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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1291252
審判番号 不服2013-23235  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-27 
確定日 2014-09-10 
事件の表示 特願2009-203558「ラックマウントユニット及びラックユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月17日出願公開、特開2011- 54824、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る特許出願(以下,「本願」と言う。)は,平成21年9月3日の特許出願であって,平成25年9月9日付けで拒絶査定がされ(送達日:平成25年9月11日),これに対して,平成25年11月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされたものである。
その後,平成25年12月20日付けで審査官による前置審査の報告があった。
そして,当審において,平成26年6月11日付けで特許法第36条第6項第2号の規定に基づいて拒絶理由を通知し,平成26年8月11日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の請求項に係る発明
本願の請求項1?4に係る発明は,平成26年8月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲1?4に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認める(以下,その請求項1に係る発明を「本願発明」と言う。)。
「 【請求項1】
電子機器をラックに実装するラックマウントユニットであって,
前面と,前記前面に対向して配設された背面と,前記前面と前記背面とを繋ぐ側面によって略筒状に構成される筒状部と,を有するラックマウントキット本体と,
前記筒状部から延出し,前記電子機器を前記筒状部に並設させて支持する支持部材と,
前記筒状部の前記電子機器が並設される面及び前記前面に各々形成された吸気口と,
前記背面に形成された排気口と,
前記ラックマウントキット本体内に配置されて,前記吸気口から前記ラックマウントキット本体内に外気を導入する吸気ファン,及び/又は,前記ラックマウントキット本体内に配置されて,前記ラックマウントキット本体内の気体を前記排気口から排出する排気ファンと,を備え,
前記支持部材は,前記筒状部の前記電子機器が並設される面の下端から延出する,ラックマウントユニット。
【請求項2】
前記ラックマウントキット本体の少なくとも前記前面に,前記ラックに形成された複数の取付孔の任意の一つに固定される固定部が形成され,
前記固定部が前記任意の一つの取付孔に固定された際に,残りの取付孔の少なくとも一つが前記吸気口に重なって連通する,請求項1に記載のラックマウントユニット。
【請求項3】
前記固定部は,前記前面の上部及び下部に各々形成され,当該両固定部が前記任意の一つの取付孔に各々固定された際に,当該任意の取付孔同士の間に形成されている残りの取付孔が,前記前面に形成された吸気口に重なって連通する,請求項2に記載のラックマウントユニット。
【請求項4】
支柱を有するラックと,請求項1ないし3のいずれか一項に記載の前記ラックマウントユニットを1対と,有するラックユニットであって,
1対の前記ラックマウントユニットは,各々の前記支持部材同士が互いに水平方向に対向するように前記支柱に実装されている,ラックユニット。」
3.拒絶理由の概要
(1)原査定の拒絶の理由の概要
請求項1,4に係る発明は,特開2007-272293号公報に記載された発明及び特開2009-71006号公報に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)当審で通知した拒絶の理由の概要
本願の請求項4の記載は,「請求項1ないし3のいずれか一項に記載のラックマウントキット」についてさらに限定せんとするものであるものの,ラックマウント本体と支持部材とを有するユニットを2つ合わせてなる物は,もはや「ラックマウントキット」とは観念し得ず,全体として,ラックマウントキット自体としての構成が不明となっているから,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4.原査定の拒絶の理由について
