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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1289146
審判番号 不服2012-21837  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-05 
確定日 2014-06-25 
事件の表示 特願2000- 81156「輸送システムとのコミュニケーションのための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月17日出願公開、特開2000-289947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、平成12年3月23日(パリ条約による優先権主張1999年4月9日、欧州特許庁)の出願であって、平成12年5月22日に明細書、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成22年4月21日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年4月5日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年10月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年6月28日付けで平成23年10月12日付けの手続補正書による手続補正を却下する補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、同年12月20日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成25年4月19日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年10月23日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成24年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年11月5日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成24年11月5日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年10月27日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1ないし10を、下記の(a)に示す請求項1ないし9へと補正するものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 輸送システムとのユーザのコミュニケーションのための方法であって、
a.輸送システムのユーザに関連した個別の情報を受信するための、双方向のタッチ画面を有するヒューマン-マシンインタフェースを設けるステップと、
b.輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータと、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とを示す記憶情報からユーザに表示されるユーザに特有の情報である記号を選択するステップと、ユーザに特有の情報である記号の選択が、提供されかつユーザが認可された行き先だけを示す個別の情報に基づき、
c.選択された記号に関連した行き先のうちの所望の行き先を入力するためのタッチ画面に、提供されたユーザに関連する個別の情報に基いて選択されたユーザに特有の情報である記号をユーザに対して表示するステップとを含む、方法。
【請求項2】 前記個別の情報が、ユーザ固有のデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記ユーザ固有のデータが、指紋、手形、顔の輪郭、網膜または虹彩の構造、および話し方のうちの少なくとも1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記個別の情報が、ユーザと共に持って来られる物を示すデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 個別の情報を有する情報キャリアの存在を自動的に検査すること、および情報キャリアがユーザに関連した少なくとも識別データを個別の情報としてヒューマン-マシンインタフェースに転送することを要求することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】 タッチ画面が、乗り物の識別、方向矢印、指示情報、およびユーザへの行き先の識別をのうちの少なくとも1つを表示する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】 タッチ画面に表示された選択された記号が、関連した行き先の一般的な名称である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】 輸送システムとのユーザのコミュニケーションのための方法であって、
a.輸送システムのユーザに関連した個別の情報を有するための情報キャリアを設けるステップと、
b.情報キャリアから個別の情報を受信するためのヒューマン-マシンインタフェースを設けるステップと、
c.輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータと、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とを示す記憶情報からユーザに表示されるユーザに特有の情報である記号を選択するステップと、ユーザに特有の情報である記号の選択が提供されかつユーザが認可された行き先だけを示す個別の情報に基づき、
d.選択された記号に関連した行き先のうちの所望の行き先を入力するためのインタフェースのタッチ画面に、提供されたユーザに関連する個別の情報に基いて選択されたユーザに特有の情報である記号をユーザに対して表示するステップとを含む、方法。
【請求項9】 個別の情報を有する情報キャリアの存在を自動的に検査すること、および情報キャリアに、ユーザに関連した少なくとも識別データを個別の情報としてヒューマン-マシンインタフェースに転送することを要求することを含む、請求項8に記載の方法。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 輸送システムとのユーザのコミュニケーションのための方法であって、
a.輸送システムのユーザに関連した個別の情報を受信するための、双方向のコミュニケーション面を有するヒューマン-マシンインタフェースを設けるステップと、
b.輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータと、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とを示す記憶情報からユーザに表示される記号を選択するステップと、記号の選択が、提供されかつユーザが認可された行き先だけを示す個別の情報に基づき、
c.選択された記号に関連した行き先のうちの所望の行き先を入力するためのコミュニケーション面に選択された記号をユーザに対して表示するステップとを含む、方法。
【請求項2】 前記個別の情報が、ユーザ固有のデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記ユーザ固有のデータが、指紋、手形、顔の輪郭、網膜または虹彩の構造、および話し方のうちの少なくとも1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記個別の情報が、ユーザと共に持って来られる物を示すデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 個別の情報を有する情報キャリアの存在を自動的に検査すること、および情報キャリアがユーザに関連した少なくとも識別データを個別の情報としてヒューマン-マシンインタフェースに転送することを要求することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】 コミュニケーション面が、視覚的なディスプレイおよび音声ユニットのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】 コミュニケーション面が、乗り物の識別、方向矢印、指示情報、およびユーザへの行き先の識別をのうちの少なくとも1つを表示する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】 コミュニケーション面に表示された選択された記号が、関連した行き先の一般的な名称である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】 輸送システムとのユーザのコミュニケーションのための方法であって、
a.輸送システムのユーザに関連した個別の情報を有するための情報キャリアを設けるステップと、
b.情報キャリアから個別の情報を受信するためのヒューマン-マシンインタフェースを設けるステップと、
c.輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータと、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とを示す記憶情報からユーザに表示される記号を選択するステップと、記号の選択が提供されかつユーザが認可された行き先だけを示す個別の情報に基づき、
d.選択された記号に関連した行き先のうちの所望の行き先を入力するためのコミュニケーション面に選択された記号をユーザに対して表示するステップとを含む、方法。
【請求項10】 個別の情報を有する情報キャリアの存在を自動的に検査すること、
および情報キャリアに、ユーザに関連した少なくとも識別データを個別の情報としてヒューマン-マシンインタフェースに転送することを要求することを含む、請求項9に記載の方法。」


