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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1290818
審判番号 無効2011-800165  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-09 
確定日 2014-06-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4356696号「多層膜反射鏡及びX線露光装置」の特許無効審判事件についてされた平成24年 8月29日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成24年(行ケ)第10343号 平成25年1月16日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判請求に係る特許第4356696号(以下「本件特許」という)は、平成16年5月24日を国際出願日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成15年6月2日、平成16年2月23日)として出願され、その請求項1乃至8に係る発明について、平成21年8月14日に特許権の設定登録がなされたものであり、これに対し、平成23年9月9日に、本件無効審判の請求人であるカール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー(以下、単に「請求人」という)により本件無効審判の請求がなされたものである。
以下に、審判請求以後の主な経緯を示す。
平成23年9月9日 本件無効審判の請求
平成24年1月17日 答弁書の提出
同日 訂正請求
平成24年4月26日 弁駁書の提出
平成24年7月3日 口頭審理
平成24年8月29日 審決
平成24年10月3日 知財高裁出訴
平成24年11月14日 訂正審判請求
平成25年1月16日 知財高裁差戻決定
平成25年2月15日 訂正請求(以下「差戻直後訂正請求」という。)
平成25年5月10日 無効理由通知
平成25年6月13日 意見書の提出
同日 訂正請求(以下「前回訂正請求」という)
平成25年9月6日 弁駁書の提出
平成25年10月8日 無効理由通知
平成25年11月8日 意見書の提出
同日 訂正請求 (以下「本件訂正請求」という。)
平成26年1月15日 弁駁書の提出

第2 本件訂正請求について
1 本件訂正請求(平成25年11月8日付けの訂正請求)の内容
本件訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲について、訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、それぞれ「訂正明細書」及び「訂正特許請求の範囲」という)のとおり訂正することを求めるものであって、その訂正事項は以下のとおりである。(被請求人の番号付けに従って、それぞれ、訂正事項1ないし17とする。)

(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1を、下記のとおり訂正するものである(下線は訂正箇所を示す)。
「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜とを有する多層膜反射鏡であって、前記第1物質はモリブデンであり、前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、且つ、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡。」

(2)訂正事項2?訂正事項5
訂正事項2ないし訂正事項5は、それぞれ、訂正前の請求項2ないし5を削除するものである。

(3)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項6を請求項2とするものである。

(4)訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項7を請求項3とし、下記のとおり訂正するものである(下線は訂正箇所を示す)。
「モリブデン層(以下、Mo層と呼称する)とシリコン層(以下、Si層と呼称する)とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、Mo層とSi層とを交互に積層してなる第2多層膜と、を有する多層膜反射鏡であって、前記第1多層膜のMo層の厚さは、前記第2多層膜のMo層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、Mo層の厚さとSi層の厚さとの合計を周期長として、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、周期長に対するMo層の厚さの比をΓとして、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡。」

(5)訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項8を請求項4とし、下記のとおり訂正するものである(下線は訂正箇所を示す)。
「X線を発生させるX線光源と、このX線光源からのX線をマスクに導く照明光学系と、前記マスクからのX線を感光性基板に導く投影光学系とを有し、前記マスクのパターンを感光性基板へ転写するX線露光装置であって、前記照明光学系、前記マスク及び前記投影光学系のうちの少なくとも一つに、請求の範囲第1項から第3項のうちいずれかに記載の多層膜反射鏡を有することを特徴とするX線露光装置。

(6)訂正事項9ないし17
訂正事項9ないし17は、いずれも、上記訂正事項1ないし8の請求項の訂正に合わせて、明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものである。

2 本件訂正請求の訂正の原因(新規事項の有無、並びに、請求項の訂正の目的、及び、拡張・変更の存否)についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、被請求人による区分けに従い、「前記第1物質はモリブデンであり」と訂正した訂正事項1-A、「等しく」と訂正した訂正事項1-B、「するとき、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、且つ、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく」と訂正した訂正事項1-C、「前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する」と訂正した訂正事項1-Dからなる。
訂正事項1-Aは、「第1物質」を「モリブデン」に特定するものであり、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものである。
訂正事項1-Bは、「ほぼ等しいか、それより薄く」とされていたものを「等し」いもののみに限定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものである。
訂正事項1-Cは、「周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとして、前記第1多層膜のΓと前記第2多層膜のΓとは異なる」とされていたものを「周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、且つ、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく」として、「前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短」ことを付加するとともに、「前記第1多層膜のΓと前記第2多層膜のΓとは異なる」態様を「前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大き」いもののみに限定したものであるから「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものである。
訂正事項1-Dは、「前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する」ことを付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものである。
したがって、上記訂正事項1-Aないし1-Dは、いずれも、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであるといえる。
また、上記訂正事項1-Aないし1-Dは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないといえる。
さらに、上記訂正事項1-Aないし1-Dは、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされたものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされたものであるといえる。

(2)訂正事項2ないし訂正事項6、及び、訂正事項8について
訂正事項2ないし訂正事項6、及び、訂正事項8は、請求項を削除する訂正及び当該請求項の削除に伴って請求項の番号を整合させる訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的としたものである。
また、訂正事項2ないし訂正事項6、及び、訂正事項8が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないこと、及び、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされたものであることは明らかである。

(3)訂正事項7について
訂正事項7は、実質的に訂正事項1における訂正事項1-Bないし訂正事項1-Dと同じ訂正であるから、訂正事項1と同様の理由により、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされたものである。

(4)訂正事項9ないし訂正事項17
訂正事項9ないし訂正事項17が、発明の詳細な説明の記載を請求項の訂正に整合させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的としたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされたものであることは明らかである。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号に列挙された事項を目的としており、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

よって、本件訂正請求による訂正を認め、以下では、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」という)について、請求人の主張する無効理由及び当審で通知した無効理由について検討する。

第3 本件訂正発明1ないし4
本件訂正発明1ないし4は、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜とを有する多層膜反射鏡であって、前記第1物質はモリブデンであり、前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、且つ、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載の多層膜反射鏡であって、前記第2物質がシリコンであることを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項3】
モリブデン層(以下、Mo層と呼称する)とシリコン層(以下、Si層と呼称する)とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、Mo層とSi層とを交互に積層してなる第2多層膜と、を有する多層膜反射鏡であって、前記第1多層膜のMo層の厚さは、前記第2多層膜のMo層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、Mo層の厚さとSi層の厚さとの合計を周期長として、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、周期長に対するMo層の厚さの比をΓとして、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項4】
X線を発生させるX線光源と、このX線光源からのX線をマスクに導く照明光学系と、前記マスクからのX線を感光性基板に導く投影光学系とを有し、前記マスクのパターンを感光性基板へ転写するX線露光装置であって、前記照明光学系、前記マスク及び前記投影光学系のうちの少なくとも一つに、請求の範囲第1項から第3項のうちいずれかに記載の多層膜反射鏡を有することを特徴とするX線露光装置。」(下線は、本件訂正請求によって訂正された箇所を示す。)

第4 請求人が主張する無効理由及び当審で通知した無効理由の概要
1 請求人が主張する無効理由の概要
ここで、上記「第2 本件訂正請求について」に記載されているように、本件訂正請求(平成25年11月8日付けの訂正請求)が認められたことから、無効審判請求の対象となる現在の発明は本件訂正請求で訂正された本件訂正発明1ないし本件訂正発明4であるが、無効審判請求時(平成23年9月9日の時点)において無効審判の対象とした発明は、特許権の設定登録がなされた平成21年8月14日の時点における請求項1ないし請求項8に係る発明(特許公報に掲載された請求項1ないし8に係る発明)であり、ここでは、この請求項1ないし請求項8に係る発明を、それぞれ、「当初発明1」ないし「当初発明8」として概要を示す。
(なお、この点に関して、下記の「2 当審において平成25年5月10日付けで通知した無効理由の概要」及び「3 当審において平成25年10月8日付けで通知した無効理由の概要」においても同様であり、それぞれで、対象とする発明に対する同様の呼称を付ける。)

請求人は、「本件特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」を請求の趣旨として、以下の証拠方法を提示して無効理由を主張している。

(1)証拠方法
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第6号証を提示している。

甲第1号証:特開2003-59822号公報
甲第2号証:特表2003-515794号公報
甲第3号証:特表2002-504715号公報
甲第4号証:Journal of Applied Physics, Vol.89, No.2, pp.1101-1107 (2001)
甲第5号証:SPIE3331, pp.133-148 (1998)
(以上、甲第1号証ないし甲第5号証は、審判請求時に示されたものである。)
甲第6号証:SPIE Proceeding, Vol.5037, pp.249-256 (2003)
(甲第6号証は、平成25年9月6日付けの弁駁書の提出のときに示されたものである。)

(2)請求人が主張する無効理由の概要
ア 無効理由Iの概要
当初発明1?8は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

イ 無効理由IIの概要
当初発明1?3,5,6及び8は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ウ 無効理由IIIの概要
当初発明1?8は、甲第3号証に記載された発明と、甲第4号証又は甲第5号証のいずれかに記載された発明とに基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

エ 無効理由IVの概要
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

オ 無効理由Vの概要
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2 当審において平成25年5月10日付けで通知した無効理由の概要
上記「1 請求人が主張する無効理由の概要 」に記載した理由と同様の理由から、ここでは、差戻直後訂正請求において訂正された請求項1ないし7に係る発明を、それぞれ、「差戻直後発明1」ないし「差戻直後発明7」として概要を示す。

(1)無効理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
差戻直後発明1ないし7は、甲第3号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3 当審において平成25年10月8日付けで通知した無効理由の概要
上記「1 請求人が主張する無効理由の概要 」に記載した理由と同様の理由から、ここでは、前回訂正請求において訂正された請求項1ないし5に係る発明を、それぞれ、「前回訂正発明1」ないし「前回訂正発明5」として概要を示す。

前回訂正発明1ないし5の「第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは3nm以下」という特定事項は、本件優先権主張の最初の優先権基礎出願の明細書等には記載されておらず、2番目の優先権基礎出願の明細書等に記載されている事項であるから、前回訂正発明1ないし5の優先日は、2番目の優先権基礎出願の出願日である2004年2月23日となる。
すると、甲第6号証は、前回訂正発明1ないし5の優先日の前に頒布された刊行物となる。
そして、前回訂正発明1ないし5は、甲第6号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

