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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1288573
審判番号 不服2013-9930  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-29 
確定日 2014-06-10 
事件の表示 特願2010- 22199「内燃機関の燃料供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日出願公開、特開2011- 17332〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成22年2月3日(パリ条約による優先権主張2009年7月9日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成24年1月17日付けで拒絶理由が通知され、平成24年7月24日に意見書が提出されたが、平成25年1月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年5月29日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2.本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
エンジンの燃料供給装置、すなわちコモンレール式燃料供給装置であって、低圧領域と、少なくとも一つの高圧ポンプを含むポンプ装置と、を有し、それによって燃料を低圧領域から高圧領域へと搬送し、
当該高圧領域において前記ポンプ装置とシリンダに配設されたインジェクタとの間には、少なくとも一つの貯留ユニットを有するとともに恒常的に高圧下に置かれている蓄圧システムが設けられており、
前記ポンプ装置の個々の高圧ポンプには、吸入弁であって当該吸入弁を介して前記低圧領域から前記個々の高圧ポンプのポンプ室に燃料を吸入可能な吸入弁と、送り出し弁であって当該送り出し弁を介して前記個々の高圧ポンプの前記ポンプ室から前記蓄圧システムの方向に燃料を搬送可能である送り出し弁と、が配設されている燃料供給装置において、
個々の高圧ポンプ(1)の前記吸入弁(3)の弁座(8)および/または前記送り出し弁(4)の弁座(10)は、それぞれ交換可能な座部インサート(11,12)によって形成されていることを特徴とする燃料供給装置。」

2.引用文献
(1)引用文献の記載
本件出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平10-252603号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次の記載がある。
ア.「【0008】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を示す実施例を図面に基づいて説明する。本発明の高圧サプライポンプを燃料直憤式のガソリンエンジンに適用した一実施例を図1および図2に示す。図1に示す高圧サプライポンプ10は、吸入通路12aの形成された吸入口12と電磁弁20とデリバリバルブ40とを収容しているシリンダ11の上部をエンジンハウジングの一部である図示しないヘッドカバー外に露出してヘッドカバーに固定されている。ヘッドカバーに収容されている高圧サプライポンプ10のその他の部分は、円筒状のタペットガイド50に囲われてヘッドカバー内に収容されている。タペットガイド50はスクリュウねじ60によりシリンダ11に固定されている。本発明では、スクリュウねじ60に代えてピンを用いてもよい。ポンプカム100は、図示しない吸排気バルブを開閉駆動する図示しないバルブカムシャフトに取付けられ、後述するプランジャ53を往復駆動する。
【0009】シリンダ11にはプランジャ53を往復移動可能に収容する摺動孔11aが形成されており、摺動孔11aを形成する内壁に円環状の燃料溜まり11bが形成されている。燃料溜まり11bはリターン通路17を介して吸入通路12aと連通している。吸入口12に形成された吸入通路12aには図示しない低圧燃料ポンプから燃料が供給される。低圧燃料ポンプから供給される燃料の圧力は、0.2?0.3MPaである。吸入通路12aは、燃料通路13と連通するとともに、リターン通路17を介して燃料溜まり11bと連通している。」(段落【0008】及び【0009】)

イ.「【0011】電磁弁20のバルブボディ24に弁部材25が着座可能な弁座24a、および連通路27が形成されている。弁部材25は、弁座24aに対して着座および離座可能にバルブボディ24に配設されている。プレート26はバルブボディ24とシリンダ11との間に軸方向に挟持されている。バルブボディ24とプレート26とシリンダ11とは軸方向において互いに面接触し、弁部材25が弁座24aから離座した状態においてもリテーニングナット30の締付け力により燃料加圧室16の燃料が燃料ギャラリ14に漏れないようにしている。」(段落【0011】)

ウ.「【0013】デリバリバルブ40はシリンダ11とねじ結合し、弁部材41は圧縮コイルスプリング42により弁座43に付勢されている。プランジャ53の往復移動により燃料加圧室16内の圧力が所定圧以上、例えば10数MPa以上に加圧されると、圧縮コイルスプリング42の付勢力に抗して弁部材41がリフトし、吐出通路15と吐出口44とが連通する。デリバリバルブ40は図示しない燃料鋼管により図示しないコモンレールと接続されている。」(段落【0013】)

