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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1288419
審判番号 不服2010-24894  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-05 
確定日 2013-12-16 
事件の表示 特願2004-239974「脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いた成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日出願公開、特開2006- 56988〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年8月19日の特許出願であって、平成22年5月31日付けで拒絶理由通知がなされ、同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月20日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成22年11月5日に審判請求書が提出され、当審において、平成24年10月5日付けで拒絶理由通知がなされ、同年11月29日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「(A)脂肪族ポリエステルと、(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物であって、
(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体が、ポリブタジエンからなるコア層に、ビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であり、グラフト重合前、グラフト重合中又はグラフト重合後のいずれかに、カルボキシル基含有重合体を添加することにより得られるグラフト共重合体である、脂肪族ポリエステル樹脂組成物。」

3.当審による拒絶理由通知について
当審が、平成24年10月5日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1,2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2003-286396号公報
刊行物2:特開2003-261629号公報」


4.引用文献の記載事項
当審により通知した拒絶の理由において提示した刊行物である特開2003-286396号公報(以下、「刊行物1」という。)、及び特開2003-261629号公報(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ、以下のとおり記載されている。

4-1.刊行物1の記載事項
(ア)「【請求項1】(A)脂肪族ポリエステルと(B)多層構造重合体とを含有することを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】(B)多層構造重合体の内部に少なくとも1層以上のゴム層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】(B)多層構造重合体の最外層が、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を含有する重合体により構成されることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】(A)脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】さらに無機系結晶核剤および有機系結晶核剤から選択される1種以上の結晶核剤を含有することを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】さらに可塑剤を含有することを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物」(請求項1、3?4、7?8、10)

(イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、耐衝撃性に優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物、さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。」(段落【0001】)

(ウ)「脂肪族ポリエステルの中でも、ポリ乳酸は、比較的コストが安く、融点もおよそ170℃と高く、溶融成形可能な生分解性ポリマ-として期待されている。また、最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用した発酵法により安価に製造されるようになり、より一層低コストでポリ乳酸を生産できるようになってきたため、生分解性ポリマーとしてだけでなく、汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。しかし、その一方で、耐衝撃性や柔軟性が低いなどの物性的な欠点を有しており、その改良が望まれている。」(段落【0003】)

(エ)「本発明において、(B)多層構造重合体とは、最内層(コア層)とそれを覆う1以上の層(シェル層)から構成され、また、隣接し合った層が異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる構造を有する重合体である。
本発明の(B)多層構造重合体を構成する層の数は、特に限定されるものではなく、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよい。」(段落【0016?【0017】)

(オ)「【表2】

」(段落【0068】)

4-2.刊行物2の記載事項
(あ)「【請求項1】 ブタジエン系ゴム重合体(b1)を酸基含有共重合体(b2)により肥大化して得られるラテックス(b1’)に、芳香族ビニル、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種以上を含む単量体または単量体混合物(b3)をグラフト重合して得られることを特徴とするグラフト共重合体。」(特許請求の範囲請求項1)

(い)「【発明が解決しようとする課題】以上の様な状況に鑑み、優れた耐衝撃性、耐熱性および表面外観を有する成形品を作製できる、熱可塑性樹脂用に好適な耐衝撃性改良剤を提供することを本発明の目的とする。」(段落【0005】)

(う)「本発明のグラフト共重合体(B)は熱可塑性樹脂に好適に添加できる耐衝撃性改良剤であり、優れた耐衝撃性、耐熱性および表面外観を有する成形品を作製できる。
酸基含有共重合体を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体は塩や酸を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体に比べて熱的に安定であるため、耐熱性を損なわず、大粒子径の存在より耐衝撃性を付与することができると考えられる。また、本発明のグラフト共重合体は熱可塑性樹脂に均一に分散するため、良好な表面外観を実現できると考えられる。」(段落【0009】?【0010】)

(え)「この様にして得られたグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂の耐衝撃性改良剤として好適である。具体的には、1種以上の熱可塑性樹脂(A)60?99質量%に、グラフト共重合体(B)1?40質量%を添加して熱可塑性樹脂組成物を作製する。グラフト共重合体(B)の含有量を上記の範囲内とすることにより、良好な耐衝撃性および外観を有する成形品を作製することができる。
熱可塑性樹脂(A)は特に限定されず、ポリカーボネート系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート系樹脂(PC);ポリカーボネート系樹脂および飽和ポリエステル樹脂のアロイ、ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系エラストマーのアロイ、ポリカーボネート系樹脂、飽和ポリエステル樹脂およびポリエステル系エラストマーのアロイ等のポリカーボネート系アロイが、メタクリル酸アルキルエステルとの相溶性から好ましい。」(段落【0041】?【0042】)

