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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01G
審判 全部無効 2項進歩性  H01G
管理番号 1288895
審判番号 無効2012-800098  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-13 
確定日 2013-11-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4841131号発明「ポリマー外層を有する電解コンデンサ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4841131号に係る出願は、平成16年10月18日(パリ条約に基づく優先権主張2003(平成15)年10月17日、2004(平成16)年5月7日 ドイツ(DE))の出願であって、平成23年10月14日にその請求項1?31に係る発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、本件無効審判事件の請求人から平成24年6月13日に、請求項1?31に係る発明の特許について、無効審判の請求がなされたものであり、以後の手続の経緯は,概略、以下のとおりである。

審判請求書 平成24年6月13日
訂正請求書 平成24年9月28日
(平成24年10月31日付けで手続補正)
審判事件答弁書 平成24年10月5日
審理事項通知書 平成24年12月26日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成25年2月14日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成25年2月22日
口頭審理 平成25年2月28日
審決の予告 平成25年3月25日
訂正請求書 平成25年6月25日
審判事件弁駁書 平成25年8月8日


第2 本件発明
1.訂正請求について
審決の予告後の平成25年6月25日付けで、本件無効審判事件の被請求人からなされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について検討する。

(1)本件訂正請求の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第4841131号の明細書及び特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求める。」というものであって、
その訂正内容は、本件訂正請求書の「6.請求の理由 (3)訂正の内容」の「訂正事項1?9」に記載された下記のとおりである。
なお、審決の予告前の上記平成24年9月28日付け訂正請求(平成24年10月31日付けで手続補正)の唯一の「訂正事項a」は、本件訂正請求の下記「訂正事項7」に実質的に含まれている。

訂正事項1
【請求項1】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位:
【化1】


〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕
を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含むことを特徴とする電解コンデンサ。」とあるのを、

「・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする電解コンデンサ。」
と訂正するとともに、請求項1の記載を引用する請求項2?4、7?14,17?18、31も同様に訂正する。


訂正事項2
【請求項2】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性ポリマーを含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位:
【化2】


〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕
を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電解コンデンサ。」とあるのを、

「・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性ポリマーを含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする、請求項1に記載の電解コンデンサ。」
と訂正するとともに、請求項2の記載を引用する請求項3?7、9?14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項3
【請求項6】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「固体電解質中に含有されている導電性ポリマーが、一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンであることを特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の電解コンデンサ。」とあるのを、

「固体電解質中に含有されている導電性ポリマーが、一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンであることを特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の電解コンデンサ:
【化1】


〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕。」
と訂正するとともに、請求項6の記載を引用する請求項7、9?14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項4
【請求項9】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「前記ポリマー外層中に含有されているポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の電解コンデンサ。」とある記載を削除する。
請求項9の記載を引用する請求項10?14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項5
【請求項10】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「前記ポリマー外層中に含有されているポリマーアニオンが、ポリマーカルボン酸またはスルホン酸のアニオンであることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の電解コンデンサ。」とある記載を削除する。
請求項10の記載を引用する請求項11?14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項6
【請求項11】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「前記ポリマー外層中に含有されているポリマーアニオンが、ポリスチレンスルホン酸のアニオンであることを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の電解コンデンサ。」とある記載を削除する。
請求項11の記載を引用する請求項12?14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項7
【請求項12】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「前記ポリマー外層中に含有されている結合剤が、ポリマー有機結合剤であることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の電解コンデンサ。」とあるのを、

「前記ポリマー外層中に含有されているスルホン化ポリエステルの含有量が20?60%であることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の電解コンデンサ。」
と訂正するとともに、請求項12の記載を引用する請求項13?14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項8
【請求項13】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「固体電解質が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびモノマー対イオンを含み、前記ポリマー外層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸錯体および1種またはそれ以上のポリマー有機結合剤を含むことを特徴とする請求項1?7および9?12のいずれかに記載の電解コンデンサ。」とあるのを、

「固体電解質が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびモノマー対イオンを含み、前記ポリマー外層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸錯体および1種またはそれ以上のスルホン化ポリエステルを含むことを特徴とする請求項1?7および9?12のいずれかに記載の電解コンデンサ。」
と訂正するとともに、請求項13の記載を引用する請求項14,17?19、31も同様に訂正する。


訂正事項9
【請求項27】について、特許査定時の特許請求の範囲に、
「少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含む分散体が、有機溶媒、水またはそれらの混合物を溶媒として含むことを特徴とする請求項19?26のいずれかに記載の方法。」とあるのを、

「少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含む分散体が、有機溶媒、水またはそれらの混合物を溶媒として含むことを特徴とする請求項19?26のいずれかに記載の方法。」
と訂正するとともに、請求項27の記載を引用する請求項28?30も同様に訂正する。


(2)本件訂正請求についての判断
上記訂正事項1、2は、【請求項1】、【請求項2】において、ポリマー外層に含まれるポリチオフェン、ポリマーアニオン、結合剤を、それぞれ「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」、「ポリスチレンスルホン酸」、「スルホン化ポリエステル」に限定するものであり、
上記訂正事項3は、【請求項6】において、上記訂正事項1、2の訂正に伴って、引用する「固体電解質中に含有されている導電性ポリマー」である「ポリチオフェン」を規定する一般式としての化学式のイメージ、および式中の記号の説明を再掲することによって構成を明確にするものであり、
上記訂正事項4?6は、【請求項9】、【請求項10】、【請求項11】において、上記訂正事項1、2の訂正に伴って、重複する構成を削除することによって構成を明確にするものであり、
上記訂正事項7は、【請求項12】において、ポリマー外層中に含有されているポリマー有機結合剤を「スルホン化ポリエステル」に限定すると共に、その含有量の範囲を限定するものであり、
上記訂正事項8は、【請求項13】において、ポリマー外層中に含有されているポリマー有機結合剤を「スルホン化ポリエステル」に限定するものであり、
上記訂正事項9は、【請求項27】において、引用する請求項19以下が更に引用する請求項2との関係に於いて、ポリマー外層を形成する分散体に含まれる「ポリチオフェン」の構成を明確にするものであるから、
結局、全体として、特許請求の範囲を減縮する、または、不明瞭な記載を釈明するものである。

そして、これらの訂正事項は特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、本件訂正請求は、特許法134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするもので、同条第2項及び第3項の規定、並びに同条第9項で読み替えて準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
以上のとおりであるから、本件訂正請求については、これを認める。


2.本件発明
以上のとおり、本件訂正請求が認められることから、本件無効審判請求に係る特許発明は、本件訂正請求に添付された全文訂正特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
なお、以下の検討においては、請求項1に係る発明ないし請求項31に係る発明を、それぞれ請求項番号を用いて「本件発明1」?「本件発明31」のようにいうことがある。

【請求項1】
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする電解コンデンサ。

【請求項2】
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性ポリマーを含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする、請求項1に記載の電解コンデンサ。

【請求項3】
100kHzで測定した等価直列抵抗(ESR)と多孔質電極体の幾何表面積との積が、4,000mΩmm^(2)未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。

【請求項4】
100kHzで測定した等価直列抵抗(ESR)が、51mΩ未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。

【請求項5】
固体電解質中に含有されている導電性ポリマーが、任意に置換されていてよいポリチオフェン、任意に置換されていてよいポリピロール、または任意に置換されていてよいポリアニリンであることを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項6】
固体電解質中に含有されている導電性ポリマーが、一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンであることを特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の電解コンデンサ:
【化1】


〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕。

【請求項7】
固体電解質が、モノマーアニオンを含むことを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項8】
導電性物質が、電荷移動錯体、二酸化マンガンまたは塩であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。

【請求項9】 (削除)

【請求項10】 (削除)

【請求項11】 (削除)

【請求項12】
前記ポリマー外層中に含有されているスルホン化ポリエステルの含有量が20?60%であることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項13】
固体電解質が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびモノマー対イオンを含み、前記ポリマー外層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸錯体および1種またはそれ以上のスルホン化ポリエステルを含むことを特徴とする請求項1?7および9?12のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項14】
電極物質が、バルブ金属またはバルブ金属の電気的性質を有する化合物であることを特徴とする請求項1?13のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項15】
バルブ金属または同等の性質を有する化合物が、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、少なくとも1種のこれら金属と他の元素との合金若しくは化合物、NbO、またはNbOと他の元素との合金若しくは化合物であることを特徴とする請求項14に記載の電解コンデンサ。

【請求項16】
誘電体が、バルブ金属の酸化物またはバルブ金属の電気的性質を有する化合物の酸化物であることを特徴とする請求項14または15に記載の電解コンデンサ。

【請求項17】
電解コンデンサが、誘電体で被覆されている電極体の質量を基準に10,000μC/gより高い電荷-質量比を有することを特徴とする請求項1?16のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項18】
前記ポリマー外層の平均膜厚が、1?100μmであることを特徴とする請求項1?17のいずれかに記載の電解コンデンサ。

【請求項19】
導電性ポリマーを製造するための前駆体、1種またはそれ以上の酸化剤および任意に対イオンを、一緒にまたは連続して、任意に溶液の形態で、任意にさらなる層で被覆されている多孔質電極体の誘電体に適用し、-10℃?250℃の温度での化学的酸化により重合させることによって、または導電性ポリマーを製造するための前駆体および対イオンを、任意に溶液から、任意にさらなる層で被覆されている多孔質電極体の誘電体上で、-78℃?250℃の温度での電気化学重合により重合させることによって、少なくとも1種の導電性ポリマーを含む固体電解質を製造し、
任意にコンデンサ体へのさらなる層の適用後に、前記少なくとも1種のポリマーアニオン、前記少なくとも1種のポリチオフェン及び前記少なくとも1種の結合剤を含む分散体からポリマー外層を形成することを特徴とする、請求項2?7および9?18のいずれかに記載の電解コンデンサの製造方法。

【請求項20】
任意に置換されていてよいチオフェン、ピロールまたはアニリンを、導電性ポリマーを製造するための前駆体として使用することを特徴とする請求項19に記載の方法。

【請求項21】
3,4-エチレンジオキシチオフェンを、導電性ポリマーを製造するための前駆体として使用することを特徴とする請求項19または20に記載の方法。

【請求項22】
アルカリ金属またはアンモニウムのペルオキソ二硫酸塩、過酸化水素、アルカリ金属過ホウ酸塩、有機酸の鉄(III)塩、無機酸の鉄(III)塩、または有機基を有する無機酸の鉄(III)塩を、酸化剤として使用する特徴とする請求項19?21のいずれかに記載の方法。

【請求項23】
固体電解質を、重合後および任意に乾燥後に適当な溶媒で洗浄することを特徴とする請求項19?22のいずれかに記載の方法。

【請求項24】
金属酸化物層を、電気化学的に後陽極処理(改質)することを特徴とする請求項19?23のいずれかに記載の方法。

【請求項25】
導電性ポリマー層の適用および任意に乾燥および洗浄、並びに酸化物層の改質を、数回行うことを特徴とする請求項19?24のいずれかに記載の方法。

【請求項26】
対イオンが、モノマーアルカンまたはシクロアルカンスルホン酸または芳香族スルホン酸のアニオンおよびそれらの組合せであることを特徴とする請求項19?25のいずれかに記載の方法。

【請求項27】
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含む分散体が、有機溶媒、水またはそれらの混合物を溶媒として含むことを特徴とする請求項19?26のいずれかに記載の方法。

【請求項28】
分散体が、架橋剤、界面活性物質および/またはさらなる添加剤を含むことを特徴とする請求項19?27のいずれかに記載の方法。

【請求項29】
分散体が、エーテル、ラクトン、アミドまたはラクタムの基を有する化合物、スルホン、スルホキシド、糖、糖誘導体、糖アルコール、フラン誘導体および/またはジ-若しくはポリアルコールをさらなる添加剤として含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。

【請求項30】
35,000μC/gより高い電荷-質量比を有する電極物質の粉末を、多孔質電極体の製造のために使用することを特徴とする請求項19?29のいずれかに記載の方法。

【請求項31】
請求項1?18のいずれかに記載の電解コンデンサを含む電子回路。


第3 請求人による請求の趣旨、及び無効理由の概要、及び証拠方法
請求人による本件無効審判事件請求の趣旨は、特許第4841131号発明のうち、請求項1?31に係る特許発明は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、というものである。
請求人は、本件発明1?31を無効とする理由として、無効理由1及び無効理由2を主張しており、その概要は次のとおりである。

無効理由1
本件発明1?31は、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。
証拠方法として、成立に争いのない下記甲第1?9号証を提出している。
なお、請求項1、2、9?12については、(理由1)及び(理由2)の2とおりの無効理由を主張している。

証拠方法
甲第1号証 特開平11-121281号公報
甲第2号証 特開昭64-12514号公報
甲第3号証 特開平4-48710号公報
甲第4号証 特開2003-100561号公報
甲第5号証 特開2001-102255号公報
甲第6号証 特開2002-246270号公報
甲第7号証 特開平10-36687号公報
甲第8号証 WO00/49632号公報
甲第9号証 特開2000-133549号公報

無効理由2
本件発明1?31は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないので、特許法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。


第4 被請求人の主張
平成24年10月5日付け審判事件答弁書による被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求める、というものであり、その理由は、概要、無効理由1及び無効理由2は、いずれもその理由がないというものである。
ここで、無効理由1に対する反論において、成立に争いのない乙第1号証を提出している。

証拠方法
乙第1号証:"Surface roughness effects and their influence on the degradation of organic light emitting devices", CH.JONDA et al., Journal of Materials Science 35 pp.5645-5651, (2000)


第5 無効理由1についての検討
以下、請求人の主張する無効理由について、順に検討して行く。
まず、無効理由1について検討する。

1.本件発明1
本件発明2?31は、前記平成25年6月25日付けの本件訂正請求書の訂正事項4?6により削除された本件発明9?11を除き、本件発明1を引用するか、または本件発明1を引用する発明をさらに引用する関係にあることを考慮して、まず、本件発明1について、無効理由1の検討を行う。
あらためて本件発明1を摘記すると、次のとおりである。

(本件発明1)
「【請求項1】
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする電解コンデンサ。」


2.無効理由1(理由1)についての検討
本願発明1に対する無効理由1は、実質的に(理由1)及び(理由2)の2とおりの理由が主張されているから、それぞれについて検討する。まず、(理由1)について検討する。
(理由1)は、概略、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2?9号証に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。
両当事者の主張及び反論の詳細は以下のとおりである。

(2-1)無効理由1(理由1)についての請求人の主張
(2-1-1)審判請求書における請求人の主張

「(ア)甲第1号証には、「弁作用金属粉末の焼結体からなる陽極である弁作用金属1を陽極酸化し、その焼結体表面の細孔壁面に沿って誘電体酸化皮膜2を形成する。この誘電体酸化被膜2の表面に、第一の導電性高分子化合物層3を化学酸化重合によって形成し、コンデンサ素子を製作する。」(段落【0024】参照)と記載され、
「次に、このコンデンサ素子を導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し、第一の導電性高分子化合物層3上に、第二の導電性高分子化合物層4を形成する。ここで、第二の導電性高分子化合物層4形成のための導電性高分子化合物懸濁水溶液としては、導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液が使用される。この液に浸漬し引き上げて所定温度で乾燥することにより第二の導電性高分子化合物層が形成される。」(段落【0025】参照)と記載され、
「前記懸濁水溶液内の水溶性接着剤としては、ポリアクリロニトリル、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、メタクリル酸メチルおよびそれらの誘導体を用いるのが好適である。」(段落【0027】参照)と記載され、
「第一の導電性高分子化合物層としては、ピロール、アニリン、チオフェン、さらにフラン等の環状有機化合物のモノマー、およびそれらの誘導体の重合体を用いることができる。」(段落【0019】参照)と記載され、
「第二の導電性高分子化合物層形成用の懸濁水溶液中の導電性高分子化合物としては、前記第一の導電性高分子化合物層と同様にピロール、アニリン、チオフェン、フラン、およびそれらの誘導体の重合体を用いる。」(段落【0020】参照)と記載されている。

(イ)してみると、甲第1号証に記載の弁作用金属1が、本件請求項1に係る構成要件A「電極物質の多孔質電極体」及び本件請求項2に係る構成要件F「電極物質の多孔質電極体」に該当し、誘電体酸化皮膜2が、本件請求項1に係る構成要件B「この電極物質の表面を被覆する誘電体」及び本件請求項2に係る構成要件G「この電極物質の表面を被覆する誘電体」に該当し、第一の導電性高分子化合物層3が、本件請求項1に係る構成要件C「全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質」及び構成要件H「全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性ポリマーを含む固体電解質」に該当する。

(ウ)一方、甲第1号証に記載の第二の導電性高分子化合物層4は、本件請求項1に係る構成要件D,E及び本件請求項2に係る構成要件I,Jの「ポリマー外層」に該当する。
しかしながら、上記第二の導電性高分子化合物層4は、ポリビニルアルコールからなる水溶性接着剤を含み、導電性ポリマーとしてチオフェンを含むことが記載されているものの、本件発明に係る「ポリマー外層」のように、ポリチオフェンとして、本件請求項9に係る構成要件Qにて限定している「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」にて構成されておらず、さらに、ポリマーアニオン(本件請求項10に係る構成要件Rにて限定している「ポリマーカルボン酸またはスルホン酸のアニオン」、本件請求項11に係る構成要件Sにて限定している「ポリスチレンスルホン酸のアニオン」)を含んでいない。
しかして、甲第1号証所載の第二の導電性高分子化合物層4と本件発明に係る「ポリマー外層」は、ポリチオフェン及び「結合剤(本件請求項12に係る構成要件Tにて限定している「ポリマー有機結合剤」)」を含む点で一致しているが、ポリチオフェンが「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」でない点及びポリマーアニオン(ポリマーカルボン酸またはスルホン酸のアニオン、ポリスチレンスルホン酸のアニオン)を含んでいない点が相違している。

(エ)しかしながら、甲2号証には、「ドーパント作用付与剤としてポリマーアニオンのスルホン酸もしくはその塩を酸化剤溶液に配合することで、電導性高分子化合物の重合膜の強度ならびに熱安定性を向上させられることを見出したものである。すなわちこの発明は、電導性高分子化合物を固体電解質とする固体電解コンデンサの製造方法において、誘電体層が形成された陽極基体を、ドーパント作用付与剤としてポリマーアニオンをもつスルホン酸もしくはその塩を配合した酸化剤溶液で処理した後、該誘電体層上に気相重合によって電導性高分子化合物を生成せしめることを特徴としている。」(2頁右上欄6行目?17行目)、「(本発明例2)浸漬溶液として、ポリ(4-スチレンスルホン酸)0.3wt%、キノン20wt%、硫酸鉄 0.5wt%、r-プチロラクトン7wt%を含む水溶液を用い、この水溶液中に陽極基体を浸漬後、3-エチルチオフェンをモノマーとして密閉容器中で25℃30分間気相重合をおこなった。この浸漬、重合の工程を4度繰り返した。」(4頁左下欄4行目?10行目)と記載されている。
そして、甲第3号証には、「このようにして得られた陽極箔は、その表面に形成された化学酸化重合による導電性高分子膜を陽極とし、導電性高分子をモノマー及び支持電解質を含む電解液中において外部陰極との間で電解重合を行うことにより、化学酸化重合による導電性高分子膜上に均一な電解重合による導電性高分子膜を形成する。導電性高分子としてはポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンまたはポリフランの無置換あるいは置換体を用い、導電性高分子の安定性の面からポリピロールが好ましい。本発明における支持電解質は陰イオンが・・・・ポリスチレンスルホン酸・・・・が用いられる。高温放置寿命特性の面から、好ましくは、芳香族スルホン酸アニオンである。」(2頁右下欄17行目?3頁右上欄12行目)と記載されている。
さらに、甲第4号証には、「次に、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸の微粒子(平均粒径200nm)の濃度が1.0重量%と、グリシジル変性ポリエステルの濃度が3.0重量%と界面活性剤を添加した導電性高分子分散水溶液に上記コンデンサ素子を浸漬して引き上げた後、150℃で5分間乾燥処理を行い、少なくとも誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸とグリシジル変性ポリエステルを含有する第1の固体電解質層を形成した。」(段落【0020】参照)と記載されている。
またさらに、甲第5号証には、「ポリスチレンスルホン酸およびその誘導体からなる導電性高分子が、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との塩、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートの群より選ばれる少なくとも1つ以上である請求項1に記載のタンタル固体電解コンデンサ。」(【請求項2】参照)と記載されている。
そしてさらに、甲第6号証には、「ポリエチレンジオキシチオフェンの固体電解質を形成する前に、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸1.0%水溶液中にコンデンサ素子を浸漬してから引き上げ、150℃,5分間の乾燥処理を行い、誘電体酸化皮膜上と陰極箔上並びにセパレータ繊維上にポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートの層を形成した以外は[実施の形態1]と同様にして固体電解コンデンサを作製した。」(段落【0030】参照)と記載されている。

(オ)してみると、固体電解質を形成するにあたって、ドーパント作用付与剤としてポリマーアニオンであるスルホン酸又はポリスチレンスルホン酸にポリチオフェンを添加することは、甲第2?6号証に記載のように、周知の技術である。特に、甲第4?6号証には、ポリスチレンスルホン酸にポリエチレンジオキシチオフェンを組み合わせる点が開示されている。

(カ)また、電解コンデンサの導電性ポリマーとして、ポリエチレンジオキシチオフェンを使用することは、例えば、甲第7号証に、「本発明において電子受容性置換基とはスルホニル基、カルボキシル基、ホスホニル基などのブレンステッド酸アニオンとなりうる置換基である。また、導電性高分子とは・・・・ポリエチレンジオキシチオフェン、・・・・等の電子共役系高分子化合物やこれらのモノマーユニットから構成された共重合体化合物であり、電子受容性置換基を有する導電性高分子とは上記の導電性高分子に電子受容性置換基が共有結合した高分子化合物である。」(段落【0007】参照)と記載され、甲第8号証に、「導電性重合体層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である請求の範囲21または22に記載の固体電解コンデンサ」(55頁、23.参照)と記載され、甲第9号証の【表1】の実施例1にエチレンジオキシチオフェンの記載がされている。

(キ)しかして、甲第7号証?甲第9号証に記載の内容に鑑みると、電解コンデンサの導電性ポリマーとして特定のポリチオフェン、すなわち、ポリエチレンジオキシチオフェンを使用することは、周知の技術である。

