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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1291930
審判番号 不服2012-14728  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-01 
確定日 2014-09-11 
事件の表示 特願2006-550245「ヒアルロン酸ナトリウムの断片とレチノイドを組み合わせる局所用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 9日国際公開、WO2005/082327、平成19年 7月19日国内公表、特表2007-519689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2005年1月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年1月29日フランス(FR))を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成22年 5月18日付け 拒絶理由通知書
平成22年12月 1日 意見書・手続補正書
平成23年 5月19日付け 拒絶理由通知書
平成23年 9月 9日 意見書
平成24年 3月27日付け 拒絶査定
平成24年 8月 1日 審判請求書・手続補正書
平成25年10月 9日付け 審尋
平成26年 1月14日 回答書

第2 本願発明の認定

本件は,平成24年8月1日付け手続補正書(以下,「本件補正」という)が提出されており,本件補正は,補正前の請求項2及び3を削除したものである。
そして,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号の請求項の削除に該当し,同法同条同項の規定に適合する。

そうすると,この出願の請求項1に係る発明は,平成24年8月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ,該請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものであると認める。

「分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み,レチナールをさらに含有していることを特徴とする,局所塗布のための組成物。」

第3 刊行物に記載された事項

1 刊行物

特開昭64-40412号公報(原査定における引用文献2。以下,「刊行物1」という。)
特開2000-344656号公報(原査定における引用文献5。以下,「刊行物2」という。)
特表平4-505774号公報(原査定における引用文献6。以下,「刊行物3」という。)
特開平8-259604号公報(原査定における引用文献7。以下,「刊行物4」という。)

2 刊行物に記載された事項

この優先日前に頒布された刊行物である刊行物1ないし4には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。以下,同様。

(1)刊行物1
1a「ビタミンAとエストロゲンとを配合することを特徴とする化粧料。」(特許請求の範囲)

1b「即ち,本発明はビタミンAおよびエストロゲンの組合わせにより表皮,真皮を含めて皮膚全体のグリコサミノグリカンの生合成能を高め,バランスを保つことによって皮膚に潤いを与え,皮膚の柔軟性および保水性を高め,乾燥感等皮膚の老化現象を防ぐのに効果的である化粧料を提供しようとするものである。」(2頁右上欄11?17行)

1c「本発明で用いるエストロゲンは,例えばエチニルエストラジオール,17β-エストラジオール,エストロン,エストリオール,ジエチルスチルベストロール,ヘキセストロール等であり,これらのうちから1種又は2種以上を任意に選び使用する。・・・
本発明で用いるビタミンAは,例えばレチノール,レチナール,デヒドロレチノール,デヒドロレチナールおよびこれらのエステル類あるいはカロチン,リコピン,ゼアキサンチン,クリプトキサンチン,エキネノン等のプロビタミン類であり,これらのうちから1種又は2種以上を任意に選び使用する。・・・
本発明の化粧料は前記の必須成分以外に,必要に応じて本発明の効果を損わない範囲で化粧品,医薬品等に一般に用いられる各種成分,すなわち水性成分,粉末成分,油分,界面活性剤,保湿剤,増粘剤,酸化防止剤,香料,色材,紫外線吸収剤,ビタミン類,薬剤等を配合できる。また,前項で示したビタミンAとエストロゲンの構成比によって異なるが,状況に応じてビタミンAとエストロゲンの効果を補足する意味でグリコサミノグリカンを該化粧料に対して0.01%以上10%以下の範囲で配合することもできる(・・・)。
尚,ここで用いるグリコサミノグリカンは,例えばヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸A,コンドロイチン硫酸B,コンドロイチン硫酸C,ヘパラン等および(または)その塩類である。グリコサミノグリカンの塩を形成する塩基としては水酸化リチウム,水酸化カリウム,水酸化ナトリウム等の無機塩,トリエタノールアミン等の有機塩基およびリジン,アルギニン,β-アラニン等の塩基性アミノ酸等を例示できる。」(2頁右上欄19行?3頁左上欄2行)

1d「 実施例4 パック
ポリビニルアルコール 20.0
エタノール 20.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
グリセリン 5.0
香 料 0.3
エチニルエストラジオール 0.004
レチナール 0.004
精 製 水 残 余 」(5頁左上欄8?16行)

