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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B60K |
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管理番号 | 1290325 |
審判番号 | 不服2013-18469 |
総通号数 | 177 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-09-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-25 |
確定日 | 2014-07-31 |
事件の表示 | 特願2010- 73731「車両制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日出願公開、特開2011-207240〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年3月26日の出願であって、平成25年4月15日付けで拒絶理由が通知され、平成25年5月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年9月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成25年11月6日付けで書面による審尋がされ、平成25年12月19日に回答書が提出されたものである。 第2 平成25年9月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成25年9月25日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 (1)本件補正の内容 平成25年9月25日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、下記Aに示す本件補正前の(すなわち、平成25年5月29日に提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし5を、下記Bに示す請求項1ないし5へと補正するものである。 A 「【請求項1】 エンジンと、前記エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機とを備え、 前記エンジンの出力トルクと回転数との関係を示す予め定められた所定動作線と、前記車両の加速度に関する目標値とに基づいて前記エンジンの目標トルクおよび前記自動変速機の目標変速比を決定し、かつ前記エンジンに前記目標トルクを実現させる指令であるトルク指令、あるいは前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令の少なくともいずれか一方に遅れ補償を施して出力することが可能であり、 前記トルク指令に対する前記遅れ補償は、前記自動変速機の前記変速指令に対する応答遅れに基づき、 前記遅れ補償は、前記出力トルクおよび前記回転数を示す動作点が前記目標トルクおよび前記目標変速比に対応する目標動作点まで変化する過程において、前記遅れ補償が施されない場合よりも、前記動作点が前記所定動作線から離れることを抑制するものである ことを特徴とする車両制御システム。 【請求項2】 前記所定動作線は、最適な燃費で前記エンジンを運転できる前記出力トルクと前記回転数との関係を示すものである 請求項1に記載の車両制御システム。 【請求項3】 前記車両制御システムは、前記エンジンの前記トルク指令に対する応答遅れ、あるいは前記自動変速機の前記変速指令に対する応答遅れの少なくともいずれか一方に基づいて前記遅れ補償を施す 請求項1または2に記載の車両制御システム。 【請求項4】 前記車両制御システムは、前記目標動作点まで変化する過程において、前記動作点が前記所定動作線上の動作点となるように前記遅れ補償を施す 請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御システム。 【請求項5】 前記車両制御システムは、運転者により操作される操作部材の操作量に基づいて前記加速度に関する目標値を決定するものであり、 前記加速度に関する目標値の大きさ、あるいは前記加速度に関する目標値の変化速度の大きさの少なくともいずれか一方に基づいて、前記遅れ補償を施すか否かを決定する 請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御システム。」 B 「【請求項1】 エンジンと、前記エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機と、応答性補償部とを備え、 前記エンジンの出力トルクと回転数との関係を示す予め定められた所定動作線と、前記車両の加速度に関する目標値とに基づいて前記エンジンの目標トルクおよび前記自動変速機の目標変速比を決定し、 前記応答性補償部は、前記エンジンに前記目標トルクを実現させる指令であるトルク指令、あるいは前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令の少なくともいずれか一方に遅れ補償を施して出力することが可能であり、 前記トルク指令に対する前記遅れ補償は、前記自動変速機の前記変速指令に対する応答遅れに基づき、 前記変速指令に対する前記遅れ補償は、前記エンジンの前記トルク指令に対する応答遅れに基づき、 前記遅れ補償は、前記出力トルクおよび前記回転数を示す動作点が前記目標トルクおよび前記目標変速比に対応する目標動作点まで変化する過程において、前記遅れ補償が施されない場合よりも、前記動作点が前記所定動作線から離れることを抑制するものであり、 前記応答性補償部は、前記トルク指令の出力から実際の前記出力トルクまでの応答時間と、前記変速指令の出力から実際の前記回転数までの応答時間とを一致させるように前記遅れ補償を施す ことを特徴とする車両制御システム。 【請求項2】 前記所定動作線は、最適な燃費で前記エンジンを運転できる前記出力トルクと前記回転数との関係を示すものである 請求項1に記載の車両制御システム。 【請求項3】 前記車両制御システムは、前記エンジンの前記トルク指令に対する応答遅れ、あるいは前記自動変速機の前記変速指令に対する応答遅れの少なくともいずれか一方に基づいて前記遅れ補償を施す 請求項1または2に記載の車両制御システム。 【請求項4】 前記車両制御システムは、前記目標動作点まで変化する過程において、前記動作点が前記所定動作線上の動作点となるように前記遅れ補償を施す 請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御システム。 