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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1289182
審判番号 不服2012-20777  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-22 
確定日 2014-06-24 
事件の表示 特願2001-578911「流量測定方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月 1日国際公開、WO01/81873、平成15年10月28日国内公表、特表2003-532066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年4月24日を出願日(パリ条約による優先権主張 2000年4月27日(以下、「優先日」という。) イギリス)とする国際特許出願であって、平成20年4月9日付けで特許請求の範囲についての補正(以下、「補正1」という。)がなされ、平成24年6月15日付け(送達:同年同月21日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審より、平成25年5月10日付け審尋書により審尋をしたところ、同年11月15日付けで回答書が提出された。


第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を次のとおり補正するものである。

(本件補正前)
「【請求項1】 導管の中を流れる第1の単一相流体の流量測定方法であって、
既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体のパルスを導管の中を流れる第1の流体の中に放出する段階と、
放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を決定する段階と、
放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1の流体の流量を決定する段階と、を有することを特徴とする流量測定方法。
【請求項2】 第1の流体だけの熱伝導率と比較した、トレーサー流体の濃度の関数である第1の流体及びトレーサー流体の混合物の熱伝導率の変化分を測定することによって、トレーサー流体の濃度を決定する、請求項1記載の流量測定方法。
【請求項3】 適当なアルゴリズムを使用する処理手段を使用して、前記測定した熱伝導率からトレーサー流体の濃度を決定し、又は、ルックアップテーブルを使用して、前記測定された熱伝導率からトレーサー流体の濃度を決定する、請求項2記載の流量測定方法。
【請求項4】 トレーサー流体を、前記導管の中を流れる第1の流体に注入する、請求項1乃至3の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項5】 トレーサー流体が前記測定箇所を通過するときの複数の時刻において、トレーサー流体の濃度を測定する、請求項1記載の流量測定方法。
【請求項6】 トレーサー流体が前記測定箇所を通過するとき、トレーサー流体の濃度を実質的に連続的にサンプリングする、請求項2記載の流量測定方法。
【請求項7】 トレーサーガスが前記測定箇所を最初に通過したときから、実質的にすべてのトレーサー流体が前記測定箇所を通過するまで、トレーサー流体の濃度を測定し又はサンプリングする、請求項5又は6記載の流量測定方法。
【請求項8】 測定し又はサンプリングしたトレーサー流体の濃度を加算し、又は、測定し又はサンプリングしたトレーサー流体の濃度を時間に関して積分する、請求項5乃至7の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項9】 背景となるトレーサー流体濃度を考慮して、測定し又はサンプリングした濃度を調整する、請求項1乃至8の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項10】 前記導管の中を流れる第1の流体の流量を、第1の流体に注入したトレーサー流体のモル量に応じて決定し、又は、前記導管の中を流れる第1の流体の流量を、第1の流体に注入したトレーサー流体の濃度に応じて決定する、請求項4記載の流量測定方法。
【請求項11】 トレーサー流体はヘリウムを含み、且つ/又は、第1の流体はガス又は天然ガスである請求項1乃至10の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項12】 導管の幾何学的形状についての情報と無関係に前記流量を決定する、請求項1記載の流量測定方法。
【請求項13】 導管の中を流れる第1の単一相流体の流量測定装置であって、
導管の中を流れる第1の流体の中にトレーサー流体のパルスを放出するための装置と、
トレーサー流体を放出する前記放出装置が配置されているところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を決定する決定手段と、
放出したトレーサー流体の既知の又は決定可能なモル量及び前記決定手段によって決定したトレーサー流体の濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1の流体の流量を決定するための制御手段と、を有することを特徴とする流量測定装置。
【請求項14】 前記決定手段は、第1の流体だけの熱伝導率と比較した、トレーサー流体の濃度に応じた第1の流体及びトレーサー流体の混合物の熱伝導率の変化分を測定する測定手段と、測定した熱伝導率の変化分をそれに対応するトレーサー流体の濃度の値に変換する変換手段と、を含み、又は、
トレーサー流体は、前記第1の流体の中に注入され、又は、
前記制御手段は、トレーサー流体が前記測定手段を通るときに採用された複数の濃度測定値を受入れるように構成され、又は、
第1の流体が流れている導管の幾何学的形状についての情報と無関係に、前記導管の中を流れる流体の流量が決定される、請求項13記載の流量測定装置。
【請求項15】 前記変換手段は、適当なアルゴリズムを使用して、前記測定した熱伝導率の変化分をそれに対応するトレーサー流体の濃度に変換し、又は、前記変換手段は、ルックアップテーブルを使用して、前記測定した熱伝導率の変化分をそれに対応するトレーサー流体の濃度に変換する、請求項14記載の流量測定装置。
【請求項16】 前記制御手段は、トレーサー流体が前記測定手段を通るとき、実質的に連続する濃度サンプルを受入れるように構成される、請求項14記載の流量測定装置。
【請求項17】 前記制御手段は、少なくともトレーサー流体が前記測定箇所を最初に通過するときから、実質的にすべてのトレーサー流体が前記測定箇所を通過するまで、濃度測定値又は濃度サンプルを受入れるように構成される、請求項14又は16記載の流量測定装置。
【請求項18】 前記制御手段は、測定し又はサンプリングしたトレーサー流体の濃度を加算し、又は、前記制御手段は、測定し又はサンプリングしたトレーサー流体の濃度を時間に関して積分する、請求項14、16及び17の何れか1項記載の流量測定装置。
【請求項19】 前記制御手段は、第1の流体の流量の決定の際、背景となるトレーサー流体濃度を考慮するように構成される、請求項14、16及び18の何れか1項記載の流量測定装置。
【請求項20】 前記トレーサー流体は、第1の流体に注入され、
前記制御手段は、第1の流体の流量の決定の際、前記放出装置によって第1の流体の中に注入されたトレーサー流体のモル量を考慮するように構成される、請求項13記載の流量測定装置。
【請求項21】 前記制御手段は、第1の流体の流量の決定の際、前記放出装置によって第1の流体の中に放出されたトレーサー流体の濃度を考慮するように構成される、請求項13乃至20の何れか1項記載の流量測定装置。
【請求項22】 前記測定手段は、トレーサー流体の濃度の関数である、通過する流体の熱伝導率を検出する熱伝導率検出器を含む、請求項13乃至21の何れか1項記載の流量測定装置。」

