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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1290318
審判番号 不服2013-11161  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-13 
確定日 2014-07-31 
事件の表示 特願2008-219642「デュプレクサ回路」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日出願公開、特開2010- 56876〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成20年8月28日の出願であって,平成24年9月10日付けで拒絶理由が通知され,同年11月14日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされ,平成25年3月11日付けで拒絶査定がされ,同年6月13日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものであり,当審において,同年9月9日付けで回答書の提出の期間を指定して審尋をしたが,その指定の期間内に回答書の提出がなされなかったものである。

第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年6月13日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本願補正発明
請求項1に記載された発明は,平成25年6月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により,次のとおりのものとなった(下線は請求人が付与。)。

【請求項1】
送信回路、受信回路及びアンテナに接続されたデュプレクサ回路であって、
第1の端子、第2の端子及び第3の端子を有し、前記第1の端子が前記送信回路に接続され、前記第2の端子が前記アンテナに接続された3端子のサーキュレータと、
前記3端子のサーキュレータが有する第3の端子を、前記受信回路及び一端が接地された終端抵抗の他端のいずれに接続するかを切り替えるRFスイッチであってFETが用いられているRFスイッチと、
入力される送信期間を示す送信期間信号に基づいて前記RFスイッチを切り替える制御回路と
を備え、
前記3端子のサーキュレータは、更に、
前記第1の端子から入力された信号を前記第2の端子に出力し、前記第2の端子から入力された信号を前記第3の端子に出力し、前記第3の端子から入力された信号を前記第1の端子に出力し、更に、前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力してループバック試験を行える
ことを特徴とするデュプレクサ回路。

ここで,請求人の手続の経緯を確認すると,平成25年6月13日付け審判請求書の第3ページから第4ページの記載によれば,上記請求項1における「更に、前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力してループバック試験を行える」の記載は,段落【0018】の「また、送信回路2と受信回路4とは、サーキュレータ12及びRFスイッチ13によりアイソレーションされているが、実際には、送信回路2から出力された送信信号がリークして、受信回路4に若干入力される。このときの送信信号と受信回路4に入力される信号とは一般的に少なくとも40dB程度の差を有する。これを利用して、無線装置100のループバック試験を行うことができる。」の記載に基づく旨を,請求人は主張している。

同段落の記載によれば,「ループバック試験」は,「送信回路」からサーキュレータに入力された送信信号がリークして「受信回路」に入力される,ということを利用して行えるものである。
そして,自装置が送信した信号を自装置で受信することで,送信機能や受信機能等のチェックを行う試験を,通常「ループバック試験」と呼ぶことは周知であることに鑑みれば,上記請求項1の「更に、前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力してループバック試験を行える」の記載における「ループバック試験」は,上記周知の「ループバック試験」を意味すると解される。

一方,上記請求項1の「更に、前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力してループバック試験を行える」の記載における「前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力して」(下線は当審が付与。)は,上記請求項1において,サーキュレータの「第2の端子」は「アンテナ」に接続され,「第1の端子」は「送信回路」に接続されることを踏まえれば,「アンテナ」から入力された信号がリークして,「送信回路」に出力することを示す。

しかしながら,「アンテナ」から入力された信号は,装置自身が送信した信号ではなく,また,リークした信号が「送信回路」に出力されても該信号を受信することはできないから,「前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力して」も,自装置で送信した信号を自装置で受信する上記周知の「ループバック試験」を行うことはできない。
したがって,請求項1の「前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力して」という記載が,「ループバック試験が行える」という記載と整合しないことは明らかである。

そして,上記段落【0018】の記載によれば,「ループバック試験」は,「送信回路」からサーキュレータに入力された送信信号がリークして「受信回路」に入力される,ということを利用して行えるものであり,請求項1において,「送信回路」はサーキュレータの「第1の端子」に接続され,「受信回路」はRFスイッチを介してサーキュレータの「第3の端子」に接続されることを考慮すれば,上記請求項1の「更に、前記第2の端子から入力された信号がリークして、前記第2の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第1の端子に出力してループバック試験を行える」の記載は,「更に、前記第1の端子から入力された信号がリークして、前記第1の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第3の端子に出力してループバック試験を行える」(下線は当審が付与。)の誤記であると解される。

