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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1289387
審判番号 不服2013-5479  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-25 
確定日 2014-07-02 
事件の表示 特願2006-163580「ロール」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開、特開2006-349173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年6月13日(パリ条約による優先権主張2005年6月17日、スウェーデン(SE))の出願であって、平成24年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年3月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成25年3月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年3月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
ロールシャフト(1)と、前記ロールシャフトに設置されたロールリング(2)と、を具備する、ロールにおいて、
前記ロールリングに対して、少なくとも1つの別のリング(3)が軸方向において押圧されており、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)の端部接触面(11)が、お互いに対して押圧されて、トルク伝達摩擦ジョイントとして作用しており、
前記端部接触面(11)間のインターフェースにおいて、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)の任意のものにおける最も硬質の材料に比べて、より硬質な材料の多数の小さな粒が分配されており、
前記粒は、各前記端部接触面(11)に部分的に貫通する目的を有し、前記端部接触面間(11)において機械的橋となり、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)との間で連結部を提供することを特徴とするロール。
【請求項2】
前記粒は、粘性流体において分散させられることを特徴とする請求項1に記載のロール。
【請求項3】
前記インターフェースにおける前記粒の平均粒寸法は、10?125μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のロール。
【請求項4】
前記ロールリングは、セメントで固めたカーバイドにより製作されること、及び
前記粒は、ダイアモンド、立方晶窒化ホウ素又はセラミックのグループから選択される材料であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のロール。
【請求項5】
スペーサーリング(3)の端面(11)の内少なくとも1つは、内側エッジ(13)により制限されており、その内側エッジ(13)の直径は、前記ロールシャフト(1)の外径に比べて、より大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のロール。
【請求項6】
前記インターフェースにおける前記粒の平均粒寸法は、25?100μmであることを特徴とする請求項3に記載のロール。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記リング」を「前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)」に限定し、同様に、「前記接触面(11)」を「前記端部接触面(11)」に限定し、「前記粒は、各前記接触面(11)に部分的に貫通する目的を有する」を「前記粒は、各前記端部接触面(11)に部分的に貫通する目的を有し、前記端部接触面間(11)において機械的橋となり、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)との間で連結部を提供する」に限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記のとおりである。
(2)引用例等
(2-1)引用例1
特開平9-29314号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 シャフトの外周面に圧延リングが配設され、この圧延リングの両端をそれぞれスペーサで挟持させてなる圧延ロールにおいて、前記圧延リングの一端側に一方の前記スペーサを介して圧延リングを他端側に付勢する弾性部材が嵌装され、前記圧延リングの他端側には、他方の前記スペーサを介して圧延リングを一端側に押圧するネジ部材を進退可能に螺合する係止部材が前記シャフトに係止されていることを特徴とする圧延ロール。