(2)刊行物2
2a「【請求項1】ヒアルロン酸と1,2-ペンタンジオール,ポリグリセリン,ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの群より選択された少なくとも一種とを含有することを特徴とする化粧料。
【請求項2】ヒアルロン酸の分子量が10000以上600000以下である請求項1記載の化粧料。」

2b「【0002】
【従来技術】化粧品は,肌をしっとりとした状態に保ち,肌荒れを防止する機能を持つ。ヒアルロン酸は保湿性に優れるため,肌をしっとりとした状態に保つ効果が高いが,反面,べたつく感触が問題とされてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,しっとりとしてコクがあり,かつ,べたつきが少ない優れた使用感を持ち,肌荒れ防止効果が高い化粧料を提供することである。・・・
【0005】
【発明の実施の形態】本発明の化粧料で用いられるヒアルロン酸は動物諸組織,特に間充組織に広く分布し,構造はD-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの等モルを1単位とする多糖である。本発明に用いるヒアルロン酸の平均分子量は10000?5000000であり,好ましくは10000?600000である。平均分子量10000未満ではしっとり感が不十分であり,600000以上ではべたつきを抑えることがやや困難である。」

(3)刊行物3
3a「1.高分子量のヒアルロン酸溶液を剪断処理によって機械的に分解することによって粘度平均分子量500,000又はそれ以下のヒアルロン酸を製造する方法。 ・・・
4.生成ヒアルロン酸の粘度平均分子量が15,000?500,000である請求の範囲第1項に記載の方法。」(特許請求の範囲)

3b「本発明は低分子量ヒアルロン酸(以下,単に「HA」と記す)の製造方法に関する。 ・・・・
一方,低分子量HAは高分子量のものと異なり,水に溶けやすく,かつ粘度が低いことを見出した。従って,これを配合した化粧品は肌へのべとつき感やつっぱり感などの違和感を与えない等の効果があることがわかった。かくして,低分子量HAの化粧品原料としての利用も期待され始めた。また,低分子量HAは創傷治癒効果を有しているため,例えば点眼剤,皮膚外用剤,癒着防止剤等に対する応用が考えられている。」(1頁右下欄4行?2頁左上欄2行)

3c「本発明に従えば,高分子量ヒアルロン酸溶液を剪断処理によって機械的に分解(又は解重合)することによって,粘度平均分子量が500,000又はそれ以下,好ましくは15,000?500,000のヒアルロン酸を製造する方法が提供される。」(2頁左上欄下から3行?右上欄1行)

(4)刊行物4
4a「【0006】本出願方法によって分離される最初の画分はヒアラスチン(HYALASTIN)と命名され,約50,000?約100,000の平均分子量を有する。このヒアラスチン画分は,その創傷治癒活性から獣医用およびヒト用の治療的応用に好適であることが確認された。・・・
【0009】・・ヒアラスチンと呼ばれる画分は,良好な運動性,即ち細胞増殖能を有し,且つ低粘度を有することが確認された。従って,ヒアラスチンは,創傷治癒の促進に有用な物質として望ましい特性を有する。・・・」

4b「【0011】ヒアルロン酸の有用な画分を分離する場合,炎症活性を示さない画分を得ることが重要である。・・バラズスの教示に反して,本出願方法はバラズスにより平均分子量750,000以下の画分に帰せられた炎症活性が,実は平均分子量30,000以下の不純物に由来していることを発見した。従って本発明は,化学的方法に引続き,分子量30,000以下の炎症性画分を除去し得る一連の分子濾過技術からなる方法を提供する」

4c「【0042】より明確に述べれば,ヒアラスチン画分は次の特性により,創傷治癒剤として有用であることが見出された。
1.その製剤によって,通常の治療と比べ,障害部位の急速な清浄化,潰瘍辺縁の正常化,盛んな肉芽組織の形成,マクロファージおよび線維芽細胞の細胞遊走の活性化,および急速な上皮形成を伴う治癒時間の急速な短縮を促進される。
2.その製剤によって,重症例における再生手術に対する順応の増加が促進される。
3.瘢痕化組織を最後に仕上げして美容上および機能的に良好な結果を得ることにより,ケロイドまたは退縮製の瘢痕形成を残さないこと。」

