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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1289379
審判番号 不服2012-24812  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-14 
確定日 2014-07-01 
事件の表示 特願2004-565656「放射線硬化可能な水性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年7月22日国際公開、WO2004/061019、平成18年4月13日国内公表、特表2006-512458〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成15年12月22日(パリ条約による優先権主張 2002年12月27日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成21年8月25日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成22年11月17日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月18日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成24年4月4日に意見書とともに手続補正書が提出されが、同年8月6日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年12月14日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成25年1月17日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で同年6月3日付けで審尋がなされ、同年9月10日に回答書が提出されたものである。



第2 平成24年12月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結論]
平成24年12月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年12月14日付けの手続補正(以下、「当審補正」という。)は、同年4月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1、請求項18及び請求項31について、
「【請求項1】
a)(i)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および(ii)水との水溶液を含む、化学線硬化可能な水性組成物を提供する工程;
b)前記の水性組成物を基体の表面上に適用する工程;および
c)水の存在下で化学線を該水性組成物の表面に照射する工程を含み、
該水性組成物が該基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、FDA非準拠の抽出可能成分の少ないフィルムの製造方法。」
「【請求項18】
(a)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および
(b)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液を含む水性組成物であって、
該水性組成物が基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、改良された化学線硬化可能な水性組成物。」
「【請求項31】
(a)i)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、
(ii)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液、および
(b)着色剤を含む水性インキ組成物であって、
該水性インキ組成物が基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性インキ組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、改良された化学線硬化可能な水性インキ組成物。」
を、
「【請求項1】
a)(i)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および(ii)水との水溶液からなる、化学線硬化可能な水性組成物を提供する工程;
b)前記の水性組成物を基体の表面上に適用する工程;および
c)水の存在下で化学線を該水性組成物の表面に照射する工程を含み、
該水性組成物が該基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、FDA非準拠の抽出可能成分の少ないフィルムの製造方法。」
「【請求項18】
(a)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および
(b)水との水溶液からなる水性組成物であって、
該水性組成物が基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、改良された化学線硬化可能な水性組成物。」
「【請求項31】
(a)i)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および
(ii)水との水溶液、並びに
(b)着色剤からなる水性インキ組成物であって、
該水性インキ組成物が基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性インキ組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、改良された化学線硬化可能な水性インキ組成物。」
とする補正を含むものである。

2.補正の目的について
当審補正は、下記補正事項1及び2の補正をするものを含むものである。

<補正事項1>
請求項18において、
「(a)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および(b)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液を含む水性組成物であって」を、
「(a)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および(b)水との水溶液からなる水性組成物であって」とする補正。
<補正事項2>
請求項31において、
「(a)i)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、(ii)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液、および(b)着色剤を含む水性インキ組成物であって」を、
「(a)i)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および(ii)水との水溶液、並びに(b)着色剤からなる水性インキ組成物であって」とする補正。

補正事項1は、当審補正前の請求項18において、その発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「(b)5重量%から25重量%の範囲の量の水」を「(b)水」と補正するものであり、また、補正事項2は、当審補正前の請求項31において、発明特定事項である「(ii)5重量%から25重量%の範囲の量の水」を「(ii)水」と補正するものであって、いずれも、「水」の配合割合・範囲に係る限定事項を削除するものであるから、補正事項1及び2により特許請求の範囲は拡張するものと認められる。そうすると、補正事項1及び2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
そして、請求人は、平成24年12月14日に提出された審判請求書において、補正事項1及び2について、請求項1に記載された発明と対応させるための補正であり、明りょうでない記載の釈明に該当すると主張しているが、当該事項は、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項ついてするものではないし、そもそも当審補正前の請求項18及び31においては、水の量が規定されていることにより明りょうでない記載となっているものではないことから、かかる主張は採用することができない。仮に、補正事項1及び2が、請求項1に記載された発明と対応させるためであったとしても、特許請求の範囲を明らかに拡張する補正は受け入れられるものではなく、明りょうでない記載の釈明に該当するとはいえない。
また、補正事項1及び2は、請求項の削除または誤記の訂正に該当するものではないことは明らかである。
したがって、補正事項1及び2を含む当審補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものに該当するものではない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、補正事項1及び2を含む当審補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 原査定の妥当性についての判断