【請求項2】 前記ネジ部材は、ネジ頭部が前記他方のスペーサを押圧し、ネジ軸部が前記シャフトとほぼ平行に延在して前記係止部材に螺合されていることを特徴とする請求項1に記載の圧延ロール。
【請求項3】 前記弾性部材は、皿バネであることを特徴とする請求項1または2に記載の圧延ロール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、線材や棒鋼等の各種材料を圧延する圧延ロールに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の圧延ロールとして、長寿命化、高剛性化を考慮して、例えば図2に示すようなスリーブドロールが広く用いられている。この圧延ロール1は、シャフト2の中央部に拡径された嵌合用大径部2aが形成され、この大径部2aに超硬合金等の硬質材からなる1以上、例えば2つのスリーブ3が嵌装され、各スリーブ3はそれぞれスリーブ3より軟質の材料からなるスペーサ(カラー)4で挟まれている。そして、これらスリーブ3及びスペーサ4は、シャフト2の一方の端部側に固定されたフランジ5に押し付けられて、他端側のナット6を締め込むことで、押圧されて固定されている。このような圧延ロール1は、圧延加工時に、円筒形状のスリーブ3とスペーサ4との間に微小なズレを生じ易く、これを防止するためにナット6による締め付け圧力を大きくすることが有効であるが、構造上、増大できる圧力には限界があった。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「シャフト2と、前記シャフト2に設置されたスリーブ3と、を具備する、圧延ロール1において、
前記スリーブ3及びスペーサ4は、シャフト2の一方の端部側に固定されたフランジ5に押し付けられて、他端側のナット6を締め込むことで、押圧されて固定されていて、
前記スリーブ3に対して、スペーサ4が軸方向において押圧されており、前記スリーブ3と前記スペーサ4が、お互いに対して押圧されている圧延ロール1。」
(2-2)引用例2
特開2004-19834号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、第1回転軸と第2回転軸との間に設けられ第1回転軸から第2回転軸へのトルクを伝達させると共にトルク変動が発生したときトルク変動を吸収するトルク変動吸収装置に関する。」
(き)「【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者はトルクリミッタを有するトルク変動吸収装置について開発を進めている。そしてトルク変動吸収装置においては、通常使用状態ではトルク変動が設定値以内であり、相手材に摩擦係合するトルクリミッタのリミッタ摩擦係合部の摺動滑り現象は抑えられていること、相手材に摩擦係合しているトルクリミッタのリミッタ摩擦係合部の摺動滑り現象が発生するのは、トルク変動が設定値を越えたときであり、発生頻度は極めて少ないことに着目した。
【0011】
そして本発明者は、相手材に摩擦係合するトルクリミッタのリミッタ摩擦係合部を膜状に成膜すると共に、膜内に硬質粒子を配合すれば、軸長方向におけるトルクリミッタのサイズの薄型化に有利であり、しかもトルクリミッタとして必要な摩擦係数を確保するのに有利であることを知見し、試験で確認し、本発明に係るトルク変動吸収装置を完成した。」
(く)「【0013】
本発明に係るトルク変動吸収装置によれば、トルクリミッタのリミッタ摩擦係合部は、トルク変動が設定値以内のとき第1部材及び第2部材の相対回転変位を抑えるように摩擦係合し、第1回転軸と第2回転軸との間のトルク伝達を良好に行うことができる。第1回転軸と第2回転軸との間のトルク変動が設定値を越えるときには、トルクリミッタのリミッタ摩擦係合部は摺動滑りを発生させる。摺動滑りにより、第1回転軸と第2回転軸との間のトルク伝達の遮断性が高まる。
【0014】
…(略)…
【0017】
本発明に係るトルク変動吸収装置によれば、リミッタ摩擦係合部に含まれている硬質粒子は非球形状である形態を採用することができる。硬質粒子が非球形状であれば、相手材に対する引っかかり係合性が向上し。リミッタ摩擦係合部の摩擦係数を確保するのに貢献できる。非球形状とは、硬質粒子の断面において硬質粒子の中心を通る仮想線に対して左右非対称形状であることを意味する。硬質粒子が非球形状であれば、リミッタ摩擦係合部の摩擦係数の確保に貢献できる。非球形状の硬質粒子としては、機械的に破砕した破砕形状、角片形状等の異形状とすることができる。硬質粒子は一般的には第1部材及び第2部材の平均硬度よりも高い平均硬度をもつ粒子である。
【0018】
