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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1290452
審判番号 不服2012-20907  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-24 
確定日 2014-08-07 
事件の表示 特願2006- 39002「慣性力センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月30日出願公開、特開2007-218717〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年2月16日の出願であって、明細書、特許請求の範囲又は図面について、平成21年2月13日付けで補正がなされ、平成23年7月6日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成23年10月6日付けで特許請求の範囲についての補正がなされ(以下、「補正2」という。)たが、補正2は、平成24年7月19日付けで補正却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ(送達:同年同月24日)、これに対し、同年10月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、特許請求の範囲についての補正がなされた(以下、「本件補正」という。)ものである。

2.補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、請求項1について、次のように補正するものである。
(補正前、すなわち補正1による補正後)
「振動子と、前記振動子へ電圧および電流を付加して前記振動子を振動させる駆動回路と、前記振動子の振動状態をモニタするモニタ回路と、慣性力に起因した前記振動子の歪を感知する感知回路と、前記モニタ回路から出力された信号に基づいて前記駆動回路の電流を制御することにより前記振動子へ付加する電流を制御する電圧電流制御手段と、を備え、前記電圧電流制御手段は、定常時に前記振動子へ付加する電流よりも起動時に前記振動子へ付加する電流を大きくする慣性力センサ。」

(補正後)
「振動子と、前記振動子へ電圧および電流を付加して前記振動子を振動させる駆動回路と、前記振動子の振動状態をモニタするモニタ回路と、慣性力に起因した前記振動子の歪を感知する感知回路と、前記モニタ回路から出力された信号に基づいて前記駆動回路の電流を制御することにより前記振動子へ付加する電流を制御する電圧電流制御手段と、を備え、前記駆動回路は電圧を制御するAGC回路と前記振動子に通電するための電圧を増幅する増幅回路とを有し、前記電圧電流制御手段は、起動時に前記増幅回路へ付加する電流を大きくすることにより、定常時に前記振動子へ付加する電流よりも起動時に前記振動子へ付加する電流を大きくする慣性力センサ。」(下線は、補正箇所。)

(2)検討
本件補正後の請求項1における「前記駆動回路は電圧を制御するAGC回路と前記振動子に通電するための電圧を増幅する増幅回路とを有し、」(以下、「補正事項a」という。)及び「起動時に前記増幅回路へ付加する電流を大きくすることにより、」(以下、「補正事項b」という。)について、以下、検討する。

ア 補正事項aについて
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、補正事項aに関し、以下の記載がある。
「【0017】
振動子2は、AgやAu等の金属導体からなる電極でPZTからなる圧電薄膜を挟み込んで形成した多層構造の駆動電極10、感知電極12、モニタ電極14を、音叉形状のシリコン基板上に配置して形成したものである。なお、シリコン基板の形状はH形状やT形状や音片形状等でもよい。
【0018】
駆動回路4は、電圧を制御するAGC回路16やBPF回路18や駆動電極10に通電するための電圧を増幅する増幅回路20により構成されており、モニタ回路6による振動子2の振動状態に応じて、振動子2の振幅値が小さいとモニタすれば、AGC回路16を介して振動子2に通電するための電圧を増やし、振動子2の振幅値が大きいとモニタすれば、AGC回路16を介して振動子2に通電するための電圧を減らし、振動子2の振動が一定の周期および振幅で振動するように、振動子2に通電するための電圧を制御している。」
上記段落0017の記載より、振動子2は、駆動電極10を含む部材によって形成されていることが分かり、上記段落0018の「AGC回路16を介して振動子2に通電するための電圧」との記載より、振動子2が通電の対象となることが分かる。
してみると、上記段落0018の「駆動回路4は、電圧を制御するAGC回路16やBPF回路18や駆動電極10に通電するための電圧を増幅する増幅回路20により構成されており」の記載の「駆動電極10」を「振動子」として解釈したとしても、新たな技術的事項を導入するものではなく、「前記駆動回路は電圧を制御するAGC回路と前記振動子に通電するための電圧を増幅する増幅回路とを有し、」との補正事項aは、当初明細書等に記載されていたものといえる。