2.本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲に関して、
本件補正前の請求項6を削除して、本件補正前の請求項7ないし10を順次繰り上げて本件補正後の請求項6ないし9とし、
その際、本件補正前の請求項1、7、8及び9の「コミュニケーション面」を「タッチ画面」と、コミュニケーション面の操作形態を限定し、
本件補正前の請求項1及び9の「位置パラメータを機能的に記述する複数の記号」以外の「記号」を「ユーザに特有の情報である記号」と、記号の意味を限定し、
本件補正前の請求項1の「コミュニケーション面に選択された記号をユーザに対して表示する」を「タッチ画面に、提供されたユーザに関連する個別の情報に基いて選択されたユーザに特有の情報である記号をユーザに対して表示する」と限定し、
本件補正前の請求項9の「コミュニケーション面に選択された記号をユーザに対して表示する」を「インタフェースのタッチ画面に、提供されたユーザに関連する個別の情報に基いて選択されたユーザに特有の情報である記号をユーザに対して表示する」と限定して本件補正後の請求項1、6、7及び8とするものであるから、
特許請求の範囲に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


3.本件補正の適否の判断
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

3-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特公平5-55436号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「1 複数の形態の運転が選択して行われるエレベータの運転装置において、前記複数のいずれかの形態の運転を行うためのデータが記憶されたデータカードが挿入される挿入口と、該挿入口に挿入されたデータカードのデータを読み取る読み取り手段と、該読み取り手段の読み取り信号により、対応する運転を行うための操作スイツチを運転操作盤上に表示する表示手段と、前記運転操作盤上に表示された操作スイツチの操作を検出する検出手段と、該検出手段の検出信号に基づいてエレベータの運転を行う運転手段とを有することを特徴とするエレベータの運転装置。
2 通常運転及び特定階運転を行うためのデータカードは、挿入口に一旦挿入されると表示手段によつて運転操作盤上に、対応する操作スイツチが表示され、保守運転を行うためのデータカードは、挿入口に挿入保持される表示手段によつて運転操作盤上に、対応する操作スイツチが表示されるように構成されてなる特許請求の範囲第1項記載のエレベータの運転装置。」(第1欄第2ないし21行)

(イ)「本発明はエレベータの運転装置、特に利用者に対応した形態の運転を誤操作なしに安全に行わせることが出来るエレベータの運転装置に関するものである。」(第1欄第24行ないし第2欄第1行)

(ウ)「本発明は前述したようなこの種のエレベータの運転装置の現状に鑑みてなされたものであり、その目的はエレベータの利用者が望む形態の運転が誤りなく行われ、特定階への不特定者の立入りが防止され、利用客の乗かご内閉じ込め事故の発生を避け、防犯性と安全性に優れたエレベータの運転装置を提供することにある。」(第3欄第19ないし25行)

(エ)「本発明では、挿入口に挿入されたデータカードのデータが読み取り手段によつて読み取られ、運転操作盤上に挿入口に挿入されたデータカードに対応した操作スイツチが、表示手段によつて表示される。
そこで、前述のデータカードの所有者であるエレベータの利用者が表示された操作スイツチを操作することにより、エレベータは利用したデータカードに対応した形態で運転される。
利用されたデータカードに対応した形態の運転は、一回ごとに行われるので、利用者はそれぞれ所望の運転形態に応じたデータカードを挿入口に挿入して、誤操作なしに目的の運転が行われる。」(第3欄第41行ないし第4欄9行)

