ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B |
---|---|
管理番号 | 1291479 |
審判番号 | 不服2013-14206 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-24 |
確定日 | 2014-09-04 |
事件の表示 | 特願2008-252405「選択ガス透過性フィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年4月15日出願公開、特開2010-82867〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成20年9月30日の出願であって、平成25年5月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年7月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に同日付けで特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がなされたものである。 第2.平成25年7月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 本件補正を却下する。 〔理由〕 1.補正の目的及び本願補正発明 (1)請求項1の補正 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、次の《補正前》の記載から《補正後》の記載にする補正を含んでいる。 《補正前》 基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5?50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムであって、前記蒸着膜が、化学気相蒸着法によって有機酸化珪素を供給してなる蒸着膜であり、前記ガスバリア性フィルムを2?7%伸長させてなることを特徴とする、選択ガス透過性フィルム。 《補正後》 基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5?50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムであって、 前記蒸着膜が、化学気相蒸着法によって有機酸化珪素を供給してなる蒸着膜であり、 前記ガスバリア性フィルムを、ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にし、更に、延伸ロールにてフィルム流れ方向に、フィルムの移送速度を、0.1?10m/分、温度10?50℃の雰囲気下で2?7%伸長させてなること を特徴とする、選択ガス透過性フィルム。 (2)補正の目的等 請求項1の補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である「ガスバリア性フィルムを2?7%伸長させてなる」について限定する「(ガスバリア性フィルムを)ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にし、更に、延伸ロールにてフィルム流れ方向に、フィルムの移送速度を、0.1?10m/分、温度10?50℃の雰囲気下で」との事項を付加するものである。 そして、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。 したがって、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2.引用刊行物の記載事項 (1)引用例1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-225918号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の記載がある。 (ア)「【請求項1】プラスチック材料からなる基材の片面もしくは両面に、厚さ5?300nmの無機酸化物からなる蒸着薄膜層とヒートシール性を有する熱可塑性樹脂からなるシーラント層を少なくとも含む積層体であって、極性分子からなるガス透過性を保持したまま、無極性分子からなるガス透過性を制御することができることを特徴とする選択ガス透過性包装材料。 【請求項2】前記無機酸化物からなる蒸着薄膜層に微細なクラックを形成して、極性分子からなるガス透過性を保持したまま、無極性分子からなるガス透過性を制御することができることを特徴とする請求項1記載の選択ガス透過性包装材料。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、食品、非食品の雰囲気調整(MA:Modified Atmosphere)包装分野に用いられる包装材料に関するもので、極性分子からなるガス、特に水蒸気透過性を保持したままで、無極性分子からなるガス、特に酸素透過性を任意に制御可能な包装材料に関するものである。 【0002】 【従来の技術】近年、食品、非食品の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制しそれらの機能や性質を保持するために、包装材料を透過する酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体による影響をコントロールすることが求められている。特に、使い捨てカイロなどの包装では、充填材の吸湿劣化を抑えつつ、発生ガスを拡散させうる(つまり、水蒸気を通さず、水素を通す)ような包装材料が求められている。……」 (ウ)「【0021】図1は、本発明の一例としての選択ガス透過性包装材料の構成を示した断面図である。図に示すように、基材2はプラスチック材料からなるフィルムであり、その上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層3、ガスバリア性被膜層4が順次積層されている。