【請求項5】 前記車両制御システムは、運転者により操作される操作部材の操作量に基づいて前記加速度に関する目標値を決定するものであり、 前記加速度に関する目標値の大きさ、あるいは前記加速度に関する目標値の変化速度の大きさの少なくともいずれか一方に基づいて、前記遅れ補償を施すか否かを決定する 請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御システム。」 (なお、下線は本件補正箇所を示すために、審判請求人が付したものである。) 2 本件補正の適否 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に追加された「前記応答性補償部は、前記トルク指令の出力から実際の前記出力トルクまでの応答時間と、前記変速指令の出力から実際の前記回転数までの応答時間とを一致させるように前記遅れ補償を施す」という事項(以下、「補正事項」という。)について以下に検討する。 審判請求書において補正の根拠とする本件出願の願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0017】には、「より具体的には、車両制御システム1-1は、エンジンの燃料消費率情報に基づいて、燃費が最小になるようにエンジントルク、自動変速機の変速比(変速段)を決定するエンジンおよび自動変速機の制御装置において、その決定した目標エンジントルクおよび目標変速比に対してそれぞれの応答を補償する応答補償手段(応答性補償器)を介して、エンジンおよび変速機へ要求する。それぞれの応答補償手段は、目標エンジントルクから実際のエンジントルクまでの応答時間と、目標変速比から実際の変速比までの応答時間とが同じになるように設定されている。これにより、動的に燃費最適ライン上でのエンジン運転が可能となり、頻繁に要求走行パワーが変化する場合においても燃費の悪化が抑制される。」と記載されており、当初明細書の「目標エンジントルクから実際のエンジントルクまでの応答時間」という記載を、補正事項の「トルク指令の出力から実際の前記出力トルクまでの応答時間」の根拠とすることは理解できる。一方、当初明細書の「目標変速比から実際の変速比までの応答時間」という記載は、補正事項の「前記変速指令の出力から」カウントされる「応答時間」であることは理解できるものの、「実際の前記回転数までの応答時間」の補正の根拠となり得るものでないことは明らかであるし、当初明細書のいわゆる変速機の応答遅れに係る応答時間の記載から、変速指令の出力から実際のエンジンの回転数までの応答時間であることを詳細な説明なしに直ちに導き出すことができないことも明らかである。 また、回答書において請求人は、当初明細書の段落【0017】の記載に加え、段落【0054】における「エンジン10の応答性に基づいて無段変速機30の変速指令に遅れあるいは進み補償が施され、無段変速機30の応答性に基づいてエンジン10のトルク指令に遅れあるいは進み補償が施されることで、エンジン10において要求エンジントルクが実現されるタイミングと無段変速機30において要求変速比が実現されるタイミングとにずれが生じることが抑制される。」の記載(以下、「記載ア」という。)及び同段落の「車両制御システム1-1により施される遅れ補償は、動作点が目標動作点Xまで変化する過程において、遅れ補償が施されない場合よりも、動作点が燃費最適線から離れることを抑制する」の記載(以下、「記載イ」という。)、並びに、段落【0055】における「車両制御システム1-1による遅れ補償が施されることで、目標エンジン回転数Ne1および目標エンジントルクTe1を示す目標動作点Xに向けて、エンジン10の動作点は直線状の軌跡を描く。」との記載(以下、「記載ウ」という。)から、補正事項は、当初明細書に記載された事項であるとしている。しかしながら、記載アにおける「要求変速比が実現されるタイミング」とは、段落【0017】の「目標変速比から実際の変速比までの応答時間」を意味する記載であるし、記載イ及びウについては、遅れ補償を施すことによる作用効果についての説明であって、補正事項における二つの「応答時間」を「一致させるように遅れ補償を施す」ことの一方の「応答時間」について、特に、「前記変速指令の出力から実際の前記回転数までの応答時間」の補正の根拠となり得る記載はないといえる。 更に、当初明細書の他の記載、並びに本件出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲及び図面の記載を参照しても、補正事項については記載も示唆もないといえる。 以上によれば、補正事項は、本件出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されているとは認められないし、当初明細書等の記載から自明であるとも認められない。 したがって、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成25年9月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年5月29日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(1)Aの【請求項1】に記載のとおりのものである。 2 引用文献 (1)引用文献の記載 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-337053号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。 なお、「I_(p)」等の下付き表記「_(p)」については「Ip」と、「Ip^(*)」等の上付き表記「^(*)」については「Ip*」と、それぞれ記載する。 ア 「【0004】 本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、エンジントルク指令値と実エンジントルクの偏差を小さくし、運転者の操作に応じた加速度を車両に与え、運転者の感じる違和感を改善することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明では、車両の運転状態から目標駆動トルクを演算する目標駆動トルク演算手段と、目標駆動トルクに基づきエンジントルク指令値を演算するエンジントルク演算手段と、実エンジントルクがエンジントルク指令値に追従するようにエンジンを制御するエンジントルク制御手段と、を備える車両駆動力制御装置において、変速比変化に伴う実エンジントルク変化の対応遅れによる駆動トルクの変動を推定し、エンジントルク指令値を補正するエンジントルク指令値補正手段を備える。 【0006】 また、車両の運転状態に基づいて自動変速機の目標変速比を演算する目標変速比演算手段と、この目標変速比に基づいて自動変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、を含む。 