• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 H04N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 H04N
管理番号 1289568
審判番号 不服2013-3604  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-25 
確定日 2014-07-09 
事件の表示 特願2009-500288「復号化方法、復号化装置、及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月20日国際公開、WO2007/105900、平成21年 8月20日国内公表、特表2009-529845〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2007(平成19)年3月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年3月13日、米国、2006年5月30日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成23年7月1日付けの拒絶理由通知に応答して平成23年10月12日付けで手続補正がなされ、平成24年5月17日付けの最後の拒絶理由通知に応答して平成24年8月22日付けで手続補正がなされたが、平成24年10月15日付けで、平成24年8月22日付け手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成25年2月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.補正の却下の決定の適否
審判請求人は、審判請求書の【請求の理由】において、平成24年10月15日付けの補正の却下の決定(以下「本件補正却下」という)は失当である旨を主張し、平成24年8月22日付け手続補正(以下「本件補正」という)の後の特許請求の範囲の記載に基づき、本願発明が特許されるべきである旨を主張しているから、審判請求人は、本件却下決定に対して不服を申し立てているものと解される。
よって、本件補正却下の適否について、以下に検討する。

1.本件補正却下の理由
本件補正却下の理由は、「本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであると認められるところ、補正後の請求項1?7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。よって、この補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下する。」というものである。

2.本件補正の内容
本件補正は、平成23年10月12日付けの手続補正による特許請求の範囲の請求項1ないし9(以下、補正前の請求項1ないし9という)を、平成24年8月22日付けで特許請求の範囲の請求項1ないし7(以下、補正後請求項1ないし7という)に補正するものであり、以下の補正事項を含む。

[補正事項1]
補正前の請求項1に、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項2及び補正前の請求項1を引用する補正前の請求項5のそれぞれの技術事項を加えることで、「前記予測映像を生成するステップは、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される大きさに分割されたブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成する」との特定事項を付加し、補正後の請求項1とするもの。

[補正事項2]
補正前の請求項1の「復号化方法」を「予測映像の生成方法」に変更し、補正後の請求項1とするもの。

[補正事項3]
補正前の請求項9に、「前記第1生成部は、前記復元された情報が、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される大きさに分割されたブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成する」との特定事項を付加し、補正後の請求項7とするもの。

3.補正の適法性
(1)補正の目的
[補正事項1について]
上記補正事項1で付加した各特定事項は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「予測映像を生成するステップ」を限定して補正後の請求項1とするものであって、かつ、補正の前後において請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることが認められるため、上記補正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

[補正事項2について]
上記補正事項2は「復号化方法」を「予測映像の生成方法」に変更するものであるが、補正前の「復号化方法」と補正後の「予測映像の生成方法」は、どちらも「一つの予測モードを表す情報を復元するステップ」、「レジデューを生成するステップ」、「予測映像を生成するステップ」、「復元画面を生成するステップ」からなる方法であり、実質的に発明の対象は変更されていないものと認められる。
また、補正後の請求項1は、「予測映像を生成するステップ」の他に「一つの予測モードを表す情報を復元するステップ」、「レジデューを生成するステップ」、「復元画面を生成するステップ」を有しているにもかかわらず、それらのステップの一つのみに対応する「予測映像の生成方法」の発明であるとすることは矛盾が生じること、補正後の請求項1を引用する補正後の請求項2ないし5は「請求項1に記載の復号化方法」と記載しており、請求項1の発明を「復号化方法」であると示していることから、当該補正事項は誤記である蓋然性が高い。
したがって、補正後の請求項1の「予測映像の生成方法」は「復号化方法」の誤記と認め、補正事項2による補正はないものと判断して、補正の目的の適否は問わない。

[補正事項1及び3について]
上記補正事項3で付加した各特定事項は、補正前の請求項9に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1生成部」を限定して補正後の請求項7とするものであって、かつ、補正の前後において請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることが認められるため、上記補正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

(2)独立特許要件
以上のように、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、以下、補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後発明」という)が独立特許要件(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定)を満たすか否かについて検討する。

a.補正後発明
補正後発明は、補正後の特許請求の範囲の請求項1により特定される次のとおりのものである。
なお、補正後の請求項1の「予測映像の生成方法」は「復号化方法」の誤記として判断する。

