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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M |
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管理番号 | 1290558 |
審判番号 | 不服2013-20781 |
総通号数 | 177 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-09-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-25 |
確定日 | 2014-08-27 |
事件の表示 | 特願2007-146764「複合負極活物質および非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日出願公開、特開2008-300274、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成19年6月1日の出願であって、平成25年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において、同年12月19日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成26年1月15日付けで審尋を行ったところ、同年3月13日付けで回答書が提出された。 そして、当審において、同年7月14日付けで拒絶理由を通知したところ、同年7月25日付けで意見書及び手続補正書が提出された。 第2.平成25年10月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を下記のとおりに補正する(a)とともに、請求項5を削除し(b)、後続の請求項の番号及び引用請求項を整合させた(c)ものである。 「【請求項1】 黒鉛および易黒鉛化性炭素材料を含有する黒鉛化炭素材料と、黒鉛化炭素材料の表面に被覆された低結晶性炭素材料とを含み、 黒鉛化炭素材料が、コークス類を1800?2200℃で熱処理することにより得られ、かつ、CuKα線を用いて測定される広角X線回折パターンにおいて、(100)面の回折ピーク強度I_(100)と(101)面の回折ピーク強度I_(101)との比I_(100)/I_(101)が、0<I_(100)/I_(101)<1.0を充足し、 低結晶性炭素材料が、低結晶性炭素材料の前駆体を1000?1400℃で熱処理することにより得られる、複合負極活物質。」(下線部が訂正箇所である。) 2.補正の適否 上記補正事項aは、請求項1の黒鉛化炭素材料について、「CuKα線を用いて測定される広角X線回折パターンにおいて、(100)面の回折ピーク強度I_(100 )と(101)面の回折ピーク強度I_(101)との比I_(100)/I_(101)が、0<I_(100 )/I_(101)<1.0を充足」することを限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、同bは、請求項の削除を目的とするものに該当し、同cは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかにつき、以下検討する。 (2-1)刊行物の記載事項 審尋で引用した、特開2007-103246号公報(原査定の拒絶の理由に引用例1:以下、「引用刊行物1」という。)、特開2004-71580号公報(原査定の拒絶の理由に引用:以下、「引用刊行物2」という。)、特開2004-139743号(以下、「引用刊行物3」という。)、特開平9-237638号公報(以下、「引用刊行物4」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。 (1)引用刊行物1(特開2007-103246号公報) (1a)「【請求項1】 リチウム含有複合酸化物を含む正極と、リチウムを吸蔵および放出し得る炭素材料を含む負極と、非水電解質とを備え、 前記炭素材料は、易黒鉛化性炭素材料を含み、 CuKα線を用いて測定される、前記易黒鉛化性炭素材料の広角X線回折パターンにおいて、(101)面に帰属されるピーク強度I(101)の(100)面に帰属されるピーク強度I(100)に対する比が、以下の式: 0.5≦I(101)/I(100)≦1.0 を満たし、 前記易黒鉛化性炭素材料のc軸方向の結晶子の厚みLc(004)が20nm以上60nm以下であり、 前記非水電解質は、非水溶媒と前記非水溶媒に溶解された溶質とを含み、 前記非水溶媒は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートを含み、 前記プロピレンカーボネートと前記エチレンカーボネートとが、前記非水溶媒の40体積%以上80体積%以下を占め、 前記プロピレンカーボネートと前記エチレンカーボネートとの合計に占める前記プロピレンカーボネートの割合が、60体積%以上90体積%以下である非水電解質二次電池。」