• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1292273
審判番号 不服2013-1117  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-22 
確定日 2014-09-25 
事件の表示 特願2002-537844「置換されたポリビニルアルコール塗膜を有する粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月 2日国際公開、WO02/34871、平成16年 4月22日国内公表、特表2004-512423〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2001年9月12日の国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張:2000年10月27日及び同年12月20日、米国)に出願されたものとみなされる国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成15年 4月28日 国内書面(願書)提出
平成15年 5月28日 翻訳文提出書(明細書等)
平成15年 7月 4日 手続補正書
平成20年 5月 8日 出願審査請求
平成23年 8月 9日付け 拒絶理由通知
平成24年 2月10日 意見書・手続補正書
平成24年 9月21日付け 拒絶査定
平成25年 1月22日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成25年 2月 1日付け 審査前置移管
平成25年 2月15日付け 前置報告書
平成25年 2月22日付け 審査前置解除
平成25年 6月17日付け 審尋
平成25年 9月17日 回答書
平成25年11月 7日付け 拒絶理由通知
平成26年 3月11日 意見書・手続補正書

第2 当審がした拒絶理由通知の概要
当審が平成25年11月7日付けでした拒絶理由通知の概要は、以下のとおりのものである。
<拒絶理由通知>
「第2 拒絶理由
理由1:(省略)
理由2:本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
理由3:本願請求項1?10に係る発明は、本願優先日前に頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・・(中略)・・
2.理由2について
(1)本願発明
本願特許請求の範囲の請求項1?10の記載は、上記「第1」において記載したとおりのものであるが、本理由及び以下の理由3の判断にあたり、上記1.(1)及び(2)において指摘した不明確な部分は以下のとおりものであると仮定した。
(a)「アルコール基」とは、「ヒドロキシル基」のことである。
(b)「置換」とは、「変性」のことである。

請求項1?10に記載の発明において、このように仮定した発明を、以下、「本願発明1」?「本願発明10」といい、あわせて「本願発明」という。

(2)本願発明の課題
・・(中略)・・
(3)本願発明の詳細な説明の記載
本願発明の詳細な説明には、本願発明の課題の解決に関して次の記載がある。
・・(中略)・・
(4)検討
・・(中略)・・
よって、上記のとおり、本願発明1?10の塗膜中の「PVA」は、必ずしもPVAのヒドロキシル基の5?10%がカルボキシル化あるいはスルホン化されているものではないので、本願発明の課題の解決ができるものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1?10は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、同法36条第6項の規定を満たしていない。

3.理由3について
(1)刊行物及び刊行物の記載事項
ア.刊行物
1.特開昭63-252543号公報
・・(後略)」

第3 当審の判断
当審は、通知した上記拒絶理由2及び3が解消されているか否かにつき、以下検討する。

I.本願の請求項に記載された事項
本願に係る平成26年3月11日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6の各項には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 25℃における蒸留水100ml当たり少なくとも100gの溶解度を有するカルボン酸化合物またはスルホン酸化合物のカルボキシル基またはスルホン酸基と、PVA(ポリビニルアルコール)のヒドロキシル基の5?10%とを反応させて得た、当該ヒドロキシル基が変性されたPVAを含有する塗膜、および酵素を含み、当該塗膜がボレート化合物と低い反応性を示す粒子。
【請求項2】 前記変性によりPVAの少なくとも1つの側鎖を生ずる、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】 さらに、水溶解性または水分散性の心と;1つ以上の酵素とを含み、塗膜が心および酵素を取囲む、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】その心が、1つ以上の酵素によって取囲まれたノンパレイユを含む、請求項7に記載の粒子。
【請求項5】 請求項1に記載の粒子とともにホウ素含有化合物を含有する洗剤組成物。
【請求項6】 ホウ素含有化合物がホウ酸ナトリウムまたは過ホウ酸ナトリウムである、請求項5に記載の洗剤組成物。」
(以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

II.上記理由2について

1.本願発明の課題
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の解決すべき課題に関し、以下の記載がある。(以下の摘記における下線部は当審が付した。)