(オ)「ここで、第1図は本発明の実施例の構成を示すブロツク図、第2図a?dはそれぞれ本発明の実施例の運転操作盤の構成を示し、aはデータカード挿入前、bは通常運転用データカード挿入時、cは特定階運転用データカード挿入時、dは保守運転用データカード挿入時の正面図、第3図は本発明の実施例の動作を示すフローチヤートである。
第2図aに示すように、エレベータの乗かご内に設けられる運転操作盤13の上方には、インターホン19が取り付けられ、運転操作盤13の下方には挿入口2が形成されている。
そして、前述のインターホン19と挿入口2間には、デイスプレー表示板11が設けられ、後述するように挿入口2に挿入される各種のデータカード1に対応して、デイスプレー表示板11に各種の操作スイツチが表示されるような構成となつている。」(第4欄第13ないし30行)

(カ)「第1図に示すように、挿入口2内にはデータ読み取り装置3と、カード装着検出装置4とが設けられ、この挿入口2には通常運転用データカード1a、特定階運転用データカード1b或は保守運転用データカード1cが挿入可能に構成となつている。 例えばホテルのエレベータに本発明が適用される場合には、通常運転用データカード1aは一般宿泊客にチエツクイン時に手渡され、申し出によつて宿泊客の訪問客に手渡されている。また、特定階運転用データカード1bはVIP用階を利用する特定客にチエツクイン時に手渡され、保守運転用データカード1cは、エレベータのサービス会社の保守員が所持している。
前述のデータ読み取り装置3とカード装着検出装置4間が信号線で接続され、データ読み取り装置3とカード装着検出装置4の出力端子は、データ解読装置5の入力端子に接続されている。
また、データ解読装置5の出力端子と運転装置6との出力端子が、演算装置7の入力端子に接続され、演算装置7の出力端子がデイスプレー表示装置9の入力端子と、動作位置設定装置10の入力端子に接続されている。」(第4欄第31行ないし第5欄第9行)

(キ)「さらに、デイスプレー表示装置9の出力端子がデイスプレー表示板11に接続され、動作位置設定装置10の出力端子が感知板12に接続されている。
そして、感知板12の出力端子が運転装置6の入力端子に接続され、前述の演算装置7と表示データ記憶装置8間が信号線で接続されている。
第2図bは、挿入口2に通常運転用データカード1aを挿入して抜き取つた後の、運転操作盤13の表示を示すもので、運転操作盤13のデイスプレー表示板11の上部には、上方表示灯16、下方表示灯17、扉開きスイツチ14及び扉閉じスイツチ15が表示され、デイスプレー表示板11の中央には乗かご行先階登録スイツチ18が表示されている。
また、第2図cは、挿入口2に特定階運転用データカード1bを挿入して抜き取つた後の、運転操作盤13の表示を示すもので、運転操作盤13のデイスプレー表示板11の上部には、上方表示灯16、下方表示灯17、扉開きスイツチ14及び扉閉じスイツチ15が表示され、デイスプレー表示板11の中央には乗かご行先階登録スイツチ18と特定階行先登録スイツチ21とが表示されている。
さらに、第2図dは、挿入口2に保守運転用データカード1cを挿入保持させた時の、運転操作盤13の表示を示すもので、運転操作盤13のデイスプレー表示板11の上部には、上方表示灯16、下方表示灯17、扉開きスイツチ14及び扉閉じスイツチ15が表示され、デイスプレー表示板11の中央には乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21が、また、デイスプレー表示板11の下部には、保守用操作スイツチ20が表示されている。
以上に説明した実施例の構成において、データ読み取り装置3、カード装着検出装置4及びデータ解読装置5で読み取り手段が構成され、演算装置7、表示データ記憶装置8、デイスプレー表示装置9及びデイスプレー表示板11で表示手段が構成され、さらに、動作位置設定装置10及び感知板12で検出手段が構成されている。」(第5欄第10行ないし第6欄第6行)