イ 補正事項bについて
補正事項bに関し、関連する増幅回路及び電圧電流制御手段について、以下の記載がある。
(a)増幅回路について
「【0024】
さらに、駆動回路4の増幅回路20には容量値の異なる2つの位相補償コンデンサを設けるとともに、定常時に振動子2へ電圧を付加する際は容量値の小さい方の位相補償コンデンサに通電し、起動時に振動子2へ電圧を付加する際は容量値の大きい方の位相補償コンデンサに通電する切替手段を設けている。
【0025】
一般的に、広帯域、高利得の増幅回路20では帰還をかけて使用するが、増幅回路20自体の位相が180度を越すと、帰還回路から正帰還されるために発振してしまう。このため適正な利得周波数特性を保つために、位相補償コンデンサを用いて、位相をコントロールして発振を防止、安定動作させる。振動子2の起動時には、電圧を大きくする必要があるため、増幅回路20によって増幅する際は、容量値の大きい位相補償コンデンサに通電して、増幅回路20を安定動作させ、振動子2の定常時には、消費電力抑制のため電圧を小さくするので、増幅回路20によって増複する際は、容量値の小さい位相補償コンデンサに通電すれば、増幅回路20を安定動作できる。」
「【0029】
また、増幅回路20には容量値の異なる2つの位相補償コンデンサを設け、定常時に振動子2へ電圧を付加する際は容量値の小さい方の位相補償コンデンサに通電し、起動時に振動子2へ電圧を付加する際は容量値の大きい方の位相補償コンデンサに通電する切替手段を設けているので、増幅回路20を安定動作させることができる。特に、振動子2の定常時には、消費電力抑制のため電圧を小さくするが、この際には、容量値の小さい方の位相補償コンデンサに通電することにより、電圧が大きいときも小さいときも的確に増幅回路20を安定動作させることができる。」

このように、段落0024、0025、0029には、増幅回路20には容量値の異なる2つの位相補償コンデンサを設けるとともに、定常時に振動子2へ電圧を付加する際は容量値の小さい方の位相補償コンデンサに通電し、起動時に振動子2へ電圧を付加する際は容量値の大きい方の位相補償コンデンサに通電する切替手段を設け、電圧が大きいときも小さいときも的確に増幅回路20を安定動作させることについての記載があるにとどまり、「起動時に前記増幅回路へ付加する電流を大きくすることにより、」との技術事項を示唆する記載はない。

(b)電圧電流制御手段について
「【0020】
上記の慣性力センサには、特に、定常時(振動子2が安定な状態で振動している時)に振動子2へ付加する電圧よりも起動時(電源投入時等の振動子2が不安定な状態で振動している時)に振動子2へ付加する電圧を小さくし、定常時(振動子2が安定な状態で振動している時)に振動子2へ付加する電流よりも起動時(電源投入時等の振動子2が不安定な状態で振動している時)に振動子2へ付加する電流を大きくする電圧電流制御手段22を設けている。
【0021】
この電圧電流制御手段22は、DC変換回路24と比較回路26とメモリ部28とから構成され、モニタ回路6によってモニタされた振動子2の振幅値(振幅値から算出した算出値も含む)と、あらかじめメモリ部28に記憶された定常時における振動子2の振幅値(振幅値から算出した算出値も含む)または起動時における振動子2の振幅値(振幅値から算出した算出値も含む)と比較して、振動子2の振動時期を判断するとともに、振動時期に応じて振動子2へ付加する電圧および電流を制御する手段としている。」

このように、段落0020、0021には、電圧電流制御手段は、振動子2の振動時期を判断するとともに、定常時に振動子2へ付加する電流よりも起動時に振動子2へ付加する電流を大きくする制御する手段であるとの記載があるにとどまり、「起動時に前記増幅回路へ付加する電流を大きくすることにより、」との技術事項を示唆する記載はない。
また、電圧電流制御手段と増幅回路との関係に関しては、図1に電圧電流制御手段の比較回路と増幅回路とが接続される関係にあることが図示されているにとどまり、「起動時に前記増幅回路へ付加する電流を大きくすることにより、」との技術事項を示唆するものではない。

