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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1291858
審判番号 不服2012-13259  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-11 
確定日 2014-09-10 
事件の表示 特願2008-529716「ゲル網状組織を含有するシャンプー」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月22日国際公開、WO2007/031884、平成21年 2月19日国内公表、特表2009-507066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年7月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年9月16日、米国、2006年6月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年10月25日付けで拒絶理由通知が通知され、平成23年5月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年3月2日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月11日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正書が提出されたものである。その後、当審から平成25年10月9日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(前置報告書)を引用した審尋が通知され、平成26年1月10日付けで回答書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1 平成24年7月11日付け手続補正について
平成24年7月11日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、補正前(平成23年5月9日付け手続補正書参照)の、
「シャンプー組成物であって、
a)前記シャンプー組成物の8重量%?50重量%の1以上の洗浄性界面活性剤であって、前記シャンプー組成物の8重量%?30重量%のアニオン性界面活性剤を含有する洗浄性界面活性剤と、
b)分散ゲル網状組織相であって、
i)前記シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%の、18?70個の炭素原子を有する1以上の脂肪族アルコール、
ii)前記シャンプー組成物の少なくとも0.01重量%の、アニオン性界面活性剤から選択される1以上の二次界面活性剤、及び
iii)水
を含み、且つ前記二次界面活性剤と前記脂肪族アルコールとの重量比が1:5?5:1である分散ゲル網状組織相と、
c)前記シャンプー組成物の少なくとも20重量%の水性キャリアと
を含み、示差走査熱量測定法にて測定した前記分散ゲル網状組織相の融解転移温度が、少なくとも38℃であるシャンプー組成物。」
から、
「シャンプー組成物であって、
a)前記シャンプー組成物の8重量%?50重量%の1以上の洗浄性界面活性剤であって、前記シャンプー組成物の8重量%?30重量%のアニオン性界面活性剤を含有する洗浄性界面活性剤と、
b)分散ゲル網状組織相であって、
i)前記シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%の1以上の脂肪族アルコール、
ii)前記シャンプー組成物の少なくとも0.01重量%の、アニオン性界面活性剤から選択される1以上の二次界面活性剤、及び
iii)水
を含み、且つ前記二次界面活性剤と前記脂肪族アルコールとの重量比が1:5?5:1であると共に、前記分散ゲル網状組織相に使用される脂肪族アルコールが、18?70個の炭素原子を有するものから成る分散ゲル網状組織相と、
c)前記シャンプー組成物の少なくとも20重量%の水性キャリアと
を含み、示差走査熱量測定法にて測定した前記分散ゲル網状組織相の融解転移温度が、少なくとも38℃であるシャンプー組成物。」
と補正された。
(下線部は対応する補正箇所を明示するため当審で付した。)

本件補正は、
「i)前記シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%の、18?70個の炭素原子を有する1以上の脂肪族アルコール」とあったものを
「i)前記シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%の1以上の脂肪族アルコール」とすると共に、「と共に、前記分散ゲル網状組織相に使用される脂肪族アルコールが、18?70個の炭素原子を有するものから成る」なる記載を追加したものである。
本件補正は、分散ゲル網状組織相のi)成分である脂肪族アルコールを限定していた「18?70個の炭素原子を有する」なる記載を、文の後段に移動させて「前記分散ゲル網状組織相に使用される脂肪族アルコールが、18?70個の炭素原子を有するものから成る」とすることにより、分散ゲル網状組織相の脂肪族アルコールが18?70個の炭素原子を有するものであることを明確にしたものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当し、適法である。

2 本願発明
平成24年7月11日付けの手続補正は上記のとおり適法であるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年7月11日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「シャンプー組成物であって、
a)前記シャンプー組成物の8重量%?50重量%の1以上の洗浄性界面活性剤であって、前記シャンプー組成物の8重量%?30重量%のアニオン性界面活性剤を含有する洗浄性界面活性剤と、
b)分散ゲル網状組織相であって、
i)前記シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%の1以上の脂肪族アルコール、
ii)前記シャンプー組成物の少なくとも0.01重量%の、アニオン性界面活性剤から選択される1以上の二次界面活性剤、及び
iii)水
を含み、且つ前記二次界面活性剤と前記脂肪族アルコールとの重量比が1:5?5:1であると共に、前記分散ゲル網状組織相に使用される脂肪族アルコールが、18?70個の炭素原子を有するものから成る分散ゲル網状組織相と、
c)前記シャンプー組成物の少なくとも20重量%の水性キャリアと
を含み、示差走査熱量測定法にて測定した前記分散ゲル網状組織相の融解転移温度が、少なくとも38℃であるシャンプー組成物。」

