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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C23C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C23C
管理番号 1288984
審判番号 不服2013-21585  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-05 
確定日 2014-07-14 
事件の表示 特願2010-501562「オキシ窒化物スパッタリングターゲット」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日国際公開、WO2008/132409、平成22年 7月15日国内公表、特表2010-523815、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年4月6日 フランス(FR))を国際出願日とする出願であって、平成24年11月14日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月21日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年6月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年11月5日に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年4月22日付けで当審の拒絶理由が通知され、同年5月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成26年5月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれの発明を請求項の項番にしたがい、「本願発明1」などといい、全体をまとめて「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
下式:
・ Li_(3)P_(1)O_(3.1)N_(0.6);
・ Li_(2.5)P_(0.5)Si_(0.5)O_(2.6)N_(0.6);
・ (Li_(3)PO_(4))_(0.6)(B_(2)O_(3))_(0.2)(Li_(3)N)_(0.3);
のいずれか1つを有することを特徴とする、陰極スパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載のターゲットの、純窒素、場合によりそのアルゴンとの混合物によって構成されている雰囲気中での磁場補助陰極スパッタリングによる、金属-オキシ窒化物ベースの薄膜の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法にしたがって得られる薄膜の形態の電解質を備えた、マイクロバッテリー、エレクトロクロミック素子、またはマイクロスーパーコンデンサからなる電気化学的装置。」

第3 拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は次の1のとおりであり、当審の拒絶理由の概要は次の2のとおりのものである。
1 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された次の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特開2003-277915号公報
同 2:米国特許出願公開第2004/0023106号明細書
同 3:Sung Jong Yoo,Journal of The Electrochemical Society、米国、The Electrochemical Society、2007年2月、vol.154, no.2, p6-10

2 本件出願は、特許請求の範囲の記載が次の(1)及び(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同条第6項2号の規定に適合しない。
(1)発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明においてスパッタリングを行う反応性雰囲気は、純窒素、又は窒素/アルゴン混合物により構成される雰囲気であるので、これを補正前の請求項2における「反応性中性雰囲気または反応性還元雰囲気」まで拡張・一般化することはできない。
(2)補正前の請求項3における「気体、例えば」なる記載は、発明の特定事項の記載としては不明確である。

第4 当審の判断
4-1 拒絶理由1について
1 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1について
ア 刊行物1には、次の事項が記載されている。
「【0034】次いで、上記LiCoO_(2)の薄膜を正極活物質層とする図3に示す構成のリチウム2次電池を作成した。作成方法は以下の通りである。
【0035】上記と同様にしてステンレス鋼の支持体20上に厚さ1μmのLiCoO_(2)薄膜からなる正極活物質層22を形成した。蒸着に先立ってオイルマージン法により支持体20の表面上に格子状にオイルを付与することにより、LiCoO_(2)の薄膜22を一辺が1cmの略正方形にパターニングした。
【0036】このLiCoO_(2)薄膜22上に、0.25Paのアルゴン雰囲気下で、直径100mmのLi_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)をターゲットとする高周波マグネトロンスパッタ法を用いて、厚さ2μmのLi_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)からなる固体電界質層24を作成した。このときの高周波出力は100Wである。
【0037】上記Li_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)薄膜24上に、Liを蒸発源とする電子ビーム蒸着により、厚さ2μmのLiからなる負極活物質層26を形成した。このときの真空度は2×10^(-3)Pa、照射電子ビームの加速電圧及び電流は10kV,8mAとした。
【0038】上記Li薄膜上に、Niのタブレット材を蒸発源とする電子ビーム蒸着により、厚さ5μmのNiからなる負極集電体層28を形成した。このときの真空度は6×10^(-3)Pa、照射電子ビームの加速電圧及び電流は10kV,500mAとした。」
イ これらの記載によれば、刊行物には、LiCoO_(2)の薄膜を正極活物質層とするリチウム2次電池の作成方法に関する技術が記載されており、ステンレス鋼の支持体上にLiCoO_(2)薄膜からなる正極活物質層を形成し、このLiCoO_(2)薄膜上に、Li_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)をターゲットとする高周波マグネトロンスパッタ法を用いて、Li_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)からなる固体電界質層を作成している。
このため、刊行物1には、スパッタリングターゲットに関する発明として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「高周波マグネトロンスパッタ法において使用するターゲットであって、化学式がLi_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)で表されるスパッタリングターゲット。」

(2)刊行物2について
ア 刊行物2には、次の事項が記載されている。
「[0018]・・・・The present invention solves this bulk fracturing problem by, for example, interposing an ion-conducting interlayer between a pair of electrolyte layers. This pair of electrolyte layers sandwiching an interlayer may substitute for a single electrolyte layer.」(仮訳:本発明は、このバルク破壊の問題を、例えば、一対の電解質層の間にイオン伝導性中間層を挿入することにより解決する。この中間層を挟んだ一対の電解質層は一つの電解質層に置き換えられる。)
「[0047] The interlayer of the present invention may be applied by sputter deposition. ・・・・The sputter target may include a variety of materials. For example, the sputter target may include ・・・Li_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14), ・・・・.」(仮訳:本発明における中間層は、スパッタ蒸着により形成することができる。スパッタターゲットには、様々な材料を使用することができる。例えば、・・・Li_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14)・・・をスパッタターゲットとして使用できる。」
イ これらの記載によれば、刊行物2には、スパッタ蒸着によりイオン伝導性中間層を製造するに当たり、ターゲットとしてLi_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14)を使用する技術が記載されている。
このため、刊行物2には、スパッタリングターゲットに関する発明として、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「スパッタ蒸着に使用するターゲットであって、化学式がLi_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14)で表されるスパッタリングターゲット。」

