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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01M
管理番号 1288491
審判番号 不服2013-9007  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-16 
確定日 2014-06-12 
事件の表示 特願2008-173319「接触疲労損傷を発生したときに起こる経時変化を検出する検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月21日出願公開,特開2010- 14473〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成20年7月2日を出願日とする出願であって,平成24年10月9日付けで拒絶理由が通知され,同年12月7付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成25年2月27日付で拒絶査定されたのに対し,同年5月16日に拒絶査定不服の審判請求がされものである。
そして,その請求項1に係る発明は,平成24年12月7付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもので,以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
鋼製部品の台上試験において、接触疲労損傷を発生したときに起こる経時変化を検出する検出方法であり、
前記鋼製部品に水素をチャージする工程と、
前記水素をチャージする工程の後に、水素をチャージした前記鋼製部品が接触疲労損傷を発生する過程において出力される信号を検出する工程とを備える、検出方法。」(以下「本願発明」という。)

第2 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-178268号公報(以下「引用文献1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項においては,下記の引用発明の認定で使用した箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【0004】
この脆性剥離の原因については種々の検討がなされているが、加減速を繰り返すサイクルで軸受試験後の軸受を水素分析した結果、固定輪で水素量が増加し、回転輪と転動体ではこのような水素量の増加が認められなかったことから、固定輪を形成する鋼の水素脆化によるものと推定されている(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、転動体とのすべりによって軌道面に発生する新生面を触媒として、軸受に封入されたグリースが分解し、この分解で発生する水素が軌道面の鋼中に浸入して、水素脆化を引き起こすものと考えられている。」

(1-イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような従来の軸受試験装置では、評価される軸受の高性能化に伴い上述したような脆性剥離を短時間で再現できず、この水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離による軸受寿命の低下を簡単に評価できない問題がある。」

(1-ウ)「【0008】
そこで、本発明の課題は、内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できる軸受試験装置と軸受試験方法を提供することである。」

(1-エ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この軸受試験装置は、図1に示すように、基台1に2つのフレーム2a、2bが絶縁体3を介して立設され、フレーム2aに取り付けられた固定軸4に、試験軸受5の内輪5aが固定輪として外嵌され、フレーム2bに取り付けられた支持軸受6に支持された回転軸7の一端に設けられた筒部7aに、試験軸受5の外輪5bが回転輪として内嵌されている。また、回転軸7には、支持軸受6による支持点に関して、試験軸受5と反対側でプーリ8aが取り付けられている。この実施形態では、試験軸受5は玉軸受とされ、その内輪5a、外輪5bおよび転動体としてのボール5cは、いずれも導電体で形成され、軸受内部にはグリースが封入されている。
【0022】
前記回転軸7に取り付けられたプーリ8aには、回転軸7と平行に配設したモータ9の出力軸9aに取り付けられたプーリ8bとの間に無端ベルト10が張り渡され、このベルト機構によって回転軸7が回転駆動される。また、支持軸受6は回転軸7の傾きを許容する調心輪付きのころ軸受とされ、無端ベルト10の張力によって、傾きを許容されている回転軸7から、試験軸受5にラジアル荷重が負荷されるようになっている。支持軸受6は、内輪6aが回転軸7に外嵌され、外輪6bが調心輪6cを介してフレーム2bに固定されており、内輪6a、外輪6b、調心輪6cおよび転動体としてのころ6dは、いずれも導電体で形成されている。なお、支持軸受6を調心機構のない転がり軸受とし、これを球面座等でフレーム2bに固定して、回転軸7の傾きを許容するようにしてもよい。
【0023】
前記各フレーム2a、2b、固定軸4および回転軸7は、いずれも導電体で形成され、フレーム2a、2bにそれぞれ電源(図示省略)のプラスとマイナスに接続される接点端子11a、11bが取り付けられており、これらの接点端子11a、11bを電源に接続することにより、フレーム2aに取り付けられた固定軸4から、試験軸受5の内輪5a、ボール5c、外輪5bを通って、回転軸7および支持軸受6を介してフレーム2bへ電流が流れる。したがって、試験軸受5に封入されたグリースから電気分解によって強制的に水素を発生させ、前述した水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現することができる。
【実施例】
【0024】
実施例として、上述した軸受試験装置を用いて、前記接点端子11a、11b間に通電し、前記ベルト機構により、図2に示すような加減速を繰り返す回転サイクルで回転軸7を回転駆動して、無端ベルト10の張力で試験軸受にラジアル荷重を負荷し、その外輪を回転させる軸受寿命試験を行った。比較例として、接点端子11a、11b間に通電しない同様の軸受寿命試験も行った。試験軸受のサンプル数は、実施例、比較例とも2個ずつとし、軸受寿命はモータ9の駆動トルクの変化で判定した。試験条件は以下の通りである。
・試験軸受:呼び番号6203の深溝玉軸受(外径40mm、内径17mm、幅12mm
)
・グリース:ウレア系グリース(基油:合成炭化水素油)
・負荷荷重:150kgf(試験軸受1個当たりのラジアル荷重:P/C=0.15)
・通電条件:端子間電圧1?5V、電流0.5A(実施例のみ)
・試験時間:300時間で打ち切り
【0025】
上記軸受寿命試験の結果、比較例ではいずれの試験軸受も軸受寿命が試験時間の300時間を超えたのに対して、実施例ではいずれの試験軸受も軸受寿命が約40時間であった。また、これらの実施例の試験軸受を試験後に分解して目視観察した結果、いずれも固定輪である内輪の軌道面に脆性剥離が発生していることが確認された。以上の試験結果より、本発明に係る軸受試験装置および軸受試験方法は、水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現でき、この脆性剥離による軸受寿命の低下を的確に評価できることが分かった。」

