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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1289382
審判番号 不服2013-28  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-04 
確定日 2014-07-01 
事件の表示 特願2001-542395「改良された電流拡散構造を有するスケーラブルLED」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 7日国際公開、WO01/41223、平成15年 8月12日国内公表、特表2003-524295〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
平成12年11月22日 国際出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1999年12月1日(優先権主張番号60/168338)、2000年11月21日(優先権主張番号09/721352)、何れも米国)
平成22年 6月 2日 拒絶理由通知(同年6月4日発送)
平成22年11月 4日 意見書・手続補正書
平成23年 4月27日 拒絶理由通知(最後)(同年5月12日発送)
平成23年11月14日 意見書・手続補正書
平成24年 8月27日 拒絶査定(同年8月30日送達)
平成25年 1月 4日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書
平成25年 7月 8日 審尋
平成25年12月10日 回答書

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1-21に係る発明は、平成25年1月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は以下のとおりである。

「改良された電流拡散構造を有するスケーラブル発光ダイオード(LED)であって、
エピタキシャル成長させたp型層(16)、
エピタキシャル成長させたn型層(15)、および
前記p型層とn型層(16、15)の間に設けられたエピタキシャル成長させた活性層(14)を有するLEDコア(13)と、
前記LEDコア(13)に隣接した第1のスプレッダ層(11)と、
前記LEDコア(13)を通して前記第1のスプレッダ層(11)に達する少なくとも1つの溝(23)と、
前記第1のスプレッダ層(11)の上に少なくとも1つの第1の導電性指状部材(22)を有する第1のコンタクト(21)であって、前記第1のコンタクト(21)及び前記少なくとも1つの第1の導電性指状部材(22)は、前記少なくとも1つの溝(23)の中において前記第1のスプレッダ層(11)の上に堆積しており、前記第1のコンタクト(21)から、前記少なくとも1つの第1の導電性指状部材(22)、前記第1のスプレッダ層(11)および前記LEDコア(13)に電流が流れるようにした第1のコンタクト(21)と、
前記第1のスプレッダ層(11)とは反対側の前記LEDコア(13)の上に少なくとも1つの第2の導電性指状部材(20a、20b)を有する第2のコンタクト(19)であって、前記第2のコンタクト(19)から、前記少なくとも1つの第2の導電性指状部材(20a、20b)および前記LEDコア(13)に電流が流れるようにした第2のコンタクト(19)と
を備えたことを特徴とするスケーラブルLED。」(以下「本願発明」という。)

3 引用発明とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である(特開平3-268360号公報、以下「刊行物」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)基板表面に形成された絶縁層上にゲルマニウム(Ge)層を介して形成された第1導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層と、
前記第1導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層上に、櫛歯状の第1の電極形成領域を残して選択的に順次形成されたIII-V化合物半導体のλ/4多層膜からなる反射層と、第1導電型のIII-V化合物半導体層と、第2導電型のIII-V化合物半導体層と、第2導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層と、
さらに前記第1導電型および第2導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層にそれぞれ形成された第1および第2の電極とを具備し、
前記第1および第2の電極間に所定の電圧を印加することにより、前記第1および第2の導電型のIII-V化合物半導体層間のpn接合から、光を放出せしめるようにしたことを特徴とする半導体装置。」(1頁左下欄4行?同頁右下欄3行)

イ 「(実施例)
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
実施例1
この発光装置は、第1図(a)に要部を示すように、信号処理回路等、他の素子の作り込まれたシリコン基板1の表面を覆う酸化シリコン膜2上に、帯域溶融再結晶化法(ZMR)法によって形成されたゲルマニウム(Ge)島領域3上に高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)が形成され、この上層に、櫛歯状をなすようにGaAs層とAl_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8が順次形成され、この上層に櫛歯状をなすように上部電極9が形成され、さらにこの上部電極下のp型頭域の櫛歯の間に位置するようにn^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層上に直接同様の櫛歯状の下部電極10が配設され、発光波長λ=660nmの発光ダイオードを構成してなるものである。
なお、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層8上に形成される上部電極9は金-ゲルマニウム(Au-Ge)で構成され、n^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4上に形成される下部電極10は金-亜鉛(Au-Zn)で構成されている。
また、反射膜としてのλ/4多層膜5は、第1図(b)に要部を拡大して示すように膜厚λ/4のn^(+)型GaAs層5aとn^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層(x=0.35)5bとを交互に30層積層して形成したもので、膜厚の4倍の波長を持つ光を選択的に反射する性質を持つものである。
なお第1図では、電極表面を覆う絶縁膜および配線パターンは省略した。」(3頁左下欄15行?4頁左上欄6行)