「【0005】
ポリビニルアルコール(PVA)は、洗剤酵素顆粒に対する非常に有効な塗膜であることが立証されている。・・(中略)・・
【0006】
しかし、PVAの残念な特性の1つは、多数の化学種、例えば、ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、アルデヒドおよびある種の染料・・・によって架橋されるその傾向である。ボレート(borate)、過ホウ酸塩およびその他のホウ素含有化合物は、アルカリ性のpHでPVAのビシナルヒドロキシルで付加体を形成し、水不溶性の錯体またはゲルを生ずる。ボレート-PVAゲルのこの不溶性は、さらに酸性のpHに向かってのシフトに基き可逆性でえある。また、攪拌またはより高温は、また、PVAの溶解および希釈がこれら条件下のPVAの架橋よりも迅速であるので、不溶性ゲル層の形成を防止することができる。残念なことに、多くの洗濯用途において、ボレートの存在および洗浄条件は、塗膜および酵素顆粒に存在するPVAの不溶化を生ずる。PVA塗膜は、典型的には、顔料または充填剤、例えば、二酸化チタンまたはタルクを含有し、一度、塗膜がゲル化または不溶化されると、それは、可視殻または残渣として残り、それが水和された時のガム状の性質により衣服に付着する。これらの殻は、衣服上で可視残基として分解せず、このことは、消費者にとって望ましくない。
・・(中略)・・
【0009】
発明の概要
本発明は、置換されたビニルポリマーまたはコポリマーを含み、それによって、ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムおよびその他のホウ素含有化合物と低い反応性を生ずるものの、許容可能なバリヤー、溶解度および機械的強度特性を維持する塗膜材料を有する粒子を提供する。本発明は、さらに、ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムまたはその他のホウ素含有化合物と、置換されたビニルポリマーまたはコポリマー塗膜材料を有する粒子とを含有する洗浄洗剤製品を含む。」

上記記載からみて、本願発明の解決課題は、「ホウ素含有化合物と低い反応性を生ずるものの、許容可能なバリヤー、溶解度および機械的強度特性を維持する塗膜材料を有する洗剤酵素などの粒子を提供する」というものであると認められる。

2.本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願発明の詳細な説明には、本願発明の課題の解決に関して次の記載がある。

a:「【0014】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、置換されたビニルポリマーまたはコポリマー、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)によって構成される材料で被覆された本発明の粒子または顆粒は、ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムおよびその他のホウ素含有化合物と低い反応性を示すことが見出された。本発明は、このような置換された塗膜材料で被覆された粒子または顆粒を提供する。1つの実施態様において、粒子は、被覆された酵素顆粒である。
・・(中略)・・
【0017】
本発明において、概して、PVAの側鎖アルコールまたはヒドロキシル基は、親水性部分により少なくとも一部置換されているが、置換は、また、その他の位置でも生ずる。用語親水性は、このコンテキストにおいて、蒸留水100ml当たり少なくとも100gの水への溶解度を有する酸、アミンまたはチオールを記載することを意味する。置換は、PVAを親水性の酸、アミンまたはチオールと反応されることによって達成される。例えば、PVAは、カルボン酸類(例えば、ギ酸、酢酸、コハク酸、アスコルビン酸、-COOH等)の1つと反応させて、カルボキシル化されたPVAを製造し、メタクリルアミドによりメタクリルアミド-PVAを形成し、スルホン酸または硫酸によりスルホン化されたPVAを製造し、または、チオールでスルフヒドリル-PVAを形成ることができる。好ましいカルボン酸を表1に列挙するが、当業者であれば、その他のカルボン酸を使用し、本発明が表1の酸に限定されないことを認識できるであろう。また、PVAは、スルホン酸塩または硫酸塩およびカルボキシル化された化合物の組合せと反応させて、スルホン化およびカルボキシル化された両方の基を有するPVAを形成することができる。置換部分の好ましい濃度は、約1?10%、さらに好ましくは、約5?10%である。当業者であれば、粒子または顆粒特性を有する塗膜について選択される置換部分のパーセンテージは、被覆された粒子または顆粒についての所望される用途特性(例えば、溶解速度)に依存することが認識されるであろう。
【0018】
生ずるカルボキシル化、スルホン化、アミド化またはチオール化されたPVAは、典型的には、未置換前駆体よりも良好な水溶解度を有するが、ホウ素化合物、例えば、ボレートまたは過ホウ酸塩による架橋が減少するかまたは架橋が無視される傾向を有する。顆粒塗膜の過ホウ酸塩の存在で不溶化される傾向は、簡単な試験(本明細書で“ゴースト試験”と称す)により容易に決定することができ、ここで、PVA-TiO_(2)混合物(または、波長600nmで光を容易に吸収するいずれかのその他の不溶性充填剤とPVAとの混合物)で被覆された顆粒が、過ホウ酸ナトリウム緩衝液の攪拌溶液に加えられ、顆粒から放出されるTiO_(2)の比率および度合いが、バルク緩衝溶液の濁度を時間の関数としてモニターすることによって測定される。溶解は、4.5g/リットル過ホウ酸ナトリウム・1水和物溶液200mlで室温、攪拌速度250rpmおよびビーカーサイズ250mlおよび攪拌バー1インチおよび径0.25インチで行った。ボレート緩衝液に添加した顆粒によって発生する生成濁度曲線は、ついで、ボレートおよび過ホウ酸塩を含まない水溶液に溶解した顆粒について発生する対照濁度と比較することができる。過ホウ酸塩緩衝液および過ホウ酸塩を含まない緩衝液で発生する速度と平衡濁度の比は、ついで、顆粒塗膜が過ホウ酸塩により架橋または不溶化される傾向の尺度とすることができる。」

