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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1290301
審判番号 不服2012-16366  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-23 
確定日 2014-08-01 
事件の表示 特願2007-504673「頭髪化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日国際公開、WO2006/090613〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年2月14日(優先権主張2005年2月22日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月2日付けで拒絶理由通知が通知され、同年4月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月18日付けで拒絶査定され、これに対し、同年8月23日に拒絶査定不服審判が請求されると共に、同日付けで手続補正書が提出され、同年10月5日に手続補正書(方式)が提出されたものである。その後、当審から平成25年11月29日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(前置報告書)を引用した審尋が通知され、平成26年2月3日付けで回答書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1 平成24年8月23日付け手続補正について
平成24年8月23日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前(平成24年4月9日付け手続補正書参照)の、請求項3及び4を削除し、それに伴い、後続の請求項の項番を繰り上げたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定される請求項の削除を目的とするものに該当し、適法である。

2 本願発明
平成24年8月23日付けの手続補正は上記のとおり適法であるので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成24年8月23日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「ビワの葉部からの抽出物から精製して得られたコロソリン酸を有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。」

第3 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2001-187742号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 旱蓮草、雪蓮花、巴戟天、不老草、柏叶、白何首烏、茄根、羌活、白キュウ、夜交藤、および枇杷叶からなる群から選ばれる1の植物の抽出物を含有することを特徴とするテストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤。」

(1b)「【0002】
【従来の技術】男性ホルモンの1種であるテストステロンは、還元酵素であるテストステロン-5α-レダクターゼにより還元され、ジヒドロテストステロンとなる。この生成されたジヒドロテストステロンは蓄積が進むと、毛根を萎縮させ、脱毛を誘発する原因となることが知られている。従って、ジヒドロテストステロンの生成を抑制または阻害することができれば、脱毛を予防し、治療することができると考られる。」

(1c)「【0007】すなわち、本発明は、旱蓮草(キク科Eclipta prostrata L.の地上部全草を乾燥したもの),雪蓮花(キンポウゲ科Saussurea laniceps HAND.-MAZZ.の花),巴戟天(アカネ科Morinda officinalis HOW の根を乾燥したもの),不老草(ラン科Gastrodia elata BLUME の地上部),柏叶(Cryptomeria D.DON スギ属植物の葉),白何首烏(Cynanchum bungei DECNE),茄根(ナス科Solanum melongena L.の根),羌活(セリ科Notopterygium incisum TINGおよびN. forbesii BOISS ,N. forbesii BOISS. var. oviforme CHANGの根茎を乾燥したもの),白キュウ(ラン科Bletilla striata REICHB.fil.の球茎を調製乾燥したもの),夜交藤(タデ科Polygonum multiflorum THUNB の地上部),枇杷叶(バラ科Eriobotrya japonica LINDL の葉を乾燥したもの)ならびにこれら生薬の抽出物を含有するテストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤、並びに、これら植物および生薬の抽出物を含有し、テストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を示す化粧品または医薬品を提供するものである。」

(1d)「【0010】本発明において、これら生薬の抽出物が好ましく用いられる。・・・抽出の具体的方法は、例えばエキス剤、チンキ剤などを製する際に用いられる冷浸法、温浸法、パーコレーション法などを適用することができる。得られた抽出液はそのまま、またはさらに濃縮したり、希釈したり、精製したりして用いることもできる。さらに、これらの抽出液や粉末を、カラムクロマトグラフィーなどを用いて精製することにより、単一成分としたものを用いることもできる。」