第5 当審の判断
上記「第4 請求人が主張する無効理由及び当審で通知した無効理由の概要」に示した無効理由は、当該無効理由が主張又は通知された時点で、それぞれの時点での請求項に係る発明(すなわち、それぞれにおいて、当初発明1ないし8、差戻直後発明1ないし7、又は、前回訂正発明1ないし5)に対する無効理由であったが、上記「第2 本件訂正請求について」に記載したように、本件訂正請求(平成25年11月8付けの訂正請求)が認められたのであるから、この後は、本件訂正請求により訂正された本件訂正発明1ないし4について、それぞれの無効理由を判断する。

1 請求人が主張する無効理由についての判断
(1)請求人が主張する無効理由Iについて
ア 甲第1号証に記載された発明
(ア)無効理由Iの根拠として挙げられた甲第1号証には、以下の技術事項が開示されている。

「【0010】半導体デバイスの製造において更に小さいフィーチャを製造可能とするというとどまることのない要求を満たすために、リソグラフィ投影装置における露光放射として、例えば5ないし20nmの波長を用いた超紫外線(EUV)放射の使用が提案されている。かかる装置を設計する際の問題のうち重大なものは、パターニング手段を均一に照射し、パターニング手段によって規定されたパターン像を正確に基板上に投影する「光学」システムを生成することである。必要な照射および光学システムを生成する際の難しさの一つは、EUV波長において屈折光学素子を形成するのに適切だとわかっている物質が現在は何も無いという事実にある。このため、EUV波長における独特の問題のあるミラー、具体的には比較的反射率が低く形状誤差に対して極めて敏感であるミラーによって、照射および投影システムを構築しなければならない。
【0011】リソグラフィ投影装置において、ミラーが高い反射率を有することは不可欠である。なぜなら、照射および投影システムは合計8個のミラーを有する場合があり、マスクにおける追加の反射が加わるので、システムの全体的な透過率はミラーの反射率の9乗に比例するからである。十分に高い反射率のミラーを設けるために、Mo、Si、Rh、Ru、Rb、Cl、SrおよびBe等の物質の多重積層によって形成したミラーを用いることが提案されている。かかる多重積層ミラーのこれ以上の詳細は、欧州特許出願EP-A-1 065 532号およびEP-A-1 065 568号に述べられている。詳細はこれらの文献を参照されたい。
【0012】ミラーを用いた投影システムは、EUV波長では、形状誤差に対して特に敏感である。なぜなら、わずか3nmの形状誤差が、約πラジアンの波面の誤差を生じ、これが破壊的な干渉を招き、反射器が結像のために全く役に立たなくなってしまう恐れがあるからである。形状誤差には、様々な原因があり得る。例えば、多重層を堆積する基板の表面の誤差、多重層の欠陥、製造プロセスの結果として生じる多重層における応力等である。かかる位相誤差を補正するために、WO97/33203号では、Mo/Siの多重積層によって形成した反射器の表面に、結晶または非結晶Siの比較的厚い追加層を選択的に追加することが提案されている。しかしながら、追加層は、ミラーの反射率を局部的に低下させ、これによって、リソグラフィ装置において照射または露光が非均一となる恐れがある。EP-0 708 367-Aでは、多重積層上に局部的に堆積した減衰および位相シフト機能を有する比較的厚い層を用いてマスク・パターンを形成することが開示されている。」

「【0024】
【発明の実施の形態】これより、本発明の実施形態について、添付の概略図面を参照して、一例としてのみ説明する。
【0025】図面において、対応する参照符号は対応する部分を示す。
【0026】実施形態1
図1は、本発明の具体的な実施形態によるリソグラフィ投影装置を概略的に示す。この装置は以下を備える。
【0027】放射(例えばEUV放射)の投影ビームPBを供給する放射システムEx、Il。この特定の場合、放射システムは放射源LAも備える。
【0028】マスクMA(例えばレチクル)を保持するためのマスク・ホルダが設けられ、要素PLに対してマスクを正確に位置決めするための第1の位置決め手段に接続された、第1の物体テーブル(マスク・テーブル)MT。
【0029】基板W(例えばレジストで被覆されたシリコン・ウエハ)を保持するための基板ホルダが設けられ、要素PLに対して基板を正確に位置決めするための第2の位置決め手段に接続された、第2の物体テーブル(基板テーブル)WT。
【0030】マスクMAの照射部分を、基板Wの対象部分C(例えば1つ以上のダイから成る)上に結像するための、投影システム(「レンズ」)PL(例えばミラー系)。」

「【0036】図2は、本発明の第1の実施形態において用いる反射器1を示す。反射器1は、多重積層2を備え、これは、例えば、基板3上に成長させた、モリブデン21およびシリコン22が交互に配された層から成る。多重層反射器における、例えば基板3における形状誤差からまたは多重積層2の製造時の欠陥から生じた形状誤差を補正するために、必要に応じて追加の多重層4を局部的に追加して所望の補正を行う。追加の多重層4は、例えばモリブデンおよびシリコン等、多重積層2と同じ物質から成る交互の層41、42から成るものとすれば良いが、それらの厚さは、所望の位相変化のために最適化されている。欧州特許出願EP-A-1 065 532号およびEP-A-1 065 568号に記載されているような、様々な層の厚さの最適化のための数学的技法を用いることができる。補正対象の形状誤差を求めるため、干渉による技法を用いることができる。」

「【0040】以下の表1は、本発明において追加層として使用可能な様々な多重層構造について算出した位相感度を示す。設計1および2を比較すると、Moの厚さを意図的に4.0nmに設定すると、周期当たりの位相感度Δεは0.043πから0.054πまで増大することがわかるであろう。同様に、Ru/Si設計3および4では、Ruの厚さを1.98nmから3.50nmまで増大させる(区画の割り当て、すなわち、多重層周期における吸収層およびスペーサ層の厚さの比を変化させる)と、Δεが大きく変化する。これは、Moに比べてRuのnが低いためであるが、Ruの吸光係数が高いために、ピーク反射率が大きく低下することになる。3構成要素のRu-Mo/Si追加層では、RuおよびMoの厚さが増大しても高いピーク反射率を維持し、設計6および7は特に高いΔεの値を示す。イットリウム系の積層は、真空に関して位相変化に対するYの寄与が大きいため、大きな位相感度を示す。
【0041】また、Rh/Si、Pd/SiおよびPt/Si設計では、位相感度はごく小さいことがわかる。これが意味するのは、かかる追加層は、堆積される物理的厚さが大きくても、生じる波面位相変化は(同じ厚さを有する仮定の真空層に関して)無視できる程度であり、かかる層は、反射器表面をほぼ均一にするための局部追加層の間の充填層として任意選択的に使用可能であるということである。設計13および14では、多層構造の合計(光学)厚さを調整から外して、ピーク反射率を13.5nmにシフトさせ(引用したピーク反射率は13.4nmであるが)、設計12および7に対してスペーサの厚さ(YまたはSi)をそれぞれ変化させて、位相変化の感度を増大させていることを注記しておく。
【0042】あらゆる形状誤差は、「谷」のような形状誤差を示す位置に追加多重層を追加することによって補正することができる。別の手法は、反射面全体に追加多重層を追加し、必要に応じて、「丘」のような形状誤差を示す位置で追加多重層の一部または全部を除去することである。小さい、すなわち無視できる程度の位相変化を示す充填積層(実施形態2で述べる)を、大きな位相変化を示す追加多重層の間に追加して、ほぼ平坦な反射面に合わせることができる。
【0043】表1:ピーク反射率0.748の垂直入射のλ=13.4nmの動作に対して最適化した50周期のMo/Si(Moは2.77nm、Siは4.08nm)基礎多重層上に成長させた様々な多重層周期構造の位相感度および有効ピーク反射率


「【図2】



(イ)甲第1号証に記載された発明の認定
段落【0043】に記載の表1の「1」として挙げられている実施形態(段落【0040】の表記に倣い、以下「設計1」という)では、追加の多重層4のモリブデン層の厚みが2.68nm、シリコン層の厚みが4.17nmであることが分かる。
上記事項及び甲第1号証に記載された技術事項を総合すると、甲第1号証には、
「基板3上に成長させた、モリブデン21及びシリコン22が交互に配された層からなる、多重積層2と、
前記多重積層2上に成長させた、モリブデン及びシリコンから成る交互の層41、42から成る、追加の多重層4と、から成る反射器であって、
前記多重積層2のモリブデン層の厚みが2.77nm、シリコン層の厚みが4.08nmであり、追加の多重層4のモリブデン層の厚みが2.68nm、シリコン層の厚みが4.17nmである、反射器。」
の発明(以下「甲第1号証発明」という)が記載されていると認められる。

イ 対比
(ア)本件訂正発明1と甲第1号証発明とを対比する。
a 甲第1号証発明の「モリブデン」は、本件訂正発明1の「モリブデン」である「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質」(第1物質)に相当する。
甲第1号証発明の「シリコン」は、本件訂正発明1の「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が小さい物質」(第2物質)に相当する。
よって、甲第1号証発明の「基板3上に成長させた、モリブデン21及びシリコン22が交互に配された層からなる、多重積層2」は、本件訂正発明1の「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜」(及び「前記第1物質はモリブデン」であるの特定事項も含まれる。)に相当する。

b 甲第1号証発明の「多重積層2上に成長させた、モリブデン及びシリコンから成る交互の層41、42から成る、追加の多重層4」は、本件訂正発明1の「前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜」に相当する。

c 甲第1号証発明は、「多重積層2のモリブデン層の厚みが2.77nm、シリコン層の厚みが4.08nm」、及び、「追加の多重層4のモリブデン層の厚みが2.68nm、シリコン層の厚みが4.17nm」であるから、本件訂正発明1で定義されるところの周期長は、多重積層2及び追加の多重層4のいずれにおいても6.85nmであり、同じくΓは、それぞれ、多重積層2が0.40、追加の多重層4が0.39であるから、前者が後者よりも大きいことが分かる。
よって、甲第1号証発明1の「前記多重積層2のモリブデン層の厚みが2.77nm、シリコン層の厚みが4.08nmであり、追加の多重層4のモリブデン層の厚みが2.68nm、シリコン層の厚みが4.17nmである」ことは、本件訂正発明1の「前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きい」ことに相当する。

d 甲第1号証発明の「反射器」は、モリブデンとシリコンが交互に配された層、即ち、多層膜から成るものであるから、本件訂正発明1の「多層膜反射鏡」に相当する。

(イ)一致点
したがって、本件訂正発明1と甲第1号証発明とは、
「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜とを有する多層膜反射鏡であって、前記第1物質はモリブデンであり、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きい多層膜反射鏡。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(ウ)相違点
本件訂正発明1では、「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく」、「前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く」、且つ、「前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する」のに対し、甲第1号証発明でその点の特定がない点。