1.本願発明
上記のとおり、当審補正は却下されたので、本願の請求項1?44に係る発明は、平成24年4月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、前記特許請求の範囲の請求項1?44に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項18に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「(a)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および
(b)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液を含む水性組成物であって、
該水性組成物が基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される、改良された化学線硬化可能な水性組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項18?30に係る発明は、引用文献2(特開平10-316940号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないというもの、また、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。

3.引用刊行物
刊行物:特開平10-316940号公報(平成21年8月25日付け拒絶理由通知書における引用文献2。以下、「引用例」という。)

4.引用例の記載事項
摘示ア 「成分a)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、水に分散可能な、少なくとも1つのポリマーP5.0?90.0重量%、
成分b)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、ポリマーPとは異なり、水溶性かまたは被覆材料の全重量に対して少なくとも10重量%の水で希釈可能な、少なくとも1つの放射線硬化可能な化合物S0.1?90重量%、
成分c)光開始剤0?20重量%、
成分d)充填剤0?60重量%、
成分e)ほかの添加剤0?20重量%、
成分f)水、合わせて100重量%
を含有する放射線硬化可能な水性被覆材料。」(特許請求の範囲、請求項1)

摘示イ 「化合物Sが、エポキシドアクリレート、エポキシドメタクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、増粘剤およびこれらの混合物から選択されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の被覆材料。」(特許請求の範囲、請求項5)

摘示ウ 「成分c):本発明による被覆材料は、放射線硬化するために、エネルギーの多い電子線または紫外線にさらすことができる。紫外線による硬化を実施する場合は、被覆材料に成分c)として光開始剤を0.05?20重量%、有利には0.05?10重量%、特に0.1?5重量%添加する。」(段落0080)

摘示エ 「本発明による被覆材料は、有利には少なくとも50重量%、有利には少なくとも65重量%、特に少なくとも70重量%、および特に有利には少なくとも75重量%の固体含量を有する。一般に被覆材料は、95重量%以下の固体含量を有する。」(段落0087)

摘示オ 「・・・その際被覆材料を用いて吸着不可能の基体、例えばプラスチック、織物合成繊維、ガラス、有利には金属を被覆することができる。有利には本発明による被覆材料は、吸着可能な基体、例えば紙、皮革、織物、木材および木材加工材料、例えば木質繊維板の被覆に適している。・・・」(段落0090)

摘示カ 「例
例1
50%ポリエステルアクリレートエマルション(Laromer(登録商標)LR8895、BASF社)33部に、脂肪族エポキシドアクリレート(Laromer(登録商標)LR8765、BASF社)67部を分散して入れ、ベンゾフェノンおよび1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの重量比1:1からなる光開始剤混合物(Irgacure(登録商標)500、Ciba社の光開始剤)1%と混合した。安定な溶液が得られた。固体含量は約83%であった。この被覆材料をプライマーとして層厚約10g/m^(2)でブナ表面に圧延し、放射器(120W/cm)を用いてゲル化した。・・・」(段落0092)

5.引用例に記載された発明
刊行物1には、摘示アより、「成分a)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、水に分散可能な、少なくとも1つのポリマーP5.0?90.0重量%、
成分b)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、ポリマーPとは異なり、水溶性かまたは被覆材料の全重量に対して少なくとも10重量%の水で希釈可能な、少なくとも1つの放射線硬化可能な化合物S0.1?90重量%、
成分c)光開始剤0?20重量%、
成分d)充填剤0?60重量%、
成分e)ほかの添加剤0?20重量%、
成分f)水、合わせて100重量%
を含有する放射線硬化可能な水性被覆材料。」が記載されている。
そして、摘示イより、「化合物Sが、エポキシドアクリレート、エポキシドメタクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、増粘剤およびこれらの混合物から選択されている」と記載されている。
また、「水性被覆材料」の固体含量は、摘示エより、75?95重量%であることが記載されているから、「成分f)水」の配合量は、残りの25?5重量%であると解される。
そうすると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているといえる。