(ク)したがって、上述の通り、甲第1号証の第二の導電性高分子化合物層4と本件発明に係る「ポリマー外層」との相違点は周知技術でしかないため、甲第1号証の第二の導電性高分子化合物層4を、甲第2?9号証所載の発明に基づいて本件発明に係る「ポリマー外層」のように設計変更することは、当業者が容易に想到し得るものである。

(ケ)以上のことより、本件請求項1,2,9,10,11,12に係る発明は、甲第1号証所載の発明に、甲第2?9号証所載の発明を適用させることにより、当業者が容易に想到し得る発明であるから、当然に進歩性を有さない。」


(2-1-2)口頭審理陳述要領書における請求人の主張
請求人は、平成25年2月14日付け口頭審理陳述要領書において、無効理由1(理由1)についての審理事項通知書の合議体の暫定的見解に対して、次のように反論している。

「(a)本件発明の電解コンデンサにおいては、その機能を発揮するために、「誘電体層が形成された陽極基体」と陰極(グラファイト層等)との間に設けられた、固体電解質の層とポリマー外層はいずれも、ドーパント(対イオン)を含有する必要があります。本件明細書においては、このようなドーパントとして、ポリマーアニオン([0025])とモノマーアニオン([0026]、[0027]のp-トルエンスルホン酸を含む)が挙げられていますが、ポリマーアニオン(ポリスチレンスルホン酸等)やモノマーアニオン(芳香族スルホン酸等)がドーパントとして機能することは本件出願時点で公知であり(例えば、甲第2号証2ページ左下欄8?16行目、甲第3号証2ページ右上欄3?7行目など)、本件明細書によれば、その性能の違いや用途の違いについては厳密な区分はなく(「好ましい」という区分は認められますが)、本件発明においては両者ともドーパントとして使用できるものとして扱われています([0024])。
審判官殿は、「甲第2号証等においては、---甲第1号証の「第二の導電性高分子化合物層(本件発明の「ポリマー外層」に相当する)」に相当する層にポリマーアニオン(甲第2号証のポリ(4-スチレンスルホン酸)等)を含ませることを教示する記載はない(審理事項通知書4ページ32行目?5ページ2行目等)。」と認定されています。しかし、例えば、甲第4号証の電解コンデンサは、誘電体酸化被膜層上に、第1の固体電解質層(本件発明の「固体電解質」に相当する)、更にその上に第2の固体電解質層(本件発明の「ポリマー外層」に相当する)を有し(請求項1等)、この第2の固体電解質層はp-トルエンスルホン酸を含有しています([0021]3行目)。更に、甲第5号証の電解コンデンサは、誘電体酸化被膜層上に、順に、ポリスチレンスルホン酸及びその誘導体を含有する層(本件発明の「固体電解質」に相当する)、及び化学重合性導電性高分子層(本件発明の「ポリマー外層」に相当する)を有し(請求項1等)、この化学重合性導電性高分子層はp-トルエンスルホン酸を含有しています([0028]2?3行目)。これらで用いられているp-トルエンスルホン酸は、本件明細書によればモノマーアニオンに区分されます([0026]9行目、[0027])。
このように、甲第4号証や甲第5号証は、本件発明のポリマー外層に相当する層が、モノマーアニオンを含有する構成を示しており、かつ、本件明細書によれば、ポリマーアニオンとモノマーアニオンはドーパントとして、特に効果に差異なく、同等に使用できるものとして扱われているのですから、当業者は、甲第4号証や甲第5号証を参照すれば、甲第1号証の「第二の導電性高分子化合物層」に相当する層にポリマーアニオンを含ませる構成(即ち、本件発明の構成)に容易に想到できるものと考えられます。

(b)本件発明(請求項1及び2)の固体電解質は、「全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質又は導電性ポリマーを含む固体電解質」です。即ち、この固体電解質は、誘電体表面が導電性物質又は導電性ポリマーで部分的に被覆されたものも含みます。この場合、電解コンデンサは、誘電体表面が導電性物質又は導電性ポリマーで被覆されていない固体電解質を含むのであり、即ち、誘電体表面が直接ポリマー外層で覆われた形態を部分的に含んでいると考えられます。
このような形態においては、本件発明の「ポリマー外層」は、「誘電体層が形成された陽極基体」上に生成するものですから、甲第1号証の「第一の導電性高分子化合物層」及び甲第2号証の「固体電解質層」の双方に相当し、甲第2号証が、「誘電体層が形成された陽極基体」上に生成する「固体電解質層」がポリマーアニオン(甲第2号証のポリ(4-スチレンスルホン酸)等)を含ませることを教示しているのですから、甲第1号証及び甲第2号証は、本件発明の「ポリマー外層」に、ポリマーアニオンを含ませることを教示しているといえます。
審判官殿は、「第一の導電性高分子化合物層(本件発明の「固体電解質層」に相当する層)」に相当する層(甲第2号証の固体電解質層等)にはポリマーアニオン(甲第2号証のポリ(4-スチレンスルホン酸)等)を含有するという記載はある」と認定されていますが、このことは、上記形態において、本件発明のポリマー外層に、ポリマーアニオンを含ませることを教示しているといえます。」

請求人は、また本口頭審理陳述要領書において、後に摘記する被請求人の答弁書における反論に対して、「(4)被請求人の答弁書について」において、次のように反論している。

「(a)答弁書の「(3-1)無効理由1(理由1)に対して」については、上記(1)で述べた反論と同じ反論をしたいと思います。
特に、「甲第2号証に述べられているポリマーアニオンを甲第1号証のポリマー外層に含ませるような着想は決して生じないであろう」という主張(答弁書6ページ24?25行目)に対しては、上記(1)で述べた反論と同じ反論をしたいと思います。
なお、実施例3がポリマー外層がポリマーアニオンを含有することにより固体電解層などとも十分な接着が達成できることを見出したことを示しているとの主張(答弁書6ページ26?30行目)は、実施例3はポリマーアニオンの添加効果を示すものではないので、全く根拠がありません。

(b)また、答弁書では、ポリマー外層にポリマーアニオンを添加するとESRを更に低減することが、あたかも本件発明の顕著な効果であるような主張を行い、各甲号証を排除しています(答弁書4ページ29?32行目、6ページ1?3行目、8ページ10?13行目、8ページ27?29行目、9ページ11?13行目)。
しかし、本件明細書には、米国特許第6,001,281号(特表2002-524593に相当する)の実施例4のコンデンサは、本件発明のポリマー外層に相当する層がポリスチレンスルホン酸(PSS、Baytron P)を含み、その構成が本件明細書中の比較例1のコンデンサの構成に相当するものですが、高いESRを有すると記載されています([0010]1?4行目)。米国特許第6,001,281号の実施例4や本件の比較例1のコンデンサは、実施例1のポリマー外層から結合剤を除いただけの構成ですので、米国特許第6,001,281号の実施例4や本件の比較例1のコンデンサは、ポリマー外層がポリマーアニオンを含有し、かつESRが高いということになります。従って、被請求人がポリマー外層にポリマーアニオンを添加するとESRを更に低減することが本件発明の顕著な効果であると主張したことは、本件明細書の記載と矛盾し、誤りであると考えられます。
即ち、これらの被請求人の各甲号証を排除するとした主張は根拠のないものであり、請求人の主張が認められるべきであると考えます。」


(2-1-3)審判事件弁駁書における請求人の主張
請求人は、審決の予告後の訂正請求書に対する審判事件弁駁書(平成25年8月8日付け)において、審決の予告において理由がないとされた無効理由1に関する主張はしていない。


(2-2)無効理由1(理由1)についての被請求人の反論
被請求人は、平成24年10月5日付け審判事件答弁書の「(3-1)無効理由1(理由1)に対して」において、以下のように反論している。
なお、被請求人は、平成25年2月22日付け口頭審理陳述要領書においては、答弁書記載のとおりで理由の補足はない旨、及び無効理由1について理由はないとした審理事項通知書における合議体の暫定的見解に賛同する旨のみ記載し、実質的に新たな反論は行っていない。

「請求人によると、請求項1,2に係る発明と甲第1号証に記載の固体電解コンデンサとは、本件特許請求項1および2に規定されているポリマー外層が、少なくとも1種のポリチオフェンを含有しているだけでなく、さらにポリマーアニオンを含有している点で相違しているとのことである(審判請求書第45頁下から第10?4行)。
続けて、請求人は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証および甲第6号証の開示に照らして、固体電解コンデンサに導電性ポリマーとしてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等のポリチオフェンを使用するとき、これらの導電性ポリマーを、カウンターイオンとしてのポリスチレンスルホン酸等のポリアニオンと組み合わせることは当業者に周知の技術であると述べている(同第47頁下から第11?6行)。
そして、請求人は、「甲第1号証の第二の導電性高分子化合物層4と本件発明に係る『ポリマー外層』との相違点は周知技術でしかないため、甲第1号証の第二の導電性高分子化合物層4を、甲第2号証?甲第9号証所載の発明に基づいて本件発明に係る『ポリマー外層』のように設計変更することは、当業者が容易に想到し得るものである」(同第48頁第12?16行)と結論づけている。
請求人の主張からすると甲第1号証が最も近い先行技術であると思料するが、それは固体電解コンデンサの製造方法に関するものであり、第一の導電性高分子化合物層3を、化学的インサイチュ重合により誘電体酸化皮膜上に形成し、第二導電性高分子化合物層4を、導電性高分子を含有する懸濁水溶液を第一の層3上に適用することにより形成するものである(甲第1号証第0014段等)。
甲第1号証に開示の発明の下に横たわる課題は、特開平7-94368号に開示されている固体電解コンンデンサの不都合な点を克服しようとすることにある。これらの固体電解コンデンサは、内部導電層(すなわち、第一の導電性高分子化合物層)をピロールのインサイチュ重合により調製し、さらにその上に外部導電層をピロールのインサイチュ重合により形成することにより得られるもので、外部導電層は、グラファイト粉末あるいはポリピロール粉末等の導電性粉末を含有し、固体電解質層の表面の凹凸の程度を増加させ、それにより外部グラファイト層または銀塗料層と固体電解質層との間の接着力を増加させるものである。甲第1号証第0010段および第0011段によると、特開平7-94368号に開示されている固体電解コンンデンサは、内部導電層とグラファイト層との間の不十分な接着力または外部導電性ポリマー層やグラファイト層の不十分な機械的強度に起因する熱衝撃後のESRの増大、およびエッジ部分において外部導電性ポリマー層での厚みが不十分であることに起因して漏れ電流が増大することが特徴である。
特開平7-94368号に開示されている固体電解コンンデンサに関連する問題は、甲第1号証の教示により、外部導電性ポリマー層を形成するのに導電性ポリマーと水溶性接着剤を含有する懸濁水溶液を使用することにより克服することができ、水溶性接着剤の量が高すぎると高分子化合物層4の抵抗が増大するので、水溶性接着剤は3重量%以下の量で懸濁水溶液に含有されている(甲第1号証第0027段)。
第二の高分子化合物層4に含有されうる導電性ポリマーに関しては、甲第1号証第0020段に、ポリアニリン、ポリピロールおよびポリチオフェンが開示されており、同第0025段および請求項2に、第二の高分子化合物層の形成に使用される導電性高分子は懸濁水溶液に懸濁された粉末の形態で適用されることが明確に記載されている。甲第1号証における全ての実施例において、第二の高分子化合物層の形成に使用される導電性高分子は、水に懸濁された粉末ポリピロールである(甲第1号証、例えば第0033段)。外側導電性ポリマー層を調製するのに使用される導電性高分子成分について、甲第1号証は、特開平7-94368号の基本的教示に従っている。すなわち、固体電解質層と外側グラファイト層あるいは銀塗料層との間の接着力改良する目的で、粉末の形態で導電性材料を使用し、高分子固体電解質層表面の凹凸を増加させている。甲第1号証第0021段に強調されているように、第二の導電性ポリマー層の表面は、グラファイト層の接着力を強めるために、ある一定の凹凸により特徴付けられている。
甲第1号証は、第二の高分子層(即ち、ポリマー外層)を調製するのに使用される懸濁水溶液が、溶媒(水)、導電性ポリマー粉末(ポリピロール、ポリチオフェンまたはポリアニリン)および水溶性接着剤以外の成分を含むことについてはどこにも記載も示唆もしていない。甲第1号証には、この懸濁水溶液がポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンを含有してもよいことを当業者に示唆教示するような記載はどこにもない。
本件特許明細書第0008段に説明されているように、ポリマー外層にポリマー粉末を含有する配合物を使用した場合、個々の粉末粒子間の高い接触抵抗により電気抵抗がより高くなる。コンデンサの電気抵抗はポリマー外層を通りコンデンサまで種々の接触があるので、低ESRを達成するために低い電気抵抗(即ち、高い電気導電性)がポリマー外層に要求される。それ故、低ESR値は、ポリマー外層がポリマー粉末および結合剤のみからなる配合物では、得ることはできない。ポリマー外層にポリマーアニオンがさらに存在すると、フィルム形成性が向上し、ポリマーフィルムを個々のポリマー粒子から形成することができ、ポリマー粒子間の接触が減少し、結果としてESRが減少するのである。
また、甲第1号証に開示されているようなポリマー外層を調製する概念(即ち、粉末ポリピロー等の粉末導電性ポリマーおよびポリビニルアルコール等の水溶性接着剤のみからなる凹凸のあるポリマー外層の調製)は、固体電解質層の凹凸のある外表面の厚み故に、薄いコンデンサを得ることができない点で不都合なのである。また甲第1号証に開示の概念では、引き続き行なわれるグラファイト層または銀層の上記凹凸表面への適用を、ポリマー外層を分解する傾向を有す水溶液の形態で行なう必要も生じてくる。しかしながら、本発明に従い、ポリチオフェン、ポリマーアニオンおよび結合剤を含有するポリマー外層を適用すれば、非常に薄いポリマー外層の形成(それ故、薄いコンデンサの調製)が可能となるだけでなく、引続いて行なわれるグラファイト層または銀層を必ずしも水溶液または分散水溶液の形態で適用しなくてもよいという有利さもある。
本件特許発明のポリマー外層の概念は、甲第1号証に開示されている概念より有利であることは明らかである。

以下に説明するように、請求人が引用する他のどの甲号証の引用文献も、甲第1号証に記載のポリマー外層(即ち、粉末ポリピロー等の粉末導電性ポリマーおよびポリビニルアルコール等の水溶性接着剤のみからなるポリマー外層)に代えて、ポリチオフェン、ポリマーアニオン及び結合剤を含有するポリマー外層を使用するような動機を、当業者に生ぜしめるものではない。

甲第2号証は、固体電解コンデンサの製造方法に関し、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンを添加することにより、固体電解質層の強度および熱安定性を改良するものである。該引用文献の教示によると、固体電解質層は、ポリマーアニオンの存在下、例えばチオフェンモノマーのインサイチュ重合により調製される(甲第2号証、例えば請求項1)。
当業者であれば、甲第1号証の教示(それは固体電解質層上に適用される外層を調製するのに使用される電気導電性ポリマー粉末に焦点が合わされている)を甲第2号証の教示(インサイチュ重合の手段で固体電解質層を調製するときにポリマーアニオンを使用することに向けられている)と組み合わせて、甲第1号証に開示の電気導電性ポリマーの粉末を含有する分散水溶液中に、甲第2号証に開示のポリマーアニオンを添加したであろうという理由は全く根拠がなく筋も通らない。そのようなことを可能にするのは後知恵でしかない。甲第2号証の教示を甲第1号証の教示と組み合わせたとき、当業者であれば行なったであろうことは、せいぜい、甲第1号証に開示の固体電解質層中に甲第2号証に開示のポリマーアニオンを添加すること(即ち、ポリマーアニオンの存在下に、例えばチオフェンモノマーをインサイチュ重合することにより、固体電解質層を調製すること)くらいである。甲第1号証に開示のポリマー外層中に、甲第2号証に開示のポリマーアニオンを添加するような動機を決して当業者に生ぜしめなるものでない。また、甲第2号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すれば、甲第1号証に開示のコンデンサのESRをさらに低くできるということについても記載も示唆もない。

本件特許出願の優先日には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸(PSS)を含有する層のような、ポリチオフェンやポリアニオンを含有する電気導電性層は、粗い表面をなめらかにする機能で特徴付けられているということが当業者に知られていた。その証左として、ジョンダ(JONDA)らの文献("Surface roughness effects and their influence on the degradation of organic light emitting devices",CH.JONDA et al.,Journal of Materials Science 35 pp.5645-5651,(2000))を乙第1号証として提出する。ジョンダらは、PEDOT/PSS(BaytronP(バイトロンP)分散液の形態)のコーティングをITO基材上に施せば、ITO基材の粗さ約10nm(ピーク・トゥ・バレー)を、約3nmに減少させることができるということを開示している(乙第1号証第5646頁第3.2.欄参照)。ここには、PEDOT/PSS分散液は、極めてなだらかな表面を形成するということが明確に示されている。それ故、当業者にとっては、本件特許出願の優先日当時、PSS等のポリマーアニオンがコーティングの一成分として使用されると、平滑化の効果を及ぼすことが極めて明らかであり、ポリチオフェンおよびポリマーアニオンを含有する分散液は非常に滑らかな表面を形成することになるということが公知であったのである。
それ故、甲第1号証は、固体電解質層の表面粗さを高める目的で、そして固体電解質層と外側グラファイト層あるいは銀塗料層との接着性を改良するためにポリマー外層に電気導電性ポリマーの粉末を使用することを強調していることは明らかであることから、当業者であれば、ポリマーアニオンを添加するとポリマー外層の表面が滑らかになることが解っているので、甲第2号証に述べられているポリマーアニオンを甲第1号証のポリマー外層に含ませるような着想は決して生じないであろう。
驚いたことに、本件特許の発明者らは、ポリチオフェンおよびポリマーアニオンを含有する外層(すなわち、甲第1号証に開示されている外層の表面粗さが特徴ではない)を使用したとき、それでも固体電解質層と外側銀層との十分な接着が達成できるということを見出したのである。そのことは本件特許明細書の実施例3(コンデンサの耐性は機械的応力下で決定されている)に明確に示されている。

甲第3号証は、高温寿命特性がより長い固体電解コンデンサを製造する方法に関する。該コンデンサは、化学酸化インサイチュ重合により、第一の導電性高分子膜を誘電層上に適用し、続いて、導電性高分子モノマーおよび支持電解質を含有する電解液を使用して電解重合により第二の導電性膜を該第一の膜上に適用することにより調製されている(甲第3号証、請求項1等)。甲第3号証の教示によると、支持電解質は、ポリスチレンスルホン酸を含有してもよい(同第3頁右上欄、第5?6行)
当業者であれば、甲第1号証の教示(粉末導電性ポリマーを含有する分散水溶液の手段でポリマー外層を適用する)を甲第3号証の教示(ポリマー外層を電解重合で調製する)と組み合わせて、甲第1号証に開示の電気導電性ポリマーの粉末を含有する分散水溶液中に、甲第3号証の電解重合プロセスにおいて電解質として機能しているポリマーアニオンを添加したであろうという理由には全く根拠がなく筋も通らない。そのようなことを可能にするのは後知恵でしかない。甲第3号証は、導電性ポリマーの安定性の点で、ポリピロール使用することが好ましいことを明確に強調している。従って、仮に当業者が甲第3号証における教示を甲第1号証における教示と組み合わせたとしても、せいぜい導電性ポリマーとしてポリピロール(甲第1号証の全実施例で使用されている)を含有する外層にポリマーアニオンを含ませるぐらいであり、電気導電性ポリマーとしてポリチオフェンを含有する外層ではない。
また、本件特許出願当時、PSS等のポリマーアニオンが、粗表面を滑らかにするのに役に立つということが、当業者に公知のことであった(乙第1号証を参照)。甲第1号証は、固体電解質層の表面粗さを高める目的でポリマー外層に電気導電性ポリマーの粉末を使用することを強調していることは明らかであることから、当業者であれば、ポリマーアニオンを添加するとポリマー外層の表面が滑らかになることが解っているので、甲第3号証において電解重合の支持電解質として使用されているポリマーアニオンを甲第1号証のポリマー外層に含ませるような着想は決して生じない。

甲第4号証は、高容量で高周波特性に優れた固体電解質コンデンサを製造する方法に関する。該コンデンサは、導電性ポリマーの微粒子を含有する分散液を使用し、第一の導電性ポリマー皮膜を、誘電体層上に適用し、続いて、インサイチュ重合法により、該第一の皮膜上に第二の導電性皮膜を適用することにより製造され、該第二の導電性皮膜が固体電解質層として機能している。甲第4号証のいくつかの実施例(例えば、実施の形態1)においては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の微粒子を含有する分散液を使用して第一の導電性ポリマー層を調製している。甲第4号証の第0048段に記載されているように、第一の導電性ポリマー層は、インサイチュ重合により調製される固体電解質層との間の接着性を改良するものであり、第一の導電性ポリマー層は「接着層」として機能している。
当業者であれば、甲第1号証における教示(漏れ電流を減少させるために粉末導電性ポリマーを含有する分散水溶液で形成されたポリマー外層を扱っている)を甲第4号証における教示(インサイチュ重合により調製される固体電解質層と誘電体層との間の接着性を改良するためにポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸を含有する分散水溶液で形成されたポリマー中間層を扱っている)と組み合わせて、甲第1号証に開示のポリマー外層中に、甲第4号証の「接着層」中に使用されているポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンを添加したであろうという理由には全く根拠がなく筋も通らない。そのようなことを可能にするのは後知恵でしかない。甲第4号証の教示を甲第1号証の教示と組み合わせたとしても、当業者であれば行なったであろうことは、せいぜい、甲第1号証に開示のコンデンサにおいて、誘電体層と固体電解質との間に、さらに「接着層」を設けることくらいである。甲第4号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すると、甲第1号証に開示されているコンデンサのESRをさらに低減できることについても、どこにも記載も示唆もしていない。

甲第5号証に開示事項は、甲第4号証に開示事項と似ている。甲第5号証もまた、固体電解コンデンサの製造方法に関するもので、「接着層」として機能している第一の導電性ポリマー皮膜を、(PEDOT/PSS粒子のような)電気導電性ポリマーの微粒子を含有する分散液を使用して、誘電体層上に適用し、続いて固体電解質層としてインサイチュ重合により、該第一の皮膜上に第二の導電性皮膜を適用しているものである(甲第5号証、第0014段、第0027段等)。
当業者であれば、甲第1号証における教示を甲第5号証における教示と組み合わせて、甲第1号証に開示の電気導電性ポリマーの粉末を含有する分散水溶液中に、甲第5号証の「接着層」中に使用されているポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンを添加したであろうという理由には全く根拠がなく筋も通らない。そのようなことを可能にするのは後知恵でしかない。たとえ甲第5号証の教示を甲第1号証の教示と組み合わせたとしても、当業者であれば行なったであろうことは、せいぜい、甲第1号証に開示のコンデンサにおいて、誘電体層と固体電解質との間に、さらに「接着層」を設けることくらいである。甲第5号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すると、甲第1号証に開示されているコンデンサのESRをさらに低減できることについても、どこにも記載も示唆もしていない。

