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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1292196
審判番号 不服2013-4519  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-08 
確定日 2014-09-19 
事件の表示 特願2008-552561「検体を定量するためのデバイスおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 2日国際公開,WO2007/087582,平成21年 7月 2日国内公表,特表2009-524832〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年1月24日(パリ条約による優先権主張日 平成18年(2006年)1月24日及び同年10月20日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成23年11月29日付けで拒絶理由が通知され,平成24年5月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年11月7日付で拒絶査定がされたのに対し,平成25年3月8日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに,同日付で手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
液体試料における1つ以上の所定の検体の量を測定するためのデバイスであって、該デバイスは、検体を有する試料容器を保持するための容器と、光検知器と、2つ以上の別個かつ操作可能に接続された検体検出部と、機械実行可能な命令を有するコンピュータ・プロセシング・ユニットと、を含み、
前記検体検出部の各々が、
a)所定のピーク波長の光を発するように構成された、試料を励起するための独立したエネルギー源、
b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター、
c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルター
を含み、
ここで、前記検体検出部の各々が、所定の検体の量を測定するように構成され、前記機械実行可能な命令は、測定すべき検体に対応する適切な検体検出部を選択するように構成され、かつ前記試料容器は前記励起フィルターと前記発光フィルターとの間に配置される、デバイス。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
前者の「液体試料における1つ以上の所定の検体」とする補正は,1つ以上の所定の検体について限定を付加するもので,後者の「かつ前記試料容器は前記励起フィルターと前記発光フィルターとの間に配置される、デバイス」とする補正は,デバイスにおける試料容器,励起フィルター及び発光フィルターの配置関係に限定を付加するもので,両者とも,いわゆる限定的減縮に相当するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である特表2005-536713号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項においては,引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項51】
サンプル内の不純物の濃度を決定するための機器であって、
(a)上記サンプルを収容するための凹部を定義するハウジングと、
(b)上記ハウジングに作動可能に接続され、光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源と、
(c)上記ハウジングと作動可能に関連づけられ、上記光学的なエネルギを受けると共に上記光学的なエネルギを上記サンプルについてのデータポイントへと変換するための検出器と、
(d)上記ハウジングと作動可能に関連づけられた少なくとも一つのメモリとを備え、上記少なくとも一つのメモリが、上記不純物についての複数の濃度に対しての測定の示度のデータベースを格納するように構成され、
(e)上記少なくとも一つのメモリと通信する少なくとも一つのプロセッサを備え、上記少なくと一つのプロセッサが、上記不純物の上記濃度を決定するように構成され、上記不純物の上記濃度を決定は、上記サンプルについての上記データポイントを測定の示度の上記データベースと比較することに基づくことを特徴とするサンプル内の不純物の濃度を決定するための機器。
・・・
【請求項54】
上記源に作動可能に接続された、上記ハウジング内の少なくとも一つのオシレータと、
その少なくとも1つのオシレータを駆動するための、上記ハウジング内の電池と、
上記サンプルを収容するためのバイアルとをさらに備え、上記バイアルが、中心線の軸を定義し、
上記ハウジングに作動可能に接続され、光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源と、
上記ハウジングと作動可能に関連づけられ、光学的なエネルギを受けるための第二の検出器とをさらに備え、上記光源および検出器が、固定軸と、上記サンプルの軸を通過するメリジオナル平面上との上に位置するように構成された請求項51記載の機器。」

(1-イ)「【0001】
本発明の主題は、液体の特性を測定するための機器に関し、特に、反応物質と混合された水などの液体の色、濁度および/または螢光を試験するための改良された機器および方法に関する。
・・・
【0003】
通常、水質試験は、液体のサンプルへの指定の試薬の付加を必要としている。
従来、既知の濃度の反応物質が、未知の濃度の反応物質を含む水のサンプルに混合される。あるいは、サンプルの特性の変化が反応の終了点を示すまで、この既知の反応物が連続的に加えられる。いずれの場合も、この試薬が汚染物質と反応し、汚染物質の濃度に比例する反応を引き起こす。
・・・
【0005】
付加的な技術として、蛍光性のマーカーを含む試薬の追加がある。汚染物質との反応が、蛍光の一部を可能もしくは抑制する。例えば、マーカー・ローダミンは、青色光により励起されると、赤色の蛍光を発する。従って、サンプルを通して青色光を送ることは、汚染物質のレベルに比例する赤色の螢光を発生させる。従って、螢光レベルの変化を決定することは、汚染物質の濃度を示すことになる。」