(3)刊行物3について
ア 刊行物3には、次の事項が記載されている。
「The electrochromic properties of WO_(3) thin films with a LiPON (lithium phosphorous oxynitride) protective layer and of an electrochromic device composed of WO_(3) and a V_(2)O_(5) with a LiPON protective layer prepared by radio-frequecy magnetron sputtering were investigated.」(第1頁上欄)(仮訳:LiPON(燐を含むリチウム酸窒化物)保護層を備えたWO_(3)薄膜のエレクトロクロミック特性と、ラジオ周波数マグネトロンスパッタリングにより作製したLiPON保護層を備えたWO_(3)とV_(2)O_(5)からなるエレクトロクロミック素子のエレクトロクロミック特性について研究した。)
「WO_(3) was deposited to a thickness of about 400nm. Then, LiPON [Li_(3.3)PO_(3.8)N_(0.22), United Vacuum & Materials (UVM)] was deposited on the WO_(3) layer. A LiPON target was used as an inorganic solid electrolite, ・・・ 」(第1頁右欄、Experimentalの項目の8?11行)(仮訳:WO_(3)を約400nmの厚さに蒸着した。そして、WO_(3)層の上にLiPON(Li_(3.3)PO_(3.8)N_(0.22),・・・)を蒸着した。LiPONターゲットを無機固体電解質として使用した。)
イ これらの記載によれば、刊行物3には、LiPONターゲットを無機固体電解質として使用して、スパッタリングによりLi_(3.3)PO_(3.8)N_(0.22)からなる薄膜を形成する技術が記載されている。
このため、刊行物3には、スパッタリングターゲットに関する発明として、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
「LiPONからなるスパッタリングターゲット。」

2 対比
刊行物1?3に記載されたターゲットは、いずれもスパッタリングターゲットであるので、本願発明1とは、「陰極スパッタリングターゲット」である点で共通する。
そして、本願発明1に係る化学式がLi_(2.5)P_(0.5)Si_(0.5)O_(2.6)N_(0.6)及び(Li_(3)PO_(4))_(0.6)(B_(2)O_(3))_(0.2)(Li_(3)N)_(0.3)であるターゲットは、引用発明1、2に係るターゲットとは、本願発明1に係るターゲットがSiあるいはBを含有するのに対し、引用発明1、2のターゲットはいずれも、SiあるいはBを含有しない点で相違するので、両者は全く別のターゲットといえる。
このため、具体的な検討をするまでもなく、本願発明1に係る化学式がLi_(2.5)P_(0.5)Si_(0.5)O_(2.6)N_(0.6)及び(Li_(3)PO_(4))_(0.6)(B_(2)O_(3))_(0.2)(Li_(3)N)_(0.3)である陰極スパッタリングターゲットは、引用発明1、2から容易に想到することができたとはいえない。
次に、本願発明1に係る化学式がLi_(3)P_(1)O_(3.1)N_(0.6)であるターゲットと、引用発明1に係るLi_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)ターゲット及び引用発明2に係るLi_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14)ターゲットを比較すると、Li、P、O、Nを構成元素とする点で共通するが、その組成割合を原子%に換算して比較すると、各構成元素の組成割合は次の表のとおり相違する。
なお、引用発明3のターゲットは、各構成元素の割合が不明であるので検討の対象としていない。



Li P O N(原子%)
Li_(3)P_(1)O_(3.1)N_(0.6) (本願発明1) 39 13 40 8
Li_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36) (引用発明1) 38 13 44 5
Li_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14) (引用発明2) 37 13 48 2

3 判断
そこで、上記した本願発明1と引用発明1、2のターゲットの組成割合の相違について検討する。
この点に関し、刊行物1には、ターゲットについては、「Li_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)をターゲットとする高周波マグネトロンスパッタ法を用いて、厚さ2μmのLi_(2.9)PO_(3.3)N_(0.36)からなる固体電界質層24を作成した。」と記載されているのみで、その組成割合を、リチウムイオン伝導性や成膜速度を改善するという観点から調整することを示唆する記載はない。また、同様に、刊行物2には、ターゲットとして使える様々な材料を多数列挙したうちの1としてLi_(2.88)PO_(3.73)N_(0.14)ターゲットが記載されているのみで、その組成割合を同様の観点から調整することについて、何ら示唆するものではない。
これに対して、本願発明は、リチウムイオン伝導性に優れた電解質薄膜を1分あたり30nm超の速度で蒸着するという課題を解決するために、上記したターゲットの特定の組成割合を採用したものである。
したがって、本願発明1のターゲットは、構成元素の組成割合が引用発明1及び2のターゲットと近似しているといえるものの、刊行物1及び2には、引用発明1及び2のターゲットの構成元素の組成割合を調整して本願発明1のターゲットの構成割合とすることの動機付けが記載されていないので、本願発明1は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2?3は、本願発明1を引用し、本願発明1の特徴事項をすべて含むので、同様の理由により、引用発明1?3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4-2 拒絶理由2について
(1)補正により、補正前の請求項2は削除され、補正前の請求項2における「反応性中性雰囲気または反応性還元性雰囲気」は、補正後の新請求項2において反応性雰囲気を、「純窒素、場合によりそのアルゴンとの混合物によって構成されている雰囲気」と限定された。
このため、拒絶理由2の(1)は解消した。
(2)補正前の請求項3は、補正により補正後の新請求項2とされ、補正前の「気体、例えば」なる記載は削除されたので、拒絶理由2の(2)は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1?3に記載された発明は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないし、特許請求粉範囲の記載はサポート要件及び明確性要件を充足するから、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-06-27 
出願番号 特願2010-501562(P2010-501562)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C23C)
P 1 8・ 121- WY (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 光貴  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 川端 修
吉水 純子
発明の名称 オキシ窒化物スパッタリングターゲット  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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