(本件補正後)
「【請求項1】 導管の中を流れる第1のガスの流量測定方法であって、
既知の又は決定可能なモル量のトレーサーガスをパルスとして、導管の中を流れる第1のガスの中に放出する段階と、
放出したところから下流の適所におけるトレーサーガスの濃度を、前記下流の適所に配置した単一のセンサを用い且つ第1のガス及びトレーサーガスの混合物の熱伝導率を測定することによって決定する段階と、
放出したトレーサーガスのモル量及び前記下流の適所におけるトレーサーガスの測定濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1のガスの流量を決定する段階と、を有することを特徴とする流量測定方法。
【請求項2】 第1のガスだけの熱伝導率と比較した、トレーサーガスの濃度の関数である第1のガス及びトレーサーガスの混合物の熱伝導率の変化分を測定することによって、トレーサーガスの濃度を決定する、請求項1記載の流量測定方法。
【請求項3】 適当なアルゴリズムを使用する処理手段を使用して、前記測定した熱伝導率からトレーサーガスの濃度を決定し、又は、ルックアップテーブルを使用して、前記測定された熱伝導率からトレーサーガスの濃度を決定する、請求項2記載の流量測定方法。
【請求項4】 トレーサーガスを、前記導管の中を流れる第1のガスに注入する、請求項1乃至3の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項5】 トレーサーガスが前記測定箇所を通過するときの複数の時刻において、トレーサーガスの濃度を測定する、請求項1記載の流量測定方法。
【請求項6】 トレーサーガスが前記測定箇所を通過するとき、トレーサーガスの濃度を実質的に連続的にサンプリングする、請求項2記載の流量測定方法。
【請求項7】 トレーサーガスが前記測定箇所を最初に通過したときから、実質的にすべてのトレーサーガスが前記測定箇所を通過するまで、トレーサーガスの濃度を測定し又はサンプリングする、請求項5又は6記載の流量測定方法。
【請求項8】 測定し又はサンプリングしたトレーサーガスの濃度を加算し、又は、測定し又はサンプリングしたトレーサーガスの濃度を時間に関して積分する、請求項5乃至7の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項9】 背景となるトレーサーガス濃度を考慮して、測定し又はサンプリングした濃度を調整する、請求項1乃至8の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項10】 前記導管の中を流れる第1のガスの流量を、第1のガスに注入したトレーサーガスのモル量に応じて決定し、又は、前記導管の中を流れる第1のガスの流量を、第1のガスに注入したトレーサーガスの濃度に応じて決定する、請求項4記載の流量測定方法。
【請求項11】 トレーサーガスはヘリウムを含み、且つ/又は、第1のガスは天然ガスである請求項1乃至10の何れか1項記載の流量測定方法。
【請求項12】 導管の幾何学的形状についての情報と無関係に前記流量を決定する、請求項1記載の流量測定方法。
【請求項13】 導管の中を流れる第1のガスの流量測定装置であって、
導管の中を流れる第1のガスの中にトレーサーガスをパルスとして放出するための装置と、
トレーサーガスを放出する前記放出装置が配置されているところから下流の適所におけるトレーサーガスの濃度を、前記下流の適所に配置した単一のセンサを用い且つ前記第1のガス及び前記トレーサーガスの混合物の熱伝導率を測定することによって決定する決定手段と、
放出したトレーサーガスの既知の又は決定可能なモル量及び前記決定手段によって決定したトレーサーガスの濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1のガスの流量を決定するための制御手段と、を有することを特徴とする流量測定装置。
【請求項14】 前記決定手段は、第1のガスだけの熱伝導率と比較した、トレーサーガスの濃度に応じた第1のガス及びトレーサーガスの混合物の熱伝導率の変化分を測定する測定手段と、測定した熱伝導率の変化分をそれに対応するトレーサーガスの濃度の値に変換する変換手段と、を含み、又は、
トレーサーガスは、前記第1のガスの中に注入され、又は、
前記制御手段は、トレーサーガスが前記測定手段を通るときに採用された複数の濃度測定値を受入れるように構成され、又は、
第1のガスが流れている導管の幾何学的形状についての情報と無関係に、前記導管の中を流れるガスの流量が決定される、請求項13記載の流量測定装置。
【請求項15】 前記変換手段は、適当なアルゴリズムを使用して、前記測定した熱伝導率の変化分をそれに対応するトレーサーガスの濃度に変換し、又は、前記変換手段は、ルックアップテーブルを使用して、前記測定した熱伝導率の変化分をそれに対応するトレーサーガスの濃度に変換する、請求項14記載の流量測定装置。
【請求項16】 前記制御手段は、トレーサーガスが前記測定手段を通るとき、実質的に連続する濃度サンプルを受入れるように構成される、請求項14記載の流量測定装置。
【請求項17】 前記制御手段は、少なくともトレーサーガスが前記測定箇所を最初に通過するときから、実質的にすべてのトレーサーガスが前記測定箇所を通過するまで、濃度測定値又は濃度サンプルを受入れるように構成される、請求項14又は16記載の流量測定装置。
【請求項18】 前記制御手段は、測定し又はサンプリングしたトレーサーガスの濃度を加算し、又は、前記制御手段は、測定し又はサンプリングしたトレーサーガスの濃度を時間に関して積分する、請求項14、16及び17の何れか1項記載の流量測定装置。
【請求項19】 前記制御手段は、第1のガスの流量の決定の際、背景となるトレーサーガス濃度を考慮するように構成される、請求項14、16及び18の何れか1項記載の流量測定装置。
【請求項20】 前記トレーサーガスは、第1のガスに注入され、
前記制御手段は、第1のガスの流量の決定の際、前記放出装置によって第1のガスの中に注入されたトレーサーガスのモル量を考慮するように構成される、請求項13記載の流量測定装置。
【請求項21】 前記制御手段は、第1のガスの流量の決定の際、前記放出装置によって第1のガスの中に放出されたトレーサーガスの濃度を考慮するように構成される、請求項13乃至20の何れか1項記載の流量測定装置。
【請求項22】 前記測定手段は、トレーサーガスの濃度の関数である、通過するガスの熱伝導率を検出する熱伝導率検出器を含む、請求項13乃至21の何れか1項記載の流量測定装置。」
(下線は補正箇所。)