【発明の効果】 【0007】 本発明によると、エンジントルク指令値と実エンジントルクとの偏差を少なくすることができ、実エンジントルクの応答遅れによる駆動トルクの変動を少なくし、例えばダウンシフト時などに目標駆動トルクよりも駆動トルクの変動が大きくなることによって運転者が感じる違和感を改善することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0008】 本発明の実施形態の構成を図1の構成概略図を用いて説明する。 【0009】 本発明のパワートレインは、エンジン1と、ロックアップ機構付きトルクコンバータ2と、無段変速機(以下、CVT)3で構成する。 【0010】 エンジン1は、電子制御式スロットルアクチュエータ1aによりエンジン1への吸入空気を調整することで出力トルクを制御する。 【0011】 トルクコンバータ2は、ロックアップ機構(図示しない)を備え、このロックアップ機構は、エンジン出力の極低速域のみで開放され、開放状態で車両の停車からの発進を可能とし、更に振動をダンピングする。中高速域では、ロックアップ機構によってトルクコンバータ2の入出力軸間を締結し、その締結力を調整することでエンジン1の出力を一部または完全にCVT3へ伝達する。 【0012】 CVT3は、トルクコンバータ2と連結するプライマリプーリ4と、車両駆動側と連結するセカンダリプーリ5と、プライマリプーリ4とセカンダリプーリ5間に設け、プライマリプーリ4とセカンダリプーリ5の回転を伝達するベルト6を備え、プライマリプーリ4とセカンダリプーリ5の有効半径を油圧機構によって調節し、変速比を制御する。なお、CVT3はベルト式の無段変速機に限らず、トロイダル型無段変速機を使用してもよい。 【0013】 車両を制御するコントローラは、車両の駆動トルクを制御する駆動トルク制御コントローラ10と、エンジントルクを制御するエンジントルクコントローラ11と、CVT3の変速比とクラッチを制御するCVTコントローラ12を備える。これらのコントローラは、CPU、ROM、RAM、デジタルポート、A/Dポート、各種タイマ機能を内蔵するワンチップマイコン(あるいは同機能を実現する機能チップ)と、高速通信用回路、各アクチュエータ駆動用回路などによって構成される。 【0014】 また、コントローラで制御を行うための車両の状態を検出するセンサとして、ドライバーの操作するアクセル開度を計測するアクセルセンサ13と、車輪の回転速度を検出する車輪速センサ14と、エンジンクランク軸(図示しない)に取り付けられ、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ(クランク角センサ)15と、CVT3のプライマリプーリ軸に取り付けられ、プライマリプーリの回転速度を検出するプライマリ回転速度センサ16と、CVT3のセカンダリプーリ軸に取り付けられ、セカンダリプーリの回転速度を検出するセカンダリ回転速度センサ17と、エンジン1の運転点を燃費重視あるいは加速重視にするかを切り換えるエンジン運転点拘束線切換SW18と、を備える。なお、車輪速センサ14、エンジン回転速度センサ15、プライマリ回転速度センサ16、セカンダリ回転速度センサ17は電磁ピックアップなどを使用する。なお、エンジン運転点拘束線切換SW18は、運転者によって操作され、例えばシフトレバー近辺に設けられる。 【0015】 駆動トルク制御コントローラ10のエンジントルク制御系について、図2のブロック図を用いて説明する。 【0016】 駆動トルク制御コントローラ10のエンジントルク制御系は、車両の目標駆動トルクを演算する目標駆動トルク演算部(目標駆動トルク演算手段)20と、目標駆動トルクとCVT3の実変速比からエンジントルク指令値を演算するエンジントルク指令値演算部(エンジントルク演算手段)21と、目標駆動トルクとエンジントルク指令値と実変速比からエンジントルク指令値を補正した最終エンジントルク指令値を演算するエンジントルク指令値補正部(エンジン指令値補正手段)22と、エンジン1のトルクを制御するエンジントルク制御部(エンジントルク制御手段)23を備える。 【0017】 次に駆動トルク制御コントローラ10の処理内容を図3のフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートは所定時間毎、例えば10msec毎に行われる。 【0018】 ステップS1では、ドライバーの踏み込み量からアクセルセンサ13に設けられたA/Dポートによってアクセル信号を読み取り、アクセル開度Apoを計測する。 【0019】 ステップS2では、車輪速センサ14に設けられたマイコンのタイマー機能の一つであるインプットキャプチャ機能を用いて計測された車輪速パルス幅(n周期分)の逆数から駆動輪の車輪速Vwを演算する。 【0020】 ステップS3では、エンジン運転点拘束線切換SW18のON/OFF状態をマイコンのディジタルI/Oポートを用いて判定する。 【0021】 ステップS4では、プライマリ速度センサ16からプライマリ回転速度ωp、セカンダリ速度センサ17からセカンダリ回転速度ωsを計測し、CVTコントローラ12によって演算した変速比Ipを、またクランク角センサ15から計測したエンジン回転速度ωeを高速通信受信バッファから読み取る。 【0022】 ステップS5では、目標駆動トルク演算部20によって、アクセル開度Apoと車輪速Vwに基づき目標駆動トルクTd*を算出する。なお、目標駆動トルクTd*は、図4に示すマップから読み出す。図4はアクセル開度Apoと車輪速Vwに対する目標駆動トルクTd*を示すマップであり、アクセル開度Apoが大きくなると目標駆動トルクTd*は大きくなり、また車輪速Vwが遅くなると目標駆動トルクTd*は小さくなる。 【0023】 また、ここでは目標駆動トルクTd*に対し、エンジンの伝達特性Ge’(s)と予め設定された或る所定の伝達特性Gt(s)から構成される式(1)のフィルタ処理により位相補償(第1の位相補償)を施しても良い。これによって、より運転者の違和感を少なくすることができる。なお、実際の演算ではタスティン近似などで離散化して得られた漸化式を用いて演算する(ステップ5が目標駆動トルク用位相補償手段を構成する)。 【0024】 【数1】 式(1)の位相補償を施すことにより、実駆動トルクTdを設計時に予め設定した伝達特性とすることができる。なお、ここでの位相補償は、式(1)に限られず、或る所定の伝達特性Gt(s)を異なる伝達特性とすることも可能である。 【0025】 また、路面勾配といった外乱が生じた場合にも目標とする実駆動トルクが得られるように目標駆動トルク(または加速度)に対しフィードバック制御を施しても良い。(ステップS5が目標エンジン駆動トルク演算手段を構成する)。 【0026】 ステップS6では、目標駆動トルクTd*、駆動輪角速度ωw(ωw=車輪速Vw/タイヤ半径)およびエンジン運転点拘束線切換SW18の状態から予めメモリに記憶された図5に示すマップより目標プライマリ回転速度ωp*を読み出す。