(【特許請求の範囲】) (1b)「【0006】 前述のように、特に高容量化が望まれるリチウムイオン二次電池の負極活物質には、高容量密度で電流効率の高い高結晶性の黒鉛材料が好適に用いられている。また、プロピレンカーボネート(PC)は、誘電率が高く、融点が低く、一般に広い酸化還元電位領域で安定であるため、非水電解質の溶媒として用いられている。しかし、PCは、黒鉛表面との相互作用が大きく、その黒鉛表面で電気化学的に分解されやすい。よって、PCを含む非水電解質を用いると、リチウムイオン二次電池の充電が不可能となる場合がある。 【0007】 PCの代わりに、エチレンカーボネート(EC)を用いることも提案されている。ECを用いることにより、黒鉛を活物質とする負極を用いた場合でも、電池の充放電が可能となる。ECは、黒鉛表面で安定な被膜を形成する。これにより、リチウムイオンのインターカレートが容易になると考えられている。しかし、ECは融点が高く、常温では固体である。このため、ECは、通常、低融点の鎖状カーボネートやエーテル類などと混合して用いる必要がある。 【0008】 また、ECとPCとの混合溶媒を用いることも可能である。この場合、EC由来の安定化被膜を形成させ、PCと黒鉛表面との相互作用を緩和して、十分に充電反応を進行させるためには、ECとPCとの合計に占めるECの割合を大きくすることが要求される。 【0009】 このようなECを非水溶媒の主成分とする非水電解質を用いたリチウムイオン電池では、PCを非水溶媒の主成分とする非水電解質を用いたリチウムイオン電池と比較して、低温特性が劣る傾向にある。」 (1c)「【0011】 最近になって、黒鉛系負極を用いた電池において、PCを主溶媒する非水電解質を使用する試みがいくつか提案されている。例えば、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆することで、PCの分解を抑制することが提案されている(特許文献1参照)。」 (1d)「【0017】 ……さらに、本発明で用いられる易黒鉛化性炭素は、黒鉛六角網平面構造を有している。また、その易黒鉛化性炭素の結晶子サイズは小さく、エッジ面比率も少ない。従って、非水溶媒が主としてプロピレンカーボネートを含んでいるにもかかわらず、易黒鉛化性炭素のエッジ面へのエチレンカーボネートの分解物からなる被膜の形成が容易となり、リチウムイオンのインターカレーション反応が促進される。よって、本発明により、低温環境下においても高出力であり、長期耐久性に優れた非水電解質二次電池を提供することが可能となる。 【0018】 すなわち、本発明により、非水電解質がプロピレンカーボネートを含んでいるにもかかわらず、プロピレンカーボネートの分解等を防止することができるため、低温域においても、高出力かつ長寿命な非水電解質二次電池を提供することができる。」 (1e)「【0022】 上記のように、負極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出し得る炭素材料が用いられる。このような炭素材料は、易黒鉛化性炭素材料を含む。本発明において易黒鉛化性炭素材料とは、黒鉛層構造をほとんど持たないコークスなどの低結晶性炭素や難黒鉛化性炭素とは異なり、ある程度の黒鉛六角網平面構造を有する、黒鉛化途上の状態にある炭素材料をいう。」 (1f)「【0042】 (負極の作製) 負極活物質を以下のようにして作製した。 異方性ピッチの熱処理過程で生成した塊状のコークスを、アルゴン雰囲気下、2000℃で熱処理を施すことにより、目的とする易黒鉛化性炭素材料粉末を得た。得られた易黒鉛化性炭素材料粉末の平均粒径は約9μmであった。」 (2)引用刊行物2(特開2004-71580号公報) (2a)「【0002】 ……現在使用されているリチウム二次電池用の負極材料には、大きく分けて1000℃前後で焼成された炭素系のものと2800℃前後で焼成された黒鉛系のものがある。前者はリチウム二次電池の負極として用いた場合、電解液との反応が少なく、電解液の分解が起きがたいという利点を有するが、リチウムイオンの放出に伴う電位の変化が大きいという欠点がある。……」 (2b)「【0008】 実施例1 ……この精製ピッチ被覆黒鉛を窒素雰囲気中、1000℃で1時間(昇温速度25℃/hr)焼成し、炭化した。