(エ)判断
相違点について検討する。
上記相違点によって、本件訂正発明1は、反射率が低下することなく多層膜の内部応力を低減することができるものであるから、上記相違点は技術的に意味のある相違点であるといえる。よって、本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明であるということはできず、本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであるとする無効理由は理由がないものである。

なお、本件訂正発明2ないし4も、上記の本件訂正発明1と甲第1号証発明との相違点である「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく」、「前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く」、且つ、「前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する」という特定事項を含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるということはできず、よって、「本件訂正発明2ないし4が甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである」とする無効理由は理由がないものである。
以上のとおり、無効理由Iは、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるということができ、請求人が主張する無効理由Iには理由がない。

(2)請求人が主張する無効理由IIについて
請求人が主張する無効理由IIは、当初発明1?3,5,6及び8に対する無効理由であり、当初発明4及び7に対してなされた無効理由ではない。すなわち、例えば、当初発明4に対しては無効理由は主張されていなかった。
ここで、当初発明4は、
「請求の範囲第1項に記載の多層膜反射鏡であって、前記第1物質層の厚さと前記第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する前記第1物質層の厚さの比をΓとするとき、第1多層膜のΓが第2多層膜のΓより大きいことを特徴とする多層膜反射鏡。」
とするものであり、当該当初発明4による特定事項は、現在の本件訂正発明1ないし4のいずれにおいても、特定されている(特定事項となっている)ものである。
したがって、当該当初発明4による特定事項の全てを備えた現在の本件訂正発明1ないし4に対しては、そもそも、上記の無効理由IIは主張されていなかったといえる。
すなわち、無効理由IIは、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるということができ、請求人が主張する無効理由IIには理由がない。

(3)請求人が主張する無効理由IIIについて
ア 甲第3号証に記載されている発明
(ア) 無効理由IIIの根拠として挙げられた甲第3号証には、以下の技術事項が開示されている。 (下線は当審において付した。)

「【0001】
【発明の背景】
本発明は、多層反射フィルムに関するものであり、詳しくは、多層フィルムを含む基板にかかる応力の低減に関するものであり、より詳しくは、そのような応力を調節するか、もしくは正味応力をゼロに近くして、基板が殆どまたは全く変形しないように、基板と多層フィルムの間に緩衝層を設けることに関するものである。
【0002】
モリブデン(Mo)やシリコン(Si)のような光学特性が大きく異なる物質の薄層を交互に重ねて作った多層構造体は、反射率が高く垂直入射に近いコーティングとして、様々な用途に有効なことが分かっている。或る波長(11?14nm)に対して高い反射率(?60%)を示すことが分かっているMo/Si系は、投影リソグラフィー用に現在開発中の高分解能・多重反射画像形成装置に応用できるので、技術的に特に重要である。」

「【0007】
光学素子(基板)は、応力のかかっている多層フィルムをその上に設けると変形する。実行可能なEUVリソグラフィープロセスは、Mo/SiもしくはMo/Be多層フィルムを頼りに、11?14nmの領域の光を効率的に反射するものである。高い反射率(>60%)をもつMo/Siフィルム、及びMo/Beフィルムは、フィルムの応力が大きく(それぞれ、>400MPa及び>330MPa)、それにより光学素子が変形し、EUVリソグラフィーツールの性能が低下する可能性がある。その為、多層フィルムの応力を、これらのフィルムの反射率に悪影響を及ぼすことなく低下させる必要がある。EUVリソグラフィー装置のスループットは反射率が尺度になると思われるので、反射率は重要である。
【0008】
本発明は、例えばEUVリソグラフィー装置に用いるのに特に適した、反射率が高く(>60%)応力が小さい(<100MPa)多層反射フィルムもしくはコーティングを作る為の、非熱的な、もしくは不熱的なアプローチを提供するものである。本発明では、多層フィルムと基板の間に緩衝層を用いる。
【0009】
緩衝層は、エピタキシャル半導体装置における層間の格子の食い違いを調整するのに用いられてきた。このような食い違いは、その上にある薄いフィルムの応力/歪に影響を及ぼすものである。また個々の緩衝層は、一つには、熱膨張係数値が適切であるという理由で選ばれてきた。このような緩衝層によって、マイクロ電子工学的な用途用に高温で蒸着させた或る種の(非周期的な)層状フィルム構造体の応力を低下させることができる。米国特許第4,935,385号、第5,010,375号、第5,021,360号、第5,128,749号、第5,393,993号、第5,457,067号、及び第5,523,587号の各明細書には、緩衝層が、そのエピタキシャル性、及び/又は熱膨張性ゆえに、これまで利用されてきた例が示されている。応力を相殺する為に、緩衝層の上に設けられる層の符号と反対の符号をもつ緩衝層を用いて応力を低下させる試みは、これまでなされていない。
【0010】
本発明には、基板と多層フィルムの間に緩衝層を用いることが含まれる。この緩衝層は滑らかであり(粗さの実効値0.3nm未満)、しかも多層フィルムの応力による変形を相殺するのに十分な大きさであって、符号が反対の応力を有するものである。それにより、調整可能な、調節可能な、もしくはゼロに近い正味フィルム応力が得られ、その為に、光学素子、もしくは基板は殆ど、もしくは全く変形しない。例えば、多層フィルムの+350MPaという応力の大きさは、約-350MPaの応力をもつ緩衝層フィルムにより打ち消され、ゼロに近い応力が得られる。本発明は、反射率を大きく低下させずに応力を減少させる為の、無熱的な、もしくは非熱的な方法を提供するものである。
【0011】
【発明の概要】
本発明の目的は、ゼロに近い応力をもつ反射多層フィルムを有する基板を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、基板上に多層フィルムを設けることにより生じる応力を低下させることである。
【0013】
本発明の更なる目的は、高反射率・低応力の多層反射コーティングを基板上に設けることである。
【0014】
本発明の更なる目的は、多層フィルムの反射率に及ぼす影響を最小限に抑えつつ応力を低下させる為に、基板と多層フィルムの間に緩衝層を設けることである。
【0015】
本発明の他の目的は、例えば、反射率が60%より高く、応力が100MPa未満のMo/SiもしくはMo/Be反射多層コーティングを有する基板を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、多層フィルムの応力によって生じる光学素子の変形を少なくするか、もしくは打ち消すことである。
【0017】
本発明の他の目的は、反射多層コーティングの応力を調節することができる方法を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、緩衝層の応力によって反射多層フィルムの応力が低下するか、もしくは打ち消されるよう、緩衝層フィルムを基板と反射多層フィルムの間に設けることにより、応力の小さい反射多層コーティングを有する基板を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、多層フィルムの応力による基板の変形を相殺する為に、多層フィルムの符号と反対の符号の応力をもつ緩衝層を多層フィルムと基板(光学素子)の間に設けることにより、高反射率・低応力のMo/SiもしくはMo/Be多層フィルムを提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、近垂直入射反射率が60%より高く、応力が100MPa以下であって、EUVリソグラフィーツールに用いるのに適したMo/Si多層フィルム、及びMo/Be多層フィルムを提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、近垂直入射反射率が65%より高く、応力が30MPa以下の多層フィルムを提供することである。
【0022】
本発明のその他の目的や利点は、以下の説明、及び添付した図面から明らかになるであろう。本発明には基本的には、基板と多層フィルムの間に緩衝層を設けることが含まれる。この緩衝層は滑らかであり(粗さの実効値0.3nm未満)、しかも多層フィルムの応力による変形を相殺するのに十分な大きさであって、符号が反対の応力を有するものである。この結果、調整可能なゼロに近い正味フィルム応力が得られ、その為に、基板は殆ど、もしくは全く変形しない。本発明により、最高の状態の高EUV反射率多層フィルムを作る為の加工条件を変更する必要なしに、正味応力/曲率をゼロに調整するか、もしくは他の所望の値に調節するのが可能になることが注目される。
【0023】
本発明は、Mo/Si高反射率・低応力多層フィルムとMo/Be高反射率・低応力多層フィルムの両方の製造を可能にするものである。例えば、Mo/Siで作られた反射多層フィルムと、Mo/Beで作られた緩衝層もしくはフィルムを、Si(100)基板上に設けた。この組み合わせフィルムの正味応力は-28MPaに過ぎず、また波長13.33nmでの反射率は66.5%であった(垂直入射から5°で測定)。もう一つの例では、反射率を最適にしたMo/Siフィルムの上にMo分率の高いMo/Si緩衝層を設け、それについて試験を行い、Mo/Siフィルムを組み合わせたものの正味応力/曲率は、緩衝層の厚みとMo分率を変えることによってゼロに調整できることを確認した。周期6.9nm、Mo分率0.4、厚さ270nmのMo/Siフィルムを、Mo分率0.8の同様のフィルム上に設けたところ、正味応力が-70MPa(350MPaの低下)のフィルムが得られた。反射率を測定すると、垂直から5°での最高反射率約63%が13.4nmで得られ、その半値全幅は0.55nmであった。
【0024】
本発明は、現在開発中のEUVリソグラフィー装置の性能に強い影響を与える可能性を持っており、それはまた電子装置の更なる微細化に重大な影響を及ぼし得るものである。本発明はまた、国立燃焼機関でだけでなく、軟x線波長域、及びEUV波長域を必要とする用途におけるような、光学コーティングの応力が問題となるあらゆる技術に強い影響を与えるであろう。」