図5は、等出力線(駆動トルク×駆動輪角速度)とエンジン運転点拘束線とプライマリ回転速度ωp*とエンジントルクの関係を示す図であり、等出力線とエンジン運転点拘束線の交点から目標プライマリ回転速度ωp*を読み出す。また、エンジントルクが正の場合、すなわち等速度走行、または加速走行の場合には、エンジン運転点拘束線は、燃費を重視した最適燃費運転線と、エンジントルクに余裕を持たせ加速性能を重視した加速性重視線があり、運転者がエンジン運転点拘束線切換SW18を操作することによりどちらかのエンジン運転点拘束線に選択される。また、エンジントルクが負値の場合は、エンジンブレーキ特性線を示す。なお、図5ではエンジン運転点拘束線のうち最適燃費運転線を実線で示し、加速性重視線を破線で示し、等出力線を二点鎖線、等燃費消費線を一点鎖線で示す。一点鎖線で囲まれた領域はそれぞれ等燃料消費域である。 【0027】 ステップS7では、目標プライマリ回転速度ωp*から、 Ip*=ωp*/ωs 式(2) に基づき目標変速比である変速比指令値Ip*を演算する(ステップS7が目標変速比演算手段を構成する)。 【0028】 ステップS8では、エンジントルク指令値演算部21によって目標駆動トルクTd*および無段変速機の実変速比Ipから、 Te*=Td*/(Ip×If) 式(3) に基づいて目標駆動トルクに対するエンジン1のトルク指令値である基本エンジントルク指令値Te*を演算する。ここで、If:最終減速比である(ステップS8がエンジントルク演算手段を構成する)。 【0029】 ステップS9では、エンジントルク指令値補正部22によって目標駆動トルクTd*または基本エンジントルク指令値Te*と実変速比Ipから、変速比変化に伴うエンジントルク指令値変化に対する実エンジントルクの遅れ(偏差)を推定し、その遅れによる実駆動トルク変動分を推定し、この変動分を打ち消すための最終エンジントルク補正値Te_ERR’を演算する。このエンジントルク指令値補正部22の詳細については後述する。 【0030】 ステップS10では、ステップS8で演算した基本エンジントルク指令値Te*と、ステップS9で演算した最終エンジントルク補正値Te_ERR’を加算し、最終エンジントルク指令値Te*’を演算する。これによってトルク指令値変化に対する実エンジントルクの遅れを補正するので、実駆動トルクが目標駆動トルクから大きく外れることを防止することができる(ステップS9、S10がエンジントルク指令値補正手段を構成し、ステップS10が最終エンジントルク指令値演算手段を構成する)。 【0031】 ステップS11では、最終エンジントルク指令値Te*’をエンジントルクコントローラ11へ、変速比指令値Ip*をCVTコントローラ12へそれぞれ高速通信線を介して出力し、エンジントルク制御部23によってエンジン1のエンジントルクをエンジントルク指令値Te*’、CVT3のプライマリプーリ4とセカンダリプーリ5の変速比を変速比指令値Ip*に制御する(ステップS11がエンジントルク制御手段、変速比制御手段を構成する)。 【0032】 以上の制御により、例えば運転者によるエンジン運転点拘束線切換SW18の操作によるエンジン運転点拘束線の変化、またはアクセル開度の増大によるダウンシフト時に実駆動トルクが目標駆動トルクから大きく外れる(目標駆動トルクよりも実駆動トルクが大きくなり加速側へ外れる)ことを防ぐことができ、運転者などに与える違和感を少なくすることができる。 【0033】 次にステップS9で最終エンジントルク補正値Te_ERR’を演算するエンジントルク指令値補正部22の詳細について図6、図7、図8のブロック図を用いて説明する。なお、図7はステップ5においてフィルタ処理を施さない場合のブロック図であり、図8はステップ5においてフィルタ処理を施した場合のブロック図である。エンジントルク指令値補正部22は、目標駆動トルクから駆動トルク規範値を演算する駆動トルク規範値演算部30(駆動トルク規範値演算手段)と、目標駆動トルクと実変速比から駆動トルク推定値を演算する駆動トルク推定値演算部31(駆動トルク推定値演算手段)と、駆動トルク規範値と駆動トルク推定値からエンジントルク補正値を演算するエンジントルク補正値演算部32(エンジントルク補正値演算手段)と、エンジントルク指令値とエンジントルク補正値から最終エンジントルク指令値を演算する最終エンジントルク指令値演算部33(最終エンジントルク指令値演算手段)を備える。 【0034】 駆動トルク規範値演算部30は、遅れ処理部40によってステップS5で演算した目標駆動トルクTd*を入力とし、式(4)または式(5)に示す伝達特性G1(s)の遅れ(一時遅れ+むだ時間)処理を施し、変速比変化によるエンジントルク指令値変化分に遅れが生じないと仮定した場合の駆動トルク規範値Td_REFを演算する。実際にはタスティン近似等で離散化して得られた漸化式を用いて演算する。なお式(4)はステップ5において目標駆動トルクに式(1)に示す位相補償を施していない場合の伝達特性であり、式(5)はステップ5において目標駆動トルクに式(1)に示す位相補償を施した場合の伝達特性である。 【0035】 【数2】 【0036】 【数3】 ただし、τe:エンジンの一次遅れ時定数、Le:むだ時間、であり、これらの値は図9、10に基づいて設定される。図9はエンジン1の回転速度とエンジン1の一次遅れ時定数の関係を示した図であり、エンジン回転速度が速くなると、エンジンの一次遅れ時定数は減少する。また、図10はエンジン1の回転速度とむだ時間の関係を示した図であり、エンジン回転速度が速くなるとむだ時間は減少する。ステップS5において目標駆動トルクに式(1)に示す位相補償を行った場合には式(5)の伝達特性を施すことで、エンジントルク規範値における駆動トルクの遅れ処理を精度良く行うことができる。 【0037】 駆動トルク推定値演算部31では、まず遅れ処理部41によってステップS8において演算したエンジントルク指令値Te*’に式(4)に示すエンジン伝達特性相当の遅れ処理を施しエンジントルク指令値変化分に遅れが生じた場合のエンジントルク推定値Te_ESTを演算する。また、ステップS5においてフィードバック制御が行われている場合には、フィードバックによる補正が施される以前の目標駆動トルクを除算したエンジントルク指令値Te*に式(4)のエンジン伝達特性相当の遅れ処理を施し、エンジントルク推定値Te_ESTを演算しても良い。これにより、フィードバックの安定性を損なうことなく、エンジントルクの補正を行うことができる。 【0038】 そして、エンジントルク推定値Te_ESTと実変速比Ipならびに最終減速比Ifから、積算部42によって、 Td_EST=Te_EST×Ip×If 式(6) により、エンジントルク指令値変化分に遅れが生じた場合の駆動トルク推定値Td_ESTを演算する。 