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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1288597
審判番号 不服2013-17002  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-04 
確定日 2014-06-11 
事件の表示 特願2009- 51110「防眩性ハードコートフィルム,それを用いた偏光板および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月16日出願公開,特開2010-204479〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年3月4日の出願であって,平成24年10月16日付けで拒絶理由が通知され,同年12月17日に意見書及び手続補正書が提出され,平成25年3月1日付けで拒絶理由が通知され,同年4月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成25年4月26日提出の手続補正書による手続補正が同年6月7日付けで却下され,同日付けで拒絶査定がなされたところ,同年9月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,当審において,平成26年1月7日付けで拒絶の理由が通知され,同年3月10日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年1月7日付けで通知した拒絶の理由の内容
当審において,平成26年1月7日付けで通知した拒絶の理由の内容は,次のとおりである。

「この出願は,発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号,第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

1 委任省令要件違反
本願の発明の詳細な説明には,
画面の傷付き防止のために画像表示装置の最表面に設けられたアクリルカバーと画像表示装置表面との間でスティッキング現象が生じるのを防止するために,画像表示装置表面に表面凹凸を有する防眩性ハードコートフィルムを設ける場合,従来の防眩性ハードコートフィルムでは,画素のサイズの小さい高精細の画像表示装置表面に配置すると,画素中に存在する輝度のバラツキがより強調されて目に見えるギラツキ故障を引き起こし,著しく画質が悪化するという課題があり,このギラツキ故障に対応するために,防眩性ハードコートフィルムの防眩層のヘイズ値を高くすると,コントラストが大幅に低下するという課題や,画面が白ぼけて見えるという白ボケの課題があり,これらの課題すべてを解決し,かつスティッキングを防止する有効な手段がなかったことが,発明が解決しようとする課題として記載されており(【0002】?【0006】),
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,微粒子とハードコート層形成材料とを用いて形成される防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムであって,前記防眩性ハードコートフィルムのへイズ値が20?40%の範囲であり,前記防眩性ハードコート層表面の任意な箇所の長さ4mmにおいて,表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係が,p2-p1≧30を満たすという構成(以下「課題を解決するための手段」という。)を採用することによって,例えば,解像度が200ppi以上の超高精細の液晶パネル等であっても,ギラツキ故障が抑えられ,さらに,低へイズ値化も可能であることから,従来の高精細対応防眩性ハードコートフィルムと比較して大幅に明暗コントラストを改善することができ,かつ,スティッキング防止性も得ることができると記載されている(【0007】,【0010】)。
また,本願の発明の詳細な説明には,実施例1乃至実施例7のスティッキング防止性評価,防眩性評価,ギラツキ評価及び白ボケ評価が,比較例1乃至比較例8の同評価とともに【表1】に示されており,【0107】には,「前記表1に示すように,実施例においては,スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られた。特に,ギラツキについては,「AAA:ギラツキがほとんど認められない」という,防眩層がない状態(参考例1)と同等の極めて良好な結果であった。一方,比較例においては,防眩性,ギラツキおよび白ボケの一部については良好な結果が得られてはいるものの,すべての特性について良好な,実施例と同等の特性を有するものは得られなかった。」と説明されている。(なお,実施例6及び実施例7は,ハードコート層形成材料が(B)成分を含んでいない点や微粒子がシリコーン微粒子でない点,屈折率差が所定の範囲にない点からみて,平成25年9月4日付け手続補正書による手続補正後の各請求項に係る発明の実施例ではないと認められる。)
しかしながら,【表1】によれば,実施例4及び実施例7の防眩性評価はいずれも「B」評価であり,当該「B」評価は「実用上問題がある」レベル(【0081】)であるのだから,「課題を解決するための手段」を採用したからといって必ずしも「スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られる」わけでないことは明らかである。
また,【表1】によれば,比較例1乃至比較例4のスティッキング防止性評価,防眩性評価,ギラツキ評価,及び,白ボケ評価は,いずれも,「G」評価,「AA」又は「A」評価,「AA」又は「A」評価,及び,「AA」又は「A」評価であって,スティッキング防止性評価,ギラツキ評価及び白ボケ評価については各実施例の評価と同等以上であり(例えば,比較例1は,スティッキング防止性評価及び白ボケ評価については実施例1と同等であり,防眩性評価については実施例1を上回っている。),ギラツキ評価については各実施例の評価(「AAA」評価)より低いものの「視認性への影響が小さいレベル」か「実用上は問題がないレベル」(【0082】)である。したがって,「課題を解決するための手段」を採用していないものにおいても,「スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られる」ことは明らかである。
以上を総合すると,「課題を解決するための手段」を採用したからといって必ずしも「スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られる」わけでなく,「課題を解決するための手段」を採用していないものにおいても,「スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られる」のであるから,防眩性ハードコートフィルムにおいて「課題を解決するための手段」を採用することに如何なる技術上の意義があるのか例え当業者といえども本願の発明の詳細な説明の記載から理解することができない。
(平成25年9月4日付け手続補正後の)本願発明は,「課題を解決するための手段」の全てを具備するとともに,さらなる限定を付加したものであるところ,例え当業者といえども当該本願発明が如何なる効果を有するものであるのかを理解することができないことは上記と同様であるから(本願発明の実施例である実施例4の防眩性評価が実用上問題がある「B」評価であることは上記のとおりである。),本願の発明の詳細な説明に当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていると認めることはできない。

2 明確性要件違反
請求項1には,「前記防眩性ハードコート層表面の任意な箇所の長さ4mmにおいて,表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係が,下記式(1)の関係を満たし,」及び「p2-p1≧30 (1)」という発明特定事項が記載されているが,当該発明特定事項が次の(1)及び(2)のいずれの意味であるのか,あるいは,それ以外の意味であるのかが請求項1の記載からは明確に特定できないから,請求項1の記載では,特許を受けようとする発明が明確でない。
上記事情は,請求項1を引用する形式で記載された請求項2ないし5についても同様である。
(1)防眩性ハードコート層表面のどこか1箇所の長さ4mmの範囲を適宜選択した場合に,当該範囲において,粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部(以下「第1凸状部」という。)の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部(以下「第2凸状部」という。)の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係がp2-p1≧30を満たすことを意味しており,上記選択した箇所以外の箇所におけるp1及びp2の値や「p2-p1」の値は任意である。(以下「第1の意味」という。)
(2)防眩性ハードコート層表面においていずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択したとしても,第1凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,第2凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係が,p2-p1≧30を満たしていることを意味している。(以下「第2の意味」という。)

3 上記2にて記載した発明特定事項が第1の意味を指している場合の明確性要件違反及び委任省令要件違反
(1)明確性要件違反
ア 仮に上記発明特定事項が第1の意味を指しているとすると,例えば,「第1凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,第2凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係がp2-p1≧30を満たしている」という条件をある箇所では満たしており別の箇所では満たしていないような防眩性ハードコートフィルムについては,当該防眩性ハードコートフィルムが上記発明特定事項を具備しているのか具備していないのかは,計測者がどのような箇所を計測対象としたのかという主観的要素によって決まるのであって,当該防眩性ハードコート層自体の構成からは決めることができないということになる。
イ 具体的には,例えば,本願明細書に記載された実施例3は,【0087】の記載によれば,シリコーン微粒子の混合量を,ハードコート層形成剤量の固形分100重量部あたり6重量部とした点及び防眩性ハードコート層の厚みを6μmとした点以外は実施例1と同様に製造されたものであり,請求項1の各発明特定事項を具備しているものである。
しかるに,計測対象となるのが長さ4mmという微小な範囲であることからは,上記実施例3において,計測箇所によっては(他の数値はそのままで)p1やp2が2,3程度異なり「p2-p1」が30未満となるような場合も十分に考えられるのであって,その場合には,当該「実施例3」は請求項1に係る発明の「実施例」ではなく「比較例」ということになる。
ウ 上記ア及びイのとおりであって,対象物品が発明特定事項を具備しているのか否かが主観的要素によって決まるような上記発明特定事項をもって発明を特定する請求項1において,特許を受けようとする発明が明確であると認めることはできない。
エ 上記事情は,請求項1を引用する形式で記載された請求項2ないし5についても同様である。
(2)委任省令要件違反
仮に上記発明特定事項が第1の意味を指しているとすると,本願発明においては,計測箇所以外の箇所におけるp1及びp2の値や「p2-p1」の値は任意であるのだから,フィルム全体としては,「第1凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,第2凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係がp2-p1≧30を満たしている」という条件から大きく外れるような部分が多くを占めるような防眩性ハードコートフィルムも本願発明に含まれることとなる。
このような防眩性ハードコートフィルムが,発明の詳細な説明に記載された「例えば,解像度が200ppi以上の超高精細の液晶パネル等であっても,ギラツキ故障が抑えられ,さらに,低へイズ値化も可能であることから,従来の高精細対応防眩性ハードコートフィルムと比較して大幅に明暗コントラストを改善することができ,かつ,スティッキング防止性も得ることができる」という効果を奏しないことは明らかであって,例え当業者といえども本願発明が如何なる効果を有するものであるのかを理解することができないから,本願の発明の詳細な説明に当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていると認めることはできない。