(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2007-272293号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
筐体側壁にガイドレール装置と側壁開口部とを備え,
前記ガイドレール装置は,前記筐体側壁に固定されたインナーレールと,このインナーレールを遊挿するアウターレールとからなり,
このアウターレールは,前記インナーレールが遊挿されるガイド部と,このガイド部の上下方向に平行して設けられ,正面側から背面側に通気可能でかつ前記筐体側壁側に開口した横断面凹字状の冷却流路部とを有し,
前記アウターレールは,前記冷却流路部が前記側壁開口部に面するように設けられ,前記冷却流路部と筐体内とが前記側壁開口部を介して通気可能にされたことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記電子機器のアウターレールは,ラックに固定されることを特徴とする請求項1記載の電子機器。」
・「【0017】
[第1の実施形態]
図1は,本発明に係る電子機器の第1実施形態10の外観を示す斜視図である。図2は,本発明に係る電子機器の第1実施形態10の内部構造を簡略化して示す斜視図である。図2は,電子機器10の一部を破断するとともに,筐体頂面パネル27を取り除いた状態で示す。
【0018】
図1に示された電子機器10は,キャビネット型のサーバーラックに設置可能なラックサーバーの例であるが,電子機器10は,キャビネット型以外のサーバーラックに設置可能なラックサーバーであってもよく,ラックサーバー以外のサーバーや,サーバー以外のたとえば音響機器等の電子機器であってもよい。
【0019】
電子機器10は,電子機器本体11とガイドレール装置20とから構成される。
【0020】
電子機器本体11は,筐体12の正面パネル13に,挿入式のHDD(ハードディスクドライブ)55,FDD(フロッピー(登録商標)ディスクドライブ)56,CD(コンパクトディスク)ドライブ57およびテープ装置58が配置されている。
【0021】
正面パネル13には,筐体12内を冷却する空気を取り入れる正面開口部17が設けられる。
【0022】
正面開口部17は,正面パネル13のうち,HDD55,FDD56,CDドライブ57およびテープ装置58を配置していないスペースに設けられる。
【0023】
なお,電子機器10は,ガイドレール装置20を介して空気を筐体12内に導入することが可能であるため,適宜,正面開口部17を設けない構成としてもよい。
【0024】
電子機器本体11は,筐体12の内部にたとえばCPU等の発熱体50,50を有する。電子機器10の発熱体50の数は2個に限られず,1個でも3個以上でもよい。
【0025】
電子機器本体11は,筐体12の背面パネル15に,筐体12の内部の暖められた空気を,背面パネル15を介して筐体12の外部に放出する背面ファン51を有する。
【0026】
電子機器10は,筐体12の側壁14にガイドレール装置20と側壁開口部18とを備える。
【0027】
側壁開口部18は,筐体12の側壁14に設けられる貫通穴であり,筐体12内とガイドレール装置20の冷却流路部33との間の通気を可能にする。
【0028】
なお,図1には,側壁開口部18が,左右の側壁14,14に1箇所ずつ設けられているが,適宜,左右の側壁14,14に複数箇所ずつ設ける構成としてもよいし,左右いずれかの側壁14に1箇所だけ設ける構成としてもよい。
【0029】
ガイドレール装置20について,図面を参照して説明する。図3は,ガイドレール装置20を示す斜視図である。図4は,図1のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。
【0030】
ガイドレール装置20は,筐体側壁14に固定されたインナーレール21と,インナーレール21を遊挿するアウターレール30とから構成される。
【0031】
インナーレール21は,アウターレール30のガイド部32に掛合し,スライドしてアウターレール30内に収納可能になっている。
【0032】
インナーレール21は,平板状のインナーレール本体22と,インナーレール本体22から突設されたインナーレールの第1ガイド片23および第2ガイド片24とを有する。
【0033】
第1ガイド片23はインナーレール本体22の下方から側面に下方に屈曲した形状で突設され,第2ガイド片24はインナーレール本体22の上方から側面に上方に屈曲した形状で突設される。