甲第6号証は、固体電解質コンデンサ用セパレータに関するもので、ポリエステル樹脂またはその誘導体を含有する不織布からなり、該不織布の繊維径は、0.01から3dtexの範囲にあるものである。甲第6号証、実施の形態2においては、甲第4号証および甲第5号証における教示に倣って、固体電解コンデンサが製造されている。エチレンジオキシチオフェンのインサイチュ重合で調製される固体電解質層の配合に倣って、誘電体層上に、PEDOT/PSSに基づく「接着層」形成している。甲第4号証および甲第5号証で述べた理由と同様に、当業者であれば、甲第1号証における教示を甲第6号証における教示と組み合わせて、甲第1号証に開示の電気導電性ポリマーの粉末を含有する分散水溶液中に、甲第6号証の「接着層」中に使用されているポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンを添加したであろうという理由には全く根拠がなく筋も通らない。そのようなことを可能にするのは後知恵でしかない。たとえ甲第6号証の教示を甲第1号証の教示と組み合わせたとしても、当業者であれば行なったであろうことは、せいぜい、甲第1号証に開示のコンデンサにおいて、誘電体層と固体電解質との間に、さらに「接着層」を設けることくらいである。甲第6号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すると、甲第1号証に開示されているコンデンサのESRをさらに低減できることについても、記載も示唆もしていない。

本件特許出願当時、PSS等のポリマーアニオンが、粗表面を滑らかにするのに役に立つということが、当業者に公知のことであった(乙第1号証を参照)。甲第1号証は、固体電解質層の表面粗さを高める目的でポリマー外層に電気導電性ポリマーの粉末を使用することを強調していることは明らかであることから、当業者であれば、ポリマーアニオンを添加するとポリマー外層の表面が滑らかになることが解っているので、甲第4、5、6号証において「接着層」の調製に使用されているポリマーアニオンを甲第1号証のポリマー外層に含ませるような着想は決して生じない

甲第7,8,9号証は、すべて固体電解コンデンサに関するものであるが、ポリチオフェンに対するカウンターイオンとしてポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンを使用することについては、開示も教示もない。

以上から、請求項1,2に係る発明は、甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になすことができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当するものではない。

請求項1、2に係る発明と同様の技術的特徴を有する、請求項2?18に係る電解コンデンサ、請求項19?30に係る電解コンデンサの製造方法、請求項31に係る電解質コンデンサを含む電子回路は、上記請求項1、2で述べた同様の理由により甲第1号証?甲第9号証に係る発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

従って、本件請求項1?31に係るそれぞれの発明は甲第1号証?甲第9号証に記載に記載の発明に基づいて当業者が容易になすことができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当するものではない。

先行文献の開示する技術は全体として考慮されるべきであるところ、請求人の主張する無効理由1(理由1)は、後知恵的というほかなく、先行文献が全体的に教示する技術とは全く異なる技術情報を得るために、すなわち、無効理由を構成するために、個々の要素を任意に分離して取り出して、寄せ集めているに過ぎず、そのような無効理由は決して正当化されるべきものではない。」



(2-3)無効理由1(理由1)についての当審の判断

(あ)無効理由1(理由1)についての甲第1号証記載発明
甲第1号証には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は固体電解コンデンサの製造方法に関し、特に導電性高分子化合物を固体電解質とする固体電解コンデンサの製造方法に関する。

(b)従来の技術に関して
【0005】しかし、近年、高分子化学の分野に於いて新規な固体電解質材料の開発が活発に行なわれた結果、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフランなど、π電子を有する共役系高分子化合物に電子供与性や電子吸引性を有する化合物(ドーパント)を添加して導電性を付与した導電性高分子化合物が開発され、これらを固体電解質として用いる固体電解コンデンサが数多く提唱されている。例えば、酸化剤を用いた化学酸化重合法によってピロールモノマーを誘電体酸化皮膜上で重合させ、ドーパントを添加したポリピロールを導電性高分子化合物層とした後、グラファイト層、銀塗料層を順次形成する製造方法が開発されている。
【0006】ところが、この方法によると固体電解質としての導電性高分子化合物層は薄く、陽極としての焼結体との嵌合を十分に確保することが出来ない。さらに、得られた導電性高分子化合物層の外表面が平滑であるために導電性高分子化合物層とグラファイト層との嵌合が弱い。そのため、高周波領域でのESR或いはtanδが大きいという問題があった。
【0007】これらの問題を解決する技術として、特開平7-94368号公報には図5に示すごとく、誘電体酸化皮膜2上に化学酸化重合により内部導電性高分子化合物層5を形成した後に、グラファイト等の導電性粉末7を混在させ表面に凹凸を設けた外部導電性高分子化合物層6を形成し、さらにグラファイト層8、銀塗料層9を順次形成してなる固体電解コンデンサおよびその製造方法が開示されている。

(c)発明が解決しようとする課題に関して
【0010】即ち、第一の問題点は、実装時の熱衝撃によるESRおよびtanδの増大である。その原因は、外部導電性高分子化合物層やグラファイト層の機械的強度が必ずしも十分でなく、またその内部導電性高分子化合物層とグラファイト層との嵌合、接着力も十分でないために、熱衝撃によりそれらの層間が剥離しやすいためである。
【0011】第二の問題点は、実装時の熱応力による漏れ電流の増大である。その原因は上述の方法によると弁作用金属の焼結体からなる陽極体の外表面に均一な厚みの外部導電性高分子化合物層を形成するのが困難であり、部分的に厚みの不足した部位に於いて誘電体酸化皮膜の機械的な損傷を誘発しやすいためである。特に陽極体のエッジ部分において、外部導電性高分子化合物層の厚みが不足しやすく、漏れ電流が増大しやすい。
【0012】第三の問題点は、固体電解コンデンサの実用温湿度条件下、特に高温雰囲気下での使用に伴なうESR、tanδの急激な増大である。その原因は、前述のごとく、内部導電性高分子化合物層、導電性高分子化合物層およびグラファイト層間の嵌合が弱いため、3者の間に剥がれや隙間を生じやすく、これらが酸素および水分の侵入経路となり、高温高湿雰囲気下での導電性高分子化合物層全体の酸化劣化が著しく加速され、抵抗値が急激に増大するためと考えられる。

(d)
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属粉末の焼結体からなり陽極表面に酸化皮膜を形成する工程と、その酸化皮膜上に密接して化学酸化重合により第一の導電性高分子化合物層を形成する工程、導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し、前記第一の導電性高分子化合物層上に第二の導電性高分子化合物層を形成する工程と、グラファイト粉末含有懸濁水溶液に浸漬し、前記第二の導電性高分子化合物層上にグラファイト層を形成後、銀塗料層を形成し、陰極層を形成する工程を含むことで構成される。
【0015】ここで、前記導電性高分子化合物懸濁水溶液と前記グラファイト粉末含有懸濁水溶液には水溶性接着剤を含有させることで、前記第二の導電性高分子化合物層と前記第一の導電性高分子化合物層、および第二の導電性高分子化合物層と前記グラファイト層との嵌合と接着力を向上することができる。
【0016】前記懸濁水溶液中の水溶性接着剤としては、ポリアクリロニトリル、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、メタクリル酸メチルおよびそれらの誘導体を用いることができる。
【0017】前記水溶性接着剤は、所望の粉末を純水中に分散した懸濁水溶液を容易に調製でき、乾燥して水分を除去することにより、低温短時間で厚みの均一な塗膜が得られる。また、純水の添加量を調整し、固形分の濃度を変えることにより厚付けが可能となり、所望の厚みの塗膜を最小の処理回数で得られるという利点もある。
【0018】この水溶性接着剤を用いる方法により、前記第二の導電性高分子化合物層、前記グラファイト層の強度、およびこれら層間の嵌合を強化出来る。なお、前記第二の導電性高分子化合層と前記グラファイト層の形成に用いる水溶性接着剤は同一の化合物でなくても構わない。
【0019】本発明における前記第一の導電性高分子化合物層としては、ピロール、アニリン、チオフェン、さらにフラン等の環状有機化合物のモノマー、およびそれらの誘導体の重合体を用いることができる。これらの重合体は化学酸化重合によって形成するのが好適である。その理由は、弁作用金属の焼結体の空孔内部は微細に拡面化されており、電解酸化重合では、通電時に空孔内部と外表面に電位差を生じやすく、誘電体酸化皮膜全体にわたり、均一に導電性高分子化合物層を密接させることが困難なためである。
【0020】本発明における第二の導電性高分子化合物層形成用の懸濁水溶液中の導電性高分子化合物としては、前記第一の導電性高分子化合物層と同様にピロール、アニリン、チオフェン、フラン、およびそれらの誘導体の重合体を用いる。なお、第一の導電性高分子化合層と第二の導電性高分子化合物層とは同一の化合物でなくても構わない。
【0021】本発明は上記のように導電性高分子化合物層を二層構造とし、誘電体酸化皮膜に密接する第一の導電性高分子化合物層を化学酸化重合によって形成し、次に、予め重合された後にドーパントをドープして導電性を発現せしめた導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液に浸漬し、引き上げて所定温度で乾燥することにより、グラファイト層との嵌合強化用の凹凸を表面に有する第二の導電性高分子化合物層を形成した。さらにグラファイト粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液に浸漬し、引き上げて所定温度で乾燥し、グラファイト層を形成することにより、固体電解コンデンサの実装時の熱衝撃や実用温湿度条件下、特に高温雰囲気下でのESR、tanδ、および漏れ電流の増大を抑制できる。

(e)発明の実施の形態に関して
【0024】まず、弁作用金属粉末の焼結体からなる陽極である弁作用金属1を陽極酸化し、その焼結体表面の細孔壁面に沿って誘電体酸化皮膜2を形成する。この誘電体酸化被膜2の表面に、第一の導電性高分子化合物層3を化学酸化重合によって形成し、コンデンサ素子を製作する。
【0025】次に、このコンデンサ素子を導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し、第一の導電性高分子化合物層3上に、第二の導電性高分子化合物層4を形成する。ここで、第二の導電性高分子化合物層4形成のための導電性高分子化合物懸濁水溶液としては、導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液が使用される。この液に浸漬し引き上げて所定温度で乾燥することにより第二の導電性高分子化合物層が形成される。第二の導電性高分子化合物層4の外表面には導電性高分子化合物粉末からなる凹凸を多数有しているため、この上に形成するグラファイト層との嵌合を向上することができる。
【0026】更に、グラファイト粉末含有懸濁水溶液に前記コンデンサ素子を浸漬し、第二の導電性高分子化合物層4の外表面を覆い隠すように、グラファイト層8を形成する。

(f)実施例としては以下のような記載がある。
【0031】実施例1
タンタル微粉末焼結体ペレットを0.2Mの硝酸水溶液中において、60Vで陽極酸化して、誘電体酸化皮膜2を形成した。このペレットを、0.1Mドデシルベンゼンスルフオン酸第二鉄のメタノ-ル溶液に1分間浸漬し、0.1Mピロールモノマーのメタノール溶液に1分間浸漬した後、室温で15分間保持して化学酸化重合とドーピングとを同時に行なった。これら酸化剤の含浸、重合・ドービングの一連の操作を15回繰り返すことにより、第一の導電性高分子化合物層3としてのポリピロールを誘電体酸化皮膜上に密接するように形成した。
【0032】次に、重合溶液としてピロール:0.1M,2-ナフタレンスルフオン酸:0.2M,硝酸第二鉄:0.2Mとなるように混合したメタノール溶液を調製し、-40℃以下に保持し、十分に攪拌した。その後、この溶液を室温下で5時間放置して、化学酸化重合させた。さらに、メタノールを用いて過剰のピロール、2-ナフタレンスルフォン酸および硝酸第二鉄を除去した後、室温で24時間乾燥することにより粉末状のボリピロールを得た。
【0033】次に、この粉末状のポリピロールを25wt.%、水溶性接着剤としてのポリビニルアルコールを1.5wt.%、純水(残部)を73.5wt%の組成に混合した懸濁水溶液を調製し、このものに、前記第一の導電性高分子化合物層形成後のペレットを3秒間浸漬し引き上げて、120℃で15分間乾燥させることにより、第二の導電性高分子化合物層としてのポリピロールの厚膜を形成した。
【0034】更に、グラファイト粉末(平均粒径約0.3μm)10wt%、ポリビニルアルコール1.5wt%、純水(残部)88.5wt%の組成に混合した懸濁水溶液を調製し、このものに、前記第二の導電性高分子化合物層形成後のペレットを3秒間浸漬し引き上げて、120℃で15分間乾燥させることにより、グラファイト層を形成せしめた。
【0035】更にこのグラファイト層上に銀塗料層を形成し、電極端子を引き出した後、外装樹脂で封止し固体電解コンデンサを完成させた。

【0039】実施例3
実施例1、2と同様の方法で誘電体酸化皮膜の形成まで行なった。次に、0.1Mチオフェン/0.1Mクエン酸/0.1Mp-トルエンスルフォン酸/0.2M硝酸第二鉄となるようなエタノール溶液を調製し、-50℃に保持した。このものに、誘電体酸化皮膜形成後のペレットを1分間浸漬した後引き上げ、室温で1時間保持して化学酸化重合を行なった。さらに、エタノールを用いて余分なチオフェン、クエン酸、P-トルエンスルフォン酸、硝酸第二鉄を除去した。以上の重合溶液浸漬、室温乾燥、エタノール洗浄の一連の操作を8回繰り替えすことにより、前記誘電体酸化皮膜の上に密接して第一の導電性高分子化合物層としてのドーピング状態のポリチオフェン膜を形成した。次に、実施例1と同様の方法により調製したポリピロール粉末を含む懸濁水溶液に第一の導電性高分子化合物層を形成後のペレットを浸漬し、引き上げて、120℃で、5分間乾燥させることにより、第二の導電性高分子化合物層としてのポリピロールの厚膜を形成せしめた。

以上の記載及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(甲1発明)
「弁作用金属粉末の焼結体からなる陽極、
前記陽極表面に形成された酸化皮膜、
前記酸化皮膜上に密接して化学酸化重合により形成された第一の導電性高分子化合物層、
ピロール、アニリン、チオフェン、フラン、およびそれらの誘導体の重合体が用いられる導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し、前記第一の導電性高分子化合物層上に形成された第二の導電性高分子化合物層、
グラファイト粉末含有懸濁水溶液に浸漬し、前記第二の導電性高分子化合物層上に形成されたグラファイト層及び前記グラファイト層上に形成された銀塗料層から形成される陰極層、
を含む固体電解コンデンサ。」


(い)無効理由1(理由1)についての対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
するとまず、本件発明1と甲1発明は、いずれも「電解コンデンサ」に関する発明である点で一致する。
また、甲1発明の「弁作用金属粉末の焼結体からなる陽極」において、「焼結体」は「陽極」を構成するから「電極体」を構成する「電極物質」であり、甲第1号証の0024段落に「焼結体表面の細孔壁面に沿って誘電体酸化皮膜2を形成する」との記載があるように、その表面が「細孔壁面」であるから「多孔質」であって、本件発明1の「・電極物質の多孔質電極体」に相当する。
また、甲1発明の「前記陽極表面に形成された酸化皮膜」において、前記段落に「誘電体酸化皮膜2」とあるように「酸化皮膜」は「誘電体」であって、本件発明1の「・この電極物質の表面を被覆する誘電体」に相当する。
また、甲1発明の「前記酸化皮膜上に密接して化学酸化重合により形成された第一の導電性高分子化合物層」は、甲1発明における「導電性高分子化合物層」は、甲第1号証の0005段落の記載から明らかなように、固体電解コンデンサにおける「固体電解質」として用いられているのであるから、「形成」が「全体又は部分的」にいずれかであることは自明であることも考慮すると、本件発明1の「・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質」に相当する。
また、甲1発明の「第二の導電性高分子化合物層」は、「前記第一の導電性高分子化合物層上に形成された」層であるから、本件発明1の「前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって」との特定を満足する「高分子化合物」(ポリマー)からなる「外層」ということができ、
「ピロール、アニリン、チオフェン、フラン、およびそれらの誘導体の重合体が用いられる導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し」て形成されることから、「チオフェン」が重合された「ポリチオフェン」を含むから、本件発明1の「少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層」といえる点でも一致する。
さらに、甲1発明において前記「導電性高分子化合物懸濁水溶液」は、「水溶性接着剤とを混合した」水溶液であって、「水溶性接着剤」は「結合剤」であるから、本件発明1の「少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含む」点でも一致する。

以上のことからすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、また相違する。

(一致点)
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含む
電解コンデンサ。

(相違点1)
「ポリマー外層」に含まれる「ポリチオフェン」に関し、本件発明1は「ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」であると特定しているのに対し、甲1発明は「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」であることまでは特定がない点。

(相違点2)
本件発明1は「ポリマー外層」に「少なくとも1種のポリマーアニオン」を含んでなり、該「ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸」であると特定しているのに対し、甲1発明は「ポリマーアニオン」を含むこと、および「ポリスチレンスルホン酸」であることが特定されていない点。

(相違点3)
「ポリマー外層」が含む「結合剤」に関し、本件発明1は「ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステル」であると特定しているのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。


(う)無効理由1(理由1)についての相違点の判断

(相違点1)について
以下、「ポリマー外層」に含まれる「ポリチオフェン」(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))に関する相違点1が、甲第1号証、および甲第7?9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうることであるか、検討する。
まず、甲第1号証には、「第一の導電性高分子化合物層3」について、
「本発明における前記第一の導電性高分子化合物層としては、ピロール、アニリン、チオフェン、さらにフラン等の環状有機化合物のモノマー、およびそれらの誘導体の重合体を用いることができる。」(段落0019)と記載され、
さらに、「第二の導電性高分子化合物層4」について、
「本発明における第二の導電性高分子化合物層形成用の懸濁水溶液中の導電性高分子化合物としては、前記第一の導電性高分子化合物層と同様にピロール、アニリン、チオフェン、フラン、およびそれらの誘導体の重合体を用いる。なお、第一の導電性高分子化合層と第二の導電性高分子化合物層とは同一の化合物でなくても構わない。」(段落0020)
と記載されている。
「第一の導電性高分子化合物層3」は、「誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質」であって、固体電解質コンデンサにおいては、ごくありふれた構成要素にすぎないものであるところ、甲第7号証ないし甲第9号証には、当該固体電解質に関して、以下のような記載がある。

甲第7号証
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決するため種々の検討を行った。その結果、電子受容性置換基を有する導電性高分子をドーパントとする共役系高分子化合物からなる導電性高分子化合物が高導電性で水中もしくは高温高湿下でも脱ドーピングし難いために安定性に優れており、また、電子受容性置換基を有する導電性高分子をドーパントとする共役系高分子化合物からなる導電性高分子化合物を電解質とする固体電解コンデンサが内部抵抗が小さく耐熱性、耐湿性に優れていること、およびそのコンデンサが拡面化した弁作用金属の誘電体皮膜上に電子受容性置換基を有する導電性高分子と共役系高分子化合物を形成しうるモノマーを導入し酸化剤溶液と接触させる方法で製造できることを見いだし、本発明に至った。すなわち本発明は電子受容性置換基を有する導電性高分子をドーパントとする共役系高分子化合物からなる導電性高分子化合物、およびそれを電解質とする固体電解コンデンサとその製造方法である。
【0007】本発明において電子受容性置換基とはスルホニル基、カルボキシル基、ホスホニル基などのブレンステッド酸アニオンとなりうる置換基である。また、導電性高分子とはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン等の電子共役系高分子化合物やこれらのモノマーユニットから構成された共重合体化合物であり、電子受容性置換基を有する導電性高分子とは上記の導電性高分子に電子受容性置換基が共有結合した高分子化合物である。本発明では、電子受容性置換基を有する導電性高分子はブレンステッド酸アニオンとなりうる置換基が共有結合した電子共役系高分子化合物であれば特に限定されないが、高導電性の面からポリスルホアニリンおよびその誘導体、ポリスルホピロールが好ましい。ポリスルホアニリンの誘導体としては、例えばm-アミノベンゼンスルホン酸や5-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸等の重合体等が挙げられる。
【0011】本発明ではこのような電子受容性置換基を有する導電性高分子を共役系高分子化合物のドーパントとして利用する。本発明では、共役系高分子化合物は電子受容性置換基を有する導電性高分子の電子受容性置換基を持たない元の導電性高分子と同じ繰り返し単位とすることも、また、異なる繰り返し単位とすることもできる。本発明の共役系高分子化合物は電子共役系の高分子化合物であれば特に限定されず、例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン等の電子共役系高分子化合物やこれらのモノマーユニットから構成された共重合体化合物等やこれらの誘導体が挙げられるが、酸化電位の高いものでは電子受容性置換基を有する導電性高分子からなるドーパントとの相互作用が小さいため、導電率が小さい。このため、共役系高分子化合物としては特にポリピロール、ポリアニリン、およびポリエチレンジオキシチオフェンが好ましい。また、本発明においては電子受容性置換基を有する導電性高分子をドーパントとする共役系高分子化合物からなる導電性高分子化合物の作製方法は特に限定されず、予め共役系高分子化合物を形成してから脱ドーピングし、電子受容性置換基を有する導電性高分子を再ドーピングしたり、電子受容性置換基を有する導電性高分子の存在下で共役系高分子化合物となりうるモノマーを重合、ドーピングしたりして製造される。また、必要に応じてハロゲン化合物や金属ハロゲン化物、アルキルベンゼンスルホン酸等の電子受容性ドーパントでさらにドーピングすることもできる。」

甲第8号証
「21.弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体酸化皮膜、固体電解質層、導電体層を形成したコンデンサ素子を陽極リード端子と陰極リード端子の露出部を残して絶縁性樹脂で封止した固体電解コンデンサにおいて、固体電解質層が導電性重合体層であり、導電体層が上記請求の範囲15、20または21に記載された金属粉末含有導電体層であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
22.導電体層が、導電性重合体層上の導電性カーボン層及びその層上に積層された請求の範囲15乃至20のいずれかに記載の金属粉末含有導電体層からなる層である請求の範囲21に記載の固体電解コンデンサ。
23. 導電性重合体層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である請求の範囲21または22に記載の固体電解コンデンサ。」
(以上国際公開54頁?55頁「請求の範囲 21?23」)