さらに、その上にヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層5が積層されている構成の例を示したものである。 【0022】本発明で用いられる基材1は、プラスチック材料であり、蒸着薄膜層の透明性を生かすために透明なフィルムが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)……等が挙げられる。…」 (エ)「【0025】本発明における無機酸化物からなる薄膜層3は、酸化アルミニウム、酸化珪素……のいずれか、或いはそれらの混合物などの無機酸化物の蒸着膜からなり、透明性を有し、かつ酸素、水蒸気等のガスバリア性を有するものであればよい。その中では、特にガスバリア性を考慮すると酸化アルミニウム及び酸化珪素が好ましい。ただし、本発明の薄膜層は、上述した無機酸化物に限定されず、上記条件に適合する材料であれば用いることができる。 【0026】蒸着層の厚さは、用いられる無機化合物の種類・構成により最適条件が異なるが、一般的には5?300nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし、膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない恐れがある。また、膜厚が300nmを越える場合は、薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがある。蒸着層の厚さは、好ましくは、10?150nmの範囲内である。」 (オ)「【0034】本発明の選択ガス透過性包装材料を構成する無機酸化物からなる蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、ゲルボフレックス装置を用いた捻りと圧縮を組み合わせた方法がある。ゲルボフレックス装置において、最初の87.5mmで440゜螺旋回転運動で、積層体に捻りを与え、その後62.5mmの直線水平運動で圧縮を与えることが出来る。このサイクル数を変化させることで、応力を制御出来る。その応力の度合に応じて、無機酸化物からなる蒸着薄膜層にサブミクロンオーダーの微細なクラックを形成することで、無極性分子からなるガス透過性が、任意に制御可能な選択ガス透過性包装材料が得られるものである。一方、極性分子からなるガス透過度は、蒸着薄膜層に微細なクラックが生じても大きく変化することがないので、極性分子からなるガスの透過度はそのまま保持される。」 (カ)「【0039】〈実施例1〉基材1として、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に、電子線加熱方式による真空蒸着方式により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、厚さ約20nmの酸化アルミニウム蒸着層2を形成した。さらにその上に下記組成のコーティング剤をグラビアコート法で塗布し、乾燥厚さ0.4μmのガスバリア性被膜層3を形成した蒸着フィルムを得た。得られた蒸着フィルムのガスバリア性被膜層3上に、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層4として、厚さ60μmの低密度ポリエチレンフィルムを2液硬化型ウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により積層し包装材料を作製した。」 (キ)「【0040】この積層体にゲルボフレックス・テスターにより、応力を加えた。応力の度合いとして、ゲルボフレックス・テスターのフレックス回数を0回、10回、100回、200回と変化させたときの無極性分子からなるガス透過率として酸素透過率と極性分子からなるガス透過率として水蒸気透過率を下記の測定法に基づいて測定した。その結果を表1に示す。 ……… 【0042】〈比較例1〉実施例1において、透明セラミック蒸着層2をPVdCコーティングとし、バリアコーティング層3を無くした以外は、実施例1と同様にして包装材料を得た。 ……… 【0044】【表1】 ┌────┬───────┬────────┬────────┐ │ 実施例 │フレックス回数│ 酸素透過率 │ 水蒸気透過率 │ │ │ (回) │ (kg/m^(2)/sec/Pa) │ (kg/m^(2)/sec/Pa) │ ├────┼───────┼────────┼────────┤ │実施例1│ 0 │8.15×10^(-18)│4.68×10^(-13)│ │ ├───────┼────────┼────────┤ │ │ 10 │3.28×10^(-16)│5.81×10^(-13)│ │ ├───────┼────────┼────────┤ │ │ 100 │1.12×10^(-15)│1.12×10^(-12)│ │ ├───────┼────────┼────────┤ │ │ 200 │4.31×10^(-12)│1.12×10^(-12)│ ├────┼───────┼────────┼────────┤ │比較例1│ 0 │9.78×10^(-16)│1.87×10^(-11)│ │ ├───────┼────────┼────────┤ │ │ 10 │1.01×10^(-15)│2.06×10^(-11)│ │ ├───────┼────────┼────────┤ │ │ 100 │1.14×10^(-15)│2.25×10^(-11)│ │ ├───────┼────────┼────────┤ │ │ 200 │1.39×10^(-15)│2.62×10^(-11)│ └────┴───────┴────────┴────────┘ 」 (ク) 段落0025に記載された酸化珪素の蒸着膜を形成するには、有機珪素化合物、金属珪素、珪素酸化物等の「珪素源」を供給する必要があることが、当業者に自明である。 (2)引用発明 上記記載事項及び図1から見て、引用例1に開示されていると認められる発明を、技術常識に従い本願補正発明の記載に倣って整理すれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 《引用発明》 プラスチックフィルムに、珪素源を供給してなる厚さ10?150nmの酸化珪素蒸着膜を形成した選択ガス透過性包装材料であって、 前記選択ガス透過性包装材料の蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成した選択ガス透過性包装材料。 (3)引用例2の記載事項 同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2007/036980号(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の記載がある。 (ア)「[0007]……金属又は金属化合物を蒸着した金属蒸着フィルムや一酸化珪素(SiO)などの珪素酸化物薄膜、酸化マグネシウム(MgO)薄膜を蒸着した蒸着フィルムは、ガスバリア層として用いられる無機化合物の薄膜が可撓性に欠けており、揉みや折り曲げに弱く、また基材との密着性が悪いため、取り扱いに注意を要し、とくに印刷、ラミネート、製袋など包装材料の後加工の際にクラックを発生し、ガスバリア性が著しく低下するという問題がある。」 (イ)「[0011]そこで、本発明は、ガスバリア性に優れているとともに、可撓性にも優れ、フィルムが伸長した際にもガスバリア性の劣化を低く抑えることの可能なガスバリア性積層フィルムを提供することを目的とする。 [0012]本発明の一態様によると、高分子フィルム基材と、この高分子フィルム基材の一方の面に形成されたガスバリア性無機蒸着層と、このガスバリア性無機蒸着層上に形成されたガスバリア性被覆層とを具備するガスバリア性積層フィルムにおいて、積層フィルムを5%伸長した際の酸素透過度が、伸長する前の酸素透過度の1.5倍以下であるような酸素バリア性を有することを特徴とするガスバリア性積層フィルムが提供される。」 (ウ)「[0023]基材2上に形成される、第1層であるガスバリア性無機蒸着層3は、珪素、アルミニウム……などの酸化物……の単体、或いはそれらの複合物からなり、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)などの真空プロセスにより形成される。……」 (エ)「[0041]〔実施例1〕 厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートからなる基材の上面に酸化アルミニウムを15nmの厚さに蒸着し、さらにその上に、テトラエトキシシラン〔Si(OC_(2)H_(5))_(4):以下、TEOSとする〕とポリビニルアルコールを含むコーティング剤をバーコーターにより塗布し、乾燥機で120℃で1分間乾燥させ、膜厚約1μmの被膜を形成し、ガスバリア性積層フィルムを得た。 [0042]〔比較例1〕 厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートからなる基材の上面に酸化アルミニウムを15nmの厚さに蒸着し、ガスバリア性積層フィルムを得た。 [0043]実施例1及び比較例1に係るガスバリア性積層フィルムを長手方向に伸長し、伸長後のガスバリア性を求め、比較した。……その結果を下記表1及び表2に示す。 [0044]なお、表1は、伸長後の酸素バリア性を、表2は、伸長後の水蒸気透バリア性をそれぞれ示す。また、図2及び図3は、表1及び表2を、伸長度を横軸に、透過度を縦軸にプロットしたものである。 [表1] 表1 ┌────────────┬───────┐ │伸長度 実施例1 │ 比較例1 │ ├────────────┼───────┤ │(%) cc/m^(2).day.atm │cc/m^(2).day.atm │ ├========================┼==============┤ │ 0 0.49 │ 2.51 │ │────────────┼───────┤ │ 1 0.49 │ 2.75 │ │────────────┼───────┤ │ 2 0.49 │ 3.04 │ │────────────┼───────┤ │ 3 0.46 │ 3.31 │ │────────────┼───────┤ │ 4 0.65 │ 7.51 │ │────────────┼───────┤ │ 5 0.67 │ 61.81 │ └────────────┴───────┘ [表2] 表2 ┌────────────┬───────┐ │伸長度 実施例1 │ 比較例1 │ ├────────────┼───────┤ │(%) cc/m^(2).day.atm │cc/m^(2).day.atm │ ├========================┼==============┤ │ 0 0.48 │ 0.72 │ │────────────┼───────┤ │ 1 0.48 │ 0.81 │ │────────────┼───────┤ │ 2 0.51 │ 10.91 │ │────────────┼───────┤ │ 3 11.41 │ 25.01 │ └────────────┴───────┘ 」 (4)引用例2に開示された技術的事項 これら記載事項及び図1?3から見て、引用例2には、次の技術的事項が開示されている。 《引用例2に開示された技術的事項》 ガスバリア性無機蒸着層を具備するガスバリア性積層フィルムを長手方向に伸長すると、伸長後の酸素透過度と、水蒸気透過度が増加すること 3.対比 ア.本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「プラスチックフィルム」は、本願補正発明の「基材フィルム」に相当し、引用発明の「選択ガス透過性包装材料」は、本願補正発明の「ガスバリア性フィルム」及び「選択ガス透過性フィルム」に相当する。 引用発明の「珪素源」と、本願補正発明の「有機珪素化合物、金属または金属酸化物」とは、「珪素源」である限りにおいて一致する。また、引用発明の「厚さ10?150nm」と、本願補正発明の「厚さ5?50nm」とは、「厚さ10?50nm」の範囲において一致する。 イ.