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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1289974 |
審判番号 | 不服2012-23803 |
総通号数 | 177 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-09-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-11-30 |
確定日 | 2014-07-17 |
事件の表示 | 特願2008-207869「耐磨耗特性の改善された添加剤および潤滑剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 2日出願公開、特開2009- 67997〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成20年8月12日(パリ条約による優先権主張:平成19年9月10日、米国)の出願であって、平成23年9月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年7月25日付けで拒絶査定され、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、平成25年3月12日付けで審査官により作成された前置報告書に基づいて、同年5月15日付けで審尋を行ったところ、同年10月21日に回答書が提出されたものである。 2.平成24年11月30日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年11月30日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容と目的 平成24年11月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲について次のとおり補正することを含むものである。 本件補正前: 「 【請求項6】 潤滑粘性の基油成分、並びに(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩、 を含んでなる耐磨耗剤、を含んでなり、 ここで耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比が0.3:1から1.5:1の範囲内であり、潤滑剤組成物中の少なくとも1つのホスホロチオ酸の金属塩からのリンの量が100から900重量ppmである、ことを特徴とする完全に調整された潤滑剤組成物。」 本件補正後: 「 【請求項4】 潤滑粘性の基油成分、並びに(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩、 を含んでなる耐磨耗剤、を含んでなり、 ここで耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比が0.5:1から1.45:1の範囲内であり、潤滑剤組成物中の少なくとも1つのホスホロチオ酸の金属塩からのリンの量が100から900重量ppmであり、潤滑剤組成物中の炭化水素に可溶なチタン系化合物からのチタンの量が25以上から1000重量ppmである、ことを特徴とする完全に調整された潤滑剤組成物。」 上記補正は、本件補正前の請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比」の数値範囲と、「炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタン」の含有量を限定するものである。そして、当該補正は、本件補正前の請求項6に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件の検討 上記のとおり、本件補正前の請求項6についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、本件補正後の請求項4に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。 (2-1)本件補正発明 本件補正発明は、本件補正後の請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであって、再掲すると、次のとおりである。 「 【請求項4】 潤滑粘性の基油成分、並びに(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩、 を含んでなる耐磨耗剤、を含んでなり、 ここで耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比が0.5:1から1.45:1の範囲内であり、潤滑剤組成物中の少なくとも1つのホスホロチオ酸の金属塩からのリンの量が100から900重量ppmであり、潤滑剤組成物中の炭化水素に可溶なチタン系化合物からのチタンの量が25以上から1000重量ppmである、ことを特徴とする完全に調整された潤滑剤組成物。」 (以下、「耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比」を、単に、「チタンとリンの重量比」ということがあるし、「潤滑剤組成物中の少なくとも1つのホスホロチオ酸の金属塩からのリンの量」及び「潤滑剤組成物中の炭化水素に可溶なチタン系化合物からのチタンの量」をそれぞれ、単に「リン量」及び「チタン量」ということがある。) (2-2)引用刊行物とその記載事項 ア.引用刊行物1の記載事項 原査定の拒絶理由において、引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-257406号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (a) 「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項6】 潤滑粘度の基油成分、有機モリブデン摩擦調整剤、および炭化水素に可溶な金属を含んだ物質を欠いている潤滑組成物の酸化を減少させる以上に当該潤滑組成物の酸化を減少させる効果のある、少なくとも一種の炭化水素に可溶な金属を含んだ物質の量を含んでなる、完全に配合された潤滑組成物であって、当該の金属を含んだ物質の金属がチタン、ジルコニウム、およびマンガンから成るグループから選択され、また当該物質が硫黄原子およびリン原子を本質的に欠いている潤滑組成物。」 (b) 「【0047】 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(「Zn DDP」)もまた潤滑油中で使用される。Zn DDPは優れた耐摩耗性および抗酸化特性を有し、Seq.IVAおよびTU3磨耗試験のようなカムの磨耗試験を通過するために使用されてきた。米国特許第4,904,401号、4,957,649号、および6,114,288号を含む多くの特許がZn DDPの製造および用途を提示している。非限定的、一般的なZn DDPの種類に、第一級、第二級、および第一級と第二級の組み合わせのZn DDPがある。」 (c) 「【0075】 下の例は実施の態様を例証する目的で挙げられたものであり、いかなる方法によっても実施態様を制限するものではない。 [実施例] 例1 ネオデカン酸チタン ネオデカン酸(600グラム)を、コンデンサー、ディンスタークトラップ(Dean-stark trap)、温度計、熱電対、およびガス注入口を備えた反応容器に入れる。酸の中に窒素ガスを泡立てる。チタンイソプロポキシド(245グラム)を、激しく攪拌しながら反応容器にゆっくり加える。反応物質を140℃に加熱し1時間攪拌する。反応により得られるオーバーヘッドおよび凝縮物はトラップに集められる。反応容器を減圧し、反応物質をさらに2時間、反応が完了するまで攪拌する。生産物の分析により、当生産物が100℃で14.3cStの動粘度、およびチタン含有量6.4重量パーセントを有することが示された。 ・・・・・ 例7 炭化水素に可溶なチタン添加剤の酸化防止効果 下の例において、炭化水素に可溶なチタン化合物を、予め混合された潤滑組成物にトップトリートとして加え、精製潤滑剤中に約50ppmから約830ppmの量のチタン金属を提供する。使用された予混合物はGroup IIIベースストック清浄剤、分散剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、および粘度指数向上剤が配合された乗用車のエンジンオイルの試作品であり、以下の表に示されるようにチタン金属を欠いている。 【0076】 【表1】 【0077】 約0ppmから約800ppmの元素チタンが配合されたオイルの酸化安定性を、TEOST MHT-4検査を使用して評価した。 ・・・・・ 【0078】 【表2】 【0079】 前記表2において、表示された量のチタンネオデカノエートを含んだサンプル2-7の酸化安定性とサンプル2-7に使用されている基油(サンプル1)の酸化安定性とを比較した。データによって示されるように、TEOSTの結果が39.4である基油(サンプル1)の酸化安定性と比べ、約50ppmから約800ppmのチタン金属を含んだオイルの酸化安定性には劇的な増加が見られる。」 イ.引用刊行物2の記載事項 原査定の拒絶理由において、引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-162021号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (d) 「【0046】 一般的に使用されるジンクジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)は、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性の塩であり、これらは以下の化学式によって表される: 【化4】 式中R^(7)とR^(8)は、1つから18、一般的には2つから12の炭素原子を有し、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール、および脂環式ラジカルのようなラジカルを含む、同一あるいは異なったヒドロカルビルラジカルである。R^(7)およびR^(8)基として特に望ましいのは、2つから8つの炭素原子のアルキル基である。・・・・」 (e) 「【0063】 例3 開示された実施態様に基づいて作られた潤滑剤組成物の摩耗低減効果を評価するために、シーケンスIVA(Sequence IVA)試験法が使用された。 ・・・・・ 【0064】 基油は、粘度5W-30の、グループIおよびグループIIのオイルの混合物である。シーケンスIVA(Sequence IVA)試験の対照運転(運転1)は、摩擦調整剤としてモノオレイン酸グリセロールを含有している、完全に調合された潤滑剤を用いて運転された。第2の運転(運転2)は、完全に調合された潤滑剤中での組み合わせの摩擦調節剤の効果を示すため、チタン化合物とモノオレイン酸グリセロールを含有した潤滑剤組成物を用いて行われた。 【表2】 【0065】 非チタン含有潤滑油組成物(運転1)から得られた結果との比較からも分かるように、運転2で得られたシーケンスIVA(Sequence IVA)試験の結果によって、Ti添加剤の摩耗制御の効能がはっきりと示された。・・・」 (2-3)当審の判断 ア.引用発明 上記引用刊行物1の摘記事項(c)には、【表2】として、「チタンネオデカノエートでトップ処理された表1のオイルに関するTEOSTテストの結果」が示されている。 ここで、この「表1のオイル」とは、【表1】に示された成分組成を有する「5W30基礎潤滑組成物」を指し、具体的には同表から、「基油」に加え「第1級および第2級ZDDPの混合」を0.93重量%含有するものであることが読み取れる。なお、この「ZDDP」は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートの略称である(摘記事項(b)参照)。 また、上記「チタンネオデカノエート」は、摘記事項(c)の「例1」(段落【0075】参照)のネオデカン酸チタンであって、ネオデカン酸(C_(10)のカルボン酸)とチタンイソプロポキシド(チタンアルコキシド)の反応生成物であることが理解できる。 