4 上記2にて記載した発明特定事項が第2の意味を指している場合のサポート要件違反及び実施可能要件違反
発明の詳細な説明には,本願発明の具体的な実施例として「実施例1」ないし「実施例5」が記載されているが(「実施例6」及び「実施例7」が本願発明の実施例でないことは,上記1に記載したとおりである。),当該「実施例1」ないし「実施例5」が上記2にて記載した発明特定事項を具備していることの確認は,【0079】の記載によれば,どこか1箇所の長さ4mmの範囲で第1凸状部及び第2凸状部の存在個数を計測したことにより行ったにすぎないと考えられる。
そうすると,発明の詳細な説明に記載された「実施例1」ないし「実施例5」については,「いずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択したとしても,第1凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,第2凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係がp2-p1≧30を満たしている」のかどうかは不明なのであって,請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえない,すなわち,請求項1の記載はサポート要件に違反していることになる。
また,発明の詳細な説明には,どのようにすれば「いずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択したとしても,第1凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,第2凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係がp2-p1≧30を満たしている」防眩ハードコートフィルムを製造できるのかについては記載されていないから,例え当業者といえども,発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて請求項1に係る発明の実施をすることができるとは,すなわち,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているとは認められない。
上記事情は,請求項1を引用する形式で記載された請求項2ないし5についても同様である。」(以下,「1 委任省令要件違反」の欄に記載した拒絶の理由を「当審拒絶理由1」といい,「2 明確性要件違反」の欄に記載した拒絶の理由を「当審拒絶理由2」といい,「3 上記2にて記載した発明特定事項が第1の意味を指している場合の明確性要件違反及び委任省令要件違反」の欄に記載した拒絶の理由を「当審拒絶理由3」といい,「4 上記2にて記載した発明特定事項が第2の意味を指している場合のサポート要件違反及び実施可能要件違反」の欄に記載した拒絶の理由を「当審拒絶理由4」といい,これらをまとめて「当審拒絶理由」という。)

第3 請求人の主張
平成26年3月10日提出の意見書における当審拒絶理由に対する請求人の主張は,次のとおりである。
1 当審拒絶理由1に対して
「4. 委任省令要件(特許法第36条第4項第1号)違反について
審判長殿は,
・・・(中略)・・・
として,本願の発明の詳細な説明に当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていると認めることはできないとご判断されました。
これに対し,本願出願人は,前述のとおり,本願請求項1において,防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値の範囲を,「22?40%」とする補正を行いました。
下記表1(本願当初明細書の表1の一部を抜粋)に示すように,本願当初の実施例4における防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値は「20%」です。したがって,本願当初の実施例4は,前記補正後の請求項1に係る発明の実施例ではなく,防眩性評価が「B」評価(「実用上問題ある」レベル)となっています。なお,拒絶理由通知書において審判長殿がご指摘のとおり,本願当初の実施例7は,ハードコート層形成材料が(B)成分を含んでいない点や微粒子がシリコーン微粒子でない点,屈折率差が所定の範囲に無い点から,本願発明の実施例ではなく,防眩性評価が「B」評価(「実用上問題ある」レベル)となっています。
また,比較例1乃至4については,本願発明の防眩性ハードコートフィルムでは,スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケ以外に,本願請求項1に記載のp2-p1が所定の範囲内にあることが求められ,比較例1乃至4はこれを満たしていません。
以上のように,本願当初の実施例4及び7は,前記補正後の本願請求項1の要件を満たしておらず,実施例ではないため,防眩性評価が「B」評価(「実用上問題ある」レベル)となっています。また,比較例1乃至4は,スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られているものの,本願請求項1の要件を満たしていません。同様に,本願当初の実施例6も,スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られているものの,拒絶理由通知書において審判長殿がご指摘のとおり,ハードコート層形成材料が(B)成分を含んでいない点や微粒子がシリコーン微粒子でない点,屈折率差が所定の範囲に無い点から,本願請求項1の要件を満たしていません。
したがって,本願の発明の詳細な説明には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されており,本願は,委任省令要件(特許法第36条第4項第1号)に規定する要件を満たしています。」(2頁36行?4頁下から2行)

2 当審拒絶理由2に対して
「5. 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)違反について
審判長殿は,・・・(中略)・・・とご判断されました。
・・・(中略)・・・
しかし,以下に説明するとおり,本願請求項1は,前記「第2の意味」であることが,本願出願時の技術常識から明らかです。
まず,一般的な国語辞典である「広辞苑 第六版DVD-ROM版」(発行者:株式会社岩波書店,発行年:2008年)には,「任意」という文言の意味について,「論理学・数学などで無作為に選ばせること。」と記載されています。この定義によれば,本願請求項1の「任意な箇所」という記載の意味が,無作為に選択した箇所という意味であることが明らかです。すなわち,本願請求項1の意味が,前記「第2の意味」であることは,明らかです。
また,後述するように,防眩性ハードコートフィルムにおいて,表面形状が場所によって大きく偏っていれば,表示ムラが生じて実用に堪えません。したがって,本願発明の属する技術分野における本願出願時の技術常識に照らせば,本願請求項1の「任意の箇所」という記載の意味が,前記「第1の意味」であるということは,あり得ません。すなわち,本願請求項1の記載に接した当業者であれば,本願出願時の技術常識に照らして,前記「任意な箇所」という記載の意味が,前記「第2の意味」であることは,明らかです。
以上のとおり,本願請求項1の記載事項が前記「第2の意味」であることは明確であり,本願請求項1を引用する形式で記載された本願請求項2ないし5についても同様です。
したがって,本願特許請求の範囲の記載は明確であり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしています。」(4頁下から8行?5頁27行)

3 当審拒絶理由3に対して
「6. 第1の意味を指している場合の明確性要件違反及び委任省令要件違反について
審判長殿は,本願特許請求の範囲の記載が前記「第1の意味」である場合において,明確性要件違反及び委任省令要件違反になるとご指摘されました。
しかし,前記「5. 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)違反について」で説明したとおり,本願特許請求の範囲の記載は,前記「第2の意味」であることが明らかですので,上記ご指摘に係る拒絶理由は,解消しました。」(5頁28?33行)

4 当審拒絶理由4に対して
「7. 第2の意味を指している場合のサポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反及び実施可能要件(同条第4項第1号)違反について
・・・(中略)・・・
(2) 本願請求項1の測定範囲が「微小な範囲」でない旨について
審判長殿は,前述のとおり,本願がサポート要件違反および実施可能要件違反であることの前提として,「計測対象となるのが長さ4mmという微小な範囲である」とご指摘されました。そして,これを根拠に,どこか1箇所を測定しただけで全ての箇所について同様の測定結果が得られるかは不明であるとご判断されました。
しかし,以下に説明するとおり,本願請求項1に記載の「長さ4mm」という測定範囲は「微小な範囲」ではありません。
すなわち,まず,前記「凸状部」の測定の基準線については,本願請求項1には,「表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線」および「前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線」と記載されています。この「0.1μmの高さ」および「0.05μm」の高さ」というサイズと比較すると,4mmという長さは,前記高さの4万倍または8万倍という極めて大きなサイズであり,「微小な範囲」ではありません。
このような大きな長さ範囲で表面形状を測定しながら,測定箇所によって測定結果に大きな偏りが生じることは,製造工程で意図的に表面形状の偏りを生じさせない限り,あり得ません。そして,防眩性ハードコートフィルムの製造工程で,意図的に表面形状の偏りを生じさせれば,表示ムラが生じて実用に堪えません。したがって,そのようなことは,本願発明の属する技術分野における本願出願時の技術常識を鑑みれば,あり得ません。すなわち,防眩性ハードコートフィルムの表面形状を,長さ4mmについて1箇所測定すれば,全ての箇所において同様の測定結果が得られることは,本願発明の属する技術分野における本願出願時の技術常識から推認可能です。
その裏付けとして,甲第1号証(株式会社東京精密のホームページhttp://www.accretech.jp/pdf/measuring/sfexplain_1.pdfからダウンロード,検索日:2014年2月21日,第231頁)左下の表「粗さRパラメータ測定条件」上から3行目において,表面粗さRaの範囲が0.1?2μmである場合は,評価長さすなわち測定長さは,本願請求項1と同じく4mm(同行の一番右の欄)であることが記載されています。すなわち,本願請求項1に記載された程度のサイズの表面粗さであれば,測定範囲は長さ4mmで十分であることが,本願出願時の技術常識です。
(3) 本願がサポート要件違反ではないことについて
「計測対象となるのが長さ4mmという微小な範囲である」とのサポート要件違反の前提条件は,前記(2)で説明したとおり,成り立ちません。
したがって,本願は,サポート要件(特許法第36条第6項第1号)に違反しません。
(4) 本願が実施可能要件違反でないことについて
「計測対象となるのが長さ4mmという微小な範囲である」との実施可能要件違反の前提条件は,前記(2)で説明したとおり,成り立ちません。すなわち,防眩性ハードコートフィルムの表面形状を,長さ4mmについて1箇所測定すれば,全ての箇所において同様の測定結果が得られることは,本願発明の属する技術分野における本願出願時の技術常識です。したがって,どのようにすれば「いずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択したとしても,第1凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,第2凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係が,p2-p1≧30を満たしている」防眩性ハードコートフィルムを製造できるのかは,本願明細書における発明の詳細な説明の記載および本願出願時の技術常識に基づけば明らかです。この事情は,本願請求項1を引用する形式で記載された本願請求項2ないし5についても同様です。
したがって,本願は,実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)に違反しません。」(5頁34行?7頁12行)

