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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1290520
審判番号 不服2012-25931  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2014-08-06 
事件の表示 特願2007-135645「蛍光検査用の走査型レーザ顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月14日出願公開,特開2008- 33263〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2007年5月22日(パリ条約による優先権主張2006年7月28日,ドイツ)の出願であって,平成24年1月16日付けで拒絶理由が通知され,同年6月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年9月21日付けで拒絶査定がなされたところ,同年12月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,当審において,平成24年12月27日提出の手続補正書による手続補正が平成25年10月8日付けで却下され,同日付けで拒絶の理由が通知され,平成26年2月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は,平成26年2月12日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載の事項によりそれぞれ特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「照明用および検出用の放射線経路が,2色性の主カラー・スプリッタ(1)によって光学的に結合されており,検出された試料光が,更なるビーム・スプリッタ(2)によって複数の検出器に導かれるように構成された蛍光検査用の走査型レーザ顕微鏡であって,
最良の反射特性および透過特性を示し,前記更なるビーム・スプリッタ(2)の透過の際に励起波長が抑制され,さらに前記更なるビーム・スプリッタ(2)と前記複数の検出器の各々との間に放出フィルタを必要とすることがないように,該主カラー・スプリッタ(1)の照明光の入射角度が5度?20度であり,かつ前記更なるビーム・スプリッタ(2)のスプリッタ面での,試料光の入射角度が5度?20度であり,
光源から来る放射線の光軸に対する角度を大きくするためのミラーが取り付けられていることを特徴とする走査型レーザ顕微鏡。」

3 当審で通知した拒絶理由
当審において平成25年10月8付けで通知した拒絶の理由(「当審拒絶理由」という。)の概要は,平成24年6月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明については,刊行物1ないし6に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
このうち,刊行物1,3ないし6は次のとおり。(以下,刊行物1を「引用例1」,刊行物3ないし6をそれぞれ「引用例2」ないし「引用例5」という。)
引用例1:特開平6-201999号公報
引用例2:特開昭49-33643号公報
引用例3:特開昭60-174934号公報
引用例4:特開平5-223637号公報
引用例5:特表2006-511792号公報

4 引用例
(1)引用例1
当審拒絶理由で引用した引用例1は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であるところ,当該引用例1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,一般的には走査型コンフォーカル顕微鏡に係り,さらに詳しくは紫外線によってサンプルを走査し,その結果発生する蛍光を検知して得られたデータを処理することによって,走査データの連続ディスプレイを提供する顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】生理学および細胞生理学等の学問分野において,カルシウム,ナトリウム,マグネシウム等の細胞内イオンの動態を調べることは重要である。その理由は,これらのイオンが細胞内生理活性機能と密接に結び付いていると考えられているからである。これら細胞内イオンの動態研究の方法としては,蛍光色素を細胞内に注入することが一般的である。このような蛍光色素は,細胞内で特定の種のイオンに特異的に結合し,所定波長の可視または紫外線の励起光が照射されることによって蛍光を発する。
【0003】例えば,カルシウムイオンの検出に用いられる蛍光プローブとして,インド-1(indo-1),フラ-2(fura-2),フルオ-3(fluo-3)及びロッド-2(rhod-2)等が知られている。細胞内のカルシウムイオンの存在を検出するため,これらの蛍光プローブのいずれか一つを用いることができる。例えばプローブindo-1は,波長350ナノメータ(nm)程度の紫外光による励起に応答して,カルシウムイオン濃度に応じて405nmあるいは485nmいずれかの波長で蛍光を発する。また,プローブfura-2は,波長340nm程度あるいは波長380nm程度の紫外光による励起に応答して,波長500nm近傍で蛍光を発する。
【0004】これらの蛍光プローブがカルシウムイオンと結合して紫外光によって励起されることにより,カルシウムイオンの濃度の大小に従って,蛍光の発光量が変化する。従って蛍光強度を測定することによって,サンプルの局所領域におけるカルシウムイオンの濃度を検出することができる。励起及び蛍光の検出はサンプル表面を横切るように行えば,二次元画像が得られる。更に複数の画像を時系列的に得ることによって,イオンの時間的動態を詳細に調べることが可能になる。
【0005】蛍光プローブindo-1の紫外光励起のもとで,蛍光スペクトルの2つのピークの強度比を検出するか,あるいは蛍光プローブfura-2の2種類の波長の紫外光照射による交互の励起操作のもとで,蛍光スペクトルのそれぞれのピークの強度比を検出することにより,カルシウムイオンの濃度は信頼に足る程度に正確に測定できる。
【0006】ひとつの適当な,サンプル走査の結果生じた蛍光を検出する走査型コンフォーカル顕微鏡が,同時係属中で同一人に譲渡された1992年4月1日出願の米国特許出願第07/862,633号,発明の名称「走査型コンフォーカル顕微鏡」に開示されている。この開示された顕微鏡は2つの蛍光波長におけるサンプルの連続した二次元画像を表す複数セットのディジタルデータワードを発生する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】同時係属中の出願で開示されている走査型コンフォーカル顕微鏡は,サンプルの蛍光のイメージを表すデータを発生させるのに非常に効果的である。しかし,特定の情報に対する要求に答えるため,データを適切に処理し,サンプルについての適切で動的な情報を最適に伝送し,ユーザーがデータを選択的に操作できるフォーマットへとデータ変換を行うプロセッサを更に含む,この種の走査型コンフォーカル顕微鏡が依然として求められている。この発明は,この要望を解決することを目的とする。」