本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1の単一相流体」又は「第1の流体」、「トレーサー流体」、「放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を決定する段階」を、それぞれ、「第1のガス」、「トレーサーガス」、「放出したところから下流の適所におけるトレーサーガスの濃度を、前記下流の適所に配置した単一のセンサを用い且つ第1のガス及びトレーサーガスの混合物の熱伝導率を測定することによって決定する段階」と限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2 引用例記載の事項・引用発明
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に頒布された刊行物である特開平10-267722号公報(以下、「引用例」という。)には、流量測定装置(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。

(a)
「【請求項1】 トレーサの瞬間注入法により開水路の流量を測定する流量測定装置において、
開水路内の水中に挿入する検出部を有し、該開水路内の水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定部と、
所定のサンプリング時間毎に該電気伝導率測定部から電気伝導率データを取り込むサンプリング手段と、
該サンプリング手段によって取り込んだ電気伝導率データに基づき該開水路の流量を演算する流量演算手段と、
該電気伝導率データと該流量演算手段が算出した流量データを記憶する記憶手段と、
を備えたことを特徴とする流量測定装置。
【請求項2】 前記開水路に投入するトレーサの量と濃度を入力するための入力手段と、
該少なくとも該電気伝導率データと該流量演算手段が算出した流量データを表示する表示手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の流量測定装置。」

(b)
「【0005】これに対し、瞬間注入法は、水路に食塩水等のトレーサを一定量だけ瞬間的に投入し、所定距離だけ離れた下流側で、流量に応じて拡散・希釈された溶液の濃度を測定し、その濃度からその地点の流量を求めるため、上記のような大形の定量注入装置を必要とせず、山地河川の流量測定に、好適に使用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この瞬間注入法は、水路に食塩水等のトレーサを一定量だけ瞬間的に投入し、所定距離離れた下流側で、河川水の電気伝導率を測定し、その電気伝導率の変化から河川水の流量を算出する。」