【0034】
第1ガイド片23は,横断面が下方に開口したC字状になっており,C字状の凹部に摺動溝25が形成される。第2ガイド片24は,横断面が上方に開口したC字状になっており,C字状の凹部に摺動溝26が形成される。
【0035】
第1ガイド片23および第2ガイド片24の横断面がそれぞれC字状に形成されることより,インナーレール21は横断面がπ字状になっている。
【0036】
なお,インナーレール21は,アウターレール30のガイド部32に遊挿可能な形状であればよく,図4に示すような形状のものに限定されない。
【0037】
インナーレール21は,たとえば,ねじ止めや接着等により,筐体12の側壁14に固定される。
【0038】
アウターレール30は,インナーレール21が遊挿されるガイド部32と,ガイド部32の上下方向に平行して設けられた冷却流路部33とを有する。
【0039】
ガイド部32は,平板状のアウターレール本体31と,アウターレール本体31の表面の下部から突設されたアウターレールの第1ガイド片34と,アウターレール本体31の表面の中部から突設されたアウターレールの第2ガイド片35とを有する。
【0040】
第1ガイド片34は横断面がL字状になっており,アウターレール本体31の表面の下部から垂直方向に突設された底面部34aと,底面部34aから直角方向に屈曲し上方に延設された先端部34bとから構成される。
【0041】
第2ガイド片35は横断面がL字状になっており,アウターレール本体31の表面の中部から垂直方向に突設された頂面部35aと,頂面部35aから直角方向に屈曲し下方に延設された先端部35bとから構成される。
【0042】
第1ガイド片34の先端部34bと第2ガイド片35の先端部35bとは対向して形成され,アウターレール本体31,第1ガイド片34および第2ガイド片35で囲まれた部分にガイド空間36が形成される。
【0043】
アウターレール30のガイド部32は,第1ガイド片34の先端部34bにインナーレール21の摺動溝25が掛合し,第2ガイド片35の先端部35bにインナーレール21の摺動溝26が掛合することにより,インナーレール21が遊挿されるようになっている。
【0044】
なお,アウターレール30のガイド部32は,インナーレール21を遊挿可能な形状であればよく,図4に示すような形状のものに限定されない。
【0045】
電子機器10は,インナーレール21がアウターレール30に収納された図1に示す状態からインナーレール21を一部突出させると,たとえば図2に示す状態になる。
【0046】
冷却流路部33は,平板状のアウターレール本体31と,アウターレール本体31の表面の上部から突設された庇部41と,アウターレール本体31の表面の中部から横断面L字状に突設されたアウターレールの第2ガイド片35とを有する。
【0047】
冷却流路部33は,アウターレール本体31,庇部41および第2ガイド片35で囲まれた部分に,筐体側壁14側に開口した横断面凹字状の冷却流路42を有する。
【0048】
冷却流路42には,筐体12内に導入または筐体12から排出して筐体12内を冷却する空気が流通可能になっている。
【0049】
庇部41は,アウターレール本体31の表面から庇部41の先端部までの長さが,アウターレール本体31の表面から第2ガイド片35の先端部35bまでの長さと,インナーレール本体22の厚さとの合計値と略同じになっている。
【0050】
庇部41の長さがこのようになっているため,庇部41の先端部は,アウターレール30にインナーレール21を収納した状態で,筐体側壁14の近傍に位置するようになっている。
【0051】
庇部41の先端部が筐体側壁14の近傍に位置することにより,筐体側壁14側に開口した横断面凹字状の冷却流路42は,筐体側壁14にも囲まれて実質的に四方に囲まれた空間を形成し,電子機器10の正面側から背面側に通気可能になっている。
【0052】
アウターレール30は,冷却流路部33が側壁開口部18に面するように設けられる。ここで,冷却流路部33が側壁開口部18に面するとは,冷却流路部33に形成される冷却流路42と側壁開口部18との間で空気の交換が可能な位置関係にあることを意味する。図4に,冷却流路部33が側壁開口部18に面する位置関係の一例を示す。
【0053】
アウターレール30は,サーバーラックに固定可能になっている。アウターレール30は,正面側と背面側のそれぞれに,サーバーラック内に立設されたラック支柱に係合可能なラック取り付け部38が設けられる。ラック取り付け部38は,ラック取り付け用穴39が形成される。