(1e)「【0016】実施例1(テストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用)
原料生薬から抽出して得られた抽出エキスのテストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を調べた。
1.酵素液(S-9)の調製
24時間絶食した5週令のSlc:SD系雄性ラットの肝臓を氷冷したクレープス-リンガー液で潅流した。これに5倍量の氷冷したトリス-塩酸緩衝液(10mM、pH7.2)を加え、ホモゲナイズし、900×gで10分間遠心分離した。この上清を5000×gで10分間遠心分離し、さらに上清を酵素液(S-9)とし、-80℃で凍結保存した。
2.テストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用
トリス-塩酸緩衝液(10mM、pH7.2)1.0ml、テストステロン(500μg/ml)0.3ml、表1と表2に記載の試験液0.2ml及び酵素液1.0mlを混和し、反応促進剤としてβーニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートー4-ナトリウム塩(以下NADPHという)(0.77mg/ml)0.5mlを加え、30分間37℃に保持した。ジクロロメタン5mlを加えて反応を停止させ、内部標準物質(濃度0.1mg/mlのp-ヒドロキシ安息香酸n-ヘキシルエステル)0.5mlを加え、10分間振とうし、3000rpmで10分間遠心分離した。上清を除去した後、残ったジクロロメタン層からトッピングによりジクロロメタンを留去し、これにメタノール5mlを加えて高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCという)用サンプルとした。テストステロンの量はHPLCで測定した。測定条件は、用いたカラムがYMC-PACKODS-AMであり、移動層の溶媒はメタノール/水=65/35の混合溶媒であり、流速が1ml/分であり、吸収光はUV254ナノメーターであり、カラム温度は40℃であった。また、測定は内部標準物質法を用いて行い、阻害率(%)を次式から求めた。
阻害率(%)=(試験液を加えたときのテストステロン量-コントロール30分のテストステロン量)/(コントロール0分のテストステロン量-コントロール30分のテストステロン量)×100
・コントロール0分のテストステロン量:トリス-塩酸緩衝液、テストステロン、試験液および酵素液を混和した後に、NADPHを加える前に、ジクロロメタンを加えて反応を起こさないようにした時のテストステロン量
・コントロール30分のテストステロン量:試験液の代わりに、50%エタノール溶液を用いて、反応を行った時のテストステロン量
【0017】実験結果を表1および2に示す。
・・・
【表2】

各種生薬の50%エタノール抽出エキス(エーテル抽出後の残渣を50%エタノールで抽出)のテストステロン-5α-レダクタ-ゼ阻害活性
*変換量はUVスペクトルの吸収を測定し、内部標準を1として表示した
*数値は吸収値の平均とP <0.01の標準偏差で表した。
表1および2から明らかなように、上記生薬から得たエキスはテストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を示した。」

第4 引用発明の認定
刊行物1は、「旱蓮草、雪蓮花、巴戟天、不老草、柏叶、白何首烏、茄根、羌活、白キュウ、夜交藤、および枇杷叶からなる群から選ばれる1の植物の抽出物を含有することを特徴とするテストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤」((1a))に関するものであり、【0007】((1b))に「枇杷叶(バラ科Eriobotrya japonica LINDL の葉を乾燥したもの)」と記載され、実施例1【表2】((1e))には、枇杷叶の50%エタノール抽出エキス(エーテル抽出の残渣を50%エタノールで抽出)、濃度2mg/mlを試験液としたもののテストステロン5α-レダクターゼ阻害率は74.9%でありテストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を示したことが記載されている。
したがって、刊行物1には、
「枇杷叶(バラ科Eriobotrya japonica LINDL の葉を乾燥したもの)の50%エタノール抽出エキスを含有するテストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 Eriobotrya japonica LINDLはビワの学名であるから、引用発明の「枇杷叶(バラ科Eriobotrya japonica LINDL の葉を乾燥したもの)の50%エタノール抽出エキス」は、本願発明の「ビワの葉部からの抽出物」に相当する。

2 引用発明の「テストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤」も本願発明の「育毛剤」も薬剤である点で共通する。

3 そうすると、引用発明と本願発明とは、
「ビワの葉部からの抽出物を成分として含有する薬剤。」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明は、「ビワの葉部からの抽出物から精製して得られたコロソリン酸を有効成分」として用いるものであるのに対して、引用発明は、ビワの葉部からの抽出物を用いるものではあるが抽出物から精製した特定の物質を用いるものではない点。

<相違点2>
本願発明は、「育毛剤」であるのに対して、引用発明は、「テストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤」である点。

第6 判断
1 <相違点2>について
先に<相違点2>について検討する。
刊行物1(1b)(1c)に、「テストステロンは、還元酵素であるテストステロン-5α-レダクターゼにより還元され、ジヒドロテストステロンとなる。この生成されたジヒドロテストステロンは蓄積が進むと、毛根を萎縮させ、脱毛を誘発する原因となることが知られている。従って、ジヒドロテストステロンの生成を抑制または阻害することができれば、脱毛を予防し、治療することができると考えられる。」、「本発明は、・・・枇杷叶(バラ科Eriobotrya japonica LINDL の葉を乾燥したもの)ならびにこれら生薬の抽出物を含有するテストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤、並びに、これら植物および生薬の抽出物を含有し、テストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を示す化粧品または医薬品を提供するものである。」と記載されるとおり、テストステロンを還元してジヒドロテストステロンとする還元酵素のテストステロン-5α-レダクターゼを阻害することによってジヒドロテストステロンの生成を抑制または阻害すれば、脱毛を予防し、治療することができるとの考え方から、テストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を示す植物および生薬の抽出物を見つけ出しこれらを含有させた化粧料または医薬品を提供しようとする試みは本願優先権主張日前より周知のことであり、引用発明もこの考え方に基づき、脱毛の予防・治療効果を期待したものである。
そして、5α-レダクターゼ阻害剤が育毛にも有効に作用することは、下記の周知文献Aに記載されるように本願優先権主張日前より周知である。
してみると、引用発明のテストステロン-5α-レダクターゼ阻害剤について、脱毛の予防・治療のみならず、5α-レダクターゼ阻害剤がもつ上記周知の作用である育毛作用を期待して、育毛剤とすることは当業者の容易に想到し得ることである。