以上から,請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,正しくは次の記載事項(下線は当審が付与。)により特定されるものである。

送信回路、受信回路及びアンテナに接続されたデュプレクサ回路であって、
第1の端子、第2の端子及び第3の端子を有し、前記第1の端子が前記送信回路に接続され、前記第2の端子が前記アンテナに接続された3端子のサーキュレータと、
前記3端子のサーキュレータが有する第3の端子を、前記受信回路及び一端が接地された終端抵抗の他端のいずれに接続するかを切り替えるRFスイッチであってFETが用いられているRFスイッチと、
入力される送信期間を示す送信期間信号に基づいて前記RFスイッチを切り替える制御回路と
を備え、
前記3端子のサーキュレータは、更に、
前記第1の端子から入力された信号を前記第2の端子に出力し、前記第2の端子から入力された信号を前記第3の端子に出力し、前記第3の端子から入力された信号を前記第1の端子に出力し、更に、前記第1の端子から入力された信号がリークして、前記第1の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第3の端子に出力してループバック試験を行える
ことを特徴とするデュプレクサ回路。

そして,本件補正は,本件補正前(平成24年11月14日付け手続補正)の請求項1に係る発明の「3端子のサーキュレータ」に,「更に、前記第1の端子から入力された信号がリークして、前記第1の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する信号が、前記第3の端子に出力してループバック試験を行える」という限定事項を附すものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで,本件補正の後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

2.引用発明等
(1)引用例及び引用発明
原査定において引用された特開平8-320373号公報(平成8年12月3日公開。以下「引用例」という。)には,図面とともに次の記載(下線部は当審が付与。)がある。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、安定な送受信動作が得られるレーダ・トランスポンダに関するものである。
【0002】
【従来の技術】図11は、従来のレーダ・トランスポンダを示すブロック図である。図において、1は送信受信共用空中線、2はこの空中線1に接続されたサーキュレータ、3は受信信号を増幅するFET増幅器、4はこの増幅された受信信号を検波するダイオード直接検波器、5はそれを増幅するビデオ増幅器、6は制御回路、7は掃引信号を発生する鋸歯状波発生回路、8は送信ゲート回路、9はマイクロ波発振器である。
【0003】次に、動作について説明する。送信受信共用空中線1によって受信されたレーダ信号は、サーキュレータ2を通過してFET増幅器3に入り、そこで増幅された後、ダイオード直接検波器4により検波信号となる。検波信号は、ビデオ増幅器5でトリガレベルに増幅され、制御回路6をトリガする。それにより、送信ゲート回路8が開き、同時に鋸歯状波発生回路7が動作し、それぞれの信号がマイクロ波発振器9に加わり、周波数掃引されたマイクロ波信号が送信ゲートの開いた時間だけ送信する。この送信信号は、サーキュレータ2を通過して、送信受信共用空中線1に伝わり、捜索レーダに向けて空間へ送信応答電波が発射される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のレーダ・トランスポンダは以上のように構成されているので、送信ゲートが開いた送信時間に送信波がサーキュレータを介して受信側に漏洩し、それを受信側が増幅して受信回路が飽和し、よって制御回路のトリガ・レベルを越えて誤動作が発生するという課題があった。また更に、受信回路は微少な受信信号を増幅するため、送信側の信号はもちろん、雑音や温度の影響を受けやすく、誤った受信をすることがあるという課題もあった。
【0005】この発明は上記の課題を解決するためになされたもので、送受信兼用のアンテナからの送信側の影響による誤応答の送信を防ぎ、また微少信号に対しても安定に動作するレーダ・トランスポンダを得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明に係るレーダ・トランスポンダは、送受信兼用アンテナと接続されて送信信号と受信信号を切り換える切換器と、この切換器の受信側に接続され受信回路との間に、切換器からみて送信時には接地側に、受信時には受信回路側に接続される単極双投スイッチと、この単極双投スイッチの受信時接続側から受信信号をとる受信回路を備えた。
【0007】また更に、単極双投スイッチは、切換器からの入力側に設けた無反射終端と、この入力側と出力側間に設けたインピーダンス整合をとるための線路と、この出力側に設けたダイオードとダイオードのオンオフ駆動信号端から構成した。」
(第2ページ第1欄-同ページ第2欄)