【0054】
図6は,サーバーラックにガイドレール装置20のアウターレール30を取り付けた様子を示す斜視図である。図7は,サーバーラックに電子機器10を取り付けた様子を示す斜視図である。
【0055】
サーバーラック70は,天板71,側板72,底板73,側板74,正面扉75および背面扉76を備えたボックス状のキャビネットであり,サーバーラック70内部の底板73の四隅から立設される4本のラック支柱77,77,77,77を備える。
【0056】
ラック支柱77には,複数個のラック支柱穴78が設けられており,奥行き方向に配置された2本のラック支柱77,77の間にアウターレール30を掛け渡し,ラック支柱77,77のラック支柱穴78,78と,アウターレール30の前後のラック取り付け用穴39,39とを,ボルト40,40でそれぞれ固定することにより,サーバーラック70にアウターレール30を固定することができるようになっている。
【0057】
サーバーラック70に固定されたアウターレール30のガイド部32に,筐体側壁14に固定されたインナーレール21を挿入し,スライドして収納させると,図7に示すように,電子機器本体11はサーバーラック70に固定される。
【0058】
図7には,電子機器10がサーバーラック70に1台だけ固定された様子を示すが,電子機器10は,サーバーラック70の縦方向に複数台積み重ねるように配置して固定することができる。
【0059】
サーバーラック70は,適宜,サーバーラック70内に空気を導入するファンや,サーバーラック70内から空気を排出するファンが設けられる。
【0060】
次に,電子機器10の作用を説明する。図8は,電子機器10を示す拡大斜視図である。図9は,電子機器10の作用を説明する斜視図である。図8および図9は,筐体頂面パネル27を取り除いた状態で示す。
【0061】
初めに,電子機器10が使用され,発熱体50,50等が発熱する等により,図9に示す背面ファン51が稼動すると,筐体12内の空気が背面ファン51から筐体12外に排出される(矢印Z)。
【0062】
筐体12内の空気が筐体12外に排出されると,筐体12内部が負圧になるため,筐体12外から,正面パネル13の正面開口部17を介して空気が導入される(矢印X,矢印Y)。
【0063】
インナーレール21がアウターレール30のガイド部32に収納されている場合は,正面開口部17からの空気の導入(矢印X,矢印Y)に加えて,ガイドレール装置20の冷却流路部33の正面側から空気が導入され(矢印P),ガイドレール装置20の冷却流路部33の背面側から空気が排出される(矢印S)。
【0064】
ガイドレール装置20の冷却流路部33を空気が矢印Pから矢印Sの方向に通過する際に,筐体12内の負圧が冷却流路部33内の負圧よりも大きい場合は,側壁開口部18を介して冷却流路部33内から筐体12内に空気が導入される(矢印Q)。
【0065】
一方,ガイドレール装置20の冷却流路部33を空気が矢印Pから矢印Sの方向に通過する際に,筐体12内の負圧が冷却流路部33内の負圧よりも小さい場合は,側壁開口部18を介して筐体12内から冷却流路部33内に空気が排出される(矢印R)。
【0066】
通常は,筐体12内の負圧のほうが冷却流路部33内の負圧よりも大きいため,ガイドレール装置20の冷却流路部33内の空気が筐体12内に導入される(矢印Q)。
【0067】
しかし,たとえば,筐体12内の正面パネル13の近傍に,正面開口部17からの空気の導入を強める図示しない内部ファンを取り付けた場合には,筐体12内の負圧のほうが冷却流路部33内の負圧よりも小さくなり,筐体12内の空気が冷却流路部33に排出される(矢印R)ことがある。
【0068】
電子機器10によれば,ラック内に配置される電子機器の側面のスペースを用いて電子機器の側面の通気が可能になるため,側面の通気ができない電子機器よりも冷却効率が向上するとともに電子機器の側面のスペースを有効活用することができる。」

・図8の記載内容及び段落【0063】?【0066】の記載事項を踏まえれば,ガイドレール装置20の正面側から吸気され,背面側から排気され,電子機器本体11が並設される側から吸気あるいは排気されることが把握できる。

以上の事項を整理し,本願発明にならって表現すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」と言う。)。
「電子機器本体(11)をサーバーラック(70)に取り付けるガイドレール装置(20)であって,
インナーレール(21)と,このインナーレールを遊挿するアウターレール(30)とからなり,