(1-ウ)「【0019】
本発明はまた、バイアル(vial)に含まれる水のサンプル等の縦長(elongated)のサンプルの色および散乱を分析する方法および装置に関する。その縦長のサンプルは軸を定義する。装置は、第一のメリジオナル平面(meridional plane)を定義する第一の経路(channel)を備え、その第一のメリジオナル平面は、サンプルに近接して設けられた第一の放射源を有する。その第一の放射源は、放射の第一のビームをサンプルを通して第一のセンサ上へ放出する。第一のセンサは、第一の放射源に対してサンプルの軸まわりに周方向に間隔を隔てて設けられたものである。第一のセンサは、そのセンサに影響を及ぼす放射の強度を示す第一の出力信号を生成する。第二の経路は、第二のメリジオナル平面を定義し、サンプルに近接して設けられた第二の放射源をその上に備える。第二の放射源も、放射のビームをサンプルを通して第二のセンサ上に放出する。第二のセンサは、第二の放射源に対してサンプルの軸まわりに周方向に間隔を隔てて設けられたものである。第二のセンサは、第二の出力信号を生成するためのものである。エレクトロニクスは、各経路を作動させ、それにより生成された信号を処理する。経路は、色、透過(transmission)および45°の濁度の測定を可能にするために、45°間隔であることが好ましい。」

(1-エ)「【0025】
機器100は、その頑丈さを強化するために防水であることが好ましい。この好適実施形態の中のオプティクス(optics)およびエレクトロニクス(electronics)は、ハウジング110内に固定されるLEDおよび光起電力検出器(下記に「PVD」とする記載)である。多数の光学的および電子的構成要素が、機器の性能要件を十分に発揮させるために使用されてもよいことが想定される。例えば、半導体レーザーが、LEDおよびフォト電界効果トランジスタ(photoFETs)と置き換えられるか、あるいはアバランシェフォトダイオード(avalanche photodiodes)がPVDと置き換えられてもよいが、これに限定されない。アナログおよびデジタル信号処理用の電子部品の有益な組合せを、電子的な構成要素として使用してもよいことが想定される。可動部の数の減らすことは、高い信頼性を供する。下に更に詳細に記載されるように、多軸(multi-axis)、多源(multi-source)および多検出器(multi-detector)機器100は、複数の試験を行なうために電気的(electrical)スイッチングによって選択的に作動される。」

(1-オ)「【0031】
図示されるように、光学系は、構成が簡単で厳密な誤差範囲を要さないことが好ましい。各メリジオナル平面154内のLED150の軽量な(lightweight)構成および自動整列を容易にするために、一片の金属またはプラスチック(図示されない)を機械加工または成型して、LEDを適所に固定するようにしてもよい。他の実施形態では、透明ガラスまたは、半透明または透光性カバー等(図示されない)が、水および汚れの蓄積を防ぐために、LED150および/またはPVD152の上にエポキシ接着(expoxied)されるかあるいはその他の方法で固定される。さらに他の実施形態では、ウラテン(Wratten)ブルーパスフィルタ(図示されない)が、清浄度を促進するだけでなく、測定中の信号対雑音比を増加させるために、メリジオナル平面の内の一つにおける青色を放出するLEDの上に接合される。さらに、本明細書に記載されるように、機器100は、マイクロコントローラ174(図3に最もよく示される)を備え、そのマイクロコントローラ174は、当業者により既知である方法で、さまざまなスイッチング制度(regimes)を制御するようにプログラムされる。従って、機器100中の唯一の可動部は、手動で挿入されるサンプルバイアル130であることが好ましい。」

(1-カ)「【0037】
ここで図3を参照すると、三つのメリジオナル平面154a-cが八角形の配置で使用される際に、メリジオナル平面154aで、橙色、赤色およびNIRのLED150aの三つ組だけを使用し、メリジオナル平面154cで深緑色(deep green)のLEDおよび青色のLEDだけを使用することは有用である。機器の迷光(stray light)が減少するように、補足的なロングパスおよびショートパスフィルタ(各々178および176)が、PVD152aおよび152cの前に各々配置される。ウラテン・ゼラチン・フィルタ#25および#47が、ロングおよびショートフィルタとして、各々十分であることが見出された。本好適実施形態では、黄色と緑色とのLED150bのダブレット(doublet)が、メリジオナル平面154bで使用される。」