イ 「【0022】
【実施例】
実施例1.本実施例では、送信側に送信信号が反射する影響を軽減した単極双投のスイッチを受信側に入口に設けた例を説明する。この発明の実施例1の構成のレーダ・トランスポンダを図1に示す。図1(a)において、新規な要素10は、オン時及びオフ時とも、良好な入力インピーダンスを持つサーキュレータ側から見て単極掃投のRFスイッチである。このRFスイッチ10の詳細構成の一例を図1(b)に示す。図において、11a,11bはPINダイオード、12は電流制御用抵抗、13は50Ω無反射終端、14は1/4波長マイクロストリップ線路を示す。図1(b)の入力側は、図1(a)のサーキュレータ2に接続され、また、図1(b)の出力側は、図1(a)のFET増幅器3に接続される。図1(b)で抵抗12に印加されるスイッチ駆動信号がオン時に、入力側は無反射終端13とダイオード11b点で接地され、また、スイッチ駆動信号がオフ時に、入力側は線路14を経由して出力側に接続される単極双投の動作をする。【0023】次に、動作について説明する。送信受信共用の空中線1によって受信されたレーダ信号は、サーキュレータ2を通過してRFスイッチ10に入る。スイッチ駆動信号がオフで、従ってRFスイッチ10がオン状態の時、レーダ信号は、RFスイッチ10を通過し、FET増幅器3に入る。そこで増幅された後、ダイオード直接検波器4に伝達され、送信受信共用空中線1より空間へ送信応答電波が発射されるまでは、従来の技術の動作と同様である。しかし、送信状態となり、送信ゲート8が開くと、出力された送信ゲート信号は、RFスイッチ10にも伝達され、スイッチ駆動信号がオンになり、RFスイッチはオフ状態となる。図1(b)において、RFスイッチ10は、受信状態の時、送信ゲート8は開いておらず、RFスイッチ10へのスイッチ駆動信号入力はオフ状態であり、PINダイオード11a,bはオープン状態となるので、レーダ信号は入力側から出力側へ通過するオン状態となる。また、送信ゲート8が開くと、RFスイッチ10へのスイッチ駆動信号入力は、オン(高電位)状態となり、抵抗12を介してPINダイオード11a,bは順方向へ電流が流れ、短絡状態となる。すなわち、ダイオード11bで接地電位になるとともに、入力側に入ってきた送信漏洩電波は、整合用の分布定数線路14でサーキュレータ2の出力インピーダンスとマッチングして電波は吸収され、反射がない状態となる。すなわち、RFスイッチ10は、完全なオフ状態になり、かつ、50Ω無反射終端により良好な入力インピーダンスが維持される。上記のようにサーキュレータ側から見て単極双投であればよいので、変化は種々考えられる。例えば、線路は3/4波長でもよい。この場合でも、無反射終端に向けて接地電位になるため、RFスイッチ10で反射した送信信号がマイクロ波発振器9に流れ込むことがなくなり、マイクロ波発振器9の正常動作が保てる。」
(第3ページ第4欄-第4ページ第5欄)

ウ 「【0030】実施例6.上記各実施例では送信と受信の切換をサーキュレータで行う例を説明したが、他の要素を用いてもよい。図10に示す本実施例のレーダ・トランスポンダは、切換を24のRFスイッチで行う構成を示す図である。上記構成の装置の動作は実施例1と同様であり、その効果も全く同様である。また実施例2ないし実施例5と組み合わせて用いた効果も同様である。
【0031】
【発明の効果】以上述べたようにこの発明によれば、切換器の受信側と受信回路との間に単極双投スイッチを設けたので、送信信号の受信回路への漏洩と、スイッチから送信側への反射が少なく、安定な動作が得られる効果がある。
【0032】また更に、単極双投スイッチをインピーダンス整合用線路と両端の無反射終端とスイッチ駆動端を設けたので、送信信号の受信回路への漏洩と、スイッチから送信側への反射が少なく、安定な動作が得られる効果がある。」
(第5ページ第7欄)