第3 引用刊行物の記載事項
1 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第03/101418号(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、記載事項は、ファミリーである特表2005-534644号公報に基づいて記し、記載箇所は、引用刊行物1における記載箇所を付記した。下線は当審にて付した。

(1a)「【請求項1】
a)約5?約50重量%の洗浄性界面活性剤、
b)少なくとも約0.05重量%の脂肪族アルコールゲル網状組織、及び
c)少なくとも約20.0重量%の水性キャリア
を含む、シャンプー組成物。」(33頁2?5行)
(1b)「【0007】
上述に基づき、乾燥した毛髪に改善されたコンディショニング効果を提供でき、同時に洗浄効果を妨げない又は毛髪が乾燥しても毛髪に嫌な感覚を与えない、コンディショニングシャンプーが必要とされている。具体的には、毛髪を乾かした時に、毛髪に長時間持続する潤いの感触、滑らかな感触、及び整えやすさをもたらし、油っぽい感じを残さないこと、並びに毛髪が濡れている時に柔軟性及び櫛通りのよさをもたらすことが必要とされている。」(1頁下から6行?最下行)
(1c)「【0035】
(B)脂肪族アルコールゲル網状組織
脂肪族アルコールゲル網状組織は、化粧クリーム及びヘアコンディショナーに長年使用されてきた。これらのゲル網状組織は、脂肪族アルコールと界面活性剤とを1:1?40:1(好ましくは2:1?20:1、より好ましくは3:1?10:1)の比で組み合わせることによって形成される。ゲル網状組織の形成には、脂肪族アルコールの水中分散液を界面活性剤と共に脂肪族アルコールの融点を超える温度まで加熱することを必要とする。この混合プロセス中、脂肪族アルコールは溶融し、界面活性剤を脂肪族アルコールの液滴中に分配できる。界面活性剤は、一緒に水を脂肪族アルコール内に持ち込む。これが、等方性の脂肪族アルコール液滴を液晶相液滴に変える。混合物を鎖溶融温度未満に冷却した時、液晶相は固体の結晶性ゲル網状組織に変換される。ゲル網状組織は、化粧クリーム及びヘアコンディショナーの安定化効果に寄与する。更に、ゲル網状組織は、ヘアコンディショナーにコンディショニングされた感触の効果を付与する。
【0036】
脂肪族アルコールは、組成物に好ましくは約0.05量%?約14重量%、より好ましくは約1重量%?約10重量%、より好ましくは約6重量%?約8重量%の濃度で包含される。
【0037】
本明細書で有用な脂肪族アルコールは、約10?約40個の炭素原子、好ましくは約12?約22個の炭素原子、より好ましくは約16?約22個の炭素原子、より好ましくは約16?約18個の炭素原子を有するものである。これらの脂肪族アルコールは直鎖又は分枝鎖アルコールであること、及び飽和又は不飽和であることができる。脂肪族アルコールの非限定的な例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。セチル及びステアリルアルコールの比約20:80?約80:20の混合物は、好ましい実施形態である。
【0038】
有用な界面活性剤としては、上記の陰イオン性、双極性及び両性界面活性剤が挙げられる。その他の有用な界面活性剤には、陽イオン性及び非イオン性の界面活性剤が挙げられる。・・・」(6頁19行?7頁7行)
(1d)「【0122】
(懸濁剤)
本発明の組成物は更に、水不溶性物質を組成物中に分散された形態において懸濁するために、又は組成物の粘度を変性するために有効な濃度で懸濁剤を含んでもよい。このような濃度は、組成物の約0.1重量%?約10重量%、好ましくは約0.3重量%?約5.0重量%の範囲にある。
・・・
【0125】
その他の任意の懸濁剤には、アシル誘導体、長鎖アミンオキシド、及びこれらの混合物として分類できる、結晶性懸濁剤が挙げられる。これらの懸濁剤は、米国特許第4,741,855号に記載されており、その記載内容を参考として本明細書に組み込む。これらの好ましい懸濁剤には、好ましくは約16?約22個の炭素原子を有する脂肪酸のエチレングリコールエステルが挙げられる。より好ましいのは、モノステアレート及びジステアレート両方のエチレングリコールステアレートであるが、特に約7%未満のモノステアレートを含有するジステアレートが好ましい。・・・」(26頁下から4行?28頁7行)
(1e)「【実施例】
【0134】
次の実施例に示されるシャンプー組成物は、本発明のシャンプー組成物の具体的な実施形態を説明するものであるが、これらに限定されることを意図するものではない。その他の変更は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者により実行され得る。本発明のシャンプー組成物のこれら例示された実施形態は、毛髪に強化されたコンディショニング効果を提供する。
・・・
【0136】
実施例で説明した組成物は、次の手法で調製された(すべての割合は特に指定しない限り重量に基づく)。
組成物の各々について、6?9%のラウレス-3硫酸アンモニウム、P43オイル、ピュアシン(PureSyn)6オイル、陽イオン性ポリマー、0?1.5%のキシレンスルホン酸アンモニウム、及び0?5%の水を、ジャケット付き混合タンクに加え、攪拌しながら約74℃に加熱して溶液を生成した。クエン酸、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、EDTA二ナトリウム、コカミドMEA及び0.6?0.9%セチルアルコールをタンクに加え、分散させた。エチレングリコールジステアレート(EGDS)を混合容器に加え、溶融した。EGDSをよく分散させた後(約10分後)防腐剤を加え、界面活性剤溶液中に混合した。この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却し、最終タンクに集めた。この冷却工程の結果として、エチレングリコールジアステレートは結晶化し、製品に結晶性網状組織を形成した。
【0137】
別に、約20%の水を約74℃に加熱し、残りのセチルアルコール、ステアリルアルコール、及び陽イオン性界面活性剤をそれに加えた。組み入れた後、この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却した。この冷却工程の結果として、脂肪族アルコール及び界面活性剤は、結晶化して結晶性ゲル網状組織を形成した。
【0138】
これら2つのプレッミクスを一緒に混合し、残りの界面活性剤、香料、ジメチコン、粘度調節のための塩化ナトリウム又はキシレンスルホン酸アンモニウム、及び残りの水を十分に攪拌しながら加え、確実に均一に混合した。」(29頁17行?30頁11行)
(1f)「【0140】
【表1】

