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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B |
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管理番号 | 1291337 |
審判番号 | 不服2013-11526 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-19 |
確定日 | 2014-08-28 |
事件の表示 | 特願2011-526004「車上診断方法及び車上診断システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日国際公開、WO2010/027303、平成24年 1月26日国内公表、特表2012-502221〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年9月8日を国際出願日とする出願であって、平成23年3月1日に国内書面並びに明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、平成24年4月25日付けで拒絶理由が通知され、平成24年10月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年2月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年6月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成25年8月14日付けで書面による審尋がされたものである。 第2 平成25年6月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成25年6月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 (1)本件補正の内容 平成25年6月19日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記Aに示す本件補正前の(すなわち、平成24年10月5日に提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし9を、下記Bに示す請求項1ないし8へと補正するものである。 A 「 【請求項1】 車両内の給気の漏れを検出する車上診断方法であって、前記車両において、空気は、可変配置を有するタービン(54)によって圧縮されて、燃焼エンジン(20)に送り込まれ、前記方法において、 前記エンジン(20)に燃料を供給せずに、前記エンジン(20)に圧縮空気を送るステップと、 前記タービン(54)の羽根の配置を変えるアクチュエータの位置を監視することによって、前記タービン(54)の実際の羽根の配置を特定するステップと、 アクチュエータの位置を監視することによって、前記タービン(54)の現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップと、 実際のブースト圧(104)を測定するステップと、 前記推定されたブースト圧と、前記測定されたブースト圧(104)とを比較するステップとが実行される方法。 【請求項2】 前記測定されたブースト圧(104)と前記推定されたブースト圧の差が所定の値より大きい場合に、漏れが存在すると判定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記推定されたブースト圧は、前記エンジン(20)のエンジンブレーキが動作している状態にある間に特定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 前記エンジン(20)を通る実際の空気流量から、少なくとも前記測定されたブースト圧(104)を導出することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか1項に記載の車上診断方法に対応したシステムであって、可変配置タービン(54)の現在の羽根の配置から推定ブースト圧を特定して、推定ブースト圧と実測されたブースト圧(104)とを比較する計算ユニット(70)が設けられる、システム。 【請求項6】 請求項5に記載のシステムを含む車両。 【請求項7】 コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムコードは、前記コンピュータプログラムがプログラム可能なマイクロコンピュータ上で実行されたときに、請求項1?4のいずれか1項に係る方法を実行する、又は前記方法に利用するように構成される、コンピュータプログラム。 【請求項8】 インターネットに接続されたコンピュータ上で実行されたときに、制御ユニット又はその構成要素の1つにダウンロードされるように構成される、請求項7に記載のコンピュータプログラム。 【請求項9】 コンピュータ可読媒体に格納され、コンピュータ上で、請求項1?4のいずれか1項に係る方法に利用するプログラムコードを含む、コンピュータプログラム製品。」 B 「 【請求項1】 車両内の給気の漏れを検出する車上診断方法であって、前記車両において、空気は、可変配置を有するタービン(54)によって圧縮されて、燃焼エンジン(20)に送り込まれ、前記方法において、 前記エンジン(20)に燃料を供給せずに、前記エンジン(20)に圧縮空気を送るステップと、 前記タービン(54)の羽根の配置を変えるアクチュエータの位置を監視するための位置センサ(58)によって、前記タービン(54)の実際の羽根の配置を特定するステップと、 アクチュエータの位置を監視することによって得られる前記タービン(54)の現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップと、 実際のブースト圧(104)を測定するステップと、 前記推定されたブースト圧と、前記測定されたブースト圧(104)とを比較するステップと、 前記測定されたブースト圧(104)と前記推定されたブースト圧の差が所定の値より大きい場合に、漏れが存在すると判定するステップとが実行される方法。 