エ 図1(a)は,レーダ・トランスポンダの構成ブロック図であり,その記載を技術常識に照らすと,マイクロ波発信器とサーキュレータが接続されること,サーキュレータと送信受信共用空中線が接続されること,RFスイッチとFET増幅器が接続されること,送信ゲート回路とマイクロ波発信器が接続されること,送信ゲート回路とRFスイッチと接続されること,が記載されているといえる。

オ 図1(b)は,RFスイッチの詳細構成図であり,その記載を技術常識に照らすと,PINダイオード11aのアノードが入力側に接続され,PINダイオード11aのカソードが無反射終端の一端に接続されること,無反射終端の他端が接地されること,入力側と出力側の間にインピーダンス整合用線路4を備えること,PINダイオード11bのアノードが出力側に接続され,PINダイオード11bのカソードが接地されること,駆動信号入力が抵抗12とインピーダンス整合用線路4を介してPINダイオード11aのアノードに接続され,抵抗12を介してPINダイオード11bのアノードに接続されること,が記載されているといえる。

上記の記載によれば,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

マイクロ波発信器とサーキュレータが接続され,サーキュレータと送信受信共用空中線が接続され,サーキュレータとRFスイッチの入力側が接続され,RFスイッチの出力側とFET増幅器が接続され,送信ゲート回路がマイクロ波発信器及びFRスイッチに接続されたレーダトランスポンダであって,
サーキュレータは,送信ゲート回路が開き,出力された送信ゲート信号がマイクロ波発信器に加わることで,送信ゲートが開いた時間だけ送信された送信信号を送信受信共用空中線に伝え,送信受信共用空中線によって受信されたレーダ信号をRFスイッチに伝え,送信と受信の切換を行い,
RFスイッチは,サーキュレータ側から見て単極双投のRFスイッチであり,
PINダイオード11aのアノードが入力側に接続され,PINダイオード11aのカソードが50Ω無反射終端の一端に接続され,50Ω無反射終端の他端が接地され,入力側と出力側の間にインピーダンス整合用線路4を備え,PINダイオード11bのアノードが出力側に接続され,PINダイオード11bのカソードが接地され,駆動信号入力が抵抗とインピーダンス整合用線路を介してPINダイオード11aのアノードに接続され,抵抗を介してPINダイオード11bのアノードに接続され,
送信状態のとき,送信ゲート回路が開くと出力される送信ゲート信号がRFスイッチに伝達され、スイッチ駆動信号がオンになり、入力側は50Ω無反射終端とPINダイオード11bで接地され,受信状態のとき,送信ゲート回路は開いておらず,スイッチ駆動信号はオフであり,入力側がインピーダンス整合用線路を経由して出力側に接続される単極双投の動作を行い,
サーキュレータを介した送信信号の受信回路への漏洩を少なくする,
レーダ・トランスポンダ。