「成分a)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、水に分散可能な、少なくとも1つのポリマーP5.0?90.0重量%、
成分b)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、ポリマーPとは異なり、水溶性かまたは被覆材料の全重量に対して少なくとも10重量%の水で希釈可能な、少なくとも1つの放射線硬化可能な、エポキシドアクリレート、エポキシドメタクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、増粘剤およびこれらの混合物から選択されている化合物S0.1?90重量%、
成分c)光開始剤0?20重量%、
成分d)充填剤0?60重量%、
成分e)ほかの添加剤0?20重量%、
からなる固体含量が75?95重量%であり、
成分f)水が残りの25?5重量%であり、
合わせて100重量%である
放射線硬化可能な水性被覆材料。」

6.対比
本願発明と引用例発明とを対比する。

引用例発明における「成分b)」として、具体的に用いられているものは、「例1」〔摘示カ〕から、「脂肪族エポキシドアクリレート(Laromer(登録商標)LR8765、BASF社)」であるところ、本願発明における(a)成分である「雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート」(以下、単に「(a)成分」ということもある。)について、本願明細書の記載を参酌すると、「特に好ましい水溶性の化合物は1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルのジアクリレートエステルであり、これはLaromer LR 8765、脂肪族のエポキシアクリレートとしてBASF株式会社(シャルロット NC)から利用可能である。」(段落0017)と記載されており、本願明細書の実施例1?3においてもそれが用いられており、両者は一致するものであることから、引用例発明における成分b)は、本願発明における(a)成分に相当するといえる。
そして、引用例発明における「成分b)」として、具体的に用いられている「脂肪族エポキシドアクリレート(Laromer(登録商標)LR8765、BASF社)」(摘示カ「例1」)は水溶性であるから、当該成分b)と水との組み合わせは水溶液を構成するといえるので、当該組み合わせは、本願発明における「(a)成分、および(b)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液」に相当するといえる。
また、引用例発明における「放射線」について、摘示ウより、電子線又は紫外線であると記載されているところ、本願発明における「化学線」としては、本願の特許請求の範囲の請求項26及び27から、高エネルギー電子またはUVであると記載されており、両者は一致するものであることから、引用例発明における「紫外線硬化」は、本願発明における「化学線硬化」に相当する。
さらに、本願発明は、「(a)成分、および(b)・・・との水溶液を含む水性組成物」であって、(a)及び(b)以外の組成成分を排除するものではないから、引用例発明において「成分a)放射線により重合可能な、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和二重結合を有する、水に分散可能な、少なくとも1つのポリマーP」を配合する点は、本願発明と引用例発明との相違点ではない。

そうすると、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点は、次のとおりのものである。

<一致点>
(a)雰囲気温度において水中で化合物の溶液を提供するのに十分な数で水可溶化基を含む放射線硬化可能な水溶性アクリレートまたはメタアクリレート、および
(b)5重量%から25重量%の範囲の量の水との水溶液を含む水性組成物であって、
化学線硬化可能な水性組成物
である点。

<相違点>
本願発明では、「該水性組成物が基体の表面にコーティングされて、水の存在下で効果的な量の化学線に暴露されて硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される」ことを発明特定事項として備えるものであるのに対して、引用例発明では、このような特定事項を有していない点。

7.当審の判断
以下、上記相違点について検討する。

(a)まず、上記相違点に係る発明特定事項は、「基体の表面にコーティングされて」及び「硬化されたフィルムが形成される」場合を規定するものであるから、本願発明の「水性組成物」の適用用途が「コーティング」材であるものと解されるが、引用例発明における「紫外線硬化可能な水性被覆材料」との適用用途と共通するので、適用用途については、本願発明と引用例発明との相違点とはならない。

(b)次に、上記相違点に係る「硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される」との事項について検討する。