イ 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は,所定の蛍光インディケータでドープされたサンプルを走査するためのコンフォーカル顕微鏡にて具体化され,この顕微鏡はオペレータの選択による蛍光検出データの処理を行うデータプロセッサを有し,サンプルに関する選択情報を記録し表示する。スキャナが二次元内でレーザビームでサンプルを横切るように繰り返し走査し,それによりサンプルは少なくとも第1及び第2の予め定められた周波数で蛍光を発し,検出器はサンプルが発したこれら各波長の光を検知して,サンプルの一連の関連した一対の二次元画像を表す生のイメージデータを発生する。次に,このプロセッサは,2つの蛍光波長の各々で,選択された数の連続画像に関して生成された生の画像データの平均を求める。これにより連続する一対の関連した平均画像データを生成し,これらはデータの永久記憶装置の単一トラックに交互に連続して記録される。このように平均を求めることにより,ノイズの低減と鋭敏さの改善が可能になる。」

ウ 「【0013】
【実施例】次に,添付の図面を用いて説明する。特に図1には,サンプル16を走査してそのサンプル中に含まれるカルシウムイオン濃度を測定するのに用いられる走査型コンフォーカル顕微鏡が示されている。ここで用いるサンプルには,例えばindo-1などの蛍光プローブがドープされている。この顕微鏡の光学系部分は,同時係属中で同一人に譲渡された1992年4月1日出願の米国特許出願第07/862,633号,発明の名称「走査型コンフォーカル顕微鏡」(Scanning Confocal Microscope)に開示されている。この同時係属中の出願も引用によって含まれる。
【0014】図1において,レーザ光源1は,波長351ナノメータ(nm)の紫外光であって平行にされたビーム(a collimated beam)LBを出力する。その平行にされたレーザビームは,凸レンズ2a,2bからなるビームエキスパンダによって拡張される。凸レンズ2a,2bの間に設けられたピンホールダイヤフラム3等の空間フィルタを通ったレーザビームは,ビームスプリッタ4,シャッタ5,光量減衰器6及び絞り(開口)7を通過して,第1のダイクロイックミラー8に入射する。ダイクロイックミラー8で反射されたレーザビームLBは,水平走査ミラー9及び垂直走査ミラー10によって二次元的に走査される。走査されたビームは,凹面ミラー11,14及び凸面ミラー13によって構成された反射型リレー光学系を通って顕微鏡の対物レンズ15に導入される。尚,ミラー11とミラー13との間には,サンプルの視野領域を制限するために視野絞り12が設けられている。
【0015】対物レンズ15は,例えば通常の光学顕微鏡に用いられるような,紫外線及び可視光に対して収差補正された結像性能を有する。リレー光学系からのレーザビームLBは,該対物レンズ15によってサンプル16上に集光され,2つの走査ミラー9,10による操作に応答してサンプル16を二次元走査する。水平走査ミラー9は,図面の記載された紙面に垂直な回転軸91を中心にその共振周波数で振動する,高速型のガルバノメータスキャナ(検流計スキャナ)である。このミラー9は,8kHz程度の周波数を有する正弦波状の入力信号に応答して共振する。これに対して垂直走査ミラー10は,低速型のガルバノメータスキャナである。NTSCシステムの標準飛び越し走査を実現するために,この垂直走査ミラー10は,図面の記載された紙面と平行な回転軸101を中心に,そして標準NTSCビデオ信号のフィールドレートに等しい周波数である60Hzを有する鋸歯状波形に応答して振動させられる。
【0016】カルシウムイオンが存在するサンプル16中に添加された蛍光プローブが,レーザビームLBによって照射されると,その蛍光プローブからはレーザビームに反応して,カルシウムイオン濃度の大小に応じた波長特性を有する蛍光が発生する。蛍光色素として蛍光プローブindo-1を用いると,発せられる蛍光のスペクトルは405nmと485nmとに波長のピークを有する。サンプル16内のカルシウムまたは他のイオンの濃度を測定するため,他の蛍光プローブも代わりに使用できることは自明である。それぞれの場合に,2つの蛍光波長の強度の比率はそのようなイオン濃度の尺度を表す。
【0017】この蛍光の一部分は,対物レンズ15によって外側方向に向けられて集光され,照射レーザビームLBと同一の経路をたどって第1のダイクロイックミラー8を通過する。続いてその蛍光ビームFLは,反射ミラー17で反射され,集光レンズシステム18によってピンホールダイヤフラム19に導かれる。
【0018】ピンホールダイヤフラム19を通過した後,蛍光ビームFLは,第2のダイクロイックミラー20によって405nmの波長を含む第1の波長成分と,485nmの波長を含む第2の波長成分とに分離される。分離された一方の蛍光成分はフィルタ21を通過し,フォトマルチプライヤチューブ(PMT:光電子増倍管)22によって光電変換され,他方の蛍光成分はフィルタ25を通過し,フォトマルチプライヤ26によって光電変換される。フォトマルチプライヤ22,26それぞれからの光電変換出力は,A/D変換回路23,27において,後述するサンプリングクロックSCに応答してディジタル化される。ここで得られたディジタルデータは,データプロセッサ30内のフレームメモリに,画像データとしてそれぞれ蓄えられる。蓄えられた画像データは,CRTディスプレイユニット31上に表示され,データレコーディングシステム32に蓄積される。」