(c)
「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は山地河川等の流量を瞬間注入法により測定する流量測定装置のブロック図を示している。この流量測定装置は、マイクロコンピュータを主要部にして構成され、各種の演算処理等を実行するCPU1、プログラムデータ及び演算式等の固定データ等を記憶するROM2、計測時に設定入力される各種の定数、設定値、測定データ等を一時記憶するRAM3等を備える。
【0015】CPU1は、後述の電気伝導率測定部15において測定された河川水の電気伝導率の測定データを、所定のサンプリング時間毎に取り込み、更に、投入食塩水の量とその電気伝導率、河川水の電気伝導率の増加開始から終了までの時間、平均増加電気伝導率から、所定の演算式を用いて、河川水の流量を算出する等の処理を実行する。
【0016】(略)
【0017】電気伝導率測定部15には、例えば交流4電極方式の電気伝導率測定回路が採用され、セルと呼ばれる検出部16と、増幅部、及び交流電圧発生部20とを備える。検出部16には、交流電圧印加用の1対の電極17と、その内側に配置される電気抵抗検出用の1対の電極18、及びサーミスタ等の温度センサ19が設けられる。
【0018】1対の電極17に交流電圧を印加してその間に電流を流すと、その間に位置する1対の検出用電極18間には、河川水の持つ電気抵抗によって生じる電圧降下により電圧が発生する。その電圧は、交流電流が一定であれば、水の抵抗値に比例して発生し、電極18間に検出される電流値は水の抵抗に逆比例したものとなる。従って、電気伝導率は、電気抵抗の逆数であるため、その電流に比例して得られ、電気伝導率を示す信号は、電気伝導率測定部15の増幅器21、整流回路22を通して出力される。」

(d)
「【0021】次に、上記構成の流量測定装置の動作を、図2、図3のフローチャートに基づき説明する。測定に際し、まず、図2に示すように、初期設定測定を行い、ステップ100で、トレーサとして使用する食塩水の量qをキーボード6から入力する。食塩水の量qは例えば、河川水の流量が、0.05m3/minの場合、0.05L ?0.1L、0.10m3/minの場合、0.1L?0.25L 、と判明しているための、流量を予想して食塩水量qを決定する。
【0022】次に、適当な濃度の食塩水を容器にq(L)作り、その中に電気伝導率測定部15の検出部16を挿入し、食塩水の電気伝導率Eとその温度を測定する(ステップ110)。そして、ステップ120で、その電気伝導率Eを測定温度に応じて補正する。電気伝導率は温度によって変化するため、例えば基準温度を25℃とし、任意の温度における電気伝導率を25℃の値に換算するのであるが、予め温度と温度補正係数のテーブルデータが記憶され、そこから求めた温度補正係数を測定した電気伝導率Eに乗算して補正する。
【0023】次に、測定しようとする渓流河川の水の中に、電気伝導率測定部15の検出部16を挿入し、測定前の河川水の電気伝導率Eo とその温度を測定する(ステップ130)。そして、ステップ140で、その電気伝導率Eo を測定温度に応じて補正する。上記の設定測定データ及び食塩水の量qはRAM3に格納され、表示器8に表示される。
【0024】そして、本来の測定に入り、被測定河川の任意の地点に、トレーサとしての上記食塩水qを瞬間的に投入し、その地点から所定距離下流側の地点の河川水に挿入した電気伝導率測定部15の検出部16を介して電気伝導率の測定を開始する。食塩水の投入地点と検出部16との距離は、川幅、水深等に応じて約5?20mに設定される。
【0025】食塩水の投入と同時に、測定開始用のスイッチをオンして測定をスタートさせる。まず、図3のステップ200で、電気伝導率測定部15において測定された電気伝導率データEn と温度データがA/Dコンバータ11、12を通して取り込まれる。そして、ステップ210で、その電気伝導率En を測定温度に応じて補正した後、その電気伝導率En を表示器8に表示すると共にRAM3に格納する(ステップ220)。
【0026】次に、ステップ230で、測定した電気伝導率En が一旦増加した後、投入前の初期値に戻ったか否かを判定し、未だ初期値に戻ってない場合、次に、ステップ235に進み、予め設定されたサンプリング時間(例えば1秒、500ms 等の任意の時間に設定可能)が経過したか否かを判定する。ここで、サンプリング時間が経過した時、再び、ステップ200に戻り、次の電気伝導率データEn と温度データをA/Dコンバータ11、12を通して取り込み、ステップ210?235を上記と同様に実行する。
【0027】このように、ステップ200?ステップ235が繰り返し実行されることにより、測定開始から所定サンプリング時間毎の電気伝導率データEn (n=1、2、3、……)が温度補正され、RAM3に格納されていく。
【0028】そして、ステップ230において、測定した電気伝導率En が一旦増加した後、投入前の初期値に戻ったと判定したとき、ステップ230からステップ240に進み、測定を終了し、表示器8に測定終了の表示を出す。その後、ステップ250で、増加継続時間Tを算出する。
【0029】例えば、電気伝導率En の初期値及び電気伝導率Eo が11.91mS/mであり、開始から9秒まではその値を継続し、開始から10秒後に11.95mS/mとなり、20秒後に最高値の15.88mS/mが測定され、その後徐々に値が減少し、開始から130秒後に電気伝導率En が初期値11.91mS/mに戻った場合、増加継続時間Tは、130-10=120秒となる。
【0030】次に、ステップ260で、平均電気伝導率Eaと平均増加伝導率λを算出する。平均電気伝導率Eaは全測定データの総和をサンプリング数で除算した値、平均増加伝導率λは平均電気伝導率Eaから投入前の電気伝導率Eo を減算した値(λ=Ea-Eo )である。
【0031】そして、ステップ270にて、河川水の流量Qを、
Q=q・E/(λ・T)
の式から算出する。
【0032】例えば、食塩水の投入量qが0.30L、食塩水の電気伝導率Eが1023mS/m、平均増加伝導率λが0.38mS/m、増加継続時間Tが120秒、の場合、流量Qは、402.97L/min と算出される。この測定結果としての流量データは、RAM3に格納されると共に、表示器8に表示される(ステップ280)。測定終了後に、測定データや演算結果等のデータは記録装置4に格納される。
【0033】このように、河川水の中に電気伝導率測定部15の検出部16を挿入し、所定距離離れた上流地点に食塩水を投入し、計測を開始するだけで、自動的に任意の時間毎にサンプリングを行って電気伝導率を測定し、更に、測定終了時には、食塩水の投入量q、食塩水の電気伝導率E、及び測定・算出した平均増加伝導率λ、増加継続時間Tから、直ちに河川水の流量Qを算出し、得ることができる。
【0034】このため、従来のように、サンプリング時間間隔を記録係りの記録可能な時間例えば5秒以上に制限する必要はなく、例えば、1秒或は500m秒とより短いサンプリング時間で測定データを採取することで、平均増加伝導率をより正確に測定でき、より精度の高い流量測定を行うことができる。また、測定現場で電気伝導率の測定・記録から流量の算出まで自動的にできるため、従来必要であった測定後のデータの整理に要する時間や手間を省くことができる。」

