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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1289052
審判番号 不服2012-11054  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-13 
確定日 2014-06-18 
事件の表示 特願2009-525083「液体サンプルのテスト方法、テスト装置および複数のテスト装置の自動化システム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 1日国際公開,WO2007/023205,平成22年 1月21日国内公表,特表2010-501842〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年8月24日に出願された国際出願であって,平成23年6月2日付けで拒絶理由が通知され,同年10月5日付けで意見書と手続補正書の提出がなされたが,平成24年2月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。
その後,平成25年3月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ,回答書が同年6月20日付けで請求人より提出された。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年6月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項15に記載された発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲(平成23年10月5日付けの手続補正により補正されたもの)の請求項15を以下のとおりとする補正を含むものである。(下線は補正箇所を示す)

「【請求項15】
液体サンプルテスト用テスト装置であって、
液体投与室と、
開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され、自身から液体が吸引されるにしたがって、容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられたキャリブレータ液体パッケージと、
開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され、自身から液体が吸引されるにしたがって、容積の減少とともに密封される折り畳み袋である少なくとも1つの密閉された対照液体パッケージと、
開口可能なバルブを経由して投与室に接続され、自身から液体が吸引されるにしたがって、容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられた液体試薬パッケージと、
テストされる液体サンプル用の開口可能な入口と、
それぞれ較正反応、対照反応およびテスト反応を行うために、異なる段階で液体投与室に対して、該キャリブレータ液体、該対照液体、該液体サンプルおよび/または少なくとも1つの液体試薬の量を吸引するための作動装置と、
テスト結果を得るために、反応結果を登録しかつ比較する手段とを含み、前記キャリブレータ液体パッケージと、前記対照液体パッケージと、前記液体試薬パッケージが、共通の前記液体投与室に接続されていることを特徴とするテスト装置。」(以下「補正発明」という)

本件補正は,補正前の特定事項である「液体投与室」について,「前記キャリブレータ液体パッケージと、前記対照液体パッケージと、前記液体試薬パッケージが、共通の前記液体投与室に接続されている」と,限定するものであるから,特許請求の範囲の請求項15についての本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされている同法による改正前(以下「平成18年改正前」という)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項15に係る発明(以下「補正発明」という)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物およびその記載事項
(1)本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2004-522957号公報(以下「刊行物1」という)には,「液体サンプルのテストに使用するための方法,該方法を利用するためのテストユニット」に関して,次の事項が図面とともに記載されている。

(1-ア)
「【請求項13】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12記載の方法を実行するテストユニット(3)であって、
限られた容積の投与空間と、
前記投与空間に接続された、テストされるべき液体サンプルのための入口(17、20)と、
サンプルと反応する試薬のための1または2以上の貯蔵空間(10)であって、おのおのが流路(9)を介して前記投与空間と連通した貯蔵空間と、
前記投与空間から投与された液体を除去するための流路(24)と、
テスト結果の決定の観点から反応結果を検知するための検知器(31)とを備え、
前記入口および流路のおのおのに、流量調節のためのオンオフ/バルブ(11、12、14、15)が設けられてなる
ことを特徴とするテストユニット。
【請求項14】
生じるテスト反応のために、流路(24)を介して前記投与空間(8)に連結された少なくとも1つの温置空間(25)を備えてなることを特徴とする請求項13記載のテストユニット。
【請求項15】
1または2以上の流路(24)を介して前記投与空間(8)に連結され、かつ検知器(31)が設けられた検知空間(26)を備えてなることを特徴とする請求項13または14記載のテストユニット。
【請求項16】
バッファとしての空気の使用のために、空気流入口(22)が設けられていることを特徴とする請求項13、14または15記載のテストユニット。
【請求項17】
前記液体アクチュエータ(18)がベローズであることを特徴とする請求項13、14、15または16記載のテストユニット。
【請求項18】
圧力変化を検知する圧力センサまたは温度差を検知する温度センサのような前記液体の運動を監視するためのセンサ(23)が設けられていることを特徴とする請求項13、14、15、16または17記載のテストユニット。」