エ 上記アないしウを含む引用例1の全記載からみて,引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「サンプル16を走査してそのサンプル中に含まれるカルシウムイオン濃度を測定するのに用いられる走査型コンフォーカル顕微鏡であって,
波長351nmのレーザビームLBを出力するレーザ光源1と,
前記レーザ光源1から出力された前記レーザビームLBが入射される第1のダイクロイックミラー8と,
前記第1のダイクロイックミラー8で反射されたレーザビームLBを二次元的に走査する水平走査ミラー9及び垂直走査ミラー10と,
前記水平走査ミラー9及び垂直走査ミラー10によって走査された前記レーザビームLBが導入され,サンプル16上に集光する対物レンズ15とを有するとともに,
前記サンプル16中に添加された蛍光色素である蛍光プローブindo-1が,前記対物レンズ15によって集光されたレーザビームLBに反応して,405nmと485nmとに波長のピークを有する蛍光を発生すると,当該蛍光の一部分が,蛍光ビームFLとしてレーザビームLBと同一の経路をたどって第1のダイクロイックミラー8を通過するように構成されており,
かつ,
前記第1のダイクロイックミラー8を通過した前記蛍光ビームFLを,405nmの波長を含む第1の波長成分と,485nmの波長を含む第2の波長成分とに分離する第2のダイクロイックミラー20と,
前記第2のダイクロイックミラー20によって分離された第1及び第2の波長成分のうちの一方が通過するフィルタ21,及び,当該フィルタ21を通過した前記一方の波長成分が入射するとこれを光電変換するフォトマルチプライヤチューブ22と,
前記第2のダイクロイックミラー20によって分離された第1及び第2の波長成分のうちの他方が通過するフィルタ25,及び,当該フィルタ25を通過した前記他方の波長成分が入射するとこれを光電変換するフォトマルチプライヤチューブ26とを有する,
走査型コンフォーカル顕微鏡。」(以下「引用発明」という。)

(2)周知例
ア 当審拒絶理由で引用した補正の却下の決定において周知例として例示した特開昭49-33643号公報である引用例2は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であるところ,当該引用例2には次の記載がある。(下線は,後述する周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。引用例3ないし5についても同様。)
(ア)「従来この種の顕微鏡は第1図に示すように水銀ランプ等よりなる光源からの光を励起フイルター5を通過させた後,ダイクロイツクミラー4にて反射させ,対物レンズ2を通して蛍光標本1を照明し,その標本を対物レンズ2,ダイクロイツクミラー4,バリアーフイルター6を通して観測していた。ここで標本1は蛍光染料にて染色して使用されるが,この蛍光染料としては蛍光抗体法用染料F.I.T.C・・・(中略)・・・が多く用いられている。この蛍光抗体法用染料F.I.T.Cは490mμに極大吸収があり,又これに近接した520mμに極大蛍光波長があることは良く知られている。したがつて上記ダイクロイツクフイルターとしては490mμの波長の光を出来るだけ多く反射し,しかも520mμの波長の光を出来るだけ透過させるものが望ましく,実際上520mμで最大透過率を有し,それより短波長側で急激に透過率が減少するような分光特性を有する多層膜干渉フイルターが利用されている。しかし第1図に示すような光学系の配置では証明光束をダイクロイツクミラーに対し45°の入射角度で入射させるので,多層膜干渉フイルターの性質上第2図の曲線aで示されるように垂直入射の場合と比較すると最大透過率が若干減少することと,それより短波長側へ向けての透過率の減少状況がゆるやかとなる。そのため図面より明らかなように,490mμ(極大吸収波長)の光のうち約50%がダイクロイツクミラーを通過し,照明光量の損失をまねくことゝとなる。又標本1が厚くて不透明なものでは標本の表面での反射が考えられ,この反射光のうちの約50%がダイクロイツクミラーを通過してしまうためにカブリを生じ,像が極めて不鮮明なものとなる。
この欠点を取除くためには照明光束のダイクロイツクミラーへの入射角をできる限り小とし垂直入射に近づければよいことは明らかであるが,第1図の光学系の配置のまゝでダイクロイツクミラーへの入射角αを小にすることは顕微鏡の機械設計上等の理由から限度があり,又αを45°以下の角度にした場合光源を傾斜させて設置することになるが,水銀灯等の放電灯を傾斜させ設置することはその寿命を極端に縮めることになり好ましくない。
本願の発明は上記諸点を考慮して,照明光束をダイクロイツクミラーに対し極めて小さい入射角にて入射させ得るようにし,それによつて極めて良好な像で観測し得るようにしたものである。
以下その具体的内容を第3図に図示された実施例にもとづき説明すると,・・・(中略)・・・
以上のような構成であるので光源よりの光は励起フイルター5を通過後補助レンズ15によつて小反射鏡9の近傍に一旦結像させた後,小反射鏡9及びダイクロイツク凹面鏡4’により反射され対物レンズの射出瞳又は後側焦点位置3に拡大結像される。こゝでダイクロイツクミラー4’直前の小反射鏡8の有効径はダイクロイツクミラー4’の有効径以下でよく,光学系の光軸の近傍に設置してあるので入射角αを極めて小とすることができ,実際の設計例では約6°で入射させることが可能である。第2図にはこの6°にて入射させた場合のダイクロイツクミラーの分光特性が線bで示されているが,これによれば490mμでの透過率は極て少く,5%程度であり,又520mμの透過率は90%以上の値を示している。即ちダイクロイツクミラーを通過することによる光量の損失が極めて少なく,又標本表面で反射される光によるカブリも防ぐことが出来る。」(1頁左下欄19行?2頁左下欄13行)
(イ)「上記の実施例では蛍光染料としてF.I.T.Cを使用した場合について説明したが,この他色々な蛍光染料が使用され,その各々によつて最大吸収波長及び最大蛍光波長が異なり,又それに応じて励起光及びダイクロイツクミラーの分光特性も変えなければならないことは明らかである。・・・(中略)・・・このように使用される蛍光染料に対して最適な励起光及びダイクロイツクミラーを選択すれば,上記実施例のF.I.T.Cに限らず,種々の蛍光染料の使用に対しても光量損失の極めて少ない又標本表面での反射光によるカブリのない観察が行い得る。」(4頁左上欄5行?左下欄3行)
(ウ)第1図ないし第3図は次のとおりである。