(1)ポリマーKG30M、アマコール(Amerchol)/ダウ・ケミカル(Dow Chemical)より入手可能
(2)ジャガー(Jaguar)C17、ローディア(Rhodia)より入手可能
(3)ポリケア(Polycare)133、ローディア(Rhodia)より入手可能
(4)ビスカシル(Viscasil)330M、ゼネラル・エレクトリック・シリコーンズ(General Electric Silicones)より入手可能
(5)DC1664、ダウ・コーニング・シリコーンズ(Dow Corning Silicones)より入手可能
(6)バリソフト(Varisoft)BT-85、デグッサ(Degussa)より入手可能
(7)バリソフト(Varisoft)300、デグッサ(Degussa)より入手可能
(8)バリソフト(Varisoft)TA100、デグッサ(Degussa)より入手可能
(9)P43オイル、エクソン/モービル・ケミカル(Exxon/Mobil Chemical)より入手可能
(10)ピュアシン(Puresyn)6、エクソン/モービル・ケミカル(Exxon/Mobil Chemical)より入手可能
(11)DC2-1865、ダウ・コーニング(Dow Corning)より入手可能」(31頁)

第4 引用発明の認定
引用刊行物1には、 「a)約5?約50重量%の洗浄性界面活性剤、 b)少なくとも約0.05重量%の脂肪族アルコールゲル網状組織、及び、c)少なくとも約20.0重量%の水性キャリアを含む、シャンプー組成物」(1a)が記載され、その実施例として、「次の手法で調製された(すべての割合は特に指定しない限り重量に基づく)。
組成物の各々について、6?9%のラウレス-3硫酸アンモニウム、P43オイル、ピュアシン(PureSyn)6オイル、陽イオン性ポリマー、0?1.5%のキシレンスルホン酸アンモニウム、及び0?5%の水を、ジャケット付き混合タンクに加え、攪拌しながら約74℃に加熱して溶液を生成した。クエン酸、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、EDTA二ナトリウム、コカミドMEA及び0.6?0.9%セチルアルコールをタンクに加え、分散させた。エチレングリコールジステアレート(EGDS)を混合容器に加え、溶融した。EGDSをよく分散させた後(約10分後)防腐剤を加え、界面活性剤溶液中に混合した。この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却し、最終タンクに集めた。この冷却工程の結果として、エチレングリコールジアステレートは結晶化し、製品に結晶性網状組織を形成した。
別に、約20%の水を約74℃に加熱し、残りのセチルアルコール、ステアリルアルコール、及び陽イオン性界面活性剤をそれに加えた。組み入れた後、この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却した。この冷却工程の結果として、脂肪族アルコール及び界面活性剤は、結晶化して結晶性ゲル網状組織を形成した。
これら2つのプレッミクスを一緒に混合し、残りの界面活性剤、香料、ジメチコン、粘度調節のための塩化ナトリウム又はキシレンスルホン酸アンモニウム、及び残りの水を十分に攪拌しながら加え、確実に均一に混合した。」
