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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61L
管理番号 1288926
審判番号 不服2013-4333  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-06 
確定日 2014-07-08 
事件の表示 特願2008-524318「空間の消毒」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日国際公開、WO2007/014437、平成21年 1月29日国内公表、特表2009-502370、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年8月4日(パリ条約による優先権主張 2005年8月4日 オーストラリア、2006年2月15日 オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年9月22日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成24年1月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月17日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年3月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正がされ、同年6月7日付けで前置報告書を利用した審尋がされ、同年12月11日付けで回答書が提出され、平成26年5月14日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年5月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成26年5月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明16」といい、まとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
空間、空間を画定する壁または間仕切りの表面、もしくは空間内に露出した物の表面を消毒するための方法であって、
(1)溶媒中に滅菌剤である過酸化水素を含んでなる溶液であって、前記滅菌剤よりも低い沸点を有する溶媒を含んでいる溶液をネブライズし、ガス流中の微細に分割された溶液の粒子からなるネブラントを形成するステップと、
(2)前記ネブラントに、エネルギーを加えて、溶媒を滅菌剤に優先して気化させることで、ネブラント粒子における滅菌剤の濃度を高めるステップと、
(3)前記空間または表面への前記ネブラント及び気化させた溶媒の送出口近傍で、大気圧以上において前記ガス流から、気化させた溶媒を取り除くステップと、
(4)前記空間または表面を、ステップ(3)からのネブラントに、前記空間または表面を滅菌するための充分な時間にわたって曝すステップとを含み、
前記ステップ(3)は、前記空間または前記表面の近傍の相対湿度を、20%?70%の相対湿度へと制御するステップを含んでいる方法。
【請求項2】
前記ネブラントが、過酸化水素の水溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ネブライズされる溶液が、35%以下の濃度の過酸化水素の水溶液である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ネブラント粒子が、1ミクロン未満の平均直径を有している請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記空間内の温度が、摂氏20?30度に維持される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ネブラントが、消毒対象の空間の1立方メートル当たり0.5?1.0グラムの割合で前記空間へと届けられる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記相対湿度が、45%?65%に制御される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
空間、空間を画定する壁または間仕切りの表面、もしくは空間内に露出した物の表面を消毒するための装置であって、
(1)滅菌剤である過酸化水素と溶媒とを含む溶液を微細に分割した粒子をガス中に浮遊させて含んでいるネブラントを生成するためのネブライザと、
(2)溶媒の少なくとも一部を蒸気として選択的に気化させるための充分なエネルギーをネブラントへと供給し、ネブラント粒子の滅菌剤の濃度を高めるための手段と、
(3)大気圧において前記ガスから溶媒の蒸気を分離する手段と、
(4)滅菌対象の表面をネブラントに接触させるための1つ以上のバッフル又はファンを備える送出器とを有しており、
大気圧において前記ガスから溶媒の蒸気を分離する前記手段は、前記送出器の出口近傍に位置している装置。
【請求項9】
溶媒が滅菌剤に優先して気化されることを保証するために、ネブラント粒子の滅菌剤の濃度を高めるための手段において供給されるエネルギーを制御するための手段をさらに有している請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記ネブライザが、連続的または周期的に運転される超音波ネブライザ、噴霧器、ジェット・ネブライザ、および圧電ネブライザを含むグループから選択される請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記ネブライザを周期的にオン/オフ切り替えるための手段をさらに備える請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記ネブライザが、1分間につき15?25秒間運転される請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記ガスから溶媒の蒸気を分離する前記手段が、乾燥薬、乾燥剤または分子ふるい、膜分離器、遠心分離器、もしくはサイクロン分離器からなる請求項8に記載の装置。
【請求項14】
前記送出器は、滅菌対象の表面をネブラントに接触させるためのファンからなる請求項8に記載の装置。
【請求項15】
前記送出器は、溶媒の少なくとも一部を蒸気として選択的に気化させるための充分なエネルギーをネブラントへと供給するための前記手段の下流に配置される請求項8に記載の装置。
【請求項16】
前記溶媒は、当該溶媒の沸点以下の温度で滅菌剤に優先して気化される請求項1に記載の方法。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
(理由1)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開平10-28722号公報
刊行物2:特表2002-540815号公報
刊行物3:特表2002-533163号公報
刊行物4:米国特許第6379616号明細書
刊行物5:特開昭55-110555号公報
刊行物6:特開昭55-064029号公報
刊行物7:特開昭56-075158号公報
刊行物8:特開昭60-220067号公報