第4 判断
1 当審拒絶理由2について
(1)本願の特許請求の範囲(本審決において,特に特定しない場合は,平成26年3月10日提出の手続補正書により補正されたものを指す。なお,明細書及び図面は,一度も補正されておらず,平成26年3月10日提出の手続補正書による補正の後も出願当初のままである。)の記載は,次のとおりである。(下線は,本審決で付与したものであり,当審拒絶理由1において,その意味を明確に特定できないと指摘した箇所を示す。以下,請求項1に係る発明ないし請求項5に係る発明を,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」といい,これらをまとめて「本願発明」という。)
「【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,微粒子とハードコート層形成材料とを用いて形成される防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムであって,
前記防眩性ハードコートフィルムのへイズ値が22?40%の範囲であり,
前記防眩性ハードコート層表面の任意な箇所の長さ4mmにおいて,表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,
かつ,前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,
さらに,前記p1と前記p2との関係が,下記式(1)の関係を満たし,
前記微粒子の屈折率n1と,前記ハードコート層形成材料の屈折率n2との差が,下記式(2)の関係を満たし,
前記微粒子が重量平均粒径が1.5?7μmの範囲のシリコーン微粒子であり,
前記防眩性ハードコート層が,前記微粒子と,下記の(A)成分および(B)成分を含むハードコート層形成材料とを用いて形成されており,
前記(B)成分の重量平均粒径が,200nm以下であり,
前記(B)成分において,無機酸化物粒子が,酸化ケイ素,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化亜鉛,酸化錫および酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種の粒子を含み,
前記ハードコート層形成材料において,前記(A)成分100重量部に対し,前記(B)成分が,100?200重量部の範囲で含まれており,
前記防眩性ハードコート層の厚みは,前記微粒子の重量平均粒径の1?5倍の範囲であり,かつ,5?12μmの範囲であることを特徴とする防眩性ハードコートフィルム。
p2-p1≧30 (1)
-0.1≦n1-n2≦-0.02 (2)
(A)成分:アクリレート基およびメタクリレート基の少なくとも一方の基を有する硬化型化合物
(B)成分:無機酸化物粒子と重合性不飽和基を含む有機化合物とを結合させてなる粒子
【請求項2】
前記微粒子として,球状もしくは不定形の微粒子を1種類以上含み,前記ハードコート層形成材料100重量部に対して,前記微粒子が1?20重量部の範囲で含まれている,請求項1記載の防眩性ハードコートフィルム。
【請求項3】
前記防眩性ハードコート層の上に反射防止層が形成されている,請求項1または2記載の防眩性ハードコートフィルム。
【請求項4】
偏光子および防眩性ハードコートフィルムを有する偏光板であって,前記防眩性ハードコートフィルムが,請求項1から3のいずれか一項に記載の防眩性ハードコートフィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項5】
防眩性ハードコートフィルムまたは偏光板を備える画像表示装置であって,前記ハードコートフィルムが請求項1から3のいずれか一項に記載の防眩性ハードコートフィルムであり,前記偏光板が請求項4記載の偏光板であることを特徴とする画像表示装置。」

(2)当審拒絶理由2において,その意味が明確に特定できないと指摘した発明特定事項は,請求項1の「前記防眩性ハードコート層表面の任意な箇所の長さ4mmにおいて,表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係が,下記式(1)の関係を満たし,」及び「p2-p1≧30 (1)」(以下,両発明特定事項を総称して「発明特定事項1」という。)である。

(3)「発明特定事項1」について検討すると,前記(1)に示した特許請求の範囲の記載からは,「発明特定事項1」が,防眩性ハードコート層表面のどこか1箇所の長さ4mmの範囲を適宜選択した場合に,当該範囲において「発明特定事項1」中の規定を満たすことを意味するのか(以下,当審拒絶理由と同様に「第1の意味」という。),防眩性ハードコート層表面においていずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択しても,「発明特定事項1」中の規定を満たしていることを意味するのか(以下,当審拒絶理由と同様に「第2の意味」という。),あるいは,それ以外の意味であるのかを特定することができない。
なお,請求人は,「発明特定事項1」について,平成26年3月10日提出の意見書において,「第2の意味」であると主張し,その根拠として,「任意」という文言の意味が「論理学・数学などで無作為に選ばせること。」(広辞苑 第六版)であることから,「発明特定事項1」の「任意な箇所」という記載が「無作為に選択した箇所」の意味に解されることを挙げている。
請求人がいうように,「任意な箇所」という記載は「無作為に選択した箇所」の意味と認められるが,「発明特定事項1」が,どこか一つの「無作為に選択した箇所」において各規定を満たせばよいことを意味するのか(すなわち「第1の意味」),「無作為に選択した箇所」全てにおいて各規定を満たさなければならないことを意味するのか(すなわち「第2の意味」)は,当該「任意な箇所」という記載の意味から,直接導き出すことはできない。
そこで,「発明特定事項1」について,本願明細書及び図面の記載を参酌する。

