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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1289413
審判番号 不服2013-12177  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-26 
確定日 2014-07-03 
事件の表示 特願2008-117578「積層多孔性フィルム、電池用セパレータおよび電池」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月25日出願公開、特開2008-311220〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年4月28日(優先権主張平成19年5月11日)を出願日とする出願であって、平成24年8月8日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月15日に手続補正書及び意見書が提出されたが、平成25年3月18日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年6月26日に審判請求がなされるとともに手続補正書が提出され、その後、同年9月24日付けで審尋がなされ、同年12月2日に回答書が提出された。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年6月26日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成25年6月26日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、平成24年10月15日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?9を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?9とするものであり、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
少なくとも2層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルムであって、
前記多孔質層の1層は、β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる層(βPP層)であり、他の1層は前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる層(シャットダウン層)であり、
前記シャットダウン層の微細孔が閉塞する最低温度であるシャットダウン温度は、前記βPP層の微細孔が閉塞するシャットダウン温度より低く、100℃を超えて150℃以下であることを特徴とする積層多孔性フィルム。」

(補正後)
「【請求項1】
2種3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルムであって、
β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PPを両外層とし、前記無孔膜状物PPの組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる無孔膜状物SDを中層として積層して、共押出で積層無孔膜状物を作製し、該積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化した後、縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化して作製されており、
両外層は前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層、中層が前記無孔膜状物SDが多孔化されたシャットダウン層であり、
前記シャットダウン層の微細孔が閉塞する最低温度であるシャットダウン温度は、前記βPP層の微細孔が閉塞するシャットダウン温度より低く100℃を超えて150℃以下であることを特徴とする積層多孔性フィルム。」

2 補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると、次のとおりである。
〈補正事項1〉
本件補正前の請求項1の「少なくとも2層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルム」を、本件補正後の請求項1の「2種3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルム」とする。

〈補正事項2〉
本件補正前の請求項1の「前記多孔質層の1層は、β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる層(βPP層)であり、他の1層は前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる層(シャットダウン層)であり」を、本件補正後の請求項1の「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PPを両外層とし、前記無孔膜状物PPの組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる無孔膜状物SDを中層として積層して、共押出で積層無孔膜状物を作製し、該積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化した後、縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化して作製されており、
両外層は前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層、中層が前記無孔膜状物SDが多孔化されたシャットダウン層であり」とする。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1について
(1-1)補正の目的の適否について
上記補正事項1は、本件補正前の請求項1において「積層多孔性フィルム」が「少なくとも2層の多孔質層を積層した」ものである点を、「2種3層の多孔質層を積層した」点に限定するものである。つまり、上記補正事項1は、積層する「多孔質層」の数について、本件補正前に「少なくとも2層」とされていたものを「3層」のみに限定するものである。また、上記補正事項1は、本件補正前の請求項1に、積層する多孔質層の種類について、「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる層(βPP層)」と「前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる層(シャットダウン層)」の少なくとも2種があることが記載されていたものを、積層する多孔質層の種類を「2種」のみに限定するものである。
したがって、上記補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載されていた、積層する多孔質層の層数と種類の数を限定するものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、上記補正事項1は特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(1-2)新規事項の追加の有無について
上記補正事項1により補正された部分については、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の段落【0091】、【0109】、【0112】に記載されている。
よって、上記補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、上記補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
(2-1)補正の目的の適否について
上記補正事項2は、本件補正前の請求項1において、「前記多孔質層」すなわち「少なくとも2層の多孔質層」のうちの「1層」が、「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる層(βPP層)」であり、「他の1層」が「前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる層(シャットダウン層)」であると特定されているものであるところ、本件補正後の請求項1において、「βPP層」及び「シャットダウン層」が、「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PPを両外層とし、前記無孔膜状物PPの組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる無孔膜状物SDを中層として積層して、共押出で積層無孔膜状物を作製し、該積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化した後、縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化して作製」するという製造方法により製造されたものであることを特定するとともに、当該製造方法により製造された「前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層」及び「前記無孔膜状物SDが多孔化されたシャットダウン層」が、それぞれ「2種3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルム」の「両外層」及び「中層」となるものであることを特定するものである。
つまり、上記補正事項2は、本件補正前の請求項1において、「積層」される「少なくとも2層の多孔質層」である、「βPP層」及び「シャットダウン層」について、上記「βPP層」を構成する「樹脂組成物」の材料(「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む」点)及び上記「シャットダウン層」の特性(「前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ」点)のみが特定されていたところ、本件補正後の請求項1が、「積層」される「2種3層の多孔質層」である、「βPP層」及び「シャットダウン層」について、上記材料及び特性の点に加えて、その製造方法及び「積層多孔性フィルム」におけるそれぞれの層の配置位置を特定するように補正するものである。しかし、本件補正前の請求項1には、「βPP層」及び「シャットダウン層」に関し、その製造方法についても、「積層多孔性フィルム」における配置位置についても何ら特定されていなかったのであるから、上記補正事項2は、本件補正前の請求項1における、発明を特定するための事項の一つ以上を、概念的により下位の、発明を特定するための事項とするための補正であるということはできない。
そして、一般に、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するか否かの判断に関して、『特許法17条の2第4項第2号は,「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と定めているから,同号の事項を目的とする補正とは,特許請求の範囲を減縮するだけでなく,発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解される。また,「発明を特定するために必要な事項」とは,特許法「第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」とあることから,特許請求の範囲中の事項であって特許を受けようとする発明を特定している事項であると解される。』〔平成19年(行ケ)10055号判決参照。〕とされている点を鑑みれば、上記補正事項2は、本件補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項を限定することを目的とする発明ではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

また、上記補正事項2は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するものでないことは明らかである。
また、本件補正前の請求項1には、「βPP層」及び「シャットダウン層」について、誤記や明りょうでない記載は認められないから、上記補正事項2が、特許法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正や、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するものでないことも明らかである。
したがって、上記補正事項2は特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。

(2-2)新規事項の追加の有無について
上記補正事項2により補正された部分については、本願の当初明細書の段落【0107】?【0116】に記載されている。
よって、上記補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、上記補正事項2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)補正目的の適否と新規事項の追加の有無についての検討のまとめ
以上検討したとおり、補正事項2は特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないから、補正事項2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしておらず、特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

次に、仮に、上記補正事項2が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、したがって、上記補正事項2を含む本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであったとする。このとき、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、本件補正後の請求項1に係る発明についてさらに検討する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

【本願補正発明】
「【請求項1】
2種3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルムであって、
β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PPを両外層とし、前記無孔膜状物PPの組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる無孔膜状物SDを中層として積層して、共押出で積層無孔膜状物を作製し、該積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化した後、縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化して作製されており、
両外層は前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層、中層が前記無孔膜状物SDが多孔化されたシャットダウン層であり、
前記シャットダウン層の微細孔が閉塞する最低温度であるシャットダウン温度は、前記βPP層の微細孔が閉塞するシャットダウン温度より低く100℃を超えて150℃以下であることを特徴とする積層多孔性フィルム。」

(2)引用例1の記載、引用発明、引用例2と引用例3の記載
(2-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に外国において公知となった、国際公開第2007/046226号(以下「引用例1」という。)には、「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムおよびそれを用いた蓄電デバイスセパレータ」(発明の名称)に関して、図1,2とともに、次の記載がある(なお、下線は、一部引用例に記載されていたものを除き、当合議体が付加したものである。以下同様。)。

