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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1291495
審判番号 不服2011-22536  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-19 
確定日 2014-09-12 
事件の表示 特願2007-129662「炭酸ジメチルを用いたインドール化合物のメチル化」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月4日出願公開,特開2007-254487〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」ともいう。)は,2001年4月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年4月19日(以下「本願優先日」という。),(US)米国)を国際出願日として出願した,特願2001-578400号の出願の一部を,平成19年5月15日に新たな出願としたものであって,平成22年9月21日付けで拒絶理由が通知され,平成23年3月30日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,同年6月24日付けで拒絶査定がされ,同年10月19日に,この拒絶査定に対する審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成24年8月2日付けの審尋に対して同年9月26日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は,平成23年3月30日及び同年10月19日に提出された手続補正書により補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」といい,上記補正後の明細書を「本願明細書」という。)は,次のとおりのものである。
「一般式(I):
【化1】

(式中、R^(1)は、水素、ハロゲン、C_(1)-C_(6)アルキル、C_(1)-C_(6)アルケニル、-OCH_(3)、-NO_(2)、-CHO、-CO_(2)CH_(3)及び-CNからなるグループの中から選択され、R^(2)は、水素、C_(1)-C_(6)アルキル、-CO_(2)CH_(3)、-CN、-CHO、-NH_(2)、-N(C_(1)-C_(6)アルキル)_(2)、-(CH_(2))_(n)COOH及び-(CH_(2))_(n)CNからなるグループの中から選択され、nは1?4の整数であり、R^(1)又はR^(2)の少なくともいずれか一方が水素であり、そしてR^(1)が6位にある場合、R^(2)は水素であり;そしてR^(2)がアセトニトリルである場合、R^(1)は水素である)で表わされるメチル化されたインドール化合物の製造方法であって、
炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下で、周囲圧にて、以下の一般式:
【化2】

(式中、R^(1)とR^(2)は上記の通りである)で表わされる化合物を炭酸ジメチルと反応させる操作を含む方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,「この出願については、平成22年 9月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであって,
その拒絶理由通知書には,理由として,「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と示されるとともに,その「下記の請求項」及び「下記の刊行物」に関し,「・請求項 1?9 ・引用文献 1?6」との指摘がなされており,その「引用文献 1?6」とは,以下の刊行物である。

1.Applied Catalysis A:General,1997年,
Vol.155, No.2,p.133-166
2.Eur.J.Med.Chem.,1996年,Vol.31,p.123-132
3.国際公開第98/04551号
4.国際公開第98/04553号
5.特開平3-58966号公報
6.J. Med. Chem.,1999年,42,2191-2203頁

そして,その拒絶理由の「・備考」欄には,次の指摘がなされている。
「引用文献1には、インドールのN-メチル化反応のメチル化試薬に炭酸ジメチルを用いることが記載されている(第147頁の中段の反応式を参照)。
引用文献2には、インドールのN-メチル化反応に塩基及び相関移動触媒を用いることが記載されている(第124頁のスキームIを参照)。
引用文献3、4には、それぞれ、インドールのN-メチル化反応に塩基を用いることが記載されている(引用文献3:実施例1、引用文献4:実施例1を参照)。
本願請求項1に係る発明と引用文献1?4に記載の発明を対比すると、前者がN-メチル化試薬として炭酸ジメチル、塩基として炭酸カリウム及び/又は相関移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムを特定しているのに対し、引用文献1は塩基、相関移動触媒について記載がない点、引用文献2はN-メチル化試薬として炭酸ジメチル、塩基として炭酸カリウム、相関移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムが特定されていない点、引用文献3?4はN-メチル化試薬として炭酸ジメチル、塩基として炭酸カリウムが特定されておらず、相関移動触媒について記載がない点でそれぞれ相違するので、これらの点について以下検討する。
まず、プロセス研究に従事する当業者にとり、所望の化合物の製造工程における試薬等を検討するのは通常行うことである。
そして、N-メチル化試薬としての炭酸ジメチル、塩基としての炭酸カリウム、相関移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムは、いずれも当業者に汎用されているものであり、特に、引用文献5には、N-メチル化試薬として炭酸ジメチル、塩基として炭酸カリウム、相関移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムを用いた好適なN-メチル化反応が記載され(全文を参照)、引用文献6には、N-メチル化試薬として炭酸ジメチル、塩基として炭酸カリウム及び相関移動触媒を用いたN-メチル化反応が記載されている(化合物8の製造方法を参照)。
そうすると、引用文献1?4に記載のインドールのN-メチル化反応を検討するにあたり、N-メチル化試薬として炭酸ジメチル、塩基として炭酸カリウム及び/又は相関移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムを選択し、本願発明に到ることは、当業者にとり容易である。」