・前記記載(a)ないし(d)より、
ア 「開水路を流れる水の流量測定方法」との技術的事項が読み取れる。

・前記記載(a)、(b)及び(d)より、
イ 「量と濃度が既知の食塩水等のトレーサを瞬間的に開水路を流れる水の中に放出する段階」との技術的事項が読み取れる。

・前記記載(b)ないし(d)並びに図1より、
ウ 「放出したところから下流の適所における食塩水等のトレーサの濃度を、前記下流の適所に配置したセルと呼ばれる検出部16を用い且つ水及び食塩水等のトレーサの混合物の電気伝導率を測定することによって決定する段階」との技術的事項が読み取れる。

・前記記載(a)、(b)及び(d)より、
エ 「放出した食塩水等のトレーサの量及び下流の適所における食塩水等のトレーサの測定濃度に応じて、開水路を流れる水の流量を決定する段階」との技術的事項が読み取れる。

(2)引用発明
以上の技術的事項アないしエを総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。

「開水路を流れる水の流量測定方法であって、
量と濃度が既知の食塩水等のトレーサを瞬間的に開水路を流れる水の中に放出する段階と、
放出したところから下流の適所における食塩水等のトレーサの濃度を、前記下流の適所に配置したセルと呼ばれる検出部16を用い且つ水及び食塩水等のトレーサの混合物の電気伝導率を測定することによって決定する段階と、
放出した食塩水等のトレーサの量及び前記下流の適所における食塩水等のトレーサの測定濃度に応じて、開水路を流れる水の流量を決定する段階と、を有することを特徴とする流量測定方法。」(以下、「引用発明」という。)

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明における「開水路を流れる水の流量測定方法」も、本願補正発明における「導管の中を流れる第1のガスの流量測定方法」も、共に、「流路を流れる流体の流量測定方法」である点で共通する。

(2)量と濃度が既知であれば、モル量は既知又は決定可能であるといえ、また、食塩水等のトレーサを瞬間的に放出することは、パルスとして放出することであるといえるから、引用発明における「量と濃度が既知の食塩水等のトレーサを瞬間的に開水路を流れる水の中に放出する段階」も、本願補正発明における「既知の又は決定可能なモル量のトレーサーガスをパルスとして、導管の中を流れる第1のガスの中に放出する段階」も、共に、「既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体をパルスとして、流路を流れる流体の中に放出する段階」である点で共通する。

(3)引用発明における「セルと呼ばれる検出部16」は、電気伝導率を測定するためのまとまった一つのセンサであるから、引用発明における「放出したところから下流の適所における食塩水等のトレーサの濃度を、前記下流の適所に配置したセルと呼ばれる検出部16を用い且つ水及び食塩水等のトレーサの混合物の電気伝導率を測定することによって決定する段階」も、本願補正発明における「放出したところから下流の適所におけるトレーサーガスの濃度を、前記下流の適所に配置した単一のセンサを用い且つ第1のガス及びトレーサーガスの混合物の熱伝導率を測定することによって決定する段階」も、共に、「放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を、前記下流の適所に配置した単一のセンサを用い且つ流体及びトレーサー流体の混合物のエネルギー伝導に関する物性値を測定することによって決定する段階」である点で共通する。

(4)量と濃度が既知であれば、モル量は既知又は決定可能であるから、引用発明における「放出した食塩水等のトレーサの量及び前記下流の適所における食塩水等のトレーサの測定濃度に応じて、開水路を流れる水の流量を決定する段階」も、本願補正発明における「放出したトレーサーガスのモル量及び前記下流の適所におけるトレーサーガスの測定濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1のガスの流量を決定する段階」も、共に、「放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、流路を流れる流体の流量を決定する段階」である点で共通する。