(ク)「第1図において、挿入口2に通常運転用データカード1aが挿入されたものとすると、データ読み取り装置3でデータカード1aのデータが読み取られ、データ解読装置5に入出されることにより、第3図のステツプ(1)乃至(4)の判定及び処理が行われて、挿入されたデータカードが通常運転用データカード1aであることが確認される。
第3図のステツプ(5)において、挿入された通常運転用データカード1aが挿入口2から抜き取られると、第1図の演算装置7はデータ解読装置5よりの解読信号に基づいて、表示データ記憶装置8より記憶データを読み出して、デイスプレー表示装置9及び動作位置設定装置10にそれぞれ駆動信号を出力する。
これらの駆動信号によつて、デイスプレー表示装置9及び動作位置設定装置10は、それぞれデイスプレー表示板11及び感知板12に表示信号及び設定信号を出力する。
この動作過程で第3図のステツプ(6)乃至ステツプ(8)の処理が行われ、運転操作盤13のデイスプレー表示板11上部に、上方表示灯16、下方表示灯17、扉開きスイツチ14及び扉閉じスイツチ15が表示される。同時に、運転操作盤13のデイスプレー表示板11の中央に、乗かご行先階登録スイツチ18が表示される。
さらに、動作位置設定装置10からの設定信号によつて、運転形態によりスイツチ位置が変化する感知板12上での乗かご行先階登録スイツチ18の動作位置の設定が行われる。」(第6欄第9ないし37行)

(ケ)「第3図のステツプ(9)において、乗かご行先階登録スイツチ18の操作が確認されると、ステツプ(10)に進んで行先階の登録が行われ、さらにステツプ(11)に進んでエレベータの運転処理が開始される。
そして、ステツプ(12)で行先階の登録が確認され、ステツプ(R)で挿入口2内にデータカードのないことが確認されると、第1図において利用客のデイスプレー表示板11上の押圧操作P_(1)によつて、動作位置設定装置10によつて動作位置が設定された感知板12を介して、運転装置6に運転指示信号が入力され、運転装置6はこの運転指示信号によつて利用客の指示した階まで運行される。
エレベータが所定階に停止し扉が開かれるので、利用客は所定階に降りることが出来る。そして、第3図のステツプ(14)において、運転装置6から演算装置7に解除信号が入力されることにより、乗かごの扉が閉じられ、デイスプレー表示装置9と動作位置設定装置10の動作が解除されて、デイスプレー表示板11上の表示が消失する。」(第6欄第38行ないし第7欄第15行)

(コ)「第1図において、挿入口2に特定階運転用データカード1bが挿入された場合には、第3図のステツプ(4)からステツプ(15)に進み、ステツプ(16)で特定階運転用データカード1bの挿入口2から抜き取りが確認されると、ステツプ(17)乃至ステツプ(19)と進む。これらのステツプにおいて、運転操作盤13のデイスプレー表示板11上部に、上方表示灯16、下方表示灯17、扉開きスイツチ14及び扉閉じスイツチ15が表示され、デイスプレー表示板11の中央に、乗かご行先階登録スイツチ18と特定階行先登録スイツチ21とが表示される。
第3図のステツプ(20)において、特定階行先登録スイツチ21或は乗かご行先階登録スイツチ18の操作が確認されると、ステツプ(21)において行先階の登録が行われ、ステツプ(11)に進んで以降はすでに述べたようにしてエレベータは運転される。」(第7欄第16ないし33行)

(サ)「このようにして、一般利用客は通常運転用データカード1aを、特定階利用客は特定階運転用データカード1bを、また、保守員は保守運転用データカード1cをそれぞれ所持しており、挿入口2に所持しているデータカードを挿入することによつて、それぞれの利用者に対応する運転を行うための操作スイツチが、運転操作盤13上に表示される。従つて、利用者は運転操作盤13上に表示された操作スイツチを操作することにより、誤操作なしにエレベータの運転を行うことが出来る。」(第8欄第30ないし40行)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(サ)及び図面の記載からみて、次のことが分かる。