「【0028】
ここで図面を参照すると、図1は本発明を図式的に示すものである。10で示される反射性の装置は、基板(光学素子)11、緩衝層12、及び多層フィルム13からなっている。基板11は、シリコン、熱膨張性の低いガラス、ZerodurもしくはULEもしくはZerodur Mのようなセラミックス、石英、フロートガラス、及びサファイアで作られていてよい。図に示されているように、緩衝層12はプラスの応力をもっており、一方、多層フィルム13は用途にもよるが、14で示されているように、正味フィルム応力がゼロとなるようなマイナスの応力をもっている。ここでは、緩衝層12のプラスの応力は多層フィルム13のマイナスの応力と等しいが、これらの応力は同じである必要はない。しかしながら、ほぼ同じであるのが好ましく、以下でより詳しく検討するように、例えば緩衝層12の組成によって緩衝層の応力を調整することができる。或いは、多層フィルム13の組成にもよるが、多層フィルムの応力はプラスであってもよく、従って、所望のゼロに近い正味フィルム応力を得る為には、緩衝層12の応力はマイナスになるように設計しなければならない。
【0029】
図1に示すような応力低減に対する緩衝層によるアプローチにより、正味フィルム応力(曲率)を任意の所望のレベルに調整できるという可能性がもたらされる。幾つか境界条件が存在する。1)緩衝層は滑らかでなければならず、また2)多層フィルム/緩衝層/基板を組み合わせたものは、経時的に安定でなければならない。また、或る種の用途においては、応力/曲率の非球形構成成分も減少しなければならない。多層フィルムの組成、及び緩衝層の組成にもよるが、緩衝層は、多層であっても、複合体であっても、単一層であってもよい。
【0030】
図2は、多層フィルムの応力がMo/Si多層フィルムのMo分率(Siに対するMoの比)の関数であることを示すものである。ここで、定数(Λ)は6.9?7.0nmである。従って、Mo/Si多層フィルムの応力は、Mo分率を調節することにより調整できる。また、図2のグラフは、Mo分率を大きくした結果としての、非線状の挙動を示している。
【0031】
図3は、Mo/Si多層フィルムの応力を低下させるか、調整するか、もしくは調節する為にMo/Si緩衝層を使用することを含む、本発明による簡単な方法を図式的に示すものである。図に示されているように、装置20は、シリコンであってよい基板(光学素子)21、Mo/Siの緩衝層22、及びMo/Siの多層フィルム23からなっている。多層フィルム23は、Mo分率(Г)が0.4、応力が-420MPaの40枚の複層からなるものである。緩衝層22は、Mo分率(Г)が0.8、応力が+340MPaの「N枚」(この例ではN=40)の複層からなるものである。実験の結果から、24で示される正味フィルム応力は、N=40の場合には-70MPa(圧縮)であり、またN=48の場合には+200MPa(引張)であることが立証された。これにより、正味応力24は、Mo/Si緩衝層22中の複層の数(もしくは個々の層の厚さ)によって、調整もしくは調節できることが裏付けられる。ここで、緩衝層のMo分率は、Mo/Si多層フィルム23のMo分率とは異なっている。このように、応力を調節して、応力があるのが望ましい用途に応じることができる。」

「【図2】


「【図3】



(イ)甲第3号証に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)から、甲第3号証には、
「シリコン基板21、シリコン基板21上のMo/Siの緩衝層22、及び、Mo/Siの緩衝層22上のMo/Siの多層フィルム23からなり、多層フィルム23は、Mo分率(Г)が0.4、応力が-420MPaの40枚の複層からなり、緩衝層22は、Mo分率(Г)が0.8、応力が+340MPaの40枚の複層からなるEUVリソグラフィー装置用の反射性の装置20。」の発明(以下「甲第3号証発明」という。)が記載されている。

イ 本件訂正発明1についての対比・判断
(ア)対比
本件訂正発明1と甲第3号証発明とを対比すると、
a 甲第3号証発明の「Mo」、「Si」及び「シリコン基板21」が、それぞれ、本件訂正発明1の「モリブデンである」「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)」、「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差」が「小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)」及び「基板」に相当するから、甲第3号証発明の「シリコン基板21上のMo/Siの緩衝層22」及び「Mo/Siの緩衝層22上のMo/Siの多層フィルム23」が、それぞれ、本件訂正発明1の「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜」(なお「前記第1物質はモリブデン」である点も含まれる。)及び「前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜」に相当する。

b 甲第3号証発明の「Mo分率(Г)」が、本件訂正発明1の「第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓ」に相当し、甲第3号証発明の「多層フィルム23は、Mo分率(Г)が0.4」、「緩衝層22は、Mo分率(Г)が0.8」であることが、本件訂正発明1の「第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大き」いことに相当する。

c 甲第3号証発明の「多層フィルム23」は「応力が-420MPa」であり「緩衝層22」は「応力が+340MPa」であることが、本件訂正発明1の「前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する」 ことに相当する。

d 甲第3号証発明の「多層フィルム23」は「40枚の複層」からなり「緩衝層22」は「40枚の複層」からなる「EUVリソグラフィー装置用の反射性の装置20」が、本件訂正発明1の「多層膜反射鏡」に相当する。

(イ)一致点
すると、本件訂正発明1と甲第3号証発明とは、
「軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜とを有する多層膜反射鏡であって、前記第1物質はモリブデンであり、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する多層膜反射鏡。」の発明である点で一致し,次の点で相違する。

(ウ)相違点
本件訂正発明1においては「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく」且つ「前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短」いものであるのに対し、甲第3号証発明においては、そのような特定がない点。

(エ)判断
上記の相違点について検討する
内部応力を低減するために、第1多層膜と第2多層膜で内部応力が相反するようにする構成を、本件訂正発明1においては、「第1多層膜の第1物質からなる層の厚さ」と「第2多層膜の第1物質からなる層の厚さ」を「等しく」して、「第1多層膜の周期長」が「第2多層膜の周期長」より「短かく」することによってなしているものであるが、当該構成により、本件訂正発明1においては、内部応力を低減しつつも、反射率特性を悪化させないという本件明細書に記載の作用効果を奏するものである。

まず、上記相違点に係るそのような構成は甲第4号証にも甲第5号証にも記載されているものではない。
また、甲第3号証には【0030】において「定数(Λ)は6.9?7.0nmである。」と記載されており、周期長を一定することが示唆されているといえるから、甲第3号証発明においては「第1多層膜の周期長」を「第2多層膜の周期長」より「短かく」することの動機付けがない(阻害要因がある)といえる。
したがって、甲第3号証発明に甲第4号証又は甲第5号証に記載の技術的事項を適用して、本件訂正発明1を発明することが容易であるということはできない。

なお、本件訂正発明2ないし4についても、上記の本件訂正発明1と甲第3号証発明との相違点である「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく」且つ「前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短」いという特定事項を含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲第3号証発明に甲第4号証又は甲第5号証に記載の技術的事項を適用して、本件訂正発明2ないし4を導出することが容易であるということはできない。よって、本件訂正発明2ないし4が、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとする無効理由IIIには理由がない。
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由IIIは、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるということができ、無効理由IIIには理由がない。

(4)請求人が主張する無効理由IVについて
請求人が主張する無効理由IVは、当初発明1の「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さとほぼ等しいか、それより薄く」(下線は当審で付した。)の特定事項が、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するという無効理由である。
しかしながら、上記の「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さとほぼ等しいか、それより薄く」の特定事項は、本件訂正発明1ないし4において特定されている事項ではなく、この無効理由IVは、本件訂正発明1ないし4に対する無効理由でないから、理由がない。
すなわち、この無効理由IVは、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるといえるから、理由がない。

なお、「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さとほぼ等しいか、それより薄く」を、本件訂正請求によって訂正した、本件訂正発明1ないし4の「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく」については、本件明細書の【0050】の「この第1多層膜67のMo層671の厚さは、第2多層膜65のMo層651の厚さと等しくされている。」の記載から、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであることは明らかである。

(5)請求人が主張する無効理由Vについて
請求人が主張する無効理由Vは、当初発明1の「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さとほぼ等しいか、それより薄く」の特定事項における「ほぼ等しい」は、その程度が不明確な表現であり、当初発明1は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するという無効理由である。
しかしながら、上記の「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さとほぼ等しいか、それより薄く」の特定事項は、本件訂正発明1ないし4において特定されている事項ではなく、この無効理由IVは、本件訂正発明1ないし4に対する無効理由でないから、理由がない。
すなわち、この無効理由Vは、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるといえるから、理由がない。

なお、「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さとほぼ等しいか、それより薄く」を、本件訂正請求によって訂正した、本件訂正発明1ないし4の「前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく」の「等しく」については、その程度は明確であることは明らかである。

2 当審において平成25年5月10日付けで通知した無効理由について
(1)無効理由1について
無効理由1は、差戻直後発明1の「120%以下」の特定事項について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するという無効理由である。
しかしながら、上記の「120%以下」の特定事項は、本件訂正発明1ないし4において特定されている事項ではなく、この無効理由IVは、本件訂正発明1ないし4に対する無効理由でないから、理由がない。
すなわち、この無効理由1は、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるといえるから、理由がない。

(2)無効理由2について
無効理由2は、差戻直後発明1ないし7が、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものであったが、本件訂正請求によって訂正された後の本件訂正発明1ないし4が、甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものということができないことは、上記「1 請求人が主張する無効理由についての判断」の「(3)請求人が主張する無効理由IIIについて」で述べたとおりである。
すなわち、この無効理由2は、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるといえるから、理由がない。