第4 当審の判断

1 刊行物1に記載された発明

刊行物1は,「ビタミンAとエストロゲンとを配合することを特徴とする化粧料」(1a)に関し記載するものであり,この化粧料の具体的な処方例として,実施例4にはパック用の組成物で「ポリビニルアルコール,エタノール,ヒアルロン酸ナトリウム,グリセリン,香料,エチニルエストラジオール,レチナール,精製水」(1d)を含有している組成物が記載されている。

そうすると,刊行物1には,

「ポリビニルアルコール,エタノール,ヒアルロン酸ナトリウム,グリセリン,香料,エチニルエストラジオール,レチナール,精製水を含有しているパック用の組成物。」

の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明との対比

(1)本願発明の「ヒアルロン酸塩」は,本願明細書の「【0029】ヒアルロン酸塩は,任意の塩,とりわけヒアルロン酸ナトリウムを意味する」との記載より,主にヒアルロン酸ナトリウムを意味するものといえる。
他方,引用発明の「ヒアルロン酸ナトリウム」は,分子量が不明なもので,刊行物1の「ビタミンAとエストロゲンの効果を補足する意味でグリコサミノグリカンを該化粧料に・・配合することもできる」(1c)との記載より,ビタミンAとエストロゲンの効果を補足する意味で含まれており,ビタミンAとエストロゲンの効果,すなわち「表皮,真皮を含めて皮膚全体のグリコサミノグリカンの生合成能を高め,バランスを保つことによって皮膚に潤いを与え,皮膚の柔軟性および保水性を高め,乾燥感等皮膚の老化現象を防ぐ」(1b)効果を補足するもので,作用成分として含まれているものといえる。
そうすると,本願発明の「分子量が50,000および750,000Daの間に含まれるヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み」と,引用発明の「ヒアルロン酸ナトリウム(を含有している)」とは,ヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含む点で共通する。

(2)引用発明の「レチナール(を含有している)」は,本願発明の「レチナールをさらに含有している」に相当する。

(3)本願発明の「局所塗布のための組成物」について,出願当初の特許請求の範囲には「【請求項4】請求項1から3のいずれか一つに記載の組成物を化粧品へ使用する方法」と記載され,該請求項1ないし3に係る発明である「局所塗布のための組成物」は化粧品として使用する組成物を含んでいるといえることから,化粧品として表皮に塗布するための組成物は,本願発明の「局所塗布のための組成物」に該当するといえる。
他方,引用発明の「パック用の組成物」とは,一般に,化粧品として顔等の表皮に塗布するための組成物といえる。
そうすると,引用発明の「パック用の組成物」は,本願発明の「局所塗布のための組成物」に相当する。

したがって,両者は,

「ヒアルロン酸塩の一つまたは複数の断片を作用成分として含み,レチナールをさらに含有している,局所塗布のための組成物。」

である点で一致し,以下の点でのみ相違する。

ヒアルロン酸塩が,本願発明では分子量が50,000及び750,000Daの間に含まれるものであるのに対し,引用発明では分子量が明らかでない点(以下,「相違点」という。)。

3 判断

(1)相違点について

刊行物2には,化粧料において,ヒアルロン酸は保湿性に優れるため肌をしっとりとした状態に保つ効果は高いものの,べたつく感触が問題であること,その問題を解決すべく,ヒアルロン酸の平均分子量10,000?600,000のものは,しっとりとしてべたつきが少ないこと(2a,2b),が記載されている。
刊行物3にも,粘度平均分子量15,000?500,000(3a,3c)の低分子量ヒアルロン酸は,水に溶けやすく且つ粘度が低いこと,従って,これを配合した化粧品は肌へのべとつき感やつっぱり感などの違和感を与えない効果があること(3b)が記載されている。のみならず,この低分子量ヒアルロン酸は創傷治癒効果を有すること(3b)も記載されている。
さらに,刊行物4には,ヒアルロン酸の平均分子量約50,000?100,000のものは,細胞増殖能を有し且つ低粘度であり,創傷治癒の促進に有用であること(4a),他方,ヒアルロン酸の平均分子量約30,000以下のものは炎症活性があり除去すること(4b)が記載されている。