(b-1)上記のとおり、「未硬化の残留物」の「抽出可能」量が、「6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppb」の範囲とされているが、上記相違点に係る発明特定事項において、「基材」の選定、硬化条件(電子線照射又は紫外線照射の使い分け、照射強度・量、温度又は時間の設定、あるいは、前処理又は後処理の有無・条件等)、抽出「溶剤」の種類の選択、「浸漬」条件(温度、時間等)、さらに、「未硬化の残留物」の種類・種別について、いずれも何ら限定するものではないことから、前記「未硬化の残留物」の「抽出可能」量の数値範囲に係る事項によって、本願発明の「水性組成物」の抽出形態・条件又は抽出方法が特に特定されるものとなっているとはいえない。
そして、「硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される」ということの意味は、「硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成され得る」水性組成物であることを規定するにすぎないものであるといえ、上記した各条件の組み合わせのいずれか1点においてでも上記抽出可能量の規定を満足する条件が存在しさえすれば、結局のところ当該発明特定事項を満足することとなるのである。
ここで、水性組成物が化学線硬化されてなるフィルムを形成するに際して、「未硬化の残留物」は必ず存在するものであって、当該「未硬化の残留物」の量は、硬化条件などにより増減させることができるものである。
そして、「未硬化の残留物」の抽出量についても、抽出溶媒の種類を変更したり、抽出条件を変更するなどして、その値を適宜増減させることができるものである。
そうすると、上記相違点に係る「未硬化の残留物」の「抽出可能」量の数値範囲に係る事項は、本願発明に係る「水性組成物」の組成成分に関し何らかの限定を付したものとはいえないし、仮に限定されるものであったとしても、引用例発明において、上記した何れかの条件の組み合わせを適宜選択すれば、「硬化された際に、10mlの溶剤中に浸漬された時に、該水性組成物が硬化されて形成されたフィルムから6.45平方センチあたり50ppbから200,000ppbの未硬化の残留物が抽出可能であるように硬化されたフィルムが形成される」という事項を必ず満足するものであるといえるから、当該事項は、引用例発明における水性被覆材料を放射線硬化してなるフィルムであれば必ず備えていることにすぎない。
してみると、上記相違点は、本願発明と引用例発明との実質的な相違点ではない。

さらに附言すると、請求人が、平成24年4月4日提出の意見書において、「かかる特定範囲の少ない未硬化の残留物は、水を5重量%から25重量%の範囲で含む水溶液組成物を使用することで達成されます。」と主張していることに鑑みれば、上記のとおり、引用例発明においても、約17重量%の水を含有している以上、かかる特定範囲の少ない未硬化の残留物となっているものといわざるを得ない。

したがって、本願発明と引用例発明とは同一である。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明である。

(b-2)仮に、上記相違点が、本願発明と引用例発明との実質的な相違点であるとした場合について、以下に検討する。
引用例には、プラスチック、木材等の基体の被覆〔摘示オ〕に用いられる、電子線又は紫外線照射〔摘示ウ〕によって硬化可能な水性被覆材料が記載されており、その発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって、引用例発明に係る被覆材料を用いて硬化被膜を形成させる際に、硬化が十分になされるよう硬化条件を設定・調整することは当然に考慮することにすぎない。
したがって、引用例発明において、当該水性被覆材料を硬化するに際し、硬化された被覆中の未硬化の残留物の量を低減させるべく設定・調整することは、当業者が容易になし得ることにすぎないといえる。
そして、未硬化の残留物の抽出可能量を具体的に設定するに際し、必要に応じて許容量を定めることに、格別の技術的意義があるとはいえず、その上限値は少なければ良いことは自明の事であるから、その値を200,000ppb/6.45平方センチと設定することは、当業者が適宜設定し得る程
度のものであって何ら格別のものではないし、同様に、下限値も少なければ良いことは自明の事であるものの、ゼロにすることは実際上不可能であることから、事実上達成可能な値として、その値を50ppb/6.45平方センチと設定することについても、当業者が適宜設定し得る程度のものである。
そして、本願発明と引用例発明とは、上記一致点のとおり、組成物として区別されるものでないから、引用例発明において、上記相違点に係る「硬化された被覆(フィルム)」が特定範囲の量の未硬化の残留物を含むように調整することに、当業者にとって特段の困難があるものともいえない。

したがって、上記相違点は、当業者にとって、容易になし得ることである。
また、本願発明が、特定範囲の「未硬化の残留物」を含む「硬化されたフィルムが形成される」ように構成されていることにより、予期し得ない格別顕著な作用・効果を奏するともいえない。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



第4 むすび

以上のとおり、本願の請求項18に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、又は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものである。

したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-08 
結審通知日 2014-01-20 
審決日 2014-02-12 
出願番号 特願2004-565656(P2004-565656)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08J)
P 1 8・ 573- Z (C08J)
P 1 8・ 574- Z (C08J)
P 1 8・ 121- Z (C08J)
P 1 8・ 571- Z (C08J)
P 1 8・ 572- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 塩見 篤史
須藤 康洋
発明の名称 放射線硬化可能な水性組成物  
代理人 辻永 和徳  

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