(お)「[ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1-1)の重合]以下の物質を70Lオートクレーブに仕込み、昇温して43℃となった時点で、レドックス系開始剤をオートクレーブ内に添加し反応を開始後、更に60℃まで昇温した。

1,3-ブタジエン 100部
t-ドデシルメルカプタン 0.4部
ロジン酸カリウム 0.75部
オレイン酸カリウム 0.75部
ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド 0.24部
脱イオン水 70部。

レドックス系開始剤
硫酸第一鉄 0.003部
デキストローズ 0.3部
ピロリン酸ナトリウム 0.3部
脱イオン水 5部。
重合開始から8時間反応させて、ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1-1)を得た。得られたブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1-1)の粒子径は90nmであった。」(段落【0057】?【0060】)

(か)「[酸基含有共重合体(b2-1)の重合]酸基含有共重合体(b2-1)として、以下の混合物を70℃で4時間重合させ、転化率98%、pH5.0のエマルジョン(MAA-BA共重合体)を調製した。

n-ブチルアクリレート 85部
メタクリル酸 15部
オレイン酸ナトリウム 2.0部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 1.0部
過硫酸カリウム 0.3部
脱イオン水 200部。
[実施例1]グラフト共重合体(B-1)
ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1-1)を固形分として75部に対し、酸基含有共重合体(b2-1)としてMAA-BA共重合体を固形分として2部添加し、室温にて30分攪拌することによって肥大化した(b1’-1)。
その後、オレイン酸カリウム1.5部と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部とをフラスコ内に仕込み、内温を70℃に保持して、メチルメタクリレート13部と、n-ブチルアクリレート2部と、クメンハイドロキシパーオキサイドを上記単量体混合物を100とした場合に0.2部との混合物を1時間かけて滴下した後、1時間保持し、第1グラフト重合工程を行った。
その後、第1グラフト重合工程で得られた重合体の存在下で、第2段目としてスチレン17部と、クメンハイドロキシパーオキサイドをスチレン100とした場合に0.2部との混合物を1時間かけて滴下した後、3時間保持し、第2グラフト重合工程を行った。
その後、第2グラフト重合工程で得られた重合体の存在下で、第3段目としてメチルメタクリレート3部と、クメンハイドロキシパーオキサイドをメチルメタクリレートを100とした場合に0.1部との混合物を0.5時間かけて滴下した後、1時間保持してから第3グラフト重合工程を終了して、グラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した後、0.2%硫酸水溶液を添加して凝析させ、90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し、さらに乾燥してグラフト共重合体(B-1)を得た。」(段落【0072】?【0078】)

5.対比と判断
5-1.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記摘示(ア)?(オ)の記載からみて、
「脂肪族ポリエステルと多層構造重合体とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

5-2.本願発明との対比
ここで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「脂肪族ポリエステルと、重合体とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物」の点で一致し、重合体について、本願発明が「カルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体が、ポリブタジエンからなるコア層に、ビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であり、グラフト重合前、グラフト重合中又はグラフト重合後のいずれかに、カルボキシル基含有重合体を添加することにより得られるグラフト共重合体である」なる事項を発明を特定するために必要な事項として備えるのに対して、引用発明では「多層構造重合体」なる事項を備える点で相違している。