(1-イ)
「【0003】
化学的なテストは、今日、実験室において分析器によってなされており、該分析器は機械化された高速投与ロボットであり、該ロボットの動作は開放容器間の液体の移送に基づいている。かかる分析器は、
テストされるべきサンプルおよび開放容器からテストに要求される試薬をピペット内に引き、ピペットの吸入によって該サンプルおよび試薬を測定フィルタトラフ内に移送し、混合し、反応ののち測定結果をもたらすパラメータを決定する。分析器の動作は知られた内容物によって基準サンプル上で行なわれた測定によって制御される。
【0004】
現在の分析器は、大容量、広いテスト範囲およびテスト変更の容易さという利点を有している一方で、とくに開放したサンプルおよび試薬容器ならびにフィルタトラフと、該容器間のピペット吸入によって移送される液体とに関して欠点を有している。開放容器は液体の保存を損ない、液体を微生物または類似の汚染にさらす。ピペット吸入段階で、小さい気泡が液体に沿って引かれる傾向があり、該気泡は、定量的に投与された液体バッチにおいて対応する容量誤差を引き起こす。噴射段階で、液滴が表面張力の効果のもとでピペット端部で残るかもしれない。よって、液滴は分析から除外され、投与誤差を引き起こす。
【0005】
現在の分析器において、テストの定量的な結果による実用上の衝撃をもたないピペット端部で残る小さな気泡または液滴に対して充分大きい数十から数百マイクロリットルの液体を用いることによって不正確なピペット吸入により引き起こされたこれらの誤差を補償する試みがある。しかしながら、この結果、分析器の動作上の要素、すなわちサンプルチューブ、試薬容器および測定フィルタトラフが、実際のテスト反応に照らして不必要に大きい寸法を与える必要があり、試薬の消費も多い。これらの理由のため、および要求される動作上の反転性のために、現在の分析器は典型的にはほぼ机の大きさをもつ大きい装置であり、使用のために専門のスタッフを必要とし、投資および動作のために高いコストが伴う。」

(1-ウ)
「【0006】
本発明の目的は、テストに要求される液体、とりわけテストされるべき液体サンプルおよび液体媒質の定量的投与および組合せが、叙上の従来の欠点を解消する新規な方法で行なわれる。本発明の方法は、限られた容積の投与空間内で起こる液体の組合せと、媒質が充填された投与空間によって特徴づけられ、該空間は液体アクチュエータと、テストされるべきサンプル用のオンオフバルブが設けられた入口とに接続され、サンプル入口のバルブが開放され、アクチュエータによって空間から決定された体積の媒質が除去され、その結果、入口からバルブを経て投与空間に対応する量のサンプルが排出吸入効果のもとで引かれる。」

(1-エ)
「【0015】
テストユニットに含まれた試薬貯蔵空間は、米国特許第4,588,554号明細書に記載されたとおりの袋状のフォイルキット(foil kit)であることが好ましく、該フォイルキットは、空になると圧縮可能であり、交換空気を必要としない、そのようなキットは、テストユニット内でひじょうに小さい空間を必要とするものであり、試薬は該キットの使用によって消耗されない。」

(1-オ)
「【0026】
ここに記載された実施の形態は臨床化学におけるテストシステムに関するもので、血液、尿などのサンプルを患者から得た液体サンプルの診断テストを行なうものである。当該システムは中央制御ユニット1を備えており、無線通信により該制御ユニット1に対して遠隔の複数のテストユニット3と遣り取りをする。当該システムにおける遠隔端末として作用するテストユニット3は、中央制御ユニット1の制御と監視のもとに実際のテストを実行する。
【0027】
当該システムは、数個の機能的に独立したテストユニット3を備えているが、図1では図中に1個だけを図示している。当該システムの動作上の思想は、遠隔端末として作用するテストユニット3における診断ソフトウエア、患者記録およびサービス機能を含むキーとなる中央制御ユニット1のコンピュータの能力(capacity)を利用しており、該テストユニット3は、シンプルで使用が容易であり、特別の専門的な分析のノウハウを使用者に要求しない。
【0028】
図1に示されるように、当該システムにおける個々のテストユニット3は3つのブロック、すなわち、テストユニットの制御、データ格納および通信機能をあずかっているデータ制御ブロック4と、キーボードおよび表示装置を含むインタフェース5と、実際のテストを実行し、テストされるべきサンプルのための入口7を備えた液体処理ブロック6とからなり、これら3つのブロックは中央制御ユニット1と通信で遣り取りされる。」