(4)本願明細書及び図面には,次の記載がある。(下線は,本願発明1に特に関係する箇所を示す。)
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,防眩性ハードコートフィルム,それを用いた偏光板および画像表示装置に関する。」
b 「【背景技術】
【0002】
防眩性ハードコートフィルムは,液晶表示装置(LCD),プラズマディスプレイパネル(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)および陰極管表示装置(CRT)等の様々な画像表示装置において,蛍光灯や太陽光等の外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するために,装置表面に配置されている。前記防眩性ハードコートフィルムは,例えば,無機,有機粒子などを添加した樹脂層を設けることでフィルム表面に凹凸形状を形成する方法で作製されている。
【0003】
近年,画質を良くするために画素のサイズが小さい高精細の画像表示装置が増大している。このような高精細化は,特に携帯電話などのモバイル用途において顕著に進んでいる。画像表示装置表面にはハードコート処理が行われているが,携帯電話などでは,通常,画面の傷付き防止のため,画像表示装置の最表面に,さらにアクリルカバーなどが設けられている。画像表示装置表面とアクリルカバーとの間には,一定のクリアランスが設けられているが,機器の薄型化に伴い,前記クリアランスは減少する傾向にある。そのために,前記画像表示装置の表面と前記アクリルカバーとの間でスティッキング現象が起こりやすくなるという問題が生じた。このスティッキング現象は,重なりあった面同士が固着してしまう現象であり,表面が平坦な面同士を近接させる場合に起こりやすい。そこで,画像表示装置表面に,表面凹凸を有する防眩性ハードコートフィルムを設けることで,スティッキング現象を防止することが期待される。しかしながら,従来の防眩性ハードコートフィルムを,画素のサイズの小さい高精細の画像表示装置表面に配置すると,画素中に存在する輝度のバラツキがより強調されて目に見える故障(ギラツキ故障)を引き起こし,著しく画質が悪化していた。従来,高精細に対応する防眩性ハードコートフィルムを作製するためには,防眩層のヘイズ値を高くすることでギラツキ故障を解消する方法がなされているが,この方法では,パネル表面で光を強く散乱させるため,コントラストが大幅に低下するという課題があった。また,反射光の散乱が強くなりすぎると,画面が白ぼけて見えるという,いわゆる白ボケの問題もある。
【0004】
防眩性の向上とコントラスト改善や白ボケ改善は,一般的に相反関係にあるとされているが,これらの特性を両立させるための,種々の提案がなされている。例えば,防眩層中に前記粒子から形成される三次元立体構造の凝集部を存在させるという検討がなされているが(例えば,特許文献1参照。),凝集部での散乱の発生や,ハードコートフィルムに微細模様が現れることがある。また,一部の特性の改善に有効な手段は提案されているが(例えば,特許文献2および3参照。),上記3つの課題すべてを解決し,かつスティッキングを防止する有効な手段は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-316413号公報
【特許文献2】特開2003-4903号公報
【特許文献3】特許第4001320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで,本発明は,超高精細化・高コントラスト化が進むLCD等の画像表示装置の特性を落とすことなく視認性を向上させ,かつ,スティッキング防止性をも有する防眩性ハードコートフィルムを提供することを目的とする。すなわち,優れた防眩性およびスティッキング防止性を有し,かつ低へイズ値であっても高精細に対応できる防眩性ハードコートフィルム,それを用いた偏光板および画像表示装置の提供を目的とする。」
c 「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために,本発明の防眩性ハードコートフィルムは,透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,微粒子とハードコート層形成材料とを用いて形成される防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムであって,前記防眩性ハードコートフィルムのへイズ値が20?40%の範囲であり,前記防眩性ハードコート層表面の任意な箇所の長さ4mmにおいて,表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部の数p1が10?70個の範囲であり,かつ,前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部の数p2が40?100個の範囲であり,さらに,前記p1と前記p2との関係が,下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
p2-p1≧30 (1)」
d 「【発明の効果】
【0010】
本発明の防眩性ハードコートフィルムによれば,例えば,解像度が200ppi以上の超高精細の液晶パネル等であっても,ギラツキ故障が抑えられ,さらに,低へイズ値化も可能であることから,従来の高精細対応防眩性ハードコートフィルムと比較して大幅に明暗コントラストを改善することができ,かつ,スティッキング防止性も得ることができる。したがって,本発明の防眩性ハードコートフィルムまたは偏光板を用いた画像表示装置は,表示特性が優れたものになる。」
e 「【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1(a)】図1(a)は,実施例1の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの0?1mmの範囲を示したプロファイルである。
【図1(b)】図1(b)は,実施例1の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの1?2mmの範囲を示したプロファイルである。
【図1(c)】図1(c)は,実施例1の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの2?3mmの範囲を示したプロファイルである。
【図1(d)】図1(d)は,実施例1の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図2】図2は,実施例2の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイルである。(a)は0?1mmの範囲,(b)は1?2mmの範囲,(c)は2?3mmの範囲,(d)は3?4mmの範囲である。
【図3】図3は,実施例3の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイルである。(a)は0?1mmの範囲,(b)は1?2mmの範囲,(c)は2?3mmの範囲,(d)は3?4mmの範囲である。
【図4】図4は,実施例4の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイルである。(a)は0?1mmの範囲,(b)は1?2mmの範囲,(c)は2?3mmの範囲,(d)は3?4mmの範囲である。
【図5】図5は,実施例5の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイルである。(a)は0?1mmの範囲,(b)は1?2mmの範囲,(c)は2?3mmの範囲,(d)は3?4mmの範囲である。
【図6】図6は,実施例6の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイルである。(a)は0?1mmの範囲,(b)は1?2mmの範囲,(c)は2?3mmの範囲,(d)は3?4mmの範囲である。
【図7】図7は,実施例7の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイルである。(a)は0?1mmの範囲,(b)は1?2mmの範囲,(c)は2?3mmの範囲,(d)は3?4mmの範囲である。
【図8】図8は,比較例1の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図9】図9は,比較例2の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図10】図10は,比較例3の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図11】図11は,比較例4の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図12】図12は,比較例5の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図13】図13は,比較例6の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図14】図14は,比較例7の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図15】図15は,比較例8の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲を示したプロファイルである。
【図16】図16は,本発明における表面粗さの基準線を越える凸状部の数の計測方法を説明する模式図である。」
f 「【発明を実施するための形態】
・・・(中略)・・・
【0021】
つぎに,本発明について詳細に説明する。ただし,本発明は,以下の記載により制限されない。
【0022】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは,透明プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に,防眩性ハードコート層を有するものである。
・・・(中略)・・・
【0025】
前記防眩性ハードコート層は,前記微粒子および前記ハードコート層形成材料を用いて形成される。前述のように,前記ハードコート層形成材料は,例えば,熱硬化性樹脂,紫外線や光で硬化する電離放射線硬化性樹脂があげられる。前記ハードコート層形成材料として,市販の熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂等を用いることも可能であるが,前記ハードコート層形成材料は,例えば,下記の(A)成分および(B)成分を含むものが好ましい。
【0026】
(A)成分:アクリレート基およびメタクリレート基の少なくとも一方の基を有する硬化型化合物
(B)成分:無機酸化物粒子と重合性不飽和基を含む有機化合物とを結合させてなる粒子【0027】
前記(A)成分としては,例えば,熱,光(紫外線等)または電子線等により硬化するアクリレート基およびメタクリレート基の少なくとも一方の基を有する硬化型化合物が使用できる。・・・(中略)・・・
【0029】
前記(B)成分は,前述のとおりである。前記(B)成分において,無機酸化物粒子としては,例えば,酸化ケイ素(シリカ),酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化亜鉛,酸化錫,酸化ジルコニウム等の微粒子があげられる。これらの中でも,酸化ケイ素(シリカ),酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化亜鉛,酸化錫,酸化ジルコニウムの微粒子が好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく,2種類以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の防眩性ハードコートフィルムにおいて,光の散乱防止,ハードコート層の透過率低下防止,着色防止および透明性の点等から,前記(B)成分は,重量平均粒径が1nm?200nmの範囲である,いわゆるナノ粒子であることが好ましい。前記重量平均粒径は,例えば,後述の実施例に記載の方法により測定できる。前記重量平均粒径は,より好ましくは,1nm?100nmの範囲である。ナノ粒子である前記(B)成分を前記(A)成分に添加すると,例えば,後述の溶媒の選択により,塗工および乾燥工程における前記微粒子の動きに変化が起こることを,発明者らは見出した。すなわち,ナノ粒子を添加した系では,ある特定の溶媒を用いると,前記微粒子による表面凹凸が形成されにくく,別の特定の溶媒を用いると,前記凹凸が形成されやすいという傾向が生じた。前記ナノ粒子が含有されていなければ,溶媒の種類による表面凹凸形状の差異は大きくなかった。これらの現象から,前記ナノ粒子が含まれていると,ナノ粒子および微粒子に斥力が働くため前記微粒子が比較的均一に分散しやすく,また,塗工および乾燥工程での微粒子の動きも制御しやすく,そのため,微粒子の添加部数を少なくでき,効果的に本発明の表面凹凸形状を作製することができるものと推察できる。ただし,本発明は,この推察により,なんら制限ないし限定されない。
【0031】
前記(B)成分において,前記無機酸化物粒子は,重合性不飽和基を含む有機化合物と結合(表面修飾)されている。前記重合性不飽和基が前記(A)成分と反応硬化することで,ハードコート層の硬度を向上させる。前記重合性不飽和基としては,例えば,アクリロイル基,メタクリロイル基,ビニル基,プロペニル基,ブタジエニル基,スチリル基,エチニル基,シンナモイル基,マレエート基,アクリルアミド基が好ましい。また,前記重合性不飽和基を含む有機化合物は,分子内にシラノール基を有する化合物あるいは加水分解によってシラノール基を生成する化合物であることが好ましい。前記重合性不飽和基を含む有機化合物は,光感応性基を有するものであることも好ましい。
【0032】
前記(B)成分の配合量は,前記(A)成分100重量部に対し,100?200重量部の範囲であることが好ましい。前記(B)成分の配合量を100重量部以上とすることで,防眩性ハードコートフィルムのカールおよび折れの発生を,より効果的に防止でき,200重量部以下とすることで,耐擦傷性や鉛筆硬度を高いものとすることができる。前記(B)成分の配合量は,前記(A)成分100重量部に対し,より好ましくは,100?150重量部の範囲である。
【0033】
前記(B)成分の配合量を調整することで,例えば,前記防眩性ハードコート層の屈折率を調整することが可能である。後述の反射防止層を設けない場合は,反射率を抑えるために防眩性ハードコート層の屈折率を低くするとよい。反射防止層(低屈折率層)を設ける場合には,防眩性ハードコート層の屈折率を高くすることで,可視光線の波長領域の反射を均一に低減することが可能となる。
・・・(中略)・・・
【0034】
前記防眩性ハードコート層を形成するための微粒子は,形成される防眩性ハードコート層表面を凹凸形状にして防眩性とスティッキング防止性を付与し,また,前記防眩性ハードコート層のヘイズ値を制御することを主な機能とする。前記防眩性ハードコート層のヘイズ値は,前記微粒子と前記ハードコート層形成材料との屈折率差を制御することで,設計することができる。前記微粒子としては,例えば,無機微粒子と有機微粒子とがある。前記無機微粒子は,特に制限されず,例えば,酸化ケイ素微粒子,酸化チタン微粒子,酸化アルミニウム微粒子,酸化亜鉛微粒子,酸化錫微粒子,炭酸カルシウム微粒子,硫酸バリウム微粒子,タルク微粒子,カオリン微粒子,硫酸カルシウム微粒子等があげられる。また,有機微粒子は,特に制限されず,例えば,ポリメチルメタクリレート樹脂微粒子(PMMA微粒子),シリコーン樹脂微粒子,ポリスチレン樹脂微粒子,ポリカーボネート樹脂微粒子,アクリルスチレン樹脂微粒子,ベンゾグアナミン樹脂微粒子,メラミン樹脂微粒子,ポリオレフィン樹脂微粒子,ポリエステル樹脂微粒子,ポリアミド樹脂微粒子,ポリイミド樹脂微粒子,ポリフッ化エチレン樹脂微粒子等があげられる。これらの無機微粒子および有機微粒子は,一種類を単独で使用してもよいし,二種類以上を併用してもよい。これらのうち,ギラツキ故障を改善するためには,防眩性ハードコート層に含まれる微粒子の屈折率が前記ハードコート層形成材料の屈折率に比べて低い方が好ましく,この点から,前記微粒子は,シリコーン微粒子であることが好ましい。
【0035】
前記微粒子の屈折率n1と,前記ハードコート層形成材料の屈折率n2との差は,次の式(2)の関係を満たすことが好ましい。
-0.1≦n1-n2≦-0.02 (2)