3 当審において平成25年10月8日付けで通知した無効理由について

当審において平成25年10月8日付けで通知した無効理由は、前回訂正発明1ないし5の「第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは3nm以下」という特定事項は、本件優先権主張の最初の優先権基礎出願の明細書等には記載されておらず、2番目の優先権基礎出願の明細書等に記載されている事項であるから、前回訂正発明1ないし5の優先日は、2番目の優先権基礎出願の出願日である2004年2月23日となることを前提として、甲第6号証は、前回訂正発明1ないし5の優先日の前に頒布された刊行物となることから生じた無効理由である。
しかしながら、本件訂正請求によって訂正された後の本件訂正発明1ないし4には、上記の「第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは3nm以下」という事項は特定されておらず、本件訂正発明1ないし4の優先日は、最初の優先権基礎出願の出願日である2003年6月2日となり、甲第6号証刊行物は、優先日の後に頒布されたものとなる。すなわち、甲第6号証刊行物は、本件訂正発明1ないし4との関係では公知文献とはならない。
したがって、甲第6号証刊行物に記載され発明については、本件訂正発明1ないし4に対しての特許法第29条の規定を適用できない。
すなわち、この無効理由は、本件訂正請求による訂正によって、解消されたものであるといえるから、理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし4は、いずれの無効理由によっても無効とすべきものではなく、本件無効審判の請求は成り立たない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多層膜反射鏡及びX線露光装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜とを有する多層膜反射鏡であって、前記第1物質はモリブデンであり、前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、且つ、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載の多層膜反射鏡であって、前記第2物質がシリコンであることを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項3】
モリブデン層(以下、Mo層と呼称する)とシリコン層(以下、Si層と呼称する)とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、Mo層とSi層とを交互に積層してなる第2多層膜と、を有する多層膜反射鏡であって、前記第1多層膜のMo層の厚さは、前記第2多層膜のMo層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、Mo層の厚さとSi層の厚さとの合計を周期長として、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、周期長に対するMo層の厚さの比をΓとして、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項4】
X線を発生させるX線光源と、このX線光源からのX線をマスクに導く照明光学系と、前記マスクからのX線を感光性基板に導く投影光学系とを有し、前記マスクのパターンを感光性基板へ転写するX線露光装置であって、前記照明光学系、前記マスク及び前記投影光学系のうちの少なくとも一つに、請求の範囲第1項から第3項のうちいずれかに記載の多層膜反射鏡を有することを特徴とするX線露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線顕微鏡、X線分析装置、X線露光装置等のX線光学系に使用される多層膜反射鏡、及びこの多層膜反射鏡を用いたX線露光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の微細化に伴い、光の回折限界によって制限される光学系の解像力を向上させるために、従来の紫外線に代えてこれより短い波長(11?14nm)のX線を使用した投影リソグラフィ技術が開発されている(例えば、D.Tichenor,et al.、「SPIE」、1995年、第2437巻、p.292参照)。この技術は、最近ではEUV(Extreme Ultraviolet)リソグラフィと呼ばれており、従来の波長190nmの光線を用いた光リソグラフィでは実現不可能な、70nm以下の解像力を得られる技術として期待されている。
【0003】
X線の波長領域での物質の複素屈折率nは、n=1-δ-ik(δ、k:実数、iは複素記号)で表される。この屈折率の虚部kはX線の吸収を表す。δ、kは1に比べて非常に小さいため、この領域での屈折率は1に非常に近い。したがって従来のレンズ等の透過屈折型光学素子を使用できず、反射を利用した光学系が使用される。反射面に斜め方向から入射したX線を全反射を利用して反射させる斜入射光学系の場合、全反射臨界角θc(波長10nmで20°程度以下)よりも小さい(垂直に近い)入射角度では、反射率が非常に小さい。なお、ここで入射角度とは、入射面の法線と入射光の光軸がなす角度を示す。
【0004】
そこで、界面の振幅反射率がなるべく高い物質を積層させることで反射面を多数(一例で数十?数百層)設けて、それぞれの反射波の位相が合うように光干渉理論に基づいて各層の厚さを調整した多層膜反射鏡が使用される。多層膜反射鏡は、使用されるX線波長域における屈折率と、真空の屈折率(=1)の差が大きい物質と、その差が小さい物質とを、基板上に交互に積層して形成される。
【0005】
なお、多層膜反射鏡は、垂直に入射したX線を反射することも可能であるため、全反射を用いた斜入射光学系よりも収差の少ない光学系を構成することができる。
【0006】
また、多層膜反射鏡は、反射波の位相が合うようにブラッグの式;
2dsinθ=nλ
(d:多層膜の周期長、θ:入射角度、λ:X線の波長)
を満たす場合にX線を強く反射する波長依存性を有するため、この式を満たすように各因子を選択する必要がある。
【0007】
多層膜反射鏡に用いられる多層膜の例としては、タングステン(W)と炭素(C)を交互に積層したW/C多層膜や、モリブデン(Mo)と炭素を交互に積層したMo/C多層膜等の組み合わせを用いたものが知られている。なお、これらの多層膜はスパッタリングや真空蒸着、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の薄膜形成技術により形成されている。
【0008】
また、13.4nm付近の波長域では、モリブデン(Mo)層とシリコン(Si)層を交互に積層したMo/Si多層膜を用いると垂直入射(入射角度が0°)で67.5%の反射率を得ることができ、波長11.3nm付近の波長域では、Mo層とベリリウム(Be)層を交互に積層したMo/Be多層膜を用いると垂直入射で70.2%の反射率を得ることができる(例えば、C.Montcalm、「Proceedings of SPIE」、1998年、第3331巻、p.42参照)。このような多層膜を用いた反射鏡は、EUVL(Extreme Ultraviolet Lithography)と呼ばれる、軟X線を用いた縮小投影リソグラフィ技術へも応用される。
【0009】
図3は、従来のEUVLに使用される多層膜反射鏡の構造を模式的に示す断面図である。この多層膜反射鏡41は、基板43上にMo/Si多層膜45が形成されたものである。このMo/Si多層膜45は、Mo層47とSi層49を一層対とし、この層対が約40?50層対積層されている。このMo/Si多層膜45の周期長(一層対の厚さ)は約7nmであり、周期長に対するMo層一層の厚さの比率(Γ)は0.35?0.4程度である。なお、基板43の表面(図中上面)は、通常凹状の形状を有するが、説明を簡単にするため、図では多層膜反射鏡の一部を水平化し、積層数を省略して示している。
【0010】
ところで、多層膜反射鏡41はスパッタリング(イオンビームスパッタリング、マグネトロンスパッタリング等)や電子ビームデポジション等により作製されるが、高反射率のMo/Si多層膜45は、一般に-350MPa?-450MPa程度の圧縮内部応力を有する。そのため、Mo/Si多層膜45の圧縮内部応力によって多層膜反射鏡41の基板43が変形し、光学系に波面収差が発生して光学特性が低下するという問題があった。
【0011】
そこで、X線反射率が高い多層膜の圧縮応力を低減するために、基板上に第1の多層膜を形成し、この第1の多層膜上にX線反射率が高い多層膜(第2の多層膜)を形成することにより、多層膜反射鏡全体の応力を低減する技術が報告されている(例えば、E.Zoethout,et al.、「SPIE Proceedings」、2003年、第5037巻、p.872、M.Shiraishi,et al.、「SPIE Proceedings」、2003年、第5037巻、p.249参照)。ここで、第1の多層膜の周期長は第2の多層膜の周期長とほぼ同じであり、Γは比較的大きい(例えば、Γ=0.7)。このような第1の多層膜は引っ張り応力を有するので、第2の多層膜の圧縮応力を低減することができる。
【0012】
従来の応力低減技術について、図4及び図5を参照しつつ説明する。
【0013】
図4は、周期長7.2nm、積層数50層対のMo/Si多層膜をΓを変化させてスパッタリングで形成し、そのΓに対する多層膜の応力を示した図である。図4において、横軸は周期長に対するMo層一層の厚さの比率であるΓ(-)を表わす。なお、Γ=0は厚さ250nmのSi単層膜であり、Γ=1は厚さ250nmのMo単層膜である。また、図4において、縦軸は膜の応力(MPa)を表わし、負の値で圧縮応力、正の値で引っ張り応力である。Mo/Si多層膜の応力はΓに応じて変化しているが、Γが約0.5より小さい範囲では応力は圧縮応力であるのに対し、Γが約0.5より大きい範囲では応力は引っ張り応力であることがわかる。上述したように、高反射率を有する第2の多層膜のΓは0.35?0.4程度であるので、-350MPa?-450MPa程度の圧縮応力を有する。一方、第1の多層膜としてΓが約0.5より大きい多層膜を使用することにより、第1の多層膜に引っ張り応力を生じさせることができる。したがって、圧縮応力の第2の多層膜と引っ張り応力の第1の多層膜とを組み合わせることにより、多層膜全体の内部応力を低減することができる。
【0014】
図5は、従来の低応力多層膜反射鏡の構造を模式的に示す断面図である。この多層膜反射鏡51は、基板53と第2の多層膜55の間に第1の多層膜57が形成されているものである。第2の多層膜55は、Mo層551とSi層553からなるMo/Si多層膜であり、周期長を7.2nm、Γを0.35、積層数を50層対として、高いX線反射率を得ることができるようになっている。一方、第1の多層膜57は、Mo層571とSi層573からなるMo/Si多層膜であり、周期長を7.2nm、Γを0.7、積層数を30層対としている。なお、説明を簡単にするため、図では多層膜反射鏡の一部を水平化し、積層数を省略して示している。この多層膜反射鏡51では、第2の多層膜55はΓが0.35であるので圧縮応力を有するのに対し、第1の多層膜57はΓが0.7であるので引っ張り応力を有する。そのため、多層膜全体として内部応力を低減することができるようになっている。