ア.「【0006】
ここで、上記リチウムイオン電池用セパレータの要求特性としては、下記特許文献13でも説明されているように、主として、隔離特性、電池組立性、電池特性などが挙げられる。
【0007】
隔離特性は、セパレータに求められる最も基本的な特性であり、正極と負極を短絡させずに電気的に隔離するとともに電解液を含浸した状態でイオン透過性を有すること、さらには電解液に対してあるいは電気化学反応場で不活性であること(耐薬品性、耐酸化・還元性)などが求められる。特に、正極と負極の短絡防止には、セパレータにピンホールや亀裂が無いことが重要である。
【0008】
次に、電池組立性は、特に捲回型の電池に適用する場合に要求される。電池の捲回工程では、電極とセパレータを積層してスパイラル状に高速で巻き上げる。この際、電極は凹凸を有し、また高速巻取時に剥離物を生じる場合があるが、高速で巻き取られるセパレータが上記した凹凸や剥離物に起因して破れ、電池の絶縁不良が発生しないことが要求される。すなわち、セパレータの突刺強度が高いことが重要である。また、捲回型以外の場合でも、その他の電池製造工程も含めてセパレータの巻き出し、巻き取り時に長手方向(=縦方向、流れ方向、MD)の強度が弱いと、フィルムが伸びたり、シワが入ったり、あるいは破断することがある(当該業者は、これらの現象がみられた場合、そのセパレータを工程通過性または二次加工性またはハンドリング性に劣るという)。したがって、長手方向の強度が高いことも要求される。このように、セパレータは、力学物性に優れることも重要である。
【0009】
電池特性としては、大電流での充放電性能(レート特性)、低温下での充放電性能などに代表される電流特性に優れること、長期にわたる充放電の繰り返しが可能であること(サイクル特性)、高温下で電池容量を維持できること(耐熱性)、さらには過充電などによる電池温度の上昇に伴う熱暴走を防止(電流遮断)できること(シャットダウン性)などが要求される。レート特性向上には、電池の内部抵抗が低いことが重要であり、同じ電解液を用いた場合、セパレータが薄いほど、空孔率が高いほど、孔径が大きいほど、孔構造の屈曲性が小さいほど、抵抗は小さくなる傾向にある。サイクル特性、耐熱性は、正極、負極の活物質の選択、充填密度の向上などの電池内部の構成も重要であり、電解液の分解物がセパレータの表面開孔部に詰まりにくいことやセパレータに注入された電解液の保液性、セパレータ自体の耐熱性なども重要である。シャットダウン性は、電池の安全装置の一つであり、暴走反応に伴う温度上昇時に、瞬時にセパレータが溶融・孔閉塞し、電流を完全に遮断するとともに、孔閉塞後もできるだけ高温までセパレータが破膜することなく、連続層を形成し、電流を遮断し続けられることが重要である。
【0010】
これらの要求特性から、現在、リチウムイオン電池のセパレータとしては、主として、ポリエチレンやポリプロピレンに代表される、化学的に安定なポリオレフィン系微多孔フィルムが用いられている。
【0011】
微多孔ポリオレフィンフィルムの孔形成手法は、一般に湿式法と乾式法に大別される。湿式法としては、ポリオレフィンに被抽出物を添加、微分散させ、シート化した後に被抽出物を溶媒などにより抽出して孔を形成し、必要に応じて抽出前および/または後に延伸加工を行う工程を有する抽出法などがある(例えば、特許文献1参照)。乾式法としては、溶融押出によるシート化時に低温押出、高ドラフトの特殊な溶融結晶化条件をとることにより特殊な結晶ラメラ構造を形成させた未延伸シートを製造し、これを主として一軸延伸することによりラメラ界面を開裂させて孔を形成するラメラ延伸法がある(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。また、他の乾式法としては、ポリオレフィンに無機粒子などの非相溶粒子を大量添加した未延伸シートを延伸することにより異種素材界面を剥離させて孔を形成する無機粒子法がある(例えば、特許文献3参照)。他にはポリプロピレンの溶融押出による未延伸シート作製時に結晶密度の低いβ晶(結晶密度:0.922g/cm^(3))を形成させ、これを延伸することにより結晶密度の高いα晶(結晶密度:0.936g/cm^(3))に結晶転移させ、両者の結晶密度差により孔を形成させるβ晶法(例えば、特許文献4?9、非特許文献2参照)がある。
【0012】
上記β晶法では、延伸後のフィルムに多量の孔を形成させるため、延伸前の未延伸シートに選択的に多量のβ晶を生成する必要がある。このため、β晶法ではβ晶核剤を用い、特定の溶融結晶化条件でβ晶を生成させることが重要となる。近年では、β晶核剤として、古くから用いられてきたキナクリドン系化合物(例えば、非特許文献3参照)に比較して、さらに高いβ晶生成能を有する材料が提案されており(例えば、特許文献10、11参照)、種々の微多孔ポリプロピレンフィルムが提案されている。」

イ.「【0018】
本発明の目的は、主に上記問題を解消すべくなされたものであり、フィルムを構成する成分による工程汚染が少なく、従来の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムに比較して、極めて空孔率が高く、かつハンドリング性にも優れるとともに、透過性にも優れ、当該フィルムをセパレータとして用いた蓄電デバイスの電池特性を高められる蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム、および当該フィルムを用いた蓄電デバイスセパレータ、および当該セパレータを用いた蓄電デバイスを提供することである。」

ウ.「【0024】
本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムの空孔率は、70%以上である。従来の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムでは、このように高い空孔率を達成することは実質的に不可能であるか、他の要求特性や生産性を保持することが非常に困難であり、例えばβ晶法による微多孔ポリプロピレン系フィルムの場合、達成可能な空孔率の上限は60%前後であった。ここで、空孔率が著しく高いことは、孔が緻密かつ多量に形成されていることに対応する。本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムは、空孔率が上記範囲であることにより、透過性を著しく高めることもできるだけではなく、その蓄電デバイス組立工程において、瞬時に電解液を注入することができるとともに、より多くの電解液を保液できる。また、その後の電解液の保液性などに優れたフィルムとすることもできる。さらには、例えばリチウムイオン2次電池のセパレータとして用いた際には、エネルギー密度、容量の高い電池とすることができ、電池の内部抵抗を低くでき、出力密度を向上させることができる。このように、本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムは、空孔率が高いことにより、蓄電デバイスの補助材料ではなく、積極的に蓄電デバイスの高性能化に貢献できるセパレータとして用いることができる。
【0025】
本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムの空孔率を上記範囲に制御するためには、当該フィルムがβ晶法による微多孔ポリプロピレン系フィルムである場合、例えば次のようにすることが好ましい。すなわち、β晶活性を有するものとすること、より好ましくはβ晶核剤の添加量が適量であること、さらに好ましくはその添加量が0.05?0.2重量%であること;HMS-PPを添加すること、より好ましくはその添加量を0.5?5重量%とすること;mVLDPEを添加すること、より好ましくはその添加量を1?10重量%とすること;キャストドラム温度を110?125℃とすること;キャストドラムへの接触時間を8秒以上とすること;縦-横逐次二軸延伸法で製造する場合には、縦延伸倍率を5?10倍とすること、縦延伸温度を95?120℃とすること、横延伸温度を130?150℃とすること、横延伸速度を100?10000%とすること、より好ましくは1000%/分未満とすることなどが重要である。」

エ.「【0032】
本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムは、二軸配向していることが必要である。二軸配向していることにより、フィルムに靱性を付与でき、どの方向にも裂けにくい。これにより、当該微多孔フィルムからなるセパレータを用いた蓄電デバイスへの加工工程において、フィルムを破れにくくすることができる。さらには、蓄電デバイスへの加工工程において、フィルムが横方向に過度に縮んだりしない。本発明の微多孔フィルムを二軸配向せしめる方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、それに続く再延伸など、各種二軸延伸法が挙げられる。」

オ.「【0050】
特に、本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムは、ポリプロピレンを主成分とすることが特に好ましい。ポリプロピレンを主成分とするとは、フィルムを構成する全てのポリマーに対し、プロピレン単量体を90重量%以上含むことをいう。ポリプロピレンを主成分とすることにより、生産性に優れ、蓄電デバイスセパレータとした際の耐熱性、成形性、耐薬品性、耐酸化・還元性などに優れる。さらに、蓄電デバイス組立工程において、電解液に対する濡れ性に優れることから、電解液がフィルムに斑無く均一に濡れ、その後の保液性にも優れる場合がある。また、ポリプロピレンを主成分とすることにより、下記に示すような生産性と品質バランスに優れたβ晶法を用いることができる。特にβ晶法を用いる場合、プロピレン単量体の含有量が90重量%を下回ることにより、得られる微多孔フィルムのβ晶活性が不十分となり、結果として、空孔率が低くなったり、透過性能に劣る場合がある。プロピレン単量体の含有量は、フィルムを構成する全てのポリマーの単量体全量に対し、より好ましくは95重量%以上であり、さらに好ましくは97重量%以上である。」

カ.「【0053】
ポリプロピレンを主成分とする場合であって、高い空孔率、強度を達成するための重要なポイントの一つとして、本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムは、高溶融張力ポリプロピレン(High Melt Strength-PP;HMS-PP)を含むことが好ましい。HMS-PPを含むことにより、従来の微多孔ポリプロピレンフィルムに比較して、延伸時の破れが少なく、製膜性に優れるため、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸でフィルムが破れることなく安定に製膜できる場合がある。また、これにより、面積延伸倍率(=縦方向の実効延伸倍率と横方向の実効延伸倍率の積)を高くでき、孔形成が促進されるため、従来の微多孔ポリプロピレンフィルムに比較して、空孔率を高くできる。さらには、空孔率が高くても、フィルム中の分子鎖の縦配向を促進でき、縦方向の力学物性を保持できる。これは、HMS-PPを含むことにより、キャストの段階から系内の微結晶を貫く非晶相のタイ分子同士の絡み合いが促進され、その後の延伸過程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。」

