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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1292545
審判番号 不服2013-5253  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-04 
確定日 2014-10-07 
事件の表示 特願2008- 88428「ダウンロード購入時広告表示システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月17日出願公開,特開2009-211669〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は平成20年2月29日の出願であって,平成24年8月15日付けの拒絶理由の通知に対し,平成24年10月19日付けで意見書が提出されたが,平成24年11月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成25年3月3日付けで審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成20年2月29日に願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「携帯電話機など携帯端末を使用して楽曲,動画,ゲームなどをダウンロード購入する際,ダウンロード中の画面表示に代わりまたはダウンロードの前後に広告を表示するとともに,携帯端末使用者の通信料の一部を広告料から還元しダウンロード購入料の一部を広告料から負担することを特徴とするダウンロード購入時広告表示システム。」

3 引用例
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願出願前の平成15年7月31日に頒布された,特開2003-216863号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)発明の属する技術分野
「【0001】・・・本発明は,端末装置,広告情報サーバ,情報提供方法,およびそのプログラムに関し,特に,端末装置のネットワーク接続/バッファリング待機時に広告情報を出力する端末装置,広告情報サーバ,情報提供方法,およびそのプログラムに関する。」
(イ)従来の技術
「【0002】・・・通信技術の進歩およびインターネットの普及などによって,携帯電話などを用いた通話およびコンテンツのダウンロードなどを容易に行うことが可能となった。しかしながら,一方でインターネットを使用する際の通信料金が,ユーザにとって負担となっていた。」
(ウ)発明の実施の形態
「【0038】・・・以下,説明する情報提供システムは,ネットワークを経由するコンテンツ配信を行う際に必ず生じる各種の遅延や待機状態の間,ユーザの嗜好,興味のある分野,あるいは所在等の情報に基づいた広告情報をユーザ端末に提供するものである。ユーザ端末は,事前にダウンロードされ,蓄積している広告情報を待機時に再生してもよいし,再生すべき広告情報と事前に配信された広告情報との差分情報を受信し,再生すべき広告情報を作成し,再生してもよい。・・・
【0039】また,情報提供システムは,ネットワークに接続できる端末へのコンテンツ配信において,ネットワークへの接続待ち時間,配信サーバもしくはプロキシ(キャッシュ)サーバへの接続待ち時間,および再生コンテンツデータのバッファリング時間帯のうちの少なくともいずれかに,端末に広告情報を表示させることによって,通信料またはコンテンツ料等の料金を割り引くサービスを実現する。」
(エ)第1の実施形態
「【0040】・・・図1は,本発明の第1の実施形態における情報提供システムの構成を示す図である。・・・
【0041】情報提供システムは,コンテンツサーバ1,およびエンコーダ3と情報出力装置4との組み合わせのうちの一方と,配信サーバ2と,ネットワーク5と,アクセス情報収集サーバ6と,広告情報サーバ7と,ユーザ端末8と,を有する。
・・・
【0043】配信サーバ2は,ユーザ端末8の要求を受け,インターネット,イントラネット等のネットワーク5を経由してユーザ端末8へとコンテンツを配信する。配信サーバ2は,ユーザ端末8による選択に基づいて,コンテンツサーバ1に蓄積されているコンテンツ,およびエンコーダ3によりエンコードされるコンテンツのうち少なくとも一方を配信する。」
「【0047】ユーザ端末8は,配信サーバ2へと接続要求をしてからコンテンツを受信するまでの時間に,広告情報を表示する。ユーザが表示された広告情報に対して興味を持った場合,ユーザ端末8は,コンテンツ受信の前後に,またはコンテンツ受信を中断して,さらに詳細な広告情報を表示するために広告情報サーバ7にアクセスを行う。アクセス情報収集サーバ6は,上記のアクセスに係る情報を記録し,ユーザ(ユーザ端末)ごとのアクセス情報を収集する。また,アクセス情報収集サーバ6は,ユーザがアクセスするコンテンツについての記録を収集する。
【0048】広告情報サーバ7は,ユーザ端末8のネットワーク5への接続待ち時間,およびユーザ端末8でのデータのバッファリング待ち時間に,ユーザ端末8に表示/再生される広告情報を蓄積するサーバである。また,広告情報サーバ7は,コンテンツサーバ1と同様に,画像,ビデオ,音声,オーディオ,あるいはテキスト等の各種メディアの広告情報が,ネットワークを通じた配信に適した符号化形式で蓄積されているサーバである。広告情報サーバ7は,ユーザ端末8が通信を行っていない時間帯を検出し,一定時間毎のユーザ端末8が通信を行っていない時間帯,もしくはユーザ端末8から広告情報の送信を要求されたタイミングで,ユーザ端末8への広告情報の配信を行う。また,広告情報サーバ7は,ユーザ端末8がネットワーク接続後,コンテンツデータのバッファリング待ち時間帯に,広告情報の配信を行う。・・・