b:「【0030】
実施例
実施例 1:
PVAおよび改質PVA顆粒塗膜の過ホウ酸塩緩衝液への溶解
1%カルボン酸
過ホウ酸塩溶液中のPVA塗膜の架橋による不溶性について置換されたPVAで被覆された酵素粒子または顆粒を試験するために、以下の検定または試験法を開発した。本方法は、試験される顆粒200mgを含有する試験溶液から時間の関数としての波長600nmにおける光の吸光度をモニターすることからなる。溶解は、攪拌速度250rpmおよびビーカーサイズ250mlおよび攪拌バーの長さ1インチおよび幅1/4インチで攪拌しつつ、室温で4.5g/リットル過ホウ酸ナトリウム・1水和物溶液200mlで行った。蒸留水を含有する対照溶液もまた使用した。溶解は、塗膜中に含有される二酸化チタンからの溶液濁度の迅速な広がりによって示され、600nmにおける溶液の吸光度の迅速な増大によって測定した。酵素顆粒の架橋または“ゴースチング(ghosting)”は、600nmにおける吸光度によって示される溶液濁度の広がりが少ないかまたは全くないことによって示される。蒸留水で放出される濁度約40%未満を有するボレート溶液中での放出は、有意な架橋またはゴースチングの指標であり、25%未満の放出は、多大なゴースチングを示し、これは、洗浄またはその他の溶解用途において分解せず溶解しない塗膜残渣を生ずるであろう。
【0031】
図1に“Enzoguard”TM塗膜対照として示されている未改質PVAを含有するゴースチング顆粒の例が本実施例にて示される。過ホウ酸塩溶液中で試験する時、この顆粒は、経時的に溶液濁度の広がりを非常にわずかしか示さない。水中におけるこの顆粒の性能は、3分間以内に完全な溶解が生じたことを示す。PVA塗膜が1%カルボン酸改質PVAで置換されている顆粒もまたこの図に示されている。このような改質PVAは、KurarayからK-ポリマーKL-106として入手可能である。ヒドロキシル基の1%のみがカルボン酸基に改質された事実にもかかわらず、架橋またはゴースチングにおける有意な減少を観測することができることが分る。これは、過ホウ酸塩溶液の吸光度対蒸留水における吸光度を比較する時、Enzoguard対照と比較して、KL-106被覆試料についての吸光度対時間曲線における増大により分る。特に、6分後、KL-106ポリマーについての吸光度比が41.6%であるのに対し、他方、Enzoguard対照中の未改質PVAについて、吸光度比は、20.9%のみであり、多大なゴースチングまたは架橋を示す。(蒸留水のpHは、通常、幾分か酸性であり、これら顆粒について問題を示さないので、蒸留水中のカルボキシリックKL-106試料について観測される溶解度の小さな減少が予想される。)
以下の実施例2および実施例3に示されるように、PVAを改質するために使用されるカルボン酸のより高いパーセンテージでは、過ホウ酸塩溶液中での溶解挙動は、さらに改善され、驚くべきことには、幾つかの例において、水と比較して過ホウ酸塩溶液中により迅速かつより大量に溶解する顆粒を生ずる。
【0032】
実施例 2:
PVAおよび改質PVA顆粒塗膜の過ホウ酸塩緩衝液への溶解
5%カルボン酸
上記考察したEnzoguard対照以外に、PVA塗膜を5%カルボン酸(-COOH基)改質PVAで置換した顆粒についての結果を図2に示す。この置換されたPVA分子を過ホウ酸塩中で示し、水に溶解させた。このような改質PVAは、KurarayからABA293Aとして入手可能である。カルボン酸基に改質された5%のヒドロキシル基では、架橋またはゴースチングは、さらに、最小レベルまで低下し、カルボキシル化されたPVAは、水中よりも過ホウ酸塩中により迅速にかつより大量に溶解する。これは、吸光度の比を比較する時、Enzoguard対照に関して、および、水中改質PVAに関して、ABA293A被覆試料についての吸光度対時間曲線における増大によって分る。特に、6分後、Enzoguard対照における未改質PVAの20.9%比と比較して、ABA293Aポリマーの吸光度は100%を上回る。