(1-カ)
「【0029】
図2のテストユニットの液体処理ブロック6は、テスト反応を実行し、該反応を検知することによって液体の医学的検体の診断テストを行なう。該ブロック6は長く延びたチューブ状の投与空間8を備えており、該投与空間8と、サンプル入口を形成している針状の入口ダクト7とが接続している。加えて、投与空間8は平行な流路9を介して複数の試薬貯蔵空間10に接続され、該貯蔵空間は袋状の圧縮可能なフィルムキットから構成されている。テストユニット3により行なわれるべきテスト反応と制御反応に必要とされる試薬は、当該試薬貯蔵空間(ないしは袋)10に貯蔵される。試薬を投与する供給ダクト7と各流路9にはオンオフバルブ11、12が設けられ、加えて投与空間8は、オンオフバルブ13、14および15によって画定される。したがって、バルブ11?15は投与空間8の容積を決定する。テストされるべきサンプルの希釈と、テストに要求される試薬のために、ブロック6は媒質として水を使用し、このために、ブロックはバルブ16が設けられたパイプ17を介して水主管と接続される。水はパイプ17からアクチュエータとして作用する往復ベロース18内に供給され、バルブ14、19が設けられたダクト20を介して投与空間8と連通する。液体処理ブロック6は、ベローズ18により発生した吸入および吐出運動によってブロックのすべての部分における液体移送を制御し得るようにされている。」

(1-キ)
「【0033】
テストユニット3によって行なわれるべきテストの最初の段階において、液体処理ブロック6が洗浄され、ついで乾燥され、投与空間8を画定しているバルブ12、13および15(図2参照)が閉鎖する。当該ユニットのユーザは、サンプル入口として作用する針状のダクト7と検査されるべきサンプルとを接続し、プロセスを開始する。ついでベローズ18が、バルブ11に至るダクト7におけるサンプルを引くと、バルブ11が閉鎖する。
【0034】
つぎに、ベローズ18は水パイプ17から供給される媒質として作用する水を投与空間8に充填する。投与空間8後のバルブ15が開放され、ベローズ18が水をダクト20から投与空間内に吐出すると、水は開放されたバルブ15内に達する。バルブギャップに浸入する水が小さい圧力変動を伴い、圧力センサ23に記録され、その瞬間に自動的にバルブ15が閉鎖される。充填が開始すると、空気のバルブ21および13と洗浄液入口22、33が開放し、ベローズ18によって吐出される水がバルブに至るまでパイプを充填し、圧力センサ23が、充填の瞬間にバルブを閉鎖する。この動作の結果、投与空間は水によって流体充填される。
【0035】
その後のサンプルの投与において、サンプル入口7のバルブ11が開放し、ベローズ18が投与空間8から水を引き、排出吸入と等しいサンプルの量が入口7から投与空間内に引かれる。このサンプル投与は、入口7のバルブ11が閉鎖したときに終了する。
【0036】
つぎに、テストに必要とされる1または2以上の試薬が投与空間8内に投与される。選択された試薬を含むフィルムキット10を閉鎖するバルブ12が開放し、ベローズ18が投与空間8から水を引き、排出吸入と等しい水の量が投与空間内に引かれ、こののちバルブ12が閉鎖する。もし、2以上の試薬が必要とされるなら、異なる投与が叙上の動作によって1つずつ行なわれる。その結果、投与されたサンプルおよび試薬は長く延びたチューブ状の投与空間8に、この段階での目だった混合なしに連続的に供給される。投与が終わると、ベローズと対向している投与空間8のバルブ14が閉鎖し、ダクト20から水がベローズ18の吸収によって排出される。」