ところで,引用発明は,レチノール及びエチニルエストラジオールにより,表皮,真皮を含めて皮膚全体のヒアルロン酸の生合成能を高め,バランスを保つことによって皮膚に潤いを与え,皮膚の柔軟性及び保水性を高め,乾燥感等皮膚の老化現象を防ぐのに効果的な化粧料である(1b)。この効果を補足する意味で,ヒアルロン酸ナトリウムは配合されており(1c),ヒアルロン酸ナトリウムは皮膚に潤いを与え皮膚の保水性を高めるものとして配合されている。
ここで,刊行物2,3の上記記載より明らかなように,ヒアルロン酸は保湿性に優れ肌をしっとりとした状態に保つ効果は高いものの,べたつく感触が問題であり,化粧料においては,肌をしっとりした状態に保ちつつも,べたつきが少ないものが望まれるものである(2b,3b)。加えて,化粧料は肌に直接塗布等するものであるから,化粧料においては炎症活性のあるものを除去しておくべきである。
そうすると,引用発明におけるヒアルロン酸ナトリウムとして,しっとり感が十分でべたつきが少ないよう,刊行物2,3の上記記載を勘案し,重複する平均分子量15,000?500,000のものを選択し,さらに,化粧料には炎症活性のあるものを除去すべきであることから,刊行物4の上記記載も勘案して,上記選択した分子量範囲からさらに炎症活性のある平均分子量30,000以下のものを除去した平均分子量30,000?500,000のものを適用することは,当業者が容易になし得たことである。
加えて,ヒアルロン酸について,刊行物4に記載の,平均分子量50,000?100,000のものは,低粘度で,細胞増殖能,盛んな肉芽組織の形成,繊維芽細胞の活性化等の特性を有し創傷治療の促進に有用で美容上及び機能的に良好な結果を得られる(4b,4c)ことも勘案すると,美容上良好な効果は化粧料として望まれることから,上記適用する範囲の内でも更に平均分子量50,000?100,000のものを適用することにも,格別の困難性はない。

(2)本願発明の効果について

ア 低分子量のヒアルロン酸塩断片(平均分子量50,000?250,000Da,250,000?750,000Da)単独の効果について
本願明細書の実施例1には,図3の表2ないし表4の結果より「【0050】・・1-増殖細胞の増加を伴う大幅な表皮過形成,2-線維芽細胞の大幅な増加を伴う,真皮表層内に集中したHAの蓄積」と記載されている。
しかしながら,この低分子量のヒアルロン酸塩単独の効果について,刊行物3,4より,平均分子量15,000?500,000のヒアルロン酸が創傷治療効果を有していること(3b)や,平均分子量50,000?100,000のヒアルロン酸が細胞増殖能を有し繊維芽細胞を活性化させること(4aないし4c)が既に公知であることから,増殖細胞の増加を伴う表皮過形成や線維芽細胞の増加については,当業者が予測し得ることである。
また,引用発明は,レチノール及びエチニルエストラジオールにより,表皮,真皮を含めて皮膚全体のヒアルロン酸の生合成能を高めることによって皮膚に潤いを与える化粧料(1b)であることから,引用発明の効果として,表皮及び真皮におけるヒアルロン酸の生合成が多くなされ,表皮及び真皮に集中したヒアルロン酸の蓄積がなされることも,当業者の予測し得ることである。

イ 低分子量のヒアルロン酸塩断片(50,000?250,000Da,250,000?750,000Da)とレチナールの組合せの効果について
本願明細書の実施例2には,以下i,iiのように記載されている。
i 「【0054】HAF-RALの組合せの相乗作用は,調製物6および7で,真皮の細胞充実性についてとくに顕著である(表5参照)。」(当審注:「表5」は表6の誤記と認める。)
ii 「【0056】HAF-RALの組合せの相乗作用もまた,上述のさまざまな調製物で処理したマウスの真皮と表皮内のHAの存在をELISA測定して明らかにした。
【0057】結果は,RAL単体(調製物5)またはHAF単体(調製物3)による処理と比較して,HAF-RALの組合せ(調製物7)による処置の後に,真皮内でも(図2)表皮内でも(図1)HA産生の有意の増加を示している。」

