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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1288160
審判番号 不服2011-25820  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-30 
確定日 2014-05-30 
事件の表示 特願2006-511514「インスリン抵抗性改善剤」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月6日国際公開、WO2005/092349〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2005年3月25日(優先権主張 平成16年3月26日)を国際出願日とする出願であって、平成23年8月24日付けで拒絶査定がされ、平成23年11月30日に拒絶査定不服審判が請求され、平成25年12月25日付けで拒絶理由が通知されたところ、平成26年3月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年3月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】 コレスチミドを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

3 引用例の記載及び引用発明
(1) 平成25年12月25日付け拒絶理由において引用文献1として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第03/011308号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 発明の開示
「本発明者らは、上記した課題を達成すべく鋭意研究した結果、コレステロール低下剤として知られているコレスチミド(2-メチルイミダゾール-エピクロロヒドリン共重合体)が、2型糖尿病を合併した高コレステロール血症患者におけるコレスチミドの血糖日内変動に対する影響の検討において、明確な食後の血糖上昇抑制作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の第一の要旨は、薬学的に許容し得る陰イオン交換樹脂を含有する食後過血糖改善剤、及び、薬学的に許容し得る陰イオン交換樹脂を含有する食後血糖上昇抑制剤に存する。
本発明の第二の要旨として、薬学的に許容し得る陰イオン交換樹脂を有効成分として含有する糖尿病の予防または治療用の医薬組成物が挙げられ、好ましくは、食後の過血糖を改善すること;食後の血糖上昇を抑制すること;糖尿病が2型糖尿病であること、及び、糖尿病が高コレステロール血症の患者の合併症としての糖尿病であることが好ましい態様として挙げられる。」(2頁5?22行。審決注:摘記箇所は引用文献1の余白に示された頁及び行番号による。)

イ 実施例
「(対象及び方法)
2型糖尿病を合併した高コレステロール血症患者であって、カロリーコントロールが厳格に行われ、血清脂質値及び血糖値が把握されている入院患者(成人、性別不問)を対象に、コレスチミド投与による・・・血糖日内変動に及ぼす影響について、その投与前後において、同一症例で比較検討した。
血糖日内変動は計10ポイントにおいて実施した。各測定ポイントは『朝食前(8時)、朝食後2時間(10時)、昼食前(12時)、昼食後2時間(14時)、夕食前(18時)、夕食後2時間(20時)、0時、3時、6時及び翌朝8時』とした。
試験スケジュールについては、以下のとおりとした。
(1)観察期:入院後2週間
観察期において、血清脂質値、血糖値、体重等が安定していることを確認した。
(2)治療期:コレスチミド投与後2週間
コレスチミドを2週間継続投与中の患者に対して、・・・血糖日内変動について、観察期と比較した。
(試験薬及び用法・用量)
コレスチミドとして1回1.5gを1日2回、朝・夕食前に服用した。
(食事療法及び併用薬剤)
観察期・治療期を通じて、指示カロリーは一定(・・・)とした。既にコレスチミド以外の高脂血症治療薬(・・・)が投与されている場合、観察期・治療期を通じてその用法・用量を変更せずに投与継続し、またこれらの薬剤を新たに追加投与しないこととした。血清脂質値に影響を与える可能性のある薬剤は、観察期・治療期を通じて用法・用量を変更しないこととした。血糖値に影響を与える可能性のある薬剤(α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗性改善薬)は、原則として投与しないこととした。・・・その他の薬剤においても、観察期・治療期を通じて可能な限り用法・用量を変更しないこととした。
(結果)
対象患者及びその結果を以下に示す。・・・なお、すべての図において、◆はコレスチミド投与前の血糖値を、△はコレスチミド投与後の血糖値を示し、横軸は測定ポイント(採血時刻)を、縦軸は血糖値(mg/dL)を示す。
・・・
ケース2:63才男性、食事療法のみ
・・・血糖値日内変動を第2図に示す。
ケース3:78才男性、食事療法のみ
・・・血糖値日内変動を第3図に示す。
・・・
上記の結果のうち、ケース2及びケース3の結果より、コレスチミド単独投与により、食後の血糖上昇が抑制されることが明らかである。」(9頁15行?11頁25行)