ウ 「次に、この発光装置の製造方法について説明する。
まず、第2図(a)に示すようにシリコン基板1内に、所定の素子領域(図示せず)を形成した後、スパッタリング法、CVD法等を用いて酸化シリコン膜2を形成した後、真空蒸着法によりゲルマニウム膜3を形成しバターニングし、さらにこの上層を、スパタリング法およびEB蒸着法で順次形成した2つの膜からなるるキャッピング用の酸化シリコン膜Cによって被覆する。
この後、第2図(b)に示すように、10^(-6)Torr程度の真空中で、この基板を下部ヒータH1上で所定の温度まで加熱した後、ストリップ状の上部ヒータH2を用いて狭帯域を加熱溶融し、このストリップ状の上部ヒータH2を動かし、微小領域づつ再結晶化させていくようにする。このとき再結晶化された領域は通常粒界を伴って単結晶成長するが、セルフシード法またはフィルタリング法等によってこの粒界の発生、成長を抑制することができる。
続いて、第2図(c)に示すように、分子線エピタキシー(MBE)法によって膜厚0.3μmの高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4、膜厚165ÅのGaAs層と膜厚165ÅのAl_(x)Ga_(1-x)As層とを交互に計30層積層してなる反射膜としてのλ/4多層膜5、膜厚1.0μmのn型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、膜厚0.7μmのp型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、膜厚0.3μmの高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8を順次堆積する。
この後、第2図(d)に示すように、フォトリソグラフィ法によって形成したレジストパターンRを介して反応性イオンエッチング法により、前記λ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8を櫛歯状にパターニングする。このときn^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4も深さ0.2μmまで残して除去する。
そして、このレジストパターンをそのままにして、12%のGeを含有するAu-Ge層を真空蒸着法により堆積し下部電極10を形成し450℃の窒素雰囲気中で2.5分加熱し急冷する。この後、第2図(e)に示すように、レジストパターンを剥離除去し、再び上部電極形成領域に窓を有するレジストパターンを形成してAu-Ge層を真空蒸着法により堆積し(基板温度は250℃とする)、リフトオフ法によりパターニングし、500℃のフォーミングガス中で2分加熱し、上部電極9を形成する。同様にしてAu-Zn層からなる下部電極10を形成する。
さらに、第2図(f)に示すように、CVD法により、酸化シリコン膜11を堆積し、電極取り出し用の窓Wl、W2を形成し、真空蒸着法により膜厚0.5μmのアルミニウム層を堆積してパターニングし配線層12を形成して、第1図に示した発光装置が完成する。」(4頁左上欄7行?同頁右下欄1行)

エ 「このようにして形成された発光装置は、酸化シリコン膜上にZMR法によって形成されたGe島領域3の存在により、この上に、極めて整合性よくAl_(x)Ga_(1-x)As(x=0.35)が形成されており、欠陥のない良好なエピタキシャル成長層内に発光ダイオードが形成されているため、高特性を得ることが可能である。ここでGeの格子定数は5.66nmであるのに対し、Al_(x)Ga_(1-x)As(x=0.35)の格子定数もこれと一致するため、極めて整合性の良好なAl_(x)Ga_(1-x)As層を形成することができる。
このように本発明によれば、絶縁膜の下部に受光素子、信号処理回路などを集積化する一方で、絶縁膜の上層には高特性の発光ダイオードを形成することができ、モノリンツクな多機能デバイスの形成が可能となる。
また、この発光ダイオードは、基板の一方の面のみから電圧供給を行うことができると共に、電極が互いにかみ合うような櫛歯状をなしているため、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層とn型Al_(x)Ga_(1-x)As層との間に最も効率よく電界をかけることができる。
さらに、n^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とn^(+)GaAs層との多層膜をn型Al_(x)Ga_(1-x)As層と、このn型Al_(x)Ga_(1-x)As層へのコンタクトのための高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層との間に介在させており、界面での欠陥の発生もなく光を効率よく表面方向に導出することができる。また、この多層膜は高濃度のn^(十)層からなり、コンタクト層としての役割をもなしている。」(4頁右下欄2行?5頁左上欄9行)