との調製方法((1e))が記載され、【表1】(1f)の実施例組成物2には、重量%で「ラウレス-3硫酸アンモニウム10.00%、ラウリル硫酸アンモニウム6.00%、セチルアルコール1.300%、ステアリルアルコール1.25%、コカミドMEA0.80%、ポリクァット100.50%、エチレングリコールジステアレート1.50%、ジメチコン2.00%、ベヘントリモニウムクロリド0.55%、香料溶液0.70%、クエン酸ナトリウム0.40%、クエン酸0.40%、塩化ナトリウム0.50%、水及び微量成分(100%まで適量)」の組成のシャンプー組成物が記載されている。

そうすると、引用刊行物1には、
「a)洗浄性界面活性剤、b)脂肪族アルコールゲル網状組織、及び、c)水性キャリアを含む、シャンプー組成物であって、その組成が、ラウレス-3硫酸アンモニウム10.00%、ラウリル硫酸アンモニウム6.00%、セチルアルコール1.300%、ステアリルアルコール1.25%、コカミドMEA0.80%、ポリクァット100.50%、エチレングリコールジステアレート1.50%、ジメチコン2.00%、ベヘントリモニウムクロリド0.55%、香料溶液0.70%、クエン酸ナトリウム0.40%、クエン酸0.40%、塩化ナトリウム0.50%、水及び微量成分(100%まで適量)であるシャンプー組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「脂肪族アルコールゲル網状組織」について、引用刊行物1には、「ゲル網状組織の形成には、脂肪族アルコールの水中分散液を界面活性剤と共に脂肪族アルコールの融点を超える温度まで加熱することを必要とする。この混合プロセス中、脂肪族アルコールは溶融し、界面活性剤を脂肪族アルコールの液滴中に分配できる。界面活性剤は、一緒に水を脂肪族アルコール内に持ち込む。・・・混合物を鎖溶融温度未満に冷却した時、液晶相は固体の結晶性ゲル網状組織に変換される。」((1c))と記載されている。
一方、本願明細書の【0087】には、「本発明の一実施形態では、ゲル網状組織構成成分は、別個のプレミックスとして調製され、これは冷却後、続いてシャンプー組成物の他の構成成分に組み込まれる。より具体的には、本発明のゲル網状組織構成成分は、脂肪族アルコール、二次界面活性剤、及び水を約75℃?約90℃の範囲のレベルまで加熱し、混合することによって調製されてよい。この混合物を、例えば、混合物を熱交換器に通過することにより、約27℃?約35℃の範囲のレベルまで冷却する。この冷却工程の結果、脂肪族アルコール及び二次界面活性剤の混合物の少なくとも約50%が、結晶化し、結晶性ゲル網状組織を形成する。」と記載されている。
そうすると、ゲル網状組織が脂肪族アルコール、界面活性剤、及び水からなること、及び、その製造方法が共通することからみて、引用発明の「脂肪族アルコールゲル網状組織」は、本願発明の「分散ゲル網状組織相」に相当するといえる。
また、本願明細書の【0054】の記載から、本願発明の「二次界面活性剤」の”二次”との表記は、洗浄性界面活性剤と区別するためのものであって、界面活性剤であることにかわりはない。
したがって、引用発明の「a)洗浄性界面活性剤、b)脂肪族アルコールゲル網状組織、及びc)水性キャリアを含む、シャンプー組成物」は、本願発明の「シャンプー組成物であって、a)1以上の洗浄性界面活性剤と、b)分散ゲル網状組織相であって、i)1以上の脂肪族アルコール、ii)1以上の二次界面活性剤、及びiii)水を含む分散ゲル網状組織相と、c)水性キャリアとを含」む「シャンプー組成物」に相当する。

