• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1288290
審判番号 不服2013-15969  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-19 
確定日 2014-06-06 
事件の表示 特願2008-133676「重荷重用空気入りラジアルタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月 3日出願公開、特開2009-280069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年5月21日の出願であって、平成25年5月16日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

第2.平成25年8月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年8月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、本件補正前の請求項1に
「左右一対のビード部間にカーカス層を装架した重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記カーカス層を構成する補強コードを複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成すると共に、該ラッピング用フィラメントを複数本の黄銅素線により構成し、それぞれのラッピング用フィラメントを互いに同じ方向で、かつ長手方向に間隔をあけて前記スチールコード本体の周囲に巻き付けるようにした重荷重用空気入りラジアルタイヤ。」
とあるのを、
「左右一対のビード部間にカーカス層を装架した重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記カーカス層を構成する補強コードを複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成し、該ラッピング用フィラメントを複数本の黄銅素線により構成すると共に、それぞれのラッピング用フィラメントを互いに同じ方向で、かつ長手方向に間隔をあけて前記スチールコード本体の周囲に巻き付けるようにし、その巻き付け間隔をコードの構造やコードの素線径に応じて3?6mmに設定した重荷重用空気入りラジアルタイヤ。」
とする補正を含むものである。

2.目的要件等
特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、補正前の請求項1に記載した「補強コードを複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成すると共に、該ラッピング用フィラメントを複数本の黄銅素線により構成し」を「補強コードを複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成し、該ラッピング用フィラメントを複数本の黄銅素線により構成すると共に」と、記載を明確にするとともに、補正前の請求項1に記載した「それぞれのラッピング用フィラメントを互いに同じ方向で、かつ長手方向に間隔をあけてスチールコード本体の周囲に巻き付ける」際の「その巻き付け間隔をコードの構造やコードの素線径に応じて3?6mmに設定した」ものに限定するものであり、本件補正後の請求項1に記載された発明は、本件補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、当該補正は全体として特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

本願補正発明は、本件補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「1.本件補正」の補正後の請求項1参照)により特定されるとおりのものと認める。

(1)引用文献及び引用発明
i)本願の出願前に頒布され原査定の拒絶の理由にも引用された特開昭48-13634号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「この発明は、スチールコードの外周にビツカースカタサがスチールワイヤより低い金属線をラツピングしたことを特徴とするスチールタイヤコードである。
この発明に使用される金属線は、ビツカースカタサが従来タイヤコードに使用されているスチールフイラメントより低くなければならない。金属線のビツカースカタサは、スチールフイラメントのビツカースカタサの半分以下であることが望ましく、金属線の例としては、しんちゆう、りん青銅、アルミニウム、低炭素鋼などからなる金属線である。…。
上記の金属線をスチールコードにラツピングするには、従来のスチールワイヤをスチールコードにラツピングする方法が使用される。通常ラツピングは1本の糸条でなされるが、複数の糸条を同方向に、または交又するようにそれぞれが逆方向にラツピングしてもよい。通常ラツピングピツチは2.5?10mmであることが好ましい。
この発明によるスチールタイヤコードは、耐疲労性が本来のスチールコード自体の疲労性と大差がないように向上し、従つてこのスチールタイヤコードを使用したタイヤの使用期間は長くなる。しかも従来のスチールタイヤコードの長所をそのまま保持している。
以下に実施例によつて具体的に説明する。
実施例1
線径0.20mmのコード用スチールフィラメント4本をZ方向、撚りピッチ10mmに撚合わせたストランド7本を、S方向、撚りピツチ15mmに撚合わせたスチールコードを使用した。これらのスチールコードに、表1に示す金属線をラツピングピツチ5mmにラツピングし、スチールタイヤコードを得た。」(第1頁右下欄下から3行?第2頁右上欄第13行)
(イ)第2頁右下欄の表1のAにおいて、ラッピング金属線として、しんちゅう製のものがみてとれる。
(ウ)「スチールコードからなるプライ…、ブレーカ…のラジアル構造を有する…のタイヤを製作し」(第3頁右上欄第8?13行)