イ 当審拒絶理由で引用した補正の却下の決定において周知例として例示した特開昭60-174934号公報である引用例3は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であるところ,当該引用例3には次の記載がある。
(ア)「〔発明の利用分野〕
本発明は,レーザを利用した分光計測装置にとつて重要な迷光除去装置に関するものである。
〔発明の背景〕
レーザ応用計測では,レーザ光を測定対象に照射し,そこからの散乱光あるいは蛍光から測定対象についての情報を得る。レーザ光と測定対象との相互作用は,通常弱いため,ほとんどのレーザ光は反応せずに残る。この残光は,容器壁などで散乱され,測定対象の情報を含んだ信号とともに迷光として検出される。・・・(中略)・・・分光器が原理どおりの性能を有していれば,第1図,第2図に示すように,迷光と信号は完全に分離されるため,測定上迷光は問題にならない。しかし,実際の分光器では,内部の反射鏡や回折格子による散乱が存在する。第2図に示すようなスペクトルを有する入射光を分光した場合,第3図に示すように,迷光を中心に両側にすそを引く分光器内部の散乱光が現われる。分光器内部の散乱光は,迷光に比例し増大するため,迷光が非常に強くなった場合,蛍光やラマン散乱光のピークが分光器内の散乱光にうもれてしまい,検出不可能になる。第1図に示す電子散乱スペクトルでは,信号のスペクトルに分光器内部の散乱光のスペクトルが加わるため,測定スペクトルがガウス分布から外れ,電子温度の測定が不可能になる。そのため,分光器に測定光を入れる前に,できるだけ迷光成分を除去しておくことが望ましい。
従来は,第4図に示すように透過率が迷光波長λ_(0)で極小値を有するフイルターを使用し,迷光を除去していた。このような透過型フイルターは,入射光に垂直(入射角0)に配置できるため,装置が簡単になること,・・・(中略)・・・などの長所がある。しかし,その反面,透過率曲線の半値幅Γが大きく,又,透過率が0.95から極小になるまでの波長幅(傾斜幅△)が大きいという欠点がある。そのため,迷光波長に近接した蛍光やラマン散乱の線スペクトルは測定できなくなる。・・・(中略)・・・
〔発明の目的〕
本発明の目的は,従来技術の欠点をなくし,近接した蛍光やラマン散乱光の線スペクトルの測定及び400eV以下の電子温度の測定を可能にする迷光除去装置を提供しようとするものである。
〔発明の概要〕
本発明では,第5図に示すように,迷光波長λ_(0)に鋭いピークを有するフイルターを反射鏡として使用する。特定の波長のみを透過する狭帯域フイルターは,透明基盤上に誘電体多層膜を蒸着して作られ,半値幅Γは2nm以下,傾斜幅△は,5nm以下のものが得られる。このような誘電体多層膜を用いた干渉フイルターでは,フイルター内部でのエネルギー吸収がないため,透過波以外は全て反射される。従つて,このようなフイルターを反射鏡として用いることにより,迷光を除き,信号のみを得ることができる。第4図に示す透過型のフイルターを用いるのに比較し,狭帯域干渉フイルターからの反射波を利用することにより,傾斜幅は,6倍程度小さくなる。これにより,蛍光やラマン散乱光のより近接線の測定が可能になりプラズマ中の電子温度は,10eV程度まで測定可能になる。
干渉フイルターからの反射光を利用する場合,入射光に対し,フイルターを傾斜させる必要がある。入射角が0°以外では,P波とS波で透過率が最大になる波長が異なり,第6図に示すように入射角が大きくなるほどその違いは大きくなる。P波とS波の透過率ピーク波長のずれが,半値幅の1/2以上になると,迷光の除去率が3/4以下に減少することに加え,信号の一部も除去されてしまう。従つて,P波とS波による透過率ピーク波長のずれを,半値幅の1/2以内におさえる必要がある。P波とS波の透過率ピーク波長のずれが,半値幅の1/2である1nmずれる入射角は,約20°である。従つて,入射角は20°以下にしなければならない。
以上説明したように,誘電体多層膜干渉フイルターを入射角20°以下に設置し,それからの反射光を用いることで,迷光のみを効率良く除くことが可能である。・・・(中略)・・・
〔発明の実施例〕
以下,本発明を実施例によって詳細に説明する。第7図は,本発明になる迷光除去装置の一実施例である。図中,1は,迷光と信号を含んだ入射光,2は,入射角,3は,誘電体多層膜干渉フイルター,4は,集光レンズ,5は,分光器である。」(1頁左下欄11行?2頁右下欄17行)
(イ)第7図は次のとおりである。