【0049】広告情報サーバ7により配信される広告情報は,広告主により提供される。広告主は,自身が提供した広告情報がユーザ端末8に配信されることの代価として,所定の広告料を情報提供システムの管理者に支払う。図示されていないが,情報提供システムは,システム管理者が用いる課金装置を有している。課金装置は,ユーザ端末8による通信料金(ネットワーク5の使用料金)およびコンテンツ料金の課金を行う。また,課金装置は,広告料の一部/全部を用いて,ユーザ端末8によるネットワーク5の使用およびコンテンツの取得に係る料金の一部/全部の割り引きを行う。課金装置は,上記の管理情報を,ネットワーク5の管理者(例えばシステム管理者または電話会社など)が有するデータベースおよびユーザ端末8などに通知する。
【0050】ユーザ端末8は,ネットワーク接続が可能で,ネットワーク5を経由して,配信サーバ2からコンテンツデータを受信する。また,ユーザ端末8は,ネットワークへの接続待ち時間,およびネットワーク接続後コンテンツデータがユーザ端末8へバッファリングされ,実際にコンテンツが再生されるまでの待ち時間のうちの少なくとも一方に広告情報を表示する。バッファリング完了後,ユーザ端末8は,コンテンツを出力する。」
「【0054】また,ユーザ端末8は,コンテンツ再生中でも,テキスト等のように低帯域で情報受信できるメディアであれば,コンテンツの再生データと同時に,自端末の画面下部等に広告情報を表示することが可能である。ユーザは,ユーザ端末8におけるコンテンツ再生と同時に,ユーザ端末8の画面の一部における広告情報の表示,あるいは音声による広告情報の再生を許容することによって,同様に料金の割引の恩恵を受けることが可能となる。この場合も,広告情報を提供した広告主が,広告料金を支払うことにより,ユーザの通信料金およびコンテンツ料金のうちのすくなくとも一方の一部/全部を充当するとしてもよい。・・・」
(オ)第1の実施形態の効果
「【0055】以上説明したように,本実施形態によれば,ネットワーク5上のコンテンツをユーザ端末8が受信し,再生するまでの待ち時間のうち,ネットワークへの接続待ち時間には事前のダウンロード広告情報が,ネットワーク接続後のコンテンツデータのバッファリング待機時間には最新の広告情報がユーザ端末8に表示される。ユーザは,上記の広告情報の表示を許容することにより,少なくともコンテンツ再生までの通信料金およびコンテンツ料金のうちの一方における一部/全部を広告主が負担することとなり,ユーザは,料金の割引サービスの恩恵を受けることが可能となる。」
(カ)第1の実施形態の動作
「【0056】図2は,本発明の第1の実施形態におけるユーザ端末8による動作の流れを示すフローチャートである。・・・
【0057】ユーザ端末8は,ユーザがコンテンツの受信を試みる以前に,あらかじめPUSH配信により,広告情報サーバ7から広告情報の一部/全部を受け取り,蓄積する(ステップS101)。
【0058】次に,ユーザ端末8は,コンテンツ受信のために,ネットワーク5へ接続要求を行い,ネットワーク接続を開始すると(ステップS102),ユーザ端末8は,配信サーバ2への接続待機を行う(ステップS103)。
【0059】ユーザ端末8内のデコーダ(図示せず)は,配信サーバ2への接続待機時間に,ユーザ端末8内の広告情報蓄積部(図示せず)に蓄積されている広告情報を読み出し,再生する(ステップS104)。
【0060】ここで,ユーザ端末8は,コンテンツの再生/表示処理を中断して,表示している広告情報よりもさらに詳細な内容の新規の広告情報を表示する旨が要求されているか否かを判断する(ステップS105)。
【0061】ユーザが表示されている広告情報に興味を持ち,ユーザ端末8にコンテンツの再生/表示処理を中断し,さらに詳しい広告情報を取得する旨の要求が入力されたと判断された場合(ステップS105/Yes),ユーザ端末8は,広告情報サーバ7から新規の広告情報を受信する(ステップS106)。次に,ユーザ端末8は,受信した新規の広告情報の再生/表示を行い(ステップS107),動作を終了する。
【0062】ユーザ端末8に,コンテンツの再生/表示処理を中断し,さらに詳しい広告情報を取得する旨の要求が入力されなかったと判断された場合(ステップS105/No),ネットワーク接続後(ステップS108),ユーザ端末8は,配信サーバ2へ接続し(ステップS109),受信コンテンツ再生のためデータをバッファリングする(ステップS110)。」
「【0066】ここで,ユーザ端末8は,コンテンツの再生/表示処理を中断して,表示している広告情報よりもさらに詳細な内容の新規の広告情報を表示する旨が要求されているか否かを判断する(ステップS113)。
【0067】ユーザが表示されている広告情報に興味を持ち,ユーザ端末8にコンテンツの再生/表示処理を中断し,さらに詳しい広告情報を取得する旨の要求が入力されたと判断された場合(ステップS113/Yes),ユーザ端末8は,広告情報サーバ7から新規の広告情報を受信する(ステップS114)。次に,ユーザ端末8は,受信した新規の広告情報の再生/表示を行い(ステップS107),動作を終了する。
【0068】ユーザ端末8に,コンテンツの再生/表示処理を中断し,さらに詳しい広告情報を取得する旨の要求が入力されなかったと判断された場合(ステップS113/No),ユーザ端末8は,コンテンツデータのバッファリングを完了すると,コンテンツデータは,ユーザ端末8内のデコーダに送られ,再生される(ステップS107)。・・・」