エ.「【0016】高圧サプライポンプ10の作動について、(1) 燃料の吸入行程、(2) 燃料の加圧圧送行程に分けて説明する。
(1) 燃料の吸入行程
バルブカムシャフトの回転に伴いポンプカム100が回転し、タペット51およびスプリングシート54とともにプランジャ53が往復移動する。プランジャ53が上死点である図1の上方最大位置に位置すると、電磁弁20のソレノイドへの通電が遮断される。すると図示しない圧縮コイルスプリングの付勢力により弁部材25が弁座24aから離座し電磁弁20は開弁状態となる。このとき、プランジャ53が図1の下方に移動することにより、低圧燃料ポンプから吐出された低圧燃料が、吸入通路12a、燃料通路13、燃料ギャラリ14、連通路27を介して燃料加圧室16に吸入される。そしてプランジャ53が下死点である図1の下方最大位置に位置するとき、燃料加圧室16内には最大量の低圧燃料が流入する。
【0017】(2) 燃料の加圧圧送行程
プランジャ53が下死点から上死点に移動する行程において、所望の燃料吐出量に対応した位置にプランジャ53が到達したとき、電子制御ユニットにより電磁弁20のソレノイドへの通電がオンされる。これにより、弁部材25は弁座24a側に吸引され弁座24aに着座する。すなわち、電磁弁20は閉弁状態となる。その後、プランジャ53がさらに上死点側に移動すると、燃料加圧室16内の燃料は高圧となり、吐出通路15、弁座43と弁部材41との隙間、吐出口44を介して高圧燃料がデリバリバルブ40から図示しないコモンレールに吐出される。このとき、燃料加圧室16内の高圧燃料の一部がプランジャ53とシリンダ11との摺動部に流れ込むことがある。この流れ込んだ燃料は、燃料溜まり11bに溜まり、リターン通路17を通して低圧の吸入通路12aにリターンされる。」(段落【0016】及び【0017】)

(2)引用文献記載の発明
上記(1)及び図1から、引用文献には以下の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「エンジンの燃料供給装置、すなわちコモンレール式燃料供給装置であって、低圧領域と、高圧サプライポンプ10と、を有し、それによって燃料を低圧領域から高圧領域へと搬送し、
当該高圧領域において前記高圧サプライポンプ10のデリバリバルブ40にはコモンレールが接続されており、
前記高圧サプライポンプ10には、弁座24a及び弁部材25からなる弁(以下、便宜的に「第1弁」という。)であって当該第1弁を介して前記低圧領域から前記高圧サプライポンプ10の燃料加圧室16に燃料を吸入可能な第1弁と、弁座43及び弁部材41からなる弁(以下、便宜的に「第2弁」という。)であって当該第2弁を介して前記高圧サプライポンプ10の前記燃料加圧室16から前記コモンレールの方向に燃料を搬送可能である第2弁と、が配設されている燃料供給装置。」

3.対比
本願発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「高圧サプライポンプ10」は、その機能、構成及び技術的意味からみて、本願発明における「高圧ポンプ」に相当し、以下同様に、「第1弁」は「吸入弁」に、「燃料加圧室16」は「ポンプ室」に、「第2弁」は「送り出し弁」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「コモンレール」は、本願発明における「少なくとも一つの貯留ユニットを有するとともに恒常的に高圧下に置かれている蓄圧システム」に、「恒常的に高圧下に置かれている蓄圧部」という限りにおいて相当し、同様に、「高圧サプライポンプ10のデリバリバルブ40にはコモンレールが接続されており」は、「ポンプ装置とシリンダに配設されたインジェクタとの間には、少なくとも一つの貯留ユニットを有するとともに恒常的に高圧下に置かれている蓄圧システムが設けられており」に、「高圧ポンプの燃料を搬送する側には、恒常的に高圧下に置かれている蓄圧部が設けられており」という限りにおいて相当する。

したがって、本願発明と引用文献記載の発明とは、
「エンジンの燃料供給装置、すなわちコモンレール式燃料供給装置であって、低圧領域と、高圧ポンプと、を有し、それによって燃料を低圧領域から高圧領域へと搬送し、
当該高圧領域において前記高圧ポンプの燃料を搬送する側には、恒常的に高圧下に置かれている蓄圧部が設けられており、
前記高圧ポンプには、吸入弁であって当該吸入弁を介して前記低圧領域から前記高圧ポンプのポンプ室に燃料を吸入可能な吸入弁と、送り出し弁であって当該送り出し弁を介して前記高圧ポンプの前記ポンプ室から前記恒常的に高圧下に置かれている蓄圧部の方向に燃料を搬送可能である送り出し弁と、が配設されている燃料供給装置。」
である点で一致し、次の点において相違する。