ウ 当審拒絶理由で引用した補正の却下の決定において周知例として例示した特開平5-223637号公報である引用例4は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であるところ,当該引用例4には次の記載がある。
(ア)「【0022】
【実施例】以下,図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0023】図1のラマン分析装置は,国際特許出願明細書WO 90/07108に開示された装置の改良タイプである。レーザ入力ビーム10は,ビームの質を改良するために空間フィルタ(例えば,ピンホール41)を含めることができるレンズシステム40を通過する。
・・・(中略)・・・
【0025】レーザビーム10はその後にミラー42によって,図2と関連して後述する二色性フィルタ配列18に向けて反射される。このフィルタ配列18は,入力ビームの振動数を有する光を反射するが,他の振動数の光については透過する。上記レーザ光はフィルタ配列18によって90°まで反射し,他のミラー46を経て顕微鏡対物レンズ20に達する。この対物レンズ20はサンプル14上の小さなスポットにレーザ光の焦点を合わせるためのものである。・・・(中略)・・・
【0026】サンプル表面上の照射スポットからのサンプルによる散乱光は,顕微鏡対物レンズ20およびミラー46を経てフィルタ18まで戻る。このフィルタ18はラマンスペクトルを透過するが,入力レーザビームと同じ振動数のレーリー散乱光を拒絶するものである。・・・(中略)・・・
【0027】国際特許出願明細書WO90/07108に記述されているように,上記フィルタ配列18は,入ってくるレーザ光を顕微鏡に向かって90°まで反射するために,光路に対して45°の向きに配置して使用することができる。また,二色性フィルタに向かって45°の向きにホログラフィックブラッグ回折フィルタを配置して使用することもできる。しかしながら,好ましい実施態様では,図2を参照しつつ以下に説明される新規な方法においてホログラフィックブラッグ回折フィルタが使用される。
【0028】論文“ラマン分光におけるレーリー線遮断(line rejection)のためのホログラフィックブラッグ回折フィルタの利用”(応用分光,1990年44巻,No.9,1558-1561頁,Michael M.Carrabbaらによる)は,レーリー散乱光を遮断し,かつラマンスペクトルを透過する目的のためのホログラフィックブラッグ回折フィルタの有利な特徴について議論している。
【0029】そのようなフィルタは元来通常,光路への使用か,あるいは非常に小さい入射角での使用かのいずれかが予定されている。最近の技術的進歩によれば,国際特許出願明細書中の二色性フィルタのために提案された方法において,上記フィルタは光路に対して45°の角度で使用され得る。しかしながら,上記フィルタを45°の角度で使用したとき,そのフィルタは入ってくるレーザービームの偏光(審決注:原文の「偏向」は明らかな誤記であるから,訂正して摘記した。当該箇所以降の「偏向」についても同様。)状態およびラマン散乱光の偏光状態に対する感受性を示す。さらに,45°の角度では,上記フィルタが通常の入射角またはそれに近似する入射角で使用された際よりもレーリー線に近いラマン散乱光を,上記フィルタが受光する可能性は少ない。
【0030】図2は,前述したカラッバらによる論文に記載されたタイプのホログラフィックブラッグフィルタ18Aが図1のフィルタ18に使用されていることを示している。しかし,新規な構成例では,適当なフィルタはフィジカルオプティクスコーポレーション(Physical Optics Corporation:米国カリフォルニア州90505トーランス,スィートB,W.237番通り2545)またはカイザーオプティカルシステムズ(Kaiser Optical Systems Inc.,:米国ミシガン州48106アン アーバー,P.O.Box983,パークランドプラザ371)から購入できる。これらのフィルタは,またホログラフィックエッジフィルタまたはホログラフィックノッチフィルタとして販売されている。
【0031】図2におけるホログラフィックフィルタ18Aは光路に対する小入射角ωが,例えば10度となるような向きに配される。この入射角は,上記フィルタがラマン散乱光の良好な透過特性を与えると同時にレーリー散乱光を効果的に遮断し得る程度に十分小さいものである。しかしながら,この入射角は,また上記フィルタ18Aに,ミラー18Bからの入力レーザービーム10を光路に沿って反射させ得るものである。ミラー18Bはミラー42からの入力レーザービームを受け,そのビームが顕微鏡48とフィルタ18との間の光路に対して角度2ωをもつように,そのビームをフィルタ18Aに向ける。すなわち,交差角2ωはフィルタ18A上の選択された入射角の2倍であり,例えば入射角が10度である場合には20度となる。
【0032】従って,フィルタ18Aは,ホログラフィックフィルタが45°の角度で使用されたなら起こるであろう上記不都合なしに,レーリー散乱光を遮断する機能および入力レーザービームを導入しそのビームを光路に沿って顕微鏡に向ける機能を共に満たし得るものである。この新規なホログラフィックフィルタ構成例は,本実施例のラマン分光装置に限定されるものではない。むしろ,例えばミラー18を用いて入力レーザービームを適当な角度に向けることによって,上記フィルタ18Aは,多くの他のタイプの分光装置における上記二つの目的に寄与し得る。それら他のタイプの分光装置は,散乱スペクトルを分析するためのモノクロメータを用いたラマンスペクトロメータおよび他のスペクトロメータを含むものである。」
(イ)図1及び図2は次のとおりである。
【図1】