オ 第1図、第2図は、以下のとおりのものである。






(当審注:上記ウの「…膜厚0.3μmの高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8を順次堆積する。…同様にしてAu-Zn層からなる下部電極10を形成する。」との記載に照らせば、第1図(a)中の「下部(N形)電極8」との記載は、「下部(N形)電極10」の誤記と認められる。)

4 引用発明
ア 上記「3 ア」より、刊行物には、「基板表面に形成された絶縁層上にゲルマニウム(Ge)層を介して形成された第1導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層と、
前記第1導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層上に、櫛歯状の第1の電極形成領域を残して選択的に順次形成されたIII-V化合物半導体のλ/4多層膜からなる反射層と、第1導電型のIII-V化合物半導体層と、第2導電型のIII-V化合物半導体層と、第2導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層と、
さらに前記第1導電型および第2導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層にそれぞれ形成された第1および第2の電極とを具備し、
前記第1および第2の電極間に所定の電圧を印加することにより、前記第1および第2の導電型のIII-V化合物半導体層間のpn接合から、光を放出せしめるようにした半導体装置。」が記載されている。

イ 上記「3 イ」によれば、「第1導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層」は「高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)」であり、以下同様に、「III-V化合物半導体のλ/4多層膜からなる反射層」は「GaAs層とAl_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜」、「第1導電型のIII-V化合物半導体層」は「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」、「第2導電型のIII-V化合物半導体層」は「p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」、「第2導電型の高濃度のIII-V化合物半導体層」は「高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8」、「第1…の電極」は「下部電極10」、「第2の電極」は「上部電極9」である。

ウ 上記「3 イ」によれば、「この発光装置は、…高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)が形成され、この上層に、櫛歯状をなすようにGaAs層とAl_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8が順次形成され、この上層に櫛歯状をなすように上部電極9が形成され、さらにこの上部電極下のp型頭域の櫛歯の間に位置するようにn^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層上に直接同様の櫛歯状の下部電極10が配設され、発光波長λ=660nmの発光ダイオードを構成してなるものである」から、上記アの「半導体装置」は発光ダイオードである。

エ 上記「3 エ」によれば、発光ダイオードは「欠陥のない良好なエピタキシャル成長層内に」形成されているから、刊行物に記載された「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」、「p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」は、何れもエピタキシャル成長させた層である。

オ 上記「3 ウ」によれば、「フォトリソグラフィ法によって形成したレジストパターンRを介して反応性イオンエッチング法により、前記λ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8」は「櫛歯状にパターニング」され、「n^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4も深さ0.2μmまで残して除去」されている。

カ 上記「3 ウ」によれば、「…12%のGeを含有するAu-Ge層を真空蒸着法により堆積し下部電極10を形成…」するから、下部電極10は堆積して形成したものである。

キ 上記「3 イ」の記載を踏まえて第1図(a)を見ると、下部電極10は、「櫛歯状にパターニング」された「前記λ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8」の隙間に延出する部分を備えている。また、上部電極9は、櫛歯状をなしていることが理解できる。

ク 上記「3 エ」によれば、「…、n^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とn^(+)GaAs層との多層膜…。…、この多層膜は高濃度のn^(十)層からなり、…」との記載があるから、「GaAs層とAl_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜」は「n^(+)GaAs層とn^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜」である。