周知文献A:特開平7-138135号公報
(A1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、育毛上障害となる5α-レダクターゼの活性を阻害して、育毛に有効な5α-レダクターゼ阻害剤に関する」

(A2)「【0007】5α-レダクターゼは、育毛を妨げる還元剤として作用する酵素として知られている。従って、この5α-レダクターゼの活性を阻害することは育毛に有効に作用するものである。」

(A3)「【0008】一方、化粧料の原料として使用でき5α-レダクターゼ阻害作用のある物質としては種々の物質が知られているが、合成品は、長期間人間の肌に適応した場合の安全性の保証がなく、使用が制限されつつある。一方、天然物では5α-レダクターゼ阻害作用が弱いものが多い。しかし人の肌に対する安全性の面から天然物で、多年、人が食したりして、安全性の面で保証されており、しかも5α-レダクターゼ阻害作用が強いものが要求されていた。」

2 <相違点1>について
(1)上記周知文献A(A3)にも記載されるように、従来から、人の肌に対する安全性の面で保証されている天然物であって5α-レダクターゼ阻害作用の強いものが要求されており、上記1で述べたとおり、引用発明は、テストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用を示す植物および生薬の抽出物としてビワの葉の抽出物を見つけ出しこれらを含有させた化粧料または医薬品を提供しようとするものである。
ここで、一般に、天然物である植物または生薬の抽出物について、ある薬理作用を示すことが確認された場合、抽出物を分画、精製して、当該薬理活性を示す化学物質が何であるか解明しようとすることは通常行う研究活動であるところ、刊行物1(1d)には「得られた抽出液はそのまま、またはさらに濃縮したり、希釈したり、精製したりして用いることもできる。さらに、これらの抽出液や粉末を、カラムクロマトグラフィーなどを用いて精製することにより、単一成分としたものを用いることもできる。」と記載されている。
そして、ビワの葉に関する文献報告(下記周知文献B、C参照)を見ると、ビワの葉の抽出物から単離・同定されているトリテルペン成分として、2α-ヒドロキシウルソール酸(または2,3-ヒドロキシウルサ-12-エン-28-酸)(審決注:コロソリン酸の慣用名または体系名)は、ウルソール酸、マスリン酸と同様に本願優先権主張日前周知のものであることがわかる。
してみると、従来から注目されていたテストステロン-5α-レダクターゼ阻害作用に着目し、刊行物1(1d)の開示に従い、引用発明で用いるビワの葉の抽出物を分画し、テストステロン-5α-レダクターゼ阻害活性の強い画分を選択して、その中から単一成分を分離精製して、その物質が何であるか解明するにあたり、下記周知文献B、Cに記載のとおりビワの葉の抽出物に含まれていることが周知である成分名を参考にして、その物質がコロソリン酸であると確認することに当業者が格別創意を要したものとは認められない。

周知文献B:Planta Medica、1990、第56巻、330-332頁
下線は当審により付した。抄訳は当審による。以下同様。
(B1)「

」(330頁右欄)
(抄訳)「Eriobotrya japonicaからのポリヒドロキシル化トリテルペン(表題)
・・・
Eriobotrya japonica LIND.(・・・)は皮膚病や糖尿病の治療のための中国、インドの伝統的な薬として広く使われている小木である。・・・
以前から、植物化学的研究は、顕著な抗炎症作用を示すこれらマスリン酸の中の4つの既知のトリテルペンの単離に向けられていた。・・・
文献のものとの物理的およびスペクトル特性の比較により、化合物4はウルソール酸、3は2α-ヒドロキシウルソール酸、そして、2はマスリン酸と同定された。」