2 次に組成割合についてみると、
引用刊行物1の実施例の調製方法における「別に、約20%の水を約74℃に加熱し、残りのセチルアルコール、ステアリルアルコール、及び陽イオン性界面活性剤をそれに加えた。組み入れた後、この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却した。この冷却工程の結果として、脂肪族アルコール及び界面活性剤は、結晶化して結晶性ゲル網状組織を形成した。」((1e))なる記載によれば、ゲル網状組織の形成に用いられるのは陽イオン性界面活性剤であるが、引用発明の組成のうち陽イオン界面活性剤は「ベヘントリモニウムクロリド0.55%」(審決注:ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド)だけであるから、これがゲル網状組織を形成するのに用いられる界面活性剤、すなわち、「二次界面活性剤」、であることは明らかである。
そうすると、引用発明の組成のうち、他の界面活性剤、すなわち、ラウレス-3硫酸アンモニウム10.00%、ラウリル硫酸アンモニウム6.00%、コカミドMEA(審決注:ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド:非イオン性界面活性剤である。)0.80%は、洗浄性界面活性剤として用いられるものであるといえる。これらの合計は、10.00%+6.00%+0.80%=16.8%であるから、本願発明の洗浄性界面活性剤の組成割合が「シャンプー組成物の8重量%?50重量%」との数値範囲に含まれる。

3 また、引用発明の組成のうち、セチルアルコール1.300%とステアリルアルコール1.25%が脂肪族アルコールであることは明らかであるが、その合計は、1.300%+1.25%=2.55%となり、本願発明の脂肪族アルコールが「シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%」との範囲に含まれる。
そして、上記2で述べたとおり、二次界面活性剤である、ベヘントリモニウムクロリド0.55%は、本願発明の二次界面活性剤が「シャンプー組成物の少なくとも0.01重量%」との範囲には含まれるもの、引用発明の「ベヘントリモニウムクロリド」は陽イオン界面活性剤であるから、「アニオン性界面活性剤から選択される」ものである本願発明とは、界面活性剤の種類において相違する。

4 上記3より、引用発明の二次界面活性剤と脂肪族アルコールとの重量比は、0.55:2.55となり、本願発明の二次界面活性剤と脂肪族アルコールとの「重量比が1:5?5:1である」との範囲に含まれる。
ここで、引用刊行物1の実施例の調製方法では、「組成物の各々について、6?9%のラウレス-3硫酸アンモニウム、・・・陽イオン性ポリマー、0?1.5%のキシレンスルホン酸アンモニウム、及び0?5%の水を、ジャケット付き混合タンクに加え、攪拌しながら約74℃に加熱して溶液を生成した。クエン酸、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、EDTA二ナトリウム、コカミドMEA及び0.6?0.9%セチルアルコールをタンクに加え、分散させた。エチレングリコールジステアレート(EGDS)を混合容器に加え、溶融した。EGDSをよく分散させた後(約10分後)防腐剤を加え、界面活性剤溶液中に混合した。この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却し、最終タンクに集めた。この冷却工程の結果として、エチレングリコールジステアレートは結晶化し、製品に結晶性網状組織を形成した。」((1e))と記載される。引用刊行物1(1d)の記載によれば、実施例のエチレングリコールジステアレートは結晶性懸濁剤として用いられているものと解されるが、上記(1e)のとおり、その結晶性懸濁剤の形成のために「0.6?0.9%セチルアルコール」が用いられていることになる。そうすると、引用発明の組成のセチルアルコール1.300%のうち、0.6?0.9%が結晶性懸濁剤の形成に用いられているとすると、残りのセチルアルコール0.7?0.4%とステアリルアルコール1.25%、すなわち、0.7?0.4%+1.25%=1.95?1.65%、が脂肪族アルコールゲル網状組織の形成に使われたことになる。このことは、引用刊行物1の実施例の調製方法を記した上記(1e)に続く「別に、約20%の水を約74℃に加熱し、残りのセチルアルコール、ステアリルアルコール、及び陽イオン性界面活性剤をそれに加えた。組み入れた後、この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却した。この冷却工程の結果として、脂肪族アルコール及び界面活性剤は、結晶化して結晶性ゲル網状組織を形成した。」((1e))との記載とも整合する。そうすると、二次界面活性剤である、ベヘントリモニウムクロリド0.55%と脂肪族アルコールとの重量比は、0.55:1.95?0.55:1.65となり、結晶性懸濁剤の形成にセチルアルコールの一部が使われたとしても、引用発明の脂肪族アルコールゲル網状組織における、二次界面活性剤と脂肪族アルコールとの重量比は、本願発明の「重量比が1:5?5:1である」との範囲に含まれる。

