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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1288314
審判番号 不服2012-21876  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-05 
確定日 2014-06-04 
事件の表示 特願2001-572600「表面で架橋した粉末状ポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月11日国際公開、WO2001/74913、平成15年10月 7日国内公表、特表2003-529647〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年3月7日(パリ条約による優先権主張 2000年3月31日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成20年7月16日に手続補正書及び上申書が提出され、同年同月18日に手続補正書及び上申書が提出され、平成23年3月25日付けで拒絶理由が通知され、平成23年9月29日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成24年6月29日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年11月5日に拒絶査定に対する審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月19日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成25年2月28日付けで前置報告がなされ、当審において同年5月29日付けで審尋がなされ、同年9月2日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1?14に係る発明は、平成24年11月5日提出の手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「ある領域を含む液体吸収性の吸入層であって、該領域は、粉末状ポリマーを60%から100%の間の割合で含み、該粉末状ポリマーは、部分的に中和されたカルボキシル基含有モノマーを重合し場合によっては予備架橋してなるものから合成され、表面が後架橋された水または水性液体吸収性の粉末状ポリマーであって、前記後架橋の後にアルミニウム陽イオンの少なくとも1種の塩の溶液と反応させられたこと、前記陽イオンが該粉末状ポリマーに対して、0.001?1重量%の量で使用されること、及び前記粉末状ポリマーは、前記カルボキシル基の25?85%が中和されていることを特徴とする、上記液体吸収性の吸入層。」

第3.原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成23年3月25日付け拒絶理由通知書に記載された理由のうち、理由2は、この出願の請求項1?27に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、刊行物の一つとして、以下の引用文献2が提示されている。
国際公開第98/049221号

第4.当審の判断
1.引用刊行物
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/049221号(以下、「引用文献」という。平成23年3月25日付け拒絶理由通知書における引用文献2に同じ。摘示個所としては対応する日本語公報である特表2001-523287号公報を用いた。)には、以下の記載がある。

ア. 「1.170℃を超える温度で10分を上回る間熱処理された水性流体吸収性ポリマー粒子を含む組成物であって、該組成物は熱処理後に有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の不在下において添加剤水溶液により再加湿されており、かつ該組成物の総重量を基準にして1ないし10重量パーセントの水を含み、さらに該組成物は0.3psi(21,000ダイン/cm^(2))の圧力下で少なくとも20グラムの0.9重量パーセント食塩水溶液を吸収する能力、すなわち20グラム/グラムを上回る60分0.3psi(21,000ダイン/cm^(2))AULを特徴とする組成物。
2.該添加剤水溶液が一価または多価金属塩を含有することを特徴とする請求項1記載の組成物。
・・・
8.該添加剤水溶液が硫酸塩系金属塩類を含有することを特徴とする請求項2記載の組成物。
9.該添加剤水溶液がアルミニウムまたはナトリウムの塩化物もしくは硫酸塩を含有することを特徴とする請求項8記載の組成物。
・・・
11.該添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを念有することを特徴とする請求項9記載の組成物。
14.該多価金属カチオンまたはプロポキシル化ポリオールが乾燥SAPの総重量を基準にして500ないし5,000ppmの量で用いられることを特徴とする請求項2記載の組成物。」(特許請求の範囲 請求項1、2、8、9、11及び14)

なお、摘示ア.の「11.該添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを念有する」との記載における「念有」は、請求項2、8及び9の記載からみて、「含有」の誤記と認められる。