〈補正後発明〉
ビットストリームを復号化することによって、一つのシーケンスを構成する複数の色成分のブロックに対する一つの予測モードを表す情報を復元するステップと、
前記復元された映像データを復号化することによって、現在映像と前記現在映像に対する予測映像との差に該当するレジデューを生成するステップと、
前記復元された情報によって、前記色成分のブロックに一律的に適用される予測モードを使用したり、前記色成分のブロックに独立的に予測モードを使用して前記現在映像の予測映像を生成するステップと、
前記生成されたレジデューと前記生成された予測画面を利用して復元画面を生成するステップと、を含み、
前記予測映像を生成するステップは、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される大きさに分割されたブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成することを特徴とする復号化方法(予測映像の生成方法)。

b.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1である『Shun-ichi Sekiguchi, Yoshimi Isu, Yoshihisa Yamada, Kohtaro Asai, Tokumichi Murakami, "Results of CE on separate prediction modes for 4:4:4 coding (CE9)", Joint Video Team (JVT) of ISO/IEC MPEG & ITU-T VCEG (ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 and ITU-T SG16 Q.6) 18th Meeting: Bangkok, TH, 14-20 January, 2006, [JVT-R031]』(以下「引用例」という)には、次に掲げる事項が記載されている。なお、括弧内に当審で作成した日本語訳を添付する。

ア.“1 Summary
This contribution provides experimental results for CE9 (Separate prediction modes for 4:4:4 coding) [1], and proposed syntax modifications to the JFVM [2] based on the results. In the last Nice meeting, CE9 was established to investigate coding efficiency of separate prediction for each color plane over the JFVM, where one common prediction mode is used for all color planes. Since most of the discussions in Nice were about Intra-only coding architecture, effect of separate prediction for inter-coded picture has not sufficiently been understood. In this document, we will discuss not only the results for Intra-only coding but also for inter coding. A major technical point specific for inter coding is that the best coding option can be determined from much more coding modes than intra-only case, which has certain impact on coding efficiency. We focused on the fact that the three color planes of RGB video sometimes have different spatio-temporal statistics. Since the JFVM syntax does not provide a way to perform separate coding mode decision for each color plane, its coding gain could be limited in those cases. This drawback can be avoided by incorporating separate coding of macroblock overhead information for each color plane into JFVM.
The concept of this adaptive method has already been proposed for Intra-only coding with syntax specification [3], however, inter coding case has not specifically been proposed. We extend the syntax design of [3] to support separate prediction feature for inter coding. The proposed syntax provides encoder a flexibility to choose the best coding mode in inter-coded 4:4:4 pictures, while its decoding complexity is almost the same as that of the JFVM. Note also that our proposed syntax does not require any new coding tools, where the existing luma coding tools for high profile are simply applied to other two color planes. In addition, macroblock-level parallel processing in both encoder and decoder can easily be realized as addressed in [3]. We recommend JVT to adopt the proposed syntax to the WD for advanced 4:4:4 profiles.”
(「1 要約
この提案は、CE9(4:4:4符号化ための独立予測モード)[1]についての実験結果を提示するともに、その結果に基づいたJFVM[2]の文法の変更を提案するものである。直近のニースでの会合において、一つの共通予測モードがすべての色平面に対して用いられるJFVMに対して、それぞれの色平面に独立予測を用いた場合の符号化効率を調べるためにCE9は設立された。ニースでの議論は、殆どがイントラ符号化のアーキテクチャに関するものであって、インター符号化された画像についての独立予測の効果については十分に理解されていない。この文書では、イントラ符号化の結果についてのみではなく、インター符号化についても議論を行う。インター符号化についての最も大きい明確な技術事項は、イントラの例に比べ、符号化モードによってより多くの最適な符号化オプションが決められることであって、これは当然符号化効率に影響を与える。我々は、RGBビデオの三つの色平面は時には互いに異なる空間-時間統計的特性を有しているという事実に注目した。JFVMの文法は、それぞれの色平面に対して独立した符号化モードを適用するという方法を許容しないため、その符号化利得はそのような事例では限定されたものとなる。このよう欠点は、JFVMに対して、それぞれの色平面でのマクロブロックの独立符号化についての情報を加えることによって避けることができる。
このような適応方法についての考えは、文法仕様[3]において、イントラ符号化について既に提案されているが、インター符号化の例については特に提案されていない。我々はインター符号化において独立予測が行えるよう文法仕様[3]を拡張した。提案された文法は、復号化の複雑性が殆どJFVMと同じ程度のまま、符号化器が、4:4:4画像をインター符号化するときに最適な符号化モードを適用的に選択することをできるようにする。我々の提案は、既に存在するハイプロファイルの輝度の符号化ツールを単に他の2つの色平面に適用するものであるので、新しい符号化ツールを必要としないというのも注目すべき点である。加えて、符号化器、復号化器双方における、マクロブロックのレベルにおいての並列処理が簡単であることも[3]において提案されている。我々は、JVTに対してこの提案する文法をアドバンスド4:4:4プロファイルのワーキングドラフトとして採用するように要請する。」)