(シ)上記(1)の(ア)、(オ)ないし(キ)及び上記(シ)並びに第1図ないし第3図の記載からみて、エレベータの一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に関連した通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bは、それぞれ個別のデータを有していることが分かる。
また、これらの個別のデータを受信するための、デイスプレー表示板11は、「第1図において利用客のデイスプレー表示板11上の押圧操作P_(1)によつて、動作位置設定装置10によつて動作位置が設定された感知板12を介して、運転装置6に運転指示信号が入力され、運転装置6はこの運転指示信号によつて利用客の指示した階まで運行される」(上記(1)(ケ)参照。)ので、表示出力のみならずタッチ操作による入力もできるタッチ操作及び表示の双方向の画面を有していることが分かる。
さらに、双方向のデイスプレー表示板11を有するエレベータの運転装置は、「エレベータの運転装置は、一般利用客及び特定階利用客からなる利用者とのデイスプレー表示板11を介しての操作及び表示等のやりとりを行っている」(上記(シ)参照。)ので、利用者と当該運転装置とのインタフェース機能、換言すれば、ヒューマン-マシンインタフェースが設けられているといえる。
以上のことを総合すると、「エレベータと一般利用客及び特定階利用客からなる利用者のコミュニケーションのための方法」(上記(シ)参照。)は、エレベータの一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に関連した通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータを受信するための、双方向のデイスプレー表示板11を有するエレベータの運転装置における利用者と当該運転装置とのヒューマン-マシンインタフェースを設けるステップを有しているといえる。

(セ)上記(1)の(ア)、(オ)、(キ)ないし(コ)及び上記(シ)並びに第1図ないし第3図の記載からみて、エレベータの運転装置における表示データ記憶装置8は、エレベータによってサービスされる複数の行先階の実際の行先階情報を示すものであり、当該表示データ記憶装置8に記憶された記憶データは、一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に表示されるものである。当該記憶データは、前者の一般利用客については「乗かご行先階登録スイツチ18」が表示されるものであり、後者の特定階利用客については「乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21」の両方が表示されるものであることが分かる。
このため、前記表示データ記憶装置8に記憶された記憶データから、一般利用客及び特定階利用客からなる利用者にそれぞれ表示される「乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ」及び「乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21からなる操作スイツチ」の操作スイツチが利用者の種別に応じて選択されることになり、換言すると、「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」が利用者の種別に応じて選択されることになるので、「エレベータと一般利用客及び特定階利用客からなる利用者のコミュニケーションのための方法」(上記(シ)参照。)は、エレベータによってサービスされる複数の行先階の実際の行先階情報を示す表示データ記憶装置8に記憶された記憶データから一般利用客及び特定階利用客からなる利用者にそれぞれ利用者の種別に応じて表示される「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」を選択するステップを有しているといえる。
また、前記の「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」の選択は、提供されかつ一般利用客及び特定階利用客からなる利用者が認可された行先階だけを示す通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータに基づいているものといえる。

(ソ)上記(1)の(ア)、(キ)ないし(サ)、上記(シ)及び(セ)並びに第1図ないし第3図の記載からみて、デイスプレー表示板11は、選択された「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」(上記(セ)参照。)に関連した行先階のうちの所望の行先階を入力するためのものであり、また、前記デイスプレー表示板11には、「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」が一般利用客及び特定階利用客からなる利用者のそれぞれの種別に応じて表示されることが分かる。なお、当該「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」は、提供された一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に関連する通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータに基いて選択されたものであるといえる。
以上のことを総合すると、「エレベータと一般利用客及び特定階利用客からなる利用者のコミュニケーションのための方法」(上記(シ)参照。)は、選択された一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチに関連した行先階のうちの所望の行先階を入力するためのデイスプレー表示板11に、提供された一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に関連する通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータに基いて選択された一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチを一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に対して表示するステップを有しているといえる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「エレベータとの一般利用客及び特定階利用客からなる利用者のコミュニケーションのための方法であって、
a.エレベータの一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に関連した通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータを受信するための、双方向のデイスプレー表示板11を有するエレベータの運転装置における利用者と当該運転装置とのインタフェース機能を設けるステップと、
b.エレベータによってサービスされる複数の行先階の実際の行先階情報を示す表示データ記憶装置8に記憶された記憶データから一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に表示される一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチを選択するステップと、一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチの選択が、提供されかつ一般利用客及び特定階利用客からなる利用者が認可された行先階だけを示す通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータに基づき、
c.選択された一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチに関連した行先階のうちの所望の行先階を入力するためのデイスプレー表示板11に、提供された一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に関連する通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータに基いて選択された一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチを一般利用客及び特定階利用客からなる利用者に対して表示するステップとを含む、方法。」