イ. 「すぐれた加工性を有する高吸収性ポリマー
水に膨潤可能なポリマーのゲル化重合においては、モノマーを水溶液中で重合させる。架橋剤のようなある種の添加剤をモノマー混合物中に添加することができる。重合プロセスの生成物を、典型的には乾燥させて、細断、粉砕、および篩い分けを含む微粉砕および分粒という機械的手段にかける。必要ならば、乾燥した高吸収性ポリマー粒子を、さらに表面変性および/または熱処理することができる。このような後加熱処理は、、操作中に、さらに加工しにくさを生じる場合のある、ほとんど完全に乾燥した、静電気を蓄積する傾向の強い生成物をもたらす。このような静電気の蓄積は、おむつまたは衛生ナプキンのようなパーソナルケア(personal care)物品中の高吸収性ポリマー適用の確度および該ポリマーの分布にマイナスに影響するので、該蓄積は極めて望ましくない。さらに、高吸収性ポリマー(SAP)の処理中の静電気の蓄積をできるたけ少なくし、それによってSAP粒子表面の電気伝導度を増すためには、ある種の処理が必要である。・・・
より可塑化された表面ほど砕けにくいことは公知である。脆さはポリマーの性質劣化およびダスト(dust)生成を生じることがある。水が高吸収性ポリマーの可塑剤になりうることも公知である。しかし、水の添加に付随する1つの主要問題はSAP粒子が表面で膨潤して粘着性になるという傾向である。加える水の量が増すにつれて、高吸収性ポリマーはより粘着性になって加工しにくくなる。・・・
現状の表面処理法、とくに凝集防止剤を用いない方法はポリマー粒子を凝集させ、その凝集は実質的に不可逆的であるという大きな欠点を依然として示す。したがって、凝集防止剤として有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の使用を必要とせずに望ましくない凝集および不可逆的凝集を阻止またはできるだけ少なくする手段を見出すことが極めて望ましいと思われる。このように、静電気を蓄積しかつダストを生成する傾向が少なく、表面処理プロセス中にポリマー粒子の望ましくない凝集を生ぜずに十分に細かいダストの結合機能を有するすぐれた水性流体吸収性ポリマーに業界は大きな利点を見出すであろう。」(5頁2行?7頁3行)

ウ. 「本発明の添加剤水溶液に有用な添加剤には、たとえば一価および選ばれた多価金属イオンの塩類がある。適当な金属イオンにはナトリウム、カリウム、またはアルミニウムイオンがある。・・・
三価塩類を用いる場合にはその濃度が、再加湿プロセス中の好ましくない凝集または不可逆的凝集を十分に阻止するレベルにあるのが望ましい。三価塩類の最高濃度は、高吸収性ポリマーをさらに架橋させる傾向、したがって高吸収性ポリマーの吸収容量を減少させる傾向によって限定される。その結果SAPの総重量を基準にして500から5,000ppm、好ましくは1,000から2.500ppmの量が用いられる。」(9頁3行?下から4行)

エ. 「本発明に用いるのに適当な水に膨潤可能または軽度に架橋した親水性ポリマーは、多量の流体を吸収できる公知の親水性ポリマーのいすれでもよい。とくに本発明に有用な水吸収性ポリマーはカルボキシル部分を含む水吸収性ポリマーである。水吸収性樹脂100グラム当たり少なくとも約0.01当量のカルボキシル基の存在するのが奸ましい。
好ましいカルボキシル含有水吸収性ポリマー中には・・・ポリアクリル酸の部分中和物ならびに部分中和ポリアクリル酸の架橋生成物がある。」(10頁1?12行)

オ. 「重合は、中和されていないかまたは重合前に中和もしくは部分中和された酸モノマーを用いて行うことができる。中和は好適には、水性モノマーを、酸モノマー中に存在する酸基の20ないし95パーセントを中和するだけの量の塩基性物質と接触させることによって達成される。塩基性物質の量は、酸モノマー中に存在する酸基の40から85パーセントを中和するだけの量が好ましく、55から75パーセントを中和するだけの量がより好ましい。」(11頁18?23行)

カ. 「水に可溶のモノマー及び架橋剤の重合において従来のビニル付加重合開始剤を用いるのが好適である。・・・
水吸収性樹脂は、水不溶性とするために軽度に架橋させるのが好ましい。所望の架橋構造は、選択された水に可溶のモノマーと分子単位中に少なくとも2つの重合可能な二重結合を有する架橋剤との共重合によって得ることができる。・・・
典型的な架橋剤は1分子中にCH_(2)=CHCO-、CH_(2)=C(CH_(3))CO-およびCH_(2)=CHCH_(2)-からなる群から選ばれる2から4個の基を有するモノマーを包含する。典型的な架橋剤は・・・トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリトールのトリアクリレート類・・・である。」(12頁8行?13頁下から5行)

