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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1288161
審判番号 不服2012-25140  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-19 
確定日 2014-05-30 
事件の表示 特願2000-610877「高周波用途のための磁性ガラス状合金」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月19日国際公開、WO00/61830、平成14年12月 3日国内公表、特表2002-541331〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成12年4月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:平成11年4月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、原審にて、平成23年6月22日付けの拒絶理由が通知され、これに対し同年11月22日付けの意見補正がされたが、平成24年8月23日付けの拒絶査定がされたものである。
本件審判は、この査定を不服として、同年12月19日に請求されたものであり、当審にて、平成25年5月14日付けの拒絶理由が通知され、これに対し同年11月15日付けの意見補正がされている。

2.当審拒絶の理由

当審にて通知した拒絶理由の一つは、
特公昭55-36258号公報(以下、「引用例1」という。)
特開平 4- 9252号公報(以下、「引用例2」という。)
を引用し、
「本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その優先権主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆利用可能となった発明に基いて、その優先権主張の基礎とされた先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。

3.本願発明の認定

本願発明は、平成25年11月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲において、請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

式Co_(a)Ni_(b)Fe_(c)M_(d)B_(e)Si_(f)C_(g)を有する少なくとも70%がガラス状である磁性合金であって、MはCr、Mo、Mn及びNbより成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、“a?g”は原子パーセントであって、“a?g”の和は100に等しく、“a”は25?60の範囲であり、“b”は5?45の範囲であり、“c”は6?12の範囲であり、“d”は0?3の範囲であり、“e”は5?25の範囲であり、“f”は2?15の範囲であり、そして“g”は0?6の範囲である磁性合金であり、-3?+3ppmの鋳造したままの状態での飽和磁気歪み値を有し、前記合金の第一結晶化温度より低い温度でアニールされており、75%を超えるdcB-Hループ角形比を持つ矩形のB-Hヒステリシスループを有し、そして0.50テスラを超える鋳造したままの状態での飽和誘導を有する磁性合金。

4.引用例の記載

引用例1

摘示1-1(3欄42行?4欄7行)
本発明は、(A)鉄、コバルト、ニッケルの三元系組成からなる遷移金属成分70?90原子%と、(B)ホウ素又はホウ素とケイ素からなる半金属成分10?30原子%からなり、かつ鉄含量が7原子%よりも多く13原子%以下、ニッケル含量が50原子%以下、ケイ素含量が25原子%以下、ホウ素含量が30原子%以下好ましくは7?30原子%であることを特徴とする実質的に非晶質な磁性合金からなる磁気ヘッド材料である。

摘示1-2(9欄42行?10欄27行)
次に本発明の非晶質合金について実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
純鉄(純度99.9%)8.0at%、
・・・(中略)・・・
で構成されるようにそれぞれ秤量し、タンマン炉にてアルゴンガス気流で溶解した。この溶解した合金を石英管で吸上げ、急冷し母合金を調製した。
次いでこの母合金を第6図の製造装置により、10^(6)℃/secで急冷し、非晶質の厚さ40μmのリボン状試料を作製した。この試料についてはX線回折、電子線回折を行った結果、結晶構造を示す回折パターンは全く検出されなかった。
次に得られた試料をトロイダル状に捲いて環状の捲鉄状とし、磁気特性を測定したところ以下の結果が得られた。
・・・(中略)・・・
実施例2
実施例1と同様にして種々の原子比よりなるFe,Co,Ni,Si,B,P系の非晶質合金を調製した。このものの物性を第1表に示す。
この第1表の結果よりFe含有量の多い磁歪が極めて小さい組成系は、Fe含有量の少ない同様に磁歪の小さい組成系と比較して保磁力が小さく、初透磁率が大きく、飽和磁化が大きいことがわかる。

摘示1-3(13?14欄)