(5)以上の関係を整理すると、両者の一致点及び相違点は、以下の通りである。

(一致点)
「流路を流れる流体の流量測定方法であって、
既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体をパルスとして、流れる流体の中に放出する段階と、
放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を、前記下流の適所に配置した単一のセンサを用い且つ流体及びトレーサー流体の混合物のエネルギー伝導に関する物性値を測定することによって決定する段階と、
放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、流路を流れる流体の流量を決定する段階と、を有することを特徴とする流量測定方法。」

(相違点1)
流路を流れる測定対象流体が、本願補正発明では、「導管の中を流れる第1のガス」であるのに対し、引用発明では、「開水路を流れる水」である点。

(相違点2)
トレーサー流体が、本願補正発明では、「トレーサーガス」であるのに対し、引用発明では、「食塩水等」である点。

(相違点3)
本願補正発明では、トレーサー流体であるトレーサーガスの濃度を、第1のガス及びトレーサーガスの混合物の熱伝導率を測定することによって決定するのに対し、引用発明では、トレーサー流体である食塩水等の濃度を、水及び食塩水等の混合物の電気伝導率を測定することによって決定する点。

4 当審の判断
(1)周知技術1
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に頒布された刊行物である特開平9-210750号公報には、
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して本発明に係る実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る流体の流量測定方法及び流量測定装置の一実施形態を示す。この流量測定装置10において、管路やダクトなどの流路12には被測定流体Aが流される。この流路12には、流体Aの流れる方向(矢印14方向)に沿って、第1のサンプリングパイプ16、トレーサ投入口18、第2のサンプリングパイプ20が設けてある。第1のサンプリングパイプ16は第1の濃度測定装置22に接続されており、第1のサンプリングパイプ16でサンプリングされた流体Aに含まれる特定成分の濃度が第1の濃度測定装置22で測定されるようになっている。トレーサ投入口18は上記特定成分の流体すなわちトレーサからなる、又はこのトレーサを含むトレーサ流体Bの供給装置24に接続されており、所定量のトレーサ流体Bがその量を測定されながら流路12の中に供給されるようになっている。第2のサンプリングパイプ20は第2の濃度測定装置26に接続されており、第2のサンプリングパイプ20でサンプリングされた被測定流体Aに含まれる上記特定成分の濃度が第2の濃度測定装置26で測定されるようになっている。第1と第2の濃度測定装置22、26、及びトレーサ供給装置24は演算装置28に接続されており、濃度測定装置22、26で測定された上記特定成分の濃度とトレーサ流体Bの投入量等から被測定流体Aの流量が演算されるようになっている。」、
「【0016】上記流量測定方法及び演算内容をさらに具体的に説明する。いま、流路12には加熱炉の排ガス流体Aが流され、トレーサ供給装置24からトレーサとして酸素を含む流体すなわち大気中の空気(酸素濃度:Cb1=21%)が流体Aの流れに投入されるものとする。サンプリングパイプ16、20からサンプリングされたトレーサ投入前と投入後の流体Aの酸素濃度濃度(酸素濃度:Ca1、C2)が検出装置16、20で検出される。また、トレーサ流体Bの投入流量はVbであったとする。以下にそれぞれの数値を示す。」、
「【0020】上記具体例では、トレーサとして酸素を用いたが、流量を検出する流体Aが排ガスの場合には、この排ガスには通常二酸化炭素が含まれているので、トレーサとして二酸化炭素を用いてもよい。」、
「【0022】次に、本発明の第2実施例について図2を参照して説明する。この第2実施例の流量測定装置は、図1に示す第1実施例から第1のサンプリングパイプ16、第1の濃度測定装置22が除かれている。その他の構成は第1実施例と同一であり同様に機能するので、対応する構成には“100”を加えた数値を付して説明を省略する。」
との記載があり、
導管の中を流れるガスである排ガス流体Aの流量を、トレーサーガスである大気中の空気を利用して測定する、という技術的事項が記載されていると認められる。

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-41920号公報には、
「従来、配管内を流れる気体の流量を測定する方法として、六フツ化イオウ(SF6)ガス等の気体をトレーサとして利用する方法が知られている。
すなわち、配管内を流れる被測定気体(以下気体という)の流量を測定する場合、まず配管の上流側にトレーサガスをほぼ一定の流量で注入し、下流側において気体とトレーサガスとの混合ガスを採集し、その濃度(モル又は体積濃度)をECD(Electron Capture Detector)付ガスクロマトグラフ等の分析計で測定し、下記(1)式により気体の流量を求めるものである。」(第1頁右下欄第14行?第2頁左上欄第4行)
との記載があり、
導管の中を流れるガスの流量を、トレーサーガスである六フツ化イオウ(SF6)ガス等を利用して測定する、という技術的事項が記載されていると認められる。

ウ 前記ア、イにより、導管の中を流れるガスの流量を、トレーサーガスの濃度に基づいて測定することは、優先日当時の周知技術(以下、「周知技術1」という。)であると認められる。

