• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1288064
審判番号 不服2012-268  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-06 
確定日 2014-05-21 
事件の表示 特願2006-533441「水に不溶な活性剤を含む医薬的成形」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月6日国際公開、WO2005/000267、平成19年1月11日国内公表、特表2007-500234〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成16年5月27日(パリ条約による優先権主張 2003年5月28日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成19年4月27日に手続補正書が提出され、平成22年7月13日付けで拒絶理由が通知され、平成23年1月19日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年8月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年1月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年3月15日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?31に係る発明は、平成23年1月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲、並びに、本願の国際出願翻訳文として提出された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項29に係る発明は以下のとおりの
「医薬製剤を調製する方法において、
水、ヒドロキシ溶媒、活性剤、及び賦形剤を含む溶液を用意する工程で、そこにおける賦形剤は、ロイシン又はトリロイシンを含み、水中における溶解性が活性剤より高く;そして
第1の溶媒及び第2の溶媒を除去し、活性剤及び賦形剤を含む粒子を生成する
ことを含む方法。」
であるところ、当該賦形剤はロイシン又はトリロイシンであるから、請求項29に係る発明において賦形剤がロイシンである場合の発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「医薬製剤を調製する方法において、
水、ヒドロキシ溶媒、活性剤、及び賦形剤を含む溶液を用意する工程で、そこにおける賦形剤は、ロイシンを含み、水中における溶解性が活性剤より高く;そして
第1の溶媒及び第2の溶媒を除去し、活性剤及び賦形剤を含む粒子を生成する
ことを含む方法。」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由の概要は、平成23年1月19日提出の手続補正書により補正後の請求項1?31に係る発明は、引用文献A5(特表2003-507412号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものを含むものである。



第4 当審の判断

1.刊行物
特表2003-507412号公報(以下、「引用例」という。平成22年7月13日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献A5に同じ。)

2.引用例の記載事項
ア 「(a)治療薬、予防薬もしくは診断薬またはそれらのいずれかの組合せとアミノ酸またはその塩とを含んでなる混合物を形成する工程;ならびに
(b)該混合物を噴霧乾燥して、約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子を製造する工程、
を含む、0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子の調製方法。」(特許請求の範囲、請求項17)

イ 「アミノ酸が疎水性である請求項17記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項22)

ウ 「疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、フェニルアラニンおよびそれらのいずれかの組合せからなる群より選ばれる請求項22記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項23)

エ 「混合物が、有機溶媒と水性溶媒とを含む共溶媒を含有してなる請求項17記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項31)

オ 「治療、予防または診断を必要とする患者の気道に、請求項17記載の方法により製造された粒子の有効量を投与することを含む方法。」(特許請求の範囲、請求項33)

カ 「前記粒子は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気腫または嚢胞性線維症の治療のための薬剤などの肺の内部への局所送達のための治療薬、または全身治療のための治療薬を含みうる。例えば、嚢胞性線維症などの疾患の治療のための遺伝子を、喘息のためのβ作用物質ステロイド、抗コリン作動性薬剤およびロイコトリエン修飾因子と同じように、投与することができる。他の特異的治療薬剤としては、限定されないが、ヒト成長ホルモン、インスリン、カルシトニン、ゴナドトロピン放出ホルモン(「LHRH」)、顆粒球コロニー刺激因子([「G-CSF」]、上皮小体ホルモン関連ペプチド、ソマトスタチン、テストステロン、プロゲステロン、エストラジオール、ニコチン、フェンタニール、ノルエチステロン、クロニジン、スコポラミン、サリチル酸塩、クロモリンナトリウム、サルメテロール、ホルメテロール、アルブテロールおよびValiumが挙げられる。」(段落0029)

キ 「使用できる適当な有機溶媒としては、限定されないが、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のようなアルコールが挙げられる。・・・
使用できる共溶媒としては、水性溶媒、および限定されないが、上述したような有機溶媒のような有機溶媒が挙げられる。水性溶媒としては、水および緩衝液が挙げられる。1つの実施態様では、約50:50から約90:10( エタノール:水) の範囲のエタノール:水比率を有するエタノール水溶媒が好ましい。」(段落0074?0075)