イ 上記記載及び図1及び図2から,引用例1には,次の技術的事項が記載されている。
(ア)引用例1に記載された技術は,携帯電話などのユーザ端末を用いてコンテンツのダウンロードなどを行う情報提供システムに関し(【0002】,【0038】等),ネットワークに接続されたユーザ端末にコンテンツ配信する際,ユーザ端末に広告情報を表示させることによって,通信料またはコンテンツ料等の料金を割り引くサービスを実現するものである(【0039】)。
(イ)広告情報は,事前にユーザ端末にダウンロードされて蓄積されており(【0038】),ユーザ端末は,ネットワークへの接続待ち時間,及びネットワーク接続後コンテンツデータがユーザ端末にバッファリングされコンテンツが再生されるまでの待ち時間(再生コンテンツデータのバッファリング時間帯)の内の少なくともいずれかに広告情報を表示する(【0039】,【0048】,【0050】等)。
(ウ)一方,広告主は,広告情報をユーザ端末に配信する代価として,広告料を情報提供システムの管理者に支払う(【0049】)。
(エ)情報提供システムは,課金装置を有し,ユーザ端末による通信料金及びコンテンツ料金の課金を行う。その際,課金装置は,広告料の一部又は全部を用いて,ユーザ端末による通信料金及びコンテンツ料金の一部又は全部の割り引きを行う(【0049】等)。
(オ)引用例1に記載された情報提供システムによれば,通信料金及びコンテンツ料金の一部又は全部を広告主が負担することとなり,ユーザに対する通信料金及びコンテンツ料金の割引サービスが実現できる(【0055】等)。

ウ これらのことから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「携帯電話などのユーザ端末を用いてコンテンツのダウンロードなどを行う情報提供システムであって,ネットワークに接続されたユーザ端末にコンテンツ配信する際,ユーザ端末に広告情報を表示させることによって,通信料またはコンテンツ料等の料金を割り引くサービスを実現する情報提供システムであり,
ユーザ端末は,ネットワークへの接続待ち時間,及びネットワーク接続後コンテンツデータがユーザ端末にバッファリングされコンテンツが再生されるまでの待ち時間(再生コンテンツデータのバッファリング時間帯)の内の少なくともいずれかに広告情報を表示し,
情報提供システムは,ユーザ端末による通信料金及びコンテンツ料金の課金を行い,その際,広告主が,広告情報をユーザ端末に配信する代価として支払った広告料の一部又は全部を用いて,ユーザ端末による通信料金及びコンテンツ料金の一部又は全部の割り引きを行う,
情報提供システム。」