刊行物6?8には、ネブラント粒子を加熱することが記載され、刊行物2、3には、水を除くことにより過酸化水素の濃度を高めることが記載されており、刊行物1記載の気化手段を用いて、刊行物6?8、さらには刊行物4、5に記載されたものにおいて、ネブラント粒子の滅菌剤を高めることは当業者が容易になし得ることである。

(理由2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1の「空間または空間を境界付けている表面」について、「空間を境界付けている表面」とは何を特定しているのか不明確である。
(2)請求項1に記載された「他の放射生成手段」、「熱交換器手段」、「伝導手段」、「対流手段」、「機械的なエネルギー伝達手段」について、溶媒を気化させる手段として技術常識を参酌しても不明である)。
(3)請求項13の「(あるいは、不規則な間隔で)」の括弧書きは発明特定事項を表しているのかどうか不明である。
(4)特許請求の範囲において、数値に付する「約」は、その数値を不明確とする。
(5)請求項16の「適切な分子ふるい」、「適切なサイクロン分離器」とはどのような機器のことか不明確である。また、「などから選択される」との記載は何から選択するの明確でない。

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由1について
(1)刊行物6の記載事項
刊行物6には、「殺菌装置」(発明の名称)について、次の記載がある(注:下線は、当審により付与した。)。
ア 「本発明は容器の殺菌装置に関するものであつて、殺菌包装システム内で殺菌液を必要最小限の量で、かつまんべんなく容器に付着させることができるように構成することをその目的とするものである。」(1頁右下欄4?8行)
イ 「容器殺菌装置は第3図で示される超音波による殺菌液霧化装置38および第4図で示される当該装置で発生した霧を内部に充満させて容器の全表面に殺菌液を付着させるチヤンバー40から成つている。
殺菌液霧化装置38は、超音波発振回路(図示せず)によつて同軸ケーブル42を介して超音波振動子44を共振させ、そこから超音波を発振させ、温水46を伝播媒体として殺菌液48に伝播させて霧を発生させようとするものである。・・・超音波の加えられた殺菌液48は超音波分散作用によつて噴水50を形成し、さらに煙霧質の霧となる。・・・殺菌液48は例えば35%の過酸化水素水、塩素水等であるが、合成樹脂、金属等で構成された薄肉の槽66に貯留され、そこへはタンク68から加熱要素70を経て来る殺菌液が導管72に定量ずつ供給されている。・・・殺菌液の霧はチヤンバー74内でほぼ連続的に発生し、導管76から来る加熱要素78で加熱された無菌空気の流れに乗つてチヤンバー上部の排出管80から殺菌用のチヤンバーに向けて排出される。・・・かくして最終的に得られた霧は粒径が例えば20ミクロン前後の均質なものであり、50?80℃に保たれて加熱要素85で加温されつつ容器方面に送られる。・・・このため殺菌液の霧は上下両殺菌室94、96内に充満して容器10の全表面に均一にかつ薄い膜として付着し、余剰の霧は排出される。・・・ヒータ104はチヤンバーの上下両部材に夫々埋設されている。ヒータ104は少なくともチヤンバー40の天井部に設けられるべきもので、これによつて容器10のまわりの霧を35%過酸化水素水の場合50?80℃、望ましくは60℃前後に保つて霧の状態を保持せしめる一方、チヤンバーの内壁に触れる霧は加熱しガス化させるのである。過酸化水素水のガス化温度は大体80℃?100℃である。本発明者の実験によれば、過酸化水素水はガス化すれば殺菌効果が薄れ長い殺菌時間を要するものと考えられる。従つて、容器10のまわりでは霧の粒径を発生時の頃と同じ程度に保つべく加湿する反面、それ以外のところでは霧が雫となつて容器の方に滴下しないようより多く加熱してガス化させてしまうのである。」(2頁右下欄7行?3頁右下欄18行)