(ア)本願明細書段落0009には、「所定の蒸着層を有するガスバリア性フィルムのガス選択性について詳細に検討した結果、ガスバリア性フィルムを所定範囲で伸長させると水蒸気透過度と酸素透過度とがそれぞれ増加すること、その増加の程度は特に酸素透過度で著しく、このため水蒸気と酸素とのガス透過性の比を調整できること、このようなフィルムは水蒸気透過度を維持したまま酸素を拡散できるものであり選択的ガス透過性包装材として特定の内容物の包装材として使用できること、更に、ガスバリア性フィルムの伸長方法として、ダンサーロールと延伸ロールとを使用することで連続的に選択ガス透過性フィルムを製造しうることを見出し、本発明を完成させた」と記載され、段落0114?0115には、「……表3のPVDについて、酸素透過度と水蒸気透過度とをグラフにした図7で明らかなように、伸長度が3.0%から3.5%に変化すると、特に酸素透過度の増加が著しいため、水蒸気透過度との差が大きく変化する。したがって、この場合には、3.5%の延伸によって、水蒸気透過度を維持したまま、酸素透過度が大きく増加した選択ガス透過性フィルムを調製することができる………同様に、表3のCVDについて、酸素透過度と水蒸気透過度とをグラフにした図8で明らかなように……。このような場合でも、6.0%の延伸によって、水蒸気透過度を0.13と維持したまま酸素透過度を7.94に増加させることができる」と記載されている。これら記載から見て、本願補正発明の「ガスバリア性フィルムを、ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にし、更に、延伸ロールにてフィルム流れ方向に、フィルムの移送速度を、0.1?10m/分、温度10?50℃の雰囲気下で2?7%伸長させてなる」は、ガスバリア性フィルムの水蒸気透過度と酸素透過度を調整し、ガス選択性を生じさせるための構成である。 また、本願補正発明の「ガスバリア性フィルムを」「延伸ロールにてフィルム流れ方向に」「2?7%伸長させてなる」は、「ガスバリア性フィルムの全体に物理的応力を加え」ており、ひいては「ガスバリア性フィルムの蒸着膜層に物理的応力を加えている」ことが、明らかである。 (イ)一方、引用例1の請求項2には、「無機酸化物からなる蒸着薄膜層に微細なクラックを形成して、極性分子からなるガス透過性を保持したまま、無極性分子からなるガス透過性を制御する」と記載され、段落0034には「無機酸化物からなる蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、ゲルボフレックス装置を用いた捻りと圧縮を組み合わせた方法がある。……このサイクル数を変化させることで、応力を制御出来る。その応力の度合に応じて、無機酸化物からなる蒸着薄膜層にサブミクロンオーダーの微細なクラックを形成することで、無極性分子からなるガス透過性が、任意に制御可能な選択ガス透過性包装材料が得られるものである。一方、極性分子からなるガス透過度は、蒸着薄膜層に微細なクラックが生じても大きく変化することがないので、極性分子からなるガスの透過度はそのまま保持される。」と記載されている。これら記載から見て、引用発明の「蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成した」は、ガスバリア性フィルムの極性分子からなるガスの透過度と無極性分子からなるガスの透過度を調整し、ガス選択性を生じさせるための構成といえる。 また、段落0034の前記記載から、引用発明の「蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成した」は、「蒸着薄膜層」のみに物理的応力を加えるのではなく、ガスバリア性フィルム全体に物理的応力を加えていることが明らかである。 (ウ)すると、引用発明の「蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成した」と、本願補正発明の「ガスバリア性フィルムを、ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にし、更に、延伸ロールにてフィルム流れ方向に、フィルムの移送速度を、0.1?10m/分、温度10?50℃の雰囲気下で2?7%伸長させてなる」とは、「ガスバリア性フィルムに物理的応力を加えてガス選択性を生じさせる」点で共通する。 ウ.そうすると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。 《一致点》 基材フィルムに、珪素源を供給してなる厚さ10?50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムであって、 前記ガスバリア性フィルムに物理的応力を加えてガス選択性を生じさせてなる選択ガス透過性フィルム。 《相違点1》 本願補正発明は、「有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給して」蒸着膜を設けるものであり、その「蒸着膜が化学気相蒸着法によって有機酸化珪素を供給してなる蒸着膜」であるのに対し、引用発明は、「珪素源」が特定されておらず、かつ「化学気相蒸着法によって有機酸化珪素を供給してなる蒸着膜」であることを特定していない点。 《相違点2》 物理的応力を加える方法に関して、本願補正発明は、「ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にし、更に、延伸ロールにてフィルム流れ方向に、フィルムの移送速度を、0.1?10m/分、温度10?50℃の雰囲気下で2?7%伸長」させるのに対し、引用発明は、そのような方法で伸長させることを特定していない点。 4.相違点の検討 (1)相違点1について 化学気相蒸着法によって、有機珪素化合物の一種である有機酸化珪素を供給して、プラスチックフィルムにガスバリヤ性の酸化珪素蒸着膜を形成することは、例えば、特開平8-127096号公報の段落0040、0055?0058や、特開平8-207196号公報の段落0012、特開平9-188360号公報の段落0007、特開2007-210208号公報の段落0037?0039及び0064に記載されており、周知の技術的事項である。