【0033】
実施例 3:
PVAおよび改質PVA顆粒塗膜の過ホウ酸塩緩衝液への溶解
10%カルボン酸
上記考察したEnzoguard対照以外に、PVA塗膜を10%カルボン酸(-COOH)改質したPVAで置換した顆粒についての結果を図3に示す。この置換されたPVA分子は、過ホウ酸塩中に見られ、水に溶解する。このような改質されたPVAは、KurarayからABA294Aとして入手可能である。図3において明らかとなろうが、過ホウ酸塩中のカルボキシル化されたPVAが水中のカルボン酸の結果と非常に類似し、Enzoguard対照中の未改質PVAの20.9%と比較して100%より大きい吸光度比を有する。カルボキシル化したPVAは、水中および過ホウ酸塩中においてやはり、Enzoguard対照よりも迅速に溶解する。10%ヒドロキシルまたはアルコール基置換結果は、実質的な架橋の減少を立証する。製造コストが問題となり、より高レベルの置換が必要とされない場合、5%ヒドロキシル基置換が好ましいかもしれない。
【0034】
実施例 4:
PVAおよび改質PVA顆粒塗膜の過ホウ酸塩緩衝液への溶解
カルボン酸/スルホン酸の組合せ
上記考察したEnzoguard対照以外に、PVA塗膜をカルボン酸およびスルホン酸の組合せ、特に、2.5%カルボン酸(-COOH)および2.5%スルホン酸で置換し、それによって、5%改質PVAを構成する顆粒についての結果を図4に示す。この置換されたPVA分子は、過ホウ酸塩中に見られ、水に溶解する。このような改質されたPVAは、KurarayからSK5102として入手可能である。組合せカルボキシレートおよびスルホネート基に改質された5%ヒドロキシルでは、架橋は、その比を比較する時、Enzoguard対照と比較した水中および過ホウ酸塩中の結果の類似性によって示されるように実質的に減少することが認められる。特に、6分後、Enzoguard対照中の未改質PVA20.9%比と比較して、SK5102ポリマーの吸光度は103%である。図4は、置換薬剤の組合せがゴースチングを低下させるのに等しく有用であることを立証する。
【0035】
ボレート架橋を低下させるためにPVAを改質するのに適した置換基
親水性の部分、例えば、カルボン酸およびその他の有機酸、例えば、スルホン酸および硫酸;アミン;および、チオール化合物は、一部または完全な置換のいずれかでポリビニルアルコールのヒドロキシル基と反応させるための置換基として適した選択である。親水性の理にかなった試験は、水中化合物の中性未反応形の溶解度である。25℃で100gの水に加えた化合物の100gより大きい溶解度が親水性の指標となるであろう。
【0036】
以下の表、表1は、化合物の溶解度を示し、PVAのヒドロキシル基の置換について適当であるかまたは不適当であろうことを示す。置換は、多くの可能な反応によって行われ、例えば、カルボキシレート基は、酸の縮合、環式酸無水物の直接反応によって置換することができ、本来のヒドロキシル基の位置でPVAにカルボン酸を導入する。親水性酸は、本来のヒドロキシル基の位置でPVAに酸基を導入するために置換することができる。
【0037】
【表1】