キ.「【0066】
ポリプロピレンを主成分とする場合であって、高い空孔率、強度を達成するための重要なポイントの一つとして、本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムは、β晶活性を有することが好ましい。β晶活性を有することにより、その製造工程において、未延伸シート中にβ晶を生成させることが可能となり、その後の延伸工程でβ晶をα晶に結晶転移させ、その結晶密度差により孔を形成できる。また、このβ晶法は、元来乾式法であるため、他の手法のように煩雑なプロセスを必要とせず、優れた特性を有する微多孔ポリプロピレンフィルムを安価で提供することができる。本発明の微多孔フィルムがβ晶活性を有さない場合、ポリプロピレン特有のβ晶法を用いることができず、高い空孔率を達成するためには、得られるフィルムの大半に核を導入する、すなわち無核の孔を有さない態様とする必要があったり、一軸配向する必要があったり、溶媒を用いた抽出法を用いる必要があるために生産性、環境負荷の観点から劣っていたり、得られる微多孔フィルムの透過性に劣る場合がある。
【0067】
ここで、“β晶活性を有する”とは、ポリプロピレンを結晶化させた際にβ晶が生成しうることを意味し、本発明においては、これを次のように確認することができる。すなわち、示差走査熱量計(DSC)を用いて、JIS K 7122(1987)に準じ,窒素雰囲気下で5mgの試料を10℃/分の速度で280℃まで昇温させ、次いで5分間保持した後に10℃/分の冷却速度で30℃まで冷却し、次いで5分間保持した後に再度10℃/分の速度で昇温した際に得られる熱量曲線において、140?160℃にβ晶の融解に伴う吸熱ピークの頂点が存在し、該吸熱ピークのピーク面積から算出される融解熱量が10mJ/mg以上であることをいう。以下、最初の昇温で得られる熱量曲線をファーストランの熱量曲線と称し、2回目の昇温で得られる熱量曲線をセカンドランの熱量曲線と称する場合がある。
【0068】
なお、ポリプロピレンのβ晶の生成能をDSCを用いて確認するということは、チョウら(Cho)ら,“ポリマー”(Polymer),44,p.4053-4059(2003);高橋ら,“成形加工”,15,p.756-762(2003)などにも開示されており、これらの文献では、上記に近い温度条件下でDSCを用いて熱量曲線を採取し、β晶核剤を含有したポリプロピレンのβ晶活性を確認している。また、ここでいうβ晶活性の判定は、押出、キャスト、延伸、巻き取り工程後、即ち製膜後のフィルムについて測定を行う。したがって、フィルムのポリプロピレンが下記に例示するようなβ晶核剤を含有する場合には、β晶核剤を含有したフィルム全体に対してβ晶活性を判定することとなる。
【0069】
そして、上記温度範囲に吸熱ピークが存在するがβ晶の融解に起因するか不明確な場合などは、DSCの結果と併せて、当該サンプルを下記測定方法の(6)に記載した特定条件で溶融結晶化させ、広角X線回折法を用いて評価し、算出される下記K値により “β晶活性を有する”か否かを判定すればよい。すなわち、2θ=16°付近に観測され、β晶に起因する(300)面の回折ピーク強度(Hβ_(1)とする)と2θ=14,17,19°付近にそれぞれ観測され、α晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度(それぞれHα_(1)、Hα_(2)、Hα_(3)とする)とから、下記の数式により算出されるK値が、0.3以上、より好ましくは0.5以上であることをもって“β晶活性を有する”と判定してもよい。ここで、K値は、β晶の比率を示す経験的な値である。各回折ピーク強度の算出方法などK値の詳細については、ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134-158頁(1964)を参考にすればよい。
K = Hβ_(1)/{Hβ_(1)+(Hα_(1)+Hα_(2)+Hα_(3))}
(ただし、Hβ_(1) : ポリプロピレンのβ晶に起因する(300)面の回折ピーク強度、Hα_(1)、Hα_(2)、Hα_(3) : それぞれ、ポリプロピレンのα晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度)
ここで、より均一かつ多数の孔を形成させるためには、上記微多孔フィルムのβ晶分率は、30%以上であることが好ましい。なお、β晶分率は、先に説明した、DSCを用いて2回目の昇温で得られるセカンドランの熱量曲線において、140℃以上160℃未満に頂点が観測されるポリプロピレン由来のβ晶の融解に伴う吸熱ピーク(1個以上のピーク)のピーク面積から算出される融解熱量(ΔHβ;図1と同じ熱量曲線である図2の符号2)と、160℃以上に頂点が観測されるβ晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解に伴うベースラインを越えてピークを持つβ晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解に伴う吸熱ピークのピーク面積から算出される融解熱量(ΔHα図1と同じ熱量曲線である図2の符号3)から、下記式を用いて求める。
【0070】
β晶分率(%) = {ΔHβ/(ΔHβ+ΔHα)}×100
ここで、β晶分率とは、ポリプロピレンの全ての結晶に占めるβ晶の比率であり、特開2004-142321号公報や上記した特開2005-171230号公報、国際公開第02/66233号パンフレット、特開2000-30683号公報などでは、本発明に近い温度条件下でDSCを用いて熱量曲線を測定し、フィルムのβ晶分率を求めている。
【0071】
β晶分率が上記範囲未満であると、得られる微多孔フィルムの空孔率が低くなったり、透過性に劣る場合がある。β晶分率は、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、最も好ましくは60%以上である。」

ク.「【0089】
次に、本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムの少なくとも片面には、滑り性付与、表面開孔率向上、表面親水性付与、表面耐熱性付与など種々の目的に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜各種ポリマーを積層してもよい。この際、積層前と同様、積層することにより得られるフィルムも実質的に透過性を有するものとする必要がある。」

ケ.「【0096】
以下には、縦-横逐次二軸延伸法を用い、ポリプロピレンを主成分とし、β晶法を用いた場合の本発明の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムの製造方法の一例を示す。
【0097】
例えば、HMS-PPおよび/またはmVLDPEを含み、β晶核剤を添加した(β晶活性を有する)ポリプロピレンを準備し、これを押出機に供給して200?320℃の温度で溶融させ、濾過フィルターを経た後、スリット状口金から押し出し、冷却用金属ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめ未延伸シートとする。この際、上記の準備したポリプロピレンに、上記したようなポリプロピレン以外の他のポリマーを適宜添加しても構わない。ただし、得られる微多孔フィルムが無核の孔を有することが必要である。
【0098】
ここで、未延伸シートに多量のβ晶を生成させるため、溶融押出温度は低い方が好ましいが、上記範囲未満であると、口金から吐出された溶融ポリマー中に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破れなどの工程不良を誘発する原因となる場合がある。一方、上記範囲を超えると、ポリプロピレンの熱分解が激しくなり、得られる微多孔フィルムのフィルム特性、例えば、ヤング率、破断強度などに劣る場合がある。
【0099】
また、冷却用金属ドラム(キャストドラム)の温度は60?130℃とする事が好ましい。フィルムを適度に徐冷条件下で結晶化させ、多量かつ均一にβ晶を生成させて、延伸後に高空孔率、高透過性の微多孔フィルムとするためには、温度は高い方が好ましい。冷却用ドラムの温度が上記範囲未満であると、得られる未延伸シートのファーストランのβ晶分率が低下する場合がある。一方上記範囲を超えると、ドラム上でのシートの固化が不十分となり、ドラムからのシートの均一剥離が難しくなる場合がある。また、得られる微多孔フィルムの透過性は上記した温度範囲の中でも上限に近いほど高くなり、下限に近いほど低い傾向にあり、それぞれ得られる未延伸シート中のβ晶量に依存しているものと推定される。ここで、未延伸シート中のβ晶量は、未延伸シートをサンプルとし、DSCを用いて得られるファーストランの熱量曲線から得られるβ晶分率に対応する。透過性の高い微多孔フィルムとする場合には、キャストドラム温度は、好ましくは100?125℃である。
(・・・途中省略・・・)
【0102】
また、当該微多孔ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に第2、第3の層を共押出積層して積層体とする場合には、上記したポリプロピレンの他に各々所望の樹脂を必要に応じて準備し、これらの樹脂を別々の押出機に供給して所望の温度で溶融させ、濾過フィルターを経た後、ポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とするそれぞれの積層厚みでスリット状口金から押し出し、冷却用ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめ未積層延伸シートとすることができる。
【0103】
次に、得られた未延伸(積層)シートを、縦-横逐次二軸延伸法を用いて二軸延伸する。
【0104】
まず、未延伸フィルムを所定の温度に保たれたロールに通して予熱し、引き続きそのフィルムを所定の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、縦方向に延伸して直ちに冷却する。
【0105】
ここで、空孔率と縦方向の強度を高度にバランスさせ、さらには透過性が高い微多孔フィルムを製造するためには、縦方向の延伸倍率が重要である。通常の縦-横逐次二軸延伸法で微多孔ポリプロピレンフィルムを製膜する際の縦方向の実効延伸倍率は、3?4.5倍の範囲であり、5倍を越えると安定な製膜が困難になり、横延伸でフィルムが破れてしまう。しかしながら、本発明においては、より高空孔率、高透過性の微多孔フィルムとするために、縦方向の実効延伸倍率を5?10倍とすることが好ましい。この際、本発明の微多孔ポリプロピレンフィルムには上記したHMS-PPを含有させることが好ましく、これにより安定な縦方向の高倍率延伸が可能となる。縦方向の実効延伸倍率が上記範囲未満であると、得られる微多孔フィルムの空孔率が低くなり、透過性に劣る場合があり、倍率が低いため同じキャスト速度でも製膜速度(=ライン速度)が遅くなり、生産性に劣る場合がある。縦方向の実効延伸倍率が上記範囲を超えると、縦延伸あるいは横延伸でフィルム破れが散発し、製膜性が悪化する場合がある。縦方向の実効延伸倍率は、より好ましくは5?9倍、さらに好ましくは5?8倍である。
【0106】
この際、縦延伸速度は、生産性と安定製膜性の観点から、5000?500000%/分であることが好ましい。また、縦延伸を少なくとも2段階以上に分けて行うことは、高空孔率化、透過性能向上、表面欠点抑制などの観点から好ましい場合がある。そして、縦延伸温度は、安定製膜性、厚みムラ抑制、空孔率や透過性の向上などの観点から、例えば、95?120℃であることが好ましい。また、縦延伸後の冷却過程において、フィルムの厚みムラや透過性が悪化しない程度に縦方向に弛緩を与えることは、縦方向の寸法安定性の観点から好ましい。さらに、縦延伸後のフィルムに所望の樹脂層を適宜押出ラミネートやコーティングなどにより設置してもよい。
【0107】
引き続き、この縦延伸フィルムをテンター式延伸機に導いて、各々所定の温度で予熱し、横方向に延伸する。
【0108】
ここで、横方向の実効延伸倍率は、12倍以下であることが好ましい。横方向の実効延伸倍率が12倍を越えると、製膜性が悪化する場合がある。横延伸温度は、安定製膜性、厚みムラ抑制、空孔率や透過性の向上などの観点から、例えば、100?150℃であることが好ましい。また、横延伸速度は、生産性と安定製膜性の観点から、100?10000%/分であることが好ましい。」