ケ 上記「3 エ」によれば、「電極が互いにかみ合うような櫛歯状をなしているため、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層とn型Al_(x)Ga_(1-x)As層との間に最も効率よく電界をかけることができる」ものである。

コ 以上によれば、刊行物には、以下の発明が記載されている。
「基板表面に形成された絶縁層上にゲルマニウム(Ge)層を介して形成された高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)と、
前記高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)上に、櫛歯状の下部電極10形成領域を残して選択的に順次形成されたn^(+)GaAs層とn^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜と、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6と、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7と、高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8と、
さらに前記n^(十)型およびp型の高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層にそれぞれ形成された下部電極10および上部電極9とを具備し、
前記下部電極10および上部電極9間に所定の電圧を印加することにより、前記n型およびp型Al_(x)Ga_(1-x)As層間のpn接合から、光を放出せしめるようにした発光ダイオードであって、
前記n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7は、何れもエピタキシャル成長させた層であり、
前記λ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8は櫛歯状にパターニングされ、n^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4も深さ0.2μmまで残して除去されており、
上部電極9は櫛歯状をなしており、
下部電極10は、堆積して形成したものであり、
下部電極10は、櫛歯状にパターニングされたλ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8の隙間に延出する部分を備えており、
電極が互いにかみ合うような櫛歯状をなしているため、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層とn型Al_(x)Ga_(1-x)As層との間に最も効率よく電界をかけることができる、
発光ダイオード。」(以下「引用発明」という。)

5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 本願発明の「改良された電流拡散構造を有するスケーラブル発光ダイオード(LED)」と、引用発明の「発光ダイオード」を対比すると、両者は「発光ダイオード(LED)」の点で一致する。

イ 本願発明の「エピタキシャル成長させたp型層(16)、エピタキシャル成長させたn型層(15)、および前記p型層とn型層(16、15)の間に設けられたエピタキシャル成長させた活性層(14)を有するLEDコア(13)」と、引用発明の「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6と、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」であって、「前記n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7は、何れもエピタキシャル成長させた層であり」、「前記n型およびp型Al_(x)Ga_(1-x)As層間のpn接合から、光を放出」することを対比する。
(ア)本願発明の「エピタキシャル成長させたp型層(16)」と、引用発明の「p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」であって、「前記…p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7は、…エピタキシャル成長させた層であ」ることを対比すると、両者は「エピタキシャル成長させたp型層」の点で一致する。
(イ)本願発明の「エピタキシャル成長させたn型層(15)」と、引用発明の「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」であって、「前記n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6…は、…エピタキシャル成長させた層であ」ることを対比すると、両者は「エピタキシャル成長させたn型層」の点で一致する。
(ウ)引用発明は、「n型およびp型Al_(x)Ga_(1-x)As層間のpn接合から、光を放出」するから、「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6と、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」は発光ダイオードの発光部である。
(エ)してみると、両者は、「エピタキシャル成長させたp型層、エピタキシャル成長させたn型層を有するLEDコア」の点で一致する。

ウ 本願発明の「前記LEDコア(13)に隣接した第1のスプレッダ層(11)」と、引用発明の「高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)」と「前記高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)上に、櫛歯状の下部電極10形成領域を残して選択的に順次形成されたn^(+)GaAs層とn^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜」を一体にしたものであって、「…反射膜と、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」が「前記高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)上に、…順次形成され」ていることを対比する。
(ア)はじめに、本願発明の「スプレッダ層」の技術的意義について、発明の詳細な説明を参酌して検討する。
本願の発明の詳細な説明には、「【0016】…スプレッダ層は、隣接するLEDコア層よりも導電性が高く、これによって電流は、第2のコンタクト/フィンガから第2のスプレッダ層およびLEDコア全体に、より自由に流れることができる。」、「【0024】第1のスプレッダ11は、活性層14への電流拡散を容易にする厚さおよびドーピング濃度を有する。好ましいドーピング濃度は、1×10^(21)cm^(-3)から1×10^(15)cm^(-3)であり、好ましい厚さは0.2μmから100μmである。」との記載がある。ここで、ドーピング濃度を高くすると導電性が高くなることが技術常識であることを考慮すると、本願発明の「スプレッダ層」の技術的意義は、ドーピング濃度を高くする等して、隣接するLEDコア層よりも導電性を高くした層と解される。
(イ)引用発明の「高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)」と「前記高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)上に、櫛歯状の下部電極10形成領域を残して選択的に順次形成されたn^(+)GaAs層とn^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜」を一体にしたものは、「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」に隣接すると共に、「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」よりもドーピング濃度が高い。また、上記イで検討したとおり、「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6」は発光ダイオードの発光部を構成する層の一つである。そうすると、引用発明の「高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)」と「前記高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)上に、櫛歯状の下部電極10形成領域を残して選択的に順次形成されたn^(+)GaAs層とn^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜」を一体にしたものは、「スプレッダ」として機能する。してみると、両者は「LEDコアに隣接した第1のスプレッダ層」の点で一致する。