このアウターレール(30)は,前記インナーレール(21)が遊挿されるガイド部(32)と,このガイド部(32)の上下方向に平行して設けられ,正面側から背面側に通気可能で横断面凹字状の冷却流路部(42)とを有し,
正面側から吸気され,背面側から排気され,電子機器本体(11)が並設される側から吸気あるいは排気されるものである,ガイドレール装置(20)。」

(2)本願発明について
(2-1)本願発明と刊行物1記載の発明との対比
ア.刊行物1記載の発明の「電子機器本体(11)」,「サーバーラック(70)」,「取り付ける」は,それぞれ,本願発明の「電子機器」,「ラック」,「実装する」に相当する。
イ.刊行物1記載の発明の「アウターレール(30)」は,図3等の図面の記載内容も参酌すると,正面と背面が取り付け部38として構成されていて,それら取り付け部38は,図6,7のようにサーバーラック70に取り付けられるものであるから,アウターレール(30)は,正面と,前記正面に対向して配設された背面と,前記前面と前記背面とを繋ぐ側面とを有するものであると認識できる。
そうすると,刊行物1記載の発明の「アウターレール(30)」と,本願発明の「前面と,前記前面に対向して配設された背面と,前記前面と前記背面とを繋ぐ側面によって略筒状に構成される筒状部と,を有するラックマウントキット本体」とは,「前面と,前記前面に対向して配設された背面と,前記前面と前記背面とを繋ぐ側面によって構成されるラックマウントキット本体」と言う限りで共通する。
ウ.刊行物1記載の発明においては,電子機器本体(11)が「インナーレール(21)」と「アウターレール(30)」の「ガイド部(32)」とにより支持されるものであるから,「インナーレール(21)」と「アウターレール(30)」の「ガイド部(32)」により「支持部材」が構成されていると言える。
エ.刊行物1記載の発明の「正面側から吸気され,背面側から排気され,」とは,正面と背面にそれぞれ吸気口,排気口が形成されていると解することができるから,本願発明の「前記前面に・・・形成された吸気口と,・・・前記背面に形成された排気口と,・・・を備え,」に相当する。
また,刊行物1記載の発明の「電子機器本体(11)が並設される側から吸気あるいは排気されるものである,」と本願発明の「前記筒状部の前記電子機器が並設される面・・・に・・・形成された吸気口と,・・・を備え,」とは,「前記電子機器が並設される面側から吸気できるものである,」と言う限りで共通する。
オ.刊行物1記載の発明の「ガイドレール装置(20)」は,本願発明の「ラックマウントユニット」に相当する。
カ.以上を踏まえると,両者の一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
「電子機器をラックに実装するラックマウントユニットであって,
前面と,前記前面に対向して配設された背面と,前記前面と前記背面とを繋ぐ側面によって構成されるラックマウントキット本体と,
支持部材と,
前記前面に形成された吸気口と,
前記背面に形成された排気口と,を備え,
前記電子機器が並設される面側から吸気されるものである,ラックマウントユニット。」
[相違点1]
ラックマウントキット本体について,本願発明では,略筒状に構成されるものであるのに対して,刊行物1記載の発明では,そのような構成を備えていない点。
[相違点2]
支持部材について,本願発明は,ラックマウントキット本体の筒状部から延出し,前記電子機器を前記筒状部に並設させて支持するものであって,前記筒状部の前記電子機器が並設される面の下端から延出するものとされているのに対して,刊行物1記載の発明では,インナーレールとラックマウントキット本体(アウターレール)のガイド部とから構成されるものである点。
[相違点3]
本願発明は,筒状部の電子機器が並設される面に吸気口が形成されたものであるのに対して,刊行物1記載の発明では,電子機器(電子機器本体)が並設される側から吸気あるいは排気されるものである点。
[相違点4]
本願発明では,ラックマウントキット本体内に,吸気口から前記ラックマウントキット本体内に外気を導入する吸気ファン,及び/又は,前記ラックマウントキット本体内の気体を排気口から排出する排気ファンが配置されるのに対して,刊行物1記載の発明では,そのような構成を備えていない点。
(2-2)相違点についての判断
ア.相違点1及び2について
(ア)原査定の拒絶の理由に刊行物1とともに引用文献2として示された特開2009-71006号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