第4 当審の判断
当審は,原査定の拒絶の理由のとおり,本願発明は,刊行物1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,と判断する。

1 刊行物及びそれらの記載事項
刊行物1:国際公開第98/04551号(原審における引用文献3)
刊行物2:特開平3-58966号公報(原審における引用文献5)
刊行物3:J. Med. Chem.,1999年,42,2191-2203頁
(原審における引用文献6)
刊行物4:Applied Catalysis A:General,1997年,
Vol.155, No.2,p.133-166(原審における引用文献1)

(1)刊行物1(記載事項を当審による訳文で示す。)
(1a)「実施例1
3-(6-メトキシ-1-メチル-1H-インドール-3-イル)-4-(1-メチル-6-ニトロ-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン
a)既知の6-ニトロ-1H-インドール(5g、31mM)をジメチルホルムアミド(DMF)(50ml)に含む溶液を、0℃に冷却し、NaH(1g、37m)で処理した。0℃で2時間撹拌した後、CH_(3)I(2.3ml、37mM)を加え、反応混合物を、室温に温めながら一晩撹拌した。H_(2)O(500ml)の中へ注いだ後、混合物を酢酸エチル(EtOAc、200ml×4)で抽出した。合わせた有機画分をMgSO_(4)で乾燥し、濾過し、蒸発させた。フラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、1-メチル-6-ニトロ-1H-インドール(5.34g、97%)を得た。」(第17ページ第24行?第18ページ第2行)

(2)刊行物2
(2a)「本発明はN-芳香族、N-脂肪族、N-脂環式、およびN-アルアリファティック置換モノ-およびオリゴウレタンとジアルキルカーボネートの、過剰のジアルキルカーボネートおよび/または適当な溶媒中の少なくとも化学量論的に当量の固体炭酸アルカリまたはアルカリ土類(特に炭酸カリウムおよび/またはナトリウム)の存在下および相間移動触媒の存在下での反応によるN,N-二置換モノ-およびオリゴウレタンの製造方法に関する。」(第1ページ右下欄第10?19行)

(2b)「すべての既知方法の1つの共通の特徴は、結局アルキル化は、その殆んどすべてが生理学的に好ましくないことが知られているアルキル化剤で実施されるということである。例えばN-アルキル化はジメチルサルフェートまたは塩化または沃化メチルで実施される。」(第2ページ右上欄第8?13行)

(2c)「既知方法に比べて、本発明の方法はアルカリまたはアルカリ土類炭酸塩およびジメチルカーボネートのような安価な危険性の少ない取扱容易な物質を、より危険な金属水酸化物およびアルキル化剤の代りに使用することにより、N,N-二置換ウレタンを高収率で驚くほど容易に製造することを可能にする。」(第3ページ左下欄第13?19行)

(2d)「反応は一般に連続的にまたは非連続的に減圧で約20ないし約180℃(好ましくは80ないし140℃)の範囲の温度で実施される。」(第7ページ左上欄第19行?右上欄第1行)

(2e)「例1 N-メチル-N-フェニル-O-メチルウレタン(またはN-メチル-N-フェニルカルバミン酸メチル)の製造
N-フェニルカルバミン酸メチル(15.1g、0.1モル)を最初に反応器中でジメチルカーボネート100mlと一緒に混合した。粉砕し乾燥した炭酸カリウム(5g、0.036モル)およびテトラブチルアンモニウムブロマイド(1g、0.003モル)を順次室温で撹拌しつつ添加した。還流温度(95-97℃)に加熱後、反応混合物をその温度で7日間撹拌した。
次に溶液を熱時濾過(当審註:原文の「濾」は,「さんずいに『戸』」)し、冷却し、そして回転蒸発器で溶媒を除去した。得られた透明淡褐色油(14.8g)を球管炉(BuchiモデルGKR-50)中で約150℃、0.01ミリバールで蒸留し、式:

を有する所望生成物13g(理論値の88%)を得た。」(第8ページ左上欄第12行?右上欄下から第10行)

(3)刊行物3(記載事項を当審による訳文で示す。)
(3a)「

」(第2192ページのスキーム1)