ク 「実施例1
40重量%のアミノ酸と60重量%のDPPCを含む混合物を70/30vol/volのエタノール-水共溶媒中で形成し、噴霧乾燥した。結果を表1に示す。
表1は、いくつかのアミノ酸を含む粒子についてのメジアン幾何学直径および空気力学的直径、それらの疎水性および推定タップ密度を示す。タップ密度は上述した等式を用いて推定した。
【表1】

」(段落0096?0098)

ケ 「実施例3
硫酸アルブテロールを含む粒子を次のようにして調製した。76%DSPC、20%ロイシンおよび4%硫酸アルブテロールを含む混合物を70/30(v/v)のエタノール/水共溶媒中で形成し、噴霧乾燥した。生じた粒子の質量メジアン幾何学直径は8.2μmであり、質量メジアン空気力学的直径は2.8μmであった。
実施例4
4%硫酸アルブテロール、60%DPPCおよび36%ロイシン、アラニンまたはグリシンを含む粒子を上述したように形成した。各々のセットの粒子の特性の比較を表3に示す。各々の製剤について、表は使用したアミノ酸、質量メジアン空気力学的直径(MMAD)、体積メジアン幾何学直径(VMGD)、および・・・密度を示している。データは、3つのアミノ酸すべてが肺送達に適した粒子を形成する上で有用であったことを明らかにしている。ロイシンとアラニンの製剤が深肺への選択的な送達に最も適すると思われ、一方グリシン製剤は中心および上気道への選択的送達により適していると思われた。
【表3】

」(段落0102?0106)

3.引用例に記載された発明
引用例には、摘示ア?エより、「(a)治療薬と『ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、フェニルアラニンおよびそれらのいずれかの組合せからなる群より選ばれる疎水性アミノ酸』と、有機溶媒と水性溶媒とを含む共溶媒を含有してなる混合物を形成する工程;ならびに
(b)該混合物を噴霧乾燥して、約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子を製造する工程、
を含む、0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子の調製方法。」が記載されていると認められる。
そして、摘示ク及びケから、上記疎水性アミノ酸の具体的なものとして「ロイシン」を把握することができる。
また、摘示キ、ク及びケから、上記共溶媒の具体的なものとして、エタノール及び水を把握することができる。
そうすると、引用例には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「(a)治療薬とロイシンと、エタノール及び水を含有してなる混合物を形成する工程;ならびに
(b)該混合物を噴霧乾燥して、約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子を製造する工程、
を含む、0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子の調製方法。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「治療薬」は、本願発明における「医薬」ないし「活性剤」に相当する。
イ 引用発明における「治療薬」を含む「粒子」は、摘示オから、患者の気道に有効量を投与するものであることから、本願発明における「医療製剤」ないし「粒子」に相当する。
ウ 引用発明における「水」は、本願発明における「水」ないし「第1の溶媒」に該当する。
エ 引用発明における「エタノール」は、本願発明における「ヒドロキシ溶媒」ないし「第2の溶媒」に該当する。
オ 引用発明における「ロイシン」は、本願発明における「賦形剤」としての「ロイシン」に該当する。
カ 引用発明における(b)工程の「噴霧乾燥して、約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する粒子を製造する工程」は、本願発明における「第1の溶媒及び第2の溶媒を除去し、活性剤及び賦形剤を含む粒子を生成する」工程に相当する。
ここで、引用発明において粒子が「約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する」点に関し、引用例には「低いタップ密度に寄与することができる特徴は不規則な表面テクスチャーと多孔性構造である。」(段落0056)と記載されており、「約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する」点は、本願明細書において、「乾燥工程を制御し、・・・2以上の皺が多いなどの特定の特徴付けを有する乾燥粒子を提供することができる。皺は、表面の回旋を測定することである。数値が高くなると、表面の異常性の高い度合いを示す。本発明の範囲を何らかの方法で限定する意図がなく、皺により測定されたように、表面の異常が増大すると、隣接する粒子間の粘着性が減少することになる。」(段落0060)や「得られた粒子・・・が不規則な表面と多くの皺を有し、・・・比較のため、・・・皺の少ない球状粒子が、噴霧体を賦形剤なしに乾燥した時形成される。これらの粒子は、表面が平滑な球状体であり、そしてある種の粒子の融合が観察される。これらの特性が、薬剤の肺導入とそて考えられる乾燥粉末成形物の成形にあまり好ましくない。」(段落0069)と記載されていることと一致しているといえるし、仮にそうでなくとも、「約0.4g/cm^(3)未満のタップ密度を有する」粒子は、本願発明において除外するものではないことから、この点は相違点ではない。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「医薬製剤を調製する方法において、
水、エタノール、医薬である活性剤、及び賦形剤であるロイシンを含む溶液を用意する工程;そして
水及びエタノールを除去し、活性剤及びロイシンを含む粒子を生成する
ことを含む方法。」
である点で一致し、以下の相違点で一応相違している。