【0038】
また、化合物の組合せ、例えば、上記実施例4に示し、考察したカルボキシレートおよびスルホン酸塩の混合物を使用して、種々の置換をPVA分子上で生じさせることもできる。
【0039】
実施例1、図1において見られるように、1%ほどの低い置換レベルでゴースチングを低下させることが見出された。30,000MWのPVA化合物についてより高いレベル、1%より大、10%ほどの高さで置換されたPVA化合物に過ホウ酸塩およびこのような溶液中で許容可能な溶解度を生ずるように有効に機能することが見出された。
【0040】
前述した記載および実施例の種々のその他の実施例および変形例も、当業者であれば、その開示を読んだ後には、本発明の精神および範囲から逸脱することなく明らかとなるであろうし、本発明は、このような実施例または変形例の全てを特許請求の範囲の請求項内に包含することを意図する。本明細書で参考とした全ての刊行物および特許は、それらの全体を参考とすることによって本明細書に組込む。」

c:「【図1】


【図2】


【図3】


【図4】




3.検討
本願明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)以外の部分を検討すると、塗膜を構成する「PVA」につき、「PVAの側鎖アルコール・・基は、親水性部分により少なくとも一部置換されている・・。・・置換は、PVAを親水性の酸、アミンまたはチオールと反応されることによって達成される。例えば、PVAは、カルボン酸類(例えば、ギ酸、酢酸、コハク酸、アスコルビン酸、-COOH等)の1つと反応させて、カルボキシル化されたPVAを製造し、・・スルホン酸または硫酸によりスルホン化されたPVAを製造し、・・を形成ることができる。好ましいカルボン酸を表1に列挙する・・。また、PVAは、スルホン酸塩または硫酸塩およびカルボキシル化された化合物の組合せと反応させて、スルホン化およびカルボキシル化された両方の基を有するPVAを形成する」と記載され(摘示aの【0017】参照)、さらに、「生ずるカルボキシル化、スルホン化・・・されたPVAは・・・、ホウ素化合物、例えば、ボレートまたは過ホウ酸塩による架橋が減少するかまたは架橋が無視される傾向を有する。」(摘示aの【0018】参照)と記載されているのみである。(下線は、当審が付した。以下同様。)
また、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)に係る部分(摘示b及びc参照)を検討すると、粒子塗膜を形成するために用いられているPVAは、
実施例1:「ヒドロキシル基の1%のみがカルボン酸基に改質された」「1%カルボン酸改質PVA」(商品名K-ポリマーKL-106)
実施例2:「5%カルボン酸(-COOH基)改質PVA」(商品名ABA293A)
実施例3:「10%カルボン酸(-COOH)改質したPVA」(商品名ABA294A)
実施例4:「2.5%カルボン酸(-COOH)および2.5%スルホン酸で置換し」た「5%改質PVA」(商品名SK5102ポリマー)
比較対照例:「未改質PVA」(商品名Enzoguard)
であり、実施例で使用されたPVAに係る上記「カルボン酸・・・改質」、「カルボン酸(-COOH)・・・で置換した」又は「スルホン酸で置換」とは、PVAが有するヒドロキシル基の一部がカルボン酸基(-COOH)又はスルホン酸基(-SO_(3)H)に置換された、すなわち「カルボキシル化」あるいは「スルホン化」したことを意味すると理解されるから、実施例において、過ホウ酸塩水溶液や水中における溶解性について試験されているPVAは、カルボキシル化あるいはスルホン化されたPVAのみである。
そして、当該各実施例(及び比較対照例)の結果に基づき、技術常識に照らして、ホウ素含有化合物と低い反応性を生ずるものの、溶解度を維持する塗膜材料の提供なる本願発明の課題が解決できるのは、粒子の塗膜中の「PVA」が、ヒドロキシル基の5?10%がカルボキシル化あるいはスルホン化された場合のみであって、それ以外のPVAである場合には、本願発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものではない。
それに対して、本願の請求項1において特定されるPVAは、
「25℃における蒸留水100ml当たり少なくとも100gの溶解度を有するカルボン酸化合物またはスルホン酸化合物のカルボキシル基またはスルホン酸基と、PVA(ポリビニルアルコール)のヒドロキシル基の5?10%とを反応させて得た、当該ヒドロキシル基が変性されたPVA」であるから、技術常識からみて、上記「カルボキシル基」又は「スルホン酸基」と「PVA(ポリビニルアルコール)のヒドロキシル基」とが反応したエステル基が変性により形成されると理解するのが自然であって、当該「PVA」は、カルボキシル化あるいはスルホン化されているものとは認められない。
(例えば、本願明細書の発明の詳細な説明の「表1」(摘示b:段落【0037】)に例示されている「酢酸」を上記「カルボン酸化合物」として選択した場合、その反応は、通常、酢酸のCOOH基とPVAのOH基が反応してエステルを形成するから、PVAのヒドロキシル基の一部が、「-OCOCH_(3)」構造を有するエステル基に置換されることになる。)
なお、この点は、請求人が平成26年3月11日付け意見書の「2.補正の説明」の「3)」で「当業者に明らかである」と主張していることである。
してみると、本願請求項1に記載された事項で特定されるPVAは、カルボキシル化あるいはスルホン化されたPVAであるものと認めることができない。
したがって、本願明細書の明細書の発明の詳細な説明の記載では、ヒドロキシル基の5?10%がカルボキシル化あるいはスルホン化されたPVAにより塗膜を構成した場合については、本願発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものではあるものの、それ以外の上記エステル化されたものを含むPVAである場合には、たとえ技術常識に照らしたとしても、本願発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものではなく、当該「それ以外のPVA」である本願請求項1に記載された事項で特定されるPVAにより塗膜を構成した場合に、本願発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものではない。
よって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえず、本願特許請求の範囲(特に請求項1)の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項(柱書)の規定を満たしていない。