甲第9号証
「【0003】上記固体電解コンデンサの固体電解質に使用する導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びポリパラフェニレン等が知られているが、そのうち、特にポリピロール及びポリチオフェン、ポリアニリンは導電率が高く、熱安定性にも優れているので、使用されることが多い。
【0010】上記チオフェンの誘導体としては、チオフェン骨格の3位、3位と4位またはS位に、水酸基、アセチル基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシ基のうち少なくとも1種を置換基として有するチオフェン誘導体、または3,4-アルキレンジオキシチオフェンを挙げることができる。」
(当審注:上記「アルキレン」とは、エチレン基を含む置換基の総称である。)

以上のとおり、「誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質」に使用される導電性高分子物質としては、「ポリチオフェン」ないし「ポリエチレンジオキシチオフェン」は広く知られた物質であって、特に「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」を用いることも周知事項にすぎないものとすることができる。
そして、甲第1号証に、前記のとおり「第二の導電性高分子化合物層4」について、「前記第一の導電性高分子化合物層と同様に」との記載(段落0020)があることからすると、「第二の導電性高分子化合物層4」(ポリマー外層)についても、「第一の導電性高分子化合物層3」(固体電解質)と同様に、例えば周知の「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」を用いること、すなわち(相違点1)は、当業者が容易に想到しうることである。


(相違点2)について
以下、相違点2の「ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸」である点が、甲第2号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうることであるか、検討する。

甲第2号証には、次の記載がある。
「電導性高分子化合物を固体電解質とする固体電解コンデンサの製造方法において、誘電体層が形成された陽極基体を、ポリマーアニオンのスルホン酸もしくはその塩を配合した酸化剤溶液で処理した後、該誘電体層上に気相重合によって電導性高分子化合物を生成せしめることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」(1頁左下欄、特許請求の範囲(1))

「この発明は、ドーパント作用付与剤としてポリマーアニオンのスルホン酸もしくはその塩を酸化剤溶液に配合することで、電導性高分子化合物の重合膜の強度ならびに熱安定性を向上させられることを見出したものである。」(2頁右上欄5行?10行)

「浸漬溶液として、ポリ(4-スチレンスルホン酸)0.3wt%、キノン20wt%、硫酸鉄0.5wt%、γ-ブチロラクトン7wt%を含む水溶液を用い、この水溶液中に陽極基体を浸漬後、3-エチルチオフェンをモノマーとして密閉容器中で25℃30分間気相重合をおこなった。この浸漬、重合の工程を4度繰り返した。」(4頁左下欄4行?10行)

ここで、上記甲第2号証には「ポリマーアニオン」としての「ポリ(4-スチレンスルホン酸」の記載はあるものの、それを使用して生成される「電導性高分子化合物」は、「誘電体層が形成された陽極基体」上に生成する「固体電解質」であって、甲第1号証に記載された固体電解コンデンサにおける「第一の導電性高分子化合物層3」(固体電解質)と対比することはできるとしても、「第二の導電性高分子化合物層4」(ポリマー外層)に相当するとまではいえず、したがって、甲第2号証が「第二の導電性高分子化合物層4」にポリマーアニオンを含ませることを教示するものであるとはいえない。
また、「ポリマーアニオンのスルホン酸もしくはその塩を配合した酸化剤溶液」が、甲第1号証における「第二の導電性高分子化合物層形成用の懸濁水溶液」にポリマーアニオンを含ませることを教示するものとも認められない。
なお、甲第2号証における「電導性高分子化合物」は、結合剤を含むことを前提とするものでもない。

甲第3号証には、
「皮膜形成性金属に誘電体酸化皮膜を形成し、該誘電体酸化皮膜上にドーパントの一部として芳香族スルホン酸アニオンを含んだ化学酸化重合による導電性高分子膜を形成し、更に該化学酸化重合による導電性高分子膜上に電解重合による導電性高分子膜を形成してなることを特徴とする固体電解コンデンサ」(1頁左下欄、特許請求の範囲(1))
が記載されており、
「芳香族スルホン酸アニオン」の例示として「ポリスチレンスルホン酸」の例示もある(2頁右下欄8行)ものの、これを含んで(化学酸化重合により)誘電体酸化皮膜上に形成される「導電性高分子膜」は、その後、電解重合により形成される導電性高分子膜の下層にあたるものであって、甲第1号証に記載された固体電解コンデンサにおける「第二の導電性高分子化合物層4」(ポリマー外層)ということはできない。
また、甲第1号証は、化学酸化重合又は電解重合によるものではないので、そもそも、甲第3号証に記載された固体電解コンデンサにおける「導電性高分子膜」の製造に用いられる「ポリマーアニオン」を、甲第1号証における「第二の導電性高分子化合物層4」の製造に適用する動機も見出せない。
更に、甲第1号証では、その【0021】にあるように、「第二の導電性高分子化合物層4」の形成に際して、「予め重合された後にドーパントをドープして導電性を発現せしめた導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液に浸漬し」て形成しており、甲第3号証に記載の電解重合とは大きく製造プロセスが異なるので、甲第3号証において、電解重合に際して用いられる支持電解質に含まれるポリマーアニオンを、甲第1号証に記載された前記「懸濁水溶液」に添加することを教示するものと認めることもできない。

甲第4号証には、固体電解コンデンサに関して、
「【0020】次に、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸の微粒子(平均粒径200nm)の濃度が1.0重量%と、グリシジル変性ポリエステルの濃度が3.0重量%と界面活性剤を添加した導電性高分子分散水溶液に上記コンデンサ素子を浸漬して引き上げた後、150℃で5分間乾燥処理を行い、少なくとも誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸とグリシジル変性ポリエステルを含有する第1の固体電解質層を形成した。
【0021】続いて、このコンデンサ素子を複素環式モノマーであるエチレンジオキシチオフェン1部と酸化剤であるp-トルエンスルホン酸第二鉄2部と重合溶剤であるn-ブタノール4部を含む混合溶液に浸漬して引き上げた後、85℃で60分間放置することにより導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンの第2の固体電解質層を電極箔間に形成した。」
との記載がある。
すなわち、誘電体酸化皮膜上に形成される「第1の固体電解質層」と、さらに続けて形成される「第2の固体電解質層」とを、それぞれ、甲第1号証に記載された固体電解コンデンサにおける「第一の導電性高分子化合層3」と「第二の導電性高分子化合物層4」に対比すると、甲第4号証に記載された固体電解コンデンサにおける「第二の固体電解質層」は、化学重合により形成され、ポリマ-アニオンを含むことを教示しない。また、結合剤を含むことを前提とするものでもない。
甲第4号証に記載された固体電解コンデンサでは、ポリマーアニオン、及び結合剤といえるグリシジル変性ポリエステルを含む導電性高分子分散水溶液が、「第1の固体電解質層」の形成に当たって用いられ、しかも「第1の固体電解質層」が接着層として機能することもあわせて考慮すると、甲第1号証における「第二の導電性高分子化合物層4」の形成に用いられる懸濁水溶液に適用すべき動機はない。

なお、請求人は、口頭審理陳述要領書の「5.(1)(a)」において、
「甲第4号証の電解コンデンサは、誘電体酸化被膜層上に、第1の固体電解質層(本件発明の「固体電解質」に相当する)、更にその上に第2の固体電解質層(本件発明の「ポリマー外層」に相当する)を有し(請求項1等)」との前提で、
「甲第4号証や甲第5号証は、本件発明のポリマー外層に相当する層が、モノマーアニオンを含有する構成を示しており」と主張しているが、
無効理由1の(理由1)は、本件発明1が、甲1発明に対して甲第2号証ないし甲第9号証に記載された発明を適用することにより当業者が容易に想到しうるものであるというものであるところ、甲第4号証に記載された固体電解コンデンサの「第2の固体電解質層」はインサイチュ重合により形成されることから、酸化重合剤およびドーピング剤としてモノマーアニオンであるp-トルエンスルホン酸第二鉄が溶液に加えられているもので、一方で甲1発明の「第二の導電性高分子化合物」は、すでに重合された「導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し」て形成されるものであるから、酸化重合剤であるモノマーアニオンを加える必要がなく、ましてや、モノマーアニオンに代えてポリマーアニオンを加える動機はないとするほかない。
この点は甲第5号証及び甲第6号証に関しても同様である。

甲第5号証には、
「【0027】(実施の形態1)タンタル線からなる陽極導出線をその一端部が表出するように埋設したタンタル金属微粉末を成形焼結して多孔質の陽極体を得て、前記多孔質の陽極体の表面に陽極酸化法により誘電体酸化皮膜層を形成した。次に、前記誘電体酸化皮膜層が形成された陽極体をポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネート3.0%水溶液(バイエル社製バイトロンP「商品名」のポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートの濃度を調整したもの)中に浸漬して引き上げた後、150℃で5分間乾燥処理を行い、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネート層を形成させた。
【0028】続いて、この陽極体を複素環式モノマーであるエチレンジオキシチオフェン1部と酸化剤であるp-トルエンスルホン酸第二鉄2部と重合溶剤であるn-ブタノール4部を含む溶液に浸漬して引き上げた後、85℃で60分間放置することによりポリエチレンジオキシチオフェンの化学重合性導電性高分子層を形成した。この陽極体を水洗-乾燥した後、カーボン層、導電性接着層を順次形成して陰極引出線を接続して、最後に陽極導出線及び陰極引出線の一部が外部に表出するように外装樹脂で被覆してタンタル固体電解コンデンサを作製した(Dサイズ:7.3×4.3×2.8mm)。」、
「【0031】(実施の形態4)上記実施の形態1において、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートの濃度を3.0%にし、かつこの溶液に結合剤として水溶性高分子であるメタクリル酸アクリル酸共重合物を水溶液中固形分濃度にして1.0%添加した以外は実施の形態1と同様に作製した。」との記載があり、
また、甲第6号証には、
「【0029】[実施の形態1]アルミニウム箔でなる陽極箔の表面をエッチング処理により粗面化した後、陽極酸化処理により誘電体酸化皮膜(化成電圧35V)を形成し、アルミニウム箔の表面をエッチング処理により粗面化した陰極箔とをセパレータAを介在させて巻回することによりコンデンサ素子を得た。このコンデンサ素子にアジピン酸アンモニウムの10重量%エチレングリコール溶液を含浸させた際の周波数120Hzにおける静電容量は300μFであった。次にこのコンデンサ素子を複素環式モノマーであるエチレンジオキシチオフェン1部と酸化剤であるp-トルエンスルホン酸第二鉄及び重合溶剤であるn-ブタノール4部を含む溶液に浸漬してから引き上げた後、85℃で60分間放置することにより化学重合性導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンの固体電解質を陽極箔と陰極箔の間に形成した。引き続いて該コンデンサ素子を水洗、乾燥した後、樹脂加硫ブチルゴム封口材(ブチルゴムポリマー30部、カーボン20部、無機充填剤50部から構成、封口材の硬度:70IRHD[国際ゴム硬さ単位])とともに有底アルミニウムケースに封入した後、カーリング処理により開口部を封口し、陽極箔と陰極箔から夫々導出されたリード線端子をポリフェニレンサルファイド製の座板に通し、リード線部を扁平に折り曲げ加工することにより面実装型の固体電解コンデンサを作製した。この固体電解コンデンサのサイズは、直径10mm×高さ10mmとした。
【0030】[実施の形態2]上記実施の形態1において、ポリエチレンジオキシチオフェンの固体電解質を形成する前に、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸1.0%水溶液中にコンデンサ素子を浸漬してから引き上げ、150℃、5分間の乾燥処理を行い、誘電体酸化皮膜上と陰極箔上並びにセパレータ繊維上にポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートの層を形成した以外は[実施の形態1]と同様にして固体電解コンデンサを作製した。」との記載があるが、
これらの記載は、いずれも甲第4号証に記載された固体電解コンデンサの場合と同様であって、ポリマーアニオンを含む導電性高分子分散水溶液は、甲1発明の「第1の固体電解質層」に相当する層の形成に当たって用いられ、しかも接着層として機能することもあわせて考慮すると、甲第5号証及び甲第6号証に記載されたポリマーアニオンを含む導電性高分子分散水溶液を、甲第1号証における「第二の導電性高分子化合物層4」の形成に用いられる懸濁水溶液に適用すべき動機は見出せない。

甲第7号証ないし甲第9号証には、上記「(相違点1)について」において言及した点のほかに相違点2の構成に関する教示は、特段、見出すことができない。

<請求人の口頭審理陳述要領書「5.(1)(b)」の主張に対する見解>
本件発明1において、固体電解質は、「全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む」と特定されている以上、「誘電体表面が直接ポリマー外層で覆われた形態を部分的に含んでいる」との請求人の理解は否定できないが、単に「部分的に」「誘電体表面が直接ポリマー外層で覆われ」ているにすぎないところを、「固体電解質」の存在を無視して「本件発明の「ポリマー外層」は、「誘電体層が形成された陽極基体」上に生成するものですから」との主張は、ごく一部の層の状態を以て固体電解コンデンサ全体の構成にまで拡大しようとするもので到底受け入れることができない。
また、「甲第1号証の「第一の導電性高分子化合物層」及び甲第2号証の「固体電解質層」の双方に相当し」との主張は、単一の特定事項である「ポリマー外層」が、甲1発明の2つの特定事項に「相当する」というもので、そのような関係は、互いに「相当する」関係にはないとするのが妥当である。

<請求人の口頭審理陳述要領書「5.(4)」の主張に対する見解>
請求人は、(a)において、「実施例3がポリマー外層がポリマーアニオンを含有することにより固体電解層などとも十分な接着が達成できることを見出したことを示しているとの主張(答弁書6ページ26?30行目)は、実施例3はポリマーアニオンの添加効果を示すものではないので、全く根拠がありません。」と、
また、(b)において、「被請求人がポリマー外層にポリマーアニオンを添加するとESRを更に低減することが本件発明の顕著な効果であると主張したことは、本件明細書の記載と矛盾し、誤りであると考えられます。」とし、これに続けて「即ち、これらの被請求人の各甲号証を排除するとした主張は根拠のないものであり、請求人の主張が認められるべきであると考えます。」としている。
そこで、本件特許明細書を確認する。
本件特許明細書の【0102】?【0107】に記載の比較例1?比較例3と実施例との相違は、概略次のとおりである。
比較例1:結合剤を外層中に有さない。
比較例2:インサイチュ重合なし
比較例3:PEDT/PSSのポリマー外層の代わりにインサイチュ重合した外層を有する
すると、本件特許明細書には、ポリマー外層にポリマーアニオンを有しない点でのみ相違する比較例は記載されていないことになり、その点では、「ポリマーアニオンのみの作用効果」については、明らかでないともいえる。
しかしながら、一般論としても、すべての従来技術との比較を明細書中に記載することは不可能であるし、本件特許明細書の記載によると、本件発明1は、甲1発明のような「導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液」を用いてポリマー外層を形成する固体電解コンデンサを従来技術として発明されたものとは説明されていない。
本件特許明細書に記載のない従来技術に基づいて、本件発明1とは異なる技術課題に基づき、本件発明1に至ることはありうるとしても、甲1発明に基づいて本件発明1が容易想到であると主張するのは請求人であるから、少なくとも、甲1発明においてどのような技術課題が認識され、その解決手段として、甲1発明の「第二の導電性高分子化合物層」にポリマーアニオンを含むものとすることに動機があり、これによる作用効果も当業者が予測しうるものにすぎないものであることを立証するのは請求人の責任である。
被請求人によるポリマーアニオン添加効果の主張が根拠のないものであるとする請求人の主張は、それ自体、否定することができないとしても、そのことがただちに甲1発明にポリマーアニオンを添加する動機付けを与えるものとなるものではない。
すなわち、甲第2号証について、被請求人による答弁書の、
「甲第2号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すれば、甲第1号証に開示のコンデンサのESRをさらに低くできるということについても記載も示唆もない。」(6ページ1?3行目)との反論は、請求人が主張するように本件発明1におけるポリマーアニオンの効果を主張したものであるとすると、確かに、根拠に乏しいともいえるが、被請求人の反論の意図は、甲第2号証には、同証記載の発明を甲1発明に適用する動機となる記載がないというものと解することができ、その限りにおいては妥当なものとせざるをえない。
その他の甲号証についての被請求人の反論についても同様である。
すなわち、
「甲第4号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すると、甲第1号証に開示されているコンデンサのESRをさらに低減できることについても、どこにも記載も示唆もしていない。」(答弁書8ページ10?13行目)、
「甲第5号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すると、甲第1号証に開示されているコンデンサのESRをさらに低減できることについても、どこにも記載も示唆もしていない。」(答弁書8ページ27?29行目)、
「甲第6号証は、ポリスチレンスルホン酸等のポリマーアニオンをポリマー外層に添加すると、甲第1号証に開示されているコンデンサのESRをさらに低減できることについても、記載も示唆もしていない。」(答弁書9ページ11?13行目)、
との各反論についても、各甲号証には、それぞれに記載された発明を甲1発明に適用する動機となる記載がないという点に関しては、妥当なものとせざるを得ない。

なお、被請求人は、答弁書において、「第二の導電性高分子化合物層4」にポリマーアニオンを含ませることについて、甲第1号証にある、
「ここで、第二の導電性高分子化合物層4形成のための導電性高分子化合物懸濁水溶液としては、導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液が使用される。この液に浸漬し引き上げて所定温度で乾燥することにより第二の導電性高分子化合物層が形成される。第二の導電性高分子化合物層4の外表面には導電性高分子化合物粉末からなる凹凸を多数有しているため、この上に形成するグラファイト層との嵌合を向上することができる。」(【0025】)などの記載に基づき、
甲1発明において、導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液を使用して第二の導電性高分子化合物層を形成する意義を、「凹凸を多数」生成し、「嵌合を向上」する点にあるとして、
これに対し乙第1号証を示して、
そこに記載された本件発明1と同様なポリエチレンジオキシチオフェンとポリマーアニオンの錯体である「バイトロンP」(商品名)に関する、
「調査する全てのポリマー系のマトリックスポリマーおよびブレンド分子から独立して、平滑化効果を観察した。」、
「ITO上にスピン塗布した50nm厚バイトロンP層(右側の画像および線走査図)と比較する。塗布されなかったITO表面の位相差画像(図3b左側)では、単一ITO粒子とその周りの粒子境界領域との差がはっきりしていることが明らかに示されている。」などの記載に基づき、
前記「バイトロンP」には、甲1発明の「凹凸を多数」、「嵌合を向上」等の目的に反する「平滑化効果」が知られていることから、甲1発明の「第二の導電性高分子化合物層形成用の懸濁水溶液」にポリマーアニオンを含ませることに阻害要因がある旨の反論している。

本件発明1のチオフェン及びポリマーアニオンは前記バイトロンP(商品名)に限定されているわけではなく、また、乙第1号証における前記バイトロンP(商品名)の使用形態は「ITO上にスピン塗布」するものであるから、固体電解コンデンサに関する本件発明1及び甲1発明においても同様の挙動を示すか、必ずしも明らかでない面もあるが、少なくとも被請求人が甲1発明の「懸濁水溶液」に前記バイトロンP(商品名)を適用することについての阻害要因を一応釈明しているのに対し、請求人から特段の反論はなく、結局、請求人は甲1発明の「導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液」にポリマーアニオンを添加する動機を示していないといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、相違点2については、甲第2?9号証に記載された発明から当業者が容易に想到しうるとすることはできない。

(相違点3)について
以下、「ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステル」であるとの相違点3が、甲第1号証、および甲第7?9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうることであるか、検討する。
すると、各甲号証には「結合剤」に類する構成成分として、いくつかの例示はある(甲第1号証の「水溶性接着剤」、甲第4号証の【0010】の「有機バインダー」、甲第5号証の【0031】の「結合剤」など)ものの、上記相違点2の判断で検討したのと同様に、「ポリマー外層」にあたる層において「スルホン化ポリエステル」を使用したとまでの開示はなく、当業者が容易に想到しうるとすることはできない。

(え)無効理由1(理由1)についてのむすび
以上のとおりであるから、無効理由1の(理由1)によっては、本件発明1が、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
本件発明2、及び削除された本件発明9?11を除く本件発明12は、請求項1を引用しており、本件発明1を特定するための事項をすべて備えているので、本件発明1についての判断と同様の理由により、(理由1)によっては、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。


3.無効理由1(理由2)についての検討
無効理由1の(理由2)は、概略、本件発明1、2、及び9?12が、甲第1?6号証、及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたというものである。
両当事者の主張及び反論の詳細は、以下のとおりである。

(3-1)無効理由1(理由2)についての請求人の主張
請求人は、審判請求書の「(1-2)請求項1,2,9,10,11,12(理由2)」において、以下のように主張している。なお、請求人は、口頭審理陳述要領書においては(理由2)に特定した新たな主張はしていない。

「(1-2)請求項1,2,9,10,11,12(理由2)
(ア)甲第1号証には、「弁作用金属粉末の焼結体からなる陽極である弁作用金属1を陽極酸化し、その焼結体表面の細孔壁面に沿って誘電体酸化皮膜2を形成する。この誘電体酸化被膜2の表面に、第一の導電性高分子化合物層3を化学酸化重合によって形成し、コンデンサ素子を製作する。」(段落【0024】参照)と記載され、「次に、このコンデンサ素子を導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬し、第一の導電性高分子化合物層3上に、第二の導電性高分子化合物層4を形成する。ここで、第二の導電性高分子化合物層4形成のための導電性高分子化合物懸濁水溶液としては、導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した懸濁水溶液が使用される。この液に浸漬し引き上げて所定温度で乾燥することにより第二の導電性高分子化合物層が形成される。」(段落【0025】参照)と記載されている。
そして、甲第3号証には、「皮膜形成性金属に誘電体酸化皮膜を形成し、該誘電体酸化被膜上にドーパントの一部として芳香族スルホン酸アニオンを含んだ化学酸化重合による導電性高分子膜を形成し、更に該化学酸化重合による導電性高分子膜上に電解重合による導電性高分子膜を形成してなることを特徴とする固体電解コンデンサ。」(請求項1参照)と記載されている。
さらに、甲第5号証には、「陽極導出線をその一端部が表出するように埋設したタンタル粉末の成形体を焼結した陽極体に、誘電体酸化皮膜層と、ポリスチレンスルホン酸およびその誘導体からなる導電性高分子を含有する層と、複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液とを個々に含浸又は複素環式モノマーと酸化剤とを含有する混合液を含浸することにより形成された化学重合性導電性高分子層を積層して設けたタンタル固体電解コンデンサ。」(【請求項1】参照)と記載されている。
またさらに、甲第9号証には、「陽極となる弁作用金属(1b)からなるコンデンサ素子(1)の表面に誘電体酸化皮膜(1a)を形成し、該誘電体酸化皮膜(1a)表面に導電性高分子層を形成してなる固体電解コンデンサにおいて、該導電性高分子層上に電解重合による導電性高分子層(3)と、化学重合による導電性高分子層(4)と、該層(4)上にカーボン層(5)とを構成したことを特徴とする固体電解コンデンサ。」(【請求項1】参照)と記載されている。