【請求項2】 前記推定されたブースト圧は、前記エンジン(20)のエンジンブレーキが動作している状態にある間に特定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記エンジン(20)を通る実際の空気流量から、少なくとも前記測定されたブースト圧(104)を導出することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の車上診断方法に対応したシステムであって、可変配置タービン(54)の現在の羽根の配置から推定ブースト圧を特定して、推定ブースト圧と実測されたブースト圧(104)とを比較する計算ユニット(70)が設けられる、システム。 【請求項5】 請求項4に記載のシステムを含む車両。 【請求項6】 コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムコードは、前記コンピュータプログラムがプログラム可能なマイクロコンピュータ上で実行されたときに、請求項1?3のいずれか1項に係る方法を実行する、又は前記方法に利用するように構成される、コンピュータプログラム。 【請求項7】 インターネットに接続されたコンピュータ上で実行されたときに、制御ユニット又はその構成要素の1つにダウンロードされるように構成される、請求項6に記載のコンピュータプログラム。 【請求項8】 コンピュータ可読媒体に格納され、コンピュータ上で、請求項1?3のいずれか1項に係る方法に利用するプログラムコードを含む、コンピュータプログラム製品。」 (下線は、本件補正箇所を示すために、請求人が付したものである。) (2)本件補正の目的要件について 本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項1を引用して記載する請求項2における「前記タービン(54)の羽根の配置を変えるアクチュエータの位置を監視することによって、前記タービン(54)の実際の羽根の配置を特定するステップ」という発明特定事項について、本件補正後に「前記タービン(54)の羽根の配置を変えるアクチュエータの位置を監視するための位置センサ(58)によって、前記タービン(54)の実際の羽根の配置を特定するステップ」とし、アクチュエータの位置を監視するための具体化手段として「位置センサ」という技術的事項を付加して本件補正前の上記発明特定事項を限定するとともに、本件補正後の請求項1とするものである。 そして、本件補正前の請求項2に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 2 刊行物 (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特開2007-23977号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 内燃機関の吸気通路と、該吸気通路内の圧力を検出する圧力検出装置とを含む内燃機関吸気系の異常検出装置において、 前記機関は吸入される空気を加圧するコンプレッサと、該コンプレッサに連結され、前記機関の排気の運動エネルギにより回転駆動されるタービンとを備え、前記圧力検出装置は、前記コンプレッサの下流側に設けられており、 前記タービンの状態量及び前記機関の排気流量に基づいて、前記吸気通路内の前記コンプレッサ下流側の圧力推定値を算出する圧力推定手段と、 前記圧力検出装置により検出された圧力検出値と、前記圧力推定手段により算出される圧力推定値との偏差が所定閾値以上のとき、前記吸気系が異常と判定する判定手段とを備えることを特徴とする内燃機関吸気系の異常検出装置。 【請求項2】 前記圧力推定手段は、前記タービンのベーン開度及び前記排気流量に基づいて、前記圧力推定値を算出することを特徴とする内燃機関吸気系の異常検出装置。」(【請求項1】及び【請求項2】) イ 「【0005】 本発明はこの点に着目してなされたものであり、可変容量型過給機を備える内燃機関の吸気系の異常を迅速かつ確実に検出することができる異常検出装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】) ウ 「【0010】 以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。 図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関と、その制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下「エンジン」という)1は、シリンダ内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンであり、各気筒に燃料噴射弁9が設けられている。燃料噴射弁9は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)20に電気的に接続されており、燃料噴射弁9の開弁時間及び開弁時期は、ECU20により制御される。 【0011】 エンジン1は、吸気管2,排気管4、及びターボチャージャ8を備えている。