そして,上記記載事項(1-ア)?(1-キ)および図面を総合すると,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。

「液体サンプルのテストのために液体を化合する方法を実行するテストユニットであって,
限られた容積の投与空間(8)と,
前記投与空間(8)に接続された,テストされるべき液体サンプルのための入口(17,20)と,
サンプルと反応する試薬のための2以上の貯蔵空間(10)であって,おのおのが流路(9)を介して前記投与空間(8)と連通した貯蔵空間(10)と,
前記投与空間(8)から投与された液体を除去するための流路(24)と,
テスト結果の決定の観点から反応結果を検知するための検知器(31)とを備え,
前記入口および流路のおのおのに、流量調節のためのオンオフ/バルブ(11,12,14,15)が設けられ,前記投与空間(8)が液体アクチュエータ(18)に接続され,オンオフ/バルブ(11)が設けられた入口(7)がテストされるべきサンプルに接続されてなるテストユニット。」(以下「引用発明」という)

(2)本願出願前に頒布され,本願明細書および刊行物1に引用されるとともに,拒絶査定において示された刊行物である米国特許第4,588,554号明細書(以下「刊行物2」という)には,次の事項が記載されている。

(2-ア)
「The present invention concerns a procedure for keeping and for taking into use an analytic reagent or another substance used in analyses.
Technically manufactured analytical reagents, and standard and control materials for use in analyses, are usually packed in glass bottles, ampoules or plastic bottles, either in liquid or solid form. In most instances, the person making the analysis must manually dilute and mix a plurality of reagents for each single analysis. As a consequence, making an analysis requires professional skill and good understanding of the chemistry involved. A drawback of known procedures is that the room temperature, evaporation during various handling phases and microbiological contamination may impair the keeping quality of the reagents and other materials that are used so that they are usable during a brief period only. Thus, of the total reagent consumption only a fraction is actually used in analysis.
The object of the invention is to provide a procedure which is free of the drawbacks mentioned. The invention is characterized in that the substance to be used in analysis is hermetically packed in a bag, or sachet, serving as a storage container and having at least one flexible wall. Use of the substance is accomplished by forming a discharging aperture in the sachet such that the sachet is connected through its discharging aperture to the apparatus using the substance, for instance an analyser, with an outward substantially gas-tight connection. Substance is drawn from the sachet into said apparatus in one or several steps so that the sachet collapses in connection with the discharging.」(1欄6?36行,当審訳:「本発明は,分析に使用される分析試薬またはその他の物質を保存または使用するための方法に関する。
工業的に製造される分析試薬,および分析において使用される標準材料および対照材料は,通常,液体または固体の形の何れかで,ガラスびん,アンプルまたはプラスチツクびんに充てんされる。多くの場合,分析を行う人は,各単一の分析用の多くの試薬を手作業で希釈および混合しなければならない。その結果,分析の実施には,専門的熟練と含まれる化学作用の十分な理解が必要である。既知の手順の欠点は,種々の取り扱い段階の間の室温蒸発および微生物汚染によつて,使用される試薬および他の材料の保存性が損なわれ,わずかに短時間に使用できるのみである。すなわち,全試薬消費量のうちの一部分しか実際に分析に使用されるない。
本発明の目的は,前記の欠点のない方法を提供することである。本発明は,分析において使用される物質が,貯蔵容器として役立ち,少なくとも1個の可撓性の壁を有する袋,またはサシェ(サッシェ)に密閉して詰められていることを特徴とする。物質の使用は,サシェ(サッシェ)が,外部に実質的に気密に接続した状態で,物質を使用する装置,例えば分析器に物質排出開口を通じて接続されるように,サシェ(サッシェ)の排出開口を形成することにより実施される。物質は,サシェ(サッシェ)が排出に伴いつぶれるように,1工程または数工程で前記装置にサシェ(サッシェ)からから引き出される。)

(2-イ)
「At the packaging step, an analytic reagent or another substance for use in analysis is enclosed in the sachet 1. The reagent or substance may be a standard or control material, which in most instances is liquid but may also be in solid or gaseous form. 」(3欄46?50行,当審訳:「包装工程において,前記のサシェ(サッシェ)1中に,分析に用いる分析試薬またはその他の物質,例えば多くの場合に,液体であるが,固体またはガス形であつてもよい標準または対照物質が密閉される。)

