入射するといえるので全透過光を用いているといえる。
したがって、引用発明の「グルコースの測光検出装置」と,本願発明の「全透過分光システム」は「全透過光検出システム」の点で共通する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「流体試料中の検体の濃度を測定するのに使用される全透過光検出システムであって,
分析される試料を受けるための試料細胞受け領域と,
光源と,
前記光源から光を受けるようになっており,実質的にコリメートされた光ビームで前記試料細胞受け領域を照らすようになっているコリメーティングレンズと,
第1の広がり角で前記試料を通して透過された通常光および散乱光を受けるようになっており,第1の受光角を有する光を受け,前記第1の広がり角より小さい第2の広がり角を有する光を出力する第1の集光手段と,
前記第1の集光手段から光を受けるようになっており,実質的にコリメートされた光ビームを出力するようになっている第2のレンズと,
前記第2のレンズによって出力された光を測定するようになっており,前記検体の濃度の測定を補助する情報を提供する検出器と,
を備え,
前記試料細胞受け領域が,前記コリメーティングレンズと集光系との間に位置するシステム。」である点で一致し,次の点で相違している。

(相違点1)
全透過光検出システムについて,本願発明では「分光システム」であるのに対して,引用発明では「グルコースの測光検出装置」である点

(相違点2)
試料細胞受け領域について,本願発明では「実質上光学的に透明な材料で構成され」ているのに対して,引用発明では,そのような限定を有さない点。

(相違点3)
第1の集光手段について,本願発明では,「レンズ」であるのに対して,引用発明では,「内部の長円曲面または放物面が鏡面仕上げになつている集光手段」である点。

(1)相違点1についての検討
引用発明も「単色ビーム」を用いるものであり,上記(1-イ)の記載より,2色に分光して2つの単色ビームを用いるのであるから,引用発明も「分光システム」といえる。
そうすると,相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2についての検討
引用発明は入射部が検査している耳朶13′にあてがわれた状態にして使うのであり,光が通る測定装置の試料細胞受け領域を,例えば,透明ガラスのように実質上光学的に透明な材料で構成することは,周知技術である。
そして,透過光の測定において,透過部での光損失をできるだけ避けることは,感度の良い正確な測定のための当然の技術課題である。
してみると,引用発明に上記周知技術を採用して,相違点2に記載の本願発明の構成とすることは,十分に動機付けが有り,阻害要因もなく,当業者が容易に想到するものといえる

(3)相違点3についての検討
引用発明の「内部の長円曲面または放物面が鏡面仕上げになつている集光手段」とは,いわゆる凹面鏡であるが,例えば特開平9-304343号公報に「【特許請求の範囲】【請求項1】 試料を搭載したステージと、試料の表面にレーザ光を照射する光学系とを具備し、・・・透過型レンズまたは反射型レンズ系からなり、・・・顕微レーザ質量分析計。」と記載され,特開昭61-97508号公報に「また,透過型レンズではなく楕円球面反射型レンズ,フレネル反射型レンズ等によってレーザ光を絞ることができる。」(公報2頁右下欄16?18行)と記載されているように,凹面鏡を含む反射型レンズは,広義のレンズであるので,相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に,本願発明の「第1のレンズ」が狭義の透過型レンズであるとしても,集光手段として,反射型レンズも透過型レンズも,例えば天体望遠鏡のように適宜用いられるものであるから,内部の長円曲面または放物面が鏡面仕上げになつている集光手段に代えて透過型レンズを用いて,相違点3に記載の本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到するものといえる。

(4)そして,本願明細書に記載された効果も,刊行物1の記載事項および周知技術から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(5)したがって,本願発明は,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-19 
結審通知日 2013-12-20 
審決日 2014-01-10 
出願番号 特願2007-546855(P2007-546855)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
P 1 8・ 537- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
森林 克郎
発明の名称 体液中の検体の測定に使用する透過分光システム  
代理人 上田 忠  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  

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