さらに、上記摘記事項(a)に記載された「潤滑粘度の基油成分」、「完全に配合された潤滑組成物」という表現を勘案すると、当該【表2】のサンプルNo.5?7には、以下の事項が記載されていると認められる。 『潤滑粘度の基油成分と0.93重量%の「第1級および第2級ZDDPの混合」を含むオイルに、「チタンネオデカノエート」をトップ処理した潤滑組成物であって、該オイルの量と該「チタンネオデカノエート」からのチタン金属の量が、99.36重量%と410ppm、99.04重量%と621ppm、あるいは、98.72重量%と822ppmである、完全に配合された潤滑組成物。』(以下、「引用発明」という。) イ.本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「第1級および第2級ZDDPの混合」は、本件補正発明における「少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩」に属するものであるし、引用発明における「チタンネオデカノエート」は上述のとおり、チタンアルコキシドとC_(10)のカルボン酸の反応生成物である炭化水素に可溶なチタン化合物であって、本願補正発明における「チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物」に包含されるものであるから、両者は、以下の点で一致するといえる。 <一致点> 『潤滑粘性の基油成分、チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物に属する「チタンネオデカノエート」、及び、少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩に属する「第1級および第2級ZDDPの混合」を含んでなり、 潤滑剤組成物中の上記「チタンネオデカノエート」からのチタンの量が、25以上から1000重量ppmの範囲に属する410重量ppm、621重量ppm、あるいは、822重量ppmである、ことを特徴とする完全に調整された潤滑剤組成物。』 そして、両者は、以下の点で相違するものと認められる。 <相違点> 本件補正発明は、(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩を含んでなるものを、耐磨耗剤として位置付け、該耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比が0.5:1から1.45:1の範囲内であることを特定するとともに、潤滑剤組成物中の少なくとも1つのホスホロチオ酸の金属塩からのリンの量が100から900重量ppmであることを規定しているのに対して、引用発明は、この点の明示がない点。 ウ.相違点の検討 まず、引用発明における「第1級および第2級ZDDPの混合」(ホスホロチオ酸の金属塩)からのリンの量について考察する。 引用刊行物1の摘記事項(b)には、ZDDPの製造の際に参照すべきいくつかの米国特許文献が示されているが、それらの文献は、本願明細書の段落【0025】に列記された文献と同じであることから、引用発明におけるZDDPの製造過程は、本願明細書において具現化されているZDDPのそれと酷似するものと解される。そして、本願明細書の実施例(段落【0083】の【表3】参照)におけるZDDP中のリン濃度は8重量%であることから(例えば、当該【表3】のサンプルNo.1では、ZDDP1.00重量%中、P濃度は800ppmであることから算出)、引用発明における「第1級および第2級ZDDPの混合」中のリン濃度も、これと同程度であると推認するのが妥当である。また、一般に使用されている「第1級および第2級ZDDPの混合」に着目しても、上記引用刊行物2には、引用発明と同じ技術分野に属するエンジンオイル用の潤滑剤組成物が開示されているところ、上記摘記事項(e)の【表2】には、「第1級と第2級のジンクジアルキルジチオホスフェートの混合」(引用発明における「第1級および第2級ZDDPの混合」に対応:摘記事項(d)参照)と「リン」の含有量が示されており、それらの値から算出される「第1級および第2級ZDDPの混合」中のリン濃度もおおよそ8重量%である。 これらの点を考え合わせると、引用発明に係る潤滑組成物は、「第1級および第2級ZDDPの混合」からのリンの量を明示するものではないものの、上記のとおり、該「第1級および第2級ZDDPの混合」中のリン濃度は、8重量%程度であると解するのが相当であるから、その場合、引用刊行物1の上記【表2】に記載されたサンプルNo.5における「第1級および第2級ZDDPの混合」からのリンの量は、739重量ppm(=99.36*0.93/100*8/100 wt%)と算出できる。同様に、サンプルNo.6、7における当該リン量はそれぞれ、737ppm(=99.04*0.93/100*8/100 wt%)、734ppm(=98.72*0.93/100*8/100 wt%)と計算できる。 このようなリン量の考察結果をふまえて、上記相違点に係る成分組成について再考する。 上記サンプルNo.5?7におけるチタンとリンの重量比はそれぞれ、410:739、621:737、822:734、すなわち、0.56:1、0.84:1、1.12:1と計算できるから、以上の演算を整理すると、引用発明に係る潤滑組成物における、[チタン量(重量ppm),リン量(重量ppm),チタンとリンの重量比]の組み合わせは、[410,739,0.56:1]、[621,737,0.84:1]、[822,734,1.12:1]となり、これらはすべて、本件補正発明において規定されるチタン量(25から1000重量ppm)、リン量(100から900重量ppm)、チタンとリンの重量比(0.5:1から1.45:1)の数値範囲を満足することが分かる(なお、上記演算においては、「第1級および第2級ZDDPの混合」中のリン濃度を8重量%と推認したが、この濃度が7重量%あるいは9重量%であっても同様の結果となる。)。 そうすると、引用発明における「チタンネオデカノエート」からのチタン量と、「第1級および第2級ZDDPの混合」からのリン量の重量比は、本願補正発明が規定する0.5:1から1.45:1の数値範囲内にあるとともに、当該リン量についても、本願補正発明の規定数値範囲内にあるのであるから、引用発明に係る潤滑組成物と、本願補正発明に係る潤滑剤組成物とは、それらの成分組成において何ら相違するところはないというべきである。 