<相違点>
(1)本願発明においては、燃料供給装置が、「少なくとも一つの高圧ポンプを含むポンプ装置」を有するのに対し、引用文献記載の発明においては、燃料供給装置が、「高圧サプライポンプ10」を有する点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「恒常的に高圧下に置かれている蓄圧部」が、本願発明においては「少なくとも一つの貯留ユニットを有するとともに恒常的に高圧下に置かれている蓄圧システム」であるのに対し、引用文献記載の発明においては「コモンレール」である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)本願発明においては、「ポンプ装置とシリンダに配設されたインジェクタとの間」に、「蓄圧システム」が設けられているのに対し、引用文献記載の発明においては、「コモンレール」が「高圧サプライポンプ10」とシリンダに配設されたインジェクタとの間に設けられているか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

(4)本願発明においては、「前記吸入弁(3)の弁座(8)および/または前記送り出し弁(4)の弁座(10)は、それぞれ交換可能な座部インサート(11,12)によって形成されている」のに対し、引用文献記載の発明においては、弁座24a及び弁座43が、それぞれ交換可能な別部材によって形成されているか否か不明である点(以下、「相違点4」という。)。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
本願発明においては、ポンプ装置が、「少なくとも一つの高圧ポンプを含むポンプ装置」と特定されていることから、本願発明は、一つの高圧ポンプを含むポンプ装置を有する燃料供給装置を含むものである。そうすると、引用文献記載の発明における高圧サプライポンプ10は、本願発明における一つの高圧ポンプを含むポンプ装置に相当するから、相違点1は実質的に相違点でないといえる。
仮に、本願発明におけるポンプ装置が、二つ以上の高圧ポンプを含むポンプ装置であったとしても、コモンレールに高圧の燃料を搬送するために、複数の高圧ポンプを使用することができることは技術常識(参考として、特開2006-170201号公報の図1ないし4、特開平8-14140号公報の段落【0031】及び図6参照。)であるから、引用文献記載の発明において、複数の高圧サプライポンプ10を使用することとし、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定することに、格別の困難性はない。

(2)相違点2について
複数のコモンレールから蓄圧部を構成可能であることは技術常識である(参考として、特開2006-170201号公報の図1ないし4参照。)。したがって、引用文献記載の発明において、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することに、格別の困難性はない。

(3)相違点3について
引用文献記載の発明は、上記2.(1)ア.に摘記したように、燃料直噴式のエンジンに燃料を供給する燃料供給装置であるところ、コモンレールからインジェクタに燃料を供給していると解するのが自然である。そうすると、引用文献記載の発明においても、高圧サプライポンプ10とシリンダに配設されたインジェクタとの間にコモンレールが設けられているといえるから、本願発明と引用文献記載の発明とは、相違点3の点で実質的に相違せず、少なくとも、引用文献記載の発明において、相違点3に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点4について
燃料用のポンプにおいて、弁座の摩耗に容易かつ低コストで対応することは周知の課題であり、当該課題の解決のため、弁座を含む適宜の部位を交換可能な別部材によって形成することは周知の技術である(以下、「周知課題」及び「周知技術」という。例えば、特表2008-509310号公報の段落【0007】、【0013】及び【0016】並びに図1、特表2008-510915号公報の段落【0015】、【0016】及び【0018】並びに図3及び5、特開2007-192025号公報の段落【0004】、【0010】及び【0031】並びに図1及び2、特開2000-64930号公報の段落【0005】、【0006】及び【0023】並びに図1参照。)。
また、引用文献記載の発明の第1弁及び第2弁は、プランジャ53を介し、ポンプカム100によって高速で駆動され、開弁及び閉弁を高速で繰り返すことから、上記周知課題は引用文献記載の発明に内在している課題であるともいえる。
そうすると、引用文献記載の発明に接した当業者は、上記周知課題及び周知技術を当然認識するのであるから、上記周知課題の解決のため、引用文献記載の発明の弁座24a及び弁座43に上記周知技術を適用し、弁座24a及び弁座43をそれぞれ交換可能な別部材によって形成するようになすことに、格別の困難性はない。
そして、別部材とする範囲を決定する際に、例えば交換の容易性やコスト等を考慮して当該範囲を必要最低限とする等は、当業者が適宜設計可能な事項であり、上記周知技術の具体的適用における設計上の微差であるから、相違点4に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易になし得たことである。

(5)効果について
さらに、本願発明の全体構成でみても、引用文献記載の発明、技術常識及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものでもない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明、技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-09 
結審通知日 2014-01-14 
審決日 2014-01-28 
出願番号 特願2010-22199(P2010-22199)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 誠  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 久島 弘太郎
柳田 利夫
発明の名称 内燃機関の燃料供給装置  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  

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