上記引用文献1の記載事項を総合すると,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「基台1に2つのフレーム2a,2bが絶縁体3を介して立設され,フレーム2aに取り付けられた固定軸4に,試験軸受5の内輪5aが固定輪として外嵌され,フレーム2bに取り付けられた支持軸受6に支持された回転軸7の一端に設けられた筒部7aに,試験軸受5の外輪5bが回転輪として内嵌され,前記回転軸7に取り付けられたプーリ8aには,回転軸7と平行に配設したモータ9の出力軸9aに取り付けられたプーリ8bとの間に無端ベルト10が張り渡され,このベルト機構によって回転軸7が回転駆動される軸受試験装置であって,前記各フレーム2a,2b,固定軸4および回転軸7は,いずれも導電体で形成され,フレーム2a、2bにそれぞれ電源のプラスとマイナスに接続される接点端子11a,11bが取り付けられている軸受試験装置を用いて,
前記接点端子11a,11b間に通電し,フレーム2aに取り付けられた固定軸4から,試験軸受5の内輪5a,ボール5c,外輪5bを通って,回転軸7および支持軸受6を介してフレーム2bへ電流が流れ,試験軸受5に封入されたグリースから電気分解によって強制的に水素を発生させ,水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現することができ,
前記ベルト機構により,加減速を繰り返す回転サイクルで回転軸7を回転駆動して,無端ベルト10の張力で試験軸受にラジアル荷重を負荷し,その外輪を回転させる軸受寿命試験を行い,
軸受寿命はモータ9の駆動トルクの変化で判定する方法。」(以下「引用発明」という。)


(2)本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-211955号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の事項が記載されている。
(2-ア)「【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、接触表面で潤滑剤や混入した微量の水が分解して水素が発生しても、それが鋼中に侵入することによって起きる早期剥離を抑制することができる固定型等速自在継手を提供する。」

(2-イ)「【0036】
疲労試験に先立ち、試験品に陰極電解法により水素チャージを施した。水素チャージには、1.4g/Lのチオ尿素を添加した0.05mol/Lの希硫酸水溶液を用いた。・・・・。
【0037】
試験品に水素チャージした後、直ちに常温大気中で疲労試験を行った。」


第3 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)軸受の材質は,摘記(1-ア)に記載されているように鋼であり,摘記(1-エ)の「試験軸受:呼び番号6203の深溝玉軸受」も材質を鋼とするものであるから,引用発明の「試験軸受」は,本願発明の「鋼製部品」に相当するものである。

(2)引用発明の「軸受試験装置を用いて」行う試験は,「基台1」における試験であり,実装における試験ではないから,本願発明の「台上試験」に相当する。

(3)引用発明の「前記接点端子11a,11b間に通電し,フレーム2aに取り付けられた固定軸4から,試験軸受5の内輪5a,ボール5c,外輪5bを通って,回転軸7および支持軸受6を介してフレーム2bへ電流が流れ,試験軸受5に封入されたグリースから電気分解によって強制的に水素を発生させ,水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現する」ことは,強制的に発生させた水素は摘記(1-ア)によると鋼中に侵入するものであるから,本願発明の「鋼製部品に水素をチャージする工程」に相当する。