4本の支柱を有するラックキャビネットの前後の支柱間を連結するように搭載ブラケットが取付けられ,前記搭載ブラケットに引き出し可能で2本以上のメンバーからなるスライドレールを介して搭載される電子機器であって,前記電子機器は側面に排気用の開口が設けられ,前記スライドレールは,機器収納状態で,前記機器の開口に合致する位置に各メンバーを貫通する開口が設けられ,前記搭載ブラケットは筒状のダクトを形成しており,かつ,その機器取付面側には,前記電子機器および前記スライドレールの開口に合致した位置に開口が設けられ,かつ,機器の奥行きより後方には,ダクトの開口が設けられていることを特徴とするラックマウント型電子機器の冷却構造。」
・「【0023】
電子機器2は,正面開口3より吸気し背面開口4および側面開口5より排気する冷却構造を有している。
【0024】
電子機器2は引き出し可能なスライドレール6を介して,搭載ブラケット8にてラックキャビネットの支柱1に搭載される。
【0025】
スライドレール6はアウターメンバー6a,インナーメンバー6b,ドロアーメンバー6cからなり,長手方向にスライド可能な構造であり,それぞれのメンバーには,スライドレールを収納した状態で,電子機器2の側面開口5に一致した位置に貫通するようにスライドレール開口7が設けられている。
【0026】
搭載ブラケット8は,前方ブラケット8aと後方ブラケット8bからなり,それぞれの両端には,ラックキャビネットの支柱1に取り付けるためのねじ部11が設けられている。前方ブラケット8aは筒状に形成され,ねじ部11の反対面側は開放状態である。長さは電子機器2の奥行き寸法以上の長さになっている。また,スライドレール6の取付面には,スライドレール開口7に合致した位置にブラケット入気口9が設けられている。後方ブラケット8bはコ字型に形成され,ねじ部11の反対側が前方ブラケット8aの筒状の中にスライド可能なように挿入されている。これにより,ブラケット排気口10が形成される。
【0027】
搭載ブラケット8は両端のねじ部11によってラックキャビネットの前後の支柱1に取付けられる。このとき,前方ブラケット8aと後方ブラケット8bがスライドすることで前後の支柱1の間隔に合わせて搭載できる構造となっている。スライドレール6のアウターメンバー6aは前方ブラケット8aに取付けられ,ドロアーメンバー6cは電子機器2の側面に取付けられる。これによって,電子機器2はラックキャビネットから引き出し可能な状態で搭載される。
【0028】
電子機器2が収納状態のとき,側面開口5より排出された空気は,スライドレール6のスライドレール開口7を通り,搭載ブラケット8にブラケット入気口9より入気され,後方ブラケット8bのコ字形状で形成されたブラケット排気口10より排気される。
【0029】
本実装形態により,一般的なラックマウント電子機器の搭載と同等の形態で電子機器の側面排気を機器背面へ導けるという効果がある。また,搭載ブラケット8は長さ調整可能に実装されているので,前後の支柱1の間隔の異なるラックキャビネットにも搭載できるという効果がある。また,前方ブラケット8aの長さが電子機器2の奥行き以上を確保しているため,ブラケット排気口10は,常に電子機器2より背面に形成されるという効果がある。」
(イ)刊行物2には,特にその請求項1の記載事項を中心に見れば,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「刊行物2記載の発明」と言う。)。
「4本の支柱を有するラックキャビネットの前後の支柱間を連結するように搭載ブラケットが取付けられ,前記搭載ブラケットに引き出し可能で2本以上のメンバーからなるスライドレールを介して搭載される電子機器であって,前記電子機器は側面に排気用の開口が設けられ,前記スライドレールは,機器収納状態で,前記機器の開口に合致する位置に各メンバーを貫通する開口が設けられ,前記搭載ブラケットは筒状のダクトを形成しており,かつ,その機器取付面側には,前記電子機器および前記スライドレールの開口に合致した位置に開口が設けられ,かつ,機器の奥行きより後方には,ダクトの開口が設けられているラックマウント型電子機器の冷却構造。」
この刊行物2記載の発明にあっては,「搭載ブラケット」は,刊行物1記載の発明における「アウターレール」に相当するものであって,しかも,全体的な形状としては,“正面と,前記正面に対向して配設された背面と,前記正面と前記背面とを繋ぐ側面によって略筒状に構成される筒状部と,を有する”と評することができるものである。