【図2】


エ 当審拒絶理由で引用した補正の却下の決定において周知例として例示した特表2006-511792号公報である引用例5は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であるところ,当該引用例5には次の記載がある。
(ア)「【0157】
a. 走査共焦点上面蛍光光度計
分子計数において使用するための適切なスキャン検出システムの1の態様は,図8に模式的に示される。該検出システムは,一般的に800と名付けられており,光線デリバリー及びコレクション・モジュール804と光路で繋がっているレーザー光源802を含み,該コレクション・モジュール804は,計測されるサンプルにレーザー光を向けるため及び蛍光を収集するための様々な光学要素含みうる。図8において示されるように,デリバリー及びコレクションモジュール804の光学要素は,コリメータレンズ806を含み,蛍光ビーム・スプリッタ808,偏光(審決注:原文の「偏向」は明らかな誤記であるから,訂正して摘記した。当該箇所以降の「偏向」についても同様。)ビーム・スプリッタ810,4分の1波長板812,ダイナミック・フォーカス対物レンズ813,及び焦点検出器814を含む。該焦点検出器814は,焦点レンズ815,円柱レンズ816,及び4分割フォトダイオード検出器817を含む。これらの光学要素と光源802からのレーザー・ビームとの相互作用は,以下にさらに詳細に記載される。デリバリー及びコレクション・モジュール804は,検出器モジュール818と光路で繋がっており,該検出器モジュール818は,干渉フィルター820,第一焦点レンズ822,空間フィルター824,第二焦点レンズ826,及び光子計数アバランシェ・フォトダイオード(APD)828を含む。
【0158】
検出システム800を作動する間,レーザービーム830,例えば直線偏光連続波(cw)レーザービームは,事前に選択された直径,例えば最大直径6mmにまで拡大されそして平行にされた。該レーザー・ビームは,蛍光ビーム・スプリッタ808,偏光ビーム・スプリッタ810,4分の1波長板812を横切り,そしてダイナミック・フィーカス対物レンズ813により,サンプルコンテナ832の内部表面上に焦点を合わせられる。蛍光ビームスプリッター808は,レーザービーム830を伝達し,そして光の全ての異なるの波長を反射する。蛍光ビーム・スプリッタ808は,約15度の入射角などの角度で配置されて,偏光の影響を最小限にし,そしてシグナル対ノイズ比を改善する。偏光ビーム・スプリッタ810は,4分の1波長板812と繋がっており,従来の光アイソレーターを形成する。直線偏光レーザー光は,偏光ビーム・スプリッタ810を横切り,そして4分の1波長プレート812により環偏光へと変換される。該光の正反射は,環偏光の方向を逆(右方を左方環偏光に)にする。該逆方偏光は,四分の一波長板812を介して元に戻される際に,直線偏光へと変換される。該戻された光は,元のレーザービームに対し直角の直線偏光であり,そして偏光ビームスプリッタ810を介して90度反射されて,検出器814に焦点を合わせる。」
(イ)図8は次のとおりである。


オ 前記アないしエからみて,次の技術的事項が本願優先日前に周知であったと認められる。
(ア)誘電体多層膜を用いた干渉フィルター(引用例2の「多層膜干渉フイルター」,引用例3の「誘電体多層膜干渉フイルター3」)や,ホログラフィックブラッグ回折フィルタ(引用例4の「ホログラフィックフィルタ18A」)のような,入射光を波長に応じて反射光と透過光とに分離する機能を有するビームスプリッタ(引用例2の「ダイクロイツクミラー4」,引用例3の「反射鏡」,引用例4の「二色性フィルタ配列18」,引用例5の「蛍光ビーム・スプリッタ」。以下,便宜上「波長ビームスプリッタ」という。)の分離性能は,入射角が小さいほど向上すること。(以下「周知事項1」という。)
(イ)入射光の入射角度が5?20°程度(引用例2においては「約6°」,引用例3においては「入射角は20°以下」,引用例4においては「10度」,引用例5においては「約15度」)となるように配置した前記(ア)の波長ビームスプリッタの分離性能は,照明光により照射された標本から発せられる蛍光やラマン散乱光を試料光として利用する顕微鏡において,当該試料光中に含まれるノイズとなる照明光(引用例2の「標本の表面での反射」,引用例3の「迷光」,引用例4の「レーリー散乱光」,引用例5の「ノイズ」)を効果的に除去できる程度に,高性能であること。(以下「周知事項2」という。)
(ウ)前記(イ)の波長ビームスプリッタを,光源からの照明光をサンプルに向かう経路の方向へ反射し,サンプルから戻ってきた試料光を通過させる波長ビームスプリッタ(引用例2の「ダイクロイツクミラー4」,引用例4の「二色性フィルタ配列18」)として用いる場合,当該波長ビームスプリッタへの入射角が小さくなる方向に照明光を反射するミラー(引用例2の「小反射鏡8,9」,引用例4の「ミラー18B」)によって波長ビームスプリッタへ入射させるような構成にすると,光学系の配置が容易となること。(以下「周知事項3」という。)

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「第1のダイクロイックミラー8」,「蛍光ビームFL」,「第2のダイクロイックミラー20」,「フォトマルチプライヤチューブ22,26」,「走査型コンフォーカル顕微鏡」,「波長351nm」,「レーザビームLB」,「レーザ光源1」及び「レーザビームLB」は,それぞれ,本願発明の「2色性の主カラー・スプリッタ(1)」,「試料光」,「更なるビーム・スプリッタ(2)」,「複数の検出器」,「走査型レーザ顕微鏡」,「励起波長」,「照明光」,「光源」及び「放射線」に相当する。