同じヘイズ値になるように防眩性ハードコートフィルムを作製したとき,理由は明らかではないが,上記式で表される屈折率差が負の値の場合(微粒子の屈折率のほうが高い場合)のほうが,前記屈折率差が正の値の場合(微粒子の屈折率のほうが低い場合)に比べ,良好なギラツキ防止性が得られるので,前記屈折率差は負の値であることが好ましい。前記屈折率差が-0.02を超える値の場合,十分な散乱特性を得るためには,前記微粒子の添加量を大量にしなければならない。また。-0.1未満の場合は,散乱が強くなりすぎて良好なコントラストを得ることが困難な傾向にある。
【0036】
前記微粒子の重量平均粒径は,1?8μmの範囲であることが好ましい。前記微粒子の重量平均粒径が,前記範囲より大きくなると,画像鮮明性が低下し,また前記範囲より小さいと,十分な防眩性が得られず,ギラツキも大きくなるという問題が生じやすくなる。前記微粒子の重量平均粒径は,より好ましくは,1.5?7μmの範囲,さらに好ましくは,2?6μmの範囲である。また,前記微粒子の重量平均粒径は,前記防眩性ハードコート層の厚みの20?100%の範囲であることも好ましい。なお,前記微粒子の重量平均粒径は,例えば,コールターカウント法により測定できる。例えば,細孔電気抵抗法を利用した粒度分布測定装置(商品名:コールターマルチサイザー,ベックマン・コールター社製)を用い,微粒子が前記細孔を通過する際の微粒子の体積に相当する電解液の電気抵抗を測定することにより,前記微粒子の数と体積を測定し,重量平均粒径を算出する。
・・・(中略)・・・
【0039】
前記防眩性ハードコート層の厚みは,前記微粒子の重量平均粒径の1?5倍の範囲であることが好ましく,より好ましくは1.2?4倍の範囲である。さらに,前記防眩性ハードコート層の厚みは,塗工性および鉛筆硬度の観点から,5?12μmの範囲であることが好ましく,この厚み範囲になるように前記微粒子の重量平均粒径を調整することが好ましい。前記厚みが前記所定の範囲であれば,微細な凹凸が独立に多数存在する本発明の防眩性ハードコートフィルムの表面形状を実現しやすく,前記防眩性ハードコート層の硬度も十分なものとなる(例えば,鉛筆硬度で3H以上)。また,前記厚みが前記所定の範囲より大きいときは,カールが大きく塗工時のライン走行性が低下するという問題があり,さらに防眩性の低下の問題もある。また,前記厚みが前記所定の範囲より小さい場合は,ギラツキ故障が防止できず,鮮明性が低下するという問題がある。
【0040】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは,へイズ値が20?40%の範囲である。前記ヘイズ値とは,JIS K 7136(2000年版)に準じたヘイズ値(曇度)である。前記ヘイズ値は,20?35%の範囲が好ましく,より好ましくは20?30%の範囲である。ヘイズ値が20%以上であることで,高精細の画像表示装置においてもギラツキ故障を防止することができ,40%以下であることで,コントラストを向上させることができる。ヘイズ値が低すぎるとギラツキ故障が起こりやすくなる。ヘイズ値を上記範囲とするためには,前記微粒子と前記ハードコート層形成材料との屈折率差の絶対値が0.02以上となるように,前記微粒子と前記ハードコート層形成材料とを選択することが好ましい。特に,前記微粒子の屈折率n1と,前記ハードコート層形成材料の屈折率n2との差(n1-n2)が-0.1?-0.02の範囲であると,ギラツキ故障がより低いヘイズ値であっても起こりにくくなるため,好ましい。
【0041】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは,防眩性ハードコート層表面の凹凸形状において,前記防眩性ハードコート層表面の任意な箇所の長さ4mmにおける表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する第1の基準線を越える凸状部が10?70個の範囲で形成され,かつ,前記表面粗さプロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する第2の基準線を越える凸状部が40?100個の範囲で形成されている。そして,前記第1の基準線を越える凸状部の数p1と前記第2の基準線を越える凸状部の数p2との関係が,下記式(1)の関係を満たしている。 p2-p1≧30 (1)
前記第1の基準線を越える凸状部が70個以下であると,余分な散乱が起こりにくいため,良好なコントラストを得ることができる。前記第2の基準線を越える凸状部の数が40個以上あると,スティッキング防止性の良好な防眩性ハードコートフィルムを得ることができる。40個未満の場合には,表面が平坦になり過ぎて,十分なスティッキング防止性が得られない。また,前記式(1)の関係を満たし,かつ,ヘイズ値が20%以上あることで,高精細の画像表示装置においてもギラツキ故障が防止可能な防眩性ハードコートフィルムとすることができる。そして,ヘイズ値が40%以下であることで表示画像のコントラストを確保することができる。前記第1の基準線を越える凸状部の数p1は,15?60個の範囲が好ましく,より好ましくは,30?60個の範囲である。前記第2の基準線を越える凸状部の数p2は,60?100個の範囲が好ましく,より好ましくは,65?100個の範囲である。
【0042】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは,前記のとおりにコントロールされた範囲で凹凸が存在し,かつ,前記範囲のヘイズ値で規定される内部散乱を有することで,防眩性向上とギラツキ故障解消とを両立させることができる。」
g 「【実施例】
【0072】
つぎに,本発明の実施例について,比較例と併せて説明する。ただし,本発明は,以下
の実施例および比較例により制限されない。なお,下記実施例および比較例における各種
特性は,下記の方法により評価または測定を行った。
・・・(中略)・・・
【0078】
(算術平均表面粗さRa)
防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に,MATSUNAMI社製のガラス板(厚み1.3mm)を粘着剤で貼り合わせ,高精度微細形状測定器(商品名;サーフコーダET4000,(株)小坂研究所製)を用いて前記防眩性ハードコート層の表面形状を測定し,算術平均表面粗さRaを求めた。なお,前記高精度微細形状測定器は,前記算術平均表面粗さRaを自動算出する。前記算術平均表面粗さRaは,JIS B 0601(1994年版)に基づくものである。
【0079】
(表面粗さの基準線を越える凸状部数)
前記表面形状の測定により得られた粗さプロファイルにおいて,前記プロファイルの粗さ平均線に平行で0.1μmの高さに位置する線を第1の基準線,前記プロファイルの粗さ平均線に平行で0.05μmの高さに位置する線を第2の基準線とした。任意の測定領域4mmの直線上で,それぞれの基準線を越える凸状部の数を計測したものを測定値とした。図16に,前記凸状部の数の計測方法を説明する模式図を示す。計測すべき凸状部には,斜線を入れてある。凸状部の数の計測は,ピークの数ではなく,前記基準線を横切る部分の数を計測する。例えば,プロファイル中の3,9のように,前記基準線を越える部分で複数のピークを有する場合は,凸状部の数は1個と数える。図16においては,第1の基準線を越える凸状部の数はプロファイル中のピーク1?9の合計9個となる。
【0080】
(スティッキング防止性評価)
防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に,ガラス板(厚み1.3mm)を粘着剤で貼り合わせ,サンプルを作製した。前記サンプルの,防眩性ハードコート層表面に,携帯電話(シャープ(株)製,SH905i)から取り出した前面板(アクリルカバー)を強く押し付け,スティッキング現象の有無を確認した。
判定基準
G:スティッキングが起こらない。
NG:スティッキングが起こる。
【0081】
(防眩性評価)
(1)防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に,黒色アクリル板(三菱レイヨン(株)製,厚み2.0mm)を粘着剤で貼り合わせ,裏面の反射をなくしたサンプルを作製した。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)にて上記で作製したサンプルの防眩性を目視にて判定した。
判定基準
AA:像の写り込みはあるが,視認性への影響は小さい。
A:像の写り込みはあるが,実用上問題はない。
B:像の写り込みがあり,実用上問題がある。
C:像の写り込みがくっきりある。
【0082】
(ギラツキ評価)
防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面を,厚み1.3mmのガラス板に貼り合わせて測定サンプルとした。このサンプルを,バックライト(ハクバ写真産業(株)製,商品名「ライトビュワー5700」)上に置かれたマスクパターン上にセットした。前記マスクパターンとして,開口部20μm×58μm,縦線幅20μm,横線幅62μmの格子状パターン(212ppi)を用いた。前記マスクパターンから前記防眩性ハードコート層までの距離は,1.3mmとし,前記バックライトから前記マスクパターンまでの距離は1.5mmとした。そして,前記防眩性ハードコートフィルムのギラツキを下記判定基準で,目視により判定した。
判定基準
AAA:ギラツキがほとんど認められないレベル。
AA:ギラツキはあるが,視認性への影響が小さいレベル。
A:ギラツキはあるが,実用上は問題がないレベル。
B:ギラツキがひどく,実用上問題があるレベル。
【0083】
(白ボケ評価)
(1)防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に,黒色アクリル板(日東樹脂工業(株)製,厚み1.0mm)を粘着剤で貼り合わせ,裏面の反射をなくしたサンプルを作製した。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)にて,上記で作製したサンプルの平面に対し垂直方向を基準(0°)として60°の方向から見て,白ボケ現象を目視により観察し,下記の判定基準で評価した。
判定基準
AA:白ボケがほとんどない。
A:白ボケがあるが,視認性への影響は小さい。
B:白ボケが強く,視認性を著しく低下させる。
【0084】
(実施例1)
無機酸化物粒子と重合性不飽和基を含む有機化合物とを結合させてなるナノシリカ粒子(前記(B)成分)を分散させた,前記(A)成分を含むハードコート層形成材料(JSR(株)製,商品名「オプスターZ7540」,固形分:56重量%,溶媒:酢酸ブチル/メチルエチルケトン(MEK)=76/24(重量比))を準備した。前記ハードコート層形成材料は,(A)成分:ジペンタエリスリトールおよびイソホロンジイソシアネート系ポリウレタン,(B)成分:表面を有機分子により修飾したシリカ微粒子(重量平均粒径100nm以下)を,(A)成分合計:(B)成分=2:3の重量比で含有する。前記ハードコート層形成材料の硬化皮膜の屈折率は,1.485であった。前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり,前記微粒子としてシリコーン微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製,商品名「トスパール 145」,重量平均粒径:4.5μm,屈折率:1.425)を5重量部,レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製,商品名「GRANDIC PC-4100」)を0.1重量部,光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製,商品名「イルガキュア127」)を0.5重量部混合した。この混合物を,固形分濃度が45重量%,酢酸ブチル/MEK比率が2/1(重量比)となるように希釈して,防眩性ハードコート層形成材料を調製した。
【0085】
透明プラスチックフィルム基材として,トリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム(株)製,商品名「TD80UL」,厚さ:80μm,屈折率:1.48)を準備した。前記透明プラスチックフィルム基材の片面に,前記防眩性ハードコート層形成材料を,コンマコータを用いて塗布して塗膜を形成した。ついで,100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後,高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,前記塗膜を硬化処理して厚み7μmの防眩性ハードコート層を形成し,実施例1の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0086】
(実施例2)
実施例1において,シリコーン微粒子の混合量を,前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり3重量部とした以外は,実施例1と同様な方法にて,実施例2の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0087】
(実施例3)
実施例1において,シリコーン微粒子の混合量を,前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり6重量部とした以外は,実施例1と同様な方法にて,防眩性ハードコート層の厚みが6μmである実施例3の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0088】
(実施例4)
前記微粒子として,シリコーン微粒子である「トスパール 120」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製,重量平均粒径:2.0μm,屈折率:1.425)を用いた以外は,実施例1と同様な方法にて,実施例4の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0089】
(実施例5)
前記微粒子として,シリコーン微粒子である「トスパール 130」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製,重量平均粒径:3.0μm,屈折率:1.425)を用い,混合量を,前記実施例1のハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり7重量部とした以外は,実施例1と同様な方法にて,防眩性ハードコート層の厚みが10μmである実施例5の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0090】
(実施例6)
ハードコート層形成材料として,下記に示す成分を含む樹脂(大日本インキ化学工業(株)製,商品名「GRANDIC PC1071」,固形分:66重量%)を準備した。前記ハードコート層形成材料の硬化皮膜の屈折率は,1.52であった。前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり,アクリル粒子(積水化成品工業(株)製,商品名「SSX-106」,重量平均粒径:6.0μm,屈折率:1.49)を15重量部,レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製,商品名「GRANDIC PC-4100」)を0.5重量部混合した。前記アクリル粒子のアスペクト比は,ほとんどが1.05であった。この混合物を,固形分濃度が35重量%となるように,混合溶媒(酢酸ブチル:酢酸エチル=58:42(重量比))を用いて希釈して,防眩性ハードコート層形成材料を調製した。なお,前記レベリング剤は,ジメチルシロキサン:ヒドロキシプロピルシロキサン:6-イソシアネートヘキシルイソシアヌル酸:脂肪族ポリエステル=6.3:1.0:2.2:1.0のモル比で共重合させた共重合物である。
ペンタエリスリトール系アクリレートと水添キシレンジイソシアネートからなるウレタンアクリレート(100重量部)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(49重量部)
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(41重量部)
ペンタエリスリトールトリアクリレート(24重量部)
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーおよびコポリマーの混合物(59重量部)
光重合開始剤:商品名「イルガキュア184」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)(5重量部)
混合溶媒:酢酸ブチル:酢酸エチル=89:11(重量比)
【化1】