(イ)してみると、本件請求項1に係る「電極物質の多孔質電極体」(構成要件A),「この電極物質の表面を被覆する誘電体」(構成要件B),「全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質」(構成要件C),「前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であ」る「ポリマー外層」(構成要件D及びEの一部)、及び、本件請求項2に係る「電極物質の多孔質電極体」(構成要件F),「この電極物質の表面を被覆する誘電体」(構成要件G),「全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性ポリマーを含む固体電解質」(構成要件H),「前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であ」る「ポリマー外層」(構成要件I及びJの一部)という構成は、甲第1,3,5,9号証に記載のように周知の構成である。

(ウ)一方、甲第1号証には、「第二の導電性高分子化合物層形成用の懸濁水溶液中の導電性高分子化合物としては、前記第一の導電性高分子化合物層と同様にピロール、アニリン、チオフェン、フラン、およびそれらの誘導体の重合体を用いる。」(段落【0020】参照)と記載され、甲第3号証には、「導電性高分子としてはポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンまたはポリフランの無置換あるいは置換体を用い、導電性高分子の安定性の面からポリピロールが好ましい。」(3頁左上欄4行目?7行目)と記載され、甲第5号証には、「ポリスチレンスルホン酸およびその誘導体からなる導電性高分子が、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との塩、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートの群より選ばれる少なくとも1つ以上である請求項1に記載のタンタル固体電解コンデンサ。」(【請求項2】参照)と記載され、甲第9号証には、【表1】の実施例1に、化学重合による導電性高分子層(4)にエチレンジオキシチオフェンの記載がされている。

(エ)してみると、「前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であ」る「ポリマー外層」(構成要件D及びEの一部並びに構成要件I及びJの一部)に、ポリチオフェン(本件請求項9に係る構成要件Qにて限定している「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」)を含むことは、甲第1,3,5,9号証に記載のように周知の技術である。

(オ)また、(1-1)にて詳述したように、固体電解質を形成するにあたって、ドーパント作用付与剤としてポリマーアニオンであるスルホン酸又はポリスチレンスルホン酸にポリチオフェンを添加することは、甲第2号証?甲第6号証に記載の内容より、周知の技術である。特に、甲第4号証?甲第6号証には、ポリスチレンスルホン酸にポリエチレンジオキシチオフェンを組み合わせる点が開示されている。
それゆえ、ポリチオフェン(ポリエチレンジオキシチオフェン)を含む「前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であ」る「ポリマー外層」(構成要件D及びEの一部並びに構成要件I及びJの一部)に、ポリマーアニオン(本件請求項10に係る構成要件Rにて限定している「ポリマーカルボン酸またはスルホン酸のアニオン」、本件請求項11に係る構成要件Sにて限定している「ポリスチレンスルホン酸のアニオン」)を含めることは、甲第2号証?甲第6号証に記載のように周知の技術である。

(カ)さらに、甲第1号証には、「前記懸濁水溶液内の水溶性接着剤としては、ポリアクリロニトリル、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、メタクリル酸メチルおよびそれらの誘導体を用いるのが好適である。」(段落【0027】参照)と記載されていることから、ポリチオフェンを含む「前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であ」る「ポリマー外層」(構成要件D及びEの一部並びに構成要件I及びJの一部)に、「結合剤(本件請求項12に係る構成要件Tにて限定している「ポリマー有機結合剤」)」を含めることは公知である。

(キ)したがって、本件請求項1,2,9,10,11,12に係る発明は、甲第1?6号証及び甲第9号証に記載の周知・公知技術の組合せでしかなく、この組合せを阻害するような要因も存在しない。

(ク)よって、本件請求項1,2,9,10,11,12に係る発明は、甲第1?6号証及び甲第9号証に記載の内容を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得る発明でしかないため、当然に進歩性を有さない。」

(3-2)無効理由1(理由2)についての被請求人の反論
一方、被請求人は、審判事件答弁書の「(3-2)無効理由1(理由2)に対して」において、以下のように反論している。
なお、被請求人は、口頭審理陳述要領書においては(理由2)については、審理事項通知書における合議体の暫定的見解に同意する旨のみ記載し、新たな反論はしていない。

「請求人によると、「本件請求項1、2,9,10,11,12に係る発明は、甲第1?6号証および甲第9号証に記載の内容を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得る発明でしかないため、当然に進歩性を有さない」(審判請求書第52頁第4?7行)ということである。
より具体的には、甲第1、3,5,9号証に記載の固体電解質層は、本件特許請求項1、2にいうところの「ポリマー外層」に相当し、その外層にはポリチオフェンを含んでおり、そのようなポリチオフェンを含有しているポリマー外層に、ポリマーアニオン(甲第2?6号証)、結合剤(甲第1号証)を組み合わせることは、周知、公知の技術であるというものである。
先行文献の開示する技術は全体として考慮されるべきであるところ、請求人の主張する無効理由1(理由2)は、後知恵的というほかなく、先行文献が全体的に教示する技術とは全く異なる技術情報を得るために、すなわち、無効理由を構成するために、個々の要素を任意に分離して取り出して、寄せ集めているに過ぎず、そのような無効理由は決して正当化されるべきものではない。
本件特許の請求項1,2に規定するところのポリマー外層として、ポリチオフェンを含有しさらに結合剤を含有するコンデンサを開示しているのは、甲第1号証のみである。それ故、甲第1号証が本件特許発明に最も近い先行技術としてみなされるべきである。
しかして、上記無効理由1(理由1)で述べたように、本件請求項1?31に係るそれぞれの発明は甲第1?6号証および甲第9号証に記載に記載の内容に基づいて当業者が容易になすことができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当するものではない。」


(3-3)無効理由1(理由2)についての当審の判断

(あ)無効理由1(理由2)の概要
請求人の主張は、上記(ア)?(エ)において甲第1,3,5,9号証から「周知技術」を認定し、同周知技術に対して、(オ)で甲第2?6号証に記載された別の周知技術、及び(カ)で甲第1号証に記載された事項を適用することで本件発明1、2及び9?12は当業者が容易に発明をすることができたものであるというものと解される。
以下、まず本件発明1について検討する。

(い)無効理由1(理由2)についての周知技術と対比
複数の刊行物、すなわち甲第1,3,5,9号証から認定される前記「周知技術」は、審判請求書に明記はないが少なくとも前記各甲号証に共通して記載された発明であるところ、請求人が前記(イ)に摘記した事項からみて、本件発明1と次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であるポリマー外層を含んでなる、
電解コンデンサ。

(相違点1)
本件発明1は、ポリマー外層に「少なくとも一種のポリチオフェンを含む」と特定するのに対し、前記周知技術には、ポリチオフェンについての特定がない点。

(相違点2)
本件発明1は、さらに「ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」であると特定しているのに対し、前記周知技術においては、その特定がない点。

(相違点3)
本件発明1には、「ポリマー外層」に、「少なくとも1種のポリマーアニオン」として「ポリスチレンスルホン酸」を含んでなると特定しているのに対し、前記周知技術には、ポリマーアニオンを含むこと、および「ポリスチレンスルホン酸」であることが特定されていない点。

(相違点4)
本件発明1には、「ポリマー外層」に、「少なくとも1種の結合剤」として「スルホン化ポリエステル」を含んでなると特定しているのに対し、前記周知技術には、結合剤を含むこと、および「スルホン化ポリエステル」であることが特定されていない点。

(う)無効理由1(理由2)についての相違点の判断
(相違点1)及び(相違点2)について
相違点1及び相違点2については、「(理由1)についての当審の判断」の(相違点1について)と同様、また、請求人の主張(エ)に摘記した事項からみて、当業者が容易に想到しうることである。

(相違点3について)
請求人は、上記主張(オ)において、
「固体電解質を形成するにあたって、ドーパント作用付与剤としてポリマーアニオンであるスルホン酸又はポリスチレンスルホン酸にポリチオフェンを添加することは、甲第2号証?甲第6号証に記載の内容より、周知の技術である。特に、甲第4号証?甲第6号証には、ポリスチレンスルホン酸にポリエチレンジオキシチオフェンを組み合わせる点が開示されている。」と主張している。
しかしながら、「(理由1)についての当審の判断」の(相違点2について)において示した判断と同様に、甲第2号証?甲第6号証において、ポリマーアニオン及びポリチオフェンを含む層は、いずれも、誘電体表面を被覆する層であるから、本件発明1の「固体電解質」に相当するということはできても、少なくとも「ポリマー外層」に相当するものということはできない。
したがって、請求人が上記(オ)において、
『ポリチオフェンを含む「ポリマー外層」に、ポリマーアニオンを含めることは、甲第2号証?甲第6号証に記載のように周知の技術である。』と主張している点は、根拠のないものである。
したがって、上記(相違点3)は、当業者が容易に想到しうることであるとすることができない。

(相違点4について)
請求人は、上記(カ)において、甲第1号証の記載0027段落を根拠に、ポリマー外層に結合剤を含めることは公知である旨主張しているところ、(理由2)においては、「ポリマー外層」は、甲第1,3,5,9号証から認定される前記周知技術に含まれるもので、甲第1号証に記載される「第二の導電性高分子化合物層」は導電性高分子化合物の粉末と水溶性接着剤とを混合した導電性高分子化合物懸濁水溶液に浸漬して形成されるのに対し、甲第3号証に記載されたコンデンサおける「電解重合による導電性高分子膜」,甲第5号証に記載されたコンデンサにおける「化学重合性導電性高分子層」,及び9号証に記載されたコンデンサにおける電解重合による導電性高分子層(3)と化学重合による導電性高分子層(4)とは、インサイチュ重合により形成されるもので、甲第1,3,5,9号証から認定される前記周知技術において、結合剤を加えることが周知技術であるとすることができない。
また、特定の「結合剤」として「スルホン化ポリエステル」を「ポリマー外層」に含んでなるとまでの記載は、いずれの甲号証にも見あたらない。
したがって、上記(相違点4)は、当業者が容易に想到しうるとすることができない。

(え)無効理由1(理由2)についてのむすび
以上のとおりであるから、無効理由1の(理由2)によっても、本件発明1が、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができない。
本件発明2、及び削除された本件発明9?11を除く本件発明12は、請求項1を引用しており、本件発明1を特定するための事項をすべて備えているので、本件発明1についての判断と同様の理由により、(理由2)によっては、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができない。

4.無効理由1?その他の請求項について
本件発明3?8,及び本件発明13?31は、いずれも請求項1を引用するか、請求項1を引用する請求項をさらに引用して記載されており、本件発明1を特定するための事項をすべて備えているので、本件発明1についてした(理由1)及び(理由2)の判断と同様の理由により、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができない。

5.無効理由1についての結び
以上のとおりであるから、無効理由1について、請求人が示した証拠方法及び理由によっては、本件発明1?31を無効とすることができない。


第6 無効理由2についての検討

1.無効理由2についての請求人の主張
(1-1)審判請求書における請求人の主張(無効理由2)
(当審注:以下の請求人の主張は、本件訂正前の本件審判請求当初の本件請求項1の発明に対するものである。)

「(ア)本件請求項1の発明は、ポリマー外層について、
(a)ポリチオフェンが、一般式(I)で示す反復単位を有するポリチオフェン、一般式(II)で示す反復単位を有するポリチオフェン、一般式(I)および(II)で示す反復単位を有するポリチオフェンのいずれでもよく、
(b)ポリマーアニオンとして高分子型のアニオンの全てを含み、
(c)結合剤としても、種類等を規定せず、本明細書段落【0016】によれば、ポリマー有機結合剤の他、架橋剤、官能性シラン、架橋性ポリマー等を含み、架橋剤とポリマーアニオンとの反応で生成する架橋化ポリアニオンも範疇に入るものとしている。
また、固体電解質については、導電性ポリマーの種類や組成を規定せず、どのようなものでよい形になっている。
(イ)それに対し、本件特許明細書に記載にする実施例1?6のうち、電解コンデンサの具体的構成を示すものは、実施例1,4のみで、他の実施例は特性測定試験である。しかも、実施例4は、実施例1に対し本件請求項1での規定外の成分を変えただけのものになっている。また、比較例は、実施例1に対してポリマー外層の結合剤がない場合と、固体電解質層が内層組成のみ又はポリマー外層組成のみである場合との比較になっている。
すなわち、実施例1,4,比較例1?3の内容を以下に簡潔に示せば、
○実施例1
<固体電解質>・・・・・・化学酸化重合にて形成
モノマー:3,4-エチレンジオキシチオフェン
酸化剤兼アニオン:p-トルエンスルホン酸鉄
<ポリマー外層>・・・・・浸漬付着-乾燥にて形成
導電性ポリマーとポリマーアニオン:水性PEDT/PSS分散体
結合剤:スルホン化ポリエステル
添加剤:NMP(N-メチルピロリドン),界面活性剤
○実施例4・・・・分散体B使用の電解コンデンサは実施例1と同一構成
<固体電解質>・・・・・・実施例1と同様
<ポリマー外層>・・・・・使用する分散体A,Bの違いによる2種
分散体A:実施例1における添加剤のNMPをDMSO(ジメチルスルホキ シド)に変更
分散体B:実施例1と同様
○比較例1:実施例1に対してポリマー外層の結合剤及び添加剤を除いた形
○比較例2:実施例1の内層を形成せず、ポリマー外層に対応する層のみ
○比較例3:実施例1の内層に対応する化学酸化重合の繰り返し
というような記載になっている。
(ウ)してみると、本件特許明細書では、ポリマー外層の導電性ポリマーとして一般式(II)で示す反復単位を有するポリチオフェンを用いた実施例のみを挙げているだけで、本件請求項1にて規定している、一般式(I)で示す反復単位を有するポリチオフェン、並びに、一般式(I)及び(II)で示す反復単位を有するポリチオフェンを導電性ポリマーとして用いた実施例が存在しない。
しかも、一般式(II)で示す反復単位を有するポリチオフェンは、式中Aのアルキレン基やR基が置換・非置換を含めて様々に異なる極めて広範囲なポリマーを包含するが、実施例で用いているのは一般式(II)のポリチオフェンとして最も基本的なPEDT、すなわち、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)のただ一種のみである。
さらに、実施例では、ポリマー外層に用いるポリマーアニオンがPSS、すなわち、ポリスチレンスルホン酸の1種のみであり、結合剤もスルホン化ポリエステルの1種のみであり、また内層の固体電解質の構成も1種のみである。
(エ)しかして、本件特許明細書では、ポリマー外層の導電性ポリマーとして、一般式(I)で示す反復単位を有するポリチオフェンを用いた場合、並びに、一般式(I)及び(II)で示す反復単位を有するポリチオフェンを用いた場合について、当該明細書で主張するような作用効果(段落【0011】参照)が得られることは全く実証されておらず、さらに、一般式(II)で示す反復単位を有するポリチオフェンについても、PEDT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))以外のものを用いた場合に同様の作用効果(段落【0011】参照)が得られることは実証されていない。またさらには、ポリマー外層にPSS(ポリスチレンスルホン酸)以外のポリマーアニオンを用いた場合やスルホン化ポリエステル以外の結合剤を用いた場合についても、同様の作用効果(段落【0011】参照)が得られることは実証されていない。
(オ)したがって、本件特許明細書には、ただ1種のみの構成を実施例として挙げているだけであり、これでもって、本件請求項1に係る発明の範囲まで、実施例において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは到底言うことはできない。
それゆえ、本件請求項1に係る発明及び、その発明の従属請求項2?31に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。」

(1-2)口頭審理陳述要領書における請求人の主張(無効理由2)
請求人は、口頭審理陳述要領書「5.(5)その他」において、無効理由2についてさらに以下のように主張している。

「(a)審判請求書にて記載した事項に加え、さらに附言すれば、請求項1及び2等の「結合剤」についても、サポート要件を欠いており、特許法第36条第6項第1号の要件を具備していないと考えられます。
本件明細書において、「結合剤」は、ポリビニルアルコール等の架橋性の無い化合物のグループ([0016]1?8行目)と、官能性シランのような架橋性を有する化合物のグループ([0016]8?19行目)、の2種類の異なった性格の化合物グループを含むものと記載されています。しかしながら、実施例で、その性能が実証された結合剤は「スルホン化ポリエステル」のみであります(実施例1)。これには下記2つの問題があります:
(i)「スルホン化ポリエステル」は、上記本件明細書において説明された、ポリビニルアルコール等の架橋性の無い化合物のグループ([0016]1?8行目)と、官能性シランのような架橋性を有する化合物のグループ([0016]8?19行目)、のいずれにも該当していません。従って、「スルホン化ポリエステル」以外の結合剤については、明細書に記載が無く、特許法第36条第6項第1号の要件を具備していないと考えられます。
(ii)特に、明細書に開示されている、官能性シランのような架橋性を有する化合物のグループ([0016]8?19行目)については、その「架橋性」による効果に関して、明細書に全く示されておらず、特許法第36条第6項第1号の要件を具備していないと考えられます。
(b)また、審判請求書にて主張しましたように(無効理由2)、実施例に実証されたポリスチレンスルホン酸(PSS)以外のポリマーアニオン、スルホン化ポリエステル以外の結合剤を使用することにより、[0011]?[0012]に記載された課題とその解決手段が得られると解する理由は不明であり、その結果、本件発明1?31(請求項1?31)は、特許法第36条第6項第1号の要件を具備していないと考えられます。」

(1-3)審判事件弁駁書における請求人の主張(無効理由2)
請求人は、審決の予告後の訂正請求書に対する審判事件弁駁書(平成25年8月8日付け)において、無効理由2に関し概略次のように主張している。

・審決の予告において指摘された事情は、固体電解質に含まれる「導電性物質」(請求項1)と「導電性ポリマー」(請求項2)についても同様であり、訂正後の特許請求の範囲によってもなお無効理由2は解消していない。
すなわち、固体電解質に含まれる「導電性物質」(請求項1)と「導電性ポリマー」(請求項2)については、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載がある範囲を超えて広範な文言であって、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない。


2.無効理由2についての被請求人の反論
(2-1)審判事件答弁書における被請求人の反論(無効理由2)
被請求人は、審判事件答弁書の(iii)において無効理由2について以下のとおり反論している。

「特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。
本件請求項1?36に記載の発明は、「発明の詳細な説明」にすべて記載されている。
また、本件特許出願の審査において、特許法第36条第6項第2号に基づく拒絶理由が指摘された経緯はあるが、同第36条第6項第1号に基づく拒絶理由は一度も指摘されていないことは、本願が同第36条第6項第1号の規定を満たしていることの1つの証左である。
従って、ただ1種のみの構成の実施例をもって、「本件請求項1に係る発明の範囲まで、実施例において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは到底言うことができない」(審判請求書第69頁最下行?第70頁第3行)との請求人の主張は、失当である。」

(2-2)口頭審理陳述要領書における被請求人の反論(無効理由2)
被請求人の口頭審理陳述要領書での無効理由2についての主張は以下のとおりであり、実質的に新たな反論はしていない。

「無効理由2につきましては、被請求人は現特許請求項1に係る発明1、2等を訂正せずに対応する方針で参りました。
しかしながら、平成24年12月26日付審理事項通知書(以下、単に「審理事項通知書」という)に記載されている審判合議体の暫定的見解(第8頁下から第9行?第9頁第12行、および第10頁下から第3行?最下行)を拝読いたしました結果、現特許発明の訂正が必要と思料しております。」

なお、上記「第1 手続の経緯」にあるように、本件審決の予告後、平成25年6月25日付けで本件訂正請求がなされた。


3.無効理由2についての当審の判断

(1)本件発明1についての当審の判断(無効理由2)
上記「第1 手続の経緯」および「第2 本件発明」の「1.訂正請求について」で述べたように、審決の予告後の平成25年6月25日付け訂正請求によって、本件発明1は「ポリマー外層」に含まれる「ポリチオフェン」、「ポリマーアニオン」、「結合剤」が、それぞれ「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」、「ポリスチレンスルホン酸」、「スルホン化ポリエステル」であるものに限定された。
そして、上記「第2 本件発明」の「(2)本件訂正請求についての判断」で述べたように、本件訂正請求については、これを認めるものである。

本件発明1に関する無効理由2は、上記「(1-1)審判請求書における請求人の主張(無効理由2)」(オ)のように概略、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した内容を越えて特許を請求するものであるから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないというものであって、
より具体的には、本件発明1で特定される「ポリマー外層」に含まれる成分のうち、
(i)「ポリチオフェン」について、実施例には「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」の一例のみが記載されているにすぎない。
(ii)「ポリマーアニオン」について、実施例には「ポリスチレンスルホン酸」のみが記載されているにすぎない。
(iii)「結合剤」について、実施例には「スルホン化ポリエステル」のみが記載されているにすぎない。
というものである。(上記(1-1)(ウ)、(エ))
本件訂正請求により、本件発明1の「ポリマー外層」に含まれる上記3成分は、実施例記載の上記3つの具体的成分に限定されたので、請求人の主張はその根拠を欠くものとなった。
そして、本件訂正請求により訂正された本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法36条第6項1号に規定する要件を満たすものである。

(2)本件発明2?31について当審の判断(無効理由2)
本件発明2?31は、削除となった請求項9?11に係る本件発明9?11を除き、直接又は間接に本件発明1の記載を引用して記載されているものであるから本件発明1の構成要件を含んでおり、その点において本件発明1と同様の理由により、特許法36条第6項1号に規定する要件を満たすものである。

(3)請求人の審判事件弁駁書における主張について
前述のように請求人は、審決の予告後の訂正請求書に対する審判事件弁駁書(平成25年8月8日付け)において、無効理由2に関し概略、
審決の予告において指摘された事情は、固体電解質に含まれる「導電性物質」(請求項1)と「導電性ポリマー」(請求項2)についても同様であり、訂正後の特許請求の範囲によってもなお無効理由2は解消していない旨を主張している。