5 引用発明の組成のうち、「水及び微量成分(100%まで適量)」は、他の成分の合計が25.9%となるから74.1%となり、そのうち、「別に、約20%の水を約74℃に加熱し・・・結晶性ゲル網状組織を形成した」((1e))のであるから、脂肪族アルコールゲル網状組織の形成に使われる以外の水、すなわち、「c)水性キャリア」としての水は約54.1%となる。これは、本願発明の水性キャリアが、「シャンプー組成物の少なくとも20重量%」との範囲に含まれる。

6 上記1?5によれば、引用発明と本願発明とは、
「シャンプー組成物であって、
a)前記シャンプー組成物の8重量%?50重量%の1以上の洗浄性界面活性剤であって、前記シャンプー組成物の8重量%?30重量%のアニオン性界面活性剤を含有する洗浄性界面活性剤と、
b)分散ゲル網状組織相であって、
i)前記シャンプー組成物の少なくとも0.05重量%の1以上の脂肪族アルコール、
ii)前記シャンプー組成物の少なくとも0.01重量%の、1以上の二次界面活性剤、及び
iii)水
を含み、且つ前記二次界面活性剤と前記脂肪族アルコールとの重量比が1:5?5:1である分散ゲル網状組織相と、
c)前記シャンプー組成物の少なくとも20重量%の水性キャリアと
を含むシャンプー組成物。」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>
分散ゲル網状組織相の二次界面活性剤が、本願発明は、「アニオン性界面活性剤」であるのに対して、引用発明は、「ベヘントリモニウムクロリド」である点。

<相違点2>
分散ゲル網状組織相の脂肪族アルコールが、本願発明は、「18?70個の炭素原子を有するものから成る」のに対して、引用発明は、「セチルアルコール、ステアリルアルコール」である点。

<相違点3>
本願発明は、「示差走査熱量測定法にて測定した前記分散ゲル網状組織相の融解転移温度が、少なくとも38℃である」のに対して、引用発明は、このような特定がない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
1 <相違点1>及び<相違点2>について
(1)引用刊行物1(1b)に、「毛髪を乾かした時に、毛髪に長時間持続する潤いの感触、滑らかな感触、及び整えやすさをもたらし、油っぽい感じを残さないこと、並びに毛髪が濡れている時に柔軟性及び櫛通りのよさをもたらすことが必要とされている。」と記載されるとおり、引用発明でもこのような機能が要求されるところ、引用刊行物1(1c)の「ゲル網状組織は、化粧クリーム及びヘアコンディショナーの安定化効果に寄与する。更に、ゲル網状組織は、ヘアコンディショナーにコンディショニングされた感触の効果を付与する」なる記載によれば、脂肪族アルコールゲル網状組織がコンディショニングされた感触の効果をもたらすことがわかる。そうすると、脂肪族アルコールゲル網状組織は、脂肪族アルコール、界面活性剤、及び水から構成されるから、脂肪族アルコールゲル網状組織がもたらすコンディショニングされた感触の効果を高めるために、構成成分である脂肪族アルコール及び界面活性剤について、どのようなものを用いればコンディショニングされた感触の効果をより高めることが出来るか検討することは当業者が当然行うことである。