(1-キ)「【0045】
概して、操作中、機器100には標準の較正データがロードされる。他の実施形態では、機器100が、一連の実験用の読み取りを行い、記憶装置に対する一意的な較正データを生成する。機器が格納された較正データを必要としないかもしれず、フィールド(field)で生成された標準データが、所望の分析を行うのに十分であることが想定される。機器100の使用時に、ユーザーは、凹部116にサンプルバイアル130を挿入する。特定の分析に対して適切であるように、一つのサンプルバイアル130が、周期的なキャリブレーション中に、ゼロ点調整のクリアな泡のない水を含むかもしれず、他のサンプルバイアル130が、変更されていないフィールドサンプル、あるいは試薬を加えられたフィールドサンプルを含んでもよく、異なる物質に基づくいくつかの読み取りが、特定の分析を完了するために要求されてもよい。ユーザーは、キーパッド114を介して所望の分析を選択し、プロセスを開始する。マイクロコントローラ174が、必要なLED150a-cおよびPVD152a-cを作動させ、選択された分析のために必要とされる命令を、ディスプレイ112を介してユーザーに供する。必要ならば、ディスプレイ112により促された適切な時に、ユーザーが、適切に充填されたサンプルバイアル130を手動で挿入する。エレクトロニクス(アンプとマイクロコントローラとを備えるが、これに限定されない)が、読み取りにより生成された信号を処理し、ユーザーへの結果をディスプレイ112上に表示し、ポート118を介しての外部装置への後のダウンロードのために、メモリ186に結果を格納する。機器100の電力が低下した場合に、当業者により既知であるように、ユーザーはコンセント120を介して内蔵電池を充電してもよい。」

(1-ク)以下の【図5】には,LED150aに対してフィルタ178及びPVD152aが,LED150cに対してフィルタ176及びPVD152cがあり,サンプルバイアル130が,LED150aとフィルタ178との間及びLED150cとフィルタ176との間に配置されていることが記載されている。


してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「サンプル内の不純物の濃度を決定するための機器であって,
(a)上記サンプルを収容するための凹部を定義するハウジングと,
(b)上記ハウジングに作動可能に接続され、光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源と,
(c)上記ハウジングと作動可能に関連づけられ,上記光学的なエネルギを受けると共に上記光学的なエネルギを上記サンプルについてのデータポイントへと変換するための検出器と,
(d)上記ハウジングと作動可能に関連づけられた少なくとも一つのメモリとを備え,上記少なくとも一つのメモリが、上記不純物についての複数の濃度に対しての測定の示度のデータベースを格納するように構成され,
(e)上記少なくとも一つのメモリと通信する少なくとも一つのプロセッサを備え,上記少なくと一つのプロセッサが,上記不純物の上記濃度を決定するように構成され,上記不純物の上記濃度を決定は,上記サンプルについての上記データポイントを測定の示度の上記データベースと比較することに基づくサンプル内の不純物の濃度を決定するための機器において,
上記ハウジングに作動可能に接続され,光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源と,
上記ハウジングと作動可能に関連づけられ,光学的なエネルギを受けるための第二の検出器とをさらに備え,上記光源および検出器が,固定軸と,上記サンプルの軸を通過するメリジオナル平面上との上に位置するように構成された機器であり,
上記源からの光学的なエネルギがサンプルを通して上記検出器に放出される第1の経路,上記第2の源からの光学的なエネルギがサンプルを通して上記第二の検出器に放出される第2の経路があり,エレクトロニクスが各経路を作動させ,それにより生成された信号を処理し,
多軸,多源および多検出器で,複数の試験を行なうために電気的スイッチングによって選択的に作動される機器であり,
上記源が発光ダイオード(LED)で,上記検出器が光起電力器(PVD)であり,
LED150の上にウラテン(Wratten)ブルーパスフィルタが接合されており,ロングパスおよびショートパスフィルタ(各々178および176)が,PVD152aおよび152cの前に各々配置されており,
LED150aに対してフィルタ178及びPVD152aが,LED150cに対してフィルタ176及びPVD152cがあり,サンプルバイアル130が,LED150aとフィルタ178との間及びLED150cとフィルタ176との間に配置されている,機器。」(以下「引用発明」という。)