しかしながら、本件特許明細書の記載全体を参酌するに、本件発明は基本的に「ポリマー外層」の構成をその特徴とするものであって、「固体電解質」に含まれる「導電性物質」(請求項1)と「導電性ポリマー」(請求項2)については、「ポリマー外層」と同様な記載要件までは求められないものであるから、請求人の主張を採用することは出来ない。


(4)無効理由2についてのむすび
以上のとおりであるから、本件発明1?31については、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法36条第6項1号に規定する要件を満たしており、無効理由2によって無効とすることはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?31は、請求人の主張する無効理由1,2によっては、これを無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり、審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリマー外層を有する電解コンデンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーから製造された固体電解質および導電性ポリマー並びにポリマーアニオンを含有する外層からなり、低い等価直列抵抗および低い漏れ電流を有する電解コンデンサ、その製造、およびそのような電解コンデンサの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、一般に多孔質金属電極、金属表面に設置された酸化物層、多孔質構造物中に挿入された導電性固体、外部電極、例えば銀層、およびさらなる電気接点並びに封入からなる。
固体電解コンデンサの例は、タンタル、アルミニウム、電荷移動錯体を有するニオブおよび酸化ニオブコンデンサ、二酸化マンガンまたはポリマー固体電解質である。多孔質体の使用は、非常に高い容量密度、即ち高いキャパシタンスが、大きな表面積の故に小さなスペースで達成できるという利点を有する。
【0003】
π共役ポリマーは、それらの高い導電性の故に、固体電解質として特に適している。π共役ポリマーは、いわゆる導電性ポリマーまたは合成金属とも呼ばれる。それらは、経済的にますます重要になっている。なぜならポリマーは、加工性、質量、および化学変性による目的とする性質調節に関し、金属に対して利点を有するからである。ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p-フェニレンビニレン)は、既知のπ共役ポリマーの例であり、しばしばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とも呼ばれるポリ-3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェンは、それが酸化形態で非常に高い導電性を有するので、特に重要な工業的に使用されるポリチオフェンである。
【0004】
エレクトロニクスにおける技術の発展により、非常に低い等価直列抵抗(ESR)を有する固体電解コンデンサが、ますます必要とされる。これは、例えば集積回路における論理電圧の減少、より高い集積密度およびクロック周波数の向上による。低いESRは、エネルギー消費も減少させ、これは、特に携帯のバッテリー稼動用途のために特に有利である。それゆえ、固体電解コンデンサのESRをできる限り低下させるという要請が存在する。
【0005】
欧州特許出願公開第340 512号は、3,4-エチレン-1,2-ジオキシチオフェンから製造される固体電解質の製造および酸化重合により製造されるカチオン性ポリマーの電解コンデンサ中における固体電解質としての使用を記載している。固体電解コンデンサ中における二酸化マンガンまたは電荷移動錯体の代用品としてのポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、より高い導電性の故にコンデンサの等価直列抵抗を低下させ、周波数挙動を向上させる。
【0006】
低いESRに加えて、現代の固体電解コンデンサには、低い漏れ電流および外部応力に対する良好な安定性が要求される。コンデンサアノードの漏れ電流を大幅に上昇させ得る高い機械的応力は、特に製造プロセスの際のコンデンサアノードの封入時に生ずる。
そのような応力に対する安定性、およびそれによる低い漏れ電流は、主として、コンデンサアノード上に導電性ポリマーから形成された厚さ約5?50μmの外層により達成することができる。そのような層は、コンデンサアノードおよびカソード側電極の間の機械的バッファとして使用される。これは、例えば機械的応力を受けたときに、電極がアノードと直接接触することを防ぐか、またはそれが損傷して、コンデンサの漏れ電流を上昇することを防ぐ。導電性ポリマーの外層自体は、自己修復挙動として知られるものを示す。バッファ効果にもかかわらず生ずる外部アノード表面上における誘電体中の比較的小さな欠陥は、電流による欠陥点で破壊される外層の導電性によって、電気的に絶縁される。
【0007】
厚い外層のインサイチュー重合による形成は、非常に困難である。層形成は、非常に多数の被覆サイクルをこの方法において要求する。多数の被覆サイクルの結果として、外層は非常に不均一に被覆され、特にコンデンサアノードのエッジは、しばしば不充分にしか被覆されない。特開2003-188052号公報は、均一なエッジ被覆が費用のかかる加工パラメーターの整合を必要とすることを記載している。しかしながらこれにより、製造方法は非常に中断しやすくなる。急速な層構築のための結合剤物質の添加も、結合剤物質が酸化インサイチュー重合を妨げるので困難である。さらにインサイチューで重合された層は、一般に、ポリマー層にホールを生じさせる残留塩を、洗浄により無くす必要がある。
【0008】
良好なエッジ被覆を有する密な外層を、電気化学重合により達成することができる。しかしながら電気化学重合は、まず導電性箔を、コンデンサアノードの絶縁酸化物層に付着させ、次いでこの層を、各コンデンサのために電気的に接触させることを必要とする。この接触は、大量生産では非常に複雑であり、酸化物層を損傷し得る。
導電性ポリマーおよび結合剤の粉末を含有する配合物の使用は、個々の粉末粒子間の高い接触抵抗の故に、それらから低いESRを有する固体電解コンデンサを製造させるためには過剰の電気抵抗を有する。
【0009】
特開2001-102255号公報および特開2001-060535号公報では、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDT/PSS)(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸錯体またはPEDT/PSS錯体とも呼ばれる。)の層が、酸化物膜を保護するため、および酸化物膜への固体電解質の向上した接着のために、直接酸化物膜に適用される。次いでこの外層は、インサイチュー重合により、またはコンデンサアノードのテトラシアノキノジメタン塩溶液での含浸によりこの層に適用される。しかしながらこの方法は、PEDT/PSS錯体が、小さな孔を有する多孔質アノード体に浸透しないという欠点を有する。その結果、現代の高多孔質アノード物質を使用することができない。
【0010】
米国特許第6,001,281号は、実施例において、インサイチューで製造されたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)から製造された固体電解質およびPEDT/PSS錯体から製造された外層を有するコンデンサを記載している。しかしながらこれらコンデンサの欠点は、それらが130mΩおよびそれ以上の高いESRを有することである。
【特許文献1】欧州特許出願公開第340 512号
【特許文献2】特開2003-188052号公報
【特許文献3】特開2001-102255号公報
【特許文献4】特開2001-060535号公報
【特許文献5】米国特許第6,001,281号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それゆえ、良好なエッジ被覆を持つ密なポリマー外層および低い漏れ電流を有し、低い等価直列抵抗(ESR)を有する固体電解コンデンサに対する要求がなお存在する。また、そのようなコンデンサの製造方法に対する要求がなお存在する。
従って本発明の目的は、そのようなコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、導電性ポリマーから製造された固体電解質、並びにポリチオフェンおよび結合剤を含有する外層を有する固体電解コンデンサが、これらの要件を満たすことが見出された。
【発明を実施するための最良形態】
【0013】
即ち、本発明は、
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位:
【化1】

〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕
を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含むことを特徴とする電解コンデンサに関する。
【0014】
一般式(I)および(II)は、x個の置換基Rがアルキレン基Aと結合することができるというように理解されるべきである。
電極物質は、好ましくは多孔質焼結圧縮物または蝕刻箔の形態の大きな表面積を有する多孔質体を本発明の電解コンデンサ中に形成する。これは、以下で電極体とも略される。
誘電体で被覆されている電極体は、以下で酸化電極体とも略される。用語「酸化電極体」は、電極体の酸化では製造されていない誘電体により被覆されている電極体も含む。
【0015】
誘電体および全体的または部分的に固体電解質で被覆されている電極体は、以下でコンデンサ体とも略される。
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含み、外面上に設置されている層は、以下でポリマー外層とも略される。
【0016】
ポリマー外層は、好ましくは少なくとも1種の有機結合剤を含む。ポリマー有機結合剤の例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸アミド、ポリアクリロニトリル、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステルおよびエチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、メラミンホルムアルデヒド樹脂、エポキシド樹脂、シリコーン樹脂またはセルロースを含む。本発明の範囲内のさらなるポリマー有機結合剤は、架橋剤、例えばメラミン化合物、マスクドイソシアネートまたは官能性シラン、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、テトラエトキシシランおよびテトラエトキシシラン水解物または架橋性ポリマー、例えばポリウレタン、ポリアクリレートまたはポリオレフィンを添加し、次いで架橋することにより製造することができるものを含む。ポリマー架橋剤として適しているこの種の架橋性生成物を、例えば添加された架橋剤とポリマーアニオンとの反応によっても形成し得る。この場合、ポリマー外層中の架橋化ポリアニオンは、次いでポリマーアニオンおよび結合剤の機能を引き受ける。この種の架橋化ポリアニオンを含有するコンデンサも、本発明の範囲内におけるコンデンサとして理解されるべきである。完成コンデンサがその後にさらされる温度、例えば220?260℃のはんだ付け温度に耐えるために充分に耐熱性である結合剤が、好ましい。
外層中のポリマー結合剤含有量は、1?90%、好ましくは5?80%、より好ましくは20?60%である。
【0017】
本発明にとって用語「ポリマー」は、1つよりも多い同じまたは異なる反復単位を有するあらゆる化合物を含む。
導電性ポリマーは、酸化または還元後に導電性を有するπ共役ポリマーの種類を意味するために用いられる。酸化後に導電性を有する導電性ポリマーからのπ共役ポリマーが、本発明にとって好ましい。
【0018】
本発明において接頭辞ポリは、1つよりも多い同じまたは異なる反復単位が、ポリマーまたはポリチオフェン中に含有されることを意味するために用いられる。ポリチオフェンは、合計n個の一般式(I)、(II)または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有し、nは、2?2,000、好ましくは2?100の整数である。一般式(I)および/または(II)で示される反復単位は、それぞれ、ポリチオフェン中で同じまたは異なるものであり得る。各場合に一般式(I)、(II)または(I)および(II)で示される同じ反復単位を有するポリチオフェンが、好ましい。
末端基でポリチオフェンは、それぞれ、好ましくはHを有する。
【0019】
固体電解質は、任意に置換されていてよいポリチオフェン、ポリピロールおよびポリアニリンを導電性ポリマーとして含有し得る。
本発明の好ましい導電性ポリマーは、式中のA、Rおよびxが、一般式(I)および(II)のために上で与えられた意味を有する、一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンである。
【0020】
式中のAが任意に置換されていてよいC_(2)?C_(3)アルキレン基を表し、xが0または1を表す、一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンが、特に好ましい。
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が、固体電解質の導電性ポリマーとして最も好ましい。
【0021】
本発明の範囲内においてC_(1)?C_(5)アルキレン基Aは、メチレン、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレンまたはn-ペンチレンである。本発明においてC_(1)?C_(18)アルキルは、直鎖または分枝C_(1)?C_(18)アルキル基、例えばメチル、エチル、n-若しくはイソプロピル、n-、イソ-、sec-若しくはt-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1-エチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシルまたはn-オクタデシルを表し、C_(5)?C_(12)シクロアルキルは、C_(5)?C_(12)シクロアルキル基、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルを表し、C_(5)?C_(14)アリールは、C_(5)?C_(14)アリール基、例えばフェニルまたはナフチルを表し、C_(7)?C_(18)アラルキルは、C_(7)?C_(18)アラルキル基、例えばベンジル、o-、m-、p-トリル、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-キシリルまたはメシチルを表す。前記のリストは、例として本発明を説明するために使用され、決定的なものとみなされるべきではない。
【0022】
多くの有機基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボン酸塩、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシランの基並びにカルボキシアミド基を、C_(1)?C_(5)アルキレン基Aのための任意のさらなる置換基として考慮することができる。
【0023】
本発明の電解コンデンサ中に固体電解質として含有されるポリチオフェンは、中性またはカチオン性であり得る。好ましい実施態様において、それらはカチオン性である。「カチオン性」は、単にポリチオフェン主鎖上に位置する電荷を指す。R基上の置換基に応じてポリチオフェンは、正および負の電荷を構造単位中に帯びることができ、正電荷は、ポリチオフェン主鎖上に位置し、負電荷は、任意に、スルホネートまたはカルボキシレートの基により置換されているR基上に位置する。この場合にポリチオフェン主鎖の正電荷を、部分的または全体的に、R基上に任意に存在するアニオン性基により補うことができる。全体的に見て、これらの場合のポリチオフェンは、カチオン性、中性、またはアニオン性でさえあり得る。それにもかかわらずそれらは、全て、本発明の範囲内においてカチオン性ポリチオフェンとして考察される。なぜならポリチオフェン主鎖上の正電荷が重要だからである。正電荷は、式中に示されていない。なぜならそれらの正確な数および位置を、完全に確定することができないからである。しかしながら正電荷数は、少なくとも1および多くてnであり、nは、ポリチオフェン中における全ての反復単位(同じまたは異なるもの)の総数である。
【0024】
正電荷を補うために、これが、任意にスルホネートまたはカルボキシレートで置換され、そうして負に帯電したR基の結果として既になされていない場合に、カチオン性ポリチオフェンは、対イオンとしてアニオンを必要とする。
対イオンは、モノマーまたはポリマーアニオンであり得、後者は以下でポリアニオンとも呼ばれる。
【0025】
好ましいポリマーアニオンは、例えば、ポリマーカルボン酸、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくはポリマレイン酸、またはポリマースルホン酸、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸のアニオンであり得る。これらのポリカルボン酸およびスルホン酸はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と、他の重合性モノマー、例えばアクリル酸エステルおよびスチレンとのコポリマーであり得る。
【0026】
好ましくはモノマーアニオンが、固体電解質のために使用される。なぜならそれらは、酸化電極体に良好に浸透するからである。
適当なモノマーアニオンは、例えばC_(1)?C_(20)アルカンスルホン酸、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン若しくは高級スルホン酸、例えばドデカンスルホン酸のアニオン、脂肪族パーフルオロスルホン酸、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸若しくはパーフルオロオクタンスルホン酸のアニオン、脂肪族C_(1)?C_(20)カルボン酸、例えば2-エチルヘキシルカルボン酸のアニオン、脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸若しくはパーフルオロオクタン酸のアニオン、任意にC_(1)?C_(20)アルキル基により置換されている芳香族スルホン酸、例えばベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはドデシルベンゼンスルホン酸のアニオン、およびシクロアルカンスルホン酸、例えばカンファースルホン酸のアニオン、またはテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、パークロレート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセナート若しくはヘキサクロロアンチモネートを含む。
【0027】
p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはカンファースルホン酸のアニオンが好ましい。
電荷補償のために対イオンとしてアニオンを含有するカチオン性ポリチオフェンは、しばしば専門家にポリチオフェン/(ポリ)アニオン錯体としても知られている。
【0028】
導電性ポリマーおよびまた任意に対イオンとは別に、固体電解質は、結合剤、架橋剤、界面活性物質、例えばイオン若しくは非イオン界面活性剤または接着剤および/またはさらなる接着剤も含有し得る。
接着剤は、例えば有機官能性シランおよびそれらの水解物、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはオクチルトリエトキシシランである。
【0029】
固体電解質は、好ましくは導電性ポリマーおよび対イオンとしてのモノマーアニオンを基本的に含む。
固体電解質は、誘電体表面上で、好ましくは200nm未満、特に好ましくは100nm未満、より好ましくは50nm未満の厚さを有する層を形成する。
【0030】
誘電体の固体電解質による被覆は、本発明の範囲内において以下のように定められる:コンデンサのキャパシタンスは、乾燥および湿潤状態において120Hzで測定される。被覆率は、割合(%)として表される湿潤状態のキャパシタンスに対する乾燥状態でのキャパシタンスの比である。乾燥状態は、コンデンサが、その測定前に高温(80?120℃)で数時間乾燥されたことを意味する。湿潤状態は、コンデンサが、例えば蒸気圧容器内において高圧で数時間、飽和大気水分にさらされたことを意味する。水分は、固体電解質により被覆されていない孔に浸透し、その中で液体電解質として作用する。
誘電体の固体電解質による被覆は、好ましくは50%を超え、特に好ましくは70%を超え、より好ましくは80%を超える。
【0031】
外面は、コンデンサ体の外側の面を意味するために用いられる。本発明により、並びに概略的におよび例として図1および図2で示されるように、ポリマー外層は、他の面の全部またはその一部の上に設置される。
【0032】
図1は、
1 コンデンサ体
5 ポリマー外層
6 グラファイト/銀層
7 電極体へのワイヤ接点
8 接点
9 封入
10 詳細
を含む、タンタルコンデンサの例における固体電解コンデンサの構造を示す該略図である。
【0033】
図2は、
10 詳細
2 多孔質電極体
3 誘電体
4 固体電解質
5 ポリマー外層
6 グラファイト/銀層
を含む、タンタルコンデンサの概略的な層構造を再現する、実施例1からの拡大した詳細を示す。
【0034】
幾何表面積は、幾何寸法から得られるコンデンサ体の外面を意味するために以下で用いられる。直角平行の焼結圧縮物に対する幾何表面積は、従って:
幾何表面積=2(L×B+L×H+B×H)
〔式中、Lは該体の長さであり、Bは幅であり、Hは高さであり、×は乗法の記号を表す。〕
である。ポリマー外層が設置されているコンデンサ体の一部分のみが調べられる。
【0035】
複数のコンデンサ体がコンデンサ中で使用される場合、個々の幾何表面積の合計が、総幾何表面積となる。
例えば巻かれた箔を多孔質電極体として含有する固体電解コンデンサのために、展開された箔(長さ、幅)の寸法が、測定値として使用される。
固体電解質中におけるポリチオフェンのためのものと同じ優先範囲が、ポリマー外層中にある一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンに当てはまる。
【0036】
ポリマーアニオンは、一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンのための対イオンとして機能し得る。しかしながら追加の対イオンも、層中に供給することができる。しかしながらポリマーアニオンが、好ましくはこの層で対イオンとして使用される。
【0037】
ポリマーアニオンは、例えばポリマーカルボン酸、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくはポリマレイン酸、またはポリマースルホン酸、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸のアニオンであり得る。これらのポリカルボン酸およびスルホン酸はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と、他の重合性モノマー、例えばアクリル酸エステルおよびスチレンとのコポリマーであり得る。
ポリマーカルボン酸またはスルホン酸のアニオンが、ポリマーアニオンとして好ましい。
ポリスチレンスルホン酸(PSS)のアニオンが、ポリマーアニオンとして好ましい。
【0038】
ポリアニオンを供給するポリ酸の分子量は、好ましくは1,000?2,000,000、好ましくは2,000?500,000である。ポリ酸またはそのアルカリ金属塩は、市販されている、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリアクリル酸であるか、または代わりに既知の方法により製造することができる(例えばHouben Weyl,Processen der organischen Chemie,第E 20巻 Makromolekulare Stoffe,第2部,(1987),p.1141以降を参照)。
【0039】
ポリマーアニオンおよびポリチオフェンは、ポリマー外層中に、0.5:1?50:1、好ましくは1:1?30:1、特に好ましくは2:1?20:1の質量比で存在し得る。ここでポリチオフェンの質量は、重合中に完全な転化があることを想定して、使用モノマーの計量部分に対応する。
ポリマー外層は、モノマーアニオンも含有し得る。固体電解質のために上で列挙したものと同じ好ましい範囲が、モノマーアニオンに当てはまる。
【0040】
ポリマー外層は、さらなる成分、例えば界面活性物質、例えばイオンおよび非イオン界面活性剤または接着剤、例えば有機官能性シランおよびそれらの水解物、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはオクチルトリエトキシシランも含有し得る。
【0041】
ポリマー外層の厚さは、1?1,000μm、好ましくは1?100μm、特に好ましくは2?50μm、より好ましくは4?20μmである。膜厚は、外面上で変わり得る。特に膜厚は、コンデンサ体の側面よりもキャパシタ体のエッジでより厚くまたは薄くなり得る。実質的に均一な厚さの層が好ましい。
ポリマー外層は、結合剤、導電性ポリマーおよびポリマーアニオンに関するその組成について均一または不均一な分布を有し得る。均一な分布が好ましい。
【0042】
ポリマー外層は、コンデンサ体の外層を形成する多層系の構成要素であり得る。それゆえ1枚またはそれ以上のさらなる機能層を、本発明の固体電解質およびポリマー外層の間に設置することができる。さらなる機能層を、本発明のポリマー外層上に設置することもできる。複数の本発明のポリマー外層を、コンデンサ体上に設置することもできる。
ポリマー外層は、好ましくは固体電解質上に直接設置される。ポリマー外層は、固体電解質との良好な電気接触を達成するためおよびコンデンサ体への接着を向上させるために、好ましくはコンデンサ体のエッジ領域に浸透するが、全ての孔の全部の深さには浸透しない(例えば図2参照)。
【0043】
特に好ましい実施態様において本発明の電解コンデンサは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)を含有する固体電解質、並びにポリスチレンスルホン酸(PSS)およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(これは、しばしばPEDOT/PSSまたはPEDT/PSSとも呼ばれる。)を含有するポリマー外層を含有する。
特に好ましい実施態様において本発明の電解コンデンサは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびモノマー対イオンから製造された固体電解質、並びにPEDT/PSSおよび結合剤から製造されたポリマー外層を含む。
【0044】
本発明は、好ましくは、電極物質がバルブ金属または同等の性質を有する化合物であることを特徴とする、本発明による電解コンデンサにも関する。
本発明の範囲内においてバルブ金属は、酸化物層が等しい双方向の電流の流れを許さない金属を意味するために用いられる。アノードに適用される電圧では、バルブ金属の酸化物層は、電流の流れを遮断し、一方カソードに適用される電圧では、酸化物層を破壊することができる大電流が生ずる。バルブ金属は、Be、Mg、Al、Ge、Si、Sn、Sb、Bi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびW、並びに少なくとも1種のこれら金属と他の元素との合金または化合物を含む。バルブ金属の最もよく知られている典型は、Al、TaおよびNbである。同等の性質を有する化合物は、酸化され得る金属的な導電性を有する化合物であり、その酸化物層は、上記の性質を有する。例えばNbOは、金属的な導電性を有するが、一般にバルブ金属とはみなされない。しかしながら酸化NbO層は、バルブ金属酸化物層の典型的な性質を有し、そうしてNbO、またはNbOと他の元素との合金もしくは化合物は、そのような同等の性質を有する化合物の典型例である。
【0045】
従って用語「被酸化性金属」は、金属だけでなく、それらが金属的な導電性を有し、酸化され得る限り、金属と他の元素との合金または化合物も意味するために用いられる。
それゆえ本発明は、特に好ましくは、バルブ金属または同等の性質を有する化合物が、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、少なくとも1種のこれら金属と他の元素との合金若しくは化合物、NbO、またはNbOと他の元素との合金若しくは化合物であることを特徴とする電解コンデンサに関する。
誘電体は、好ましくは電極物質の酸化物からなる。それは、任意にさらなる元素および/または化合物を含有する。
【0046】
酸化電極体のキャパシタンスは、誘電体の種類に加えて、誘電体の表面積および厚さに依存する。電荷-質量比は、酸化電極体が、質量の単位あたりにどれほど電荷を吸収することができるかの尺度である。電荷-質量比は、以下のように計算される:
電荷-質量比=(キャパシタンス×電圧)/酸化電極体の質量。
該キャパシタンスは、120Hzで測定される完成コンデンサのキャパシタンスから得られ、該電圧は、コンデンサの運転電圧である(定格電圧)。該酸化電極体の質量は、ポリマー、接点および封入の無い、単に誘電体で被覆された多孔質電極物質の質量に基づく。
本発明の電解コンデンサは、好ましくは10,000μC/gより高い、特に好ましくは20,000μC/gより高い、より好ましくは30,000μC/gより高い、最もこのましくは40,000μC/gより高い電荷-質量比を有する。
【0047】
本発明の固体電解コンデンサは、低い漏れ電流および低い等価直列抵抗により特徴づけられる。ポリマー外層が、コンデンサ体のまわりに密な層を形成し、そのエッジを非常に良好に被覆するので、コンデンサ体は、機械的応力に対して丈夫である。さらにポリマー外層は、コンデンサ体への良好な接着および高い導電性を示し、それにより低い等価直列抵抗を達成することができる。
【0048】
本発明は、好ましくは、100kHzで測定して51mΩ未満のESRを有する電解コンデンサに関する。本発明の電解コンデンサの周波数100kHzで測定されるESRは、特に好ましくは31mΩ未満、より好ましくは21mΩ未満、最も好ましくは16mΩ未満である。本発明の電解コンデンサの特に好ましい実施態様では、ESRは11mΩ未満である。
【0049】
固体電解コンデンサの等価直列抵抗は、コンデンサ体の幾何表面積に反比例する。従って等価直列抵抗と幾何表面積との積は、全寸法とは無関係な変数を与える。
それゆえ本発明は、好ましくは、100kHzで測定した等価直列抵抗とコンデンサ体の幾何表面積との積が、4,000mΩmm^(2)未満である電解コンデンサにも関する。等価直列抵抗と幾何表面積との積は、特に好ましくは3,000mΩmm^(2)未満、より好ましくは2,000mΩmm^(2)未満、最も好ましくは1,000mΩmm^(2)未満である。本発明の電解コンデンサの特に好ましい実施態様では、等価直列抵抗と幾何表面積との積は600mΩmm^(2)未満である。
【0050】
この種の本発明による電解コンデンサは、基本的に以下のように製造される:まず、例えば大きな表面積を有する粉末が、圧縮および焼結して多孔質体を形成される。金属箔を蝕刻して、多孔質箔を得ることもできる。次いで電極体が、誘電体、即ち酸化物層で、例えば電気化学的酸化により被覆される。固体電解質を形成する導電性ポリマーが、誘電体上に酸化重合により化学的または電気化学的に付着させられる。本発明の、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含有する層が、次いで分散体から任意にさらなる層の適用後に、酸化電極体に適用される。さらなる層が、任意にポリマー外層に適用される。易導電層、例えばグラファイトおよび銀での被覆または金属カソード体が、電流を放出するための電極として使用される。最後にコンデンサが、接触および封入される。
【0051】
それゆえ本発明は、本発明の電解コンデンサの製造方法にも関し、該方法により、導電性ポリマーを製造するための前駆体、1種またはそれ以上の酸化剤および任意に対イオンを、一緒にまたは連続して、任意に溶液の形態で、任意にさらなる層で被覆されている多孔質電極体の誘電体に適用し、-10℃?250℃の温度での化学的酸化により重合させることによって、または導電性ポリマーを製造するための前駆体および対イオンを、任意に溶液から、任意にさらなる層で被覆されている多孔質電極体の誘電体上で、-78℃?250℃の温度での電気化学重合により重合させることによって、少なくとも1種の導電性ポリマーを含む固体電解質を製造し、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位:
【化2】