(2)刊行物6に記載された発明の認定
上記アの記載によると、刊行物6に記載された「殺菌装置」は、殺菌包装システム内で殺菌液を必要最小限の量で、かつまんべんなく容器に付着させることで、容器の殺菌を行うものである。
上記イの記載によると、該「殺菌装置」は、35%の過酸化水素水、塩素水等の殺菌液に対して、超音波振動子の共振による超音波分散作用によって噴水を形成して霧を発生させ、該霧を加熱要素で加温し、50?80℃に保たれた、粒径20ミクロン前後の均質な霧を、加熱要素で加熱された無菌空気の流れに乗つて容器方面に送り、上下両殺菌室94、96内に充満させて、容器10の全表面に均一にかつ薄い膜として付着させて、容器の殺菌を行うものである。

そうすると、刊行物6には、
「殺菌包装システム内において、殺菌液である35%の過酸化水素水を、超音波振動子の共振による超音波分散作用によって噴水を形成して霧を発生させ、該霧を、加熱要素で加温し、50?80℃に保たれた、粒径20ミクロン前後の均質な霧を、加熱要素で加熱された無菌空気の流れに乗せて容器方面に送り、上下両殺菌室内に充満させて容器の全表面に均一にかつ薄い膜として付着させることで、殺菌液を必要最小限の量で、かつまんべんなく容器に付着させて、容器の殺菌を行う殺菌方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「容器」は、「殺菌室」内に配置されたものであるから、該「容器」は、該「殺菌室」内に露出して置かれていることは明らかである。
そうすると、引用発明の「殺菌室」及び「容器」は、本願発明1の「空間」及び「空間内に露出した物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「殺菌液」、「殺菌液である過酸化水素水」、「霧」、「霧を発生」、「加熱要素で加熱された無菌空気の流れ」及び「殺菌方法」は、本願発明1の「滅菌剤」、「滅菌剤である過酸化水素を含んでなる溶液」、「分割された溶液の粒子からなるネブラント」、「ネブライズ」、「ガス流」及び「消毒するための方法」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「過酸化水素水」は、「過酸化水素」を「水」に溶解させた水溶液であるから、該「水」は、本願発明1の「溶媒」に相当する。
そして、「過酸化水素」の沸点は、約150℃であるから、水の沸点(約100℃)は、「過酸化水素」の沸点より低いことは明らかである。
そして、引用発明において、容器の表面は、容器の表面を殺菌するために十分な時間にわたって、殺菌液の霧に曝されていることは明らかである。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「空間、空間を画定する壁または間仕切りの表面、もしくは空間内に露出した物の表面を消毒するための方法であって、
(1)溶媒中に滅菌剤である過酸化水素を含んでなる溶液であって、前記滅菌剤よりも低い沸点を有する溶媒を含んでいる溶液をネブライズし、ガス流中の微細に分割された溶液の粒子からなるネブラントを形成するステップと、
(4)前記空間または表面を、ステップ(3)からのネブラントに、前記空間または表面を滅菌するための充分な時間にわたって曝すステップとを含む方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明1は、「(2)前記ネブラントに、エネルギーを加えて、溶媒を滅菌剤に優先して気化させることで、ネブラント粒子における滅菌剤の濃度を高めるステップと、
(3)前記空間または表面への前記ネブラント及び気化させた溶媒の送出口近傍で、大気圧以上において前記ガス流から、気化させた溶媒を取り除くステップ」とを有し、
「前記ステップ(3)は、前記空間または前記表面の近傍の相対湿度を、20%?70%の相対湿度へと制御するステップを含んでいる」ものであるのに対し、引用発明の、「容器」に付着する「霧」に対して、過酸化水素水の水を優先的に気化させることも、過酸化水素水の濃度を高めることもされていない点。