(2)脂肪族アルコールゲル網状組織を構成する界面活性剤としてアニオン界面活性剤を選択することについて
上記(1)での検討の下に引用刊行物1の記載をみると、(1c)には、「(B)脂肪族アルコールゲル網状組織」の項で、「有用な界面活性剤としては、上記の陰イオン性、双極性及び両性界面活性剤が挙げられる。」と記載され、有用な界面活性剤として、陰イオン性界面活性剤、すなわち、アニオン性界面活性剤、が明記されている。引用刊行物1では、実施例としては陽イオン性界面活性剤を用いているが、脂肪族アルコールゲル網状組織の形成にアニオン性活性剤を用いることを妨げるような記載も見当たらない。
そうすると、引用刊行物1に有用と明記される界面活性剤の中からアニオン性界面活性剤を選択してみることは、上記(1)で述べたとおり当業者の容易に想到することである。
一方、本願明細書には、二次界面活性剤としてアニオン性界面活性剤を選択する技術的意義が何等記載されておらず、しかも【表1】【表2】に示されるゲル網状組織プレミックスの実施例では、二次界面活性剤として、ラウレス-3硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)と、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド(カチオン性界面活性剤)とが同等に用いられており、アニオン性界面活性剤を用いたことによる格別顕著な効果も確認できない。
したがって、引用発明において、脂肪族アルコールゲル網状組織を構成する界面活性剤として、ベヘントリモニウムクロリドに代えて、アニオン性界面活性剤を用いることは当業者の容易になし得ることである。
なお、審判請求書で呈示された参考資料2の例1、例2は、二次界面活性剤の種類(アニオン性かカチオン性か)のみならず、その添加量、更には、洗浄性界面活性剤として添加されるアニオン性界面活性剤の種類(例1はラウレス硫酸ナトリウムとラウリル硫酸ナトリウムであるのに対して、例2はラウレス硫酸アンモニウム及びラウリル硫酸アンモニウム)及び添加量まで異なっている。しかも、効果とされる「平均泡立量」は、二次界面活性剤による違いというよりはむしろシャンプー組成物中での配合量が圧倒的に多い洗浄性界面活性剤に起因するものと考えるのが自然であり、そもそも、泡立量については、本願明細書には何等記載されていない効果である。よって、参考資料2は、二次界面活性剤としてアニオン性界面活性剤を選択したことによる効果として参酌できない。

(3)18?70個の炭素原子の脂肪族アルコールを用いることについて
上記(1)で検討したとおり、引用発明において「毛髪を乾かした時に、毛髪に長時間持続する潤いの感触、滑らかな感触、及び整えやすさ」は当然要求される機能であり、引用刊行物1(1c)には、「本明細書で有用な脂肪族アルコールは、約10?約40個の炭素原子、好ましくは約12?約22個の炭素原子、より好ましくは約16?約22個の炭素原子、より好ましくは約16?約18個の炭素原子を有するものである。・・・脂肪族アルコールの非限定的な例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。」と記載され、セチルアルコール(C16)、ステアリルアルコール(C18)、ベヘニルアルコール(C22)が例示されている。
してみると、「毛髪を乾かした時に、毛髪に長時間持続する潤いの感触、滑らかな感触、及び整えやすさ」との機能を追求する上で、引用刊行物1に開示される「約10?約40個の炭素原子」である脂肪族アルコールや、セチルアルコール(C16)、ステアリルアルコール(C18)、ベヘニルアルコール(C22)等の中から最も効果のある脂肪族アルコールを種々実験検討して選択することは当業者が普通に行うことである。
その結果、選択された脂肪族アルコールを用いることにより、「毛髪を乾かした時に、毛髪に長時間持続する潤いの感触、滑らかな感触、及び整えやすさ」に優れることは当然のことである。
一方、本願発明は、「18?70個の炭素原子を有する」脂肪族アルコールと限定されているが、実施例(【表1】【表2】)で示されるのは、上記(2)で指摘したように二次界面活性剤としてアニオン性界面活性剤を用いている例に限ると、ステアリルアルコール(C18)とベヘニルアルコール(C22、Lanette22)を併用するもののみであり、例えば、70個の炭素原子を有する長鎖脂肪族アルコールを用いた場合にも同等の効果を奏するか否かは本願明細書の記載からは何等確認できない。
したがって、引用発明において、脂肪族アルコールゲル網状組織の脂肪族アルコールの炭素原子数を18?70とすることは、当業者の適宜なし得ることである。