〔式中、A、Rおよびxは、一般式(I)および(II)のために上で与えられた意味を有する。〕
を有する少なくとも1種のポリチオフェン並びに少なくとも1種の結合剤を含む分散体から、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含む層を、任意にさらなる層の適用後に、コンデンサ体に適用する。
【0052】
導電性ポリマーを製造するための前駆体(以下で前駆体とも呼ばれる。)は、対応するモノマーまたはその誘導体を意味するために用いられる。異なる前駆体の混合物も使用することができる。適当なモノマー前駆体は、例えば任意に置換されていてよいチオフェン、ピロールまたはアニリン、好ましくは任意に置換されていてよいチオフェン、特に好ましくは任意に置換されていてよい3,4-アルキレンジオキシチオフェンを含む。
【0053】
置換3,4-アルキレンジオキシチオフェンの例は、一般式(III)、(IV):
【化3】

〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基、好ましくは任意に置換されていてよいC_(2)?C_(3)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、好ましくは直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(14)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基、好ましくは任意に置換されていてよいC_(1)?C_(2)ヒドロキシアルキル基、またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8、好ましくは0?6、特に好ましくは0または1の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕
で示される化合物、または一般式(III)および(IV)で示されるチオフェンの混合物を含む。
【0054】
とりわけ好ましいモノマー前駆体は、任意に置換されていてよい3,4-エチレンジオキシチオフェンである。
置換3,4-エチレンジオキシチオフェンの例は、一般式(V):
【化4】

〔式中、Rおよびxは、一般式(III)および(IV)のために与えられた意味を有する。〕
で示される化合物を含む。
【0055】
これらモノマー前駆体の誘導体は、本発明により、例えばこれらモノマー前駆体のダイマーまたはトリマーを含むと理解される。モノマー前駆体の高分子量誘導体、即ちテトラマー、ペンタマーなども、誘導体として可能である。
一般式(VI):
【化5】

〔式中、
nは、2?20、好ましくは2?6、特に好ましくは2または3の整数を表し、
A、Rおよびxは、一般式(III)および(IV)のために与えられた意味を有する。〕
で示される化合物が、置換3,4-アルキレンジオキシチオフェンの誘導体例として挙げられる。
【0056】
誘導体を、同じまたは異なるモノマー単位から製造することができ、純粋形態並びに相互および/またはモノマー前駆体との混合物で使用することができる。これら前駆体の酸化または還元形態も、その重合中に上で列挙した前駆体の場合と同じ導電性ポリマーが製造される場合、本発明の範囲内における用語「前駆体」により包含される。
【0057】
一般式(III)および(IV)のRのために挙げられる基は、前駆体のため、特にチオフェンのため、好ましくは3,4-アルキレンジオキシチオフェンのための置換基として考慮することができる。
C_(1)?C_(5)アルキレン基A、およびC_(1)?C_(5)アルキレン基Aのさらなる任意の置換基は、一般式(I)および(II)で示されるポリマーのために上で列挙されたものに相当する。
【0058】
導電性ポリマーおよびそれらの誘導体を製造するためのモノマー前駆体の製造方法は、当業者に知られており、例えばL.Groenendaal,F.Jonas,D.Freitag,H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds,Adv.Mater.12(2000)481-494、およびその中で引用されている文献に記載されている。
使用されるポリチオフェンの製造のために必要な、式(III)で示される3,4-アルキレンオキシチアチオフェンは、当業者に知られており、または既知の方法により(例えばP.Blanchard,A.Cappon,E.Levillain,Y.Nicolas,P.FrereおよびJ.Roncali,Org.Lett.4(4),2002,p.607-609により)製造することができる。
【0059】
前駆体、酸化剤および任意に対イオンが、好ましくは溶液形態で、別に連続的にまたは一緒に電極体の誘電体に適用され、使用酸化剤の活性に応じて、任意に被覆を加熱することにより酸化重合が完了させられることによって、導電性ポリマーは、誘電体により被覆されている電極体上で、導電性ポリマーを製造するための前駆体の酸化重合により製造される。
【0060】
電極体の誘電体への適用は、直接に、または接着剤、例えばシラン、例えば有機官能性シラン若しくはそれらの水解物、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン若しくはオクチルトリエトキシシラン、および/または1種またはそれ以上の異なる官能性層を使用して行うことができる。
式(III)または(IV)で示されるチオフェンの化学的酸化による重合は、使用酸化剤および所望の反応時間に応じて、一般に-10℃?250℃の温度で、好ましくは0℃?200℃の温度で行われる。
【0061】
反応条件下で不活性である以下の有機溶媒が、主として導電性ポリマーを製造するための前駆体および/または酸化剤および/または対イオンのための溶媒として挙げられる:脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびブタノール、脂肪族ケトン、例えばアセトンおよびメチルエチルケトン、脂肪族カルボン酸エステル、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチル、芳香族炭化水素、例えばトルエンおよびキシレン、脂肪族炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサン、クロロ炭化水素、例えばジクロロメタンおよびジクロロエタン、脂肪族ニトリル、例えばアセトニトリル、脂肪族スルホキシドおよびスルホン、例えばジメチルスルホキシドおよびスルホラン、脂肪族カルボン酸アミド、例えばメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミド、脂肪族および芳香脂肪族エーテル、例えばジエチルエーテルおよびアニソール。水または水と上記有機溶媒との混合物も、溶媒として使用することができる。
【0062】
チオフェン、アニリンまたはピロールの酸化重合のために適しており、当業者に知られているあらゆる金属塩を、酸化剤として使用することができる。
適当な金属塩は、元素周期表の主族または亜族金属(亜族金属は、以下で遷移金属とも呼ばれる。)の金属塩を含む。適当な遷移金属塩は、特に、遷移金属、例えば鉄(III)、銅(II)、クロム(VI)、セリウム(IV)、マンガン(IV)、マンガン(VII)およびルテニウム(III)の、無機若しくは有機酸、または有機基を有する無機酸の塩を含む。
【0063】
好ましい遷移金属塩は、鉄(III)の塩を含む。通例の鉄(III)塩は、有利に安価であり、容易に入手することができ、容易に取り扱うことができ、例えば無機酸の鉄(III)塩、例えばハロゲン化鉄(III)(例えばFeCl_(3))、または他の無機酸の鉄(III)塩、例えばFe(ClO_(4))若しくはFe_(2)(SO_(4))_(3)、並びに有機酸および有機基を有する無機酸の鉄(III)塩である。
C_(1)?C_(20)アルカノールの硫酸モノエステルの鉄(III)塩、例えば硫酸ラウリル鉄(III)塩は、有機基を有する無機酸の鉄(III)塩の例として挙げられる。
【0064】
特に好ましい遷移金属塩は、有機酸の塩、特に有機酸の鉄(III)塩を含む。
有機酸の鉄(III)塩の例は、C_(1)?C_(20)アルカンスルホン酸、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタンまたは高級スルホン酸、例えばドデカンスルホン酸の鉄(III)塩、脂肪族パーフルオロスルホン酸、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸の鉄(III)塩、脂肪族C_(1)?C_(20)カルボン酸、例えば2-エチルヘキシルカルボン酸の鉄(III)塩、脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸またはパーフルオロオクタン酸の鉄(III)塩、およびC_(1)?C_(20)アルキル基により任意に置換されていてよい芳香族スルホン酸、例えばベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸の鉄(III)塩、およびシクロアルカンスルホン酸、例えばカンファースルホン酸の鉄(III)塩を含む。
【0065】
これら上記の有機酸鉄(III)塩のあらゆる混合物も使用することができる。
有機酸および有機基を有する無機酸の鉄(III)塩の使用は、それらが腐食性ではないという大きな利点を有する
p-トルエンスルホン酸鉄(III)、o-トルエンスルホン酸鉄(III)、またはp-トルエンスルホン酸鉄(III)およびo-トルエンスルホン酸鉄(III)の混合物が、金属塩としてとりわけ好ましい。
【0066】
好ましい実施態様において金属塩は、その使用前に、イオン交換体、好ましくは塩基性アニオン交換体で処理されている。適当なイオン交換体の例は、例えば商品名Lewatit(商標)でBayer AG、レーフエルクーゼンにより販売されているような、スチレンおよびジビニルベンゼンから製造されており、第3級アミンを使用して官能化されているマクロ孔質ポリマーを含む。イオン交換体で処理されたそのような金属塩の製造は、独国特許出願公開第103 24 534号(DE 103 24 534)で記載されている。
【0067】
任意に触媒量の金属イオン、例えば鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンまたはバナジウムイオンの存在下における、ペルオキソ化合物、例えばペルオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、特にアンモニウムおよびアルカリ金属のペルオキソ二硫酸塩、例えばペルオキソ二硫酸ナトリウムおよびカリウム、またはアルカリ金属過ホウ酸塩、並びに遷移金属酸化物、例えば二酸化マンガン(酸化マンガン(IV))または酸化セリウム(IV)も、適当な酸化剤である。
【0068】
式(III)または(IV)で示されるチオフェンの酸化重合のために、理論的に2.25当量の酸化剤が、1モルあたりに要求される(例えばJ.Polym.Sc.Part A Polymer Chemistry 第26巻,p.1287(1988)を参照)。しかしながらより低いまたはより高い当量の酸化剤を使用することもできる。本発明により、1当量またはそれ以上、特に好ましくは2当量またはそれ以上の酸化剤が、チオフェン1モルあたりに使用される。
【0069】
前駆体、酸化剤および任意に対イオンが別に適用される場合、電極体の誘電体は、好ましくは初めに酸化剤および任意に対イオンの溶液で、次いで前駆体の溶液で被覆される。前駆体、酸化剤および任意に対イオンの好ましい組合せ適用により、電極体の誘電体は、1つの溶液、即ち前駆体、酸化剤および任意に対イオンを含有する溶液だけで被覆される。
【0070】
さらなる成分、例えば有機溶媒に溶解性の1種またはそれ以上の有機結合剤、例えばポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、シリコーン、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステルおよびエチレン/酢酸ビニルコポリマー、または水溶性結合剤、例えばポリビニルアルコール、架橋剤、例えばメラミン化合物、マスクドイソシアネートまたは官能性シラン(例えばテトラエトキシシラン、アルコキシシラン水解物、例えばテトラエトキシシランをベースとするもの、エポキシシラン、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン)、ポリウレタン、ポリアクリレートまたはポリオレフィン分散体、および/または添加剤、例えば界面活性物質、例えばイオン若しくは非イオン界面活性剤、または接着剤、例えば有機官能性シラン若しくはそれらの水解物、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランも、溶液に添加することもできる。
【0071】
電極体の酸化物層に適用される溶液は、好ましくは1?30質量%の一般式(III)で示されるチオフェンまたは一般式(III)および(IV)で示されるチオフェン混合物、並びに0?50質量%の結合剤、架橋剤および/または添加剤を含有する。ここで両方の質量割合(%)は、混合物の全質量を基準とする。
溶液は、電極体の誘電体上に既知の方法により、例えば含浸、流し込み、滴下適用、噴射、吹付け、ナイフ塗布、はけ塗、スピン塗布、または印刷、例えばインクジェット、スクリーン、密着若しくはパッド印刷により適用される。
【0072】
溶媒を、溶液適用後に、簡単に室温で蒸発させることにより除去することができる。しかしながらより高い処理速度を達成するために溶媒を、高温で、例えば20?300℃、好ましくは40?250℃の温度で除去することがより有利である。熱後処理を、溶媒除去と直接関連させることができ、または代わりに被覆完了後から遅れて行うこともできる。
被覆に使用するポリマー種に応じて、熱処理の継続時間は、5秒?数秒である。熱処理のために、異なる温度および遅延時間を有する温度プロフィルも使用し得る。
【0073】
例えば選択温度での所望の遅延時間が達成されるような速度で、被覆電極体が、所望の温度で加熱室を通して移動されるか、またはホットプレートと、所望の温度で所望の遅延時間で接触させられるように、熱処理を行うことができる。熱処理を、例えば1つの加熱炉、またはそれぞれ異なる温度を有する複数の加熱炉で行うこともできる。
溶媒除去(乾燥)後、および任意に熱後処理の後に、過剰の酸化剤および残留塩を被覆から適当な溶媒、好ましくは水またはアルコールを使用して洗浄することが有利であり得る。ここで残留塩は、酸化剤の還元形態の塩、および場合によりさらに存在する塩を意味するために用いられる。
【0074】
酸化物膜中の潜在的欠陥を修正し、その結果として完成コンデンサの漏れ電流を減少させるために、金属酸化物誘電体、例えばバルブ金属の酸化物を、重合後、好ましくは洗浄中またはその後に、電気化学的に酸化物膜に疑似化することが有利であり得る。この改質プロセスの際にコンデンサ体は電解質中に沈積され、正の電圧が電極体に適用される。電流は、酸化物膜中の欠陥点で酸化物を模倣し、高電流が流れる欠陥で導電性ポリマーを破壊する。
酸化電極体の種類に応じて、より厚いポリマー層を達成するために、好ましくは洗浄プロセス後に、酸化電極体を数回混合物で含浸させることが有利であり得る。
【0075】
ポリチオフェンを、前駆体から電気化学的酸化重合によっても製造することができる。
電気化学重合中に、誘電体で被覆されている電極を、まず導電性ポリマーの薄層で被覆することができる。この層に電圧を適用した後に、導電性ポリマーを含有する層はその上で成長する。他の導電層も、付着層として使用することができる。例えばY.Kudohらは、Journal of Power Sources 60 (1996) 157-163中で酸化マンガンの付着層の使用を記載している。
【0076】
前駆体の電気化学的酸化重合は、-78℃から、使用溶媒の沸点までの温度で行うことができる。電気化学重合は、好ましくは-78℃?250℃、特に好ましくは-20℃?60℃の温度で行われる。
反応時間は、使用される前駆体、使用される電解質、選択温度および適用される電流密度に応じて、1分?24時間である。
【0077】
前駆体が液状である場合、電解重合を、電解重合の条件下で不活性である溶媒の存在下または不存在下で行うことができる。固体前駆体の電解重合は、電解重合の条件下で不活性である溶媒の存在下で行われる。或る場合に、溶媒混合物を使用すること、および/または可溶化剤(洗剤)を溶媒に添加することが有利であり得る。
【0078】
電解重合の条件下で不活性である溶媒の例は、水、アルコール、例えばメタノールおよびエタノール、ケトン、例えばアセトフェノン、ハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素およびフッ化炭化水素、エステル、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチル、炭酸エステル、例えばプロピレンカーボネート、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、脂肪族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサン、ニトリル、例えばアセトニトリルおよびベンゾニトリル、スルホキシド、例えばジメチルスルホキシド、スルホン、例えばジメチルスルホン、フェニルメチルスルホンおよびスルホラン、液状脂肪族アミド、例えばメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-メチルカプロラクタム、脂肪族および混合脂肪族-芳香族エーテル、例えばジエチルエーテルおよびアニソール、液状尿素、例えばテトラメチル尿素、またはN,N-ジメチルイミダゾリジノンを含む。
【0079】
電解重合のために電解質添加剤が、前駆体またはその溶液に添加される。使用溶媒中でいくらかの溶解性を有する遊離酸または通例の支持電解質が、好ましくは電解質添加剤として使用される。遊離酸、例えばp-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、並びに例えばアルカンスルホネート、芳香族スルホネート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、パークロレート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセナートおよびヘキサクロロアンチモネートのアニオンと、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または任意にアルキル化されているアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムおよびオキソニウムのカチオンとを有する塩が、電解質添加剤であることが分かっている。
前駆体の濃度は、0.01?100質量%(液状前駆体でのみ100質量%)の間であり得、濃度は、好ましくは0.1?20質量%である。
【0080】
電解重合を、非連続または連続に行うことができる。
電解重合のための電流密度は、広い範囲にわたり得るが、通常0.0001?100mA/cm^(2)、好ましくは0.01?40mA/cm^(2)の電流密度が用いられる。約0.1?50Vの電圧が、これらの電流密度で得られる。
電気化学重合後に、酸化物膜中の潜在的な欠陥を修正し、その結果として完成コンデンサの漏れ電流を減少させるために、金属酸化物誘電体を、電気化学的に酸化物膜に似せさせることが有利であり得る(改質)。
【0081】
上で既に挙げたモノマーまたはポリマーアニオンは、対イオンとして適当であり、好ましくはモノマーまたはポリマーのアルカン若しくはシクロアルカンスルホン酸または芳香族スルホン酸のものである。モノマーのアルカン若しくはシクロアルカンスルホン酸または芳香族スルホン酸のアニオンは、本発明の電解コンデンサにおいて適用するために好ましい。なぜならこれらを含有する溶液は、誘電体で被覆されている多孔質アノード物質中へより多く浸透することができ、そうしてこれと固体電解質との間のより大きな接触面積を形成することができるからである。対イオンは、例えばそのアルカリ金属塩の形態で、または遊離酸として溶液に添加される。電気化学重合中にこれらの対イオンは、溶液またはチオフェンに、場合により電解質添加剤または支持電解質として添加される。
さらに、任意に存在する使用酸化剤のアニオンを、対イオンとして使用することができ、そうして追加の対イオンの添加は、化学的酸化重合の場合に必須ではない。
【0082】
固体電解質の製造後、および任意にさらなる層のコンデンサ体への適用後に、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位:
【化6】