イ.“7 References
[1] Thomas Wedi, "CE9: Separate prediction modes for 4:4:4 coding", JVT-Q309, October 2005.
[2] Haoping Yu et.al., "Joint 4:4:4 Video Model (JFVM)", JVT-Q206, October 2005.
[3] Steffen Wittmann et.al., "Intra-only 4:4:4 Profile for H.264/AVC FRExt", JVT-Q086, October 2005.”

ウ.“Annex A: Proposed syntax modifications to the JFVM
A-1. Proposal-I
This section describes a proposed syntax modification to the JFVM WD1 that was actually used for our experiments.
[Sequence parameter set RBSP syntax]

mode_extension_flag equal to 0 specifies one common coding/prediction mode information multiplexed in the macroblock_layer() is used for decoding of all three color components. mode_extension_flag equal to 1 specifies separate coding/prediction mode information in the macroblock_layer() is used for decoding of each color component. When mode_extension_flag is not present in the bitstream, its default value shall be 0”
(「付属書A JFVMへの文法の修正の提案
A-1.提案I
この章では、実際に我々の実験に使用したJFVMワーキングドラフト1への文法の修正の提案を記載している。

mode_extension_flagが0ということは、macroblock_layer()に多重された一つの共通の符号化/予測モード情報がすべての3つの色成分の復号化に用いられることを意味する。mode_extension_flagが1ということは、macroblock_layer()内の分離された符号化/予測モード情報がそれぞれの色成分の復号化に用いられる。mode_extension_flagがビットストリームに存在しないときには、その値は0として扱う。」)

エ.“[Macroblock layer syntax]
When mode_extension_flag equal to 1, all syntax elements in the macroblock_layer() shall be interpreted as the same semantics as that for chroma_format_idc == 0, where the current color component shall be regarded as monochrome sample array.


(「mode_extension_flagが1のとき、macroblock_layer()内のすべての文法要素は、現在の色成分がモノクロサンプルアレイとみなされるchroma_format_idc == 0と同じ意味として解釈される。」)

c.引用発明
引用例の前掲bのア、イの記載によれば、引用例には「4:4:4RGBビデオのための独立予測符号化の文法に関するJVTへの提案であって、一つの共通予測符号化モードがすべての色平面に対して用いられるJFVM(Joint 4:4:4 Video Model)に対して、それぞれの色平面対して独立した符号化モードを適用する独立予測符号化を用いた場合のイントラ符号化のみならずインター符号化についての文法に関する提案」が記載されており、さらに「提案された文法によれば、復号化器の複雑性が殆どJFVMと同じ程度のままで、符号化器が4:4:4画像をインター符号化するときに最適なモードを選択することができ、符号化器、復号化器双方における、マクロブロックのレベルにおいての並列処理ができる」ことが記載されている。
また、JVTの映像符号化方式は、ISO/IECは「MPEG-4 part10」または「MPEG-4 AVC(advanced video coding)」、ITU-Tは「H.264」と呼ばれるものである。
これらの記載を要約すると、引用例には「すべての色平面に対して一つの共通の符号化モードが適用される共通予測符号化モードと、それぞれの色平面に対して独立した符号化モードを適用する独立予測符号化モードを備えるMPEG4-Part10/H.264の予測符号化の文法」が記載され、その文法により符号化器、復号化器が動作することが記載されていることから、結局、引用例には「すべての色平面に対して一つの共通の符号化モードが適用される共通予測符号化モードと、それぞれの色平面に対して独立した符号化モードを適用する独立予測符号化モードを備えるMPEG4-Part10/H.264の文法、符号化方法及び復号化方法」が記載されているといえる。