キ. 「生成したポリマーは典型的には当該業界で周知の手段を用いて予備分粒して乾燥する。適当な乾燥手段には流動層乾燥機、回転乾燥機、強制通風炉、および空気循環乾燥機がある。場合によっては乾燥が2つ以上のステージで行われる。2スーテジの乾燥では予備分粒ポリマー粒子を第1ステージで部分乾燥、たとえば予備分粒ポリマー粒子を約10パーセント未満の水分レベル、好ましくは約5パーセントの水分レベルに乾燥する。初期乾燥中、予備分粒粒子は典型的に融合してシートになる。乾燥終了後、ポリマーをさらに完全に分粒して、算術平均粒径が300ないし500ミクロンで平均粒径0.8mm来満の粒子とする。該分粒中、粒度によって特徴づけられるダスト、すなわち粒度該100μm未満のダストを生じることがある。」(14頁15?24行)

ク. 「吸収性を改善するために、乾燥粒子を・・・熱処理することができる。・・・
乾燥粒子の吸収性を改善す他の方法には公知の後架橋法があり、該方法は表面後架橋反応を生じさせるために熱処理をも含んでいる。これらの方法は再加湿を必要とする生成物をも生じるであろう。本発明の方法はこの種の生成物を再加湿するのに適している。」(14頁下から4行?15頁16行)

なお、摘示ク.の「吸収性を改善す他の方法」は、「吸収性を改善する他の方法」の誤記と認められる。

ケ. 「実験手法4
実施例21ないし24(Munson Blenderにおける連続式再加湿)
これらの実施例は、主架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレートおよび二次架橋剤としてポリエチレングリコールを含有し、乾燥し、熱処理し、部分中和したポリアクリル酸である供給ポリマー7を使用する。・・・
供給ポリマー7は連続式Munson混合機において実験手法4に従って処理した。実施例21ないし24において、アルミニウム源は水和硫酸アルミニウムであった。条件及び試験結果を表Vに示した。
・・・

」(26頁1行?27頁 表V)