硬質粒子の材質としてはセラミックスを採用することができる。セラミックスとして酸化物系、窒化物系、ホウ化物系等を採用することができる。具体的には、炭化珪素、アルミナ、シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素(立方晶窒化ホウ素)、ジルコニア、ムライト、ダイヤモンド等を例示できる。硬質粒子としては場合によっては金属間化合物、硬質金属でも良い。金属間化合物としてはフェロタングステン、フェロモリブデン、フェロバナジウム等の1種または2種以上を採用することができる。セラミックス、金属間化合物、硬質金属のうちの1種または2種以上を硬質粒子として採用することができる。
【0019】
硬質粒子の平均粒径は、リミッタ摩擦係合部の平均厚み、要請される摩擦特性等によって変更できる。このように硬質粒子の平均粒径はリミッタ摩擦係合部の厚みによっても相違するものの、一般的には1?100μm、2?50μm、2?20μm、2?10μmとすることができる。硬質粒子の平均粒径はリミッタ摩擦係合部の平均厚み以下とすることが好ましい。硬質粒子の平均粒径が過剰に大きいと、相手攻撃性の増加、硬質粒子の分散性の低下、硬質粒子の脱落を誘発し、更に摩擦係数の安定化に不利となり、リミッタ摩擦係合部の耐久性が低下する。硬質粒子の平均粒径が過剰に小さいと、硬質粒子の添加効果が低減し、良好なる摩擦係数が得られない。」
(け)「【0040】
硬質粒子は炭化珪素(SiC)の微細な粒子されており、硬質粒子の粒径分布は正規分布に近い分布を示し、最大頻度領域が5?9μm(特に約7μm)とされている。この粒度分布において、3?10μmの粒径をもつ硬質粒子が全粒子数の99.6%を占める。硬質粒子は非球形状であり、具体的には機械的に細かく破砕した異形状の破砕粉末粒子を用いており、相手材に対する引っかかり性が確保され、相手材との間の必要な摩擦係数が確保されている。
【0041】
…(略)…
【0044】
これに対して第1回転軸11と第2回転軸12との間におけるトルク変動が設定値を越えるときが低頻度ながらも発生する。通常使用状態では発生しない程度の過大なトルクが第1回転軸11に入力されるときである。このとき第1リミッタ摩擦係合部51Aはフライホィール部材2のマス部22の摩擦面22aに対して第1回転軸11の中心線P1の回りの周方向に沿って摺動して滑る。同様に、第2リミッタ摩擦係合部51Bは第2プレート72の摩擦面72aに対して第1回転軸11の中心線P1の回りの周方向に沿って摺動して滑る。このような摺動滑り作用が生じるため、第1回転軸11から過大なトルクが第2回転軸12に伝達されることが遮断される。即ち、過大なトルク変動が第2回転軸12に伝達されることが抑えられ、トルク変動に起因する共振や破損等が抑えられる。」
(こ)「【0065】
上記したようにトルクリミッタのリミッタ摩擦係合部は膜状に成膜されているため、期待する摩擦係数が得られないおそれがあるが、この点本発明に係るトルク変動吸収装置によれば、トルクリミッタのリミッタ摩擦係合部は、引っかかり性を期待できる硬質粒子を主要成分として含むため、トルクリミッタとして必要な摩擦係数が確保される。」
(2-3)引用例3
特開平11-351279(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電磁力の作用により回転力を間欠的あるいは連続的に伝達する電磁連結装置に関するものである。」
(し)「【0007】本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、初期より所定の伝達可能トルクが得られ、低消費電力で小型化が可能な電磁連結装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係わる電磁連結装置は、同一軸線上に対向して配置された摩擦面の接触摩擦により回転力の伝達を行う少なくとも一対の連結主体と、これらの連結主体のいずれかの摩擦面を軸方向に移動させ、連結主体相互間の連結を制御する励磁装置を備えた電磁連結装置であって、少なくとも一箇所の連結部において、摩擦面のいずれか片方に、摩擦摺動する相手材よりも硬度が大きく、過半数が10μm以上の粒子または結晶粒よりなる皮膜を形成したものである。また、同一軸線上に対向して配置された摩擦面の接触摩擦により回転力の伝達を行う少なくとも一対の連結主体と、これらの連結主体のいずれかの摩擦面を軸方向に移動させ、連結主体相互間の連結を制御する励磁装置を備えた電磁連結装置であって、少なくとも一箇所の連結部において、摩擦面の両方に、各々の母材よりも硬度が大きく、過半数が10μm以上の粒子または結晶粒よりなる皮膜を形成したものである。
【0009】また、皮膜は、非磁性体としたものである。また、皮膜は、化成処理により形成されたものである。また、皮膜は、リン酸マンガン塩よりなるものである。また、皮膜は、リン酸亜鉛塩よりなるものである。さらに、皮膜は、セラミックス粒子よりなるものである。」