コ.「【0153】(実施例1)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂Aを準備した。
<ポリプロピレン樹脂A>
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(メルトフローレイト(MFR):7g/10分)・・96.8重量%
主鎖骨格中に長鎖分岐を有する高溶融張力ポリプロピレン:Basell製ポリプロピレンPF-814(MFR:3g/10分)・・3重量%
β晶核剤:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU-100)・・0.2重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。
【0154】
得られたポリプロピレン樹脂Aのチップを、一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、400メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱されたドラム(=キャスティングドラム、キャストドラム;CD)にキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて120℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0155】
得られた未延伸シートを105℃に保たれたロール群に通して予熱し、105℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、105℃で縦方向に4倍延伸して95℃に冷却した。引き続き、この縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して140℃で予熱し、140℃で横方向に8倍に延伸した。次いで、テンター内で横方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ20μmの微多孔ポリプロピレンフィルムを得た。なお、この際の縦延伸速度は、18000%/分、横延伸速度は1400%/分であった。
【0156】
得られた微多孔フィルムの原料組成とフィルム特性評価結果をそれぞれ表1、2に示す。得られた微多孔フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、縦方向の強度も高く、ハンドリング性に優れていた。
【0157】
(実施例2)
実施例1において、縦方向の延伸倍率を5倍に上げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ20μmの微多孔ポリプロピレンフィルムを参考例2とした。なお、この際の縦延伸速度は、30000%/分、横延伸速度は1750%/分であった。
【0158】
結果を表1、2に示す。得られた微多孔フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、縦方向の強度も高く、ハンドリング性に優れていた。
【0159】
(実施例3)
実施例2において、縦方向の延伸倍率を6倍に上げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ20μmの微多孔ポリプロピレンフィルムを実施例3とした。なお、この際の縦延伸速度は、45000%/分、横延伸速度は2100%/分であった。
【0160】
結果を表1、2に示す。得られた微多孔フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、縦方向の強度も高く、ハンドリング性に優れていた。」

サ.摘記した上記ケ.に記載された蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムの製造方法の一例において、特に、上記段落【0089】及び【0102】の記載を参照すると、当該一例の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムの製造方法において、蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムが、微多孔ポリプロピレンフィルムの単一層として形成されるのみでなく、当該微多孔ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、種々の目的に応じた、透過性を有する第2、第3の層を積層することが可能であることが示されている。そして、微多孔ポリプロピレンフィルムの層と、透過性を有する第2、第3の層からなる積層体を形成する方法として、ポリプロピレンの他に各々所望の樹脂を準備し、これらの樹脂を別々の押出機に供給して溶融したものをポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とする積層厚みでスリット状口金から押し出し、冷却用ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめ、未積層延伸シートとすることが記載されている。

シ.摘記した上記段落【0067】?【0069】の記載を参照すると、引用例1に記載された微多孔ポリプロピレンフィルムに使用されるβ晶活性を有するポリプロピレンは、β晶の融解に伴う吸熱ピークの頂点が140℃以上160℃未満に観測され、β晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解に伴う吸熱ピークの頂点が160℃以上に観測されるのであるから、上記β晶活性を有するポリプロピレンは、140℃未満ではほとんど溶融しないものであることが示されている。

ス.摘記した上記段落【0011】?【0012】,【0066】の記載を参照すると、β晶が形成されたポリプロピレンの未延伸シートを延伸させることにより、結晶密度の低いβ晶から結晶密度の高いα晶に結晶転移させて、両者の結晶密度差により孔を形成させることが記載されているから、引用例1に記載された蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムに使用される、β晶活性を有するポリプロピレンは、延伸前は無孔膜であり、延伸後に多孔膜となることが示されている。

セ.上記ス.で確認したように、β晶が形成されたポリプロピレンの未延伸シートを延伸させることによって、β晶はα晶に結晶転移するのであるから、延伸後の微多孔ポリプロピレンフィルムにはβ晶はほとんど含まれていないものと認められ、したがって、上記シ.の検討を参照すると、延伸後の微多孔ポリプロピレンフィルムの吸熱ピークの頂点は160℃以上に観測されるものであり、そのシャットダウン温度も160℃程度かそれを超える温度であることを示唆している。

(2-2)引用発明
上記ケ.に記載の一例において、上記サ.で検討した、多孔ポリプロピレンフィルムの片面に第2の層及び第3の層を積層する場合に注目して、上記ア.?セ.の記載内容を総合すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「微多孔ポリプロピレンフィルムからなる第1の層の片面に、種々の目的に応じた、透過性を有する第2の層及び第3の層を順次積層した蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムであって、
高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を含み、β晶核剤を添加したポリプロピレン(以下「第1の樹脂」という。)と、上記第2及び第3の層を形成するための樹脂(以下それぞれ「第2の樹脂」及び「第3の樹脂」という。)を準備し、
上記第1乃至第3の樹脂を個別の押出機に供給して溶融したものを、ポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とする積層厚みでスリット状口金から押し出し、60?130℃の温度とされた冷却用金属ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめることにより、無孔の未延伸シートを形成し、
上記未延伸シートを、縦方向の実効延伸倍率を5?10倍とし、横方向の実効延伸倍率を12倍以下とする、縦-横逐次二軸延伸法を用いて二軸延伸することにより多孔化することにより、
外層の一方が上記微多孔ポリプロピレンフィルムであり、中層が上記第2の層であり、外層の他方が上記第3の層である、蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム。」

(2-3)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において公知となった、特開平11-329390号公報(以下「引用例2」という。)には、「電池セパレータおよびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア.「【請求項1】 第2の遮断層を挟む第1及び第3の微細多孔質の強度層からなり、上記遮断層が粒子延伸法により作製される微細多孔質膜であることを特徴とする電池セパレーター。
【請求項2】 上記電池セパレーターが約115℃の遮断温度を有することを特徴とする請求項1記載の電池セパレーター。
【請求項3】 上記遮断層が充填剤として炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1記載の電池セパレーター。
【請求項4】 上記遮断層が約0.1ミクロン?約1ミクロンの粒子サイズを持つ充填剤を含むことを特徴とする請求項1記載の電池セパレーター。
【請求項5】 上記強度層がポリプロピレンで造られており、上記遮断層がポリエチレンで造られていることを特徴とする請求項1記載の電池セパレーター。」

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、全般に、遮断(shutdown)3層電池セパレーター、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】電池は、通常、電極、電解液、及び電池セパレーターからなる。電池セパレーターは、電池中で隣接したアノードとカソードの間に配置され、反対極性の電極の間の直接接触を防止し、電解液を包含する。近年ますます使用が盛んになっているリチウム電池(例えば、リチウムイオン電池またはリチウム二次電池)においては、熱暴走及び爆発すら引き起こすために、短絡という問題点がある。そして、この問題点を克服するため、遮断セパレーターが開発された(例えば、共にLundquistらにより出された米国特許第4,650,730号及び米国特許第4,731,304号を参照)。遮断電池セパレーターは、リチウムの融点及び/又は発火点以下のある温度で孔が閉じて、熱暴走の悪影響を最小限にとどめる微細多孔質膜である。高いパンク強度(耐穴あき強度)が得られるポリプロピレン等のポリマーでできている微細多孔質膜は、リチウムの融点に近い高溶融温度を持つ場合があり、リチウム電池の遮断セパレーターを形成するためにこれらのポリマーを使用する場合の欠点になっている。他方、ポリエチレン等のポリマーでできている微細多孔質膜は、一般に低い溶融温度を持つ。しかし、これらのパンク強度は、一般に低い。このように、ポリエチレン膜を挟む2枚のポリプロピレン微細多孔質膜からなる3層遮断電池が提案されている。」

ウ.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】微細多孔質の遮断セパレーターは、電池の中で占めるスペースを最小とし、電解液抵抗を低減させるように十分薄いものでなければならない。それにも拘わらず、遮断セパレーターは、また、引き裂きやパンクに耐える十分な強度を持たなければならない。これらの2つの性能、すなわち薄さと強度は、各々極めて重要であるが、フィルム強度は通常フィルム厚さに逆に変化するので、2つを最大にすることはできない。更に、セパレーターの完全な形が維持される温度が高い一方で、120℃より低く、好ましくは約95℃から115℃の範囲内の遮断温度を持つセパレーターを提供することが好ましい。上述のように、これまでに開示された遮断3層セパレーターは、すべて120℃以上の遮断温度を持っている。これは、大方、遮断温度を低下させる公知の方法がセパレーターの薄さと妥協するかあるいはセパレーターの強度を弱め、セパレーターを製造する能力を妨げるためである。その結果、120℃以下の遮断温度を持ち、満足すべき薄さ並びに満足すべき強度を有する3層セパレーターは、当業界では入手できなかった。このように、高品質の電池セパレーターに対する更なるニーズがある。」

エ.「【0007】
【発明の実施の形態】本発明は、1枚の遮断層を挟む2枚の強度層からなる遮断3層電池セパレーターに関する。内側の遮断層は、以下に詳細に述べられる粒子延伸法により成形される。図1は、例えば、電池、特にリチウム電池等の充電可能な電池などの電気化学セルに使用される3層の微細多孔質フィルムからなる遮断電池セパレーター(10)の好ましい実施形態を図示する。この3層セパレーターは、一体に接合された3枚の微細多孔質膜を持つ。第1(12)及び第3(16)の層、すなわち2枚の外側の層は、強度層である。第2(14)の層、すなわち内側の層は、遮断層である。遮断セパレーターは、強度層の融点以下の温度で、かつ熱暴走が起こりうる温度以下で孔が溶融し、閉じることができる(遮断温度)。好ましくは、3層電池セパレーターの遮断温度は、約124℃以下の遮断温度を持ち、約80℃から約124℃、更に好ましくは約95℃から約115℃の範囲にある。好ましくは、3層電池セパレーターは、2ミル以下、更に好ましくは1.5ミル以下、最も好ましくは1ミル以下の厚さを持つ。
【0008】この3層電池セパレーターは、満足すべき薄さと好ましい低い遮断温度を持つ一方で、低減された引き裂き性と良好なパンク強度を示す。加えて、以下に説明するように、内側の層は、一般にポリマーマトリックスより大きな熱伝導性を持つ充填剤を含む従って、当業界で公知の3層電池セパレーターと比較して、本発明の3層セパレーターは、電池の使用中に均一な熱分布を持ち、電池セルの加熱を防止することによって、電池の安全性を促進する。強度層は、例えばポリプロピレンまたはポリエチレン等のポリオレフィン、または実質的にポリプロピレンまたはポリエチレンまたはこれらのコポリマーからなるブレンドから構成される。好ましくは、ポリプロピレンまたは実質的にほぼポリプロピレンで形成されるブレンド(例えば、95重量%以上のポリプロピレン)が強度層を形成するポリマーとして使用される。例に挙げられるポリプロピレンは、Fina Oil and Chemical Company, Dallas Texasから市販されているFina PP 3271樹脂である。」