(2-ウ)
「In FIG. 9 is depicted a combination package 14 connected by conduits 11 to an analyser 13, this combination package consisting of ten sachets 1, denoted with A to J in the figure. The sachets may be constructed as in FIGS. 4-7 and they may contain all the reagents and other substances needed to carry out a given analysis.」
(4欄30?35行,当審訳:「図9において,導管11によって分析器13に接続された組み合わせパッケージ14が示され,この組合せパッケージは図においてAからJで示される10個のサシェ(サッシェ)からなる。サシェ(サッシェ)は,図4-7におけるように構成してもよく,それらは与えられた分析を実施するために必要な試薬およびその他の物質のすべてを含有できる。)

3 対比・判断
(1)対比
ア 補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「テストユニット」,「投与空間(8)」および「液体アクチュエータ(18)」は,それぞれ,補正発明の「テスト装置」,「液体投与室」および「作動装置」に相当することは明らかである。

イ 上記記載事項(1-カ)に「投与空間8は平行な流路9を介して複数の試薬貯蔵空間10に接続され、該貯蔵空間は袋状の圧縮可能なフィルムキットから構成されている」と記載されている「サンプルと反応する試薬のための2以上の貯蔵空間(10)」は,上記記載事項(1-エ)に「テストユニットに含まれた試薬貯蔵空間は、米国特許第4,588,554号明細書に記載されたとおりの袋状のフォイルキット(foil kit)であることが好ましく、該フォイルキットは、空になると圧縮可能であり、交換空気を必要としない」と説明されているから,「容積の減少とともに密閉される折り畳み袋」であるといえる。
一方,本願明細書の段落【0017】に「試薬パッケージのみならずキャリブレータ液体パッケージおよび対照液体パッケージは、液体が、そこから吸引されるにしたがって、容積の減少とともに密閉される折り畳み袋であることが、好ましい。そのような袋は、本明細書に参照としてここに組み入れられている米国特許第4588554号明細書に記載されている。」と記載されている「液体パッケージ」は,容積の減少とともにシール(密閉)される折り畳み袋であって,引用発明の「試薬のための2以上の貯蔵空間(10)」は,補正発明の「自身から液体が吸引されるにしたがって,容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられた液体試薬パッケージ」に相当するといえる。

ウ 上記(1-カ)にも記載の如く,投与空間に接続された液体サンプルのための入口7および試薬貯蔵空間からの流路9には,当然開口可能なオンオフバルブ11,12が設けられており,また,上記記載事項(1-キ)の如く,テスト反応を行うために,異なる段階で投与空間に対して,液体サンプルまたは液体試薬のそれぞれの所定量を吸引するためのベローズ18が設けられているから,引用発明の「入口(7)」および「流量調節のためのオンオフ/バルブ(12)」は,補正発明の「テストされる液体サンプル用の開口可能な入口」および「開口可能なバルブ」に相当するといえる。

そうすると,両者は,
(一致点)
「液体サンプルテスト用テスト装置であって,
液体投与室と,
開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され,自身から液体が吸引されるにしたがって,容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられた液体試薬パッケージと,
テストされる液体サンプル用の開口可能な入口と,
テスト反応を行うために,異なる段階で投与空間に対して,該液体サンプルまたは少なくとも1つの液体試薬の量を吸引するための作動装置と,
を含むテスト装置。」
である点で一致し,下記の点で相違する。

(相違点1)
補正発明は,「液体試薬パッケージ」の他に更に,「開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され,自身から液体が吸引されるにしたがって,容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられたキャリブレータ液体パッケージと,開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され,自身から液体が吸引されるにしたがって,容積の減少とともに密封される折り畳み袋である少なくとも1つの密閉された対照液体パッケージと」を含み,「前記キャリブレータ液体パッケージと,前記対照液体パッケージと,前記液体試薬パッケージが,共通の前記液体投与室に接続されている」ものとするとともに,作動装置を「それぞれ較正反応,対照反応およびテスト反応を行うために,異なる段階で液体投与室に対して,該キャリブレータ液体,該対照液体,該液体サンプルおよび/または少なくとも1つの液体試薬の量を吸引するための作動装置」とするのに対し,引用発明は,そのような構成ではない点。