(2)周知例及び周知技術
ア 周知例1
本願の出願日前に公開された特開2002-33602号公報(以下「周知例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0009】本発明の目的は、ミリ波という高周波で適した分布定数型FETを用いたスイッチ回路をSPDTに用いることで、スイッチON時には少ない通過損失を得ることができると共に、スイッチOFF時には高いアイソレーションが期待できる高周波スイッチ回路を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、少なくともミリ波を含む波長が短く高い周波数でスイッチ動作が可能な高周波スイッチ回路において、伝送線路としてコプレーナウェイブガイド線路を用い、第一の分布定数型FETを前記コプレーナウェイブガイド線路の主信号ラインとグランド線の間に並列接続し、第二の分布定数型FETを前記コプレーナウェイブガイド線路のグランド線に直列接続してなることを特徴とする。
【0011】また、上記高周波スイッチ回路において、更に、複数のポートを具備し、ONするポートは、前記第二の分布定数型FETをONとすると共に、前記第一の分布定数型FETをOFFとし、OFFするポートは、前記第二の分布定数型FETをOFFとすると共に、前記第一の分布定数型FETをONとすることを特徴とする。
【0012】[作用]本発明の高周波スイッチ回路は、ミリ波という高周波に適した分布定数型FETと、信号線路を接地導体で挟む構成によりコプレーナ線路を低インピーダンスとしたコプレーナウェイガイド線路とを用いたスイッチ回路を、単極双投スイッチ回路に用いる。そのため、スイッチON時には少ない通過損失を得ることができると共に、スイッチOFF時には高いアイソレーションが期待できる。
【0013】本発明の基本的な構成による単極双投スイッチについて、図1を参照しつつ説明する。分布定数型FETを用いた高周波スイッチ回路は、図1に示す如く、入力端子Port1から出力端子Port2或いはPort2に出力する場合、また逆に入力端子Port2或いはPort2から個別に出力端子Port1に出力する場合の両者共に用いることができる。前者の例で説明すれば、本高周波スイッチ回路は、FET611,621、コプレーナウェイブガイド線路618a,618c,628a,628c、抵抗614,624、バイアス制御端子616,626を備えている。
【0014】まず、入力端子Port1から出力端子Port2に出力する場合には、制御端子16に-3Vを印加して、信号線路と接地電位と間のFET611をオフとして、制御端子26に0Vを印加してFET621をONして伝送線路をショートし接地電位とする。これにより、出力端子Port3への漏れはなくなり、出力端子Port2への伝送損失もほとんどなく、スルー状態となる。また、入力端子Port1から出力端子Port3に出力する場合には、制御端子16に0Vを印加して、FET611をONとして伝送線路をショートし接地電位とし、制御端子26に-3Vを印加してFET621をオフして、入力端子Port1から出力端子Port3への伝送による伝送損失を小さく、出力端子Port2へのアイソレーションを大きくできる。」
(第3ページ第3欄-同ページ第4欄)

イ 周知例2
本願の出願日前に公開された特開平4-267643号公報(以下「周知例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 プレススイッチ部分(6) をオン状態にした時、送信用電源部分(1) からの直流電圧が加えられて動作状態となり、送信側に切り替わった空中線切替器(5) を介して周波数fの送信信号を送出する送信機(3) と、該プレススイッチ部分がオフ状態の時、受信用電源部分(2) からの直流電圧が加えられて動作状態になり、受信側に切り替わった該空中線切替器を介して入力する周波数fの信号を受信する受信機(4) とを有する送受信装置において、該プレススイッチ部分がオフ状態の時に該送信用電源部から直流電圧を出力して該送信機に加える為の試験スイッチ( SW )を設け、該受信機を試験する際、該受信機を動作状態にすると共に、該試験スイッチをオン状態にして、動作状態になった該送信機からの送信信号を、送信側に切り替わった該空中線切替器を漏洩させて受信機に加える構成にしたことを特徴とする送受信装置。」
(第2ページ第1欄)

(イ)「【0016】そこで、外部測定器を使用しないで受信機の粗調整や動作チェックができる様にしなければならないと云う問題がある。本発明は外部測定器を使用しないで受信機の粗調整や動作チェックができる様にすることを目的とする。 」
(第3ページ第3欄)

エ 周知例3
本願の出願日前に公開された特開2005-159847号公報(以下「周知例3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】音声入出力手段とデジタル変復調手段と自身の送信電波の漏洩電波を利用して自身の動作が正常であるか否かを自己診断手段を有するデジタル無線機であって、自己診断を行う場合に送信テストデータを発生するテストデータ発生手段と、該送信テストデータに基づくデータを受信して自己診断を行うビット誤り率測定手段と、該ビット誤り率測定手段の測定結果を表示する表示手段とを有することを特徴とするデジタル無線機。」
(第3ページ第3欄)