引用例の前掲bのウの記載によれば、引用例の文法では、[Sequence parameter set RBSP syntax]のSeq_parameter_set_rbsp()内にmode_extension_flag が存在し、mode_extension_flagが0のとき、macroblock_layer()に多重された一つの共通の符号化/予測モード情報がすべての3つの色成分の復号化に用いられ、mode_extension_flagが1のとき、macroblock_layer()内の分離された符号化/予測モード情報がそれぞれの色成分の復号化に用いられる。また、mode_extension_flagがビットストリームに存在するものとして記載されており、引用例の文法は、ビットストリームに含まれる種々の情報を定義するものである。
さらに、引用例の前掲bのエの記載によれば、引用例の文法では、[Macroblock layer syntax]のmacroblock_layer(color_comp)内にmb_typeが規定され、そのマクロブロックが使用する予測モード、分割形態が記述される。
これらの記載を要約すると、引用例には、「ビットストリームに含まれる情報として、値が0のときmacroblock_layer()に多重された一つの共通の符号化/予測モード情報がすべての3つの色成分の復号化に用いられることを表し、値が1のときmacroblock_layer()内の分離された符号化/予測モード情報がそれぞれの色成分の復号化に用いられることを表すmode_extension_flagが定義され、macroblock_layer(color_comp)内にmb_typeが規定され、そのマクロブロックが使用する予測モード、分割形態が記述される」ことが記載されている。

以上によれば、引用例には、下記の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

記(引用発明)
すべての色平面に対して一つの共通の符号化/予測モードが適用される共通予測符号化モードと、それぞれの色平面に対して独立した符号化/予測モードを適用する独立予測符号化モードを備えるMPEG4-Part10/H.264の復号化方法であって、
ビットストリームに含まれる情報として、値が0のときmacroblock_layer()に多重された一つの共通の符号化/予測モード情報がすべての3つの色成分の復号化に用いられることを表し、値が1のときmacroblock_layer()内の分離された符号化/予測モード情報がそれぞれの色成分の復号化に用いられることを表すmode_extension_flagが定義され、macroblock_layer(color_comp)内にmb_typeが規定され、そのマクロブロックが使用する予測モード、分割形態が記述される復号化方法。

d.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると次のことが認められる。

ア.「復号化方法(予測映像の生成方法)」
上述したように、本願の補正後発明の「予測映像の生成方法」は「復号化方法」の誤記と判断した。そして、引用発明はMPEG4-Part10/H.264の復号化方法であるので、本願補正発明と引用発明とは共に「復号化方法」である点で一致する。

イ.「ビットストリームを復号化することによって、一つのシーケンスを構成する複数の色成分のブロックに対する一つの予測モードを表す情報を復元するステップ」
引用発明はMPEG4-Part10/H.264の復号化方法であって、符号化されたビットストリームを復号化するものといえる。
そして、引用発明は、ビットストリーム内に3つの色成分に対して一つの共通の符号化/予測モードが適用されているか、それぞれの色成分に独立した符号化/予測モードが適用されているかを表す情報であるmode_extension_flagを有しており、ビットストリームを復号化する際に同時にこの情報も復元するものといえる。
また、一般にMPEG符号化においては、マクロブロックに対して符号化/予測モードが設定されるものであるから、mode_extension_flagにより決められた符号化/予測モードは、色成分のマクロブロックに対するものである。
よって、引用発明は、本願補正発明と同様の「ビットストリームを復号化することによって、一つのシーケンスを構成する複数の色成分のブロックに対する一つの予測モードを表す情報を復元するステップ」を備えているものといえる。

ウ.「前記復元された映像データを復号化することによって、現在映像と前記現在映像に対する予測映像との差に該当するレジデューを生成するステップ」
引用発明はMPEG4-Part10/H.264復号化方法であって、一般にMPEG符号化されたビットストリームを復号する方法は、符号化されたビットストリームを逆算術符号化、逆量子化、逆DCT変換を行い、基準となる予測画像及び現在画像と予測画像とのレジデュー(残差)を生成する手順を含むものである。
よって、引用発明は、本願補正発明と同様の「前記復元された映像データを復号化することによって、現在映像と前記現在映像に対する予測映像との差に該当するレジデューを生成するステップ」を備えているものといえる。