【0015】
しかしながら、実際に従来の応力低減技術を用いて多層膜反射鏡を製造したところ、多層膜の内部応力は低減されていたが、X線反射率が低下するという問題があった。
【発明の開示】
【0016】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、反射率の低下を抑制した低内部応力の多層膜反射鏡、及びこの多層膜反射鏡を用いたX線露光装置等を提供することを目的とする。
【0017】
上記目的を達成するための第1の発明は、軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(以下、「第1物質」と呼称する)からなる層と小さい物質(以下、「第2物質」と呼称する)からなる層とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、第1物質からなる層と第2物質からなる層とを交互に積層してなる第2多層膜とを有する多層膜反射鏡であって、前記第1物質はモリブデンであり、前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、第1物質層の厚さと第2物質層の厚さとの合計を周期長とし、周期長に対する第1物質層の厚さの比をΓとするとき、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、且つ、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡である。
【0018】
本発明の多層膜反射鏡においては、第1多層膜のモリブデンからなる第1物質層の厚さを第2多層膜のモリブデンからなる第1物質層の厚さと等しくしている。そのため、第1物質層の微結晶化による表面粗さの増大を抑えて、多層膜反射鏡の反射率の低下を抑制することができる。そして、周期長に対する第1物質層の厚さの比であるΓを第1多層膜と第2多層膜とで異ならせ、第1多層膜の周期長を第2多層膜の周期長より短くするとともに、第1多層膜のΓを第2多層膜のΓより大きくし、且つ、第1多層膜は第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有するようにすることにより、第2多層膜が有する内部応力を第1多層膜が有する内部応力により低減することができる。したがって、反射率の低下を抑制した低内部応力の多層膜反射鏡を得ることができる。なお、本明細書において、厚さがほぼ等しいとは、多層膜反射鏡の反射率に影響を与えないような範囲にあることを意味する。
【0019】
上記の多層膜反射鏡においては、前記第1多層膜の第1物質からなる層の厚さは、前記第2多層膜の第1物質からなる層の厚さと等しい。これにより、容易に多層膜を形成することができるとともに、確実に表面粗さを許容値以下に抑えて反射率への影響を少なくすることができる。
【0020】
本発明においては、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する。これにより、確実に第2多層膜が有する内部応力を第1多層膜が有する内部応力により低減することができる。
【0021】
本発明においては、前記第1物質層の厚さと前記第2物質層の厚さとの合計を周期長とするとき、第1多層膜の周期長を第2多層膜の周期長より短くするとともに、第1多層膜のΓを第2多層膜のΓより大きくし、且つ、第1多層膜は第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有するようにする。
【0022】
一般的に、多層膜は、周期長に対する第1物質層の厚さの比(Γ)が小さいと圧縮応力を、Γが大きいと引っ張り応力を有する。第2多層膜のΓは、X線反射率を高くするため、小さく設定されており、第2多層膜は圧縮応力を有する。このため、第1多層膜のΓを大きくすることによって、第1多層膜が引っ張り応力を有することになり、第2多層膜の圧縮応力を低減することができる。
【0023】
本発明においては、前記第1物質はモリブデン(Mo)である。また、前記第2物質はシリコン(Si)であることが好ましい。これにより、安価で、耐久性に優れ、X線反射率が高い多層膜反射鏡を得ることができる。
【0024】
上記目的を達成するための第2の発明は、モリブデン層(以下、Mo層と呼称する)とシリコン層(以下、Si層と呼称する)とを基板上に交互に積層してなる第1多層膜と、前記第1多層膜上に形成された、Mo層とSi層とを交互に積層してなる第2多層膜と、を有する多層膜反射鏡であって、前記第1多層膜のMo層の厚さは、前記第2多層膜のMo層の厚さと等しく、前記第1多層膜及び前記第2多層膜において、Mo層の厚さとSi層の厚さとの合計を周期長として、前記第1多層膜の周期長が前記第2多層膜の周期長より短く、周期長に対するMo層の厚さの比をΓとして、前記第1多層膜のΓが前記第2多層膜のΓより大きく、前記第1多層膜は、前記第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有する、ことを特徴とする多層膜反射鏡である。
【0025】
本発明の多層膜反射鏡においては、多層膜としてMo/Si多層膜を採用しているので、安価で、耐久性に優れ、X線反射率が高い多層膜反射鏡を得ることができる。また、第1多層膜のMo層の厚さを第2多層膜のMo層の厚さと等しくし、1.2nm?3nmとしているため、Mo層の微結晶化による表面粗さの増大を抑え、多層膜反射鏡の反射率の低下を抑制することができる。そして、Mo層の厚さとSi層の厚さの比を第1多層膜と第2多層膜とで異ならせ、第1多層膜の周期長を第2多層膜の周期長より短くするとともに、周期長に対するMo層の厚さの比をΓとして、第1多層膜のΓを第2多層膜のΓより大きくし、且つ、第1多層膜は第2多層膜が有する内部応力と相反する内部応力を有するようにすることにより、第2多層膜が有する内部応力を第1多層膜が有する内部応力により低減することができる。したがって、反射率の低下を抑制した低内部応力の多層膜反射鏡を得ることができる。
【0026】
上記目的を達成するための第3の発明は、X線を発生させるX線光源と、このX線光源からのX線をマスクに導く照明光学系と、前記マスクからのX線を感光性基板に導く投影光学系とを有し、前記マスクのパターンを感光性基板へ転写するX線露光装置であって、前記照明光学系、前記マスク及び前記投影光学系のうちの少なくとも一つに、上記いずれかの多層膜反射鏡を有することを特徴とするX線露光装置である。
【0027】
本発明においては、多層膜反射鏡の反射率の低下を抑制しつつ、内部応力を低減することができるため、光学特性の劣化を防ぐことができ、高性能のX線露光装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る多層膜反射鏡の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】図1に示した多層膜反射鏡を搭載したX線露光装置の全体構成を示す図である。
【図3】従来のEUVLに使用される多層膜反射鏡の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】周期長7.2nm、積層数50層対のMo/Si多層膜をΓ(周期長に対する第一層の厚さの比)を変化させてスパッタリングで形成し、そのΓに対する多層膜の応力を示した図である。
【図5】従来の低応力多層膜反射鏡の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明者は、前述の従来技術の問題点を検討した結果、以下のような知見を得た。
【0030】
軟X線領域での屈折率と真空の屈折率との差が大きい物質(第1物質、例えばMo等)からなる層と小さい物質(第2物質、例えばSi等)からなる層とを交互に積層してなる多層膜(例えば、Mo/Si多層膜)においては、Mo層は微結晶化する傾向があり、成膜方法によっては、Mo層の厚さが厚いほど微結晶化が顕著になって、Mo層の表面粗さが増大する。
【0031】
例えば、Mo層の厚さが約2.5nm(Γ=0.35)のときの表面粗さは約0.25nmRMS、Mo層の厚さが約3.6nm(Γ=0.5)のときの表面粗さは約0.34nmRMS、Mo層の厚さが約4.3nm(Γ=0.6)のときの表面粗さは約0.49nmRMS、Mo層の厚さが約5nm(Γ=0.7)のときの表面粗さは約0.61nmRMSであり、Mo層の厚さが厚いほど表面粗さが増大する。
【0032】
そして、微結晶化によりMo層の表面粗さが増大すると、多層膜反射鏡の反射率が低下することになる。例えば、Mo層の厚さが約2.5nm(Γ=0.35)のときの反射率は約70%、Mo層の厚さが約3.6nm(Γ=0.5)のときの反射率は約65%、Mo層の厚さが約4.3nm(Γ=0.6)のときの反射率は約55%、Mo層の厚さが約5nm(Γ=0.7)のときの反射率は約40%であり、Mo層の厚さが厚いほど多層膜反射鏡の反射率が低下する。
【0033】
従来の応力低減技術においては、高反射率の第2の多層膜の圧縮応力を低減するために、引っ張り応力を有する第1の多層膜を設けている。この第1の多層膜の周期長は第2の多層膜の周期長とほぼ同一であり、Γが比較的大きい(例えば、Γ=0.7程度)ため、第1の多層膜におけるMo層の厚さが厚くなっていた。
【0034】
例えば、図5を参照すると、従来の低応力多層膜反射鏡51では、第2の多層膜55のMo層551の厚さは約2.5nm(7.2nm×0.35)であるのに対し、第1の多層膜57のMo層571の厚さは約5nm(7.2nm×0.7)であり、Mo層571の厚さが厚くなっている。
【0035】
Mo層の厚さが厚いほど微結晶化が顕著になるため、Mo層571の微結晶化による表面粗さが増大する。このように、Mo層571の微結晶化による表面粗さが増大すると、第1の多層膜57上に形成されている第2の多層膜55の反射率が低下してしまう。その結果、多層膜反射鏡51の反射率が低下していたのである。
【0036】
そこで、本発明においては、第1多層膜において、Mo層の厚さをあまり厚くすることなくΓを大きくすることとした。すなわち、本発明の多層膜反射鏡では、第1多層膜のMo層の厚さは高反射率の第2多層膜のMo層の厚さと等しくされている。また、第1多層膜のSi層の厚さは第2多層膜のSi層の厚さより薄くなっている。
【0037】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態の例を説明する。
【0038】
図1は、本発明の実施の形態に係る多層膜反射鏡の構造を模式的に示す断面図である。この多層膜反射鏡61は、基板63と第2多層膜65の間に第1多層膜67が形成されているものである。第2多層膜65は、Mo層651とSi層653からなるMo/Si多層膜であり、周期長を7.2nm、Γを0.35、積層数を50層対として、高いX線反射率を得ることができるようになっている。
【0039】
一方、第1多層膜67は、Mo層671とSi層673からなるMo/Si多層膜であり、周期長を3.6nm、Γを0.7、積層数を88層対としている。なお、説明を簡単にするため、図では多層膜反射鏡の一部を水平化し、積層数を省略して示している。