引用発明の「酸化珪素蒸着膜」を形成する方法として、この周知の技術的事項を採用することは、当業者が容易に推考し得たことである。 (2)相違点2について ア.引用発明は、「蒸着薄膜層に微細なクラックを形成して、極性分子からなるガス透過性を保持したまま、無極性分子からなるガス透過性を制御する」(請求項2(上記第2.2.(1)(ア)参照))ことを意図しているものであり、引用例1の段落0034の記載によれば、引用発明の「選択ガス透過性包装材料の蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成」する方法は「特に限定されるものではない」(上記第2.2.(1)(オ)参照)。一方、引用例2には、ガスバリア性無機蒸着層を具備するガスバリア性積層フィルムを長手方向に伸長すると、伸長後の酸素透過度と、水蒸気透過度が増加することが開示されており(上記第2.2.(4)参照)、フィルムの伸長によりガス透過度が増加するのは、ガスバリア性蒸着薄膜にクラックが生じるためであることも示唆されている(上記第2.2.(3)(ア)、(イ)参照)。 すると、引用発明の上記意図を踏まえた上で引用例2に接した当業者は、引用例2の段落0044の表1、表2から、ガス透過度の増加の程度が大きくなるのは、伸長度が2?5%のときであること、及び同じ伸長度であっても酸素透過度の増加の仕方と、水蒸気透過度の増加の仕方が異なることを見て取れる(上記第2.2.(3)(エ)参照)。また、延伸ロールを用いてフィルム流れ方向にフィルムを伸長させることは、例えば、特開2001-38801号公報の段落0007に記載されており、周知の技術的事項である。 そうすると、引用発明の「選択ガス透過性包装材料の蒸着薄膜層に、物理的応力を加えて微細なクラックを形成」する方法として、引用例2に開示された「ガスバリア性積層フィルムを長手方向に伸長する」方法を採用すると共に、周知の技術的事項を適用し、「延伸ロールにてフィルム流れ方向に」「2?7%伸長させる」ようにすることは、当業者が容易に推考し得たことである。 イ.フィルム等の長尺物の取扱いにおいて、前工程と後工程との間の一時的又は間欠的な速度変化及び張力変化を吸収するために、ダンサーロールを介在させて、繰り出し・巻き取り速度を一定にすることは、例えば、原審の拒絶理由で引用した特開平9-175700号公報の段落0004?0005や、前記特開2001-38801号公報の段落0007に記載されており、周知かつ慣用されている技術的手段である。したがって、「ガスバリア性フィルムを、ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定に」することは、当業者が必要に応じて適宜決定すべき単なる設計的事項である。 ウ.フィルムの移送速度や、雰囲気温度等の延伸条件は、フィルムや蒸着層の種類や厚さなどに応じて、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。この点は、本願明細書段落0090において、請求人自らが述べていることでもある。 オ.以上総合すると、引用発明に、引用例2に開示された技術的事項及び周知の技術的事項を適用して、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことである。 (3)本願補正発明の作用効果について そして、本願補正発明が奏する効果も、引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び周知の技術的事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.まとめ 以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年11月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認める。その請求項1の記載は、上記第2.1.(1)の《補正前》に示したとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 2.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項は、上記第2.2.に記載したとおりである。 3.対比・検討 本願発明は、上記第2.1.で検討した本願補正発明から、「ガスバリア性フィルムを2?7%伸長させてなる」について限定する「(ガスバリア性フィルムを)ダンサーロールに供給して該ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にし、更に、延伸ロールにてフィルム流れ方向に、フィルムの移送速度を、0.1?10m/分、温度10?50℃の雰囲気下で」との事項を省いたものである。 そうすると、本願発明を特定する事項を全て含み、さらに他の特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2.3.?4.に記載したとおり、引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 原査定は妥当である。よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-07-02 |
結審通知日 | 2014-07-08 |
審決日 | 2014-07-22 |
出願番号 | 特願2008-252405(P2008-252405) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河原 肇 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
栗林 敏彦 河原 英雄 |
発明の名称 | 選択ガス透過性フィルムおよびその製造方法 |
代理人 | 後藤 直樹 |
代理人 | 藤枡 裕実 |
代理人 | 伊藤 裕介 |
代理人 | 伊藤 英生 |
代理人 | 深町 圭子 |
代理人 | 立石 英之 |