してみると、「前記電圧電流制御手段は、起動時に前記増幅回路へ付加する電流を大きくすることにより、定常時に前記振動子へ付加する電流よりも起動時に前記振動子へ付加する電流を大きくする」と、下線の事項(補正事項b)を付加する補正をすることは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、当初明細書等の記載の範囲内においてしたものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。なお、補正2は、原審において却下されている。

「振動子と、前記振動子へ電圧および電流を付加して前記振動子を振動させる駆動回路と、前記振動子の振動状態をモニタするモニタ回路と、慣性力に起因した前記振動子の歪を感知する感知回路と、前記モニタ回路から出力された信号に基づいて前記駆動回路の電流を制御することにより前記振動子へ付加する電流を制御する電圧電流制御手段と、を備え、前記電圧電流制御手段は、定常時に前記振動子へ付加する電流よりも起動時に前記振動子へ付加する電流を大きくする慣性力センサ。」(以下、「本願発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、特許請求の範囲に記載の各発明は、いずれも出願前に国内又は外国において頒布された刊行物である特開2005-227234号公報(発明の名称:角速度センサ 出願人:株式会社ジャイトロニクス 公開日:平成17年8月25日 、以下、「引用例」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、というものである。

(3)引用例記載の事項・引用発明
引用例には、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。
(a)
「【0001】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動子を用い、周囲温度や電源電圧変動及び部品ばらつき等の影響を受けにくい、圧電振動子を含めた発振部及びコリオリ出力検出部を構成することによって、移動量の検出や姿態制御等を行うための安定な角速度センサに関するものである。」
(b)
「【0006】
圧電振動子1は質量mを有し、駆動電極2に発振回路4からAC駆動電圧が印加されると、この圧電振動子1がX軸に沿ってB方向に所定の周波数で振動する。Y軸の回りに角速度ωが加わると、X軸と直交するZ軸方向にコリオリ力F(=2mvω)(但し、vは圧電振動子1の振動速度)が発生する。コリオリ力Fは角速度ωの大きさに比例して定まることから、検出電極3及びコリオリ力検出回路5により、コリオリ力Fを圧電振動子1の撓み変位量として検出することで、この圧電振動子1の角速度ωの大きさを求めることができる。」
(c)
「【0031】
この角速度センサは、例えば、図2と同一の原理に基づくものであり、音叉型水晶振動子等の圧電振動子11を有している。圧電振動子11の所定箇所には、この圧電振動子11を駆動するための第1の駆動電極12a及び第2の駆動電極12bと、該圧電振動子11に加わる角速度ωに応じた(例えば、比例した)電荷を検出するための第1の検出電極13a及び第2の検出電極13bとが設けられている。駆動電極12a,12bには、圧電振動子11の特定方向の振動を励起するためのAC駆動電圧を該駆動電極12bに供給するための発振部20が接続されている。検出電極13a,13bには、圧電振動子11に加わる角速度ωに比例したDC検出信号Soutを出力するコリオリ出力検出部40が接続されている。これらの発振部20及びコリオリ出力検出部40には、同期パルス作成部60及び温度補償用関数発生部70が接続され、更に、そのコリオリ出力検出部40に、圧電振動子/回路増幅を補正するための補正係数設定部80が接続されている。」
(d)
「【0032】
発振部20には、駆動電極12aに接続された第1のI/V変換回路21と、第1の温度補償回路である温度補償型増幅回路22と、圧電振動子11の駆動電極12bに接続されて該圧電振動子11の起動状態を検出する起動検出回路23とが設けられている。I/V変換回路21は、駆動電極12aから出力される駆動電流を変換駆動電圧に変換する回路であり、この出力側に温度補償型増幅回路22が接続されている。温度補償型増幅回路22は、温度補償用関数発生部70から出力される温度補償用関数に基づき、I/V変換回路21からの変換駆動電圧の温度補償を行う回路であり、この出力側に利得切替回路24が接続されている。利得切替回路24は、起動検出回路23から出力される起動検出信号に基づき、温度補償型増幅回路22から出力される温度補償済み電圧に対し、発振開始時には利得を大きく、かつ定常発振時には発振部20のループゲインが適正な範囲に入るようにするための回路である。利得切替回路24の出力側には、周波数帯域制限手段(例えば、低域フィルタ25、増幅回路26及び高域フィルタ27)が接続されている。」