(2)引用発明の「水平走査ミラー9及び垂直走査ミラー10によって走査された前記レーザビームLBが導入され,サンプル16上に集光する対物レンズ15とを有するとともに,前記サンプル16中に添加された蛍光色素である蛍光プローブindo-1が,前記対物レンズ15によって集光されたレーザビームLBに反応して,405nmと485nmとに波長のピークを有する蛍光を発生すると,当該蛍光の一部分が,蛍光ビームFLとしてレーザビームLBと同一の経路をたどって第1のダイクロイックミラー8を通過するように構成されており」との構成は,引用発明の「第1のダイクロイックミラー8」(2色性の主カラー・スプリッタ(1))が,レーザ光源1から入射したレーザビームLBを反射し,かつ,サンプル16中の蛍光プローブindo-1が発生した蛍光の一部分を通過させること,及び,引用発明において,「第1のダイクロイックミラー8」で反射されたレーザビームLBが通るサンプル16までの経路と,サンプル16中の蛍光プローブindo-1が発生した蛍光の一部分である蛍光ビームFLが通る「ダイクロイックミラー8」までの経路が「同一の経路」であることから,本願発明の「照明用および検出用の放射線経路が,2色性の主カラー・スプリッタ(1)によって光学的に結合され」ていることに相当する。

(3)引用発明の「第1のダイクロイックミラー8を通過した前記蛍光ビームFLを,405nmの波長を含む第1の波長成分と,485nmの波長を含む第2の波長成分とに分離する第2のダイクロイックミラー20と,前記第2のダイクロイックミラー20によって分離された第1及び第2の波長成分のうちの一方が通過するフィルタ21,及び,当該フィルタ21を通過した前記一方の波長成分が入射するとこれを光電変換するフォトマルチプライヤチューブ22と,前記第2のダイクロイックミラー20によって分離された第1及び第2の波長成分のうちの他方が通過するフィルタ25,及び,当該フィルタ25を通過した前記他方の波長成分が入射するとこれを光電変換するフォトマルチプライヤチューブ26とを有する」との構成は,引用発明の「第2のダイクロイックミラー20」(更なるビーム・スプリッタ(2))が,「蛍光ビームFL」(試料光)を「405nmの波長を含む第1の波長成分と,485nmの波長を含む第2の波長成分とに分離」すること,及び,引用発明の「フォトマルチプライヤチューブ22,26」(複数の検出器)のうちの一方に,前記第1及び第2の波長成分のうちの一方の波長成分が入射し,「フォトマルチプライヤチューブ22,26」のうちの他方に,前記第1及び第2の波長成分のうちの他方の波長成分が入射することから,本願発明の「検出された試料光が,更なるビーム・スプリッタ(2)によって複数の検出器に導かれるように構成され」ていることに相当する。

(4)本願の発明の詳細な説明に,「生物医学の応用分野では,現在,細胞の複数の異なる領域が,異なる色素によって同時に標識される(マルチ蛍光)。現況技術では,それぞれの色素は,異なる吸収特性,または異なる放出特性(スペクトル)に基づいて別々に検出できる。そのために,副ビーム・スプリッタ(DBS)を用いて複数の色素の蛍光を追加的に分離し,それぞれの色素放出を別々の点検出器(PMTx)で別々に検出する。」(【0012】)と記載されていることからみて,本願発明の「蛍光検査」とは,細胞の領域を色素によってマーキングし,当該色素が放出する蛍光を検出する検査を指すと認められるところ,引用発明の「走査型コンフォーカル顕微鏡」(走査型レーザ顕微鏡)は,サンプル16中に添加された蛍光色素である蛍光プローブindo-1が発生する蛍光を検出するものであるから,「蛍光検査用」であるといえる。
したがって,本願発明の「走査型レーザ顕微鏡」と引用発明の「走査型コンフォーカル顕微鏡」は,「蛍光検査用」である点で一致する。

(5)前記(1)ないし(4)からみて,本願発明と引用発明とは,
「照明用および検出用の放射線経路が,2色性の主カラー・スプリッタ(1)によって光学的に結合されており,検出された試料光が,更なるビーム・スプリッタ(2)によって複数の検出器に導かれるように構成された蛍光検査用の走査型レーザ顕微鏡。」である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では,「最良の反射特性および透過特性を示し,前記更なるビーム・スプリッタ(2)の透過の際に励起波長が抑制され,さらに前記更なるビーム・スプリッタ(2)と前記複数の検出器の各々との間に放出フィルタを必要とすることがない」ように,「主カラー・スプリッタ(1)」における「照明光」の入射角度を5度?20度の範囲とし,「更なるビーム・スプリッタ(2)」のスプリッタ面における「試料光」の入射角度を5度?20度の範囲としているのに対して,
引用発明では,「第1のダイクロイックミラー8」における「レーザビームLB」の入射角度,及び,「第2のダイクロイックミラー20」における「蛍光ビームFL」の入射角度は特定されておらず,かつ,「第2のダイクロイックミラー20」と「フォトマルチプライヤチューブ22,26」の間に「フィルタ21,25」が設けられている点。

相違点2:
本願発明では,「光源から来る放射線の光軸に対する角度を大きくするためのミラー」が取り付けられているのに対して,
引用発明では,このようなミラーは取り付けられていない点。