5-3.相違点についての検討
この相違点について検討する。
刊行物1に係る発明は、摘示(イ)から、「耐衝撃性に優れ、さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物を提供する」ことを目的とするものであるが、表2の記載(摘示(オ))の比較例7と比較例8とを比較すると、ポリ乳酸に結晶核剤及び可塑剤を配合した組成物(比較例8)は、ポリ乳酸に何も配合しない組成物(比較例7)よりも衝撃強度および耐熱性が向上しており、ポリ乳酸に結晶核剤および可塑剤を配合することにより組成物の衝撃強度および耐熱性が向上することが分かる。また、同様に、実施例7と比較例8とを比較すると、ポリ乳酸に結晶核剤および可塑剤を配合した組成物(比較例8)に、さらに多層構造重合体を配合した組成物(実施例7)は、耐熱性は変わらないものの衝撃強度は向上している。したがって、これらの実施例7、比較例7及び8の結果からは、結晶核剤と可塑剤とを配合することによりポリ乳酸の衝撃強度及び耐熱性の向上がもたらされること、及び多層構造重合体を配合することによりポリ乳酸の耐熱性を損なうことなく衝撃強度を向上させることができることが理解できる。
そうであれば、刊行物1からは、ポリ乳酸に結晶核剤および可塑剤を配合することにより衝撃強度および耐熱性が改善された組成物が得られる上に、この組成物にさらに多層構造重合体を配合することにより組成物の耐熱性を維持したまま、より衝撃強度の向上した組成物が得られることが理解できる。
一方、刊行物2には、「ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂」(摘示(え))に対し、「ブタジエン系ゴム重合体(b1)を酸基含有共重合体(b2)により肥大化して得られるラテックス(b1’)に、芳香族ビニル、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種以上を含む単量体または単量体混合物(b3)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体」(摘示(あ))を配合することにより、「熱可塑性樹脂の耐熱性を損なわず、耐衝撃性を付与することができること」(摘示(う))が記載されている。
そして、刊行物2記載のグラフト共重合体は、摘示(あ)、(お)及び(か)記載の製造方法からみて、多層構造を有しているものといえるし、また、本願発明のグラフト共重合体に相当するものであることは明らかである。
そうすると、刊行物2に記載された技術事項に接した当業者は、組成物の耐熱性を維持したまま、より衝撃強度の向上した組成物が得ることを目的として、刊行物1に記載の熱可塑性樹脂であるポリ乳酸に配合されている多層構造重合体に代えて、刊行物2に記載された多層構造を有するグラフト共重合体を熱可塑性樹脂であるポリ乳酸に配合することに格別の困難性があったということはできず、この相違点に係る事項は当業者が容易に成し得たものといえる。また、本願発明においても、実施例9と比較例4とを比較すると、耐熱性はほぼ同じであって、グラフト共重合体の有無により耐熱性が左右されるものではないから、本願発明の効果が、格別予想外のものであるとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5-4.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年11月29日提出の意見書において、「審判官殿は、『-また、本願発明においても、実施例9と比較例4とでは同程度の耐熱性を示しており、-』と述べられているが、実際には実施例9の耐熱性は110℃であり、比較例4の耐熱性は105℃であり、その両者は、同程度ではなく、明らかに差があるものであります。本願発明では(A)脂肪族ポリエステルに特定のカルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト重合体を添加することによって、耐衝撃性だけではなく、耐熱性をも向上させているのです。従って、出願人としては、この耐熱性の向上の効果というものは、予期せぬ効果としてとらえるべきものと確信しています。」と主張する。
しかしながら、本願明細書の段落【0074】記載の表3から見て、本願発明の実施例9ないし12における耐熱性は95℃から125℃までの範囲で示されるものであって、少なくともかかる温度範囲において耐熱性の効果を認識できるものと解されるところ、比較例4における耐熱性は105℃であり、かかる範囲に含まれるものであるから、比較例4における耐熱性と本願発明における耐熱性との間に格別な効果の差があるとはいえない。確かに、実施例9と比較例4の耐熱性を見れば110℃と105℃で違いはあるものの、この5℃の違いが耐熱性における効果としてどのように評価されるべきものであるのかについて、特に上記した本願の実施例における耐熱性を示す温度範囲内においてどのように評価されるべきものであるのかについて、審判請求人からは何ら説明するところが無く、また、本願明細書の記載、及び本願出願時における技術常識を参酌しても、どのように評価すべきか明確ではないことから、かかる温度の違いに格段の意義を確認することができない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、上記4.及び5.で検討した請求項に係る発明及び拒絶理由以外の請求項に係る発明及び拒絶理由について検討するまでもなく、本願は、当審による平成24年10月5日付けで通知した拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-09 
結審通知日 2013-01-10 
審決日 2013-01-22 
出願番号 特願2004-239974(P2004-239974)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 近藤 政克
大島 祥吾
発明の名称 脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いた成形品  

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