エ.「前記復元された情報によって、前記色成分のブロックに一律的に適用される予測モードを使用したり、前記色成分のブロックに独立的に予測モードを使用して前記現在映像の予測映像を生成するステップ」
引用発明は、ビットストリームに含まれる情報として、値が0のときmacroblock_layer()に多重された一つの共通の符号化/予測モード情報がすべての3つの色成分の復号化に用いられることを表し、値が1のときmacroblock_layer()内の分離された符号化/予測モード情報がそれぞれの色成分の復号化に用いられることを表すmode_extension_flagが定義されており、ビットストリームを復号化する際に同時にこの情報も復元し、色成分の復号化に使用している。
そして、上記イでも述べたように、一般にMPEG符号化においては、符号化/予測モードはマクロブロックに対して設定されるものである。
すなわち、引用発明は、復元されたmode_extension_flagの情報に基づき、mode_extension_flagの値が0のとき一つの共通の符号化/予測モード情報をすべての3つの色成分のブロックに適用し、mode_extension_flagの値が1のとき分離された符号化/予測モード情報をそれぞれの色成分のブロックに適用して色成分を復号化し、各色成分の予測画像を生成するものといえる。
よって、引用発明は、本願補正発明と同様の「前記復元された情報によって、前記色成分のブロックに一律的に適用される予測モードを使用したり、前記色成分のブロックに独立的に予測モードを使用して前記現在映像の予測映像を生成するステップ」を備えているものといえる。

オ.「前記生成されたレジデューと前記生成された予測画面を利用して復元画面を生成するステップ」
引用発明はMPEG4-Part10/H.264復号化方法であって、一般にMPEG符号化されたビットストリームを復号する方法は、基準となる予測画像や現在画像と予測画像とのレジデュー(残差)を生成した後に、予測画像とレジデュー(残差)を用いて現在画像、つまり復元画像を生成する手順を含むものであるから、引用発明は、本願補正発明と同様の「前記生成されたレジデューと前記生成された予測画面を利用して復元画面を生成するステップ」を備えているものといえる。

カ.「前記予測映像を生成するステップは、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される大きさに分割されたブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成する」
上記エにおいて述べたように、引用発明は「予測映像を生成するステップ」を備えており、そのステップでは、復元されたmode_extension_flagの情報に基づき、mode_extension_flagの値が0のとき一つの共通の符号化/予測モード情報をすべての3つの色成分のブロックに適用し、mode_extension_flagの値が1のとき分離された符号化/予測モード情報をそれぞれの色成分のブロックに適用して色成分を復号化し、各色成分の予測画像を生成するものといえる。
よって、本願補正発明と引用発明とは、共に「前記予測映像を生成するステップは、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成する」ものである点において一致するものといえる。
ただし、本願補正発明は、一律的に適用される予測モードにおいては「一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に」一律的に適用される予測モードを使用し、独立的に適用される予測モードにおいては「独立的に適用される大きさに分割されたブロックに」独立的に予測モードを使用するものであるのに対し、引用発明は、macroblock_layer(color_comp)内にmb_typeが規定され、そのマクロブロックの分割形態が記述されてはいるものの、そのマクロブロックの分割形態が、予測モードに応じて一律的に適用される大きさに分割されるか、独立的に適用される大きさに分割されるかということは明確ではなく、そのように分割されたブロック別に予測モードを適用するか不明である点で両者は相違する。

e.一致点・相違点
上記dのアないしカの対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
ビットストリームを復号化することによって、一つのシーケンスを構成する複数の色成分のブロックに対する一つの予測モードを表す情報を復元するステップと、
前記復元された映像データを復号化することによって、現在映像と前記現在映像に対する予測映像との差に該当するレジデューを生成するステップと、
前記復元された情報によって、前記色成分のブロックに一律的に適用される予測モードを使用したり、前記色成分のブロックに独立的に予測モードを使用して前記現在映像の予測映像を生成するステップと、
前記生成されたレジデューと前記生成された予測画面を利用して復元画面を生成するステップと、を含み、
前記予測映像を生成するステップは、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成することを特徴とする復号化方法。

[相違点]
本願補正発明は、一律的に適用される予測モードにおいては「一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に」一律的に適用される予測モードを使用し、独立的に適用される予測モードにおいては「独立的に適用される大きさに分割されたブロックに」独立的に予測モードを使用するものであるのに対し、引用発明は、macroblock_layer(color_comp)内にmb_typeが規定され、そのマクロブロックの分割形態が記述されてはいるものの、そのマクロブロックの分割形態が、予測モードに応じて一律的に適用される大きさに分割されるか、独立的に適用される大きさに分割されるかということは明確ではなく、そのように分割されたブロック別に予測モードを適用するか不明である点。