上記の記載事項によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「スチールタイヤコードを用いたプライとブレーカーを備えたラジアル構造を有するタイヤにおいて、
前記スチールタイヤコードは、4本のスチールフィラメントを撚合わせたストランド7本からなるスチールコードとその周囲にラッピングした金属線の糸条とにより構成し、該金属線をしんちゅうにより構成すると共に、それぞれの金属線を同方向で前記スチールコードの周囲に巻き付けるようにしたスチールタイヤコードであるタイヤ。」

ii)本願の出願前に頒布された特開平8-85305号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カーカス層の耐久性能を向上させた空気入りラジアルタイヤ、特に、バス・トラック等の大型車両に使用される重荷重用空気入りラジアルタイヤに関するものである。
【0002】
【従来の技術】スチールコードをラジアル方向に配置した1層のカーカス層を採用することで高速耐久性能、燃費性能等において優れた性能を付与するようにしたバス・トラック等の大型車両に使用される重荷重用空気入りラジアルタイヤ(以下、単に、「タイヤ」ともいう。)が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年のタイヤ技術の発展により、新品タイヤの寿命、即ち、一次寿命が伸びるとともに、タイヤは、数度の更生も含め、50万km走行まで使用することができるようになっている。そして、地域環境的視野から、また、省エネ、省資源という視野から一層の生産性の向上、低コスト化の要求が強まり、このような要求に対処するために、特に、カーカス層の耐疲労性能の一段の向上と生産性の向上との両立化が重要な技術的課題となっている。
【0004】カーカス層の疲労寿命による故障原因は、被覆ゴムとスチールコード間の接着疲労及びスチールコードの破断破壊の2つが主であるが、接着疲労に対しては、スチールコードのブラスメッキと被覆ゴムとの界面形成技術の向上により基本的に解決されており、また、スチールコードの破断破壊に対しては、スチールコードを構成する各素線間の擦れによって発生する、所謂、フレッティング傷に対する技術開発によりかなり改善されてきている。」
(イ)「【0010】本発明の目的は、上述した従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤが有する課題を解決するとともに、カーカス層の耐疲労性能の向上と生産性の向上との両立化が可能な重荷重用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述した目的を達成するために、重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいて、複数の素線を同一ピッチで同一方向に撚った束撚り構造を有するスチールコードの周囲に、該スチールコードの撚り方向とは逆の撚り方向で、且つ、巻き付けピッチ間隔が7mm以上で上記スチールコードの撚りピッチ以下にスパイラルワイヤーを巻き付けたスパイラルワイヤー付きスチールコードを埋設した1層のカーカス層を配設したものである。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「4本のスチールフィラメントを撚合わせたストランド7本からなるスチールコード」、「しんちゅう」により構成する「金属線」は、それぞれ本願補正発明の「複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体」、「黄銅素線」により構成する「ラッピング用フィラメント」に相当する。
また、一般に、タイヤコードのラッピングはラッピング用フィラメントをスチールコード本体の周囲に螺旋状に巻きつけて行なわれるので、引用発明の「スチールコードとその周囲にラッピングした金属線の糸条とにより構成し」は本願補正発明の「スチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成し」に相当する。
また、引用発明の「スチールタイヤコードは、4本のスチールフィラメントを撚合わせたストランド7本からなるスチールコードとその周囲にラッピングした金属線の糸条とにより構成し」「スチールタイヤコードを用いたプライとブレーカーを備えたラジアル構造を有するタイヤ」と本願補正発明の「カーカス層を構成する補強コードを複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成し」「左右一対のビード部間にカーカス層を装架した重荷重用空気入りラジアルタイヤ」は、「ラッピングしたスチールコードを使用したタイヤ」である限りにおいて一致する。
以上より、本願補正発明と引用発明を対比すると、両者は、
「複数本のスチールフィラメントからなるスチールコード本体とその周囲に螺旋状に巻き付けたラッピング用フィラメントとにより構成し、該ラッピング用フィラメントを黄銅素線により構成すると共に、前記スチールコード本体の周囲に巻き付けるようにラッピングしたスチールコードを使用したタイヤ。」
である点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明では、スチールコードを重荷重用空気入りラジアルタイヤの左右一対のビード部間に装架したカーカス層の補強コードとして用いたのに対して、引用発明ではタイヤのプライとブレーカーに用いた点。