引用例2

摘示2-1(2頁左上欄4行?右上欄11行)
〔従来の技術〕
従来、スイッチング電源のコモンモードチョークコイル、磁気ヘッド、磁気センサー等の高透磁率材料には、フェライトが、また、スイッチング電源の可飽和リアクトルやノイズアブソーバ等高角形比材料には、50Ni-Fe合金ストリップよりなる巻磁心が、それぞれ使われてきた。
・・・(中略)・・・
このため、フェライトに比して磁束密度が高く、50Ni-Fe合金など結晶金属に比して渦電流損を含むコア損失が小さい高周波磁性材料として、アモルファス磁性合金が有望視され、主に巻磁心として上記二様の用途に実用されるようになった。特にCoを主元素とし、これにFe,Ni,Mn等原子の最外殻電子数がCoに近い元素を少量添加することによって、飽和磁歪定数を零に近づけたCo系のアモルファス合金は、保磁力が小さく、軟磁性材料として最も優れた素材ということができる。Co系のアモルファス合金は、高周波帯域においても、電気抵抗が高くかつ10?50μmの薄肉リボンとして使用されることから、渦電流損失が低くフェライトと同等以上の低損失特性を有している。

摘示2-2(2頁右上欄12行?左下欄4行)
上記磁歪が零ないし零に近いCo系アモルファス合金は、キューリー温度以上、結晶化温度以下の温度で加熱保持後、常温に10℃/sec以上の冷却速度で急冷する熱処理を施すことによって、透磁率を高めて、コモンモードチョークコイル、磁気ヘッド、各種磁気センサーに供したり、磁界中焼なまし-冷却処理によって磁路方向に一軸異方性を付与して角形比を高め、可飽和リアクトルやノイズアブソーバ等に実用されている。なお、両用途とも添加元素として、上記以外の広義の遷移金属元素を一種以上含むことによって、熱的安定性を高めたり、飽和磁歪定数を微細に調整することが行なわれている。

摘示2-3(2頁左下欄5行?3頁右上欄17行)
〔発明が解決しようとする課題〕
上記従来技術の中で、高透磁率化すること、および高角形化することは、以下のようになされてきた。
すなわち組成的にはCoを主体とし、これに強磁性元素としてFe、Ni、反強磁性元素Mnを適宜添加し、磁気異方性の原因である磁歪を零ないし零に近づけること、および熱処理による内部応力の除去の2点により種々の高透磁率アモルファス合金が開発されてきた。
・・・(中略)・・・
以上が、高透磁率化に関する従来技術であるが、磁区の固着化を回避させる熱処理条件として、むしろ当初考えられたのは、アモルファス巻磁心の磁路方向に磁場を印加しつつ、キュリー温度以下で熱処理するいわゆる磁界中焼なましである。これは、磁界中では磁壁が存在しないので、磁壁の固着化が起こり得ず、軟磁性が向上することに依っている。しかし、この場合には、一軸磁気異方性が誘発されるためB-Hヒステリシスループが角形性となり、最大透磁率は高いが、初透磁率は大きくならない。したがって、磁化初期の急峻な立上がりを利用する高透磁率用途には、磁界中焼なまし-冷却処理は適用されず、むしろこの方法は、高角形性を積極的に利用して、スイッチング電源の可飽和リアクトルやノイズアブソーバ等へ適用されるように至った。

摘示2-4(3頁右上欄18行?左下欄7行)
しかしながら、山内、吉沢、中高、宮崎:電気学会マグネティクス研究会資料MAG-84-115(1984)に指摘されるように、一般に高角形比となるとコア損失が大きくなる。たとえば、80%以上の高い角形比(Br/Bs≧80%)を維持しつつ、低損失化するには、磁歪原因による誘導異方性を排除する(すなわち飽和磁歪定数を零とする)ことが前提となる。したがって、組成的には、高角形比材料と高透磁率材料は、基本的には同一範疇の組成が適用されている。