f.相違点の判断
引用発明は、上記dのエにおいて述べたように、mode_extension_flagの値が0のとき一つの共通の符号化/予測モード情報をすべての3つの色成分のブロックに適用し、mode_extension_flagの値が1のとき分離された符号化/予測モード情報をそれぞれの色成分のブロックに適用して色成分を復号化する。
一つの共通の符号化/予測モード情報をすべての3つの色成分のブロックに適用する場合には、各色成分の対応する各ブロックに同じ予測モードを適用するのであるから、各色成分の対応する各ブロックは、同じ分割形態、すなわち同じ大きさに分割して予測モードを適用することは、当業者が普通に想到し得ることである。
一方、分離された符号化/予測モード情報をそれぞれの色成分のブロックに適用する場合については、引用発明にはmacroblock_layer(color_comp)内にmb_typeが規定され、そのマクロブロックの分割形態が記述されてはいるものの、分離された符号化/予測モードを適応する際に、各色成分の各ブロック別に異なる分割形態を採用するかは明確にされてはいないが、引用例の摘示事項(前記第2.3.b)の前掲アには、「我々は、RGBビデオの三つの色平面は時には互いに異なる空間-時間統計的特性を有しているという事実に注目した。JFVMの文法は、それぞれの色平面に対して独立した符号化モードを適用するという方法を許容しないため、その符号化利得はそのような事例では限定されたものとなる。このよう欠点は、JFVMに対して、それぞれの色平面でのマクロブロックの独立符号化についての情報を加えることによって避けることができる。」、「我々はインター符号化において独立予測が行えるよう文法仕様[3]を拡張した。提案された文法は、復号化の複雑性が殆どJFVMと同じ程度のまま、符号化器が、4:4:4画像をインター符号化するときに最適な符号化モードを適用的に選択することをできるようにする。」と記載され、また、前掲エには、「mode_extension_flagが1のとき、macroblock_layer()内のすべての文法要素は、現在の色成分がモノクロサンプルアレイとみなされるchroma_format_idc == 0と同じ意味として解釈される。」と記載されており、これらの記載から、引用発明は、分離された符号化/予測モードを適応する際には、各色成分は独立して最適な符号化/予測モードを選択可能とすることを想定したものである。
そして、一般的に符号化/予測モードを最適に選択するということは、マクロブロックの予測モード、マクロブロックの分割形態を適応的に選択することであることは周知の事項であるので、互いに異なる空間-時間統計的特性を有している色成分毎に最適なマクロブロックの分割形態、最適な予測モードを選択することは当業者が容易に想到し得ることといえる。
よって、引用発明において、上記相違点に係る、一律的に適用される予測モードにおいては「一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に」一律的に適用される予測モードを使用し、独立的に適用される予測モードにおいては「独立的に適用される大きさに分割されたブロックに」独立的に予測モードを使用するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

g.効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

h.まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)小括
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、本件補正却下は、適法なものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正却下は上記のとおり適法なものであるので、本願の請求項に係る発明は、平成23年10月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、以下のものである。

〈本願発明〉
ビットストリームを復号化することによって、一つのシーケンスを構成する複数の色成分のブロックに対する一つの予測モードを表す情報を復元するステップと、
前記復元された映像データを復号化することによって、現在映像と前記現在映像に対する予測映像との差に該当するレジデューを生成するステップと、
前記復元された情報によって、前記色成分のブロックに一律的に適用される予測モードを使用したり、前記色成分のブロックに独立的に予測モードを使用して前記現在映像の予測映像を生成するステップと、
前記生成されたレジデューと前記生成された予測画面を利用して復元画面を生成するステップと、を含むことを特徴とする復号化方法。

2.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記第2.3.(2)bに記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.3.で検討した本願補正発明における「予測映像を生成するステップ」についての「前記予測映像を生成するステップは、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに一律的に適用される大きさに分割されたブロック別に一律的に適用される予測モードを使用して前記予測画面を生成し、前記復元された情報が前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される予測モードを表すと、前記色成分それぞれのブロックに独立的に適用される大きさに分割されたブロックに独立的に予測モードを使用して前記予測画面を生成する」という限定事項を省いたものである。
そうすると、前記第2.3.(2)dで検討したように、本願発明の特定事項は引用例に記載された発明と全て一致するものであるから、本願発明は、引用例に記載された発明である。

第4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-31 
結審通知日 2014-02-12 
審決日 2014-02-25 
出願番号 特願2009-500288(P2009-500288)
審決分類 P 1 8・ 113- ZB (H04N)
P 1 8・ 121- ZB (H04N)
P 1 8・ 575- ZB (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 小池 正彦
松尾 淳一
発明の名称 復号化方法、復号化装置、及び記録媒体  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