(3b)「5,6,11-トリメチル-9-メトキシ-6H-ピリド[4,3-b]カルバゾール-1-カルボン酸エチルエステル(8)(スキーム 1). 化合物7(5.0g,14.3 mmol),炭酸ジメチル(50mL),炭酸カリウム(5.0g)及びadogen 464(1.0グラム)の混合物を,ジメチルホルムアミド(25 mL)中で3時間還流温度で撹拌後,真空下で濃縮した。残渣をジクロロメタンに溶解し,溶液を水と塩化リチウムの飽和水溶液で洗浄,乾燥 (Na_(2)SO_(4))し,真空下で濃縮した。残渣をクロマトグラフィーによって,3%エタノールを含むトルエンに溶離させ,化合物8を(4.64 g,89%)を得た。mp(cap) 130-133℃; ^(1)HNMR (CDCl_(3)) δ8.4 (d, 1H),7.8 (d, 1H), 7.7 (s, 1H), 7.2-7.0 (m, 2H), 4.5 (q, 2H), 3.8 (2s. 6H), 3.0 (s, 3H), 2.9 (s, 3H), 1.5 (t, 3H). Anal. (C_(21)H_(22)N_(20)O_(3)) C,H,N.」(第2198ページ右欄下から第3行?第2199ページ左欄第11行)

(4)刊行物4(記載事項を当審による訳文で示す。)
(4a)「1.はじめに
ジメチルカーボネート(DMC)は、多種の化学的性質を持っており,メチル化とメトキシカルボニル化剤として主に使用されてきた。メチル化反応は,合成化学の分野で非常に重要である。一般的な慣用として,硫酸ジメチルまたはヨウ化メチルをメチル化剤として使用されている。」(第133ページ下から第6?2行)

(4b)「 表1
毒性 [3]
--------------------------------
炭酸ジメチル ホスゲン 硫酸ジメチル 塩化メチル
--------------------------------
LD50(経口)g/kg 13.8(ラット) 0.20(ラット)…
」(第136ページの表1)

(4c)「ビルディングブロックとしてDMCの最も重要な特性の一つは,従来のメチル化剤又はカルボニル化剤に比べて毒性が低いことである。表1に,DMCの毒性が硫酸ジメチル,ホスゲンと比較検討されている[3]。硫酸ジメチルの,ラットへの致死量(LD50(経口))は0.20gkg^(-1)である一方でDMCとメタノールの対応する値は,それぞれ13.8および3.0 gkg^(-1)である。これらの値は,DMCは実質的に非毒性であることを示している。」(第137ページ第3?8行)

(4d)「4.5. 複素環化合物のN-メチル化
様々な含窒素複素環化合物のメチル化はLisselや同僚によって報告された[39?42]。イミダゾールおよびベンゾイミダゾールは,K_(2)CO_(3) と18-クラウン-6を用いた相間移動系でメチル化される[39]。」(第146ページ下から第4?1行)

(4e)「

」(第147ページ)

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には,具体的な実施例として,
DMF溶液中の「6-ニトロ-1H-インドール」を,NaHで処理した後,CH_(3)Iで処理し,その後の抽出・精製により,「1-メチル-6-ニトロ-1H-インドール」を得たことが記載されている(摘記1a)。

すると,刊行物1には,
「1-メチル-6-ニトロ-1H-インドールの製造方法であって,
NaHの存在下で,6-ニトロ-1H-インドールをCH_(3)Iと反応させる操作を含む方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における生成物は,インドールの1位のNがメチル化され,6位がニトロ基で置換される化合物であるから,本願発明の一般式(I)で表される化合物のR^(1)が-NO_(2)であって,R^(2)に水素が選択された場合と一致する。
また,本願発明の「炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))」及び引用発明の「NaH」は共に塩基であって,本願発明の「炭酸ジメチル」及び引用発明の「CH_(3)I」は共にメチル化剤である点で共通する。

よって,両者は,
「一般式:

(式中,R^(1)は,-NO_(2)から選択され,R^(2)は水素から選択され、R^(1)又はR^(2)の少なくともいずれか一方が水素であり、そしてR^(1)が6位にある場合、R^(2)は水素である)で表されるメチル化されたインドール化合物の製造方法であって,
塩基の存在下で,以下の一般式:


(式中,R^(1)とR^(2)は上記の通りである)で表わされる化合物を,メチル化剤と反応させる操作を含む方法」である点で一致する。

そして,以下の点で相違する。
インドール系化合物のメチル化に際し,本願発明は,「炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下,周囲圧にて,炭酸ジメチルを用いて行う」が,引用発明は,NaHの存在下,CH_(3)Iを用いて行う点