【0039】 エンジントルク補正値演算部32では、まず駆動トルク規範値Td_REFと駆動トルク推定値Td_ESTから、加算部43によって、 Td_ERR=Td_REF-Td_EST 式(7) により、エンジントルク指令値変化分に遅れが生じたことによって生じる駆動トルク変動Td_ERRを演算する。 【0040】 次に、演算した駆動トルク変動Td_ERRを実変速比Ipならびに最終減速比Ifから、除算部44によって Te_ERR=Td_ERR/(Ip×If) 式(8) によりエンジントルク補正値Te_ERRを演算する。 【0041】 そして、演算したエンジントルク補正値Te_ERRに、位相補償部45において次式(9)に示す位相補償フィルタ(第2の位相補償)を施し、最終エンジントルク補正値Te_ERR’を演算する。実際の演算にはタスティン近似などで離散化して得られた漸化式を用いて算出する。 【0042】 【数4】 ただし、τ1、τ2:位相補償定数であり、ここではτ2を上述したエンジン一次遅れ時定数(τe)とする。τ2をエンジン一次遅れ時定数とすることによりエンジントルクの遅れと位相補償を同期することでエンジンの応答特性が変化した場合でも安定した位相補償を得ることができる。 【0043】 最終エンジントルク指令値演算部33は、上記ステップS10で説明したように基本エンジントルク指令値Te*と最終エンジントルク補正値Te_ERR’から最終エンジントルク指令値Te*’を演算する。 【0044】 以上により、エンジントルク指令値補正部22によって最終エンジントルク指令値Te*’を演算する。 【0045】 以上の制御によって、エンジントルク指令値に実エンジントルクの応答遅れ処理を施すことで、実駆動トルクの変動を応答遅れが無い場合の実駆動トルクに近づけることが可能な最終エンジントルク補正値を演算することができる。」(段落【0009】ないし【0045】) イ 「【0046】 次に本発明を用いない場合と、用いた場合の実駆動トルク変化を図11、図12に示すタイムチャートを用いて説明する。図11は本発明を用いずにエンジン運転点拘束線切換SW18を燃費性重視線から加速性重視線へ、操作したときの実駆動トルクなどの変化を示す図であり、図12は本発明を用いた場合の実駆動トルクなどの変化を示す図である。 【0047】 まず本は発明を用いない場合について説明する。時間t1以前では、アクセル開度Apo1、変速比Ip1、エンジントルクTe1、実駆動トルクTd1であり、アクセル開度一定、かつ駆動トルクが走行抵抗と釣り合っている状態、すなわち車速一定の状態である。 【0048】 そして時間t1において、運転者によりエンジン運転点拘束線切換SW18が切り換えられ、燃費性重視線から加速性重視線へ変更される。これにより、変速比指令値がIp1からIp2へ変更、すなわちダウンシフト方向へ変更される。なお、変速比の指令値が変化した場合に、指令値に対する機械的な遅れが生じるがここではその時間をt2とする。 【0049】 時間t2では変速比指令に基づいてエンジントルク指令値が出され、ダウンシフトに伴いエンジントルク指令値は減少する。しかし実エンジントルク(図中実値)は例えば燃料の輸送遅れなどによってエンジントルク指令値に対して遅れて反応し、エンジントルク指令値と実エンジントルクとの間に偏差が生じる。実駆動トルクはエンジン運転点拘束切換SW18が変更されても、偏差がない場合にはアクセル開度は一定なので、駆動トルク規範値(図中目標値)は変化せずに一定となる。しかし、偏差がある場合には、変速比の実変化とエンジントルクの実変化にずれが生じるために実駆動トルク(図中実値)は増加する方向へ変化する。これにより実駆動トルクは、実エンジントルクがエンジントルク指令値に対する反応遅れに伴い減少し始める時間t3まで増加し、その後実エンジントルクの減少と共に減少する。このときアクセル開度が一定にも関わらず、実駆動トルクが大きく増加するため、運転者などの違和感を感じさせることがある。 【0050】 時間t4では、実変速比が変速比指令値となり、時間t5では、実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクは駆動トルク規範値と一致する。 【0051】 本発明を用いた場合には、エンジントルク指令値に対する実エンジントルクの応答遅れによる変動分を推定し補正を施す。時間t2までは、本発明を用いない場合と同じである。 【0052】 時間t2から補正されたエンジントルク指令値(ステップS9、S10)が減少する。ここではエンジントルク指令値が補正されることで補正前のエンジントルク指令値と比較すると補正後のエンジントルク指令値は、その変化率(減少率)をt3’まで大きくし、その後エンジントルク指令値の変化率(増加率)を小さくする。これにより、若干の偏差が生じるものの実エンジントルクを変速比変化に応じたエンジントルク指令値、すなわち実駆動トルクに変動を生じさせないエンジントルク変化に近づけることができる。これにより、実駆動トルクが駆動トルク規範値に近くなり、運転者などが感じる実駆動トルクの変化による違和感を少なくすることができる。なお、補正によるエンジントルク指令値は、図12に示すような変化以外でもよく、エンジントルク指令値に補正を施すことで実駆動トルクが駆動トルク規範値に近づけることができる。 【0053】 時間t4’では、実変速比が変速指令値となり、実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクが駆動トルク規範値と一致する。なお、実変速比と実エンジントルクは同時間において変速比指令値またはエンジントルク指令値を一致しない場合もあるが、この場合でも図11に示す時間t4から時間t5までと比較すると一致するまでの時間を短縮することができる。」(段落【0046】ないし【0053】) ウ 「【0054】 さらにアクセル開度を開いた場合における本発明を用いない場合と、用いた場合の実駆動トルク変化を図13、図14に示すタイムチャートを用いて説明する。図13は本発明を用いずにアクセル開度を運転者が増大させた場合の実駆動トルクなどの変化を示す図であり、図14は本発明を用いた場合の実駆動トルクなどの変化を示す図である。 【0055】 まず本発明を用いない場合のタイムチャートについて説明する。時間t1以前では、アクセル開度Apo3、変速比Ip3、エンジントルクTe3、実駆動トルクTd3の状態、アクセル開度一定、かつ実駆動トルクが走行抵抗と釣り合っている状態、すなわち車速一定の状態で走行している。 【0056】 そして時間t1において、運転者によってアクセルが踏み込まれ、アクセル開度がApo3からApo4に変化する。これによって変速比の指令値がIp3からIp4へ、エンジントルクの指令値がTe3からTe4へ、実駆動トルクの目標値がTd3からTd4へ変化する。なお、エンジントルク指令値が変化した場合に、指令値に対する機械的な遅れが生じるがここではエンジントルクの変化開始をt2とする。 【0057】 時間t2ではアクセル開度の増加によって、まず実エンジントルクが増加し始める。