【0040】
この多層膜反射鏡61では、第2多層膜65のMo層651の厚さは約2.5nm(7.2nm×0.35)である。また、第1多層膜67のMo層671の厚さは約2.5nm(3.6nm×0.7)であり、第2多層膜65のMo層651の厚さと等しくされている。なお、多層膜反射鏡の反射率に影響を与えないような範囲であれば、厚さがいくらか異なっていてもよい。また、第1多層膜の第1物質層(Mo層)の厚さを第2多層膜の第1物質層(Mo層)の厚さよりも薄くしてもよい。
【0041】
第1多層膜の第1物質層の厚さは、第2多層膜の応力を低減するために必要な応力や多層膜形成に要する手間などに応じて調整する必要がある。第1多層膜の第1物質層の厚さが第2多層膜の第1物質層の厚さの50%よりも薄くなると、多層膜の形成が容易でなくなったり、第2多層膜の応力を低減するために必要な応力が得られないことがある。また、必要な応力を得るために多層膜の積層数を大幅に増やすなど多層膜形成に手間がかかることになる。
【0042】
一方、第1多層膜の第1物質層の厚さが第2多層膜の第1物質層の厚さの120%よりも厚くなると、微結晶化による表面粗さの許容値(0.3nmRMS程度)を越えてしまい、多層膜反射鏡の反射率に影響を与えることになる。
【0043】
したがって、第1多層膜の第1物質層の厚さは、第2多層膜の第1物質層の厚さの50%?120%であることが好ましい。なお、第1多層膜の第1物質層の厚さを、第2多層膜の第1物質層の厚さの75%?115%とすることにより、より容易に多層膜を形成することができるとともに、より確実に表面粗さを許容値以下に抑えて反射率への影響を少なくすることができるので、より好ましい。
【0044】
ここで、多層膜反射鏡61のEUV反射率について考えてみる。Mo/Si多層膜の反射率は積層数とともに増加して一定の層数を越えると飽和して一定になる。第2多層膜65の積層数は40層対?50層対程度であり、反射率が飽和するのに十分な層数となっている。そのため、第2多層膜65の下にある第1多層膜67の周期長が、使用するEUVの波長に対して高い反射率を有するように設定されていなくても、多層膜反射鏡61のEUV反射率は高いまま維持される。
【0045】
また、第1多層膜67のMo層671の厚さは、第2多層膜65のMo層651の厚さと等しくされている。したがって、Mo層の厚さが厚くなることに起因する反射率の低下も生じない。このように、本発明に係る多層膜反射鏡61は、EUV反射率の低下が抑制され、高い反射率を有する。
【0046】
次に、多層膜反射鏡61の内部応力について考えてみる。第1多層膜67のように、Mo層の厚さを変えずにΓを大きくし、周期長が短くされている(例えば、3.6nm)多層膜であっても、Γが大きい多層膜は引っ張り応力を有することを確認した。したがって、圧縮応力を有する第2多層膜65と、引っ張り応力を有する第1多層膜67とを組み合わせることによって、多層膜反射鏡61の内部応力を低減することができる。このとき、同じ応力でも厚い膜ほど基板に与える力は大きいので、各多層膜の応力の大きさのみを考慮するのではなく、個々の多層膜の膜厚と応力の大きさの積である「全応力」を考慮するとよい。個々の多層膜の応力を測定した後、第2多層膜65の全応力と第1多層膜67の全応力とが釣り合うように、第1多層膜67の積層数を適切に選択すればよい。
【0047】
例えば、第2多層膜65の周期長をd2、積層数をN2、応力をS2とした場合、第2多層膜65の全応力T2は、
T2=d2×N2×S2
で表される。同様に、第1多層膜67の周期長をd1、積層数をN1、応力をS1とした場合、第1多層膜67の全応力T1は、
T1=d1×N1×S1
で表される。そこで、T1+T2=0となるように第1多層膜67の積層数N1を選択することにより、多層膜反射鏡61の内部応力を相殺することができる。ただし、応力は積層数によっても変化する場合があり、上記のように選択した積層数で完全に応力が相殺されない場合もある。この場合は、その残渣応力に応じて、第1多層膜67の積層数を調整する必要がある。なお、上述したように、第1多層膜67のMo層671の厚さを変えていないので、Mo層の厚さが厚くなることに起因する反射率の低下は生じない。
【0048】
このように、Mo層の厚さがほぼ等しくΓの異なる第2多層膜65と第1多層膜67とを組み合わせることで、反射率の低下を抑制した低内部応力の多層膜反射鏡を得ることができる。
【実施例1】
【0049】
本発明の実施例1においては、第2多層膜65及び第1多層膜67を、低圧放電カソード方式のロータリーマグネットカソードスパッタリング装置(直流マグネトロンスパッタリング装置の一種)を用いて形成した。成膜条件は、スパッタリングガスとしてキセノン(Xe)を用い、Xeガスフローを3sccm(0.08Pa)、カソードパワーをMoで200W、Siで400Wとした。第2多層膜65は、高いX線反射率を得ることができるように、周期長d2が7.2nm、Γが0.35、積層数N2が50層対のMo/Si多層膜とした。この第2多層膜65のEUV反射率を測定したところ、約69%であった。また、第2多層膜65の応力S2は、-350MPaの圧縮応力であった。
【0050】
第2多層膜65の圧縮応力を低減するために、引っ張り応力を有する第1多層膜67として、周期長d1が3.6nm、Γが0.7のMo/Si多層膜を選択した。この第1多層膜67のMo層671の厚さは、第2多層膜65のMo層651の厚さと等しくされている。第1多層膜67の応力S1を測定したところ、+400MPaの引っ張り応力であった。
【0051】
ここで、第1多層膜67の積層数N1の求め方について説明する。第2多層膜65及び第1多層膜67の応力に基づき、第1多層膜67の積層数N1を以下のようにして求めた。
【0052】
積層数が50層対の第2多層膜65の全応力T2は、
T2=d2×N2×S2
=(7.2nm)×(50)×(-350MPa)
=-126N/m
である。多層膜反射鏡61の内部応力を低減するための条件式T1+T2=0と、第1多層膜67の全応力T1を求める式T1=d1×N1×S1から、第1多層膜67の積層数N1は、
N1=(+126N/m)/{(3.6nm)×(+400MPa)}=87.5≒88
となる。なお、積層数N1は整数とする必要があるので、小数点以下を切り上げてN1=88層対となる。
【0053】
そこで、図1に示すように、基板63上に積層数が88層対の第1多層膜67を形成し、この第1多層膜67上に積層数が50層対の第2多層膜65を形成した。この多層膜反射鏡61の応力を測定したところ、20MPa以下に低減されていた。
【0054】
なお、さらに第1多層膜67の積層数N1を微調整することで、多層膜反射鏡61の応力をほとんどゼロにすることが可能である。また、多層膜反射鏡61の表面粗さは約0.26nmRMSであり、許容値(0.3nmRMS程度)以下に抑えられている。そして、多層膜反射鏡61の反射率は69%であり、反射率の低下はほとんど認められなかった。
【0055】
(比較例)
比較のために、従来の応力低減技術を用いて多層膜反射鏡を製造した場合の内部応力及び反射率を求めた。この従来の多層膜反射鏡は、例えば図5に示す多層膜反射鏡51である。
【0056】
多層膜反射鏡51の第2多層膜55は、本発明の多層膜反射鏡61の第2多層膜65と同様なものである。したがって、積層数が50層対の第2多層膜55の全応力T4は、
T4=(7.2nm)×(50)×(-350MPa)
=-126N/m
である。多層膜反射鏡51の内部応力を低減するために必要な第1多層膜57の積層数N3は、第1多層膜57の周期長d3を7.2nm、応力S3を+600MPaの引っ張り応力として、
N3=(+126N/m)/{(7.2nm)×(+600MPa)}≒30
となる。
【0057】
そこで、図5に示すように、基板53上に積層数が30層対の第1多層膜57を形成し、この第1多層膜57上に積層数が50層対の第2多層膜55を形成した。この多層膜反射鏡51の応力を測定したところ、応力は20MPa以下に低減されていた。しかし、多層膜反射鏡51の反射率は63%まで低下してしまった。これは、多層膜反射鏡51の第1多層膜57のMo層571の厚さが約5nm(7.2nm×0.7)と厚いため、Mo層の微結晶化により表面粗さが増大したためと考えられる。そこで、多層膜反射鏡51の表面粗さを測定したところ、約0.39nmRMSであり、表面粗さの許容値(0.3nmRMS程度)を越えていた。
【0058】
このように、従来の応力低減技術を用いた図5の多層膜反射鏡51は、反射率が低下してしまっているが、本発明の図1の多層膜反射鏡61は、高い反射率を維持したまま、応力を低減できていることが分かる。
【実施例2】
【0059】
本発明の実施例2においては、第2多層膜65及び第1多層膜67を、低圧放電カソード方式のロータリーマグネットカソードスパッタリング装置(直流マグネトロンスパッタリング装置の一種)を用いて形成した。成膜条件は、スパッタリングガスとしてキセノン(Xe)を用い、Xeガスフローを3sccm(0.08Pa)、カソードパワーをMoで200W、Siで400Wとした。第2多層膜65は、高いX線反射率を得ることができるように、周期長d2が7.2nm、Γが0.35、積層数N2が50層対のMo/Si多層膜とした。この第2多層膜65のEUV反射率を測定したところ、約69%であった。また、第2多層膜65の応力S2は、-350MPaの圧縮応力であった。
【0060】
第2多層膜65の圧縮応力を低減するために、引っ張り応力を有する第1多層膜67として、周期長d1が2.9nm、Γが0.75のMo/Si多層膜を選択した。この第1多層膜67のMo層671の厚さは、第2多層膜65のMo層651の厚さより薄くされている。第1多層膜67の応力S1を測定したところ、+300MPaの引っ張り応力であった。
【0061】
ここで、第1多層膜67の積層数N1の求め方について説明する。第2多層膜65及び第1多層膜67の応力に基づき、第1多層膜67の積層数N1を以下のようにして求めた。
【0062】
積層数が50層対の第2多層膜65の全応力T2は、
T2=d2×N2×S2
=(7.2nm)×(50)×(-350MPa)
=-126N/m
である。多層膜反射鏡61の内部応力を低減するための条件式T1+T2=0と、第1多層膜67の全応力T1を求める式T1=d1×N1×S1から、第1多層膜67の積層数N1は、
N1=(+126N/m)/{(2.9nm)×(+300MPa)}≒145
となる。
【0063】
そこで、図1に示すように、基板63上に積層数が145層対の第1多層膜67を形成し、この第1多層膜67上に積層数が50層対の第2多層膜65を形成した。この多層膜反射鏡61の応力を測定したところ、20MPa以下に低減されていた。なお、さらに第1多層膜67の積層数N1を微調整することで、多層膜反射鏡61の応力をほとんどゼロにすることが可能である。また、多層膜反射鏡61の表面粗さは約0.26nmRMSであり、許容値(0.3nmRMS程度)以下に抑えられている。そして、多層膜反射鏡61の反射率は69%であり、反射率の低下はほとんど認められなかった。
【実施例3】
【0064】