4 検討
(1)相違点についての検討
ア 刊行物2には,「例1」として,Ph-NH-構造を含む化合物のメチル化を,炭酸ジメチル(ジメチルカーボネート)を用い,炭酸カリウム及びテトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)の存在下で行う事例が記載されている(摘記2e)。

刊行物3には,「スキーム1」として,Ph-NH-構造やインドール構造を含むピリドカルバゾール化合物のメチル化を,炭酸ジメチルを用い,炭酸カリウム及び相間移動触媒であるadogen 464の存在下で行う事例が記載されている(摘記3a?b)。

刊行物4には,インドール系化合物のメチル化を,炭酸ジメチルを用い,炭酸カリウムの存在下で行う事例が記載されている(摘記4d)。
そこで,刊行物4の(29)で示されたインドール環の化学式は,イミダゾール環の化学式の誤記であることが明らかであるところ,ここではPh-NH-構造を有するイミダゾール系化合物のメチル化を,炭酸ジメチル(DMC)を用いて,K_(2)CO_(3)と18-クラウン-6の存在下で行う事例が記載されている(摘記4e)。

すると,Ph-NH-の化学構造を含む化合物(インドール系やイミダゾール系の化合物も含まれる)のメチル化を,「炭酸ジメチル」を用いて,「炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))」および/または「臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)」の存在下で行うことは,刊行物2?4に記載されるように,本願優先日前に周知慣用の常套手段になっていたものと認められる。

イ 「周囲圧」すなわち大気圧で反応を行うことについて検討する。
反応条件において圧力について記載がない場合,通常,大気圧を意味することから,上記刊行物3及び4において,特段の圧力設定をすることなく,通常の還流温度で反応を進めていることから,上記刊行物3及び4では,大気圧において反応を行っているものと解することができる。
また,刊行物2でのメチル化における圧力は,「一般に連続的にまたは非連続的に減圧で」(摘記2d)実施とされるが,その実施例である「例1」には,特段の圧力設定条件に関し,記載されていない。
そして,その「例1」では,「還流温度(95-97℃)に加熱後、反応混合物をその温度で7日間撹拌した。」(摘記2e)とされ,刊行物2における還流温度は,「好ましくは80ないし140℃」(摘記2d)とされるものであるから,「例1」より更に高温側での実施も考慮し得るものと認められる。
そこで,温度や圧力は,化学反応の進行における調節すべきパラメータとして,ごく一般的なものであって,大気圧条件であれば,装置の耐圧性への配慮も軽減されることから,減圧から大気圧にする際に伴う反応器中の温度上昇が許容される際に,減圧条件から大気圧への条件変更は,刊行物2を見た当業者が当然に試行する技術的事項と考えられる。

よって,炭酸ジメチルを用いたメチル化を,炭酸カリウムおよび/またはTBABの存在下で行う場合に,大気圧,すなわち本願発明の「周囲圧」で行うことは,当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎないといえる。

ウ そして,従前からのメチル化剤であるハロゲン化メチルや硫酸ジメチルの毒性が強いことは,周知の課題であって,これらのメチル化剤に代えて,「炭酸ジメチル」を用いることは,本願優先日前において,この課題解決の常套手段であったと認められる(必要であれば,例えば,刊行物2(摘記2b?c)及び刊行物4(摘記4a?c)参照)。

エ 本願発明及び引用発明の「インドール系化合物」や,刊行物2?4に記載された「Ph-NH-構造を有する化合物」は,いずれも「Ph-NH-構造を有する化合物を原料としている点において,一致している。
そこで,引用発明のメチル化に際し,「NaHの存在下,CH_(3)Iを用いて行う」ことに代えて,毒性の低い条件でメチル化を行うべく,刊行物2?4に記載された「炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下」で行う周知慣用の常套手段を,「周囲圧」で行うことは,当業者にとって容易に想到し得ることであって,特段の阻害事由も見あたらない。