(2)周知技術2
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に頒布された刊行物である米国特許第4946555号明細書には、
「Portions of the vent gases are thereafter fed through lines 40 and 42 to the oxygen analyzer 36 and the helium analyzer 38, respectively, by means of which the concentration of oxygen and concentration of helium in the vent gases are determined in known manner.」(第4欄第23行?第28行)
(当審訳)
「通気ガスの一部は、その後、管40及び42を介して酸素アナライザ36とヘリウムアナライザ38に供給され、それぞれのアナライザにより、通気ガス中の酸素の濃度とヘリウムの濃度が既知の方法で決定される。」、
「Suitable helium analzyers 38 are known include analyzers which rely on the thermal conductivity of helium・・・」(第6欄第1行?第2行)
(当審訳)
「知られている適切なヘリウムアナライザ38は、ヘリウムの熱伝導率に依存するアナライザを含む・・・」
との記載があり、
熱伝導率を利用してヘリウムガスの濃度を測定する、という技術的事項が記載されていると認められる。

イ 優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-280556号公報には、
「本発明は第1のガスと第2のガスとの混合ガスにおける第2のガスの濃度、例えばキャリアガスと膜形成に供される原料ガスとの混合ガスにおける原料ガスの濃度を測定する装置に係り、特にガスの熱伝導率の変化を利用して測定を行なうガス濃度測定装置に関する。」(第1頁右下欄第7行?第12行)、
「混合ガス流路15および参照ガス流路13には、それぞれフィラメント16,17が挿入されている。これらのフィラメント16,17は、混合ガスおよび参照ガスの濃度をそれぞれのガスの熱伝導率の違いを利用して検出するためのものである。」(第3頁左上欄第1行?第5行)、
「フィラメント16,17は第2図に示すように固定抵抗21,22とによりホイートストン・ブリッジ回路23を構成しており、このブリッジ回路23に直流電源24から電圧が印加される。フィラメント16,17は電源24からの電流により発熱し、第1図の混合ガス流路15および参照ガス流路13をそれぞれ通過する混合ガスおよび参照ガスによって冷却されるが、そのときのフィラメント16,17の温度はそれぞれのガスの熱伝導率、つまりガスの濃度によって異なり、結局その抵抗値に差が生じる。従って、この抵抗値の差によりブリッジ回路23の出力に生ずる不平衡電圧を増幅器25を介して取出すことによって、混合ガス中の原料ガスの濃度を表わす濃度比信号を得ることができる。」(第3頁左上欄第18行?右上欄第12行)
との記載があり、
キャリアガスと原料ガスとの混合物である混合ガスの熱伝導率を測定することによって、原料ガスの濃度を決定する、という技術的事項が記載されていると認められる。

ウ 優先日前に頒布された刊行物である実公平5-36209号公報には、
「これらの熱伝導率検出器12,15は、試料側検出器12a,15aに導かれた試料ガスとキヤリアガスとの混合ガスと、標準側検出器12b,15bに導かれたキヤリアガスとの熱伝導率の差を比較検出することによつて、混合ガス中の試料ガスの濃度を計測するものであり、従来よりガスクロマトグラフにおいて広く用いられている熱伝導セルと同様のものである。すなわちこれらの熱伝導率検出器12,15は、試料側検出器12a,15aと標準側検出器12b,15bの双方にブリツジ回路に組まれたタングステンあるいは白金等のフイラメント(図示せず)が張られており、これらフイラメントに電流を流して加熱できるようにされている。このフイラメントの周囲をガスが通過すると、フイラメントはそのガスの熱伝導作用によつて冷却されて温度が低下し、その電気抵抗が減少するが、この電気抵抗の変化度合はガスの熱伝導率に左右されるものである。したがつて、キヤリアガス中に熱伝導率の異なる成分が含まれていると、電気抵抗がキヤリアガスのみの場合に比して変化するので、その変化度合を電気的に検出することによつてキヤリアガス中に混入している試料ガスの濃度を計測するものである。」(第5欄第12行?第35行)
との記載があり、
キヤリアガスと試料ガスの混合物である混合ガスの熱伝導率を測定することによって、試料ガスの濃度を決定する、という技術的事項が記載されていると認められる。

エ 優先日前に頒布された刊行物である特開2000-18105号公報には、
「【0009】請求項4に係る発明では、前記パージ燃料量検出手段は、パージ制御弁より供給されるパージガス中のHC濃度を検出するHCセンサを有し、パージ空気量とHC濃度とに基づいてパージ燃料量を算出するものであることを特徴とする。」、
「【0016】‥‥‥‥‥パージ通路15のパージ制御弁16下流側にてパージガス中のHC濃度HCSを検出するHCセンサ26などが設けられている。尚、HCセンサ26は例えば熱伝導方式で、HCガスと基準ガス(空気)との熱伝導率の違いからHC濃度を検出する。」
との記載があり、
パージガスとHCガスの混合物である混合ガスの熱伝導率を測定することによって、HCガスの濃度を決定する、という技術的事項が記載されていると認められる。