エ 本願発明の「前記LEDコア(13)を通して前記第1のスプレッダ層(11)に達する少なくとも1つの溝(23)」と、引用発明の「前記λ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8は櫛歯状にパターニングされ、n^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4も深さ0.2μmまで残して除去されて」いることを対比する。
引用発明の「n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」は、上記イで検討したとおり、発光ダイオードの発光部を構成するものである。また、「n^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4も深さ0.2μmまで残して除去されて」いるところ、「n^(+)型Al_(x)Ga_(1-x)As層」は、上記ウ(イ)で検討したとおり、スプレッダとして機能する層である。そして、「櫛歯状にバターニング」されていることは、刊行物の第1図(a)を見ても理解できる様に、溝が形成されていることである。
してみると、両者は相当関係にある。

オ 本願発明の「前記第1のスプレッダ層の上に少なくとも1つの第1の導電性指状部材を有する第1のコンタクトであって、前記第1のコンタクト及び前記少なくとも1つの第1の導電性指状部材は、前記少なくとも1つの溝の中において前記第1のスプレッダ層の上に堆積しており、前記第1のコンタクトから、前記少なくとも1つの第1の導電性指状部材、前記第1のスプレッダ層および前記LEDコアに電流が流れるようにした第1のコンタクト」と引用発明の「さらに前記n^(十)型…の高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層に…形成された」下部電極10であって、「下部電極10は、堆積して形成したものであり」、「下部電極10は、櫛歯状にパターニングされたλ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8の隙間に延出する部分を備えており」、「前記下部電極10および上部電極9間に所定の電圧を印加することにより、前記n型およびp型Al_(x)Ga_(1-x)As層間のpn接合から、光を放出せしめ」、「電極が互いにかみ合うような櫛歯状をなしているため、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層とn型Al_(x)Ga_(1-x)As層との間に最も効率よく電界をかけることができる」「下部電極」を対比する。
(ア)引用発明の「下部電極」は、「n^(十)型…の高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層に…形成」されたものであるところ、上記ウ(イ)で検討したとおり、「n^(十)型…の高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層」はスプレッダとして機能する層であるから、「下部電極」は「スプレッダとして機能する層」の上に形成されている。
(イ)引用発明の「下部電極」は、「櫛歯状にパターニングされたλ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8の隙間に延出する部分を備え」ているところ、前記「延出する部分」は「指状」といえる。
(ウ)引用発明の「下部電極」は、「堆積して形成したもの」である。また、「櫛歯状にパターニングされたλ/4多層膜5、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7、高濃度のn型Al_(x)Ga_(1-x)As層8の隙間に延出する部分を備え」ているところ、上記エで検討したとおり、「溝」が形成されているといえる。そして上記(ア)を踏まえると、「下部電極」は溝の中においてスプレッダとして機能する層の上に堆積して形成されている。
(エ)引用発明は、「前記下部電極10および上部電極9間に所定の電圧を印加することにより、前記n型およびp型Al_(x)Ga_(1-x)As層間のpn接合から、光を放出せしめ」るものであり、「p型Al_(x)Ga_(1-x)As層とn型Al_(x)Ga_(1-x)As層との間に最も効率よく電界をかけることができる」ものであるところ、「前記下部電極10および上部電極9間に所定の電圧を印加す」ると、下部電極10と上部電極9間に電流が流れることは技術常識である。そうすると、引用発明は、下部電極10、延出する部分、高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7に電流が流れるものである。
(オ)上記(ア)?(エ)によれば、両者は相当関係にある。