ターボチャージャ8は、排気の運動エネルギにより回転駆動されるタービンホイール10を有するタービン11と、タービンホイール10とシャフト14を介して連結されたコンプレッサホイール15を有するコンプレッサ16とを備えている。コンプレッサホイール15は、エンジン1に吸入される空気の加圧(圧縮)を行う。 【0012】 タービン11は、タービンホイール10に吹き付けられる排気ガスの流量を変化させるべく開閉駆動される複数の可変ベーン12(2個のみ図示)及び該可変ベーンを開閉駆動するアクチュエータ(図示せず)を有しており、可変ベーン12の開度(以下「ベーン開度」という)VOを変化させることにより、タービンホイール10に吹き付けられる排気ガスの流量を変化させ、タービンホイール10の回転速度を変更できるように構成されている。可変ベーン12を駆動するアクチュエータは、ECU20に接続されており、ベーン開度VOは、ECU20により制御される。より具体的には、ECU20は、デューティ比可変の制御信号をアクチュエータに供給し、これによってベーン開度VOを制御する。なお、可変ベーンを有するターボチャージャの構成は広く知られており、例えば特開平1-208501号公報に示されている。 ・・・ 【0015】 吸気管2には、吸入空気流量MAを検出する吸入空気流量センサ21、及びコンプレッサ16の下流側の吸気圧(過給圧)PBを検出する吸気圧センサ22が設けられている。また、排気管4には、タービン11の下流側であってDPF17の上流側における排気温度T4を検出する排気温度センサ23、及びDPF17の上流側圧力と下流側圧力との差圧DPDPFを検出する差圧センサ24が設けられている。さらに、タービン11には可変ベーン12の開度VOを検出するベーン開度センサ25が設けられている。これらのセンサ21?25は、ECU20と接続されており、センサ21?25の検出信号は、ECU20に供給される。 【0016】 エンジン1により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ26、エンジン回転数(回転速度)NEを検出するエンジン回転数センサ27、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ28、並びにエンジン1の吸気温TA及び冷却水温TWを検出するセンサ(図示せず)が、ECU20に接続されており、これらのセンサの検出信号は、ECU20に供給される。 ・・・ 【0020】 ECU20は、さらに図2に示す処理により、吸気圧センサ22の異常を含むエンジン1の吸気系の異常の有無を判定し、異常が検出されたときは、例えば警告ランプ(図示せず)を点灯させる。ここで「吸気系の異常」は、吸気圧センサ22の異常、吸気管2や排気還流通路5の孔あき、及びターボチャージャ8の動作不良を含むものとする。」(段落【0010】ないし【0020】) エ 「【0021】 図2のステップS11では、異常判定の実行条件が成立しているか否かを判別する。 ・・・ 【0024】 ステップS13では、可変ベーンの開度VOを計測し、次いで下記式(4)により、吸気圧推定値PBESTを算出する(ステップS14)。 PBEST=PBESTB+PA (4) ここで、PBESTBは、ステップS12で算出される排気流量QEと、検出したベーン開度VOとに応じて、PBESTBマップを検索することにより算出される吸気圧基本値であり、PAは検出された大気圧である。PBESTBマップは、排気流量QEが増加するほど、またベーン開度VOが減少するほど、吸気圧基本値PBESTBが増加するように設定されている。 【0025】 ステップS15では、吸気圧推定値PBEST及び検出吸気圧PBを下記式(5)に適用し、偏差DPBを算出する。 DPB=|PBEST-PB| (5) ステップS16では、偏差DPBが所定閾値DPTH(例えば10?20kPa)以上であるか否かを判別し、この答が肯定(YES)であるときは、吸気系の異常があると判定する(ステップS17)。一方、偏差DPGが所定閾値DPTHより小さいときは、吸気系は正常と判定する(ステップS18)。 【0026】 以上のように本実施形態では、検出したベーン開度VO及び式(1)により算出される排気流量QEに基づいて、吸気圧推定値PBESTが算出され、吸気圧センサ22により検出された検出吸気圧PBと、吸気圧推定値PBESTとの偏差DPBが所定閾値DPTH以上のとき、吸気系が異常と判定される。すなわち、ベーン開度VO及び排気流量QEの寄与度合が反映された吸気圧推定値PBESTと、検出吸気圧PBと偏差DPBに基づく異常判定が行われるので、例えば検出吸気圧PBを目標吸気圧PBCMDに収束させる制御を行っているような場合でも、異常検出が可能となり、可変容量型ターボチャージャを備えるエンジンの吸気系の異常を迅速且つ確実に検出することができる。 【0027】 また、ベーン開度VO及び排気流量QEに基づいて、吸気圧推定値PBESTが算出されるので、ベーン開度VO及び排気流量QEに依存して変化する吸気圧を正確に推定する ことができる。」(段落【0021】ないし【0027】) (2)引用文献1の記載から分かること 上記(1)エの記載及び図2の異常を検出する処理のフローチャートの記載における制御内容は、方法といえるものであるから、上記(1)アないしエ並びに図1及び2から、車両において、空気は、可変ベーン12を開閉駆動するアクチュエータを有するタービン11によって圧縮されて、内燃機関に送り込まれること、並びに、異常検出方法が、車両の内燃機関の吸気管2の孔あき又はターボチャージャー8の動作不良を検出するものであることが分かる。 (3)引用文献1に記載された発明 上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「車両の内燃機関の吸気管2の孔あき又はターボチャージャー8の動作不良を検出する異常検出方法であって、車両において、空気は、開閉駆動する可変ベーン12を有するタービン11によって圧縮されて、内燃機関に送り込まれ、前記方法において、 タービン11の可変ベーンを開閉駆動するアクチュエータを備え、 タービン11の可変ベーン12の開度を検出するベーン開度センサ25により、可変ベーンの開度を計測し、 可変ベーンの開度を計測することによって得られるタービン11の可変ベーン12の開度及び排気流量から吸気圧推定値を算出し、 検出吸気圧を吸気圧センサ22により検出し、 吸気圧推定値と、検出吸気圧との偏差を算出し、 検出吸気圧と吸気圧推定値との偏差が所定閾値以上のとき、吸気管2の孔あき又はターボチャージャー8の動作不良を検出する方法。」 (4)引用文献2の記載 原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特開2006-46246号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 タービンへの排気ガス供給容量を変え得る可変容量機構を備える可変容量ターボ過給機を備えたターボ過給機の異常検出装置において、 車両の減速時に前記可変容量機構を所定位置に設定し、かつその時の過給圧に基づいて前記可変容量ターボ過給機の異常を検出する異常検出手段を備えたことを特徴とするターボ過給機の異常診断装置。 【請求項2】 前記異常検出手段は、 前記可変容量ターボ過給機による過給圧を検出する過給圧検出手段と、 前記所定位置に基づいて設定された正常圧力範囲と前記過給圧を比較する過給圧比較手段と、 前記過給圧が前記正常圧力範囲にない場合に、異常時間を積算する時間積算手段と、 前記時間積算手段による積算時間が異常判断時間を超えた場合に前記可変容量ターボ過給機に異常が発生していると判断する異常判断手段と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のターボ過給機の異常診断装置。 【請求項3】 前記時間積算手段は、 前記積算時間を記憶する積算時間記憶手段を備え、 前記積算時間が前記異常判断時間を超える前に前記車両の減速が終了した場合には、次回の減速時に記憶された前記積算時間に加算することを特徴とする請求項2に記載のターボ過給機の異常診断装置。 【請求項4】 前記正常圧力範囲は前記所定値での下限過給圧と上限過給圧の間の圧力であることを特徴とする請求項2または3に記載のターボ過給機の異常診断装置。 【請求項5】 前記所定位置は前記可変容量機構が全閉位置であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のターボ過給機の異常診断装置。 【請求項6】 前記可変容量ターボ過給機の異常検出は前記車両のエンジンへのフューエルカット時に行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のターボ過給機の異常診断装置。」(【請求項1】ないし【請求項6】) イ 「【0006】 本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、使用頻度が高く、可変容量ターボ過給機の運転状態が比較的安定している減速時にノズルベーンの異常診断を行うことで、異常診断を行う頻度を多くし、ノズルベーンの異常診断を正確に行うことを目的とする。」(段落【0006】) ウ 「【0009】 本発明の実施形態の構成を図1の概略図を用いて説明する。この実施形態はディーゼルエンジン(以下、エンジン)1を搭載した車両について説明するが、ディーゼルエンジンを搭載した車両に限定するものではない。 【0010】 1はエンジン、2は排気通路、3は吸気通路であり、エンジン1に接続する排気通路2と吸気通路3のコレクタ部3aとを結ぶEGR通路4が設けられ、EGR通路4の途中には、圧力制御弁(図示しない)からの制御圧力に応動するダイヤフラム式のEGR弁6を備えている。圧力制御弁は、エンジンコントローラ31からのデューティ制御信号により駆動されるもので、これによって運転条件に応じた所定のEGR率を得るようにしている。 【0011】 エンジン1はコモンレール式の燃料噴射装置10を備える。この燃料噴射装置10は、主に燃料タンク(図示しない)、サプライポンプ14、蓄圧室(コモンレール)16、気筒毎に設けられるノズル17からなり、サプライポンプ14により加圧された燃料は蓄圧室16にいったん蓄えられたあと、蓄圧室16の高圧燃料が気筒数分のノズル17に分配される。 【0012】 ノズル17(燃料噴射弁)は、詳しくは図示しないが、針弁、ノズル室、ノズル室への燃料供給通路、リテーナ、油圧ピストン、リターンスプリングなどからなり、油圧ピストンへの燃料供給通路に介装される三方弁(図示しない)が介装されている。三方弁(電磁弁)のOFF時には、針弁が着座状態にあるが、三方弁がON状態になると針弁が上昇してノズル先端の噴孔より燃料が噴射される。つまり三方弁のOFFからONへの切換時期により燃料の噴射開始時期が、またON時間により燃料噴射量が調整され、蓄圧室16の圧力が同じであればON時間が長くなるほど燃料噴射量が多くなる。また、減速時には所定の条件を満たすとエンジン1の燃費を向上するために三方弁をOFFとしてノズル17からの燃料噴射量をゼロとする。 【0013】 EGR通路4の開口部下流の排気通路2に、排気の熱エネルギーを回転エネルギーに変換するタービン22と吸気を圧縮するコンプレッサ23とを同軸で連結した可変容量ターボ過給機21を備える。タービン22のスクロール入口に、アクチュエータ25により駆動される可変ノズル24(可変容量機構)が設けられ、エンジンコントローラ31により、可変ノズル24は低回転速度域から所定の過給圧が得られるように、低回転速度側ではタービン22に導入される排気の流速を高めるノズル開度(絞り状態)に、高回転速度側では排気を抵抗なくタービン22に導入させるノズル開度(全開状態)に制御する。」