また、エンジントルクの増加に伴って実駆動トルクが増加する。 【0058】 時間t3では変速比変化に基づいてエンジントルクが減少するようにエンジントルク指令値が出され、加速のためのダウンシフトに伴いエンジントルク指令値Te4からTe5へ減少する。しかし実エンジントルクは例えばスロットルの遅れなどによってエンジントルク指令値に対して遅れて反応し、エンジントルク指令値と実エンジントルクとの間に偏差が生じる。この偏差により実駆動トルクは偏差がない場合の駆動トルク規範値よりも増加する方向へ変化する。 【0059】 時間t4では偏差によって駆動トルク規範値よりも大きくなった実駆動トルクがオーバーシュートを起こし、運転者のアクセル踏み込み量に応じた駆動トルク規範値よりも大きくなる。そのため運転者が要求する加速度よりも大きな加速度となり、運転者に違和感を感じさせる。駆動トルクは実エンジントルクと実変速比の積が減少する時間t5まで増加する。 【0060】 時間t5以降では実エンジントルクが減少し、それに伴い実駆動トルクも減少し、時間t6において実変速比が変速比指令値となり、時間t7において実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクも駆動トルク規範値と一致する。 【0061】 本発明を用いた場合には、エンジントルク指令値に対する実エンジントルクの遅れによる変動分を推定し補正を施す。時間t2までは、本発明を用いない場合と同じである。また、時間t2ではアクセル開度の増加によって、まず実エンジントルクが増加し始め、エンジントルクの増加に伴って実駆動トルクが増加する。 【0062】 時間t3’からダウンシフトに伴い補正されたエンジントルク指令値(ステップS9、S10)が減少する。ここではエンジントルク指令値が補正されることで、補正前のエンジントルク指令値と比較すると補正後のエンジントルク指令値は、その変化率(減少率)が時間t4’まで大きくし、その後エンジントルク指令値の変化率を小さくする。これによって補正されたエンジントルク指令値に応じて実エンジントルクが変化するので、若干の偏差が生じるが、偏差を小さくすることができ、実駆動トルクを駆動トルク規範値に近づけることができる。これにより、実駆動トルクが駆動トルク規範値に近くなり、すなわち実駆動トルクの変動が少なくなり、運転者などが感じる実駆動トルクの変化による違和感を少なくすることができる。なお、補正によるエンジントルク指令値は、図14に示すような変化以外でもよく、エンジントルク指令値に補正を施すことで実駆動トルクが駆動トルク規範値に近づける。 【0063】 時間t5’では、実駆動トルクが駆動トルク規範値よりも大きくなり、オーバーシュートを起こすが、本発明を用いない場合と比較するとその量は少なく、運転者が感じる違和感を少なくすることができる。 【0064】 時間t6’では、実変速比が変速指令値となり、実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクが駆動トルク規範値と一致する。なお、実変速比と実エンジントルクは同時間において変速比指令値またはエンジントルク指令値を一致しない場合もあるが、この場合でも図13に示す時間t6から時間t7までと比較すると一致するまでの時間を短縮することができる。」(段落【0054】ないし【0064】) (2)引用文献の記載事項 上記(1)アないしウの記載並びに図1ないし図14の記載から、次のことが分かる。 a 上記(1)アにおける【課題を解決するための手段】における車両の自動変速機に係る記載(段落【0004】及び【0005】)、及び、段落【0022】ないし【0029】の記載並びに最適燃費運転線の記載された図5の記載から、車両がエンジンの出力する動力を駆動輪に伝達する自動変速機を備えるものであること、エンジントルクとエンジン回転数との関係を示す予め定められた最適燃費運転線をエンジン運転点拘束線として制御を行うこと、及び、最適燃費運転線と車両の加速度に関する目標値とに基づいてエンジンの目標駆動トルクおよび自動変速機の目標変速比を決定することが分かる。 b 上記aに加え、上記(1)アにおけるエンジン伝達特性に基づく遅れ処理の記載、上記(1)ウの特に「【0056】そして時間t1において、運転者によってアクセルが踏み込まれ、アクセル開度がApo3からApo4に変化する。これによって変速比の指令値がIp3からIp4へ、エンジントルクの指令値がTe3からTe4へ、実駆動トルクの目標値がTd3からTd4へ変化する。なお、エンジントルク指令値が変化した場合に、指令値に対する機械的な遅れが生じるがここではエンジントルクの変化開始をt2とする。」、「【0058】時間t3では変速比変化に基づいてエンジントルクが減少するようにエンジントルク指令値が出され、加速のためのダウンシフトに伴いエンジントルク指令値Te4からTe5へ減少する。しかし実エンジントルクは例えばスロットルの遅れなどによってエンジントルク指令値に対して遅れて反応し、エンジントルク指令値と実エンジントルクとの間に偏差が生じる。」、「【0061】本発明を用いた場合には、エンジントルク指令値に対する実エンジントルクの遅れによる変動分を推定し補正を施す。」及び「【0064】時間t6’では、実変速比が変速指令値となり、実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクが駆動トルク規範値と一致する。なお、実変速比と実エンジントルクは同時間において変速比指令値またはエンジントルク指令値を一致しない場合もあるが、この場合でも図13に示す時間t6から時間t7までと比較すると一致するまでの時間を短縮することができる。」の記載、並びに、上記(1)イの特に「【0048】・・・変速比指令値がIp1からIp2へ変更、すなわちダウンシフト方向へ変更される。なお、なお、変速比の指令値が変化した場合に、指令値に対する機械的な遅れが生じるがここではその時間をt2とする。」、「【0049】時間t2では変速比指令に基づいてエンジントルク指令値が出され、ダウンシフトに伴いエンジントルク指令値は減少する。しかし実エンジントルク(図中実値)は例えば燃料の輸送遅れなどによってエンジントルク指令値に対して遅れて反応し、エンジントルク指令値と実エンジントルクとの間に偏差が生じる。」及び「【0053】時間t4’では、実変速比が変速指令値となり、実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクが駆動トルク規範値と一致する。なお、実変速比と実エンジントルクは同時間において変速比指令値またはエンジントルク指令値を一致しない場合もあるが、この場合でも図11に示す時間t4から時間t5までと比較すると一致するまでの時間を短縮することができる。」の記載を踏まえ、図13(補正しない場合)及び図14(補正した場合)を参照すると、次のことが分かる。 