また,刊行物2記載の発明にあっては,電子機器は,搭載ブラケットとスライドレールにより支持されていると言うことができ,その「スライドレール」は,刊行物1記載の発明における「インナーレール」に相当するものである。
(ウ)ところで,刊行物1記載の発明のアウターレールは,インナーレールが遊挿されるガイド部と,当該ガイド部の上下方向に平行して設けられ,正面側から背面側に通気可能で横断面凹字状の冷却流路部とを有するものである。
このガイド部は,別部材であるインナーレールと合わせて用いられることで電子機器本体の支持の役割を果たすものであり,また,冷却流路部は,通気の役割を果たすものであるから,アウターレールは,支持と通気の機能を担うものと言うことができる。
(エ)刊行物1記載の発明,特にそのアウターレールの構成について,刊行物2記載の発明の発明の搭載ブラケットの構成の適用を試みることは,当業者にとって容易であると判断するが,適用した結果の具体的な構成としては,刊行物1記載の発明のアウターレール,インナーレールをそれぞれ刊行物2記載の発明の搭載ブラケット,スライドレールに置き換えたものと考えられる。
ここで,本願発明では,上記相違点2で指摘したように,その支持部材は,ラックマウントキット本体の筒状部であって電子機器が並設される面の下端から延出するものとされているが,刊行物2記載の発明の筒状部を有する搭載ブラケットには,本願発明で言う支持部材に相当する構成は備わっていない。なお,刊行物1記載の発明のアウターレールのガイド部は,アウターレールの下側,あるいは,下端に位置するものと解することまでは可能であるが,本願発明で言う筒状部の下端から延出するものには当たらない。
したがって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用したとしても,上記相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項,とりわけ支持部材の構成が導かれるものではない。
(オ)電子機器を支持するための構成について,審査官による平成25年12月20日付けでの前置審査の報告には,特開2002-171084号公報,実願昭63-146515号(実開平2-67696号)のマイクロフィルムが挙げられている。
それらには,本願発明で言うラックマウントキット本体に相当する物においてその下端から延出する部位があって,当該部位の上で電子機器が支持されることが記載されており,そのような構成で電子機器を支持すること自体は,周知であると言っても良い。
しかし,かかる周知の構成は,もとより通気の機能を備えないものであるから,刊行物1記載の発明においては,そのような周知の構成を念頭に置いたとしても,上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項が容易に導き出せるものではない。
(カ)なお,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用するに当たり,アウターレールの横断面凹字状の冷却流路部のみを筒状部にすることも考えられなくはないが,アウターレールには,支持の役割を果たすためのガイド部があって,それが残ることになるところ,それとは別に支持の役割を果たす搭載ブラケットの構成が持ち込まれることになるので,支持のための構成という観点から見て整合性を失うことになる。すなわち,そのような構成の改変は,技術的に合理的とは言い難いので,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用すればアウターレールの横断面凹字状の冷却流路部のみを筒状部にする構成が得られるとすることは,適当ではない。
イ.相違点3及び4について
(ア)既に「ア.(エ)」で述べたように,刊行物1記載の発明のアウターレール全体を筒状に構成する改変は,当業者にとって容易になし得たことと判断するが,そのような構成を採用すると,同時に,本願発明と同様に,「筒状部の前記電子機器が並設される面」に空気が流通する口が形成されることになる。
刊行物1記載の発明では,ラックマウントキット本体の筒状部の電子機器本体が並設される側から吸気も排気もできるものとなっているが,これを特に吸気に限らせるようなことは,他のファンの配置等とも関係するものの,当業者にとって適宜採用し得る範囲内の事項と言える。
そうすると,刊行物1記載の発明において上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を採用することは,当業者が容易になし得たことと言うことができる。