III.上記理由3について
なお、上記II.で説示したとおり、本願特許請求の範囲の請求項1には記載不備が存在するものの、理由3の検討にあたっては、請求項1に記載された事項により特定される発明につき「本願発明」として検討を行う。

引用刊行物
・特開昭63-252543号公報
(上記拒絶理由通知における「刊行物1」である。以下「引用例」という。)

1.引用例に記載された事項
上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「1)含水の親水性物質をポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールで被覆してなる水溶性マイクロカプセル。
2)ポリビニルアルコールの平均重合度が200?3,000で、鹸化率が90%以上である特許請求の範囲第1項に記載のマイクロカプセル。」
(1頁左下欄5行?10行、特許請求の範囲第1項?第2項)

(1b)
「[産業上の利用分野]
本発明は、一般家庭用および業務用の液体状あるいはゲル状の含水洗剤(衣類の洗濯、食器洗浄、住居用洗剤、シャンプー、身体洗浄用洗剤等)に配合される酵素製剤、柔軟仕上げ剤等の補助剤、および液体状含嗽剤、ペースト状歯磨剤に配合される酵素製剤、殺菌剤、香料等の補助剤の配合に利用される水溶性マイクロカプセルに関する。
・・(中略)・・例えば、酵素は乾燥状態では比較的安定であるので、粉末洗剤に配合する場合には酵素の保存安定性を良好に維持することは容易であるのに対し、溶液状態では高次構造が変化し易く、また水の存在下ではアニオン界面活性剤あるいはカチオン界面活性剤により失活し易いため、液体状の洗剤中に酵素を直接配合し保存することは極めて困難であるが、本発明に従って酵素をマイクロカプセル化すれば配合が可能となる。」
(第1頁左下欄12行?右下欄11行)

(1c)
「被覆材料
マイクロカプセルの被覆材料は、本発明の最も重要な構成要件の一つである。本発明者等は水分含有率60%以下の親水性物質、例えばポリグリコール類、界面活性剤等の濃厚溶液には溶解せず、水中では溶解する被覆材料について種々の検討を繰返した結果、特定のポリビニルアルコールが最適であることを見出した。
すなわち、本発明においてマイクロカプセル被覆材料として用いられるポリビニルアルコールは、
(i)平均重合度200?3,000、望ましくは500?2,400、
(ii)鹸化率90%以上、望ましくは95%以上のものである。
重合度の高過ぎるものは、粘度が大きく、マイクロカプセルの製造工程に於ける取扱いに困難があり、また鹸化率の低いものは含水溶液中での保存安定性に問題がある。
すなわち、鹸化率が90%未満のものは、できたマイクロカプセルを界面活性剤等の濃厚水溶液中に配合した場合、カプセルの被膜が溶解したり、膨潤、変質したりして所期の効果を期待し難い。
ポリビニルアルコールとしては、変性ポリビニルアルコールも使用可能である。例えば、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドとメチルクロリド等で処理したカチオン変性ポリビニルアルコール、ビニルバーサティト(VEOVA)等で処理したアルキル変性ポリビニルアルコール、アクリル酸、イタコン酸等で処理した酸変性ポリビニルアルコール、ジケテン等を用いたアセトアセチル化変性ポリビニルアルコール等も使用できる。
架橋剤処理
カプセル被覆材料としてのポリビニルアルコールの水中溶解速度は、一般にその平均重合度および鹸化率に依存する。従って、通常は被覆材として使用するポリビニルアルコールの種類、特に適当な平均重合度及び鹸化率をもったものを選択することによって水中溶解速度の調節ができるが、架橋剤による処理によって調節することも可能である。
例えば、本発明に従って柔軟仕上げ剤をカプセル化して液体洗剤に配合する場合、柔軟仕上げ剤はカチオン界面活性剤であり、洗剤中のアニオン界面活性剤に影響を及ぼすため、洗濯の後期にカプセルが溶解して柔軟仕上げ剤が水中に放出されることが望ましい。従ってこのような場合にはポリビニルアルコールを架橋剤で処理してカプセルの水中溶解速度を遅らせることが出来る。
また、変性ポリビニルアルコールを使用する場合にも適当な被膜強度を維持するために架橋剤処理が必要なことがある。
架橋剤としては、ホウ酸およびホウ酸誘導体(例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸エチル等)、アルデヒド化合物(例えば、グリオキザール、ジアルデヒド、デンプン等)、ジエボキシド(例えば、ブタジエンジエポキサイド等)等が使用出来る。
但し、酵素類は一般にアルデヒドやエポキシドに対して不安定であり、これらと接触すると失活することがあるので、酵素のカプセル化の場合には架橋剤としてホウ酸類を用いることが好ましい。
架橋剤による処理のためには、例えば、架橋剤を溶解あるいは分散させた液とマイクロカプセルとを直接接触させる方法、あるいはカプセル形成時にポリビニルアルコールの溶液と架橋剤とを接触させてカプセル被膜を形成させる方法等が適用される。
架橋剤の使用量については特に制限はないが、通常は、被膜を形成しているポリビニルアルコールと反応している架橋剤の量が1?10重量%となるように調整される。」
(第2頁右下欄12行?第3頁右下欄2行)