4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「サンプル内の不純物」は,摘記(1-イ)から,液体試料におけるものであり,それは摘記(1-イ)の汚染物質のことで一つ以上あるものである。一方,本願補正発明における「検体」は,本願明細書の【0041】に「代表的な検体としては、薬物、抗原、ハプテン、抗体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ホルモン、ステロイド、ガン細胞マーカー、組織細胞、ウイルス、ビタミン、核酸、金属イオン、酵素、脂質、放射性同位体、ウイルス、細菌、病原体、化学的不純物、および殺虫剤が挙げられるが、これらに限定されない。」(下線は当審において付与した。)と記載されている。
してみれば,引用発明の「サンプル内の不純物」は,本願補正発明の「液体試料における1つ以上の所定の検体」に相当するから,引用発明の「サンプル内の不純物の濃度を決定する」ことは,本願補正発明の「液体試料における1つ以上の所定の検体の量を測定する」ことに相当する。

イ 引用発明の「ハウジング」によって「定義」される「サンプルを収容するための凹部」は,本願補正発明の「検体を有する試料容器を保持するための容器」に相当する。

ウ 引用発明の「光学的なエネルギを受けると共に上記光学的なエネルギを上記サンプルについてのデータポイントへと変換するための検出器」及び「光学的なエネルギを受けるための第二の検出器」は,本願補正発明の「光検知器」に相当する。

エ 引用発明の「少なくとも一つのメモリと通信」し,「上記不純物の上記濃度を決定するように構成され」た「少なくとも一つのプロセッサ」は,本願補正発明の「機械実行可能な命令を有するコンピュータ・プロセシング・ユニット」に相当する。

オ 引用発明の「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源」及び「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源」は,摘記(1-イ)を参照するに,それらは試料を励起するためのものであり,摘記(1-カ)を参照するに,所定のピーク波長の光を発するように構成されたものであり,摘記(1-ク)の図5を参照するに,独立したものである。してみれば,引用発明の「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源」及び「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源」は,本願補正発明の「a)所定のピーク波長の光を発するように構成された、試料を励起するための独立したエネルギー源」に相当する。

カ 引用発明の「LED150の上に」「接合されて」いる「ウラテン(Wratten)」「フィルタ」について,「Wratten」とは所定の範囲の波長の光を単離する光学的フィルターに付する番号を表すものであり,青色を単離する時にはブルーパスフィルタであり,単離する色に合わせて選択されるものであるという当業者の技術常識に照らせば,引用発明の「LED150の上に」「接合されて」いる「ウラテン(Wratten)」「フィルタ」は,本願補正発明の「b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター」に相当する。
そして,引用発明の「LED150a」,「LED150c」は,上記「オ」で検討したように,それぞれ独立して所定のピーク波長の光を発するように構成されたものであるから,それぞれに「ウラテン(Wratten)」「フィルタ」すなわち「励起フィルター」があるといえる。

キ 引用発明の「PVD152aおよび152cの前に各々配置されて」いる「ロングパスおよびショートパスフィルタ(各々178および176)」は,「サンプルを通して放出」された「光学的なエネルギを受ける」検出器である光起電力器(PVD)の前に配置されるものであり,それらは,所定の範囲の波長の光を単離するように構成されるものであるから,本願補正発明の「c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルター」に相当する。