オ.「【0010】本発明の内側の遮断層は、粒子延伸法により成形される。「粒子延伸法」とは、分散されたポリマー固体充填剤で充填されたポリマーマトリックスでできた前駆体フィルムを延伸するすることからなる微細多孔質フィルムを形成する方法を意味する。延伸すると、応力集中により孔が生じ、フィルムを微細多孔質とされる結果が得られる。当業界で公知の延伸法は、いずれも本発明の内側の層を作製するのに使用される。このような方法の例は、ここに引用して本明細書の一部をなす、米国特許第3,870,593号、第4,350,655号、第4,698,372号、第4,777,073号に見られる。特に、本発明の遮断層は、ポリマーと充填剤からなるポリマー組成物から押し出された前駆体フィルムを延伸するすることにより製造される。場合によっては、ポリマー組成物には、安定剤、酸化防止剤等の普通の添加物が含まれる。
【0011】フィルムの製造に好適なポリマーは、いずれも、本発明の3層電池セパレーターの内側の層を作製するのに使用される。このようなポリマーの具体例としては、限定ではないが、例えばポリオレフィン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン-ポリスチレン共重合体、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド-ポリスチレン共重合体、ポリカーボネートなどがある。好ましくは、ポリオレフィンが使用される。より具体的な例として挙げられるポリオレフィンには、限定ではないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び上記化合物の実質的に一つからなるブレンドがある。好ましくは、ポリマーは、遮断温度が約80℃?約120℃、好ましくは約95℃?約115℃の範囲になるように選ばれる。低い遮断温度を得るためには、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、または実質的にLDPE、LLDPE、若しくはこれらの混合物からなるブレンドを使用することが好ましい。特に好ましいのは、LLDPE、エチレンと約20重量%(好ましくは、約16重量%)程度の重合されたアルファオレフィン含量を持つ炭素数3(C3)?炭素数10(C10)のアルファオレフィンよりなる群から選ばれるアルファオレフィンとのランダム共重合体である。LLDPEの好ましい具体例には、限定ではないが、エチレン-ブテン共重合体及びエチレン-ヘキセン共重合体がある。」

(2-4)引用例3の記載
原査定において引用文献3として引用された、本願の優先権主張日前に外国において公知となった、国際公開第2007/049568号(以下「引用例3」という。)には、「ポリオレフィン多層微多孔膜及びその製造方法並びに電池用セパレータ」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア.「【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、リチウム電池用を始めとする電池用セパレータ、電解コンデンサ用隔膜、各種フィルタ、透湿防水衣料等に広く用いられている。ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合、その性能は電池の特性、生産性及び安全性に深く関わる。そのためポリオレフィン微多孔膜には、優れた透過性、機械的特性、耐熱収縮性、シャットダウン特性、メルトダウン特性等が要求される。
【0003】
一般にポリエチレンのみからなる微多孔膜はメルトダウン温度が低く、またポリプロピレンのみからなる微多孔膜はシャットダウン温度が高い。そのため、電池用セパレータにはポリエチレン及びポリプロピレンを主成分とする微多孔膜が好ましい。そこで、ポリエチレン及びポリプロピレンの混合樹脂からなる微多孔膜や、ポリエチレン層及びポリプロピレン層からなる多層微多孔膜が提案されている。
(・・・途中省略・・・)
【0006】
しかし本発明者らが調べた結果、ポリプロピレン層とポリエチレン層とを有する多層微多孔膜を製造するにあたり、上記各文献に記載の製造方法を用いても、得られる多層微多孔膜はポリプロピレン層の細孔径が小さく、透過性が不十分であることが分かった。」

イ.「発明が解決しようとする課題
【0009】
従って、本発明の目的は、ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン含有層とを有し、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜及びその製造方法並びに電池用セパレータを提供することである。
課題を解決するための手段
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(1) ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層と、ポリプロピレン及び融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂を含有する多孔質層とを組み合せるか、(2) ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層と、ポリプロピレン及びアスペクト比が2以上の無機フィラーを含有する多孔質層とを組み合せると、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜が得られることを見出し、本発明に想到した。」

ウ.「【0049】
(C) 層構成例
第一のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂層A及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bを、それぞれ少なくとも一層有すればよい。ポリエチレン系樹脂層A又はポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bを複数設ける場合、同種層同士の組成は同じであっても、異なっていてもよい。例えば多孔質層の組合せとしては、層A/層B、層A/層B/層A、層B/層A/層B等が挙げられる。電池用セパレータとして用いる場合、両表層をポリエチレン系樹脂層Aとし、内層をポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bとすると(例えば層A/層B/層A等)、特にシャットダウン特性、透過性及び機械的強度のバランスが向上する。」

エ.「【0062】
[3] 第一のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
(A) 第一の製造方法
第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第一の方法は、(1)(a) 上記ポリエチレン系樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン溶液を調製する工程、(b) 上記ポリプロピレン、耐熱性樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液をダイより同時に押出す工程、(3) 得られた押出し成形体を冷却してゲル状積層シートを形成する工程、(4) 成膜用溶剤除去工程、及び(5) 乾燥工程を含む。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に(6) 延伸工程、(7) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(5)の後、(8) 積層微多孔膜を延伸する工程、(9) 熱処理工程、(10) 熱溶剤処理工程、(11) 電離放射による架橋処理工程、(12) 親水化処理工程、(13) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0063】
(1) ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製
(a) ポリエチレン溶液の調製工程
ポリエチレン系樹脂に適当な成膜用溶剤を溶融混練し、ポリエチレン溶液を調製する。ポリエチレン溶液には必要に応じて酸化防止剤等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。例えば孔形成剤として微粉珪酸を添加することができる。
【0064】
成膜用溶剤は室温で液体であるのが好ましい。液体溶剤を用いることにより比較的高倍率の延伸が可能となる。液体溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るためには、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。また溶融混練状態ではポリエチレンと混和するが室温では固体の溶剤を液体溶剤に混合してもよい。このような固体溶剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。ただし固体溶剤のみを使用すると、延伸むら等が発生する恐れがある。
(・・・途中省略・・・)
【0069】
(b) ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製工程
ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液はポリプロピレン及び耐熱性樹脂に上記成膜用溶剤を添加した後、溶融混練することにより調製する。ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製方法は、耐熱性樹脂の種類に応じて溶融混練温度を結晶性耐熱性樹脂の融点又は非晶性耐熱性樹脂のTg以上とするのが好ましい点、及び溶液中の樹脂成分(ポリプロピレン+耐熱性樹脂)の含有量を10?60質量%とするのが好ましい点以外ポリエチレン溶液の調製方法と同じである。
(・・・途中省略・・・)
【0072】
(2) 押出工程
ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を、各押出機を介してダイから同時に押し出す。両溶液の同時押出において、両溶液を1つのダイ内で層状に組み合せてシート状に押し出す(ダイ内接着)場合には1つのダイに複数の押出機を接続し、また両溶液を別々のダイからシート状に押し出して積層(ダイ外接着)する場合には複数の押出機の各々にダイを接続する。ダイ内接着の方が好ましい。
(・・・途中省略・・・)
【0074】
(3) ゲル状積層シートの形成工程
押出により得られた層状の押出し成形体を冷却することによりゲル状積層シートを形成する。冷却は少なくともゲル化温度以下まで50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。このような冷却を行うことによりポリエチレン系樹脂相及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物相が成膜用溶剤によりミクロ相分離された構造を固定化できる。冷却は25℃以下まで行うのが好ましい。一般に冷却速度を遅くすると擬似細胞単位が大きくなり、得られるゲル状積層シートの高次構造が粗くなるが、冷却速度を速くすると密な細胞単位となる。冷却速度を50℃/分未満にすると結晶化度が上昇し、延伸に適したゲル状積層シートとなりにくい。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができる。
【0075】
(4) 成膜用溶剤除去工程
成膜用溶剤の除去(洗浄)には洗浄溶媒を用いる。ポリエチレン系樹脂相及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物相は成膜用溶剤相と分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン,C_(6)F_(14),C_(7)F_(16)等の鎖状フルオロカーボン、C_(5)H_(3)F_(7)等の環状ハイドロフルオロカーボン、C_(4)F_(9)OCH_(3),C_(4)F_(9)OC_(2)H_(5)等のハイドロフルオロエーテル、C_(4)F_(9)OCF_(3),C_(4)F_(9)OC_(2)F_(5)等のパーフルオロエーテル等の易揮発性溶媒が挙げられる。これらの洗浄溶媒は低い表面張力(例えば25℃で24 mN/m以下)を有する。低表面張力の洗浄溶媒を用いることにより、微多孔を形成する網状組織が洗浄後の乾燥時に気-液界面の表面張力により収縮するのが抑制され、もって高い空孔率及び透過性を有する積層微多孔膜が得られる。
(・・・途中省略・・・)
【0077】
(5) 膜の乾燥工程
成膜用溶剤除去により得られた積層微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。
(・・・途中省略・・・)
【0079】
(6) 延伸工程
洗浄前のゲル状積層シートを延伸するのが好ましい。ゲル状積層シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法又はこれらの方法の組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。ゲル状積層シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するので、電池用セパレータとして用いる場合に特に好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸又は多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよいが、特に同時二軸延伸が好ましい。
【0080】
延伸倍率は、一軸延伸の場合、2倍以上が好ましく、3?30倍がより好ましい。二軸延伸ではいずれの方向でも少なくとも3倍以上とし、面積倍率で9倍以上とするのが好ましく、面積倍率で25倍以上とするのがより好ましい。面積倍率が9倍未満では延伸が不十分であり、高弾性及び高強度の多層微多孔膜が得られない。一方面積倍率が400倍を超えると、延伸装置、延伸操作等の点で制約が生じる。」