(す)「【0013】本実施の形態による電磁連結装置における伝達可能トルクの推移特性を図2に示す。図において、横軸は連結回数であり、電磁コイル9への給電にて負荷の立ち上げがなされる回数を示している。本実施の形態による電磁連結装置の伝達可能トルクは、図中bで示すように、連結の初期よりほぼ一定の値で推移する。これは、連結の初期においては、アマチュア4の表面に形成されたリン酸マンガン塩皮膜4aの結晶粒が、ロータ8の摩擦面に食い込むことにより、従来のアマチュアに比べ、大きな伝達可能トルクが得られるためである。連結回数が増加するに伴い、この結晶粒は摩耗していき、結晶粒が相手材に食い込むことの効果は減少していくが、それに伴い摩擦面のなじみもついてくるため、伝達可能トルクの落ち込みはなく、ほぼ一定に推移していく。なお、この伝達可能トルクの初期値は、リン酸マンガン塩の結晶粒が大きいほど、大きくなることが実験結果から得られている。
【0014】以上のように、本実施の形態によれば、電磁連結装置のアマチュア4表面に、リン酸マンガン塩皮膜4aを化成処理により形成することにより、従来のなじみ付け作業を実施せずとも、リン酸マンガン塩皮膜4aの結晶粒がロータ8に食い込むため、使用初期より高い伝達可能トルクが得られる効果がある。このため、装置の小型化、電磁コイル9の低消費電力化が図られる。さらに、リン酸塩皮膜は、非磁性体であるため、電磁コイル9を消勢した際、残留磁気により磁気回路が残ることなく、アマチュア4が素早くロータ8から離れ、電磁連結装置としての切れが良好となる。また、皮膜を化成処理にて形成したので、メッキ等の処理に比べて強度が大きく、強い防錆効果が得られる。
【0015】実施の形態2.図3は、本発明の実施の形態2である電磁連結装置のアマチュアを示す破断側面図である。図において、4bは、鉄系のロータ8よりも硬度が大きく、過半数が10μm以上の結晶粒よりなるリン酸亜鉛塩皮膜で、アマチュア4表面に化成処理されたものである。本実施の形態では、リン酸塩皮膜として、リン酸亜鉛塩皮膜4bを用いることにより、上記実施の形態1と同様の効果が得られ、さらに、結晶粒の大きさが調整し易く、化成皮膜処理の作業が容易に行える効果がある。その結果、伝達可能トルクの調整を容易に行うことが可能である。
【0016】なお、上記実施の形態1及び2では、アマチュア4の全面に化成処理によりリン酸塩皮膜を形成したが、適当なマスキングをし、摩擦面だけに形成しても良い。ただし、この場合には、摩擦面以外への防錆効果は得られない。
【0017】実施の形態3.図4は、本発明の実施の形態3である電磁連結装置のアマチュアを示す破断側面図である。図において、4cは、鉄系のロータ8よりも硬度が大きく、過半数が10μm以上の粒子よりなるセラミックス粒子皮膜であり、接着剤とともに摩擦面に塗布されたものである。本実施の形態によれば、セラミックスの粉砕粒子を接着剤とともにアマチュア4の摩擦面または全面に塗布することにより、上記実施の形態1及び2で述べたリン酸塩皮膜を化成処理にて形成する場合に比べて容易な処理で、使用初期より高い伝達可能トルクが得られ、電磁連結装置の小型化及び低消費電力化が可能となる。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、
後者の「シャフト」は前者の「ロールシャフト」に相当し、同様に、「スリーブ」は「ロールリング」に、「圧延ロール」は「ロール」に、「スペーサ」は「別のリング」に、それぞれ相当する。
後者の「圧延ロール」の機能・動作からすると、後者の「前記スリーブ3と前記スペーサ4が、お互いに対して押圧されている」は、前者の「前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)の端部接触面(11)が、お互いに対して押圧されて、トルク伝達摩擦ジョイントとして作用しており」に相当する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「ロールシャフトと、前記ロールシャフトに設置されたロールリングと、を具備する、ロールにおいて、
前記ロールリングに対して、少なくとも1つの別のリングが軸方向において押圧されており、前記ロールリングと前記少なくとも1つの別のリングの端部接触面が、お互いに対して押圧されて、トルク伝達摩擦ジョイントとして作用しているロール。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は、
「前記端部接触面(11)間のインターフェースにおいて、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)の任意のものにおける最も硬質の材料に比べて、より硬質な材料の多数の小さな粒が分配されており、
前記粒は、各前記端部接触面(11)に部分的に貫通する目的を有し、前記端部接触面間(11)において機械的橋となり、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)との間で連結部を提供する」ものであるのに対し、
引用例1発明は、そのような事項を備えていない点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例1(特に【0002】)に「このような圧延ロール1は、圧延加工時に、円筒形状のスリーブ3とスペーサ4との間に微小なズレを生じ易く、」と記載されているように、引用例1発明の圧延ロールにおいて、通常、スリーブ3とスペーサ4との間にズレや滑り等が生じ得ること、及びそれが望ましくない現象であることは技術常識である。