(2)本願発明の効果についての検討
本願発明の効果は,本願の段落【0006】に記載される,
「本発明は、従来技術で必要とされている環境に配慮した方法、すなわち、高温または高圧が必要でない条件下でインドール化合物に含まれる窒素原子をメチル化する方法を実現するものである」ことと認められる。
しかしながら,明細書の段落【0019】及び【0020】【表2】には,本願発明の【化2】で表される化合物で,R^(1)が水素,R^(2)が-(CH_(2))_(n)COOHでn=2の場合のもの(インドール-3-プロピオン酸)を出発原料として,8時間反応させた場合,R^(2)が反応前後で異なるとともに,本願発明の一般式(I)のR^(2)の要件も満たさない-(CH_(2))_(n)COOMeを置換基として有する,O,N-ジメチル化物が93%の収率で得られている。加えて,本願発明における出発物質であるインドール化合物は,R^(2)に「-NH_(2)」も取り得るものであるが,インドール骨格の1位の窒素と,この-NH_(2)のN-メチル化のうち,前者が選択的に進む効果を発揮されることに関し,技術常識を踏まえても本願明細書の記載からは不明である。
よって,本願発明の効果が,刊行物1?4に記載された事項及び技術常識から予測できず格段に優れているものとは認められない。

(3)請求人の主張についての検討
ア 請求人の主張
請求人は,審判請求書の 「【本願発明が特許されるべき理由】」において,大略,以下の主張1?3を,そして,回答書の「【回答の内容】 (2)特許法第29条第2項違反の拒絶理由について(項目[1])」 において,以下の主張4をしている。

(ア)主張1:「いずれの引用文献も、インドールが周囲温度で炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))又は臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下、あるいは、K_(2)CO_(3)及びTBABの存在下でDMCによりメチル化され得ることについて記載も示唆もしておりません。」並びに「同一の化合物群の中でさえ、ある化合物と他の化合物とが異なる置換基を有する場合には、ある化合物はN-アルキル化できても他の化合物はN-アルキル化できないことは技術常識でした。」

(イ)主張2:「K_(2)CO_(3)との組み合わせについて引用文献1には「18-クラウン-6」、そして引用文献6には「アドゲン484」が記載されていますが、これらをTBABに置き換えることについて、引用文献1?6のいずれも何ら記載も示唆もしておりません。」

(ウ)主張3:「本願発明は従来技術、例えば引用文献2に開示されている製法と比較して高収率でN-メチル化インドールを提供するものです。具体的には、同文献の第130頁左欄には1-メチルインドール-3-アセトニトリル(化合物4a)の製法が記載されていますが、その収率は60%に過ぎません。一方、本願発明の製法によれば、少なくとも80%以上の収率でN-メチル化インドールが得られます(例えば、表3の結果をご参照下さい)。」

(エ)主張4:「引用文献1、5及び6に記載されているN-メチル化は「周囲圧」で行われたものではありません。」

イ 主張の検討
(ア)主張1について
請求人の上記主張1は,いずれの刊行物にも,特定の含窒素化合物であるインドール化合物に対し,K_(2)CO_(3)および/またはTBABの存在下でDMCによりN-メチル化するという組合せが記載されていないことから本願発明の進歩性を主張するものであると認められる。
しかし,刊行物1記載のインドール化合物のメチル化において,刊行物2?4の記載及び技術常識に照らしてみれば,K_(2)CO_(3)及び/又はTBABの存在下でDMCによりメチル化することが,当業者が容易になし得ることは,刊行物3及び4記載の製造方法では,含窒素縮合複素環において,ベンゼン環に隣接する5員環中にあって,ベンゼン環に直接結合した窒素に対してメチル化すること,そして,刊行物2記載の製造方法における出発化合物も,ベンゼン環に直結する窒素に対してメチル化する点で,その構造も類似するから,それぞれ,上記4(1)アに示したとおりである。
したがって,請求人の上記主張1は採用できない。

(イ)主張2について
本願発明は,K_(2)CO_(3)の単独使用や,K_(2)CO_(3)とTBAB以外の相間移動触媒の併用を包含するものであるところ,請求人が指摘した文献には,いずれもK_(2)CO_(3)の使用について記載されているから,請求人の上記主張2は採用できない。

(ウ)主張3について
上記4(2)で効果について述べたように,本願発明の方法によって,インドール-3-プロピオン酸から,8時間の反応によって,副生物であるO,N-ジメチル化物が,93%の収率で得られていることから,請求人の上記主張3は採用できない。

(エ)主張4について
メチル化を「周囲圧」で行うことについては,上記4(1)イに示したとおり,当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎないから,請求人の上記主張4は採用できない。

ウ 主張についての検討のまとめ
以上によれば,請求人の主張はいずれも当を得ておらず,採用することはできない。

5 まとめ
したがって,本願発明は,刊行物1?4に記載された発明に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないものであるから,その余について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-25 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2007-129662(P2007-129662)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 智雄  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 大畑 通隆
木村 敏康
発明の名称 炭酸ジメチルを用いたインドール化合物のメチル化  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 中島 勝  
代理人 北谷 賢次  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  

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