ウ 第2図



エ 第3図



オ 前記アないしエによれば、引用例1には、「コレスチミドを有効成分とする食後の過血糖を改善することよる2型糖尿病の予防又は治療剤」についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2) 平成25年12月25日付け拒絶理由において文献6として引用した、本願の優先日前に頒布された「各種経口血糖降下薬の特性と服薬指導のポイント」という表題の刊行物(プラクティス,1998年,Vol.15,pp.609-612。以下、「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「数年前までは糖尿病の治療薬はスルホニルウレア(SU)薬とインスリンに限られていたが、現在はα-グルコシダーゼ阻害(α-GI)薬、ビグアナイド(BG)薬、インスリン抵抗性改善薬が加わり治療選択肢が広がっている。選択の幅が広がった分、より的確な薬剤選択とその指導が求められている。」(609頁左欄1?6行)

イ 「2.経口血糖降下薬の特性に基づいた選択のポイント
・・・経口血糖降下薬にはSU薬、BG薬、α-GI薬、インスリン抵抗性改善薬があり、それぞれ作用機序があるのでその特性を糖尿病の病態に合わせて処方すべきである。糖尿病の病態に合わせた経口血糖降下薬の適応を示したのが図2である。この図の基になっている病態と薬剤選択の根拠は以下の通りである。」(610頁右欄図1の下1行?611頁左欄5行)

ウ 「

」(611頁)

(3) 平成25年12月25日付け拒絶理由において文献7として引用した、本願の優先日前に頒布された「最新の糖尿病の薬物治療 -経口糖尿病薬とインスリンアナログの特徴と使用指針-」という表題の刊行物(医学のあゆみ,2001年,Vol.197,pp.103-108。以下、「引用例7」という。)には、以下の事項が記載されている。
「経口糖尿病薬といえばスルホニル尿素(SU)薬、無効ならインスリン治療という時期があったが、新しい経口糖尿病薬の登場とビグアナイド(BG)薬の再評価により、糖尿病の病態に応じた経口糖尿病薬の選択、併用が可能になってきた。・・・本稿では最近の経口糖尿病薬とインスリン製剤について解説するとともに,使用法についても述べる。
■経口糖尿病薬の特徴と使用指針
経口糖尿病薬はその作用機序と作用部位から大きく4つに分類される。膵ラ島β細胞に作用してインスリン分泌を促進するSU薬、糖類の分解を阻害して腸管からの糖吸収を遅延させるαグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、肝での糖新生を抑制するBG薬、脂肪や筋肉でのインスリン作用を増強してブドウ糖取込みを増加させるチアゾリジン誘導体である。それぞれの作用と特徴を表1に記した。残念ながら日本糖尿病学会編の『糖尿病治療ガイド2000』でも薬剤選択基準は明記されていない。したがって、糖尿病を担当する臨床医が薬剤の特徴を理解し、病態に応じて使い分ける必要がある。」(103頁左欄23行?右欄16行)

(4) 平成25年12月25日付け拒絶理由において文献8として引用した、本願の優先日前に頒布された「MCI-196の胆汁酸と他の生理活性物質に対する吸着 -コレスチラミンとの比較-」という表題の刊行物(薬理と治療,1996年,Vol.24,pp.S-601?S-606。以下、「引用例8」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア II 結果
「4 脂肪酸およびビタミンの吸着作用
MCI-196およびコレスチラミンとも、中鎖の脂肪酸であるカプリル酸に対してはコール酸より小さな最大吸着容量および吸着親和性を示したが、長鎖の脂肪酸であるオレイン酸に対しては、コール酸と同程度の最大吸着容量およびコール酸より高い吸着親和性を有することが明らかとなった。また、アスコルビン酸に対する吸着は、極めて弱いものであった(表3-a、b)。」(S-604頁左欄7?15行)