(段落【0009】ないし【0013】) エ 「【0020】 ステップS102では、エンジン回転速度Neを予め設定された異常診断回転速度Ne1とNe2と比較する。異常診断回転速度Ne1はこの実施形態で可変ノズル24の異常判断を行う下限エンジン回転速度であり、異常診断回転速度Ne2はこの実施形態で可変ノズル24の異常判断を行う上限エンジン回転速度である。そしてエンジン回転速度Neが、 Ne1<Ne<Ne2 式(1) を満たしているか、つまりエンジン回転速度Neが可変ノズル24の異常診断を行うための異常診断回転速度内にあるかどうか判断する。さらに燃料噴射量Qがゼロ、つまりフューエルカットを行っているかどうか判断する。そしてエンジン回転速度Neが式(1)の条件を満たしており、かつ燃料噴射量Qがゼロの場合には、ステップS103に進み可変ノズル24の異常判断を行い、それ以外の場合にはステップS108へ進む。エンジン回転速度Neが式(1)を満たしている場合には、エンジン回転速度Neが変化した場合でも、タービン22の回転速度がさほど変化しない。つまりコンプレッサ23による過給圧Pがさほど変化せずに過給圧Pを安定的に検出することができる。 【0021】 車両の減速時にエンジン回転速度Neが決められた異常診断回転速度内であり、かつノズル17から燃料噴射を行っていない場合に、可変ノズル24の異常診断を行うことでEGR及び吸気スロットルなどの外乱による影響を少なくし、可変ノズル24の異常判断を正確に行うことができる。」(段落【0020】及び【0021】) (5)引用文献2に記載された発明 上記(4)並びに図1及び2の記載から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 「可変容量ターボ過給機の異常検出を、車両のエンジンへのフューエルカット時に行い、外乱による影響を少なくし、異常判断を正確に行う手段。」 3 対比 本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「車両の内燃機関の吸気管2の孔あき又はターボチャージャー8の動作不良を検出する異常検出方法」は、その機能又は技術的意義からみて、本願補正発明の「車両内の給気の漏れを検出する車上診断方法」に相当し、以下同様に、「アクチュエータにより開閉駆動される可変ベーン12を有するタービン11」は「可変配置を有するタービン(54)」に、「内燃機関」は「燃焼エンジン(20)」に、「タービン11」は「タービン(54)」に、「可変ベーン」は「羽根」に、「開閉駆動する」は「配置を変える」に、「アクチュエータ」は「アクチュエータ」に、「検出吸気圧を吸気圧センサ22により検出し」は「実際のブースト圧(104)を測定するステップ」に、「吸気圧推定値と、検出吸気圧の偏差を算出し」は「前記推定されたブースト圧と、前記測定されたブースト圧(104)とを比較するステップ」に、「検出吸気圧と吸気圧推定値との偏差が所定閾値以上のとき、吸気管2の孔あき又はターボチャージャー8の動作不良を検出する」は「前記測定されたブースト圧(104)と前記推定されたブースト圧の差が所定の値より大きい場合に、漏れが存在すると判定するステップ」に、それぞれ相当する。 そして、引用発明1における「タービン11の可変ベーンを開閉駆動するアクチュエータを備え、タービン11の可変ベーン12の開度を検出するベーン開度センサ25により、可変ベーンの開度を計測し、可変ベーンの開度を計測することによって得られるタービン11の可変ベーン12の開度及び排気流量から吸気圧推定値を算出し」は、本願補正発明における「前記タービン(54)の羽根の配置を変えるアクチュエータの位置を監視するための位置センサ(58)によって、前記タービン(54)の実際の羽根の配置を特定するステップと、アクチュエータの位置を監視することによって得られる前記タービン(54)の現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップ」に、「タービンの現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップ」という限りにおいて一致する。 したがって、本願補正発明と引用発明1とは、 「車両内の給気の漏れを検出する車上診断方法であって、車両において、空気は、可変配置を有するタービンによって圧縮されて、燃焼エンジンに送り込まれ、前記方法において、 タービンの現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップと、 実際のブースト圧を測定するステップと、 推定されたブースト圧と、測定されたブースト圧とを比較するステップと、 測定されたブースト圧と推定されたブースト圧の差が所定の値より大きい場合に、漏れが存在すると判定するステップとが実行される方法。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本願補正発明においては、エンジン(20)に燃料を供給せずに、エンジン(20)に圧縮空気を送るステップを有するのに対し、引用発明1においては、当該ステップについて不明である点(以下、「相違点1」という)。 (相違点2) タービンの現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップについて、本願補正発明においては、タービン(54)の羽根の配置を変えるアクチュエータの位置を監視するための位置センサ(58)によって、タービン(54)の実際の羽根の配置を特定するステップと、アクチュエータの位置を監視することによって得られるタービン(54)の現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップであるのに対し、引用発明1においては、タービン11の可変ベーンを開閉駆動するアクチュエータを備え、タービン11の可変ベーン12の開度を検出するベーン開度センサ25により、可変ベーンの開度を計測し、可変ベーンの開度を計測することによって得られるタービン11の可変ベーン12の開度及び排気流量から吸気圧推定値を算出する点(以下、「相違点2」という)。 