2.引用文献に記載された発明
引用文献には、水性流体吸収性ポリマー(高吸収性ポリマー)に関して、「おむつまたは衛生ナプキンのようなパーソナルケア(personal care)物品中の高吸収性ポリマー適用」(摘示イ.)が記載されている。上記記載、及び、おむつ、衛生ナプキンなどのパーソナルケア(personal care)物品の分野において、水性流体吸収性ポリマーをパーソナルケア物品の吸入層に用いることは技術常識であることから、引用文献には、パーソナルケア物品の吸入層であって、引用文献記載の水性流体吸収性ポリマーを含有する吸入層についても記載されているといえる。
よって、引用文献には、摘示ア.及び「高吸収性ポリマー(SAP)」(摘示イ.)の記載からみて、
「170℃を超える温度で10分を上回る間熱処理された水性流体吸収性ポリマー粒子を含む組成物を含有する、パーソナルケア(personal care)物品の吸入層であって、
該組成物は熱処理後に有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の不在下において添加剤水溶液により再加湿されており、かつ該組成物の総重量を基準にして1ないし10重量パーセントの水を含み、該組成物は0.3psi(21,000ダイン/cm^(2))の圧力下で少なくとも20グラムの0.9重量パーセント食塩水溶液を吸収する能力、すなわち20グラム/グラムを上回る60分0.3psi(21,000ダイン/cm^(2))AULを有し、
該添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを含有し、アルミニウムイオンが乾燥高吸収性ポリマーの総重量を基準にして500ないし5,000ppmの量で用いられるものである、
パーソナルケア物品の吸入層」の発明(以下、「引用発明」という。)
が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「水性流体吸収性ポリマー粒子」に関する「算術平均粒径が300ないし500ミクロンで平均粒径0.8mm来満の粒子」との記載(摘示キ.)、及び、本願明細書【0021】の「衛生産業においてポリマー粉末を使用するためには、1000μm、好ましくは850μmという粒子の上限が、適切であることが分かっている。」との記載からみて、本願発明の「粉末」の粒径と引用文献発明の「粒子」の粒径とは重複一致しているから、引用発明の「粒子」は本願発明の「粉末」に相当し、引用発明の「水性流体吸収性ポリマー粒子」は、本願発明の「水または水性液体吸収性の粉末状ポリマー」に相当している。
引用発明における「組成物は」「有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の不在下において添加剤水溶液により再加湿され」「添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを含有し、アルミニウムイオンが乾燥高吸収性ポリマーの総重量を基準にして500ないし5,000ppmの量で用いられる」ことについて、摘示ウ.には、三価塩類が高吸収性ポリマーをさらに架橋させる傾向を有することが記載されているから、上記の「添加剤水溶液により再加湿され」る処理は、本願発明における「反応」に相当している。また、「500ないし5000ppm」は、0.05?0.5%であるから、引用発明の「アルミニウムイオンが乾燥高吸収性ポリマーの総重量を基準にして500ないし5,000ppmの量で用いられる」は、本願発明の「陽イオンが該粉末状ポリマーに対して、0.001?1重量%の量で使用されること」と重複一致している。よって、引用発明における「組成物は」「有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の不在下において添加剤水溶液により再加湿され」「添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを含有し、アルミニウムイオンが乾燥高吸収性ポリマーの総重量を基準にして500ないし5,000ppmの量で用いられる」ことは、本願発明の「アルミニウム陽イオンの少なくとも1種の塩の溶液と反応させられたこと、前記陽イオンが該粉末状ポリマーに対して、0.001?1重量%の量で使用されること」に相当している。
引用発明の「水性流体吸収性ポリマー粒子を含む組成物を含有する、パーソナルケア(personal care)物品の吸入層」は、水性流体吸収性ポリマー粒子を含む組成物を含有するものであるから、本願発明の「ある領域を含む液体吸収性の吸入層であって、該領域は、粉末状ポリマーを含」むものに相当している。
したがって、両者は、
「ある領域を含む液体吸収性の吸入層であって、該領域は、粉末状ポリマーを含み、該粉末状ポリマーは、水または水性液体吸収性の粉末状ポリマーであって、アルミニウム陽イオンの少なくとも1種の塩の溶液と反応させられたこと、前記陽イオンが該粉末状ポリマーに対して、0.001?1重量%の量で使用されることを特徴とする、上記液体吸収性の吸入層。」
である点で一致し、以下の相違点1、相違点2及び相違点3において相違している。

相違点1:本願発明は、粉末状ポリマーの「表面が後架橋され」「後架橋の後にアルミニウム陽イオンの少なくとも1種の塩の溶液と反応させられ」ることを特定しているのに対し、引用発明は「熱処理後に有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の不在下において添加剤水溶液により再加湿され」るとされており、後架橋について特定がなされていない点。

相違点2:本願発明は、「粉末状ポリマーは、部分的に中和されたカルボキシル基含有モノマーを重合し場合によっては予備架橋してなるものから合成され」「前記カルボキシル基の25?85%が中和されている」ことを特定しているのに対して、引用発明にはそのような特定がなされていない点。