ク 上記「オ」?「キ」の記載から,引用発明の「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源」及び「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源」,「LED150の上に」「接合されて」いる「ウラテン(Wratten)」「フィルタ」並びに「PVD152aおよび152cの前に各々配置されて」いる「ロングパスおよびショートパスフィルタ(各々178および176)」は,本願補正発明の「検体検出部の各々が、a)所定のピーク波長の光を発するように構成された、試料を励起するための独立したエネルギー源、b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター、c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルターを含」む「検体検出部」に相当する。
また,引用発明における「LED150a」,そのLED150aの上に接合されている「ウラテン(Wratten)フィルタ」及び「ロングパスフィルタ178」と,「LED150c」,そのLED150cの上に接合されている「ウラテン(Wratten)フィルタ」及び「ショートパスフィルタ176」とは,摘記(1-ク)の図5から「別個」であり,前者は「上記源からの光学的なエネルギがサンプルを通して上記検出器に放出される第1の経路」,後者は「上記第2の源からの光学的なエネルギがサンプルを通して上記第二の検出器に放出される第2の経路」に該当し,それら「各経路」は「エレクトロニクス」によって「作動させ」られるものであり,それらは「多軸、多源および多検出器」の態様であるから,「複数の試験を行なうために電気的スイッチングによって選択的に作動され」るものである。さらに摘記(1-オ)に「機器100は、マイクロコントローラ174(図3に最もよく示される)を備え、そのマイクロコントローラ174は、当業者により既知である方法で、さまざまなスイッチング制度(regimes)を制御するようにプログラムされる。従って、機器100中の唯一の可動部は、手動で挿入されるサンプルバイアル130であることが好ましい。」と記載されているから,それらは「機械実行可能な命令」によって行われるものである。
そして,それらは「サンプル内の不純物の濃度を決定するため」のものであるから,本願補正発明と同様に「前記検体検出部の各々が、所定の検体の量を測定するように構成され」たものである。
してみれば,引用発明の「上記源からの光学的なエネルギがサンプルを通して上記検出器に放出される第1の経路,上記第2の源からの光学的なエネルギがサンプルを通して上記第二の検出器に放出される第2の経路があり,エレクトロニクスが各経路を作動させ、それにより生成された信号を処理し,多軸,多源および多検出器で,複数の試験を行なうために電気的スイッチングによって選択的に作動され」るところの「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源」及び「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源」,「LED150の上に」「接合されて」いる「ウラテン(Wratten)」「フィルタ」並びに「PVD152aおよび152cの前に各々配置されて」いる「ロングパスおよびショートパスフィルタ(各々178および176)」と,本願補正発明の「2つ以上の別個かつ操作可能に接続された検体検出部」「前記検体検出部の各々が、a)所定のピーク波長の光を発するように構成された、試料を励起するための独立したエネルギー源、b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター、c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルターを含み、ここで、前記検体検出部の各々が、所定の検体の量を測定するように構成され、前記機械実行可能な命令は、測定すべき検体に対応する適切な検体検出部を選択するように構成され」るものとは,「2つ以上の別個かつ操作可能に接続された検体検出部」「前記検体検出部の各々が、a)所定のピーク波長の光を発するように構成された、試料を励起するための独立したエネルギー源、b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター、c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルターを含み、ここで、前記検体検出部の各々が、所定の検体の量を測定するように構成され、前記機械実行可能な命令は、検体検出部を選択するように構成さ」れたものである点で共通する。

ケ 引用発明の「サンプルバイアル130が,LED150aとフィルタ178との間及びLED150cとフィルタ176との間に配置されている」ことについて,それらLEDの上に励起フィルターであるウラテン(Wratten)フィルタが接合されているから,サンプルバイアル130は,励起フィルターであるウラテン(Wratten)フィルターと,発光フィルターであるフィルタ178及びフィルタ176との間に配置されていることになる。
してれみば,引用発明の「サンプルバイアル130が,LED150aとフィルタ178との間及びLED150cとフィルタ176との間に配置されている」ことは,本願補正発明の「試料容器は前記励起フィルターと前記発光フィルターとの間に配置される」ことに相当している。

コ 引用発明の「機器」は,本願補正発明の「デバイス」に相当する。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「液体試料における1つ以上の所定の検体の量を測定するためのデバイスであって,該デバイスは,検体を有する試料容器を保持するための容器と,光検知器と,2つ以上の別個かつ操作可能に接続された検体検出部と,機械実行可能な命令を有するコンピュータ・プロセシング・ユニットと,を含み,
前記検体検出部の各々が,
a)所定のピーク波長の光を発するように構成された,試料を励起するための独立したエネルギー源,
b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター,
c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルター
を含み,
ここで,前記検体検出部の各々が,所定の検体の量を測定するように構成され,前記機械実行可能な命令は,検体検出部を選択するように構成され,かつ前記試料容器は前記励起フィルターと前記発光フィルターとの間に配置される,デバイス。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
検体検出部を選択する際に,本願補正発明では,「測定すべき検体に対応する適切な検体検出部を選択する」のに対し,引用発明では,そのような態様になっているかどうか不明である点。