次に、本件補正発明は、(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩を含んでなるものを、耐磨耗剤として位置付けている点について勘考する。 上述のとおり、引用発明における「チタンネオデカノエート」及び「第1級および第2級ZDDPの混合」は、本件補正発明において規定されるチタン量、リン量、及びチタンとリンの重量比に関する数値範囲を満足するような成分であることから、引用発明において、これらの成分は、本件補正発明における「(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩」と同様の作用、すなわち、耐磨耗作用を奏し、耐磨耗剤としても機能するものと解すべきである。加えて、潤滑剤組成物において、これらの成分を耐磨耗剤と呼称して添加しようと、例えば、酸化防止剤と呼称して添加しようと、このような添加目的(添加種別の呼称)の差異は、最終的に得られる潤滑剤組成物の成分組成自体に影響を与えるわけではない。 してみると、引用発明における「チタンネオデカノエート」及び「第1級および第2級ZDDPの混合」は、耐磨耗剤としても位置付け得るものであるとともに、これらの成分の添加種別の呼称の差異が、潤滑剤組成物自体の同一性を左右するものでもないから、本願補正発明における、上記のような耐磨耗剤との位置付けにより、引用発明との差異付けがなされるとは言い難い。 したがって、上記相違点に係る技術的事項は、引用発明に係る潤滑組成物が既に具備する事項というべきであって、実質的なものとは認められないから、本件補正発明は、引用刊行物1に記載された発明であるといわざるを得ず、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)小括 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明 平成24年11月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成23年12月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、再掲すると次のとおりのものである。 「 【請求項6】 潤滑粘性の基油成分、並びに(i)チタンアルコキシドとC_(6)からC_(25)のカルボン酸の反応生成物を含んでなる炭化水素に可溶なチタン化合物、及び(ii)少なくとも一種のホスホロチオ酸の金属塩、 を含んでなる耐磨耗剤、を含んでなり、 ここで耐磨耗剤中の炭化水素に可溶なチタン化合物により与えられた金属チタンと、少なくとも一つのホスホロチオ酸の金属塩からのリン、の重量比が0.3:1から1.5:1の範囲内であり、潤滑剤組成物中の少なくとも1つのホスホロチオ酸の金属塩からのリンの量が100から900重量ppmである、ことを特徴とする完全に調整された潤滑剤組成物。」 4.原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「平成23年9月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由1」、すなわち、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けるこことができない、というものである。 引用文献1:特開2006-257406号公報 5.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶理由において引用された引用文献1は、上記「2.(2-2)ア.」における引用刊行物1であり、その記載事項は、上記「2.(2-2)ア.」に記載したとおりである。 6.当審の判断 (1)引用発明 引用刊行物1の記載事項から認定し得る引用発明についても、上記「2.(2-3)ア.」に記載したとおりである。 (2)対比・検討 上記「2.(1)」にて説示したとおり、本件補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)に対して、チタンとリンの重量比及びチタン量に関する限定を加えたものであるから、逆に、本願発明は、本件補正発明から、上記限定事項を省いたものであるということができる。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「2.(2-3)」において説示したとおり、引用刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないのであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物1に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 7.審判請求人の主張(回答書)について 審判請求人は、平成25年10月21日付けの回答書において特許請求の範囲の補正案を提示し、チタンとリンの重量比及びリン量の数値範囲を補正することにより、本願発明は特許性を有することとなる旨主張しているが、上記「2.(2-3)ウ.」において説示した、引用発明におけるチタンとリンの重量比及びリン量は、当該補正案における数値範囲をも満足するものであるから、上記回答書における審判請求人の主張を採用することもできない。 8.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-02-03 |
結審通知日 | 2014-02-18 |
審決日 | 2014-03-03 |
出願番号 | 特願2008-207869(P2008-207869) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C10M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂井 哲也 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 橋本 栄和 |
発明の名称 | 耐磨耗特性の改善された添加剤および潤滑剤組成物 |
代理人 | 特許業務法人小田島特許事務所 |