(4)相違点についての判断
拒絶理由で引用された刊行物1?5、7、8の記載について検討する。
(刊行物1について)
刊行物1には、「過酸化水素による予備処理を使用する滅菌方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0014】細長い内腔の内側を滅菌するのに有効な本発明の方法の1つの実施態様の一般的操作は以下の通りである。すなわち、
1.滅菌すべき内腔を過酸化水素の希薄水溶液にさらす。過酸化水素水溶液は少量ながらも直接内腔内にか、静圧浸透、液体流し込みあるいはエアゾールスプレーにより分配できる。
2.滅菌すべき内腔をチェンバー内に配置し、そのチェンバーを密封して排気する。(チェンバー内に物品を置いた後、過酸化水素をその物品の内側に分配することもできる。)
3.滅菌を行なうのに十分な時間および温度で内腔を真空にさらす。
4.滅菌処理された内腔をチェンバーから取り除く。」
「【0048】そこで、本発明の方法を使用して滅菌を達成するため、真空チェンバー内の温度と圧力を、過酸化水素水溶液の気化が起きるようにする必要があり、すなわち、本装置は過酸化水素の蒸気圧以下で動作することが好ましい。・・・また過酸化水素は局部的に気化することができ、その部位では、マイクロ波、高周波あるいは他のエネルギー源などを介してエネルギーを過酸化水素の場所に与えることによって本装置は蒸気圧以上で維持される。」

この記載によれば、刊行物1には、細長い内腔の内側に対して、過酸化水素の希薄水溶液を、直接内腔内にか、静圧浸透、液体流し込みあるいはエアゾールスプレーにより分配し、分配された過酸化水素水溶液にエネルギーを与えて、気化させることで、細長い内腔の内側を滅菌処理する方法が記載されていると認められる。

(刊行物2について)
刊行物2には、「物品の滅菌処理および当該物品が滅菌状態であることを確認する方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0013】
【発明の概要】
本発明は物品の滅菌処理および当該物品の滅菌状態を確認する方法を含む。この方法は、(a)物品を滅菌処理装置の中に入れる工程と、(b)過酸化水素および水を滅菌処理装置の中に導入する工程と、(c)上記の過酸化水素および水を気化して過酸化水素および水を含む蒸気を形成する工程と、(d)上記の蒸気内の過酸化水素の濃度を決定する工程と、(e)上記の蒸気内の水の濃度を決定する工程と、(f)滅菌処理装置から水蒸気を選択的に吸引除去して滅菌処理装置内における過酸化水素の水に対する比率を高める工程と、(g)上記の過酸化水素の水に対する比率が所望のレベルに到達するまで上記の工程(c)乃至工程(f)を繰り返す工程と、(h)十分な時間にわたり気化した過酸化水素を物品に供給して当該物品の滅菌処理を行なった後に、所望のレベルを実現するデータに基づいて物品の滅菌度を確認する工程を含む。」
「【0017】
好ましくは、上記の過酸化水素の濃縮は溶液中において生じて、過酸化水素の水に対する比率が所望のレベルに到達した後に、この過酸化水素の一部が液体の形態で残っていて、その後に気化する。」

これらの記載によれば、刊行物2には、過酸化水素を物品に供給して当該物品の滅菌処理する際に、滅菌処理装置から水蒸気を選択的に吸引除去して滅菌処理装置内における過酸化水素の水に対する比率を高める工程を有し、該工程は、過酸化水素を溶液の状態で、過酸化水素を濃縮するものと認められる。

(刊行物3について)
刊行物3には、「滅菌剤の濃縮方法および当該滅菌剤による物品の滅菌処理方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0012】
【発明の概要】
本発明の態様の一例は物品に対して濃縮した過酸化水素蒸気を供給する方法を含む。この方法は、一定の内部雰囲気を有するチャンバーの中に物品を配置する工程と、上記チャンバーに対して過酸化水素および水を含む溶液を流体連通状態(流体を介して連通している状態)に配置する工程を備えており、当該溶液が水に対する過酸化水素の一定の比率を有しており、さらに、上記溶液を上記内部雰囲気中において蒸発させて水蒸気および過酸化水素蒸気を形成する工程と、水蒸気をチャンバーから選択的に吸引除去してチャンバー内における水に対する過酸化水素蒸気の比率を増大する工程と、過酸化水素蒸気に物品を接触させる工程を備えている。」
「【0018】
本発明の態様の一例において、上記溶液の温度および圧力は上記気化処理工程の少なくとも第1の部分において水を溶液から選択的に蒸発させて溶液中の過酸化水素を濃縮することにより濃縮した溶液を形成するように制御され、上記気化処理工程の第2の部分において当該濃縮した溶液の温度を上昇して溶液を蒸発させる。」