b-1 図13及び図14における変速比について、時間t1において変速比指令値がIp3からIp4へ変化した際に、変速比指令値の変化に遅れを有して実値(実変速比)が、図13においては時間t6に指令値になり、図14においては時間t6’に指令値となることが分かる。 b-2 図13において、実変速比が変速指令値となる時間t6と実エンジントルクがエンジントルク指令値となる時間t7とが、異なる時間となることが分かる。 b-3 上記(1)ウ「【0064】時間t6’では、実変速比が変速指令値となり、実エンジントルクがエンジントルク指令値となり、実駆動トルクが駆動トルク規範値と一致する。」と記載されているとおり、補正を行った際には、図14において、実変速比が変速指令値と一致する時間と実エンジントルクがエンジントルク指令値と一致する時間とが、同じ時間t6’となることが分かる。 (3)引用文献に記載された発明 上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「エンジンと、エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機とを備え、 エンジンのエンジントルクとエンジン回転数との関係を示す予め定められた最適燃費運転線と、車両の加速度に関する目標値とに基づいてエンジンの目標駆動トルクおよび自動変速機の目標変速比を決定し、かつエンジンに目標駆動トルクを実現させる指令であるエンジントルク指令に、補正を施して出力することが可能であり、 補正により、変速比指令値に遅れを有して実変速比が変速指令値に一致する時間と、エンジントルク指令値に遅れを有して実エンジントルクがエンジントルク指令値に一致する時間とが同じ時間となる車両制御装置。」 3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン」は、その機能又は技術的意義からみて、本願発明におけるに「エンジン」に相当し、以下同様に、「車両」は「車両」に、「自動変速機」は「自動変速機」に、「エンジントルク」は「出力トルク」に、「エンジン回転数」は「回転数」に、「最適燃費運転線」は「所定動作線」に、「目標駆動トルク」は「目標トルク」に、「目標変速比」は「目標変速比」に、「エンジントルク指令」は「トルク指令」に、「車両制御装置」は「車両制御システム」にそれぞれ相当する。 そして、引用発明の「エンジンに目標駆動トルクを実現させる指令であるエンジントルク指令に、補正を施して出力することが可能であり」は、本願発明の「前記エンジンに前記目標トルクを実現させる指令であるトルク指令、あるいは前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令の少なくともいずれか一方に遅れ補償を施して出力することが可能であり」に、「エンジンに目標トルクを実現させる指令であるトルク指令に、補正を施して出力することが可能であり」という限りにおいて相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「エンジンと、エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機とを備え、 エンジンの出力トルクと回転数との関係を示す予め定められた所定動作線と、車両の加速度に関する目標値とに基づいてエンジンの目標トルクおよび自動変速機の目標変速比を決定し、かつエンジンに目標トルクを実現させる指令であるトルク指令に、補正を施して出力することが可能である車両制御システム。」の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点) エンジンに目標トルクを実現させる指令であるトルク指令に、補正を施して出力することが可能であることに関して、 本願発明においては、「前記エンジンに前記目標トルクを実現させる指令であるトルク指令、あるいは前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令の少なくともいずれか一方に遅れ補償を施して出力することが可能であり、 前記トルク指令に対する前記遅れ補償は、前記自動変速機の前記変速指令に対する応答遅れに基づき、 前記遅れ補償は、前記出力トルクおよび前記回転数を示す動作点が前記目標トルクおよび前記目標変速比に対応する目標動作点まで変化する過程において、前記遅れ補償が施されない場合よりも、前記動作点が前記所定動作線から離れることを抑制するものである」のに対し、 引用発明においては、「エンジンに目標駆動トルクを実現させる指令であるエンジントルク指令に、補正を施して出力することが可能であり、 補正により、変速比指令値に遅れを有して実変速比が変速指令値に一致する時間と、エンジントルク指令値に遅れを有して実エンジントルクがエンジントルク指令値に一致する時間とが同じ時間となる」点(以下、「相違点」という。)。 4 判断 相違点に係る本願発明の発明特定事項に関して、明細書には、次の事項が記載されている。 ・「【0016】 本実施形態の車両制御システム1-1は、燃費最適線上で常にエンジンを動作させるように、エンジントルクと変速機の変速比を制御し、燃費向上を図る。エンジンの応答性および変速機の応答性を考慮して、動的に燃費最適線上でエンジンが動作するよう、エンジンおよび変速機変速比への指令に遅れあるいは進み補償をすることにより、動的燃費の向上を可能とする。 【0017】 より具体的には、車両制御システム1-1は、エンジンの燃料消費率情報に基づいて、燃費が最小になるようにエンジントルク、自動変速機の変速比(変速段)を決定するエンジンおよび自動変速機の制御装置において、その決定した目標エンジントルクおよび目標変速比に対してそれぞれの応答を補償する応答補償手段(応答性補償器)を介して、エンジンおよび変速機へ要求する。それぞれの応答補償手段は、目標エンジントルクから実際のエンジントルクまでの応答時間と、目標変速比から実際の変速比までの応答時間とが同じになるように設定されている。これにより、動的に燃費最適ライン上でのエンジン運転が可能となり、頻繁に要求走行パワーが変化する場合においても燃費の悪化が抑制される。」(段落【0016】及び【0017】) ・「【0054】 このように、エンジン10の応答性に基づいて無段変速機30の変速指令に遅れあるいは進み補償が施され、無段変速機30の応答性に基づいてエンジン10のトルク指令に遅れあるいは進み補償が施されることで、エンジン10において要求エンジントルクが実現されるタイミングと無段変速機30において要求変速比が実現されるタイミングとにずれが生じることが抑制される。エンジンの応答無駄時間T_(d)__(eng)や無段変速機の応答無駄時間T_(d)__(cvt)に基づく遅れ補償が施されることで、エンジン出力トルクTeが先行して変化したり、エンジン回転数Neが先行して変化したりしてエンジン10の動作点が燃費最適線から離れた動作点となることが抑制される。