〔式中、A、Rおよびxは、一般式(I)、(II)のために上で与えられた意味を有する。〕
を有する少なくとも1種のポリチオフェン並びに少なくとも1種の結合剤を含む分散体から、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含む層が形成される。
【0083】
分散体は、1種またはそれ以上の溶媒も含有し得る。前駆体のために既に上で挙げた溶媒を、その溶媒として使用することができる。好ましい溶媒は、水または他のプロトン性溶媒、例えばアルコール、例えばメタノール、エタノール、i-プロパノールおよびブタノール並びに水とこれらのアルコールとの混合物であり、特に好ましい溶媒は水である。
本発明の電解コンデンサに関連して既に上で列挙したポリマーアニオンおよび結合剤を、ポリマー外層中のポリマーアニオンおよび結合剤として考慮することができる。好ましい範囲は、同様にあらゆる組合せに当てはまる。
【0084】
結合剤の添加は、ポリマー外層のコンデンサ体への接着が向上するという大きな利点を有する。結合剤は、分散体中の不揮発分も増加させ、そうして充分な外層の厚みを含浸でさえ達成することができ、エッジ被覆が大幅に向上する。
本発明の電解コンデンサに関連して上で既に述べたことが、ポリマー外層中の一般式(I)および/または(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンに当てはまる。好ましい範囲は、同様にあらゆる組合せに当てはまる。
【0085】
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含有する分散体は、架橋剤、界面活性物質、例えばイオン若しくは非イオン界面活性剤または接着剤および/または添加剤も含有し得る。架橋剤、界面活性物質および/または添加剤を使用し得る。
分散体は、モノマーアニオンも含有し得る。
【0086】
分散体は、導電性を向上させるさらなる添加剤、例えばエーテル基含有化合物、例えばテトラヒドロフラン、ラクトン基含有化合物、例えばγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、アミド若しくはラクタム基含有化合物、例えばカプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルホルムアミド、N-メチルホルムアニリド、N-メチルピロリドン(NMP)、N-オクチルピロリドン、ピロリドン、スルホンおよびスルホキシド、例えばスルホラン(テトラメチレンスルホン)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、糖若しくは糖誘導体、例えばサッカロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、糖アルコール、例えばソルビトール、マンニトール、フラン誘導体、例えば2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸、および/またはポリアルコール、例えばエチレングリコール、グリセロール、ジ-若しくはトリエチレングリコールを、好ましくは含有する。テトラヒドロフラン、N-メチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドまたはソルビトールが、特に好ましくは導電性を向上させる添加剤として使用される。
【0087】
分散体は、一般式(III)、(IV)で示されるチオフェンまたは一般式(III)および(IV)で示されるチオフェン混合物から、例えば欧州特許出願公開第440 957号に挙げられている条件と同様に製造される。既に上で列挙した酸化剤、溶媒およびポリマーアニオンを、その酸化剤、溶媒およびポリマーアニオンとして使用し得る。
ポリチオフェン/ポリアニリン錯体の製造およびその後の1種またはそれ以上の溶媒中での分散または再分散も可能である。
【0088】
分散体は、既知の方法により、例えばスピン塗布、含浸、流し込み、滴下適用、噴射、吹付け、ナイフ塗布、はけ塗、または印刷、例えばインクジェット、スクリーン若しくはパッド印刷によりコンデンサ体上に適用される。
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)、(II)で示される反復単位若しくは一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含有し、乾燥状態で10S/cmより高い、特に好ましくは20S/cmより高い、より好ましくは50S/cmより高い、最も好ましくは100S/cmより高い比導電率を有する分散体が、好ましくは使用される。
【0089】
既に固体電解質のために上で記載したような乾燥、洗浄による層のクリーニング、改質および繰返し適用も、ポリマー外層の適用後に行い得る。使用される結合剤または架橋剤に応じて、さらなる処理工程、例えば温度または光による硬化または架橋も用いることができる。さらなる層もポリマー外層に適用し得る。
【0090】
驚くべきことに、低いESRおよび低い漏れ電流を有する固体電解質を製造するための分散体の適用および乾燥後に、酸化金属誘電体のために、層のさらなる処理工程は必要ではないことを見出した。ポリマー外層を製造する他の方法では、酸化物層は、通例、低い漏れ電流を達成するために導電性ポリマーの適用後に改質する必要がある。ポリマー外層は、電極におけるこの改質の結果として或る点でコンデンサ体から離れることがあり、それによりESRが上昇する。本発明の方法を使用する場合、改質プロセスを省略することができ、それによる漏れ電流の上昇は無い。
【0091】
電解コンデンサのために上で列挙したバルブ金属または同等の性質を有する化合物が、好ましくは電極体の製造のために使用される。好ましい範囲は同様に当てはまる。
被酸化性金属が、例えば粉末形態で多孔質電極体を形成するために焼結されるか、または多孔質構造物が、金属体上に印加される。これを、例えば箔を蝕刻することによっても行うことができる。
多孔質電極体は、例えば適当な電解質、例えばリン酸中で電圧を適用することにより酸化される。この化成電圧のレベルは、達成される酸化物層の厚さまたはコンデンサのその後の適用電圧に依存する。好ましい電圧は、1?300V、特に好ましくは1?80Vである。
【0092】
好ましくは35,000μC/gより高い電荷-質量比、特に好ましくは45,000μC/gより高い電荷-質量比、より好ましくは65,000μC/gより高い電荷-質量比、最も好ましくは95,000μC/gより高い電荷-質量比を有する金属粉末が、電極体の製造のために使用される。140,000μC/gより高い電荷-質量比を有する金属粉末が、本発明の方法の好ましい実施態様で使用される。
【0093】
ここで電荷-質量比は、以下のように計算される:
電荷-質量比=(キャパシタンス×電圧)/酸化電極体の質量
ここで該キャパシタンスは、120Hzで水性電解質中において測定される酸化電極体のキャパシタンスから得られる。ここで該電解質の導電性は充分に大きく、そうして該電解質の電気抵抗の故に120Hzではキャパシタンス降下はまだ無い。例えば18%の水性硫酸電解質が、測定のために使用される。上の式中の電圧は、最大化成電圧(酸化電圧)に対応する。
【0094】
良好なエッジ被覆および接着を有する密なポリマー外層を持つ固体電解コンデンサを、本発明の方法を使用して特に平易に製造することができる。該コンデンサは、低い漏れ電流および低いESRによっても特徴づけられる。
本発明の電解コンデンサおよび本発明により製造される電解コンデンサは、それらの低い漏れ電流および低いESRの故に電子回路中の構成要素として優れて適している。例えばコンピューター(デスクトップ、ラップトップ、サーバ)中、携帯電子装置、例えば携帯電話およびデジタルカメラ中、電子エンターテインメント装置、例えばCD/DVDプレーヤーおよびコンピューターゲームコンソール中、ナビゲーションシステム中および電気通信装置中で見出される種類のデジタル電子回路が好ましい。
【実施例】
【0095】
実施例1:
本発明のコンデンサの製造
1.酸化電極体の製造
比キャパシタンス50,000μFV/gを有するタンタル粉末を、ペレットに圧縮し、焼結して、寸法4.2mm×3mm×1.6mmを有する多孔質電極体を形成した。該ペレット(アノードペレット)を、リン酸電解質中で30Vに陽極処理した。
【0096】
2.アノードペレットの化学インサイチュー被覆
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(商標)M、H.C.Starck GmbH)1質量部および40%のp-トルエンスルホン酸鉄(III)エタノール溶液(BAYTRON(商標)C-E、H.C.Starck GmbH)20質量部を含む溶液を製造した。
該溶液を、9個のアノードペレットを含浸させるために使用した。アノードペレットを、この溶液中に浸し、次いで周囲温度(20℃)で30分間乾燥させた。次いでそれらを、乾燥オーブン内において50℃で15分間および150℃で15分間熱処理した。次いでペレットを、水中で30分間洗浄した。アノードペレットを、0.25質量%のp-トルエンスルホン酸水溶液中で30分間改質し、次いで蒸留水中ですすぎ、乾燥した。記載した含浸、乾燥、熱処理および改質を、さらに2回行った。
【0097】
3.ポリマー外層の適用
次いでアノードペレットを、水性PEDT/PSS分散体(BAYTRON(商標)P、H.C.Starck GmbH)90部、NMP 4部、スルホン化ポリエステル(Eastek(商標)1400、水中の不揮発分30質量%、Eastman)4.2部および界面活性剤(Zonyl(商標)FS 300、Du Pont)0.2部からなる水性分散体中に浸し、80℃で15分間乾燥させた。
次いでペレットを、グラファイトおよび銀層で被覆した。
【0098】
9個のコンデンサは、平均して以下の電気値を有した:
キャパシタンス:147μF
ESR:26mΩ
漏れ電流:5μA
幾何表面積とESRとの積は1250mΩmm^(2)であった。
この目的のためにキャパシタンスを120Hzで測定し、等価直列抵抗(ESR)を100kHzでLCRメーター(Agilent 4284A)を使用して測定した。漏れ電流を、Keithley 199 マルチメーターを使用して10Vの電圧を適用した後3分で測定した。
【0099】
実施例2:
本発明のコンデンサの製造
比キャパシタンス50,000μFV/gを有するタンタル粉末を、ペレットに圧縮し、焼結して、寸法4.2mm×3mm×0.8mmを有する多孔質電極体を形成した。該ペレット(アノードペレット)を、リン酸電解質中で30Vに陽極処理した。
【0100】
化学インサイチュー被覆およびポリマー外層の適用を、実施例1(工程2および3)により行った。
ポリマー外層適用後にアノードペレットを、光学顕微鏡で観察した。全外面は、密なポリマーフィルムで被覆されている。エッジは、連続のポリマーフィルム被覆を示した。
【0101】
図3は、本発明のコンデンサの破面の光学顕微鏡写真を示す。コンデンサペレットのエッジを非常に有効に囲む厚さ約5?10μmのポリマー外層が、明らかに見られる。
2つのアノードペレットを、グラファイトおよび銀層で被覆した。
本発明のコンデンサは、平均して15mΩのESRを有した。幾何表面積とESRとの積は551mΩmm^(2)であった。
【0102】
比較例1:
結合剤を外層中に有さない、本発明ではないコンデンサの製造
9個のコンデンサを実施例1と同様に製造したが、結合剤およびさらなる添加剤無しで水性PEDT/PSS分散体(BAYTRON(商標)P、H.C.Starck GmbH)のみを、ポリマー外層のために使用した。充分な厚みの層を達成するために、ペレットを2回浸して乾燥させた。
【0103】
結合剤を有さないPEDT/PSSのポリマー外層は、グラファイトおよび銀層を適用したときにはがれた。全てのコンデンサは電気的に短絡し、さらに測定することができなかった。
実施例1との比較は、結合剤の添加が、ポリマー外層の多孔質コンデンサ体への接着を向上させ、その結果として低い漏れ電流を有するコンデンサを可能にすることを示す。
【0104】
比較例2
インサイチュー重合無しでの、本発明ではないコンデンサの製造
9個のコンデンサを実施例1と同様に製造したが、化学インサイチュー被覆を行わなかった(実施例1の第1および第3工程のみ)。
該コンデンサは、0.9μFの平均キャパシタンスしか有さない。実施例1からの本発明のコンデンサは、147μFで対照すると、約160倍大きなキャパシタンスを有した。これは、PEDT/PSSのみが、コンデンサ体のエッジ領域の多孔質構造に浸透し、ポリマー外層は、実質的にコンデンサ体の全外面に設置されることを示す。
【0105】
比較例3:
インサイチュー重合されたポリマー外層を有する、本発明ではないコンデンサの製造
A)9個のコンデンサを実施例1と同様に製造したが、PEDT/PSSのポリマー外層(実施例1の第3工程)の代わりに、インサイチューで重合した外層を、2つのさらなる含浸サイクル(実施例1の第2工程)を追加して行うことにより製造したが、各場合に改質を行わなかった。
10Vの電圧を適用したとき、全てのコンデンサは電気的に短絡した。
【0106】
B)9個のコンデンサをA)と同様に製造したが、2つのさらなる含浸サイクル中に改質を行った。
9個のコンデンサ中の3個が短絡し、残りの6個が、10Vで平均して1μAの漏れ電流を示した。
【0107】
この例は、インサイチュー重合により形成された外層では、外層適用後の改質が、低い漏れ電流を達成するために必要であることを示す。実施例1からの本発明のコンデンサでは、この改質は必要ではない。さらに例Bからのコンデンサの33%が欠陥であり、一方実施例1からの本発明のコンデンサの100%が、低い漏れ電流を有した。それゆえコンデンサを製造する本発明の方法は、より単純であるだけではなく、より信頼性もある。それゆえ本発明の製造方法における機能コンデンサの収率はかなり高い。
【0108】
実施例3:
本発明のコンデンサの機械的応力に対する耐性
実施例1からの本発明のコンデンサを、漏れ電流の測定のために、金属スプリングボルト(スプリング力3N、直径1.5mmを有する丸形ベアリング表面、ベアリング圧力約170N/cm^(2)または17bar)により銀層と接触させた。
10Vでの漏れ電流は、この高い機械的応力で平均して5μAから144μAに上昇した。
【0109】
例4Aからのインサイチュー重合された外層を有する、本発明ではないコンデンサを、同じ応力試験に付した。10Vの電圧を、例4Aからの漏れ電流1μAを有する6個のコンデンサに適用すると、電気短絡が生じた。0.5Vでさえ該コンデンサは、ほとんど2,000μAの平均漏れ電流を示した。
この例は、本発明のコンデンサが機械的応力に対して高い安定性を有することを示す。
【0110】
実施例4:
異なるポリマー分散体を有するコンデンサの本発明による製造
1.酸化電極体の製造
比キャパシタンス50,000μFV/gを有するタンタル粉末を、ペレットに圧縮し、焼結して、寸法4.2mm×3mm×1.6mmを有する多孔質電極体を形成した。該ペレット(アノードペレット)を、リン酸電解質中で30Vに陽極処理した。
【0111】
2.アノードペレットの化学インサイチュー被覆
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(商標)M、H.C.Starck GmbH)1質量部および40質量%のp-トルエンスルホン酸鉄(III)エタノール溶液(BAYTRON(商標)C-E、H.C.Starck GmbH)20質量部から構成される溶液を製造した。
該溶液を、12個のアノードペレットを含浸させるために使用した。アノードペレットを、この溶液中に浸し、次いで周囲温度で30分間乾燥させた。次いでそれらを、乾燥オーブン内において50℃で15分間および150℃で15分間熱処理した。次いでペレットを、水中で30分間洗浄した。アノードペレットを、0.25質量%のトルイル酸水溶液中で30分間改質し、次いで蒸留水中ですすぎ、乾燥した。記載した含浸、乾燥、熱処理および改質を、さらに2回行った。
【0112】
3.ポリマー外層の適用
次いで各場合に6個のペレットを、以下の分散体の1つの中に浸し、次いで80℃で15分間乾燥させた。
分散体A:
水性PEDT/PSS分散体(BAYTRON(商標)P、H.C.Starck GmbH)90部、ジメチルスルホキシド(DMSO)4部、スルホン化ポリエステル(Eastek(商標)1400、水中の不揮発分30質量%、Eastman)4.2部および界面活性剤(Zonyl(商標)FS 300、Du Pont)0.2部
分散体B:
水性PEDT/PSS分散体(BAYTRON(商標)P、H.C.Starck GmbH)90部、NMP 4部、スルホン化ポリエステル(Eastek(商標)1400、水中の不揮発分30質量%、Eastman)4.2部および界面活性剤(Zonyl(商標)FS 300、Du Pont)0.2部
次いでペレットを、グラファイトおよび銀層で被覆した。
【0113】
6個のコンデンサは、平均して以下の各電気値を有した:
【表1】

等価直列抵抗(ESR)を100kHzでLCRメーター(Agilent 4284A)を使用して測定した。漏れ電流を、10Vの電圧を適用した後にKeithley 199 マルチメーターを使用して3分間で測定した。
【0114】
実施例5:
本発明のコンデンサの等価直列抵抗の熱安定性
分散体Bを使用して製造した実施例4からの4個のコンデンサを、乾燥オーブン内において260℃で3分間貯蔵した。
熱暴露後のESRは、平均して32mΩであった。これは、本発明のコンデンサが、コンデンサのプリント回路基板へのはんだ付け中に生ずる典型的な熱暴露に耐えることを示す。
【0115】
実施例6:
導電層の製造
導電層を、実施例4の分散体Bから製造した。この目的のために分散体の一部を、スピンコーター(Chemat Technology KW-4A)を1,000rpmで5秒間使用してガラス対象キャリヤ(26mm×26mm×1mm)にスピン塗布した。試料を80℃で15分間乾燥させた。対象キャリヤの2つの対向エッジを、次いで導電性銀で被覆した。導電性銀の乾燥後に、2つの銀片を接触させ、表面抵抗を、Keithley 199 マルチメーターを使用して確認した。膜厚を、Tencor Alpha Step 500 Surface Profilerを使用して測定した。比導電率を、表面抵抗および膜厚から確認した。膜厚は345nmであり、比導電率は55S/cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】タンタルコンデンサの例における固体電解コンデンサの構造を示す該略図である。
【図2】タンタルコンデンサの概略的な層構造を再現する、実施例1からの拡大した詳細を示す図である。
【図3】本発明のコンデンサの破面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
1:コンデンサ体、2:多孔質電極体、3:誘電体、4:固体電解質、5:ポリマー外層、6:グラファイト/銀層、7:電極体へのワイヤ接点、8:接点、9:封入、10:詳細
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性物質を含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
・電極物質の多孔質電極体、
・この電極物質の表面を被覆する誘電体、
・全体的または部分的に誘電体表面を被覆する導電性ポリマーを含む固体電解質、
・前記誘電体により被覆され、さらに全体的または部分的に前記固体電解質により被覆されている多孔質電極体の全外面または外面の一部上の層であって、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層
を含んでなり、
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンを含むポリマー外層が、少なくとも1種の結合剤を含み、
ポリマー外層に含まれるポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、
ポリマー外層に含まれるポリマーアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
ポリマー外層に含まれる結合剤がスルホン化ポリエステルである
ことを特徴とする、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
100kHzで測定した等価直列抵抗(ESR)と多孔質電極体の幾何表面積との積が、4,000mΩmm^(2)未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
100kHzで測定した等価直列抵抗(ESR)が、51mΩ未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
固体電解質中に含有されている導電性ポリマーが、任意に置換されていてよいポリチオフェン、任意に置換されていてよいポリピロール、または任意に置換されていてよいポリアニリンであることを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
固体電解質中に含有されている導電性ポリマーが、一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有するポリチオフェンであることを特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の電解コンデンサ:
【化1】

〔式中、
Aは、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(5)アルキレン基を表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC_(1)?C_(18)アルキル基、任意に置換されていてよいC_(5)?C_(12)シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC_(6)?C_(14)アリール基、任意に置換されていてよいC_(7)?C_(18)アラルキル基、任意に置換されていてよいC_(1)?C_(4)ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0?8の整数を表し、
複数のR基がAと結合している場合、これらは、同じまたは異なるものであり得る。〕。
【請求項7】
固体電解質が、モノマーアニオンを含むことを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
導電性物質が、電荷移動錯体、二酸化マンガンまたは塩であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記ポリマー外層中に含有されているスルホン化ポリエステルの含有量が20?60%であることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項13】
固体電解質が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびモノマー対イオンを含み、前記ポリマー外層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸錯体および1種またはそれ以上のスルホン化ポリエステルを含むことを特徴とする請求項1?7および9?12のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項14】
電極物質が、バルブ金属またはバルブ金属の電気的性質を有する化合物であることを特徴とする請求項1?13のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項15】
バルブ金属または同等の性質を有する化合物が、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、少なくとも1種のこれら金属と他の元素との合金若しくは化合物、NbO、またはNbOと他の元素との合金若しくは化合物であることを特徴とする請求項14に記載の電解コンデンサ。
【請求項16】
誘電体が、バルブ金属の酸化物またはバルブ金属の電気的性質を有する化合物の酸化物であることを特徴とする請求項14または15に記載の電解コンデンサ。
【請求項17】
電解コンデンサが、誘電体で被覆されている電極体の質量を基準に10,000μC/gより高い電荷-質量比を有することを特徴とする請求項1?16のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項18】
前記ポリマー外層の平均膜厚が、1?100μmであることを特徴とする請求項1?17のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項19】
導電性ポリマーを製造するための前駆体、1種またはそれ以上の酸化剤および任意に対イオンを、一緒にまたは連続して、任意に溶液の形態で、任意にさらなる層で被覆されている多孔質電極体の誘電体に適用し、-10℃?250℃の温度での化学的酸化により重合させることによって、または導電性ポリマーを製造するための前駆体および対イオンを、任意に溶液から、任意にさらなる層で被覆されている多孔質電極体の誘電体上で、-78℃?250℃の温度での電気化学重合により重合させることによって、少なくとも1種の導電性ポリマーを含む固体電解質を製造し、
任意にコンデンサ体へのさらなる層の適用後に、前記少なくとも1種のポリマーアニオン、前記少なくとも1種のポリチオフェン及び前記少なくとも1種の結合剤を含む分散体からポリマー外層を形成することを特徴とする、請求項2?7および9?18のいずれかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
任意に置換されていてよいチオフェン、ピロールまたはアニリンを、導電性ポリマーを製造するための前駆体として使用することを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
3,4-エチレンジオキシチオフェンを、導電性ポリマーを製造するための前駆体として使用することを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
アルカリ金属またはアンモニウムのペルオキソ二硫酸塩、過酸化水素、アルカリ金属過ホウ酸塩、有機酸の鉄(III)塩、無機酸の鉄(III)塩、または有機基を有する無機酸の鉄(III)塩を、酸化剤として使用する特徴とする請求項19?21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
固体電解質を、重合後および任意に乾燥後に適当な溶媒で洗浄することを特徴とする請求項19?22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
金属酸化物層を、電気化学的に後陽極処理(改質)することを特徴とする請求項19?23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
導電性ポリマー層の適用および任意に乾燥および洗浄、並びに酸化物層の改質を、数回行うことを特徴とする請求項19?24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
対イオンが、モノマーアルカンまたはシクロアルカンスルホン酸または芳香族スルホン酸のアニオンおよびそれらの組合せであることを特徴とする請求項19?25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1種のポリマーアニオンおよび少なくとも1種のポリチオフェンおよび少なくとも1種の結合剤を含む分散体が、有機溶媒、水またはそれらの混合物を溶媒として含むことを特徴とする請求項19?26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
分散体が、架橋剤、界面活性物質および/またはさらなる添加剤を含むことを特徴とする請求項19?27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
分散体が、エーテル、ラクトン、アミドまたはラクタムの基を有する化合物、スルホン、スルホキシド、糖、糖誘導体、糖アルコール、フラン誘導体および/またはジ-若しくはポリアルコールをさらなる添加剤として含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
35,000μC/gより高い電荷-質量比を有する電極物質の粉末を、多孔質電極体の製造のために使用することを特徴とする請求項19?29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
請求項1?18のいずれかに記載の電解コンデンサを含む電子回路。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-09-12 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-09-27 
出願番号 特願2004-302521(P2004-302521)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (H01G)
P 1 113・ 121- YA (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 大澤 孝次
酒井 伸芳
登録日 2011-10-14 
登録番号 特許第4841131号(P4841131)
発明の名称 ポリマー外層を有する電解コンデンサ  
代理人 北原 康廣  
代理人 北原 康廣  
代理人 森住 憲一  
代理人 森住 憲一  
代理人 植村 昭三  
代理人 鮫島 睦  
代理人 鮫島 睦  
代理人 植村 昭三  

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