オ.「【0111】
[5] ポリオレフィン多層微多孔膜の物性
本発明の好ましい実施態様による第一及び第二のポリオレフィン多層微多孔膜は次の物性を有する。
【0112】
(a) 25?80%の空孔率
空孔率が25%未満では、ポリオレフィン多層微多孔膜は良好な透気度を有さない。一方80%を超えていると、多層微多孔膜を電池セパレータとして用いた場合の強度が不十分であり、電極が短絡する危険が大きい。
(・・・途中省略・・・)
【0118】
(g) 140℃以下のシャットダウン温度
シャットダウン温度が140℃を超えると、多層微多孔膜をリチウム電池用セパレータとして用いた場合に、過熱時の遮断応答性が低下する。
【0119】
(h) 160℃以上のメルトダウン温度
メルトダウン温度は好ましくは160?190℃である。」

カ.「【0125】
実施例1(当審注:この下線は引用例3に記載されていたものである。)
(1) ポリエチレン溶液の調製
質量平均分子量(Mw)が2.0×10^(6)の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)25質量%、及びMwが3.5×10^(5)の高密度ポリエチレン(HDPE)75質量%からなるポリエチレン(PE)組成物100質量部に、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部をドライブレンドした。UHMWPE及びHDPEからなるPE組成物について測定した融点は135℃であり、結晶分散温度は90℃であった。得られた混合物30質量部を二軸押出機(内径58 mm、L/D=42、強混練タイプ)に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35 cSt(40℃)]70質量部を供給し、230℃及び250 rpmの条件で溶融混練して、ポリエチレン溶液を調製した。
【0126】
(2) ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製
Mwが5.3×10^(5)のポリプロピレン(PP)90質量%、及びMwが1.1×10^(4)のポリアミド6(PA6)10質量%からなる混合物100質量部に、上記酸化防止剤0.2質量部をドライブレンドした。得られた混合物30質量部を二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン70質量部を供給し、230℃及び250 rpmの条件で溶融混練して、ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調製した。
(・・・途中省略・・・)
【0128】
(3) 成膜
得られたポリエチレン溶液A及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液Bを、各二軸押出機から三層用Tダイに供給し、溶液A/溶液B/溶液Aの順で積層した成形体となるように押し出した。押し出した成形体を、18℃に温調した冷却ロールで引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。得られたゲル状三層シートを、テンター延伸機により115℃で長手方向(MD)及び横手方向(TD)ともに5倍となるように同時二軸延伸した。延伸ゲル状三層シートを枠板[サイズ:20 cm×20 cm、アルミニウム製]に固定し、25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽中に浸漬し、100 rpmで3分間揺動させながら洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を室温で風乾し、テンターに固定し、125℃で10分間熱固定処理することによりポリオレフィン三層微多孔膜を作製した(層厚比:PE組成物層/PP・耐熱性樹脂混合物層/PE組成物層=20/60/20)。」

キ.「【0152】【表1】


ク.段落【0118】には、シャットダウン温度を140℃以下とすることが記載されており、段落【0152】の表1には、実施例1?3のいずれにおいてもシャットダウン温度が135℃であること、及び、実施例1?3のそれぞれにおいてメルトダウン温度が175℃、174℃、176℃であることが記載されている。このような140℃以下のシャットダウン温度は、段落【0003】の「一般にポリエチレンのみからなる微多孔膜はメルトダウン温度が低く、またポリプロピレンのみからなる微多孔膜はシャットダウン温度が高い。」との記載を参照すると、ポリエチレン溶液Aによって形成されたPE組成物層によって実現されているものと認められる。

(3)対比
(3-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「微多孔ポリプロピレンフィルム」、「透過性を有する第2の層及び第3の層」は、いずれも、本願補正発明の「多孔質層」に相当している。また、引用発明の「微多孔ポリプロピレンフィルム」及び「透過性を有する第2の層及び第3の層」を積層してなる「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」の層の種類の数は、3つの層に同じ種類の層が無く全て異なる場合には3種であり、3つの層のうち2つの層が同じである場合には2種となる。なお、第2の層と第3の層は、「微多孔ポリプロピレンフィルム」とは異なる特性を与えるために積層するものと認められるから、3つの層が全て同じ層すなわち1種となることはない。
したがって、引用発明の「微多孔ポリプロピレンフィルムの片面に」「透過性を有する第2の層及び第3の層」の3層を順次積層した「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」と、本願補正発明の「2種3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルム」とは、「3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルム」の点で共通する。

イ.引用発明の「高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を含み、β晶核剤を添加したポリプロピレン(以下「第1の樹脂」という。)」は、本願補正発明の「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂」に相当している。

ウ.引用発明において「上記第1乃至第3の樹脂を個別の押出機に供給して溶融したものを、ポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とする積層厚みでスリット状口金から押し出」すことは、摘記した上記段落【0102】に記載されているように「共押出」のことであり、また、上記「スリット状口金から押し出」された樹脂シートは、第1乃至第3の樹脂が積層されたシートであり、この時点では延伸されていないため無孔であるから、無孔の積層シートとなっている。したがって、引用発明の「上記第1乃至第3の樹脂を個別の押出機に供給して溶融したものを、ポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とする積層厚みでスリット状口金から押し出」された無孔の積層シートは、本願補正発明の「共押出」で作製された「積層無孔膜状物」に相当しており、また、上記無孔の積層シートを構成する2つの外層のうち、「高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を含み、β晶核剤を添加したポリプロピレン(以下「第1の樹脂」という。)」から形成された層は、本願補正発明の「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PP」からなる「外層」の一方に相当している。

エ.引用発明の「冷却用金属ドラム」は、本願補正発明の「キャストロール」に相当しており、したがって、引用発明の「冷却用金属ドラム」の温度が「60?130℃」であることと、本願補正発明において「キャストロール」の「冷却個化温度」が「80?150℃」であることは、「キャストロール」の「冷却個化温度」を「80?130℃」とする点で一致している。また、上記ウ.で検討したとおり、引用発明の「上記第1乃至第3の樹脂を個別の押出機に供給して溶融したものを、ポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とする積層厚みでスリット状口金から押し出」された無孔の積層シートは、本願補正発明の「共押出」で作製された「積層無孔膜状物」に相当している。
したがって、引用発明の「上記第1乃至第3の樹脂を個別の押出機に供給して溶融したものを、ポリマー管あるいは口金内で合流せしめ、目的とする積層厚みでスリット状口金から押し出」された無孔の積層シートを「60?130℃とされた冷却用ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめること」は、本願補正発明の「該積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化」することに相当する。
なお、上記(2-1)で引用例1から摘記されたコ.の記載によれば、実施例2と3では、ドラムの表面温度を実施例1と同じ120℃としており、本願補正発明の「80?150℃の冷却固化温度」で確かに冷却がなされている。

オ.引用発明の「縦方向の実効延伸倍率」は、本願補正発明の「縦延伸倍率」に相当しており、したがって、引用発明において「縦方向の実効延伸倍率」が「5?10倍」であることと、本願補正発明において「縦延伸倍率が2?10倍」であることは、「縦延伸倍率が5?10倍」の範囲で一致している。
また、引用発明の「横方向の実効延伸倍率」は、本願補正発明の「横延伸倍率」に相当しており、したがって、引用発明において「横方向の実効延伸倍率」が「12倍以下」であることと、本願補正発明において「横延伸倍率が2?10倍」であることは、「横延伸倍率が2?10倍」の範囲で一致している。
したがって、引用発明の「縦方向の実効延伸倍率を5?10倍とし、横方向の実効延伸倍率を12倍以下とする、縦-横逐次二軸延伸法を用いて二軸延伸することにより多孔化すること」は、本願補正発明の「縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化」することに相当している。
なお、上記(2-1)で引用例1から摘記されたコ.の記載によれば、実施例2では、縦方向の延伸倍率は5倍で、横方向の延伸倍率は実施例1と同じ8倍であり、実施例3では、縦方向の延伸倍率は6倍で、横方向の延伸倍率は実施例1と同じ8倍となっており、いずれの実施例についても、本願補正発明の「縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍」の範囲内に含まれているから、上記判断は妥当なものといえる。

カ.引用発明の「微多孔ポリプロピレンフィルム」は、「高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を含み、β晶核剤を添加したポリプロピレン」から形成された「無孔の未延伸シート」を「二軸延伸することにより多孔化」することにより得られたものであるから、本願補正発明の「前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層」に相当している。したがって、引用発明の「外層の一方が上記微多孔ポリプロピレンフィルムであり、中層が上記第2の層であり、外層の他方が上記第3の層であること」と、本願補正発明の「両外層は前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層、中層が前記無孔膜状物SDが多孔化されたシャットダウン層」であることは、「外層の一方は前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層」である点で共通している。

(3-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「3層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルムであって、
β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PPを外層の一方として、共押出で積層無孔膜状物を作製し、該積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化した後、縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化して作製されており、
外層の一方は前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層である積層多孔性フィルム。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明は、「積層多孔性フィルム」を構成する「多孔質層」の種類が「2種」であるのに対して、引用発明は、「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」を構成する層の種類の数が、「微多孔ポリプロピレンフィルム」を含む、2種又は3種である点。