相違点3:本願発明は、「該領域は、粉末状ポリマーを60%から100%の間の割合で含」む点を特定しているのに対して、引用発明には含有割合の特定がなされていない点。

4.相違点に対する判断
(1)相違点1について
引用発明の「熱処理」に関して、摘示ク.には、熱処理は吸収性改善の処理であること、乾燥粒子の吸収性を改善する他の方法には公知の後架橋法があり、該方法は表面後架橋反応を生じさせるために熱処理をも含んでいること、引用発明は、後架橋法を行ったものの再加湿に適していることが記載され、摘示ケ.には、実施例として、主架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレートおよび二次架橋剤としてポリエチレングリコールを含有し、乾燥し、熱処理し、部分中和したポリアクリル酸ポリマーを、硫酸アルミニウム水溶液で処理した例が記載されている。
ここで、摘示ケ.の「主架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレートおよび二次架橋剤としてポリエチレングリコールを含有し、乾燥し、熱処理し、部分中和したポリアクリル酸である供給ポリマー7を使用する。」との記載における、主架橋剤であるトリメチロールプロパントリアクリレートは、摘示カ.の記載からみて、ポリアクリル酸の重合時に共重合させて架橋させるための、分子単位中に少なくとも2つの重合可能な二重結合を有する架橋剤である。そして、二次架橋剤であるポリエチレングリコールは、分子単位中に少なくとも2つの重合可能な二重結合を有しておらず、共重合できないことからみて、重合時に共重合させるための架橋剤ではないといえること、主架橋剤を用いた重合時の架橋よりも後に用いる「二次」架橋剤であること、また、表面後架橋の架橋剤として知られていること(例えば、特開平9-124879号公報【0008】?【0009】参照)から、表面後架橋剤であり、摘示ケ.の実施例においては、表面後架橋及び表面後架橋後の熱処理を行っていると認められる。
よって、引用発明の「熱処理」は、表面後架橋のための熱処理を包含するものである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
摘示エ.には、有用な水吸収性ポリマーはカルボキシル部分を含む水吸収性ポリマーであり、好ましいカルボキシル含有水吸収性ポリマー中にはポリアクリル酸の部分中和物ならびに部分中和ポリアクリル酸の架橋生成物があることが記載され、摘示オ.には、中和は好適には、水性モノマーを、酸モノマー中に存在する酸基の好ましくは40から85パーセントを中和するだけの量の塩基性物質と接触させることにより達成されることが記載されている。上記40から85パーセントが中和されたカルボキシル部分を含む水吸収性ポリマーは、本願発明の「部分的に中和されたカルボキシル基含有モノマーを重合し場合によっては予備架橋してなるものから合成され」「前記カルボキシル基の25?85%が中和されている」ものに相当している。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
吸水性ポリマーを含む領域における吸水性ポリマーの含有量は、吸収性ポリマーをパーソナルケア物品の吸入層に用いるにあたって、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が適宜決定すべき設計的事項にすぎない。また、吸水性ポリマーを60%から100%の間の割合で含む領域を有する吸入層とすることは、特表平9-510889号公報、国際公開第99/055393号に記載されるように、周知である。当該数値範囲とすることに格別顕著な効果も認められない。

(4)小括
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前の技術水準からみて、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年12月19日提出の審判請求書の手続補正書(方式)(以下、単に「請求書」という。)及び平成25年9月2日提出の回答書において、概略、以下の主張をしている。
(i)引用文献2には、高吸収性ポリマーとして表面が後架橋された高吸収性ポリマーを使用することも、表面後架橋されたポリマー組成物にアルミニウム塩等の溶液を添加することも記載されていない。(請求書4.(2)及び4.(5)(3?4頁))
(ii)引用文献2における熱処理は表面後架橋剤を用いた表面後架橋とは相違する。引用文献2では、単に加熱処理したポリマーを、多価金属塩を含む水溶液と接触させており、引用文献2の方法で得られる高吸収性ポリマー組成物は、本願発明の高吸収性ポリマーと構成が相違する。(回答書4.1?2段落(3?4頁))
(iii)引用文献2の目的は、ゲル凝集に対して改良された抵抗性を有し、そして改良された吸収性及び荷重下での改良された吸収性を有する高吸収性ポリマーを提供することであって、硫酸アルミニウムの使用による粉塵の量の低減、最終製品中の微粒子量の低減、及びポリマーの流動性の改良は示されていない。高吸収性ポリマーの粉塵低減及び流動性の改良を目的としない引用文献2からは、本願発明の微粒子量の低減及び流動性の改良の効果は予期し得ない。(回答書4.3?6段落(4頁))

上記主張について検討する。
上記4.(1)において検討したとおり、引用文献(拒絶査定における引用文献2)には、表面が後架橋された吸収性ポリマー粒子を含む組成物を使用し、表面後架橋された吸収性ポリマー粒子を含む組成物を硫酸アルミニウム水溶液で処理することについて記載されている。したがって、当該処理を行ったものについて、請求人の主張する構成の相違はなく、引用発明においても、高吸収性ポリマーの粉塵が低減され、流動性に優れたものとなっていると認められる。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。
したがって、原査定における他の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-06 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-21 
出願番号 特願2001-572600(P2001-572600)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 須藤 康洋
富永 久子
発明の名称 表面で架橋した粉末状ポリマー  
代理人 牛木 護  

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