カ 本願発明の「前記第1のスプレッダ層とは反対側の前記LEDコアの上に少なくとも1つの第2の導電性指状部材を有する第2のコンタクトであって、前記第2のコンタクトから、前記少なくとも1つの第2の導電性指状部材および前記LEDコアに電流が流れるようにした第2のコンタクト(19)」と、引用発明の「p型の高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層に…形成され…」ている「上部電極9」であって、「上部電極9は櫛歯状をなして」おり、「前記高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4(x=0.35)上に」「n^(+)GaAs層とn^(+)Al_(x)Ga_(1-x)As層とのλ/4多層膜5からなる反射膜と、n型Al_(x)Ga_(1-x)As層6と、p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7と、高濃度のp型Al_(x)Ga_(1-x)As層8」が「順次形成」されていることを対比する。
(ア)引用発明の「上部電極9」が形成されている「p型の高濃度のAl_(x)Ga_(1-x)As層」は、「p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」の上に形成されているところ、「p型Al_(x)Ga_(1-x)As層7」は発光ダイオードの発光部を構成する層の一つであることを踏まえると、「上部電極9」は、スプレッダとして機能する「高濃度のn^(十)型Al_(x)Ga_(1-x)As層4」とは反対側の発光ダイオードの発光部を構成する層の上に形成されているといえる。
(イ)引用発明の「上部電極9」は「櫛歯状をなして」いるから、指状の部材を有している。
(ウ)上記オ(エ)と同様に、「上部電極9」から指状の部材、発光ダイオードの発光部を構成する層に電流が流れるものである。
(エ)してみると、両者は相当関係にある。

キ 以上のことから、本願発明と引用発明は、
「発光ダイオード(LED)であって、
エピタキシャル成長させたp型層、及びエピタキシャル成長させたn型層を有するLEDコアと、
前記LEDコアに隣接した第1のスプレッダ層と、
前記LEDコアを通して前記第1のスプレッダ層に達する少なくとも1つの溝と、
前記第1のスプレッダ層の上に少なくとも1つの第1の導電性指状部材を有する第1のコンタクトであって、前記第1のコンタクト及び前記少なくとも1つの第1の導電性指状部材は、前記少なくとも1つの溝の中において前記第1のスプレッダ層の上に堆積しており、前記第1のコンタクトから、前記少なくとも1つの第1の導電性指状部材、前記第1のスプレッダ層および前記LEDコアに電流が流れるようにした第1のコンタクトと、
前記第1のスプレッダ層とは反対側の前記LEDコアの上に少なくとも1つの第2の導電性指状部材を有する第2のコンタクトであって、前記第2のコンタクトから、前記少なくとも1つの第2の導電性指状部材および前記LEDコアに電流が流れるようにした第2のコンタクトと
を備えたLED。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:発光ダイオードが、本願発明では「改良された電流拡散構造を有するスケーラブル発光ダイオード」であるのに対し、引用発明では、そのようなものなのか否か不明である点
相違点2:LEDコアのp型層とn型層の間に、本願発明では、「エピタキシャル成長させた活性層」を有するのに対し、引用発明は、そのような層を有するものではない点