前記式(1)において,R^(1)は,-H若しくは-CH_(3)であり,R^(2)は,-CH_(2)CH_(2)OX若しくは下記一般式(2)で表される基であり,前記Xは,-H若しくは下記一般式(3)で表されるアクリロイル基である。
【化2】

前記一般式(2)において,前記Xは,-H若しくは下記一般式(3)で表されるアクリロイル基であり,前記Xは,同一であってもよいし,異なっていてもよい。
【化3】

【0091】
前記透明プラスチックフィルム基材の片面に,前記防眩性ハードコート層形成材料を,バーコーターを用いて塗布して塗膜を形成した。ついで,100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後,メタルハライドランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,前記塗膜を硬化処理して厚み11μmの防眩性ハードコート層を形成し,実施例6の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0092】
(実施例7)
前記微粒子として,アクリルとスチレンの架橋粒子である,「テクポリマーXX98AA」(積水化成品工業(株)製,重量平均粒径:3.5μm,屈折率:1.555)を用いた以外は,実施例1と同様な方法にて,実施例7の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0093】
(比較例1)
前記微粒子としてアクリルとスチレンの架橋粒子である,「テクポリマーXX80AA」(積水化成品工業(株)製,重量平均粒径:5.5μm,屈折率:1.515)を用いた以外は,実施例1と同様な方法にて,防眩性ハードコート層の厚みが9μmである比較例1の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0094】
(比較例2)
前記混合物を,固形分濃度が45重量%,酢酸ブチル/MEK比率が3/1(重量比)となるように希釈したこと以外は実施例1と同様な方法にて,防眩性ハードコート層の厚みが9μmである比較例2の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0095】
(比較例3)
前記微粒子として,アクリルとスチレンの架橋粒子である,「テクポリマーXX79AA」(積水化成品工業(株)製,重量平均粒径:5.0μm,屈折率:1.505)を用いた以外は,実施例1と同様な方法にて,防眩性ハードコート層の厚みが9μmである比較例3の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0096】
(比較例4)
前記微粒子として,アクリルとスチレンの架橋粒子である,「テクポリマーXX81AA」(積水化成品工業(株)製,重量平均粒径:5.0μm,屈折率:1.535)を用いた以外は,実施例1と同様な方法にて,防眩性ハードコート層の厚みが9μmである比較例4の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0097】
(比較例5)
比較例1において,アクリルとスチレンの架橋粒子の混合量を,前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり15重量部とした以外は,比較例1と同様な方法にて,比較例5の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0098】
(比較例6)
ハードコート層形成材料として,イソシアヌル酸トリアクリレート,ペンタエリスリトールトリアクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびイソホロンジイソシアネートポリウレタンからなる紫外線硬化型樹脂を準備した。前記ハードコート層形成材料の硬化皮膜の屈折率は,1.53であった。前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり,レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製,商品名「ディフェンサMCF323」)0.5重量部,アクリルとスチレンの架橋粒子(「テクポリマーXX94AA」,積水化成品工業(株)製,重量平均粒径:6.0μm,屈折率:1.495)10重量部および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製,商品名「イルガキュア184」)5重量部を,固形分濃度が45重量%になるように混合溶媒(トルエン:酢酸ブチル:酢酸エチル=86.5:1.0:12.5(重量比))に溶解ないし分散させて,防眩性ハードコート層形成材料を調製した。
【0099】
前記透明プラスチックフィルム基材の片面に,前記防眩性ハードコート層形成材料を,コンマコータを用いて塗布して塗膜を形成した。ついで,100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後,メタルハライドランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,前記塗膜を硬化処理して厚み10μmの防眩性ハードコート層を形成し,比較例6の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0100】
(比較例7)
ハードコート層形成材料として,イソシアヌル酸トリアクリレート,ペンタエリスリトールトリアクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびイソホロンジイソシアネートポリウレタンからなる紫外線硬化型樹脂を準備した。前記ハードコート層形成材料の硬化皮膜の屈折率は,1.53であった。前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり,レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製,商品名「メガファックF-470N」)0.5重量部,不定形シリカ粒子(富士シリシア化学(株)製,商品名「サイロホービック702」,重量平均粒径:2.5μm,屈折率:1.46)8重量部および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製,商品名「イルガキュア184」)5重量部を,固形分濃度が38重量%になるように混合溶媒(トルエン:酢酸ブチル=85:15(重量比))に溶解ないし分散させて,防眩性ハードコート層形成材料を調製した。
【0101】
前記透明プラスチックフィルム基材の片面に,前記防眩性ハードコート層形成材料を,コンマコータを用いて塗布して塗膜を形成した。ついで,100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後,メタルハライドランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,前記塗膜を硬化処理して厚み5μmの防眩性ハードコート層を形成し,比較例7の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0102】
(比較例8)
ハードコート層形成材料として,イソシアヌル酸トリアクリレート,ペンタエリスリトールトリアクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびイソホロンジイソシアネートポリウレタンからなる紫外線硬化型樹脂を準備した。前記ハードコート層形成材料の硬化皮膜の屈折率は,1.53であった。前記ハードコート層形成材料の樹脂固形分100重量部あたり,レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製,商品名「ディフェンサMCF323」)0.5重量部,ポリスチレン粒子(綜研化学(株)製,商品名「ケミスノーSX350H」,重量平均粒径:3.5μm,屈折率:1.59)14重量部および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製,商品名「イルガキュア184」)5重量部を,固形分濃度が45重量%になるように混合溶媒(トルエン:酢酸ブチル:酢酸エチル=86.5:1.0:12.5(重量比))に溶解ないし分散させて,防眩性ハードコート層形成材料を調製した。
【0103】
前記透明プラスチックフィルム基材の片面に,前記防眩性ハードコート層形成材料を,コンマコータを用いて塗布して塗膜を形成した。ついで,100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後,メタルハライドランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,前記塗膜を硬化処理して厚み5μmの防眩性ハードコート層を形成し,比較例8の防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0104】
(参考例1)
微粒子(シリコーン微粒子,商品名「トスパール 145」)を添加しなかった以外は,実施例1と同様な方法にて,参考例1のハードコートフィルムを得た。
【0105】
このようにして得られた実施例1?7および比較例1?8の各防眩性ハードコートフィルム,ならびに参考例1のフィルムについて,各種特性を測定若しくは評価した。その結果を,図1?図15および下記表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
前記表1に示すように,実施例においては,スティッキング防止性,防眩性,ギラツキおよび白ボケのすべてについて,良好な結果が得られた。特に,ギラツキについては,「AAA:ギラツキがほとんど認められない」という,防眩層がない状態(参考例1)と同等の極めて良好な結果であった。一方,比較例においては,防眩性,ギラツキおよび白ボケの一部については良好な結果が得られてはいるものの,すべての特性について良好な,実施例と同等の特性を有するものは得られなかった。さらに,本発明において規定したヘイズ値,凸状部の数を測定することで,目視評価をすることなく防眩性,ギラツキおよび白ボケ等の視認性の傾向を把握することも可能であることがわかる。
【0108】
図1?図15は前記実施例および比較例で得られた防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状のプロファイルである。前記実施例で得られた防眩性ハードコートフィルムにおいては,前記比較例で得られた防眩性ハードコートフィルムに比べて,0.05μm高さの基準線を越えるが0.1μmの基準線は越えない微細な凹凸が多く存在している状態である。前記実施例のような表面凹凸形状の防眩性ハードコートフィルムは,前記凸状部の大きさおよび数が規定した範囲にあるものであり,さらに,所定のヘイズ値を満たすことにより,防眩性ハードコートフィルムとして良好に用いることができることがわかる。」
h 図16は次のとおりである。
【図16】