《相違点2》
本願補正発明は、「共押出」で作製された「積層無孔膜状物」について、2つの「外層」の両者が「β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PP」であるのに対して、引用発明は、2つの「外層」のうち一方のみが、上記「無孔膜状物PP」に相当する「高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を含み、β晶核剤を添加したポリプロピレン(以下「第1の樹脂」という。)」から形成された層であり、2つの「外層」のうち他方がいかなる樹脂から形成された層であるかについては特定されていない点。

《相違点3》
本願補正発明は、「共押出」で作製された「積層無孔膜状物」について、2つの「外層」に挟まれた「中層」が「前記無孔膜状物PPの組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる無孔膜状物SD」であるのに対して、引用発明は、2つの「外層」に挟まれた「中層」がいかなる樹脂から形成された層であるかについては特定されていない点。

《相違点4》
本願補正発明は、「積層多孔性フィルム」について、2つの「外層」の両者が「前記無孔膜状物PPが多孔化されたβPP層」であるのに対して、引用発明は、2つの「外層」のうち一方のみが、上記「多孔化されたβPP層」に相当する「微多孔ポリプロピレンフィルム」である点。

《相違点5》
本願補正発明は、「積層多孔性フィルム」について、2つの「外層」に挟まれた「中層」が「前記無孔膜状物SDが多孔化されたシャットダウン層」であり、当該「シャットダウン層」が「微細孔が閉塞する最低温度であるシャットダウン温度は、前記βPP層の微細孔が閉塞するシャットダウン温度より低く100℃を超えて150℃以下である」のに対して、引用発明は、2つの「外層」に挟まれた「中層」がどのような特徴を備えた層であるかについては特定されていない点。

(4)相違点についての判断
(4-1)相違点1?5について
ア.相違点1?5は、いずれも、引用発明において、「微多孔ポリプロピレンフィルムの片面」に順次積層する「第2の層及び第3の層」に関係している事項であるので、まとめて検討する。

イ.リチウムイオン電池のセパレータに使用されるポリプロピレンの微多孔質膜は、高い溶融温度を有するために、ブレークダウン特性には優れているが、シャットダウン温度も高くなるので、適切な温度で遮断することができないという課題があり、ポリプロピレンの微多孔質膜が有するシャットダウン温度よりも低い温度でのシャットダウンを可能とするために、ポリプロピレンフィルムの微多孔質膜からなる2つの外層の間にポリエチレンフィルムの微多孔質膜を積層した積層構造とすることは、上記(2-3)で摘記した引用例2の段落【0002】、上記(2-4)で摘記した引用例3の段落【0003】及び【0049】、そして、本願の優先権主張日前に日本国内において公知となった、下記周知例1にも記載されているように、当業者において周知の事項である。

・周知例1:特開2003-288946号公報
上記周知例1の下記(ア)及び(イ)の記載を参照。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、過充電状態等の異常時においても、極めて優れた安全性が確保され得るリチウム二次電池に関する。」

(イ)「【0005】 例えば、過充電に伴う電池の温度上昇に対する安全性を確保するための機構として、マイクロポアを有するLiイオン透過性のポリエチレンフィルム(PEフィルム)を、多孔性のLiイオン透過性のポリプロピレンフィルム(PPフィルム)で挟んだ三層構造としたセパレータが用いられる。これは、電池内部の温度が上昇した場合に、PEフィルムが約130℃で軟化してマイクロポアが潰れ、Liイオンの移動即ち電池反応を抑制(以下、「シャットダウン」と記す。)する安全機構を兼ねたものである。そして、このPEフィルムをより軟化温度の高いPPフィルムで挟持することによって、PEフィルムが軟化した場合においても、PPフィルムが形状を保持して正極と負極の接触・短絡を防止することにより、電池反応を制御するとともに安全性を確保しようとしている。」

ウ.さらに、引用例2の段落【0005】には、「120℃より低く、好ましくは約95℃から115℃の範囲内の遮断温度を持つセパレーターを提供することが好ましい」と、また、引用例3の段落【0118】には、「シャットダウン温度が140℃を超えると、多層微多孔膜をリチウム電池用セパレータとして用いた場合に、過熱時の遮断応答性が低下する」と記載されているように、セパレーターのシャットダウン温度は140℃以下、さらには、120℃以下とすることが好ましいことも、周知の事項である。

エ.そして、上記(2-1)のセ.で検討したように、引用発明の「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」を構成する、延伸後の「微多孔ポリプロピレンフィルム」が、160℃程度かそれを超えるシャットダウン温度を有しているから、上記延伸後の「微多孔ポリプロピレンフィルム」のみを使用して「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」を形成した場合には、好ましいシャットダウン温度が得られないという課題があり、上記シャットダウン温度よりも低い、140℃以下のシャットダウン温度が得られるポリエチレンフィルムを中層として積層することにより上記課題が解決できることは、上記周知の事項を理解している当業者であれば、直ちに察知し得ることである。

オ.ただし、引用例1には、摘記した上記段落【0089】に、「各種ポリマーを積層してもよい」が、そのようなポリマーは、「本発明の目的を損なわない」ものであり、「積層前と同様、積層することにより得られるフィルムも実質的に透過性を有するものとする必要がある」と記載されているように、「第2の層」及び「第3の層」を積層する際に考慮すべき条件があることが示されている。
ここで、引用発明の目的とは、引用例1の摘記した上記段落【0018】と、【0024】に記載されているように、70%以上の極めて高い空孔率の蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルムを得ることであり、そのような高い空孔率を得るために好ましいとされていることは、摘記した上記段落【0025】に「例えば」として記載されているように、「β晶核剤の添加量を適量とすること」及び「HMS-PPの添加量を適量とすること」のようなフィルムの材料に関する条件を満たすことに加えて、「縦-横逐次二軸延伸法で製造する場合には、縦延伸倍率を5?10倍とすること」を含む製造工程とすることである。
したがって、引用発明において、「微多孔ポリプロピレンフィルムの片面に」順次積層される「第2の樹脂」及び「第3の樹脂」は、上記「微多孔ポリプロピレンフィルム」において好ましいとされる、縦延伸倍率を5?10倍とする縦-横逐次二軸延伸法を含む製造工程によって製造されるものである必要がある。

カ.一方、引用例3には、摘記した上記(2-4)のウ.とエ.に記載されている、ポリエチレン系樹脂層A及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bからなり、層B/層A/層Bの層構成を採用し得るポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法に注目すると、次の工程からなる方法が記載されている。

「ポリエチレン系樹脂に成膜用溶剤(流動パラフィン)を溶融混練してポリエチレン溶液を調製し、ポリプロピレン及び耐熱性樹脂に上記成膜用溶剤を添加した後、溶融混練することにより調製してポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調整する調整工程、
上記ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を、各押出機を介してダイから同時に押し出し、両溶液を1つのダイ内で層状に組み合せてシート状に押し出す押出工程、
押出により得られた層状の押出し成形体を冷却ロールに接触させて冷却することによりゲル状積層シートを形成するシート形成工程、
ゲル状積層シートを二軸延伸によって延伸する延伸工程であって、延伸倍率は長手方向及び横手方向のいずれでも少なくとも3倍以上とし、面積倍率で9倍以上とするのが好ましく、面積倍率で25倍以上とするのがより好ましく、実施例としていずれの方向の延伸倍率も5倍とし得る延伸工程と、
成膜用溶剤の除去して多孔質の膜を得る除去工程。」

つまり、引用例3には、ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bの間にポリエチレン系樹脂層Aを積層した、ポリオレフィン多層微多孔膜を形成するにあたり、当該ポリエチレン系樹脂層Aの原料として、ポリエチレン系樹脂に流動パラフィンを溶融混練したものを採用することにより、押出し成形体を冷却ロールに接触させて冷却した後、長手方向及び横手方向のいずれにおいても5倍又はそれ以上の延伸倍率の延伸工程を行い、延伸工程後に流動パラフィンを除去することにより、多孔質の膜とする製造方法が開示されている。そして、このような製造方法によって製造されるポリエチレン系樹脂層Aは、引用発明において、空孔率70%以上の高い空孔率を実現するために必要な工程である、縦延伸倍率を5?10倍とする縦-横逐次二軸延伸法を含む製造工程によっても製造できるものであるということができる。

キ.してみると、空孔率70%以上の高い空孔率を実現している引用発明において、140℃以下のシャットダウン温度が実現できるように、「微多孔ポリプロピレンフィルム」からなる2つの外層の間にポリエチレンフィルムからなる中層を積層するとともに、当該ポリエチレンフィルムの原料として、縦延伸倍率を5?10倍とする縦-横逐次二軸延伸法を含む製造工程によって製造できる、引用例3に記載された、流動パラフィンを溶融混練したポリエチレン系樹脂を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
このとき、1)引用発明の「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」を構成する層の種類の数は「2種」となり(相違点1に係る本願補正発明の構成)、2)「共押出」で作製された「積層無孔膜状物」について、2つの「外層」の両者が、本願補正発明の「無孔膜状物PP」に相当する「高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を含み、β晶核剤を添加したポリプロピレン(以下「第1の樹脂」という。)」から形成された層となり(相違点2に係る本願補正発明の構成)、3)本願補正発明の「積層多孔性フィルム」に相当する「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」ついて、2つの「外層」の両者が、本願補正発明の「多孔化されたβPP層」に相当する「微多孔ポリプロピレンフィルム」となる(相違点4に係る本願補正発明の構成)。また、引用発明の「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」のシャットダウン温度は、中層の「流動パラフィンを溶融混練したポリエチレン系樹脂を多孔化した層」によって規定される温度である140℃以下となり、一方、両外層の「微多孔ポリプロピレンフィルム」は、上記(2-1)のセ.で検討したように、その吸熱ピークの頂点が160℃以上となっており、そのシャットダウン温度も160℃程度かそれを超える温度であるものと認められるから、2つの「外層」に挟まれた「中層」が、4)当該「外層」よりも「低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物」となり(相違点3に係る本願補正発明の構成)、また、5)本願補正発明の「βPP層」に相当する「微多孔ポリプロピレンフィルム」の「シャットダウン温度」である「160℃程度かそれを超える温度」よりも低い、「100℃を超えて150℃以下」である140℃以下となる(相違点5に係る本願補正発明の構成)。