得られた炭化ピッチ被覆黒鉛の比表面積、真比重、R値および1μm以下の粒子の体積基準積算値を表1に示す。また、この精製ピッチ被覆黒鉛の粒度分布測定の結果、芯材と同様に0.1?150μmに分布を有することが確認され、また、X線回折測定結果も、芯材と同様であった。さらに、芯材と炭化ピッチ被覆黒鉛のR値の比較により、被覆層を形成する炭化ピッチは、芯材よりも結晶化度が低いことが判った。さらに、SEM観測の結果、芯材である人造黒鉛は、被覆層を形成する炭化ピッチにより被覆され、エッジ部分が丸くなっていることが確認された。 この炭化ピッチ被覆黒鉛を使用して、負極を作製し、電解液として1moldm-3のLiClO4を溶解させたプロピレンカーボネートを用いて、非水系二次電池を作製した。」(なお、下線は、当審において付した。) (3)引用刊行物3 (特開2004-139743号公報) (3a)「【0023】 ここで、十分な電池容量が得られるようにするためには、負極活物質に黒鉛を用いることが好ましい。さらに、この負極活物質に、芯材となる第1の黒鉛材料の表面の一部又は全部をこの第1の黒鉛材料より結晶性の低い第2の炭素材料で被覆させた低結晶性炭素被覆黒鉛を用いると、表面における低結晶性炭素によってリチウムイオンの受け入れ性が高まり、非水電解質二次電池における高率放電特性がさらに向上するようになる。……」 (4)引用刊行物4(特開平9-237638号公報) (4a)「【0022】ここで、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)の体積比、PC/(PC+EC)は、0.1?0.9が好ましく、さらに好ましくは0.4?0.9であることが好ましい。この範囲の組成比を有する電解液と表面に非晶質炭素が付着した黒鉛の組み合わせにより、電位が平坦かつ高容量で、また低温特性の優れた電池を得ることが可能となる。」 (2-2)引用刊行物1記載の発明 上記記載事項(1e)によれば、易黒鉛化性炭素材料を含む炭素材料とは黒鉛化の程度に応じて少量の黒鉛も含むものと解されるから、引用刊行物1には、 「黒鉛および易黒鉛化性炭素材料を含有する黒鉛化炭素材料からなり、 黒鉛化炭素材料が、コークスを2000℃で熱処理することに得られ、かつ、CuKα線を用いて測定される、前記易黒鉛化性炭素材料の広角X線回折パターンにおいて、(101)面に帰属されるピーク強度I(101)の(100)面に帰属されるピーク強度I(100)に対する比が、以下の式: 0.5≦I(101)/I(100)≦1.0 を満たす負極活物質。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (2-3)対比・判断 本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明における「コークスを2000℃で熱処理することに得られ、かつ、CuKα線を用いて測定される、前記易黒鉛化性炭素材料の広角X線回折パターンにおいて、(101)面に帰属されるピーク強度I(101)の(100)面に帰属されるピーク強度I(100)に対する比が、以下の式: 0.5≦I(101)/I(100)≦1.0 を満たす」は、本願発明の「コークス類を1800?2200℃で熱処理することにより得られ、かつ、CuKα線を用いて測定される広角X線回折パターンにおいて、(100)面の回折ピーク強度I_(100)と(101)面の回折ピーク強度I_(101)との比I_(100)/I_(101)が、0<I_(100)/I_(101)<1.0を充足し、」に相当する。 よって、両者は、「黒鉛および易黒鉛化性炭素材料を含有する黒鉛化炭素材料を含み、 黒鉛化炭素材料が、コークス類を1800?2200℃で熱処理することにより得られ、かつ、CuKα線を用いて測定される広角X線回折パターンにおいて、(100)面の回折ピーク強度I_(100)と(101)面の回折ピーク強度I_(101)との比I_(100)/I_(101)が、0<I_(100)/I_(101)<1.0を充足する負極活物質。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願補正発明は、「黒鉛化炭素材料の表面に被覆された低結晶性炭素材料とを含み」、「低結晶性炭素材料が、低結晶性炭素材料の前駆体を1000?1400℃で熱処理することにより得られる」複合負極活物質であるのに対し、引用発明では、そうではない点。 上記相違点について検討する。 