イ III 考察
「MCI-196は陰イオン基とともに、ある程度の大きさを有する疎水部分をもつ物質に対し、高い親和性を有することが明らかとなった。よって、MCI-196と併用が予想される薬剤や腸管内に存在する各種の生体内物質のうち、上記の性質を有するものについては、その吸収への影響を考慮する必要があると考えられる。」(S-604頁右欄42行?S-605頁左欄4行)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
両者は、有効成分をコレスチミドとする薬剤である点において一致する。また、本願明細書の記載によれば、本願発明のインスリン抵抗性改善剤は、インスリン抵抗性に起因する疾患及び症状の予防、改善及び/又は治療薬としての態様の場合に使用できるところ(段落【0034】)、インスリン抵抗性に起因する疾患及び症状の具体例として2型糖尿病が挙げられるとされている(段落【0036】)ことから、本願発明のインスリン抵抗性改善剤は、2型糖尿病の予防又は治療薬として使用する態様を包含しているものと認められるので、本願発明と引用発明は、薬剤が対象とする具体的な疾患において一致する。そして、本願発明はインスリン抵抗性改善剤であり、インスリン抵抗性の改善により2型糖尿病に対して有効な薬剤であるのに対し、引用発明は食後の過血糖を改善する作用の作用機序についての記載がない点において相違する。

5 判断
上記相違点について検討する。
審判請求人も、本願の審査過程で、「一概に2型糖尿病といってもその症状は様々であり、その治療指針や使用される薬剤は、その薬剤と患者の特性を勘案して選択されるものであります・・・。」と述べる(平成23年7月8日付け意見書における「意見の内容」の(3)の第4パラグラフ参照。)ように、2型糖尿病の治療に使用される薬剤は、薬剤の作用機序毎にカテゴライズされており、2型糖尿病の特定の症状に応じて、特定の作用機序の薬剤を使用することは、本願の優先権主張日における技術常識である(必要であれば、前記3(2)及び(3)に摘記した引用例6及び7の記載も参照。)ことから、引用発明の食後過血糖を改善する作用を有するコレスチミドについても、実際に2型糖尿病に対する治療薬として用いようとする場合には、その作用機序の検討は、当業者であれば当然に行う事項である。そして、インスリン抵抗性改善という作用機序は2型糖尿病治療薬の作用機序の1つとして周知のもの(前記3(2)及び(3)参照)であるから、当業者が当然に検討を行う作用機序に包含されるものであって、本願発明は当業者の通常の創作能力の発揮により容易に到達できるものである。

審判請求人は、複数の水酸基を有しかつある程度の分子量を有するグルコースはコレスチミドと親和性を有する可能性があるので、コレスチミドの食後過血糖改善効果は、コレスチミドがグルコースの消化管からの吸収を抑制することによるものと当業者は推察する旨を主張し、また、高分子化合物であるコレスチミドは腸管から吸収されないので、インスリン抵抗性改善作用を発揮するはずはないと当業者は理解するので、インスリン抵抗性改善作用機序の発見に基づく本願発明は、引用例に対して進歩性を有する旨を主張する。
しかし、コレスチミドの吸着作用について述べた引用例8では、カプリル酸、オレイン酸、アスコルビン酸及びコール酸の吸着作用についての実験結果(前記3(4)ア)を根拠に、「MCI-196は陰イオン基とともに、ある程度の大きさを有する疎水部分をもつ物質に対し、高い親和性を有することが明らかとなった。」と考察している(前記3(4)イ)ところ、グルコースは陰イオン基もある程度の大きさを有する疎水部分も有さないので、引用例8に示された実験結果や考察についての記述からは、当業者はコレスチミドがグルコースの消化管からの吸収を抑制すると考えることはない。そして、コレスチミドがグルコースの腸管からの吸収を抑制せず、また、コレスチミド自体が腸管から吸収されないとしても、2型糖尿病の治療薬の開発では、その作用機序の概要が判明しなければ的確な薬剤選択を行うことができないので、コレスチミドの作用機序を検討することは、当業者であれば当然に行う事項であることは上記のとおりであるところ、その検討においては、当業者は、従来知られていた糖尿病治療薬の作用機序を手がかりするものであり、インスリン抵抗性改善作用をその検討から除外するということはできない。したがって、請求人の主張は理由がない。

6 むすび
以上検討したところによれば、本願発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-26 
結審通知日 2014-04-01 
審決日 2014-04-16 
出願番号 特願2006-511514(P2006-511514)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春日 淳一冨永 保  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 岩下 直人
大宅 郁治
発明の名称 インスリン抵抗性改善剤  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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