(相違点2)
補正発明は,「テスト結果を得るために、反応結果を登録しかつ比較する手段とを含」むものであるのに対し,引用発明は,そのような手段を含むか否か不明である点。

(2)検討
(相違点1について)
刊行物1の上記記載事項(1-イ)にも「化学的なテストは、今日、実験室において分析器によってなされており、該分析器は機械化された高速投与ロボットであり」と記載されているように,血液,尿などの患者から得た液体サンプルと所定の試薬との化学反応によって液体サンプル中の被分析成分を定量分析する診断・臨床用のテスト装置は,機械化された自動分析装置であることが普通である。そして,自動分析装置においては,自動分析装置の反応結果を検知するための検知器の表すテスト結果の測定値,例えば吸光度値,が被分析成分のいかなる濃度に当たるかという関係を求めるキャリブレーション(較正,校正ともいう)反応を,キャリブレーション用の被分析成分の既知濃度の標準物質液体を試薬と該自動分析装置において反応,すなわち較正反応させて,当該関係を決定し,該関係とテスト結果とを比較して,被分析成分の濃度値の形で結果を表示することは,自動分析装置における慣用技術であるといえる。
また,自動分析装置が繰り返し多数の液体サンプルの分析を行っている間に,試薬の劣化等の異常や投与液体量の異常等の装置的な不都合がなく,再現性良く当該分析装置がテスト分析を行える状態であるか,被分析成分の既知濃度のコントロール(補正発明では「対照」と翻訳している)液体を試薬と該自動分析装置において反応(対照反応)させて,該自動分析装置で得られたテスト結果を,意味のある有効な結果として取り扱って良いかどうか,そのまま該自動分析装置を使用し続けて良いかどうか,チェック,管理することも,自動分析装置における慣用技術であるといえる。
引用発明の「テストユニット」は,上記記載事項(1-オ)に「当該システムにおける遠隔端末として作用するテストユニット3は、中央制御ユニット1の制御と監視のもとに実際のテストを実行する。」,「図1に示されるように、当該システムにおける個々のテストユニット3は3つのブロック、すなわち、テストユニットの制御、データ格納および通信機能をあずかっているデータ制御ブロック4と、キーボードおよび表示装置を含むインタフェース5と、実際のテストを実行し、テストされるべきサンプルのための入口7を備えた液体処理ブロック6とからなり、これら3つのブロックは中央制御ユニット1と通信で遣り取りされる。」と記載されているように,自動分析装置の一種であるから,引用発明のテスト装置においても,キャリブレーション用の標準物質,すなわちキャリブレータ液体やコントロール(対照)液体を使用して,それぞれ所定の試薬と反応させる,較正反応や対照反応を行って,測定精度や装置の管理を行うことは,当業者であれば当然行う範囲内の事項といえる。
ところで,上記記載事項(2-ア)?(2-ウ)からみて,引用発明の「テストユニット」で使用されている刊行物2(米国特許第4,588,554号明細書)記載のサシェ(サッシェ)液体パッケージは,液体試薬パッケージとして使用するだけでなく,キャリブレータ液体や対照液体を収容する液体パッケージとして使用することも,本願出願前に周知の事項であるといえる。
そうすると,上記周知の事項を適用して,引用発明においても,テスト反応だけでなく,較正反応および対照反応をも行うために,液体試薬パッケージだけでなく,さらに「開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され,自身から液体が吸引されるにしたがって,容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられたキャリブレータ液体パッケージと,開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され,自身から液体が吸引されるにしたがって,容積の減少とともに密封される折り畳み袋である少なくとも1つの密閉された対照液体パッケージとを含み」,「前記キャリブレータ液体パッケージと,前記対照液体パッケージと,前記液体試薬パッケージが,共通の前記液体投与室に接続されているものとする」とともに,「作動装置を,それぞれ較正反応,対照反応およびテスト反応を行うために,異なる段階で液体投与室に対して,該キャリブレータ液体,該対照液体,該液体サンプルおよび/または少なくとも1つの液体試薬の量を吸引するための作動装置とする」ようにすること,すなわち,相違点1における補正発明の構成とすることは,当業者ならば十分動機付けが存在し,何ら阻害要因あるいは困難性がなく,当業者が容易に想到し得る範囲内の事項であるというべきである。