<相違点>
本願発明では、その発明を特定するために必要な事項として、賦形剤であるロイシンは、水中における溶解性が活性剤(医薬)より高いとの事項、すなわち、医薬である活性剤として、その水中における溶解性がロイシンよりも低いものを採用するとの事項(以下、「本願発明特定事項」という。)を備えると規定されているのに対して、引用発明では、かかる点が特に明記されていない点。

5.相違点に対する判断
上記相違点について検討する。
引用例には、摘示カから、「治療薬」の具体的なものとして、「テストステロン」、「プロゲステロン」及び「エストラジオール」が記載されているから、引用発明は、具体的には、「医薬製剤を調製する方法において、
水、エタノール、医薬である活性剤、及び賦形剤であるロイシンを含む溶液を用意する工程;そして
水及びエタノールを除去し、活性剤及びロイシンを含む粒子を生成する
ことを含む方法」であって、活性剤(治療薬)が「テストステロン、プロゲステロンまたはエストラジオール」である態様を包含しているといえる。
ここで、「ロイシン」の水溶解度は、約22?24mg/mL程度であると解される(例えば、「THE MERCK INDEX」11版(1989年)5331. Leucineの項を参照のこと。)のに対して、上記「テストステロン、プロゲステロンまたはエストラジオール」は、いずれもステロイド類であることから実質上水には不溶性であると解される(例えば、「THE MERCK INDEX」11版(1989年)3654. α-Estradiolの項を参照のこと。)。
一方、本願明細書には、「この発明に有用な活性剤の例としては、・・・テストステロン、・・・黄体ホルモン、・・・エストロゲン、・・・などのステロイド類・・・;・・・、およびその組み合わせがあげられる」(段落0016)と記載されており、引用例に記載の「プロゲステロン」は「黄体ホルモン」に、また、「エストラジオール」は「エストロゲン」に、それぞれ、相当するものである。
そうすると、引用例に記載の「テストステロン」、「プロゲステロン」及び「エストラジオール」は、いずれも、その「水中における溶解性」が「ロイシン」よりも低いものであって、かつ、本願発明においても「活性剤」として採用されるものであり、共通するものである。
したがって、本願発明特定事項に関し、引用例に記載の具体的事項からみて、引用発明は、本願発明と重複・一致する態様を包含するものといえることから、上記相違点は、実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明である。



第5 請求人の主張に対する検討

請求人は、平成24年3月15日に提出された審判請求書において、「特に、本願発明は、水中における賦形剤の溶解性が活性剤より高いことを特徴とします。これに対して、引用文献A5には、上記本願発明の特徴を記載していません。引用文献A5では、疎水性アミノ酸及びリン脂質などの賦形剤に言及しているが、これらの賦形剤は、列挙された活性剤よりも水中における溶解性が高くありません。」と主張している。
しかしながら、第4 5.で述べたとおり、本願発明においても「活性剤」として採用される、引用例に記載の「テストステロン」、「プロゲステロン」及び「エストラジオール」は、いずれも、その「水中における溶解性」が「ロイシン」よりも低いものであるから、かかる主張はあきらかに誤りであり、採用することができない。



第6 むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、平成23年1月19日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項29に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-26 
結審通知日 2013-12-03 
審決日 2014-01-06 
出願番号 特願2006-533441(P2006-533441)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 渕野 留香
田口 昌浩
発明の名称 水に不溶な活性剤を含む医薬的成形  
代理人 中島 勝  
代理人 武居 良太郎  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