(4)引用発明の「ベルト機構により、加減速を繰り返す回転サイクルで回転軸7を回転駆動して、無端ベルト10の張力で試験軸受にラジアル荷重を負荷し、その外輪を回転させる軸受寿命試験を行」うことは,摘記(1-ア)及び摘記(1-エ)の【0025】の記載のとおり,軸受の軌道面における脆性剥離すなわち接触疲労損傷に対する寿命試験を行うことである。
さらに,引用発明の「軸受寿命はモータ9の駆動トルクの変化で判定する」における「駆動トルクの変化」は,本願発明の「起こる経時変化」及び「出力される信号」に相当するものであり,その「変化で判定する」のであるから,「変化を検出」及び「信号を検出」しているといえる。
そして,上記(3)も勘案すれば,引用発明の「ベルト機構により、加減速を繰り返す回転サイクルで回転軸7を回転駆動して、無端ベルト10の張力で試験軸受にラジアル荷重を負荷し、その外輪を回転させる軸受寿命試験を行い,軸受寿命はモータ9の駆動トルクの変化で判定する方法」は,本願発明の「接触疲労損傷を発生したときに起こる経時変化を検出する検出方法」及び「水素をチャージした前記鋼製部品が接触疲労損傷を発生する過程において出力される信号を検出する工程とを備える、検出方法」に相当する。

してみれば,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「鋼製部品の台上試験において,接触疲労損傷を発生したときに起こる経時変化を検出する検出方法であり,
前記鋼製部品に水素をチャージする工程と,
水素をチャージした前記鋼製部品が接触疲労損傷を発生する過程において出力される信号を検出する工程とを備える,検出方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
信号を検出する工程が,本願発明では,「水素をチャージする工程の後」であるのに対し,引用発明では,「モータ9の駆動トルクの変化で判定」することが,「接点端子11a、11b間に通電」する工程の後ではない点。

2 当審の判断
そこで,上記相違点について検討する。
引用文献2の摘記(2-イ)には,試験品に水素チャージをした後に,疲労試験を行うことが記載されており,また,本願の出願日前に頒布された刊行物である濱田洋志,松原幸生「軸受鋼の引張・圧縮疲労及び転がり疲労に及ぼす水素の影響」NTN TECHNICAL REVIEW NO.74(2006),p.50-57(以下「周知文献1」という。)の図3,図5の試験手順にも,水素チャージをした後に疲労試験を行うことが記載されていることから,水素チャージをする試験品について疲労試験を行う際には,水素チャージをした後に疲労試験を行うことが本出願前周知であるといえる。
引用発明は,摘記(1-ウ)に「転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できる軸受試験装置と軸受試験方法を提供することである」と記載されているとおり,的確に再現,評価できる方法を提供することも目的としているものである。一方,軸受を実装して使用する際には,軸受に通電することはなく,摘記(1-ア)に「転動体とのすべりによって軌道面に発生する新生面を触媒として、軸受に封入されたグリースが分解し、この分解で発生する水素」と記載されているとおり,実装され使用した時に発生する水素は通電によるものではない。してみれば,軸受の疲労試験を行う際に,実際に使用する条件に合わせて,的確に再現,評価できる方法を提供するために,上記周知技術のように,予め水素チャージをしておき,その後に,通電することなく疲労試験を行うことは当業者が容易に想到することである。
そして,本願発明の効果を,本願明細書では,
「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間で接触疲労損傷を起こすことができるとともに、当該接触疲労損傷が起こる瞬間に発生する、変化を表わす信号を高精度に検出できる。」と記載しているが,引用発明も,摘記(1-イ)に記載の「脆性剥離を短時間で再現できず、この水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離による軸受寿命の低下を簡単に評価できない問題がある」との課題を解決したものである点で本願発明と同様であり,また,摘記(1-エ)の【0025】に「上記軸受寿命試験の結果、比較例ではいずれの試験軸受も軸受寿命が試験時間の300時間を超えたのに対して、実施例ではいずれの試験軸受も軸受寿命が約40時間であった」と記載されているように,引用発明においても,短時間で接触疲労損傷を起こすことができており,さらに,同摘記に「水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現でき、この脆性剥離による軸受寿命の低下を的確に評価できる」と記載されていることから,「駆動トルクの変化」すなわち「変化を表わす信号」を高精度に検出しているといえ,本願発明と同様な効果を得ているものであるから,本願発明の上記効果も格別顕著なものとはいえない。

3 まとめ
したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明することができたものである。

なお,拒絶査定した理由が記載されている平成24年10月9日付け拒絶理由通知書には「・・・出願時の技術常識に照らすと、本願の請求項1?9に係る発明は、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者であれば容易に想到し得ることである。」と記載されている。ここで,引用例1は,特開2007-211955号公報で上記引用文献2であり,引用例2は,特開2007-178268号公報で上記引用文献1である。拒絶査定の備考欄においては,引用文献2についてのみ言及しているものの,上記拒絶理由通知書では,引用文献1も主引用例として記載されており,これに出願時の技術常識を照らすことが記載されており,当審の上記判断と実質的に同等の拒絶理由が示されているといえるから,改めて拒絶理由を通知しないこととする。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-04-02 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-22 
出願番号 特願2008-173319(P2008-173319)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼見 重雄  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 藤田 年彦
三崎 仁
発明の名称 接触疲労損傷を発生したときに起こる経時変化を検出する検出方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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