本発明の実施例3においては、第2多層膜65及び第1多層膜67を、低圧放電カソード方式のロータリーマグネットカソードスパッタリング装置(直流マグネトロンスパッタリング装置の一種)を用いて形成した。成膜条件は、スパッタリングガスとしてキセノン(Xe)を用い、Xeガスフローを3sccm(0.08Pa)、カソードパワーをMoで200W、Siで400Wとした。第2多層膜65は、高いX線反射率を得ることができるように、周期長d2が7.2nm、Γが0.35、積層数N2が50層対のMo/Si多層膜とした。この第2多層膜65のEUV反射率を測定したところ、約69%であった。また、第2多層膜65の応力S2は、-350MPaの圧縮応力であった。
【0065】
第2多層膜65の圧縮応力を低減するために、引っ張り応力を有する第1多層膜67として、周期長d1が4.6nm、Γが0.65のMo/Si多層膜を選択した。第1多層膜67の応力S1を測定したところ、+300MPaの引っ張り応力であった。
【0066】
ここで、第1多層膜67の積層数N1の求め方について説明する。第2多層膜65及び第1多層膜67の応力に基づき、第1多層膜67の積層数N1を以下のようにして求めた。
【0067】
積層数が50層対の第2多層膜65の全応力T2は、
T2=d2×N2×S2
=(7.2nm)×(50)×(-350MPa)
=-126N/m
である。多層膜反射鏡61の内部応力を低減するための条件式T1+T2=0と、第1多層膜67の全応力T1を求める式T1=d1×N1×S1から、第1多層膜67の積層数N1は、
N1=(+126N/m)/{(4.6nm)×(+300MPa)}≒92
となる。
【0068】
そこで、図1に示すように、基板63上に積層数が92層対の第1多層膜67を形成し、この第1多層膜67上に積層数が50層対の第2多層膜65を形成した。この多層膜反射鏡61の応力を測定したところ、20MPa以下に低減されていた。なお、さらに第1多層膜67の積層数N1を微調整することで、多層膜反射鏡61の応力をほとんどゼロにすることが可能である。また、多層膜反射鏡61の表面粗さは約0.29nmRMSであり、許容値(0.3nmRMS程度)以下に抑えられている。そして、多層膜反射鏡61の反射率は69%であり、反射率の低下はほとんど認められなかった。
【実施例4】
【0069】
本発明の実施例4においては、第2多層膜65及び第1多層膜67を、低圧放電カソード方式のロータリーマグネットカソードスパッタリング装置(直流マグネトロンスパッタリング装置の一種)を用いて形成した。成膜条件は、スパッタリングガスとしてキセノン(Xe)を用い、Xeガスフローを3sccm(0.08Pa)、カソードパワーをMoで200W、Siで400Wとした。第2多層膜65は、高いX線反射率を得ることができるように、周期長d2が7.2nm、Γが0.35、積層数N2が45層対のMo/Si多層膜とした。この第2多層膜65のEUV反射率を測定したところ、約69%であった。また、第2多層膜65の応力S2は、-350MPaの圧縮応力であった。
【0070】
第2多層膜65の圧縮応力を低減するために、引っ張り応力を有する第1多層膜67として、周期長d1が3.3nm、Γが0.7のMo/Si多層膜を選択した。この第1多層膜67のMo層671の厚さは、第2多層膜65のMo層651の厚さとほぼ等しくされている。第2多層膜67の応力S1を測定したところ、+408MPaの引っ張り応力であった。
【0071】
ここで、第1多層膜67の積層数N1の求め方について説明する。第2多層膜65及び第1多層膜67の応力に基づき、第1多層膜67の積層数N1を以下のようにして求めた。
【0072】
積層数が45層対の第2多層膜65の全応力T2は、
T2=d2×N2×S2
=(7.2nm)×(45)×(-350MPa)
≒-113N/m
である。多層膜反射鏡61の内部応力を低減するための条件式T1+T2=0と、第1多層膜67の全応力T1を求める式T1=d1×N1×S1から、第1多層膜67の積層数N1は、
N1=(+113N/m)/{(3.3nm)×(+408MPa)}≒84
となる。
【0073】
そこで、図1に示すように、基板63上に積層数が84層対の第1多層膜67を形成し、この第1多層膜67上に積層数が45層対の第2多層膜65を形成した。この多層膜反射鏡61の応力を測定したところ、20MPa以下に低減されていた。なお、さらに第1多層膜67の積層数N1を微調整することで、多層膜反射鏡61の応力をほとんどゼロにすることが可能である。例えば、第1多層膜67の積層数N1を130層対としたところ、多層膜反射鏡61の応力を-6MPaにまで低減することができた。また、多層膜反射鏡61の表面粗さは約0.26nmRMSであり、許容値(0.3nmRMS程度)以下に抑えられている。そして、多層膜反射鏡61の反射率は69%であり、反射率の低下はほとんど認められなかった。
【実施例5】
【0074】
次に、図1の多層膜反射鏡を搭載したX線露光装置の概要を図2を参照しつつ説明する。図2は、本発明のX線露光装置の全体構成を示す図である。
【0075】
このX線露光装置は、露光用の照明光として、波長13nm近傍の軟X線領域の光(以下、EUV光)を用いて、ステップアンドスキャン方式により露光動作を行う投影露光装置である。
【0076】
X線露光装置1の最上流部には、レーザ光源3が配置されている。レーザ光源3は、赤外域から可視域の波長のレーザ光を供給する機能を有し、例えば半導体レーザ励起によるYAGレーザやエキシマレーザ等を使用する。レーザ光源3から発せられたレーザ光は、集光光学系5により集光され、下部に配置されたレーザプラズマ光源7に達する。レーザプラズマ光源7は、波長13nm近傍のX線を効率よく発生することができる。
【0077】
レーザプラズマ光源7には、図示せぬノズルが配置されており、キセノンガスを噴出する。噴出されたキセノンガスはレーザプラズマ光源7において高照度のレーザ光を受ける。キセノンガスは、高照度のレーザ光のエネルギにより高温になり、プラズマ状態に励起され、低ポテンシャル状態へ遷移する際にEUV光を放出する。EUV光は、大気に対する透過率が低いため、その光路はチャンバ(真空室)9により覆われて外気が遮断されている。なお、キセノンガスを放出するノズルからデブリが発生するため、チャンバ9を他のチャンバとは別に配置する必要がある。
【0078】
レーザプラズマ光源7の上部には、Mo/Si多層膜をコートした回転放物面反射鏡11が配置されている。レーザプラズマ光源7から輻射されたX線は、放物面反射鏡11に入射し、波長13nm付近のX線のみが露光装置1の下方に向かって平行に反射される。
【0079】
回転放物面反射鏡11の下方には、厚さ0.15μmのベリリウム(Be)からなる可視光カットX線透過フィルター13が配置されている。放物面反射鏡11で反射されたX線の内、所望の13nmのX線のみが透過フィルター13を通過する。透過フィルター13付近は、チャンバ15により覆われて外気を遮断している。
【0080】
透過フィルター13の下方には、露光チャンバ33が設置されている。露光チャンバ33内の透過フィルター13の下方には、照明光学系17が配置されている。照明光学系17は、コンデンサー系の反射鏡、フライアイ光学系の反射鏡等で構成されており、透過フィルター13から入力されたX線を円弧状に整形し、図の左方に向かって照射する。
【0081】
照明光学系17の図の左方には、X線反射鏡19が配置されている。X線反射鏡19は、図の右側の反射面19aが凹型をした円形の回転放物円ミラーであり、保持部材により垂直に保持されている。X線反射鏡19は、反射面19aが高精度に加工された石英の基板からなる。反射面19aには、波長13nmのX線の反射率が高いMoとSiの多層膜が形成されている。なお、波長が10?15nmのX線を用いる場合には、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)等の物質と、Si、Be、四ホウ化炭素(B4C)等の物質とを組み合わせた多層膜でもよい。
【0082】
X線反射鏡19の図の右方には、光路折り曲げ反射鏡21が斜めに配置されている。光路折り曲げ反射鏡21の上方には、反射型マスク23が、反射面が下になるように水平に配置されている。照明光学系17から放出されたX線は、X線反射鏡19により反射集光された後に、光路折り曲げ反射鏡21を介して、反射型マスク23の反射面に達する。
【0083】
反射型マスク23の反射面にも多層膜からなる反射膜が形成されている。この反射膜には、ウェハ29に転写するパターンに応じたマスクパターンが形成されている。反射型マスク23は、その上部に図示されたマスクステージ25に固定されている。マスクステージ25は、少なくともY方向に移動可能であり、光路折り曲げ反射鏡21で反射されたX線を順次マスク23上に照射する。
【0084】
反射型マスク23の下部には、順に投影光学系27、ウェハ29が配置されている。投影光学系27は、複数の反射鏡等からなり、反射型マスク23上のパターンを所定の縮小倍率(例えば1/4)に縮小し、ウェハ29上に結像する。ウェハ29は、XYZ方向に移動可能なウェハステージ31に吸着等により固定されている。
【0085】
露光チャンバ33にはゲートバルブ35を介して予備排気室37(ロードロック室)が設けられている。予備排気室37には真空ポンプ39が接続しており、真空ポンプ39の運転により予備排気室37は真空排気される。
【0086】
露光動作を行う際には、照明光学系17により反射型マスク23の反射面にEUV光を照射する。その際、反射投影光学系27に対して反射型マスク23及びウェハ29を投影光学系の縮小倍率により定まる所定の速度比で相対的に同期走査する。これにより、反射型マスク23の回路パターンの全体をウェハ29上の複数のショット領域の各々にステップアンドスキャン方式で転写する。なお、ウェハ29のチップは例えば25×25mm角であり、レジスト上で0.07μmL/SのICパターンが露光できる。
【0087】
X線露光装置1の反射鏡として、図1に示すような多層膜反射鏡61を用いることにより、光学性能を劣化させることなく高い反射率を有するX線露光装置を提供することができ、スループットの低下を抑制することが可能となる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-01-29 
結審通知日 2014-02-04 
審決日 2014-02-19 
出願番号 特願2005-506748(P2005-506748)
審決分類 P 1 113・ 113- YA (H01L)
P 1 113・ 121- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 勉  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
北川 清伸
登録日 2009-08-14 
登録番号 特許第4356696号(P4356696)
発明の名称 多層膜反射鏡及びX線露光装置  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 吉田 和彦  
代理人 片山 健一  
代理人 岸 慶憲  
代理人 大野 聖二  
代理人 須田 洋之  
代理人 片山 健一  
代理人 谷口 信行  
代理人 上杉 浩  
代理人 大野 聖二  
代理人 辻居 幸一  
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