しかしながら,iについて,表皮の厚みと真皮の細胞充実性に関する効果が示されている本願表6と本願表2を比較すると,本願表6の効果は低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果である本願表2の結果と殆ど同じであるか,わずかな差のみである。これは,本願表6の低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる効果は,低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果に由来すると考えられ,表皮の厚みと真皮の細胞充実性に関し,低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる相乗効果は認められない。
そして,低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果は,上記アで述べたように,当業者の予測し得ることである。

iiについて,本願図1には表皮内のヒアルロン酸量増加の効果が,本願図2には真皮内のヒアルロン酸量増加の効果がそれぞれ示されている。
表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量増加については,上記アで述べたように,引用発明は,レチノール及びエチニルエストラジオールにより,表皮,真皮を含めて皮膚全体のヒアルロン酸の生合成能を高めることにより皮膚に潤いを与える化粧料(1b)であることから,引用発明の効果として,表皮及び真皮におけるヒアルロン酸の生合成が多くなされ,表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量が増加することは,当業者の予測し得ることである。
その増加の程度について,表皮内のヒアルロン酸量につき本願図1を検討すると,低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる効果は低分子量ヒアルロン酸塩単独及びレチナール単独の効果の相加効果であり,真皮内のヒアルロン酸量につき本願図2も検討すると,低分子量ヒアルロン酸塩とレチナールの組合せによる効果は,誤差範囲を加味すると,低分子量ヒアルロン酸塩単独及びレチナール単独の効果の相加効果と理解される。
ここで,低分子量ヒアルロン酸塩単独の効果につき,刊行物2より,平均分子量10,000?600,000といった低分子量ヒアルロン酸は化粧料としてしっとりしており(2b),低分子量ヒアルロン酸は表皮や真皮に浸透し易いことは本願優先日前周知事項であるから,表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量が増加すると予測される。
また,レチナール単独の効果につき,以下に示す刊行物A(原査定における引用文献5)の記載より明らかなように,レチノイン酸は表皮におけるヒアルロン酸産生促進物質として従来より知られているが,レチノイン酸は皮膚刺激性を有する故,刺激感を予防すべく,レチナールを包含するレチノイドを用いることは,本願優先日前,周知事項であるから,レチナールを表皮に適用すると代謝され表皮におけるヒアルロン酸産生が促進され,表皮内のヒアルロン酸量が増加すると,当業者は理解し得たことである。
そうすると,表皮内及び真皮内のヒアルロン酸量の増加の程度については,低分子量ヒアルロン酸及びレチナールを適用すればそれぞれの効果を合わせた相加効果が奏されることは,当業者の予測の範囲内である。

以上より,本願発明の効果は,刊行物1ないし4及び本願優先日前の周知事項から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものではない。

刊行物A:特開2002-284662号公報(原査定における引用文献5)「【0004】表皮におけるヒアルロン酸産生促進物質としては,従来,レチノイン酸が知られている。レチノイン酸は元来表皮に存在し,表皮細胞の増殖や分化に関与する必須な物質である。レチノイン酸は海外では各種の皮膚障害,例えば尋常性ざ瘡,小皺,乾癬,老斑を処置すべく皮膚性状回復剤もしくは更新剤として広範に使用されている。・・・
【0006】しかし,レチノイン酸は皮膚刺激性を有しており,刺激感を予防するためには低濃度のレチノイン酸外用剤を処方することが必要となる。一方で刺激性が低いレチノールもしくはレチニルエステルは,生体内で活性体であるレチノイン酸へ代謝される必要があり,皮膚に利益を与える際,レチノイン酸より効果が低い。したがって,レチノイン酸の効果を有しつつ,皮膚刺激性という副作用がない皮膚外用剤が望まれていた。本発明は,レチノイドとN-アセチルグルコサミンの組み合わせが表皮細胞のヒアルロン酸合成に相乗的向上をもたらすという知見に基づいている。・・・
【0014】本発明の第二必須成分であるレチノイドとしては,レチノイン酸,レチナール,レチノールおよび脂肪酸レチニルエステル,ならびにデヒドロレチノール,デヒドロレチノール,脂肪酸デヒドロレチニルエステルを包含する。」

第5 むすび

以上のとおり,本願発明は,この出願の出願前に頒布された刊行物1ないし4に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるので,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-28 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-21 
出願番号 特願2006-550245(P2006-550245)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 忠宏  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 齊藤 真由美
小川 慶子
発明の名称 ヒアルロン酸ナトリウムの断片とレチノイドを組み合わせる局所用組成物  
代理人 太田 恵一  

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