摘示2-5(3頁左下欄11行?4頁左上欄9行)
本発明の課題は、これら磁歪の低いCo系アモルファス合金の高透磁率ないし高角形比用途の合金の性能、特に高周波磁性をさらに向上させようとするものである。
・・・(中略)・・・
すなわち本発明は、
一般式(Co_(1-a-b-c)Ni_(a)Fe_(b)Mn_(c))_(x)T_(y)M_(z)
ここで、T:遷移金属。
M:C,B,P,Si,Geからなる元素の一種以上
x,y,zは原子%であって、
x+y+z=100,0≦y≦8,
13≦z≦28
a,b,cは原子比であって、
0≦a≦0.20,0≦b≦0.20
0≦c≦0.20
で示される組成を有する溶湯をノズルを介して、回転中のロール表面に供給し、該ロール表面で急冷凝固せしめる飽和磁歪定数±5×10^(-6)以下のアモルファス合金薄帯の製造方法であって、前記ロール表面の温度を100℃以上、かつ当該組成のアモルファス合金の結晶化温度Txより50℃低い温度(Tx-50)℃以下に制御することを特徴とするアモルファス合金薄帯の製造方法である。

5.引用発明の認定

引用例1には、実質的に非晶質な磁性合金(摘示1-1)の実施例である「合金番号3」(摘示1-2,1-3)として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「Co_(58.5)Ni_(11.7)Fe_(7.8)B_(16)Si_(6)なる組成を有する実質的に非晶質な磁性合金であって、急冷状態で、磁歪1.0×10^(-6)(=1.0ppm)未満、飽和磁化B_(20)=9.9KG(=0.99テスラ)である磁性合金。」

6.発明の対比

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「実質的に非晶質」「急冷状態」「磁歪」「飽和磁化B_(20)」は、それぞれ本願発明の「少なくとも70%がガラス状」「鋳造したままの状態」「飽和磁気歪み」「飽和誘導」に相当するから、本願発明のうち、
「式Co_(a)Ni_(b)Fe_(c)M_(d)B_(e)Si_(f)C_(g)を有する少なくとも70%がガラス状である磁性合金であって、MはCr、Mo、Mn及びNbより成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、“a?g”は原子パーセントであって、“a?g”の和は100に等しく、“a”は25?60の範囲であり、“b”は5?45の範囲であり、“c”は6?12の範囲であり、“d”は0?3の範囲であり、“e”は5?25の範囲であり、“f”は2?15の範囲であり、そして“g”は0?6の範囲である磁性合金であり、-3?+3ppmの鋳造したままの状態での飽和磁気歪み値を有し、そして0.50テスラを超える鋳造したままの状態での飽和誘導を有する磁性合金。」
の点は、引用発明との差異にはならず、両者は次の点で相違する。

相違点:本願発明は、「合金の第一結晶化温度より低い温度でアニールされており、75%を超えるdcB-Hループ角形比を持つ矩形のB-Hヒステリシスループを有」するが、引用発明は、アニールされておらず、角形比も不明である点。

7.相違点の判断

引用例1には、磁歪が極めて小さいCo系非晶質合金である引用発明が、磁気ヘッド材料である(摘示1-1)と記載されている。
これに対し、引用例2には、磁歪が零に近いCo系のアモルファス合金、すなわち組成的にはCoを主体とし、これにFeやNiを適宜添加して磁歪を零に近づけた、引用発明のような合金が、当初、高透磁率化を目的として開発され、その後、熱処理により得られる高角形化も利用するものとなり(摘示2-3)、基本的に同一の組成のものが、高透磁率材料として磁気ヘッド等に使用されるほかに、高角形比材料として可飽和リアクトル等にも使用されていること(摘示2-1,2-4)が記載されている。さらに、引用例2には、該アモルファス合金が、結晶化温度以下の磁界中焼なまし-冷却処理によって、80%以上の角形比となること(摘示2-2,2-4)や、その組成一般式(摘示2-5)も記載され、引用発明の合金組成は、この組成一般式を満足している。
してみると、磁気ヘッド材料であった引用発明を、結晶化温度以下の焼なましをして、75%を超える角形比を持つ可飽和リアクトル材料とすること、すなわち、上記相違点を解消することは、引用例2の記載に基づき、当業者が容易になし得た用途変更である。

8.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1,2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-06 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-20 
出願番号 特願2000-610877(P2000-610877)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 陽一岸 智之  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
小柳 健悟
発明の名称 高周波用途のための磁性ガラス状合金  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 森下 梓  
代理人 星野 修  
代理人 富田 博行  

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