3-2.対比
本件補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「一般利用客及び特定階利用客からなる利用者」は、その機能、形状、構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「ユーザ」に相当し、以下同様に、「通常運転用データカード1a及び特定階運転用データカード1bの個別のデータ」は「個別の情報」に、「デイスプレー表示板11」は「タッチ画面」に、「エレベータの運転装置における利用者と当該運転装置とのインタフェース機能」は「ヒューマン-マシンインタフェース」に、「行先階」は「行き先」に、「行先階情報」は「位置パラメータ」に、「表示データ記憶装置8に記憶された記憶データ」は「記憶情報」に、「一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」は「ユーザに特有の情報である記号」に、「選択された一般利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18からなる操作スイツチ並びに特定階利用客についての乗かご行先階登録スイツチ18及び特定階行先登録スイツチ21の両方からなる操作スイツチ」は「選択された記号」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「エレベータ」は、その機能、形状、構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「輸送システム」に包含される。
さらに、引用文献記載の発明における「エレベータによってサービスされる複数の行先階の実際の行先階情報を示す表示データ記憶装置8に記憶された記憶データ」は、「輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータを少なくとも示す記憶情報」という限りにおいて、「輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータと、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とを示す記憶情報」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明は、次の<一致点>で一致し、<相違点>で相違する。なお、〈 〉内に本件補正発明において相当する発明特定事項を示す。

<一致点>
「輸送システムとのユーザのコミュニケーションのための方法であって、
a.輸送システムのユーザに関連した個別の情報を受信するための、双方向のタッチ画面を有するヒューマン-マシンインタフェースを設けるステップと、
b.輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータを少なくとも示す記憶情報からユーザに表示されるユーザに特有の情報である記号を選択するステップと、ユーザに特有の情報である記号の選択が、提供されかつユーザが認可された行き先だけを示す個別の情報に基づき、
c.選択された記号に関連した行き先のうちの所望の行き先を入力するためのタッチ画面に、提供されたユーザに関連する個別の情報に基いて選択されたユーザに特有の情報である記号をユーザに対して表示するステップとを含む、方法。」


<相違点>
記憶情報に関し、
本件補正発明においては、「輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータと、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とを示す」ものであるのに対し、
引用文献記載の発明においては、「エレベータ〈輸送システム〉によってサービスされる複数の行先階〈行き先〉の実際の行先階情報〈位置パラメータ〉を示す」ものである点(以下、「相違点」という。)。


3-3.判断
上記各相違点について検討する。
記憶情報について、本件補正発明と引用文献記載の発明とは、「輸送システムによってサービスされる複数の行き先の実際の位置パラメータを少なくとも示す」ものである点で共通する。
ところで、輸送システムに包含されるエレベータにおいて、ユーザに表示される複数の行き先の情報表示形態として、位置パラメータである行先階情報表示とすること、及び位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とすることのうち何れかを選択することは常套手段(以下、「常套手段」という。必要であれば、例えば、実願平3-16768号(実開平4-112868号)のマイクロフィルムの特に、段落【0009】及び【0011】ないし【0013】並びに図1及び2、実願平3-48506号(実開平5-1770号)のCD-ROMの特に、段落【0009】及び【0014】並びに図1及び2参照。)であって、位置パラメータに関連しかつ位置パラメータを機能的に記述する複数の記号とすることは、周知の技術(以下、「周知技術」という。必要であれば、例えば、前記の実願平3-16768号(実開平4-112868号)のマイクロフィルムの特に、図2、前記の実願平3-48506号(実開平5-1770号)のCD-ROMの特に、図2参照。)でもある。
そうすると、引用文献記載の発明において、記憶情報に記憶され、ユーザに表示される複数の行き先の情報表示形態として、上記常套手段を参酌しつつ上記周知技術を採用することによって、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜選定し得ることである。

また、本件補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明、周知技術及び常套手段から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


3-4.まとめ
したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本件発明について
1.本件発明の内容
平成24年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし10に係る発明は、平成22年10月27日付けの明細書及び平成22年5月22日付けの翻訳文による図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。


2.引用文献記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特公平5-55436号公報)の記載事項及び引用文献記載の発明は、前記【2】の[理 由]3.の3-1.(1)ないし(3)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本件発明は、実質的に、前記【2】で検討した本件補正発明における発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記【2】の[理 由]3.の3-1.ないし3-4.に記載したとおり、引用文献記載の発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明、周知技術及び常套手段から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。


4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-22 
結審通知日 2014-01-28 
審決日 2014-02-10 
出願番号 特願2000-81156(P2000-81156)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
P 1 8・ 575- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 多佳子葛原 怜士郎加藤 昌人  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 柳田 利夫
中川 隆司
発明の名称 輸送システムとのコミュニケーションのための方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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