(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態であるデジタル無線機のブロック図を示す実施例である。
同図において、1はアンテナ、2は送受切り換えスイッチ、3は可変アッテネータ、4はアッテネータ制御量記憶部、5は送信高周波部、6は変調部、7は送信フレーム処理部、8および9はスイッチ、10は音声コーデック部、11は送信音声処理部、12はマイク、13は受信高周波部、14は復調部、15は受信フレーム処理部、17はビット誤り率測定部、18は受信音声処理部、19はスピーカー、20は表示部、21は受信電界強度検出部である。
【0016】
通常時は、可変アッテネータ3は減衰なしに設定されており、送信フレーム処理部7はスイッチ8を介して音声コーデック10に、受信フレーム処理部15はスイッチ16を介して音声コーデック10に接続している。
また、送受切り換えスイッチ2は送信時は可変アッテネータ3に、受信時は受信高周波部13に接続する。
一方、自己診断テスト時には、可変アッテネータ3はアッテネータ減衰量記憶部に記憶されている減衰量に設定され、送信フレーム処理部7はスイッチ8によりテストデータ発生部9に、受信フレーム処理部はスイッチ16により誤りビット判定部17に接続される。
また、この時、送信動作と受信動作は同時に行うように制御され、送受切り換えスイッチ2はアンテナ1と送信出力制御部3が接続されるように制御される。
【0017】
自己診断テスト時の動作は、ます、テストデータ発生部9にて任意のテスト信号(例えばPN符号等)を発生し、スイッチ8を介して送信フレーム処理部7に出力する。
送信フレーム処理部7は入力されたテスト信号をフレームフォーマットに従ってエンコード処理を行い、エンコードされたデータは変調部6にて変調処理される。
変調部6にて変調された信号は送信高周波部5を通り、送信出力制御部3で任意のレベルに調整され、送受切り換えスイッチ2を介してアンテナ1より送信される。
この時送受切り換えスイッチ2にて漏洩した送信波は受信高周波13に入力され受信される。受信高周波部13にて受信された信号は復調部14にて復調、受信フレーム処理部15にてデコードされ受信データとなる。受信フレーム処理部15より出力された受信データはスイッチ16を介してビット誤り率測定部17に入力され、誤り率が計算される。
ビット誤り率測定部17にて計算されたビット誤り率は表示部20に表示される。
また、同時に高周波部13の出力は受信電界強度検出部21に入力され、この時の受信電界強度が表示部20に表示される。」
(第3ページ第4欄-第4ページ第5欄)

オ 周知技術
(ア)周知例1の記載を技術常識に照らせば,周知例1における「高周波スイッチ」は,「RFスイッチ」といえる。
よって,周知例1は,次の技術(以下「周知技術1」という。)を開示しているといえる。

「単極双投の動作を行うRFスイッチを,FETを用いて構成する」技術。

(イ)周知例2及び周知例3の記載を技術常識に照らせば,次のことがいえる。

・周知例2における「空中線切替器」は,送信側に切り替わったときに,送信機からの送信信号を空中線に出力し,受信側に切り替わったときに,空中線からの受信信号を受信機に出力するものであることは明らかであるから,送信と受信を切り換える切換器といえる。

・周知例2における「受信機の粗調整や動作チェック」は,送受信装置の送信機が送出した送信信号を,当該送受信の受信機で受信することによって行っており,自装置が送信した信号を自装置で受信する試験であるから,ループバック試験といえる。

・周知例3における「送受切り換えスイッチ」は,送信と受信を切り換える切換器といえる。

・周知例3における「自己診断テスト」は,デジタル無線機の送信出力制御部が送出した送信信号を,当該デジタル無線機の受信高周波部で受信することにより行っており,自装置が送信した信号を自装置で受信する試験であるから,ループバック試験といえる。