これらの記載によれば、刊行物3には、過酸化水素を物品に供給して当該物品の滅菌処理する方法において、チャンバーから水蒸気を選択的に吸引除去して滅菌処理装置内における過酸化水素の水に対する比率を増大する工程を有し、該工程は、過酸化水素を溶液の状態で、過酸化水素を濃縮するものと認められる。

(刊行物4について)
刊行物4には、「STERILIZATION APPARATUS(当審訳:殺菌装置)(発明の名称)について、次の記載がある。
「The present invention relates generally to a sterilisation apparatus and a method of sterilisation and relates particularly, though not exclusively, to sterilisation involving ultrasonic nebulisation of a sterilising agent such as hydrogen peroxide.(当審訳:この発明は、概ね、殺菌装置及び殺菌方法に関する。具体的には、これに限られるものではないが、過酸化水素のような殺菌剤を超音波によって霧化することを含む。)」(1欄2?6行)
「In operation sterilisation of the article 12 is effected by three general steps, namely:
(i) the sterilising agent is nebulised via activation of the transducer 18 whereby an aerosol of the sterilising agent is recirculated through the sterilisation chamber 16 and returned to the aerosol generator 14 ;
(ii) condensation or coagulation of the aerosol is promoted within the sterilisation chamber 16 by activation of the other ultrasonic transducer 44 ; and
(iii) the sterilisation chamber 16 and article 12 are rinsed and dried by conventional techniques.
Condensation of the aerosol may also be promoted by locating a heater 46 about the inlet conduit 38 of the apparatus 10 . This heater 46 is designed to heat the aerosol which encourages condensation of aerosol on or within the article 12 . Alternatively or additionally the sterilisation chamber 16 may be pressurised via the air valve 42 to promote condensation of the aerosol.(当審訳:稼働時には、物品12は、3つの共通の工程によって処理される。すなわち、
(i)トランスジューサ18を駆動することで、殺菌剤を霧化する工程、ここで、殺菌剤のエアロゾルは、殺菌チャンバー16を通って、エアロゾル生成装置14に戻って、循環が行われる。
(ii)エアロゾルの濃縮と凝結が、他の超音波トランスジューサを駆動することで、殺菌チャンバー16において行われる。
(iii)殺菌チャンバー16と物品12は、従来からの技術で、濯がれて、乾燥される。
エアロゾルの濃縮は、装置10の注入導管38にヒーター46を配置することによっても促進できる。このヒーター46は、物品12上又は物品12の内部のアエロゾルを濃縮させるように、アエロゾルを加熱するように設計されている。代替として、又は追加として、殺菌チャンバー16は、アエロゾルの濃縮を促進するように、空気弁42を介して加圧されてもよい。)」(4欄20?37行)

これらの記載によれば、刊行物4には、過酸化水素のような殺菌剤を超音波によって霧化して、殺菌チャンバー内の物品を殺菌する殺菌方法において、殺菌剤のエアロゾルの濃縮が、他の超音波トランスジューサを駆動すること、ヒーターによって加熱すること、又は、加圧することによって、行われるものと認められる。

(刊行物5について)
刊行物5には、「殺菌装置」(発明の名称)が記載され、次の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1)容器の水平走行路を挟んで上部および下部チヤンバーを対向設置し、該チヤンバー内に各々設置されたノズルから加熱無菌エアの噴出により加熱殺菌液を容器に向かつてスプレーし殺菌する装置において、チヤンバー内のノズル近傍に加熱手段を具えた空室を形成して、ノズルからスプレーされる殺菌液の通過用トンネル状通路をその空室壁に形成し、空室の開放口をトンネル状通路の横に開口せしめてなる殺菌装置。
(2)空気の加熱手段が空室壁に埋設されたヒーターである特許請求の範囲第1項記載の殺菌装置。」(1頁左下欄4?17行)