上記記載事項(1b)によれば、引用刊行物1には、高結晶性黒鉛材料を負極活物質とする場合、プロピレンカーボネート(PC)を非水電解質の溶媒として用いると、黒鉛表面でPCが分解されやすく、充電が不可能になるのに対し、エチレンカーボネート(EC)との混合溶媒とすると、EC由来の安定化被膜の形成により、PCとの黒鉛表面の相互作用を緩和するが、ECの割合を多く主成分とした場合、低温特性が劣る傾向になることが記載されている。これに対し、同(1d)によれば、引用発明に係る上記物性値を有する易黒鉛化性炭素を含む負極活物質とした場合、非水溶媒が主としてプロピレンカーボネートを含んでいるにもかかわらず、易黒鉛性炭素のエッジ面へのエチレンカーボネートの分解物からなる被膜の形成が容易となり、リチウムイオンのインターカレーション反応が促進され、充放電が可能となること、よって、低温環境下においても高出力かつ長寿命な非水電解質二次電池が提供できることが記載されている。 一方、同(1c)には、従来技術として、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆することで、PCの分解を抑制することが記載されている。 また、引用刊行物2には、1000℃で精製ピッチ(「前駆体」に相当)被覆黒鉛を焼成することにより、結晶化度の低い炭化ピッチ被覆黒鉛を形成し、電解液の分解を起きがたくすることが、また、引用刊行物3には、黒鉛材料の表面に結晶性の低い第2の炭素材料で被覆させた低結晶性炭素被覆黒鉛を用いると、リチウムイオンの受け入れ性が高まり、非水電解質二次電池における高率放電特性が向上することが、さらに、引用刊行物4には、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートの電解液と非晶質炭素が付着した黒鉛の組み合わせにより、低温特性の優れた電池が得られることが記載されている。 しかしながら、種々の目的のために、黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆することが、本出願前に公知であるにせよ、引用発明において黒鉛粒子を被覆した場合には、上記物性値を有する易黒鉛化性炭素を含む負極活物質の表面構造が変わり、エチレンカーボネートの分解物の被膜形成を阻害するものと認められるから、上記相違点に係る点は、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。 (2-4)当審の通知した拒絶理由について (ア)拒絶理由の概要 本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 「低結晶性炭素材料」(請求項1)とあるが、どの程度の結晶度のものを意味するのか不明確である。 (イ)平成26年7月25日付け手続補正書により、請求項1は下記のとおり補正されたので、上記の拒絶理由は解消した。 「【請求項1】 黒鉛および易黒鉛化性炭素材料を含有する黒鉛化炭素材料と、黒鉛化炭素材料の表面に被覆された低結晶性炭素材料とを含み、 黒鉛化炭素材料が、コークス類を1800?2200℃で熱処理することにより得られ、かつ、CuKα線を用いて測定される広角X線回折パターンにおいて、(100)面の回折ピーク強度I_(100)と(101)面の回折ピーク強度I_(101)との比I_(100)/I_(101)が、0<I_(100)/I_(101)<1.0を充足し、 低結晶性炭素材料が、低結晶性炭素材料の前駆体を1000?1400℃で熱処理することにより得られ、乱層構造を含み、乱層構造の割合が、黒鉛化炭素材料におけるその割合よりも高く、難黒鉛化性炭素材料におけるその割合よりも低い、複合負極活物質。」(下線部が、補正箇所である。) 3.むすび 本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3.本願発明 本件補正は、上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし6に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものである。 そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-08-12 |
出願番号 | 特願2007-146764(P2007-146764) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01M)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 川村 裕二 |
特許庁審判長 |
小柳 健悟 |
特許庁審判官 |
河本 充雄 鈴木 正紀 |
発明の名称 | 複合負極活物質および非水電解質二次電池 |
代理人 | 河崎 眞一 |
代理人 | 河崎 眞一 |