(相違点2について)
引用発明の「テストユニット」においても,上記記載事項(1-オ)に,「図1に示されるように、当該システムにおける個々のテストユニット3は3つのブロック、すなわち、テストユニットの制御、データ格納および通信機能をあずかっているデータ制御ブロック4と、キーボードおよび表示装置を含むインタフェース5と、実際のテストを実行し、テストされるべきサンプルのための入口7を備えた液体処理ブロック6とからなり、これら3つのブロックは中央制御ユニット1と通信で遣り取りされる」と記載されているように,上記記載事項(1-ア)の「テスト結果の決定の観点から反応結果を検知するための検知器(31)」からのテスト反応の結果である測定値データは,該データの登録を含むデータ格納がなされているものであり,該測定値データを被分析成分の濃度定量値の形でテスト結果を決定して得るために,登録されている較正反応の結果と比較することは,自動分析装置における慣用手段であるといえる,
してみると,上記慣用手段を適用して,引用発明においても,テスト結果を得るために,反応結果を登録しかつ比較する手段とを含むようにする,すなわち,相違点2における補正発明の構成とすることは,当業者ならば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項に過ぎないというべきである。

(効果について)
相違点1および2による効果も,当業者ならば刊行物1に記載の事項および周知・慣用の事項から予測し得る範囲のものであって,格別顕著なものとはいえない。

以上のとおりであるから,補正発明は,引用発明および周知・慣用の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
したがって,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年6月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1ないし29に係る発明は,平成23年10月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載された事項により特定されるものであって,その請求項15は以下のとおりのものである。
「【請求項15】
液体サンプルテスト用テスト装置であって、
液体投与室と、
開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され、自身から液体が吸引されるにしたがって、容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられたキャリブレータ液体パッケージと、
開口可能なバルブを経由して液体投与室に接続され、自身から液体が吸引されるにしたがって、容積の減少とともに密封される折り畳み袋である少なくとも1つの密閉された対照液体パッケージと、
開口可能なバルブを経由して投与室に接続され、自身から液体が吸引されるにしたがって、容積の減少とともにシールされる折り畳み袋である少なくとも1つの閉じられた液体試薬パッケージと、テストされる液体サンプル用の開口可能な入口と、
それぞれ較正反応、対照反応およびテスト反応を行うために、異なる段階で液体投与室に対して、該キャリブレータ液体、該対照液体、該液体サンプルおよび/または少なくとも1つの液体試薬の量を吸引するための作動装置と、
テスト結果を得るために、反応結果を登録しかつ比較する手段とを含むことを特徴とするテスト装置。」(以下「本願発明」という)

2 引用刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項は,前記「第2 本件補正についての補正の却下の決定 2 引用刊行物およびその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記「第2 本件補正についての補正の却下の決定 3 対比・判断」で検討した補正発明についての,「前記キャリブレータ液体パッケージと、前記対照液体パッケージと、前記液体試薬パッケージが、共通の前記液体投与室に接続されている」と,限定する記載がないものである。
そうすると,本願発明の特定事項を全て含み,さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 本件補正についての補正の却下の決定 3 対比・判断」において検討したとおり,引用発明および周知・慣用の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-07 
結審通知日 2014-01-14 
審決日 2014-01-27 
出願番号 特願2009-525083(P2009-525083)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司萩田 裕介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 藤田 年彦
森林 克郎
発明の名称 液体サンプルのテスト方法、テスト装置および複数のテスト装置の自動化システム  
代理人 河村 洌  
代理人 藤森 洋介  

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