また、エンジンの応答時定数T_(eng)や無段変速機の応答時定数T_(CVT)に基づく遅れ補償が施されることによっても、動作点が燃費最適線から離れた動作点となることが抑制される。すなわち、車両制御システム1-1により施される遅れ補償は、動作点が目標動作点Xまで変化する過程において、遅れ補償が施されない場合よりも、動作点が燃費最適線から離れることを抑制するものである。」(段落【0054】) これらの記載によれば、本願発明は「所定動作線(燃費最適線)」上でエンジンを動作させるものであり、相違点に係る本願発明の発明特定事項における「前記遅れ補償は、前記出力トルクおよび前記回転数を示す動作点が前記目標トルクおよび前記目標変速比に対応する目標動作点まで変化する過程において、前記遅れ補償が施されない場合よりも、前記動作点が前記所定動作線から離れることを抑制するものである」とは、上記記載の特に「応答補償手段は、目標エンジントルクから実際のエンジントルクまでの応答時間と、目標変速比から実際の変速比までの応答時間とが同じになるように設定されている。」及び「トルク指令に遅れあるいは進み補償が施されることで、エンジン10において要求エンジントルクが実現されるタイミングと無段変速機30において要求変速比が実現されるタイミングとにずれが生じることが抑制される。」からみて、本願発明において、「遅れ補償」が施されない場合は、エンジントルク及び変速比の応答時間が異なり、並びに、要求エンジントルク及び要求変速比の実現されるタイミングがずれている状態であるのに対し、「遅れ補償」が施された場合には、エンジントルク及び変速比の応答時間が同じになり、並びに、要求エンジントルク及び要求変速比の実現されるタイミングのずれが抑制されるという制御(以下、「遅れ補償制御」という。)が行われ、その遅れ補償制御の結果奏される作用効果として、「出力トルクおよび回転数を示す動作点が目標トルクおよび目標変速比に対応する目標動作点まで変化する過程において、遅れ補償が施されない場合よりも、動作点が所定動作線から離れることを抑制する」というものであると解される。 これに対し、引用発明は、上記2(2)aで述べたとおり、「最適燃費運転線」をエンジン運転点の拘束線として制御、すなわち、「最適燃費運転線」上でエンジンを運転すべく制御するものであるし、上記2(2)b及びb-1ないしb-3で述べたとおり、引用文献には、エンジン及び自動変速機において、トルク指令及び変速指令に対して、いわゆる応答遅れが存在することについて記載されている。そして、エンジン及び自動変速機を含め、制御機械に応答遅れが存在することは技術常識であるし、車両制御の技術分野において、応答遅れに対応した制御とすることは、当業者が通常採用し得る程度の慣用技術であるといえる。そうすると、引用発明において、「最適燃費運転線」上でエンジンを運転すべく制御する際に、エンジン及び自動変速機に応答遅れがあるとしても、「最適燃費運転線」から離れないように制御を構成することは、当業者の当然の発意であるといえる。 更に、引用発明の「補正により、変速比指令値に遅れを有して実変速比が変速指令値に一致する時間と、エンジントルク指令値に遅れを有して実エンジントルクがエンジントルク指令値に一致する時間とが同じ時間となる」ことについては、上記2(2)b及びb-1ないしb-3でも述べたように、「補正」を施さない場合において、実変速比が変速指令値に一致する時間と実エンジントルクがエンジントルク指令値に一致する時間とが異なるものを、「エンジントルク指令」に「補正」を施すことで、「変速比指令値に遅れを有して実変速比が変速指令値に一致する時間と、エンジントルク指令値に遅れを有して実エンジントルクがエンジントルク指令値に一致する時間とが同じ時間となる」ものである。してみると、引用発明の補正制御が、自動変速機の変速指令に対する応答遅れに基づくものであることは明らかであるし、更に、引用発明は、本願発明の実施例に係る上記遅れ補償制御と同等の制御を行うものであるから、本願発明と同程度の作用効果が期待できるものであることは明らかである。すなわち、引用発明が、出力トルク及びエンジン回転数を示すエンジン運転点が「目標駆動トルク」及び「目標変速比」に対応する目標エンジン運転点まで変化する過程において、「補正」が施されない場合よりも、エンジン運転点が「最適燃費運転線」から離れることを抑制することができるものであることは、当業者が予測可能な範囲の作用効果であるといえる。 なお、相違点に係る本願発明の発明特定事項における「前記エンジンに前記目標トルクを実現させる指令であるトルク指令、あるいは前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令の少なくともいずれか一方に遅れ補償を施して出力する」については、「前記エンジンに前記目標トルクを実現させる指令であるトルク指令」及び「前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令」における択一的な記載であり、「トルク指令」の「遅れ補償」については、上記述べたとおりである。 一方、「前記自動変速機に前記目標変速比を実現させる指令である変速指令」に「遅れ補償を施して出力する」ことについては、上記2(2)b及びb-1ないしb-3で述べたとおり、引用文献には、エンジン及び自動変速機において、トルク指令及び変速指令に対して、いわゆる応答遅れが存在することについて記載されている。また、エンジン及び自動変速機を含め、制御機械に応答遅れが存在することは技術常識であるし、車両制御の技術分野において応答遅れに対応した制御とすることは、当業者が通常採用し得る程度の慣用技術であるから、引用発明において、自動変速機の変速指令に遅れ補償を施すべく制御を構成することに、当業者の格別の創意は要しないといえる。 そして、本願発明を全体として検討しても、その作用効果は、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、引用発明に基づき、相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得ることである。 3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-05-27 |
結審通知日 | 2014-06-03 |
審決日 | 2014-06-16 |
出願番号 | 特願2010-73731(P2010-73731) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60K)
P 1 8・ 561- Z (B60K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 寺川 ゆりか、小川 恭司 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
藤原 直欣 槙原 進 |
発明の名称 | 車両制御システム |
代理人 | 伊藤 剣太 |
代理人 | 酒井 宏明 |