(1d)
「親水性物質
水溶性マイクロカプセルの芯物質となる親水性物質は、水と混和し得る化合物であれば特に制限はなく、また必ずしも完全に水に溶解する必要もない。
親水性物質の代表的なものを例示すれば、タンパク貿(酵素を含む)、ペプチド、アミノ酸、糖類、ガム類、界面活性剤、水溶性ビタミン類、水溶性殺菌剤、色素、香料、消泡剤、凝集剤等である。
酵素および支持物質
本発明を適用する親水性物質のうち、特に代表的な例として酵素のカプセル化について、以下に説明する。
本発明を適用する場合、酵素は通常粉末状であるため単独でカプセル化しないで、含水のポリハイドロオキシ化合物に溶解または分散させた状態で被覆される。」
(第3頁右下欄3行?16行)

(1e)
「実施例1
プロテアーゼ(API-21)原末(力価105 nkat/mg)
70g
酢酸カルシウム 8g
プロピレングリコール 480g
ポリビニルアルコール
(平均重合度2,000,鹸化率95%) 55g
蒸溜水 387g
上記組成の溶液をフィルターで濾過後、ホウ酸飽和水溶液に細いノズルから滴下してマイクロカプセルを形成させた。マイクロカプセルの大きさは直径約150?500μであり、水分含有率は約32%であった。このマイクロカプセルを濾過により分離し、水25%を含有するプロピレングリコール中に保管した。
次に上記のマイクロカプセルを分散させたプロピレングリコールを含む、下記組成の液体洗剤組成物を調製した。」
(第7頁左上欄15行?右上欄11行)

2.検討

(1)引用例に記載された発明
引用例には、「含水の親水性物質をポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールで被覆してなる水溶性マイクロカプセル」が記載されており(摘示(1a)参照)、上記「親水性物質」の代表的な例として酵素が挙げられ(摘示(1d)参照)、具体的に親水性物質として酵素を用いる実施例も記載されている(摘示(1e)参照)。
なお、上記「親水性物質」として酵素を用いた場合に、酵素を洗剤に混合する際の課題を解決できる旨も記載されている(摘示(1b)参照)。
よって、引用例には、
「酵素をポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールで被覆してなる水溶性マイクロカプセル。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明における「酵素」、「ポリビニルアルコールで被覆してなる」及び「マイクロカプセル」は、それぞれ、本願発明における「酵素」、「PVAを含有する塗膜」及び「粒子」に相当するものと認められる。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「PVAを含有する塗膜および酵素を含む粒子。」
である点で一致し、以下の2点で相違している。

相違点1:「PVA」につき、本願発明では、「25℃における蒸留水100ml当たり少なくとも100gの溶解度を有するカルボン酸化合物またはスルホン酸化合物のカルボキシル基またはスルホン酸基と、PVA(ポリビニルアルコール)のヒドロキシル基の5?10%とを反応させて得た、当該ヒドロキシル基が変性されたPVA」であるのに対して、引用発明では、「ポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコール」である点
相違点2:本願発明では、「塗膜がボレート化合物と低い反応性を示す」ものであるのに対し、引用発明においてはそのような特定はなされていない点

(3)相違点に係る検討

ア.前提事項
各相違点につき検討するにあたり、前提となる事項を整理する。

(ア)本願発明の「溶解度」に係る事項
本願発明に係る「25℃における蒸留水100ml当たり少なくとも100gの溶解度を有する」なる事項は、その文脈からみて、直接的に「カルボン酸化合物」又は「スルホン酸化合物」に係るものであり、「PVA(ポリビニルアルコール)」又は「ヒドロキシル基が変性されたPVA」に係るものではない。(すなわちPVAなるポリマーの溶解度ではない。)