(2)当審の判断
上記相違点について検討するに,引用発明の「不純物」は,摘記(1-イ)に記載されているように水質試験におけるものであるから,複数の不純物が存在するものである。引用例1の摘記(1-イ)では,不純物(汚染物質)と反応する試薬が用いられているが,不純物の物質の種類に応じて試薬も変わるものであり,その試薬に応じて所定の波長の光が選択されることは本願の優先日前に周知のこと(例えば,特表2001-503855号公報の10頁下から3?2行,等参照)である。
一方,引用例1の摘記(1-キ)には「特定の分析に対して適切であるように、一つのサンプルバイアル130が、周期的なキャリブレーション中に、ゼロ点調整のクリアな泡のない水を含むかもしれず、他のサンプルバイアル130が、変更されていないフィールドサンプル、あるいは試薬を加えられたフィールドサンプルを含んでもよく、異なる物質に基づくいくつかの読み取りが、特定の分析を完了するために要求されてもよい。ユーザーは、キーパッド114を介して所望の分析を選択し、プロセスを開始する。マイクロコントローラ174が、必要なLED150a-cおよびPVD152a-cを作動させ、選択された分析のために必要とされる命令を、ディスプレイ112を介してユーザーに供する。」(下線は当審において付与した。)と記載されており,ここで,「異なる物質」は引用発明における「不純物」にも相当するといえる。
してみれば,引用発明の「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための源」及び「光学的なエネルギを上記サンプルを通して放出するための第二の源」,「LED150の上に」「接合されて」いる「ウラテン(Wratten)」「フィルタ」並びに「PVD152aおよび152cの前に各々配置されて」いる「ロングパスおよびショートパスフィルタ(各々178および176)」を選択する際に,「サンプル内の不純物の濃度を決定する」ために,上記周知技術に鑑みて,その不純物と反応する試薬に応じた所定の波長の光が選択されるようにすること,すなわち,「測定すべき検体に対応する適切な検体検出部を選択する」ようにすることは,上記摘記(1-キ)の記載における「特定の分析」に引用発明の「サンプル内の不純物の濃度を決定」することを照らし合わせると,当業者が容易になしえたことと言わざるを得ない。

そして,本願補正発明に基づく効果として,本願明細書では,
「【0176】
以下の実施例では、種々のタイプの検体について上で説明した所定のアルゴリズム、標品、光源、フィルターなどとともに、「Quant-it」アッセイファームウェアセレクションを検体検出部に接続する。これらの統合した検体検出部により、上記デバイスは操作する技術者にとって非常に簡便なものとなる。」と記載されているが,引用例1の摘記(1-オ)に「機器100中の唯一の可動部は、手動で挿入されるサンプルバイアル130であることが好ましい。」,摘記(1-キ)に「ユーザーは、キーパッド114を介して所望の分析を選択し、プロセスを開始する。マイクロコントローラ174が、必要なLED150a-cおよびPVD152a-cを作動させ、選択された分析のために必要とされる命令を、ディスプレイ112を介してユーザーに供する。必要ならば、ディスプレイ112により促された適切な時に、ユーザーが、適切に充填されたサンプルバイアル130を手動で挿入する。」と記載されており,当該効果は格別顕著なものではない。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1?17に係る発明は,平成24年5月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
1つ以上の所定の検体の量を測定するためのデバイスであって、該デバイスは、検体を有する試料容器を保持するための容器と、光検知器と、2つ以上の別個かつ操作可能に接続された検体検出部と、機械実行可能な命令を有するコンピュータ・プロセシング・ユニットと、を含み、
前記検体検出部の各々が、
a)所定のピーク波長の光を発するように構成された、試料を励起するための独立したエネルギー源、
b)該エネルギー源から所定の範囲の波長の光を単離するように構成された励起フィルター、
c)励起された試料から発せられる所定の範囲の波長の光を単離するように構成された発光フィルター
を含み、
ここで、前記検体検出部の各々が、所定の検体の量を測定するように構成され、かつ、前記機械実行可能な命令は、測定すべき検体に対応する適切な検体検出部を選択するように構成される、デバイス。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である上記引用例1の記載事項は,上記「第2」「3 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2」「2 補正事項について」に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,本願補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本願補正発明が,前記「第2」「4 対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-04-25 
結審通知日 2014-04-28 
審決日 2014-05-12 
出願番号 特願2008-552561(P2008-552561)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土岐 和雅  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 信田 昌男
三崎 仁
発明の名称 検体を定量するためのデバイスおよび方法  
代理人 刑部 俊  
代理人 清水 初志  
代理人 井上 隆一  
代理人 新見 浩一  
代理人 大関 雅人  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 小林 智彦  

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