周知文献C:Planta Medica、1991、第57巻、414-416頁
(C1)「

」(414頁)
(抄訳)「Eriobotrya japonicaのセスキテルペングリコシドとポリヒドロキシル化トリテルペノイドの血糖低下作用(表題)
・・・
抄録
Eriobotrya japonicaのメタノール抽出により単離された成分であるセスキテルペングリコシド1-3とポリヒドロキシル化トリテルペノイド5-6の作用は、遺伝的糖尿病マウス(・・・)と正常血糖ラットにおいて研究された。
・・・
序論
・・・私たちは最近、メタノール抽出物から4つの新規のセスキテルペングリコシド1-4(6)と2つの主要なポリヒドロキシル化トリテルペン、新規の3,6,19-トリヒドロキシウルサ-12-エン-28-酸(5)(5)と既知の2,3-ヒドロキシウルサ-12-エン-28-酸(6)を単離した。
・・・」

3 本願発明の作用効果について
(1)育毛剤としての作用効果について
本願明細書には、「〔試験例1〕テストステロン5α-リダクターゼ阻害作用試験」(【0053】)として、ラット肝臓ホモジネートを用い、試料1?3のテストステロン5α-リダクターゼ阻害作用を測定したことが記載されている。また、「〔試験例2〕毛乳頭細胞増殖促進作用試験」(【0064】)、「〔試験例3〕FGF-7増殖促進作用試験、VEGF増殖促進作用試験及びBMP-2増殖促進作用試験」(【0070】)について試験を行ったことが記載されているが、育毛作用については直接確認されているものではない。
一方、刊行物1(1e)では、ラット肝臓から調製した酵素液を用い、枇杷叶(バラ科Eriobotrya japonica LINDL の葉を乾燥したもの)の50%エタノール抽出エキスを試験液としてテストステロン-5α-レダクタ-ゼ阻害活性を測定している。
してみると、本願明細書には、刊行物1で試験検討されているのと同レベルの作用効果が記載されるに留まり、本願明細書の記載からは、本願発明の育毛剤が、引用発明及び周知技術からは予期できない格別の作用効果を奏するものとはいえない。

(2)ビワの葉部からの抽出物から精製して得られたコロソリン酸を用いることによる作用効果について
ア 本願明細書をみると、
「〔製造例1〕コロソリン酸の製造
細切りにしたビワの葉部300gにエタノール3000mLを加え、95℃にて2時間加熱還流抽出を行い、熱時濾過した。得られた濾液をエバポレーターで濃縮・乾固させ、ビワ葉部抽出物83gを得た。得られたビワ葉部抽出物を多孔性吸着樹脂・・・に付し、これらの溶出部を薄層クロマトグラフィー・・・に付したところ、メタノール溶出部及びアセトン溶出部にコロソリン酸が含まれていることが確認されたため、これらの溶出部をあわせて・・・シリカゲルカラム・・・を用いて分離・精製し、精製物152mgを得た(試料1)。この精製物を^(13)C-NMRにより分析した結果を以下に示す。
・・・
以上の^(13)C-NMRによる分析結果から、製造例1で得られた精製物が、コロソリン酸であることが確認できた。
〔製造例2〕3%コロソリン酸の製造
細切りにしたビワの葉部100gに80質量%エタノール1000mLを加え、95℃にて2時間加熱還流抽出を行い、熱時濾過した。得られた抽出液をエバポレーターで濃縮・乾固させ、ビワ葉部抽出物16gを得た。得られたビワ葉部抽出物を、下記の条件にて液体クロマトグラフィーを用いて分析した結果、当該抽出物にコロソリン酸が3質量%含まれていた(試料2)。
・・・
〔製造例3〕10%コロソリン酸の製造
細切りにしたビワの葉部100gに90質量%エタノール1000mLを加え、95℃にて2時間加熱還流抽出を行った後、活性炭(製品名:カルボラフィン,日本エンバイロケミカルズ社製)を用いて濾過した。得られた濾液をエバポレーターで濃縮・乾固させ、50質量%エタノールに懸濁させ、当該懸濁液を珪藻土で濾過した。残渣を90質量%エタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレーターで濃縮・乾固させ、ビワ葉部抽出物1.8gを得た。得られたビワ葉部抽出物を、下記の条件にて液体クロマトグラフィーを用いて分析した結果、当該抽出物中にコロソリン酸が10質量%含まれていた(試料3)。」(【0046】?【0051】)
との記載から、試料1が「ビワの葉部からの抽出物から精製して得られたコロソリン酸」を含有するものである本願発明に該当し、試料2はエタノール抽出物を濃縮・乾固させたものであって、所謂、"クルード(crude)"なものに当たると解される。試料3についてもコロソリン酸の含有量が10質量%のものであるから、一般的には「ビワの葉部からの抽出物から精製して得られたコロソリン酸」には該当しないと解される。