(イ)PVAについての技術常識

(a)PVAの製造
PVA(ポリビニルアルコール)は、構成モノマーであるビニルアルコールが安定な化合物ではなく(より安定なケト-エノール互変異体であるアセトアルデヒドに変化する。)、その製造にあたっては、ビニルアルコール単位に後変性できる安定なモノマーである酢酸ビニルを(共)重合して酢酸ビニル(共)重合体を一旦中間体として構成し、当該(共)重合体の酢酸ビニル単位を所定量ケン化(加水分解)してビニルアルコール(共)重合体、すなわちPVAを製造するのが一般的である。

(b)PVAの物性
PVAの物性、特に水に対する溶解性については、ケン化されている割合、すなわちケン化度により支配されるものであり、常温付近(例えば20℃)の水に対する溶解性は、ケン化度(100%?85%の範囲)で大きく変化し、ケン化度100%(いわゆる完全ケン化PVA)の場合にはほとんど溶解せず、ケン化度の低下により溶解性が増加し、ケン化度が約80?90%程度となった場合には、ほぼ同一の最も高い溶解性となり、更にケン化度が低下(80%未満)すると溶解性が低下することも当業者に自明である。

(この(イ)に係る事項につき必要ならば以下の参考文献参照のこと。
長野浩一ら共著「ポバール」(改訂新版)、1981年4月1日、株式会社高分子刊行会発行、142?144頁)

イ.相違点1について
上記相違点1につき検討すると、上記ア.(ア)で示したとおり、本願発明に係る「25℃における蒸留水100ml当たり少なくとも100gの溶解度を有する」なる事項は、「カルボン酸化合物」又は「スルホン酸化合物」に係るものであり、変性されたPVAに係るものではないところ、上記II.3.で示したとおり、本願発明に係る「カルボン酸化合物またはスルホン酸化合物のカルボキシル基またはスルホン酸基と、PVA(ポリビニルアルコール)のヒドロキシル基の5?10%とを反応させて得た、当該ヒドロキシル基が変性されたPVA」とは、未変性PVAのヒドロキシル基とカルボン酸化合物のカルボキシル基又はスルホン酸化合物のスルホン酸基とがエステル化変性されたものと認められる。
それに対して、上記ア.(イ)で示したとおり、未変性PVAであっても、部分的にケン化されたものであれば、中間体のポリ酢酸ビニルの酢酸ビニル単位に基づく酢酸エステル基が残存するものであるから、引用発明における「ポリビニルアルコール」又は「変性ポリビニルアルコール」につき、本願発明における「変性されたPVA」と区別できない場合を含むことが、当業者に自明である。
(例えば、本願発明における「変性されたPVA」が、ケン化度95%のPVAの5%のヒドロキシル基に対して酢酸をカルボン酸化合物として反応させて変性したものである場合、引用発明における「ポリビニルアルコール」として、ケン化度90.25%の部分ケン化PVAを使用した場合と、PVAにつき区別することができるものではない。)
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

ウ.相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記引用例にも記載されている(摘示(1c)参照)とおり、ホウ酸及びホウ酸誘導体(例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸エチル等)は、PVAの架橋剤として認識されているところ、当該ホウ酸(誘導体)との架橋点となり得る官能基は、PVAに共通して存在するヒドロキシル基であることが、当業者に自明である。
してみると、引用発明における「ポリビニルアルコール」として、部分ケン化PVA(ケン化度90%のもの)などのヒドロキシル基、すなわちホウ酸(誘導体)との架橋点となり得る官能基の含有量がより低いものを使用する場合に、「塗膜がボレート化合物と低い反応性を示す」という物性を有すると規定することは、当業者が適宜なし得ることというほかはない。

エ.本願発明の効果について
本願発明の効果について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても、上記II.で説示したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が記載したものとはいえないのであるから、本願発明が、上記各相違点に係る事項により、引用発明に比して特段の効果を奏するものということはできない。

3.まとめ
したがって、本願発明は、上記本願優先日前に頒布された引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。

IV.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項(柱書)の規定を満たしていないか、その請求項1に係る発明が特許法第29条の規定により特許をすることができないものである。

第4 むすび
結局、本願は、特許法第49条第2号又は第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-25 
結審通知日 2014-04-30 
審決日 2014-05-13 
出願番号 特願2002-537844(P2002-537844)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C11D)
P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄村上 騎見高  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
橋本 栄和
発明の名称 置換されたポリビニルアルコール塗膜を有する粒子  
代理人 小林 泰  
代理人 松山 美奈子  
代理人 富田 博行  
代理人 星野 修  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