6 判断
以下、上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア はじめに、本願発明の「改良された電流拡散構造を有するスケーラブル発光ダイオード」の技術的意義について、発明の詳細な説明の記載を参酌して検討する。
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0014】
(発明の概要)
本発明は、新しい電流拡散構造を有する改良されたLEDを提供する。この改良されたLEDは、標準サイズとすることができ、またはより大きなサイズにスケーリングして、パワー出力および光束を増大させることができる。新しい電流拡散構造は、小型LEDと大型LEDの両方でp型およびn型層内における電流拡散を改善する。その結果、LEDの活性層への正孔および電子の注入が向上し、これにより発光効率が高まり、直列抵抗および加熱が低減する。
【0015】
新しいLEDは一般に、エピタキシャル成長させたp型およびn型層、ならびにp型層とn型層の間にエピタキシャル成長させた活性層を有するLEDコアを含む。LEDコアに隣接して第1の電流スプレッダ(spreader)層が含まれる。LEDコアを通してスプレッダ層に達する少なくとも1つの溝が形成され、この溝の中の前記第1のスプレッダ層上に、少なくとも1つの第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトがある。電流は、第1のコンタクトから、導電性フィンガ、第1のスプレッダ層およびLEDコアに流れる。第1の導電性層とは反対側のLEDコア上に、少なくとも1つの第2の導電性フィンガを有する第2のコンタクトが含まれ、電流は、第2のコンタクトから、第2のフィンガおよびLEDコアに流れる。」

イ 上記記載によれば、「改良された電流拡散構造」とは、「LEDコアに隣接して第1の電流スプレッダ(spreader)層が含まれ」、「LEDコアを通してスプレッダ層に達する少なくとも1つの溝が形成され、この溝の中の前記第1のスプレッダ層上に、少なくとも1つの第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトがある」構造であって、「電流は、第1のコンタクトから、導電性フィンガ、第1のスプレッダ層およびLEDコアに流れる」ことを意味するものと解される。また、「スケーラブル発光ダイオード」とは、「標準サイズとすることができ、またはより大きなサイズにスケーリングして、パワー出力および光束を増大させることができる」発光ダイオードを意味するものと解される。

ウ そこで検討すると、「LEDコアに隣接して第1の電流スプレッダ(spreader)層が含まれ」、「LEDコアを通してスプレッダ層に達する少なくとも1つの溝が形成され、この溝の中の前記第1のスプレッダ層上に、少なくとも1つの第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトがある」構造は、上記「5 対比」の欄で実質的に検討しており、引用発明は、本願発明の「改良された電流拡散構造」を備えているといえる。また、引用発明は、具体的にサイズが特定されるものではないところ、標準的なサイズとしたり、より大きなサイズとしてパワー出力および光束を増大させ得るものである。
そうすると、引用発明は、「改良された電流拡散構造を有するスケーラブル発光ダイオード」であると言えるから、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
p型層とn型層の間に設けられた活性層を有する発光ダイオードは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-256602号公報(「【0034】図1において、…。n型GaN層上の一部には、概略正方形のメサ状に、InGaN発光層104およびp型GaN層105が設けられる。」との記載、図1参照。)、あるいは特開平11-177138号公報(「【0003】…。なお、発光層113はp-n接合を形成するもので、この例ではn型GaAlAsクラッド層113a、GaAlAs活性層113b,p型GaAlAsクラッド層113cの3層が積層されたダブルヘテロ構造を形成したLED素子チップ110としている。」との記載、図11を参照。)に記載されるように、周知の技術事項であり、「エピタキシャル成長させ」る点も格別のものではない。そうすると、引用発明において、光を放出する「n型およびp型Al_(x)Ga_(1-x)As層間のpn接合」として、「p型層とn型層の間に設けられたエピタキシャル成長させた活性層」を採用することに困難性は無い。

(3) そして、本願発明が奏する作用効果は、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に予測しうる程度のものであって、格別のものとは認められない。

(4) よって、本願発明は、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものと認められる。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-31 
結審通知日 2014-02-03 
審決日 2014-02-19 
出願番号 特願2001-542395(P2001-542395)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛杉田 翠  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 服部 秀男
畑井 順一
発明の名称 改良された電流拡散構造を有するスケーラブルLED  
代理人 大塚 文昭  
代理人 須田 洋之  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 上杉 浩  
代理人 辻居 幸一  
代理人 鈴木 信彦  

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