イ そうすると、試料中のコロソリン酸自体の濃度は、コロソリン酸の精製物である試料1はコロソリン酸濃度が100%でないとしてもかなり高純度と解され、試料2、3はそれぞれコロソリン酸含有量が3%、10%であるから、コロソリン酸自体の濃度としては試料1に比べて試料2、3は相当低いものといえる。

ウ 一般に、天然物の抽出物を分離精製した結果、純度の高まりから、その薬理作用が増強される、すなわち、クルードなものよりもより少ない用量で同等の効果を示すのは技術常識である。

エ 上記イのような試料1?試料3のコロソリン酸含有量の差、及び、上記ウの技術常識を踏まえて、本願明細書の試験例1?3を見ると、試料1(本願発明)が、予期せぬ効果を奏するとはいえない。

オ 例えば、試験例1の【表1】の「テストステロン5α-リダクターゼの阻害率が50%になる試料濃度IC_(50)(μg/mL)」をみると、試料1(本願発明)が558であるのに対して、試料2(クルードなもの)は556であって、テストステロン5α-リダクターゼの阻害率が50%になる試料濃度IC_(50)は、クルードな試料2の方がわずかに低く、テストステロン5α-リダクターゼ阻害率は、試料1も試料2も同程度であることが示されている。

カ また、試験例2の毛乳頭細胞増殖促進作用試験においては、上記イのとおり試料1?3でコロソリン酸含有量に差があるにも拘わらず、同一の試料濃度(6.25及び1.56μg/ml)で試験を行っている。【表2】の毛乳頭細胞増殖促進率をみると、試料濃度1.56μg/mlの場合は、試料1が111.5±2.2、試料2が105.5±2.5、試料3が108.0±3.0で、試料1が一番数値が高いが、試料濃度6.25μg/mlの場合は、試料1は106.1±1.4、試料2は86.2±3.1、試料3が107.7±2.1で、試料3の方が試料1より促進率が高く、試料2では促進率が100%より小さい(促進効果が見られない)結果となっている。そうすると、試料濃度によるバラツキが大きく、試料1と、コロソリン酸含有量は試料1の1/10程度の試料3とで、必ずしも有意な差が認められない。

キ また、試験例3のFGF-7増殖促進作用試験、VEGF増殖促進作用試験及びBMP-2増殖促進作用試験については、上記イのとおり試料1が高純度で試料2は3%との試料中のコロソリン酸自体の濃度からすれば、【表3】のmRNA発現促進率において、試料1が低い濃度で試料2と同等の効果を奏することは上記ウの技術常識から予測し得る範囲内のものでしかない。

ク 以上のように、本願明細書の記載からは、ビワの葉部からの抽出物から精製して得られたコロソリン酸を用いたことにより、分離精製する前の抽出物を用いたものに比して、当業者が予期しえない格別顕著な作用効果を奏すとは認められない。

(3)回答書で提出されたコロソリン酸と、アフゼリンおよびエピカテキンとの対比実験は、精製コロソリン酸(本願発明)とビワ葉部抽出物(引用発明)とを比較するものではなく、上記(2)の判断を左右するのものとはならない。
また、請求人は回答書において「ここで、試料1(精製コロソリン酸)と試料2(ビワ葉部抽出物)とを比較した結果は、本願明細書の表2および表3に記載されています。すなわち、コロソリン酸とビワ葉部抽出物とが同濃度の場合にコロソリン酸が優れた効果を奏すること(本願明細書:表2参照)、またコロソリン酸がビワ葉部抽出物よりもはるかに低い濃度で優れた効果を奏すること(同表3参照)は、本願明細書に記載されています。」と述べているが、試料1と試料2との比較のみで試料3は考慮する必要がないとの合理的な理由は見当たらず、試料3まで含めて検討した結果は上記(2)のとおりである。

(4)上記(1)?(3)で検討したとおり、本願発明において、<相違点1><相違点2>に係る構成をとることにより奏される、本願明細書記載の作用効果は、いずれも、引用発明及び刊行物1に開示される事項並びに周知技術から当業者が予測しうる範囲内のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項2にかかる発明は、引用発明及び刊行物1に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-29 
結審通知日 2014-06-04 
審決日 2014-06-17 
出願番号 特願2007-504673(P2007-504673)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馳平 裕美  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 冨永 保
小川 慶子
発明の名称 頭髪化粧料  
代理人 早川 裕司  

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