引用例2(特に(き)?(こ))には、トルク変動吸収装置に関するが、回転する第1部材及び第2部材の間に介在するリミッタ摩擦係合部を、相手材に対する引っかかり性が確保できる硬質粒子を配合した膜状として、通常使用状態では摺動滑り現象が発生しないようにすることが示されている。引用例3(特に(し)、(す))には、電磁連結装置に関するが、連結主体間の連結部に、摩擦摺動する相手材より硬度が大きい結晶粒からなる皮膜を形成し、結晶粒が連結主体のロータに食い込んで高い伝達可能トルクが得られることが示されている。また、ロールにおいても、相手材より硬度が高い粒子が相手材の接触面に喰い込んで固定することは、例えば、実願昭60-73341号(実開昭61-190302号)のマイクロフィルム(特に明細書第5ページ第19行?第6ページ第17行)に示されているように広く知られている。
引用例2、3等の上記事項は、回転する部材間のトルク伝達にあたって、部材間の摩擦力ないし係合力を高め、相対的な変位を防止・回避しようとするものであり、この点では、引用例1発明とその対象分野、課題等を通有している。ただ、引用例2、3等の上記事項では、その粒子が両接触面に食い込んでいるかどうかは必ずしも明らかではないが、(a)引用例2、3では、粒子が相手材に引っかかる程度、あるいは相手材に食い込む程度にトルク伝達部材が締め付けられていること、(b)一般に、粒子が両接触面に食い込んで摩擦伝達力・摩擦係数等を高めることは、特開平8-21417号公報(特に【請求項1】、【0010】、【0018】)、特開2000-199280号公報(特に【請求項1】、【請求項2】)に示されているように周知であること、以上からすれば、粒子が両接触面に食い込むように構成することは技術的にみて合理的な設計であって、適宜なし得る程度のことにすぎない。
また、上記の(a)(b)に加えて、(c)引用例2(特に【0018】)には、硬質粒子の例としてダイヤモンドが例示されていること、以上からすると、硬質粒子を引用例1発明のスリーブ3及びスペーサ4より硬質とすることは当然かつ合理的であり、格別のことではない。
以上を合わせ考えると、引用例1発明の圧延ロールに引用例2、3の上記事項及び周知技術を適用して、相違点に係る本願補正発明の上記事項に想到することは当業者が容易になし得たものと認められる。
(4-2)効果について
本願補正発明の効果についても、それは、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(4-3)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成25年3月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成24年5月17日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
ロールシャフト(1)と、前記ロールシャフトに設置されたロールリング(2)と、を具備する、ロールにおいて、
前記ロールリングに対して、少なくとも1つの別のリング(3)が軸方向において押圧されており、前記リングの端部接触面(11)が、お互いに対して押圧されて、トルク伝達摩擦ジョイントとして作用しており、
前記接触面(11)間のインターフェースにおいて、前記リングの任意のものにおける最も硬質の材料に比べて、より硬質な材料の多数の小さな粒が分配されており、
前記粒は、各前記接触面(11)に部分的に貫通する目的を有することを特徴とするロール。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1?3、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)」を「前記リング」に拡張し、同様に、「前記端部接触面(11)」を「前記接触面(11)」に拡張し、「前記粒は、各前記端部接触面(11)に部分的に貫通する目的を有し、前記端部接触面間(11)において機械的橋となり、前記ロールリング(2)と前記少なくとも1つの別のリング(3)との間で連結部を提供する」を「前記粒は、各前記接触面(11)に部分的に貫通する目的を有する」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-31 
結審通知日 2014-02-04 
審決日 2014-02-18 
出願番号 特願2006-163580(P2006-163580)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
森川 元嗣
発明の名称 ロール  
代理人 島田 哲郎  
代理人 大橋 康史  
代理人 青木 篤  
代理人 谷光 正晴  
代理人 三橋 真二  
代理人 伊藤 健太郎  

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