この記載によれば、刊行物5には、容器に殺菌液をスプレーすることで容器を殺菌する殺菌装置が記載されていると認められる。

(刊行物7について)
刊行物7には、「殺菌装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1) 常に陽圧状態下にある無菌チヤンバー内を包材が進行する順序にしたがつて包材の表裏両面に常温、低濃度のH_(2)O_(2)ミストを附着させるか、又は常温、低濃度のH_(2)O_(2)タンクに包材を浸漬して予備殺菌を行なう装置と、紫外線ランプで包材の表裏両面を照射する装置と、無菌加熱エアーで包材を殺菌乾燥する装置を配列した殺菌装置。
(2) H_(2)O_(2)ミストで包材を予備殺菌する装置が超音波によつてH_(2)O_(2)を10μ前後にミスト化したものを用いるものであつて、かつ該H_(2)O_(2)ミストを曇る程度に包材に付着せしめるものからなる特許請求の範囲第1項記載の殺菌装置。
(3) 紫外線ランプで包材の表裏両面を照射する装置が包材に対して20mm前後の至近距離に紫外線ランプを位置せしめたものからなる特許請求の範囲第1項記載の殺菌装置。」(1頁左下欄3行から右下欄2行)
「殺菌液の霧はチヤンバー(26)内でほとんど連続的に発生し、導管(27)からくる加熱要素で加熱された無菌のエアーに乗つて、チヤンバー上部の排出管(28)から前記したH_(2)O_(2)ミスト導入管(13)を経て、H_(2)O_(2)ミスト雰囲気室(12)内に供給される。・・・
又チヤンバー(26)内にはヒーター(30)が設けられ、上昇霧を絶えず暖めるようになつている。」
「以上のことから本発明殺菌装置はH_(2)O_(2)ミストによる殺菌とUVランプ照射による殺菌との相乗効果が強い殺菌力を作り出したものと考えられる。」(4頁左上欄11?13行)

これらの記載によれば、刊行物7には、H_(2)O_(2)を用いる場合は、低濃度のH_(2)O_(2)ミストを附着させるか、又は常温、低濃度のH_(2)O_(2)タンクに包材を浸漬して、包材の予備殺菌を行ない、紫外線ランプで包材の表裏両面を照射して、包材の殺菌を行う殺菌装置において、チャンバーにおいて発生したH_(2)O_(2)ミスト(霧)の上昇霧はヒーターによって暖められることが記載されていると認められる。

(刊行物8について)
刊行物8には、「包装材料の殺菌方法及び装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1) 殺菌力活性の低い温度域で噴霧した過酸化水素の霧粒子を搬送空気流で層流状に搬送しつつ殺菌力活性の高い温度域まで加温しながら、細粒化すると共に粒径の大きな粒子を除去する粒径選別を行って包材表面にガス状態で均一に塗布し、爾後の乾燥気化を促進せしめることを特徴とする包装材料の殺菌方法。
(2) 過酸化水素を噴霧チャンバーに向かって霧状に噴霧するノズルと、ノズルから噴霧された噴霧チャンバーにおける過酸化水素の霧粒子を加温して細粒化する加熱装置と、霧状化された過酸化水素を層流状搬送空気流によって噴霧チャンバーから粒径選別装置に向かって搬送せしめるための搬送空気流発生装置と、搬送空気流発生装置によって発生された空気流により搬送されたきた過酸化水素の霧粒子のうちから更に比較的大きな粒子を除去することのできる霧粒子の粒径選別装置と、粒径選別装置から出た霧粒子を包装材料表面に薄膜状に均一に拡散させることのできる噴霧口とからなることを特徴とする包装材料の殺菌装置。」(1頁左下欄4行?右下欄7行)

この記載によれば、刊行物8には、過酸化水素の霧粒子を搬送空気流で層流状に搬送し、殺菌力活性の高い温度域まで加温しながら、細粒化して、粒径の大きな粒子を除去する粒径選別を行って、包材表面にガス状態で均一に塗布し、乾燥気化することが記載されていると認められる。