4 判断 (1)相違点1について 引用発明1及び引用発明2は、ターボ過給気を備える内燃機関という同一の技術分野に属し、更に、ターボ過給機を含め吸気系の異常を検出する装置であることで、機能が共通するものである。また、正確な異常判断が出来るように異常判断手段を構成することは、普遍的な技術課題であるといえる。そうすると、引用発明1の吸気管2の孔あき又はターボチャージャー8の動作不良を検出する異常判断方法において、燃料を供給しないことで異常判断をより正確に判断することの出来る引用発明2の手段を採用して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。 (2)相違点2について 引用文献1には、可変ベーンを開閉駆動するアクチュエータついて記載されているものの、可変ベーン12の開度を検出するベーン開度センサ25を設ける箇所についての具体的な説明はない。しかしながら、可変ベーン(羽根)の開度をアクチュエータの位置で検出することは周知技術(例として、特開2001-12252号公報[特に、段落【0014】及び【0015】並びに図1及び2]参照。)であるから、引用発明1における可変ベーンの開度検出を、アクチュエータの位置検出によるものとすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。 したがって、引用発明1及び周知技術に基づき、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。 なお、本願補正発明における「タービン(54)の現在の羽根の配置からブースト圧を推定するステップ」という発明特定事項は、他の検出値等をも用いて推定することを排除するものとはいえず、引用発明1における「タービン11の可変ベーン12の開度及び排気流量から吸気圧推定値を算出する」ことを包含するものであることは明らかである。仮に、引用発明1における「排気流量」を用いることで本願補正発明と相違するとしても、引用文献1には、「PBESTBマップは、排気流量QEが増加するほど、またベーン開度VOが減少するほど、吸気圧基本値PBESTBが増加するように設定されている。」(上記2(1)エの段落【0024】)と記載されており、当該マップを、ベーン開度に基づく吸気圧(ブースト圧)の推定マップとすることに、当業者の格別の創意は要しないといえる。 そして、本願補正発明を全体として検討しても、その作用効果は、引用発明1及び2並びに周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明1及び2並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 平成25年6月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、上記第2[理由]1(1)A【請求項1】及び【請求項2】のとおりのものである。 1 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献1及び2については、上記第2[理由]2に記載したとおりである。 2 対比・判断 本願発明1については、上記第2で検討した本願補正発明から、「位置センサ(58)」及び「前記測定されたブースト圧(104)と前記推定されたブースト圧の差が所定の値より大きい場合に、漏れが存在すると判定するステップ」という限定事項を省いたものである。 また、本願発明2については、上記第2で検討した本願補正発明から、「位置センサ(58)」という限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明1及び2を特定する事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2[理由]4で述べたとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1及び2も、同様の理由により、引用発明1及び2並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 むすび 以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明1及び2並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-03-28 |
結審通知日 | 2014-04-01 |
審決日 | 2014-04-14 |
出願番号 | 特願2011-526004(P2011-526004) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F02B)
P 1 8・ 121- Z (F02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石黒 雄一 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 藤原 直欣 |
発明の名称 | 車上診断方法及び車上診断システム |
代理人 | 重信 和男 |
代理人 | 秋庭 英樹 |
代理人 | 堅田 多恵子 |
代理人 | 清水 英雄 |
代理人 | 小椋 正幸 |
代理人 | 高木 祐一 |
代理人 | 溝渕 良一 |