上記記載(c)より、
ア 「圧電振動子11を有し、圧電振動子11の所定箇所には、この圧電振動子11を駆動するための第1の駆動電極12a及び第2の駆動電極12bと、該圧電振動子11に加わる角速度ωに応じた電荷を検出するための第1の検出電極13a及び第2の検出電極13bとが設けられ」るとの、技術事項が読み取れる。

上記記載(c)より、
イ 「駆動電極12a,12bには、圧電振動子11の特定方向の振動を励起するためのAC駆動電圧を該駆動電極12bに供給するための発振部20が接続され」るとの技術事項が読み取れる。

上記記載(b)より、
ウ 「コリオリ力Fは角速度ωの大きさに比例して定まることから、コリオリ力Fを圧電振動子の撓み変位量として検出することで、角速度ωの大きさを求めるもの」であるとの技術事項が読み取れる。

上記記載(c)より、
エ 「検出電極13a,13bには、圧電振動子11に加わる角速度ωに比例したDC検出信号Soutを出力するコリオリ出力検出部40が接続され」るとの技術事項が読み取れる。

上記記載(d)より、
オ 「圧電振動子11の起動状態を検出する起動検出回路23を設け」るとの技術事項が読み取れる。

上記記載(d)より、
カ 「起動検出回路23から出力される起動検出信号に基づき、発振開始時には利得を大きく、かつ定常発振時には発振部20のループゲインが適正な範囲に入るようにするための利得切替回路24を設けた」との技術事項が読み取れる。

上記記載(a)より、
キ 「角速度センサ」であるとの技術事項が読み取れる。

以上の技術事項アないしキを総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。

「圧電振動子11を有し、圧電振動子11の所定箇所には、この圧電振動子11を駆動するための第1の駆動電極12a及び第2の駆動電極12bと、該圧電振動子11に加わる角速度ωに応じた電荷を検出するための第1の検出電極13a及び第2の検出電極13bとが設けられ、
駆動電極12a,12bには、圧電振動子11の特定方向の振動を励起するためのAC駆動電圧を該駆動電極12bに供給するための発振部20が接続され、
コリオリ力Fは角速度ωの大きさに比例して定まることから、コリオリ力Fを圧電振動子の撓み変位量として検出することで、角速度ωの大きさを求めるものであり、
検出電極13a,13bには、圧電振動子11に加わる角速度ωに比例したDC検出信号Soutを出力するコリオリ出力検出部40が接続され、
圧電振動子11の起動状態を検出する起動検出回路23を設け、
起動検出回路23から出力される起動検出信号に基づき、発振開始時には利得を大きく、かつ定常発振時には発振部20のループゲインが適正な範囲に入るようにするための利得切替回路24を設けた
角速度センサ。」(以下、「引用発明」という。)

(4)対比
本願発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に順次対比する。
引用発明における「圧電振動子11」は、本願発明の「振動子」に相当する。

引用発明における「圧電振動子11の特定方向の振動を励起するためのAC駆動電圧を該駆動電極12bに供給するための発振部20」は、駆動電極12bが圧電振動子11に設けられていることを踏まえると、引用発明における上記構成と、本願発明における「前記振動子へ電圧および電流を付加して前記振動子を振動させる駆動回路」とは、共に、「前記振動子へ電圧を付加して前記振動子を振動させる駆動回路」である点で共通している。