[相違点2]
本願補正発明では、「ラッピング用フィラメントを複数本」「それぞれのラッピング用フィラメントを互いに同じ方向で、かつ長手方向に間隔をあけて前記スチールコード本体の周囲に巻き付けるようにし、その巻き付け間隔をコードの構造やコードの素線径に応じて3?6mmに設定した」のに対して、引用発明では、ラッピングに複数の糸条を用いることを規定していない点。

(3)当審の判断
上記相違点1について検討すると、重荷重用空気入りラジアルタイヤのカーカス層の耐久性を向上させるためにスパイラルワイヤー(本願発明の「ラッピング用フィラメント」に相当)を巻き付けたスチールコードを用いることは周知技術であり(上記(1)ii)、他に、特開昭62-253501号公報、特開昭62-299404号公報参照)、重荷重用空気入りラジアルタイヤのカーカス層に用いるスチールコードの耐久性を向上させてカーカス層の耐久性を高いものとするために、引用発明のスチールタイヤコードを重荷重用空気入りラジアルタイヤのカーカス層に補強コードとして用いることは当業者が容易になし得たことである。
上記相違点2について検討すると、引用文献1には「従来のスチールワイヤをスチールコードにラッピングする方法」を用いることができること、「複数のラッピング用フィラメント(金属線)を同方向に」ラッピングすることが示唆されており(上記(1)i)(ア)参照)、タイヤ用のスチールコードにおいてはラッピング用フィラメントをその本数にかかわらず、所定のピッチを定めて(長手方向に間隔を開けて)巻き付けることが周知技術にすぎないので(例えば、特開平1ー207485号公報、特開平1ー207486号公報、特開平3ー8879号公報参照)、引用発明において、複数のラッピング用フィラメントを用い、それぞれのラッピング用フィラメントを互いに同じ方向で、かつ長手方向に間隔をあけて前記スチールコード本体の周囲に巻き付けることは当業者が容易になし得たことである。
また、ラッピング用フィラメントのピッチは、当業者が実施に当たってその好ましい値を適宜定めるのであって(上記(1)i)(ア)参照)、それぞれのラッピング用フィラメントのピッチ、即ち長手方向の間隔をコードの構造やコードの素線径に応じて3?6mmに設定したことは単に適用技術の最適化をはかったに過ぎず、当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎないと認められる。

また、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものと認められない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成25年8月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年11月19日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲、明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記「第2」「1.」補正前の請求項1参照)。

第4.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、引用発明は、前記「第2.」の「3.」「(1)」に記載したとおりである。

第5.対比・判断
本願発明は、実質、本願補正発明(前記「第2.」「1.」の補正後の請求項1参照。)から、「それぞれのラッピング用フィラメントを互いに同じ方向で、かつ長手方向に間隔をあけてスチールコード本体の周囲に巻き付ける」際の「その巻き付け間隔をコードの構造やコードの素線径に応じて3?6mmに設定した」ものに限定するとの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.」の「3.」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-02 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-22 
出願番号 特願2008-133676(P2008-133676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60C)
P 1 8・ 575- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 紀本 孝
熊倉 強
発明の名称 重荷重用空気入りラジアルタイヤ  
代理人 小川 信一  
代理人 野口 賢照  
代理人 平井 功  
代理人 佐藤 謙二  
代理人 昼間 孝良  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 境澤 正夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