ク.以上のとおり、引用発明において、上記相違点1?5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(4-2)請求人の意見について
請求人は、審判請求書の「4.引用文献と本発明の対比」の「引用文献3との対比」において、『引例文献3の多層微多孔膜は、請求項3より「個別にダイより押し出し、得られた各押し出し成形体を冷却してゲル状シートを形成し、得られた各ゲル状シートを積層し、成膜用溶剤を除去」する湿式による多孔化であり、これに対して本発明では(B1?B3)のプロセスで作製されており、成膜用溶剤の除去を行っておらず、本発明と引用文献3とは作製プロセスが相違します。』と主張しているのでこの点について検討する。なお、「(B1?B3)のプロセス」とは次の事項を表す。「(B1)β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる無孔膜状物PPを両外層とし、前記無孔膜状物PPの組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる無孔膜状物SDを中層として積層して、共押出で積層無孔膜状物を作製し、
(B2)前記積層無孔膜状物をキャストロールにて80?150℃の冷却固化温度で冷却固化し、
(B3)縦延伸倍率が2?10倍、横延伸倍率が2?10倍で二軸延伸によって多孔化する。」

本願補正発明の「シャットダウン層(SD層)」について、本願明細書には次の記載がある。

・「【0084】
SD層を構成する組成物に可塑剤を加えても良い。特に前記組成物にフィラーを配合する場合はフィラーの分散性を向上させる目的で可塑剤を加えることが好ましい。
前記可塑剤としては、エステル化合物、アミド化合物、アルコール化合物、アミン化合物、エポキシ化合物、エーテル化合物、鉱油、ワックス、液状シリコーン、フッ素オイル、液状ポリエーテル類、液状ポリブテン類、液状ポリブタジエン類、カルボン酸塩、カルボン酸化合物、スルホン酸塩、スルホン化合物、アミン塩、フッ素系化合物等が挙げられる。」
・「【0087】
(・・・省略・・・)
ワックスとしては、パラフィンワックスなどが挙げられる。
(・・・省略・・・)」
・「【0089】
前記可塑剤の配合量は、SD層に含まれる全熱可塑性樹脂100質量部に対し0.1?30質量部、好ましくは0.1?20質量部、より好ましくは0.5?10質量部である。可塑剤の配合量が0.1質量部未満の場合には、目的とする良好な延伸性が発現されにくくなり不均一な多孔構造になりやすいなどの可塑剤を配合することによる効果が十分に得られない。また、可塑剤の配合量が30質量部を超えると、フィルム成形の際に樹脂焼けや目ヤニなど工程上の不具合を起こしやすくなる。」
・「【0102】
本発明の積層多孔性フィルムの製造方法は、前記分類とは別にSD層の多孔化方法により分類することもできる。
すなわち、PP層はβ活性及び/又はβ晶生成力を有する場合、延伸することにより微細孔を容易に形成することができる。一方、SD層を多孔化する方法としては、例えばフィラー法、相分離法、抽出法、化学処理法、照射エッチング法、発泡法、またはこれらの技術の組み合わせなど公知の方法を用いることができる。なかでも本発明においてはフィラー法を用いることが好ましい。」
・「【0104】
前記抽出法では、後工程で除去可能な添加剤をSD層を構成する熱可塑性樹脂組成物に混合し、無孔層または無孔膜状物を形成したのち前記添加剤を薬品などで抽出して微細孔を形成する方法である。添加剤としては高分子添加剤、有機物添加剤、無機物添加剤などが挙げられる。
高分子添加剤を用いた例としては、有機溶媒に対する溶解性が異なる2種のポリマーを用いて無孔層または無孔膜状物を形成し、前記2種のポリマーのうち一方のポリマーのみが溶解する有機溶媒に浸漬して該一のポリマーを抽出する方法が挙げられる。より具体的にはポリビニルアルコールとポリ酢酸ビニルからなる無孔層または無孔膜状物を形成し、アセトンおよびn-ヘキサンを用いてポリ酢酸ビニルを抽出する方法、または、ブロックあるいはグラフト共重合体に親水性重合体を含有させて無孔層または無孔膜状物を形成し、水を用いて親水性重合体を除去する方法などが挙げられる。
【0105】
有機物添加剤を用いた例としては、SD層を構成する熱可塑性樹脂が不溶である有機溶媒に可溶な物質を配合して無孔層または無孔膜状物を形成し、前記有機溶媒に浸漬して前記物質を抽出除去する方法が挙げられる。
前記物質としては、例えばステアリルアルコールもしくはセリルアルコールなどの高級脂肪族アルコール、n-デカンもしくはn-ドデカンなどのn-アルカン類、パラフィンワックス、流動パラフィンまたは灯油等が挙げられ、これらはイソプロパノール、エタノール、ヘキサンなどの有機溶媒で抽出できる。また、前記物質としてショ糖や砂糖などの水可溶性物質も挙げられ、これらは水で抽出できるため環境への負担が少ないという利点がある。」

つまり、本願補正発明は、(B1?B3)のプロセスで作製するものであるが、中層のSD層については、本願明細書の段落【0102】に記載されているように、必ずしも延伸によって多孔化する必要はなく、抽出法を用いることもできるのであり、上記抽出法の具体例としては、流動パラフィンからなる添加剤を用いることが示されている。このような流動パラフィンは、段落【0089】に記載されているように、良好な延伸性を発現するように配合される可塑剤としても機能するものである。さらに、本件補正後の請求項1を引用する請求項4に係る発明は、「前記シャットダウン層」に「可塑剤」を含有することが特定されているから、本願補正発明は、SD層に可塑剤を含むことを許容するものである。
したがって、本願補正発明は、SD層の多孔化方法として、流動パラフィンを用いた抽出法を排除するものではないから、「本発明と引用文献3とは作製プロセスが相違します。」との請求人の上記主張は採用することができない。

(4-3)判断についてのまとめ
以上、検討したとおり、本願補正発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明と引用例2及び引用例3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしておらず、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであったとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、いずれにしても、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成25年6月26日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成24年10月15日に提出された手続補正書の請求項1?9に記載されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1において補正前の請求項1として記載されたものであり、再掲すると、次のとおりである。

【本願発明】
「【請求項1】
少なくとも2層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルムであって、
前記多孔質層の1層は、β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる層(βPP層)であり、他の1層は前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる層(シャットダウン層)であり、
前記シャットダウン層の微細孔が閉塞する最低温度であるシャットダウン温度は、前記βPP層の微細孔が閉塞するシャットダウン温度より低く、100℃を超えて150℃以下であることを特徴とする積層多孔性フィルム。」

2 引用例1の記載、引用発明、引用例2、引用例3の記載及び周知技術
引用例1の記載、引用発明、引用例2、及び引用例3の記載については、前記第2の4の(2)の(2-1)、(2-2)、(2-3)、(2-4)において、周知技術については、同(4)の(4-1)において、摘記及び認定したとおりである。

3 対比・判断
そこで、前記第2の4の(3)の(3-1)の対比を参照すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

《一致点》
「少なくとも2層の多孔質層を積層した積層多孔性フィルムであって、
前記多孔質層の1層は、β晶核剤を配合したポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる層(βPP層)である積層多孔性フィルム。」

《相違点》
《相違点6》
本願発明は、「少なくとも2層の多孔質層」のうち「他の1層」が、「前記βPP層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる層(シャットダウン層)」であり、「前記シャットダウン層の微細孔が閉塞する最低温度であるシャットダウン温度は、前記βPP層の微細孔が閉塞するシャットダウン温度より低く、100℃を超えて150℃以下である」のに対して、引用発明は、「他の1層」がどのような特徴を備えた層であるかについて特定されていない点。

上記相違点6について検討する。
前記第2の4の(4)の「相違点についての判断」において検討したように、引用発明において、「微多孔ポリプロピレンフィルム(外層のうち一方)」の「片面」に積層する「第2の層(中層)」として、引用例3に記載された「流動パラフィンを溶融混練したポリエチレン系樹脂を多孔化した層」を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
このとき、引用発明の「蓄電デバイスセパレータ用微多孔フィルム」のシャットダウン温度は、「第2の層」として採用された引用例3の「流動パラフィンを溶融混練したポリエチレン系樹脂を多孔化した層」によって規定される温度である、140℃以下の例えば135℃であり、一方、「微多孔ポリプロピレンフィルム」は、上記(2-1)のセ.で検討したように、その吸熱ピークの頂点が160℃以上となっており、そのシャットダウン温度も160℃程度かそれを超える温度であるものと認められる。
したがって、本願発明の「他の一層」に相当する「第2の層(中層)」は、本願発明の「βPP層」に相当する「微多孔ポリプロピレンフィルム」の「樹脂組成物の結晶融解ピーク温度」より「低い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物」となり、また、本願発明の「他の一層」に相当する「第2の層(中層)」のシャットダウン温度である「140℃以下の例えば135℃」は、本願発明の「βPP層」に相当する「微多孔ポリプロピレンフィルム」の「シャットダウン温度より低く、100℃を超えて150℃以下」となる。
よって、引用発明において、相違点6に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

第4.結言
以上のとおり、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明と引用例2及び引用例3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-24 
結審通知日 2014-05-07 
審決日 2014-05-21 
出願番号 特願2008-117578(P2008-117578)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 57- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 池渕 立
河本 充雄
発明の名称 積層多孔性フィルム、電池用セパレータおよび電池  
代理人 大谷 保  
代理人 平澤 賢一  

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