6 判断
前記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1及び2について
ア 引用発明の「走査型コンフォーカル顕微鏡」は,レーザビームLBをサンプル16に照射し,サンプル16中の蛍光プローブindo-1が発する蛍光をフォトマルチプライヤチューブ22,26で検出するという,周知事項2の顕微鏡と同様のものであって,当該引用発明の「走査型コンフォーカル顕微鏡」においても,前記周知事項2の顕微鏡と同様に,フォトマルチプライヤチューブ22,26に入射する光に,検出対象の蛍光以外に,サンプル16表面でのレーザビームLBの反射光や,レーザビームLBの迷光や,レーザビームLBの散乱光などのノイズが混入することがあることが当業者に自明であり,引用発明の「フィルタ21,25」がこれらのノイズを除去する手段の一部と推認される一方,本願発明の「放出フィルタ」は,本願の出願当初明細書の【0015】に「残っている邪魔な放射線を遮蔽するために,特に狭い帯域の放出フィルタEFが配置」と記載されていることから,引用発明の「フィルタ21,25」は,本願発明の「放出フィルタ」に相当する。
ここで,引用発明の蛍光ビームFLの経路上には,レーザ光源1からの照明光であるレーザビームLBをサンプル16に向かう経路の方向へ反射し,サンプル16から戻ってきた試料光である蛍光ビームを通過させる波長ビームスプリッタとして機能する「第1のダイクロイックミラー8」が存在するから,引用発明において,「第1のダイクロイックミラー8」を入射光の入射角度が5?20°となるように配置するとともに,当該「第1のダイクロイックミラー8」として設計入射角度が5?20°に設計された高性能のダイクロイックミラーを用い,当該「第1のダイクロイックミラー8」によって前記ノイズを十分に除去するようにし,もって「フィルタ21,25」を不要にすることは,周知事項1及び2からみて,当業者が容易に想到し得たことである。
また,その際に,光学系の配置を容易にするために,「第1のダイクロイックミラー8」への入射角が小さくなる方向に照明光を反射して,「第1のダイクロイックミラー8」へ入射させるミラーを設けることは,周知事項3からみて,当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。

イ 引用発明の「第2のダイクロイックミラー20」は,蛍光ビームFLを,405nmの波長を含む第1の波長成分と,485nmの波長を含む第2の波長成分とに分離する波長ビームスプリッタであるところ,当該「第2のダイクロイックミラー20」の分離性能を向上するために,これを入射光の入射角ができるだけ小さくなるように配置することは,周知事項1からみて,当業者が容易に想到し得たことである。そして,周知事項2からみて,実現可能な入射角は,5?20°程度であると認められる。
したがって,引用発明において,「第2のダイクロイックミラー20」を入射光の入射角度が5?20°となるように配置するとともに当該「第2のダイクロイックミラー20」として設計入射角度が5?20°に設計された高性能のダイクロイックミラーを用いることによって,蛍光ビームFLを,405nmの波長を含む第1の波長成分と,485nmの波長を含む第2の波長成分とに分離する性能を向上させることは,周知事項1及び2からみて,当業者が容易に想到し得たことである。
ところで,前記アの構成変更を行った「第1のダイクロイックミラー8」を透過した蛍光ビームFLにおいて,除去しきれなかった微量なノイズ(サンプル16表面でのレーザビームLBの反射光や,レーザビームLBの迷光や,レーザビームLBの散乱光など)が生じ得ることは,引用発明の光学系において,設計上考慮されるべき技術事項であることは明らかである。
そして,当該「微量なノイズ」を,反射光となるように「第2のダイクロイックミラー20」を設計するのか,透過光となるように「第2のダイクロイックミラー20」を設計するのかは,蛍光ビームFLの検出系に応じて当業者が適宜決定する設計上の事項にすぎない。

ウ 前記アの「第1のダイクロイックミラー8」が「設計入射角度が5?20°に設計された」ものであること,及び,前記イの「第2のダイクロイックミラー20」が「設計入射角度が5?20°に設計された」ものであることは,相違点1に係る本願発明の構成のうち,「最良の反射特性および透過特性を示し,」であることに相当する。
また,前記イの「微量なノイズ(サンプル16表面でのレーザビームLBの反射光や,レーザビームLBの迷光や,レーザビームLBの散乱光など)が,反射光となるように第2のダイクロイックミラー20を設計する」ことは,相違点1に係る本願発明の構成のうち,「更なるビーム・スプリッタ(2)の透過の際に励起波長が抑制され,」であることに相当する。
また,前記アの「第1のダイクロイックミラー8によって前記ノイズを十分に除去するようにし,もってフィルタ21,25を不要にする」ことは,相違点1に係る本願発明の構成のうち,「更なるビーム・スプリッタ(2)と前記複数の検出器の各々との間に放出フィルタを必要とすることがない」ことに相当する。
また,前記アの「第1のダイクロイックミラー8を入射光の入射角度が5?20°となるように配置する」ことは,相違点1に係る本願発明の構成のうち,「主カラー・スプリッタ(1)における照明光の入射角度を5度?20度」の範囲にすることに相当し,前記イの「第2のダイクロイックミラー20を入射光の入射角度が5?20°となるように配置する」ことは,相違点1に係る本願発明の構成のうち,「更なるビーム・スプリッタ(2)のスプリッタ面における試料光の入射角度を5度?20度」の範囲にすることに相当する。
さらに,前記アの「第1のダイクロイックミラー8への入射角が小さくなる方向に照明光を反射して,第1のダイクロイックミラー8へ入射させるミラーを設ける」ことは,相違点2に係る本願発明の構成に相当する。
以上のとおりであるから,引用発明において,相違点1及び2に係る本願発明のように構成することは,周知事項1ないし3に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)効果について
上記相違点1及び2に基づいて本願発明が奏する効果は,引用例1の記載及び周知事項1ないし3に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
したがって,本願発明は,当業者が,引用発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
本願発明は,当業者が引用発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,当審で通知した前記拒絶の理由によって拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-10 
結審通知日 2014-03-11 
審決日 2014-03-26 
出願番号 特願2007-135645(P2007-135645)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西村 仁志
清水 康司
発明の名称 蛍光検査用の走査型レーザ顕微鏡  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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