そうすると、刊行物7、8には、過酸化水素水の霧を加熱して殺菌に用いることが記載されており、本願発明と、刊行物6?8に記載されたものとは、過酸化水素水の霧(ネブラント粒子)を加熱して殺菌に用いる点では共通する。
一方、刊行物1には、エネルギーを与えることで、過酸化水素水溶液を気化させて滅菌に用いることが記載されているものの、滅菌すべき物品の内腔に付着した過酸化水素水溶液を気化させるものであり、本願発明のように、過酸化水素水溶液のネブラントから水を優先的に気化させて、過酸化水素の濃度を高めるものではない。
また、刊行物2、3には、過酸化水素水を溶液の状態で水を除去することで過酸化水素の濃度を高めることは記載されているものの、本願発明のように、過酸化水素水のネブラントから水を優先的に気化させて、過酸化水素の濃度を高めるものではない。
そして、刊行物4には、過酸化水素水のような殺菌剤のエアロゾルをヒーターで加熱することで殺菌剤のエアロゾルの濃縮を行うことが記載されていることから、刊行物4には、過酸化水素を含む溶液のネブラントに、エネルギーを加えて、溶媒を滅菌剤である過酸化水素に優先して気化させて、滅菌剤の濃度を高めることは記載されているとしても、刊行物4に記載されたものは、本願発明のように、さらに、気化させた溶媒(水)を取り除くことはしておらず、しかも、「空間または表面の近傍の相対湿度を、20%?70%の相対湿度へと制御」したものでもない。
また、刊行物5には、単に殺菌液をスプレーすることしか記載されていない。

すなわち、刊行物1?5、7?8には、過酸化水素水のネブラントに、エネルギーを加えて、溶媒を滅菌剤に優先して気化させることで、ネブラント粒子における滅菌剤の濃度を高め、さらに、該気化させた溶媒を取り除くことについては、記載も示唆もないということができる。
また、過酸化水素水のネブラントに、エネルギーを加えて、溶媒を滅菌剤に優先して気化させることで、ネブラント粒子における滅菌剤の濃度を高めること及び該気化させた溶媒を取り除くことが、技術常識ないし周知技術であるという根拠は見出せない。

そして、本願発明1では、気化させた溶媒(水)を取り除き、空間または表面の近傍の相対湿度を、20%?70%の相対湿度へと制御することで、【0019】に記載されているように、小さなサイズを有する粒子(ナノ粒子)のネブラントが、大きな拡散速度と覆われた表面への浸入の能力を維持することができ、空間や表面の殺菌が行えるという、刊行物4の記載された事項からは、当業者が予測し得ない格別な作用効果を奏するものである。

したがって、相違点に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
よって、本願発明1は、引用発明及び刊行物1?5、7、8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(6)本願発明2?16について
本願発明8は、本願発明1を装置の発明としたものであり、本願発明1と同様な理由から、引用発明及び刊行物1?5、7、8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2?7、9?16は、本願発明1又は8を引用し、本願発明1又は8の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1又は8と同様な理由から、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2.原査定の拒絶理由2について
不明確とされた用語は削除されたので、拒絶理由は解消した。

第5 当審拒絶理由について
1.本件出願は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明の実施例では、滅菌剤として「過酸化水素」のみが用いられており、【0005】に記載された「過酢酸」等の他の滅菌剤には、沸点が過酸化水素と比べて大きく異なるものがあることから(過酸化水素の沸点は約150℃であるが、たとえば、過酢酸のそれは、約25℃である。)、滅菌剤と溶媒の沸点の違いを利用して、溶媒を滅菌剤に優先して気化させる本願発明においては、請求項1に記載されたように、「過酸化水素」以外を含む「滅菌剤」に、拡張ないし一般化できるとはいえない。


2.本件出願は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項9には、「ステップ(2)」と記載されているが、請求項9が引用する請求項8には該当するステップは記載されていない。


3.当審の拒絶理由に対する判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
滅菌剤が過酸化水素であることが特定されたことにより、拒絶理由は解消した。

(2)特許法第36条第6項第2号について
当該「ステップ」は、「ネブラント粒子の滅菌剤の濃度を高めるための手段」と補正されたので、拒絶理由は解消した。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-06-25 
出願番号 特願2008-524318(P2008-524318)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A61L)
P 1 8・ 121- WY (A61L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三崎 仁近野 光知  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 中澤 登
川端 修
発明の名称 空間の消毒  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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