(5)前記(4)bからみて,本願発明は,防眩性ハードコートフィルムにおいて,解像度が200ppi以上の超高精細の液晶パネル等であってもギラツキ故障を抑え,明暗コントラストを改善し,かつ,スティッキング防止性を得ることを目的とする発明であると認められる。
また,本願明細書の【0041】の記載から,「発明特定事項1」の構成を採用することによって,余分な散乱が起こりにくいために良好なコントラストを得ることができ,スティッキング防止性の良好なものとすることができることを把握できるから,「発明特定事項1」は,本願発明の目的のうちの「明暗コントラストを改善し,かつ,スティッキング防止性を得る」ことを達成するための構成であって,本願発明の中核をなす特徴的部分であると認められる。
当該「発明特定事項1」は,長さ4mmにおける「第1凸状部」(本審決において,当審拒絶理由と同じ意味で「第1凸状部」という文言を用いる。「第2凸状部」についても同様。)の数p1,「第2凸状部」の数p2,及び,p2-p1を規定しており,それはすなわち,長さ4mmにおける表面凹凸の状態を規定するものであると認められるところ,明暗コントラストを改善し,かつ,スティッキング防止性を得るためには,防眩性ハードコートフィルム表面のどこか1箇所が所定の表面凹凸の状態となっているだけでは足りず,防眩性ハードコートフィルム表面の全体が,又は,全体とはいわないまでも少なくとも防眩性ハードコートフィルム表面のうちのかなりの部分が当該所定の表面凹凸の状態となっていることを要するものと解される。
そうすると,本願明細書に記載された本願発明が解決しようとする課題及び本願発明の効果からみると,「発明特定事項1」は,防眩性ハードコート層表面においていずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択しても,必ず「発明特定事項1」中の前記規定を満たしているという「第2の意味」であるか,又は,防眩性ハードコート層表面の任意の箇所の長さ4mmの範囲を多数選択した場合に,当該選択した多数の長さ4mmの範囲のうちの相当多くの部分の4mmの範囲が「発明特定事項1」中の前記規定を満たしていること(以下「第3の意味」という。)を意味していると解することが可能である。

(6)一方,本願明細書に記載された「実施例1」ないし「実施例7」,及び,「比較例1」ないし「比較例8」は,発明の詳細な説明の【0084】ないし【0092】,及び,【0093】ないし【0103】に記載された方法により製造された防眩性ハードコートフィルムであって,それらの表面凹凸の状態が「発明特定事項1」を満たしているのか否かの確認は,【0079】(前記(4)gを参照。)の記載によれば,防眩性ハードコート層表面のどこか1箇所の長さ4mmの範囲を適宜選択し,当該範囲の「第1凸状部」及び「第2凸状部」の数を計測したことにより行ったものと認められる。
すなわち,本願明細書に記載された各実施例及び比較例において,「発明特定事項1」を満たしていることが確認されたのは,計測箇所として選択されたどこか1箇所の4mmの範囲のみであって,当該計測箇所以外の箇所において「発明特定事項1」を満たすのか否かは,確認されていない。
そうすると,本願明細書に記載された「実施例1」ないし「実施例7」,及び,「比較例1」ないし「比較例8」からみると,「発明特定事項1」は,防眩性ハードコート層表面のどこか1箇所の長さ4mmの範囲を適宜選択した場合に,当該範囲において,「発明特定事項1」中の規定を満たしているという「第1の意味」であると解することも可能である。

(7)前記(6)の計測箇所以外の箇所の表面凹凸の状態に関して,請求人は,「4mmという・・・長さ範囲で表面形状を測定しながら,測定箇所によって測定結果に大きな偏りが生じることは,製造工程で意図的に表面形状の偏りを生じさせない限り,あり得ません。そして,防眩性ハードコートフィルムの製造工程で,意図的に表面形状の偏りを生じさせれば,表示ムラが生じて実用に堪えません。したがって,そのようなことは,本願発明の属する技術分野における本願出願時の技術常識を鑑みれば,あり得ません。すなわち,防眩性ハードコートフィルムの表面形状を,長さ4mmについて1箇所測定すれば,全ての箇所において同様の測定結果が得られることは,本願発明の属する技術分野における本願出願時の技術常識から推認可能です。」などと主張する。
当該主張は,本願明細書に記載の各実施例及び各比較例が,どの位置で測定しても同様の測定結果が得られるものであるから,本願明細書の各実施例及び各比較例についての記載から,「発明特定事項1」を「第1の意味」に解することはできない,あるいはそのように解することが不合理であるとの主旨と解することができる。
そこで,当該主張について検討する。
ア 「実施例1」の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの0?1mmの範囲,1?2mmの範囲,2?3mmの範囲及び3?4mmの範囲を示したプロファイル(前記(4)eの【0011】を参照。)を示す本願の図1(a)ないし図1(d)は次のとおりである。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】

【図1(d)】

図1(a)の記載からは,第1凸状部が3個存在し,第2凸状部が13個存在することが見て取れるから,測定長さ4mmのうちの0?1mmの範囲における第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分は10である。
一方,図1(b)の記載からは,第1凸状部が10個存在し(1?2mmの範囲と2?3mmの範囲に跨がる凸状部を,1?2mmの範囲の凸状部として数えた。),第2凸状部が16個存在することが見て取れるから,測定長さ4mmのうちの1?2mmの範囲における第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分は6である(当該差分の値は,1?2mmの範囲と2?3mmの範囲に跨がる凸状部を,1?2mmの範囲の凸状部として数えない場合も同じである。)。
前記のとおり,0?1mmの範囲及び1?2mmの範囲における第1凸状部の数,第2凸状部の数,及び,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分は一致しないから,「実施例1」の測定長さ4mmにおいては,少なくとも1mmの範囲毎にみた場合に,第1凸状部の数,第2凸状部の数,及び,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分にはバラツキがある。
「実施例1」が,(A)成分:ジペンタエリスリトールおよびイソホロンジイソシアネート系ポリウレタン,及び,(B)成分:表面を有機分子により修飾したシリカ微粒子(重量平均粒径100nm以下)を,(A)成分合計:(B)成分=2:3の重量比で含有するハードコート層形成材料と,シリコーン微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製,商品名「トスパール 145」,重量平均粒径:4.5μm,屈折率:1.425)とを含有する防眩性ハードコート層形成材料を,透明プラスチックフィルム基材の片面に塗布して塗膜を形成し,加熱により前記塗膜を乾燥させ,その後,紫外線を照射して前記塗膜を硬化処理して防眩性ハードコート層を形成するという方法により製造されたものであり(前記(4)gの【0084】及び【0085】を参照。),当該「実施例1」表面の凸状部がランダムに形成されることからみて,1mmの範囲でバラツキがある第1ないし第3凸状部の数が,当該1mmの長さの4倍でしかない4mmの範囲で計測したからといって,そのバラツキがなくなるとは考えられない。
イ また,「比較例3」についてみると,【0106】の【表1】(前記(4)gを参照。)によれば,当該「比較例3」の計測箇所における第1凸状部の数p1は51であり,第2凸状部の数p2は78であり,p2-p1は27である。
一方,「比較例3」の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのうちの3?4mmの範囲のプロファイル(前記(4)eの【0011】を参照。)を示す本願の図10は次のとおりである。
【図10】

図10の記載からは,第1凸状部が10個存在し,第2凸状部が20個存在することが見て取れるから,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分は10である。
当該値を単純に4倍した値から算出されるp1,p2及びp2-p1の値は,それぞれ40,80及び40であるところ,当該各値は,いずれも,【0106】の【表1】に示されたp1,p2及びp2-p1の前記値51,78及び27と異なるから,「比較例3」の測定長さ4mmにおいては,少なくとも1mmの範囲毎でみた場合に,第1凸状部の数,第2凸状部の数,及び,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分にバラツキがあることになる。
このように1mmの範囲でバラツキがある第1凸状部の数,第2凸状部の数,及び,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分が,当該1mmの長さの4倍でしかない4mmの範囲で計測したからといって,そのバラツキがなくなることが,「比較例3」表面の凸状部がランダムに形成されること(前記(4)gの【0095】を参照。)からみて考えられないことは,前記アで述べた「実施例1」の場合と同様である。
ウ なお,図1(a)及び図1(b)や図10の記載からは,そのピークが第1の基準線又は第2の基準線と接しており,当該ピークが各基準線を越えているのか否かを判定することが困難な凸状部がいくつか存在することから,前記ア及びイで述べた各数値には多少の誤差があるかもしれないが,「実施例1」や「比較例3」において,少なくとも1mmの範囲毎にみた場合に各数値にバラツキがあることに変わりはない。
エ さらに,前記「実施例1」及び「比較例3」以外の各実施例及び比較例のいずれのプロファイル(図2ないし9,図11ないし15)をみても,長さ4mmについて1箇所測定すれば,全ての箇所において同じ測定結果が得られるとは認められない。
オ 前記アないしエのとおりであって,防眩性ハードコートフィルム表面の計測位置の違いによって,p1,p2及びp2-p1の計測結果にバラツキが生じるものと認められるから,前記請求人の主張が,防眩性ハードコートフィルム表面のどの位置の長さ4mmで計測しても,その計測結果にバラツキがなく常に一致するという主旨であるならば,そのような主張は採用することができない。
カ 仮に,前記請求人の主張が,防眩性ハードコートフィルム表面のどの位置の長さ4mmで計測しても,その計測結果が大きく異なることはないという主旨であるとすると,本願明細書の各実施例及び各比較例についての記載から「発明特定事項1」が「第2の意味」であると理解するには,計測位置の違いによる計測結果のバラツキが,特許を受けようとする発明の範囲を不明確にしない程度に小さなものである必要がある。
前記(5)のとおり,「発明特定事項1」が本願発明の中核をなす特徴的部分であることに鑑みれば,なおのこと,前記計測位置の違いによる計測結果のバラツキは,特許を受けようとする発明の範囲を不明確にするものであってはならない。
そこで,当該主張について検討する。
(ア)例えば,当審拒絶理由3の「(1)明確性要件違反」において,計測箇所によっては本願発明1の比較例になる可能性があると指摘した「実施例3」についてみてみると,当該「実施例3」の防眩性ハードコートフィルムの断面表面形状の,測定長さ4mmのプロファイル(前記(4)eの【0011】を参照。)を示す本願の図3は次のとおりである。
【図3】