引用発明における「圧電振動子11の起動状態を検出する起動検出回路23」は、本願発明における「前記振動子の振動状態をモニタするモニタ回路」に相当する。

引用発明は、「コリオリ力Fは角速度ωの大きさに比例して定まることから、コリオリ力Fを圧電振動子の撓み変位量として検出することで、角速度ωの大きさを求める」ことを検出原理としている。ここで、コリオリ力Fを圧電振動子の撓み変位量として検出することは、慣性力に起因した前記振動子の歪を感知することにほかならないから、引用発明における「圧電振動子11に加わる角速度ωに比例したDC検出信号Soutを出力するコリオリ出力検出部40」は、本願発明における「慣性力に起因した前記振動子の歪を感知する感知回路」に相当する。

引用発明における「圧電振動子11の起動状態を検出する起動検出回路23を設け、起動検出回路23から出力される起動検出信号に基づき、発振開始時には利得を大きく、かつ定常発振時には発振部20のループゲインが適正な範囲に入るようにするための利得切替回路24を設けた」ことも、本願発明における「前記モニタ回路から出力された信号に基づいて前記駆動回路の電流を制御することにより前記振動子へ付加する電流を制御する電圧電流制御手段と、を備え、前記電圧電流制御手段は、定常時に前記振動子へ付加する電流よりも起動時に前記振動子へ付加する電流を大きくする」ことも、共に、「前記モニタ回路から出力された信号に基づいて制御する手段とを備え、前記制御する手段は、起動時と定常時で制御を切替える」点で共通している。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「振動子と、前記振動子へ電圧を付加して前記振動子を振動させる駆動回路と、前記振動子の振動状態をモニタするモニタ回路と、慣性力に起因した前記振動子の歪を感知する感知回路と、前記モニタ回路から出力された信号に基づいて制御する手段とを備え、前記制御する手段は、起動時と定常時で制御を切替える慣性力センサ。」

(相違点1)振動子に付加する電流について
振動子に付加するものが、本願発明では、電圧および電流であるのに対し、引用発明では、電圧である点。

(相違点2)電流の制御について
本願発明では、駆動回路の電流を制御することにより前記振動子へ付加する電流を制御する電圧電流制御手段を備え、前記電圧電流制御手段が、定常時に前記振動子へ付加する電流よりも起動時に前記振動子へ付加する電流を大きくするように制御するのに対し、引用発明では、発振開始時と定常発振時で発信部の制御を切替えるにとどまり、電流の制御については明らかでない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
一般に、振動子に電圧を付加すると、電流も付加することになることから、振動子に電圧を付加している引用発明においても、電圧及び電流を付加していることは明らかである。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
消費電力の低減のために、振動子へ付加する電流を、定常時よりも起動時に大きくすることは、振動子を用いる技術分野において、原査定の拒絶の理由で周知例として引用された特開2004-153433号公報(「起動直後の所定時間だけ増幅器に供給する電流あるいは電圧を大きくし、その後小さくすることにより、通常の動作時における水晶発振器の発振パワーを低減しており」(段落0009)参照。)や、同じく周知例として引用された特開平9-289416号公報(「発振起動時のみ励振電流が大きくなるが、発振動作安定時には励振電流を小さくできる」(段落0034)参照。)との記載からも明らかなように、本願出願前の周知技術である。
そして、引用発明と上記周知技術とは、どちらも振動子の起動時と定常時との制御を切替える技術である点で共通するから、引用発明に上記周知技術を適用し、引用発明において、圧電振動子11へ付加する電流を、定常時よりも起動時に大きく制御する際、上記相違点2に係る本願発明のように、発信部の電流を制御することにより圧電振動子11へ付加する電流を制御する制御手段を備え、定常時に前記圧電振動子11へ付加する電流よりも起動時に前記圧電振動子11へ付加する電流を大きくするように制御することは、当業者であれば、容易になし得たことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は
拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-16 
結審通知日 2014-06-17 
審決日 2014-06-24 
出願番号 特願2006-39002(P2006-39002)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01C)
P 1 8・ 561- Z (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎小野寺 麻美子  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 武田 知晋
飯野 茂
発明の名称 慣性力センサ  
代理人 徳田 佳昭  
代理人 藤井 兼太郎  

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