(イ)また,刊行物1記載の発明が属する技術分野において,通気のためにファンを配置することは,その刊行物1の段落【0025】,【0059】にも記載があるように,当業者にとって周知の技術的事項と言える。
刊行物1記載の発明の場合,アウターレールの冷却流路部は,その全長にわたり開口するものであるが,その内部にファンを配置すれば通気性が向上すると言うことは,当業者にとって容易に着想し得たことである。
そうすると,刊行物1記載の発明において上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項を採用することは,当業者が容易になし得たことと言うことができる。
また,刊行物2記載の発明の搭載ブラケットの内部にファンを配置することも当業者にとって容易に着想し得たことであり,既に「ア.(エ)」で述べたように刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用した際に,更に上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項を採用することも,当業者が容易になし得た域を出ることではない。
ウ.以上を総合すると,本願発明の発明特定事項は,当業者が刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて容易に案出し得たものではない。
そして,本願発明は,その発明特定事項によって,明細書に記載されるような効果を奏することができるものである。
したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本願の請求項4に係る発明について
本願の請求項4に係る発明は,本願発明の発明特定事項を全て含むラックマウントユニットを1対と支柱を有するラックとを組み合わせてなるものである。
刊行物1にも,刊行物2にも,本願発明で言う「ラックマウントユニット」に相当する物を1対と支柱を有するラックとを組み合わせることの開示があるのだが,既に検討したように,本願発明に係るラックマウントユニット自体が刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは言えないものであるのだから,それが1対あって支柱を有するラックとを組み合わされてなる請求項4に係る発明も,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと言うことはできない。

5.当審で通知した拒絶の理由について
平成26年8月11日に提出された手続補正書により,請求項4の記載は,「2.本願発明」に記載したとおりに補正され,当該請求項に係る「ラックユニット」は,支柱を有するラックと,請求項1ないし3のいずれか一項に記載の前記「ラックマウントユニット」を1対とを有するものであることが明瞭になり,同請求項に係る発明を特定する上での不備は解消した。
したがって,本願は,当審において通知した拒絶理由で指摘した特許法第36項第6項第2号に規定する要件を満たすものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明及び本願の請求項4に係る発明は,いずれも,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは言えず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。また,本願は,特許法第36項第6項第2号に規定する要件を満たさないものでもない。
したがって,本願については,原査定の拒絶の理由又は当審で通知した拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-08-29 
出願番号 特願2009-203558(P2009-203558)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川内野 真介  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 矢島 伸一
新海 岳
発明の名称 ラックマウントユニット及びラックユニット  
代理人 大貫 敏史  
代理人 土屋 徹雄  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  

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