2 <相違点3>について
(1)引用発明のシャンプー組成物の脂肪族アルコールゲル網状組織が融解する温度について
引用刊行物1の「ゲル網状組織の形成には、脂肪族アルコールの水中分散液を界面活性剤と共に脂肪族アルコールの融点を超える温度まで加熱することを必要とする。この混合プロセス中、脂肪族アルコールは溶融し、界面活性剤を脂肪族アルコールの液滴中に分配できる。界面活性剤は、一緒に水を脂肪族アルコール内に持ち込む。これが、等方性の脂肪族アルコール液滴を液晶相液滴に変える。混合物を鎖溶融温度未満に冷却した時、液晶相は固体の結晶性ゲル網状組織に変換される。」(1c)及び「約20%の水を約74℃に加熱し、残りのセチルアルコール、ステアリルアルコール、及び陽イオン性界面活性剤をそれに加えた。組み入れた後、この混合物を熱交換器に通して約35℃に冷却した。この冷却工程の結果として、脂肪族アルコール及び界面活性剤は、結晶化して結晶性ゲル網状組織を形成した。」(1e)との記載から、引用発明における脂肪族アルコールゲル網状組織は、「約35℃」まで冷却すれば固体の結晶性ゲル網状組織に変換される、すなわち、引用発明における脂肪族アルコールゲル網状組織の結晶化温度(逆に言えば、固体の結晶性ゲル網状組織から融解する温度)は35℃以上である、ことがわかる。
引用刊行物1(1e)の記載に従えば、上記のとおりの脂肪族アルコールゲル網状組織の結晶化工程の後、引用発明のシャンプー組成物は、上記結晶性ゲル網状組織のプレミックスと、結晶性懸濁剤のプレミックス(上記「第5 4」参照)との2つのプレミックスを混合し、更に残りの成分を十分に撹拌しながら加え、確実に均一に混合する混合工程により調製されるが、この調製された引用発明のシャンプー組成物中で均一に分散して存在する結晶性ゲル網状組織が融解する温度が、上記混合工程によって35℃よりも低くなることは、技術常識として考え難いので、引用発明のシャンプー組成物中で均一に分散して存在する結晶性ゲル網状組織が融解する温度は35℃以上であるといえる。

(2)本願発明の分散ゲル網状組織相の、示差走査熱量測定法にて測定した融解転移温度が少なくとも38℃であることについて
ア 示差走査熱量測定計は、「化学大辞典」、東京化学同人、第1版第5刷、1998年6月1日、981頁右欄「示差走査熱量計」の項目に「DSCと略称される.物質の融解熱,転移熱,分解熱,熱容量などを測定する熱量計の一形式であって,少量の試料で速やかに測定が行え,また広い温度範囲にわたって使用できることがその特長である.」と記載されるとおり、本願の優先権主張日前に周知の熱量計であるから、結晶性ゲル網状組織が融解する温度を、示差走査熱量測定法にて測定した融解転移温度として表記することはごく普通のことである。

イ 本願発明の分散ゲル網状組織相の融解転移温度は、「少なくとも38℃」とその下限のみが限定されており、本願特許請求の範囲の請求項2で「融解転移温度が40℃?60℃である」と規定されるように融解転移温度が非常に高い場合をも包含するものであるが、融解転移温度が人がシャワー等でシャンプー組成物を使用する温度を超えるような、例えば60℃のように、非常に高い場合に、シャンプー組成物として如何なる技術的意義があるのか本願明細書の記載からは読み取れない。同様に、本願明細書全体を精査しても「38℃」との数値自体に臨界的意義があるものとも認められない。
そして、「少なくとも38℃」と限定することにより、35℃以上である引用発明に比べて本願発明が格別顕著な効果を奏すとは認められない。

(3)してみると、引用発明において、結晶性ゲル網状組織が融解する温度を、上記アのとおり周知の示差走査熱量測定法で測定して表記することは当業者の容易になし得ることであり、結晶性ゲル網状組織の融解転移温度が少なくとも38℃と特定することは、当業者が適宜なし得ることである。

3 本願発明において、上記<相違点1>?<相違点3>に係る構成をとることにより奏される、本願明細書記載の効果は、引用発明及び引用刊行物1に開示される事項から当業者が予測しうる範囲内のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1にかかる発明は、引用発明及び引用刊行物1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-10 
結審通知日 2014-04-15 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2008-529716(P2008-529716)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馳平 裕美  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小川 慶子
関 美祝
発明の名称 ゲル網状組織を含有するシャンプー  
代理人 飯野 智史  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  

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