(イ)図3の(c)からは,第1凸状部が14個存在し,第2凸状部が20個存在することが見て取れるから,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分は6である。
当該差分の値を単純に4倍した値から算出されるp2-p1の値は24であるところ,当該24は「発明特定事項1」の規定中の式(1)「p2-p1≧30」を満たさない。
(ウ)「実施例3」表面の凸状部がランダムに形成されるものであり(前記(4)gの【0087】を参照。),当該「実施例3」表面の測定長さ4mmにおけるp1,p2及びp2-p1の値にはバラツキがあると認められることからみて,p1,p2及びp2-p1の値が,前記図3の(c)に示された測定長さ4mmのうちの2?3mmにおける第1凸状部の数,第2凸状部の数,及び,第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分を単純に4倍した程度の値となるような長さ4mmの範囲が,「実施例3」の表面のどのような位置にも存在しないと解することは無理があるから,前記(イ)からみて,「実施例3」の表面には,「発明特定事項1」の前記規定を満たさない長さ4mmの範囲が存在すると解するのが自然である。
そうすると,「実施例3」は,計測箇所の違いによって本願発明1の「実施例」にも「比較例」にもなり得るということであるから,計測位置の違いによる計測結果のバラツキが,特許を受けようとする発明の範囲を不明確にしない程度に小さなものであると認めることはできない。
(エ)仮に,前記(イ)で述べた,図3の(c)から見て取った第1凸状部及び第2凸状部の数に誤差があり,正しくは第2凸状部の数と第1凸状部の数の差分が8以上であり,当該差分の値を単純に4倍したp2-p1の値が式(1)を満たすものであったとしても,そもそも,計測位置の違いによって計測結果にバラツキがあるということは,p1,p2及びp2-p1の値が,それぞれ,計測位置によって「発明特定事項1」の前記規定を満たしたり,満たさなかったりすることがあるということである。
請求人の主張が,防眩性ハードコートフィルム表面のどの位置の長さ4mmで計測しても,その計測結果が大きく異なることはないという主旨であるとすると,当該主張は,「発明特定事項1」は,防眩性ハードコート層表面の任意の箇所の長さ4mmの範囲を多数選択した場合に,当該選択した多数の長さ4mmの範囲のうちの相当多くの部分の4mmの範囲が「発明特定事項1」中の前記規定を満たしているという「第3の意味」であるとの主張にほかならないが,当該「第3の意味」において「選択した多数の長さ4mmの範囲のうちの相当多くの部分の4mmの範囲」が如何ほどの割合であるのかは,本願明細書及び図面の記載並びに技術常識を考慮しても明確に特定できないから,仮に,本願明細書の記載からみて,「発明特定事項1」が「第3の意味」であると理解できたとしても,「発明特定事項1」により本願発明が不明確なものとなっていることに何ら変わりはない。

(8)以上のとおりであって,「発明特定事項1」が指し示す内容が,例え,本願明細書及び図面の記載並びに技術常識を考慮しても,明確に特定できず,当該「発明特定事項1」により本願発明が不明確なものとなっていると認められる。
したがって,「請求項1の記載では,特許を受けようとする発明が明確でない。」とした当審拒絶理由1は,平成26年3月10日提出の手続補正書による補正によっても解消されていない。
よって,本願の特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。

2 当審拒絶理由3について
(1)「(1)明確性要件違反」について
仮に,「発明特定事項1」が「第1の意味」であるとすると,「発明特定事項1」の規定をある箇所では満たしており別の箇所では満たしていないような防眩性ハードコートフィルムについては,当該防眩性ハードコートフィルムが「発明特定事項1」を具備しているのか否かが,計測者がどのような箇所を計測対象としたのかという主観的要素によって決まるのであって,防眩性ハードフィルム自体の構成から決めることができないことは明らかである。
したがって,「発明特定事項1」が「第1の意味」である場合,「対象物品が発明特定事項を具備しているのか否かが前記主観的要素によって決まるような「発明特定事項1」をもって発明を特定する請求項1において,特許を受けようとする発明が明確であると認めることができない。」とした当審拒絶理由3の「(1)明確性要件違反」は,平成26年3月10日提出の手続補正書による補正によっても解消されていない。
よって,本願の発明の詳細な説明の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。

(2)「(2)委任省令要件違反」について
仮に,「発明特定事項1」が「第1の意味」であるとすると,「発明特定事項1」の規定を満たさないような部分がフィルム表面の多くを占めるような防眩性ハードコートフィルムも本願発明に含まれることとなるが,このような防眩性ハードコートフィルムが,本願発明の効果を奏しないことは明らかである。
したがって,「発明特定事項1」が「第1の意味」である場合,「例え当業者といえども本願発明が如何なる効果を有するものであるのかを理解することができないから,本願の発明の詳細な説明に当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていると認めることはできない。」とした当審拒絶理由3の「(2)委任省令要件違反」は,平成26年3月10日提出の手続補正書による補正によっても解消されていない。
よって,本願の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。

3 当審拒絶理由4について
(1)本願明細書に記載された「実施例4」はヘイズ値が請求項1に記載された範囲を満たしておらず,「実施例6」及び「実施例7」は微粒子が請求項1に記載されたシリコーン微粒子でないから,これらの実施例は本願発明の「実施例」ではない。
したがって,本願発明の「実施例」は,「実施例1」ないし「実施例3」,「実施例5」である。
そして,前記1(7)アないしオで述べたとおり,本願明細書に記載された「実施例1」ないし「実施例3」,「実施例5」は,計測位置の違いによって計測結果にバラツキが生じるものと認められるところ,これら「実施例1」ないし「実施例3」,「実施例5」において,「発明特定事項1」を満たしていることが確認されたのは,前記1(6)で述べたとおり,各実施例において計測箇所として選択されたどこか1箇所の4mmの範囲のみであって,当該計測箇所以外の箇所において「発明特定事項1」を満たすのか否かは,確認されていないから,このような「実施例1」ないし「実施例3」,「実施例5」が,計測位置としていずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択しても,その計測結果が必ず「発明特定事項1」中の規定を満たすものであると認めることはできない。
請求人は,「防眩性ハードコートフィルムの表面形状を,長さ4mmについて1箇所測定すれば,全ての箇所において同様の測定結果が得られる」などと主張するが,当該主張が,防眩性ハードコートフィルム表面のどの位置の長さ4mmで計測しても,その計測結果にバラツキがなく常に一致するという主旨であるならば,そのような主張は採用することができないし,計測結果にバラツキがあることを許容した上で,本願明細書に記載された各実施例が,防眩性ハードコートフィルム表面のどの位置の長さ4mmで計測しても,「発明特定事項1」の規定を満たすものであるという主旨であるならば,各実施例において,「発明特定事項1」の規定を満たさない箇所が存在しないことの具体的証拠を請求人が示す必要があるが,そのような証拠は提出されていないから,当該請求人の主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから,「発明特定事項1」が「第2の意味」である場合,本願明細書に記載された「実施例1」ないし「実施例3」,「実施例5」が,「第2の意味」での「発明特定事項1」をサポートしているとは認めることができない。

なお,本願発明の「発明特定事項1」と類似の発明特定事項により請求項に係る発明を特定した,請求人の特許出願(出願番号2009-233939号)の審判事件(不服2013-6288号。以下「関連事件」という。)において,本件における当審拒絶理由と同趣旨の拒絶理由が,本件における当審拒絶理由と同時期に通知されており,本件における当審拒絶理由の指定期間内である平成26年2月7日に行った当該関連事件における電話での応対において,前記発明特定事項が「第2の意味」と同様の意味であることを主張するのであれば,クレームの記載をそのような意味であることが明確となるような表現に補正し,かつ,明細書記載の実施例がそのようなクレームをサポートするものであることを示す証拠(例えば実験データなど)が必要であると合議体(本件における合議体と同一合議体である。)が考えていることを伝えていたから,本件においても,当審拒絶理由に対して同様の対応が必要であると合議体が考えていることを,請求人が認識していたことが明らかであることを付言しておく。(当該関連事件においては,前記発明特定事項のような不明確なパラメータを用いて発明を特定する代わりに,防眩性ハードコート層表面の凹凸の状態を実現するための具体的な構成(防眩性ハードコート層の具体的成分や膜厚等の構成)を用いて発明を特定する補正が行われたことから,通知した拒絶理由が解消したと判断され,平成26年3月24日付けで原査定を取り消して特許する旨の審決がなされた。)

(2)また,微粒子とハードコート層形成材料を用いて形成される防眩性ハードコート層においては,その表面の凸状部がランダムに形成されるのであって,如何にすれば,防眩性ハードコート層表面においていずれの箇所の長さ4mmの範囲を選択しても,当該範囲でのp1が10?70個の範囲であり,p2が40?100個の範囲であり,かつ,p2-p1が30個以上であるような防眩性ハードコートフィルムを製造できるのかは,本願明細書及び図面に記載されておらず,そのことが技術常識からみて自明であるとも認められない。
したがって,「発明特定事項1」が「第2の意味」である場合,例え当業者といえども,本願明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づいて,本願発明の実施をすることができると認めることはできない。

(3)前記(1)及び(2)のとおりであるから,「発明特定事項1」が「第2の意味」である場合,「発明の詳細な説明の記載はサポート要件に違反し」,「発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているとは認められない」とした当審拒絶理由4は,平成26年3月10日提出の手続補正書による補正によっても解消されていない。
よって,本願の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が特許法36条4項1号及び6項1号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。

第5 むすび
前記第4のとおり,本願の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が特許法36条4項1号,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-17 
結審通知日 2014-04-18 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2009-51110(P2009-51110)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 防眩性ハードコートフィルム、それを用いた偏光板および画像表示装置  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 伊佐治 創  
代理人 中山 ゆみ  

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