オ 前記アないしエにより、熱伝導率を測定することによって、ガスの濃度を決定することは、優先日当時の周知技術(以下、「周知技術2」という。)であると認められる。

(3)相違点についての検討
前記の周知技術1及び2を踏まえて、以下、相違点について検討する。

前記相違点1、2、及び3は関連するので、併せて検討する。
一般に、ガス(気体)と液体は、流体という概念でまとめられているところ、測定方法が流体としての性質を利用するものであれば、当該測定方法をガスにも液体にも適用することができるということは、当業者にとって明らかである。そして、引用発明は、開水路を流れる水という液体の流量を測定するものであるところ、引用発明は、トレーサが測定対象である流体とともに流れるという流体としての性質を利用するものであって、水という液体の流量の測定に特有のものではない。また、前記「(1)周知技術1」で指摘したように、導管の中を流れるガスの流量を、トレーサーガスの濃度に基づいて測定することが、優先日当時の周知技術であるから、引用発明を導管の中を流れるガスの流量測定に適用すること、及びその適用に際し、流体の種類に応じて、トレーサー流体をトレーサーガスとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、前記「(1)周知技術2」で指摘したように、熱伝導率を測定することによって、ガスの濃度を決定することは、優先日当時の周知技術であるから、トレーサー流体として、トレーサーガスを用いた場合に、その濃度は熱伝導率を測定することによって決定すればよいことは、当業者であれば明らかである。
また、本願補正発明の作用効果も、引用発明並びに周知技術1及び2から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし22に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「導管の中を流れる第1の単一相流体の流量測定方法であって、
既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体のパルスを導管の中を流れる第1の流体の中に放出する段階と、
放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を決定する段階と、
放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1の流体の流量を決定する段階と、を有することを特徴とする流量測定方法。」(以下、「本願発明」という。)

1 引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された発明・事項は、前記「第2」の「2 引用例記載の事項・引用発明」に記載したとおりである。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明における「開水路を流れる水の流量測定方法」も、本願発明における「導管の中を流れる第1の単一相流体の流量測定方法」も、共に、「流路を流れる流体の流量測定方法」である点で共通する。

(2)量と濃度が既知であれば、モル量は既知又は決定可能であるといえ、また、食塩水等のトレーサを瞬間的に放出することは、パルスとして放出することであるといえるから、引用発明における「量と濃度が既知の食塩水等のトレーサを瞬間的に開水路を流れる水の中に放出する段階」も、本願発明における「既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体のパルスを導管の中を流れる第1の流体の中に放出する段階」も、共に、「既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体のパルスを流路を流れる流体の中に放出する段階」である点で共通する。

(3)引用発明における「放出したところから下流の適所における食塩水等のトレーサの濃度を、前記下流の適所に配置したセルと呼ばれる検出部16を用い且つ水及び食塩水等のトレーサの混合物の電気伝導率を測定することによって決定する段階」は、本願発明における「放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を決定する段階」に相当する。

(4)量と濃度が既知であれば、モル量は既知又は決定可能であるから、引用発明における「放出した食塩水等のトレーサの量及び前記下流の適所における食塩水等のトレーサの測定濃度に応じて、開水路を流れる水の流量を決定する段階」も、本願発明における「放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、前記導管の中を流れる第1の流体の流量を決定する段階」も、共に、「放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、流路を流れる流体の流量を決定する段階」である点で共通する。

(5)以上の関係を整理すると、両者の一致点及び相違点は、以下の通りである。

(一致点)
「流路を流れる流体の流量測定方法であって、
既知の又は決定可能なモル量のトレーサー流体のパルスを流路を流れる流体の中に放出する段階と、
放出したところから下流の適所におけるトレーサー流体の濃度を決定する段階と、
放出したトレーサー流体のモル量及び前記下流の適所におけるトレーサー流体の測定濃度に応じて、流路を流れる流体の流量を決定する段階と、を有することを特徴とする流量測定方法。」

(相違点)
流路を流れる測定対象流体が、本願発明では、「導管の中を流れる第1の単一相流体」であるのに対し、引用発明では、「開水路を流れる水」である点。

3 当審の判断
前記の周知技術1を踏まえて、以下、相違点について検討する。

一般に、ガス(気体)と液体は、流体という概念でまとめられているところ、測定方法が流体としての性質を利用するものであれば、当該測定方法をガスにも液体にも適用することができるということは、当業者にとって明らかである。そして、引用発明は、開水路を流れる水という液体の流量を測定するものであるところ、引用発明は、トレーサが測定対象である流体とともに流れるという流体としての性質を利用するものであって、水という液体の流量の測定に特有のものではない。また、前記「第2」の「4 当審の判断」の「(1)周知技術1」で指摘したように、導管の中を流れるガスの流量を、トレーサーガスの濃度に基づいて測定することが、優先日当時の周知技術であるから、引用発明を導管の中を流れるガスのような単一相流体の流量測定に適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
また、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術1から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-23 
結審通知日 2014-01-27 
審決日 2014-02-12 
出願番号 特願2001-578911(P2001-578911)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01F)
P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 中塚 直樹
関根 洋之
発明の名称 流量測定方法及び装置  
代理人 渡邊 徹  
代理人 辻居 幸一  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松下 満  
代理人 弟子丸 健  
代理人 井野 砂里  
代理人 熊倉 禎男  

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