よって,周知例2及び周知例3は,次の技術(以下「周知技術2」という。)を開示しているといえる。

「送信と受信を切り換える切替器において,送信側から入力された信号が漏洩して受信側に出力されることを利用して,ループバック試験を行う」技術。

3.対比
本願補正発明と引用発明を比較すると次のことがいえる。

・引用発明における「マイクロ波発信器」は,送信信号を出力する回路であるから,「送信回路」といえる。

・引用発明における「送信受信共用空中線」は,本願補正発明における「アンテナ」に相当する。

・引用発明における「FET増幅器」は,増幅処理を,受信されたレーダ信号に対して行う回路であるから,「受信回路」といえる。

・引用発明における「サーキュレータ」は,「マイクロ波発信器」,「送信受信共用空中線」及び「RFスイッチ」にそれぞれ接続されるから,「マイクロ波発信器」と接続される端子,「送信受信共用空中線」と接続される端子及び「RFスイッチ」と接続される端子を有する「3端子のサーキュレータ」であることは明らかである。
また,上記「サーキュレータ」は,「マイクロ波発信器」から送信された送信信号を「送信受信共用空中線」に伝え,「送信受信共用空中線」が受信したレーダ信号を「RFスイッチ」に伝えるから,「マイクロ波発信器に接続される端子から入力された信号を送信受信共用空中線に接続される端子に出力し,送信受信共用空中線に接続される端子から出力された信号をRFスイッチに接続される端子に出力し,RFスイッチに接続される端子から入力された信号をマイクロ波発信器に接続される端子に出力」するものであることも明らかである。

・引用発明における「RFスイッチ」は,入力側を,スイッチ駆動信号がオンのときには,他端が接地された無反射終端に接続し,スイッチ駆動信号がオフのときには,出力側に接続しているから,「RFスイッチ」は,入力側と接続された「サーキュレータ」の上記第3の端子を,他端が接地された無反射終端とFET増幅器のいずれに接続するかを切り替えているといえる。

・引用発明における「50Ω無反射終端」は,本願補正発明における「終端抵抗」に相当する。

・引用発明における「送信ゲート信号」は,送信ゲート回路が開くと出力される信号であり,送信ゲートが開いた時間だけマイクロ波発信器から送信信号が送信されるから,送信ゲート信号は,「送信期間を示す信号」であるといえる。

・引用発明におけるレーダ・トランスポンダは,送信状態のとき,送信ゲート回路を開いて送信ゲート信号を出力し,該送信ゲート信号をRFスイッチに伝達することで,RFスイッチのスイッチ駆動信号をオンにして,RFスイッチの入力側を50Ω無反射終端に接続させ,受信状態のとき,送信ゲート回路を閉じて,RFスイッチのスイッチ駆動信号をオフにして,RFスイッチの入力側を出力側に接続させている。したがって,送信ゲート回路及び該送信ゲート回路から出力される送信ゲート信号をRFスイッチに伝達してRFスイッチのスイッチ駆動信号をオン,オフする回路は,送信ゲート信号に基づいてRFスイッチを切り替える制御回路といえる。

・引用発明において,マイクロ波発信器がサーキュレータを経由して送信受信共用空中線に送信信号を伝える経路と,送信受信共用空中線からサーキュレータ及びRFスイッチを経由してFET増幅器に受信したレーダ信号を伝える経路は,サーキュレータ,RFスイッチによって電気的に分離されていることは明らかであるから,サーキュレータ,RFスイッチ及びRFスイッチを切り替える制御回路は,デュプレクサ回路を構成しているといえる。

・引用発明は,サーキュレータと受信回路の間にRFスイッチを設けることで,サーキュレータを介した送信信号の受信回路への漏洩を少なくするものである。このことは,引用発明において,サーキュレータから漏洩した送信信号が,RFスイッチを介して受信回路に出力され得ることを意味する。

以上から,本願補正発明と引用発明は,次の点で一致し,相違するといえる。

[一致点]
送信回路、受信回路及びアンテナに接続されたデュプレクサ回路であって、
第1の端子、第2の端子及び第3の端子を有し、前記第1の端子が前記送信回路に接続され、前記第2の端子が前記アンテナに接続された3端子のサーキュレータと、
前記3端子のサーキュレータが有する第3の端子を、前記受信回路及び一端が接地された終端抵抗の他端のいずれに接続するかを切り替えるRFスイッチと、
入力される送信期間を示す送信期間信号に基づいて前記RFスイッチを切り替える制御回路と
を備え、
前記3端子のサーキュレータは、更に、
前記第1の端子から入力された信号を前記第2の端子に出力し、前記第2の端子から入力された信号を前記第3の端子に出力し、前記第3の端子から入力された信号を前記第1の端子に出力し、更に、前記第1の端子から入力された信号がリークして、前記第3の端子に出力する
ことを特徴とするデュプレクサ回路。

[相違点1]
本願補正発明における「RFスイッチ」は,「FETが用いられている」のに対し,引用発明における「RFスイッチ」は,「PINダイオード」が用いられている点。

[相違点2]
本願補正発明は,「サーキュレータ」が,「第1の端子から入力された信号がリークして,第3の端子に出力する」ことで「ループバック試験を行える」ものであり,「第3の端子に出力する」信号は,「第1の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する」ものであるのに対し,引用発明には,「サーキュレータ」が「第1の端子から入力された信号がリークして,第3の端子に出力する」ことについて,そのような特定がない点。

4.判断
上記相違点1,2について検討する。

○ 相違点1について
引用発明における「RFスイッチ」は,単極双投の動作を行うRFスイッチである。
そして,「単極双投の動作を行うRFスイッチを,FETを用いて構成する」ことは周知である。
このことは,引用発明に周知技術1を適用し,相違点1のように構成することが当業者に適宜なし得たことを意味する。

○ 相違点2について
上記「3.対比」に記載したとおり,引用発明では,サーキュレータから漏洩した送信信号が,RFスイッチを介して受信回路に出力され得る。
そして,「送信と受信を切り換える切換器において,送信側から入力された信号が漏洩して,受信側に出力されることを利用して,ループバック試験を行う」ことは周知である。
このことは,引用発明に周知技術2を適用し,送信と受信を切り換えるサーキュレータにおいて,マイクロ波発信器から入力された送信信号が漏洩し,RFスイッチを介して受信回路に出力されることを利用して,ループバック試験を行うことが当業者が適宜なしえたことを意味する。
更に,このように周知技術2が適用された引用発明においては,マイクロ波発信器からサーキュレータに入力された送信信号が漏洩して,RFスイッチに出力される信号の電力は,マイクロ波発信器から入力された送信信号の電力に比べて非常に小さいものであることは明らかであり,RFスイッチに出力される漏洩信号の電力をどの程度の大きさにするかは,サーキュレータの回路構成等に応じて当業者が適宜設計しうる事項にすぎない。
また,本願補正発明において,サーキュレータの第1の端子から入力された信号がリークして,第3の端子に出力される信号が,「第1の端子から入力された信号と比べて少なくとも40dBの差を有する」ことに,格別な技術的意義を見いだすこともできない。
よって,引用発明に周知技術2を適用し,相違点2のように構成することは当業者が容易になし得たものである。

そして,本願補正発明のように構成したことによる効果も,引用発明及び周知技術から予測できる程度のものである。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
上記のとおりであるから,本願補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

上記のとおり,平成25年6月13日付け手続補正は却下された。

よって,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年11月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載(下線は請求人が付与。)された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
送信回路、受信回路及びアンテナに接続されたデュプレクサ回路であって、
第1の端子、第2の端子及び第3の端子を有し、前記第1の端子が前記送信回路に接続され、前記第2の端子が前記アンテナに接続された3端子のサーキュレータと、
前記3端子のサーキュレータが有する第3の端子を、前記受信回路及び一端が接地された終端抵抗の他端のいずれに接続するかを切り替えるRFスイッチであってFETが用いられているRFスイッチと、
入力される送信期間を示す送信期間信号に基づいて前記RFスイッチを切り替える制御回路と
を備え、
前記3端子のサーキュレータは、更に、
前記第1の端子から入力された信号を前記第2の端子に出力し、前記第2の端子から入力された信号を前記第3の端子に出力し、前記第3の端子から入力された信号を前記第1の端子に出力する
ことを特徴とするデュプレクサ回路。

第4 当審の判断

1.引用発明等

引用発明及び周知技術については,上記「第2 2.引用発明等」に記載したとおりである。

2.検討
本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」において検討した本願補正発明から,附された限定を省いたものである。
そうすると,本願発明を特定する事項をすべてを含み,さらに,他の構成要件を付したものに相当する本願補正発明が,上記上記「第2 補正却下の決定」の「3.対比」及び「4.判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-23 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-17 
出願番号 特願2008-219642(P2008-219642)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04B)
P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 達朗角田 慎治  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 寺谷 大亮
水野 恵雄
発明の名称 デュプレクサ回路  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 小室 敏雄  

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