(2)引用例2
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願出願前の平成13年8月31日に頒布された,特開2001-237970号公報(以下,「引用例2」という。)には次の記載がある。
「【0006】【課題を解決するための手段】本発明による着信音データ配信システムは,相手先からの着信時に内部メモリに蓄積された着信音データを再生する携帯電話端末に対して外部から前記着信音データを配信するための着信音データ配信システムであって,広告情報を前記着信音データに添付することで少なくとも当該着信音データのダウンロード時の通信費の一部が負担されたデータを蓄積する外部データベースを備えている。」
「【0009】上記の着信音データ及び広告データをスポンサから提供するようにすることで,着信音データのダウンロード前後の時間や着信音データそのものが宣伝として利用可能となる。・・・」
「【0014】携帯電話機1が基地局21及び制御局22を介してデータベース23からダウンロードした着信音データはアンテナ10と無線部11と制御部12とを通してメモリ13に格納されるが,「着信音データ本体+広告データ」の形態の場合には着信音データ本体のダウンロード中あるいはダウンロード完了後に,広告データ部分がディスプレイ14に表示される。」

イ 上記記載から,引用例2には,次の発明が記載されていると認められる。
「相手先からの着信時に内部メモリに蓄積された着信音データを再生する携帯電話端末に対して外部から前記着信音データを配信するための着信音データ配信システムにおいて,着信音データのダウンロード前後の時間や着信音データそのものを宣伝として利用可能としたものであって,
携帯電話端末は,着信音データに広告情報が添付されている場合(「着信音データ本体+広告データ」の形態の場合),着信音データ本体のダウンロード中又はダウンロード完了後に,広告情報をディスプレイに表示する,
着信音データ配信システム。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明は,「携帯電話などのユーザ端末を用いてコンテンツのダウンロードなどを行う情報提供システムであって,ネットワークに接続されたユーザ端末にコンテンツ配信する際,ユーザ端末に広告情報を表示させることによって,通信料またはコンテンツ料等の料金を割り引くサービスを実現する情報提供システム」であり,引用発明が,有料のコンテンツを,ダウンロードを含む手段により購入することを前提とした発明であることは明らかである。
本願発明と引用発明とは,少なくとも,携帯電話機などの携帯端末を使用して楽曲,動画,ゲームなどのいわゆるコンテンツを購入するためのシステムである点で共通する。

イ 本願発明は,楽曲,動画,ゲームなどのコンテンツのダウンロード購入を前提とし,「ダウンロード中の画面表示に代わりまたはダウンロードの前後に広告を表示」するものであり,ここで,前記広告の表示が携帯端末の画面表示であることは技術常識である。
他方,引用発明は,携帯電話などのユーザ端末において,「ネットワークへの接続待ち時間,及びネットワーク接続後コンテンツデータがユーザ端末にバッファリングされコンテンツが再生されるまでの待ち時間(再生コンテンツデータのバッファリング時間帯)の内の少なくともいずれかに広告情報を表示」するものであり,少なくとも携帯端末の画面に広告を表示するものであることは明らかである。
本願発明と引用発明とは,携帯端末を使用してコンテンツを購入するに当たり,「携帯端末の画面に広告を表示する」点で共通する。

ウ 引用発明は,「ユーザ端末による通信料金及びコンテンツ料金の課金を行い,その際,広告主が,広告情報をユーザ端末に配信する代価として支払った広告料の一部又は全部を用いて,ユーザ端末による通信料金及びコンテンツ料金の一部又は全部の割り引きを行う」ものであり,広告料の一部又は全部を用いて,通信料金の少なくとも一部の割り引きを行うことは,本願発明における「通信料の一部を広告料から還元」することに相当し,コンテンツ料金の少なくとも一部の割り引きを行うことは,本願発明における「購入料の一部を広告料から負担」することに相当するから,本願発明と引用発明は,「携帯端末使用者の通信料の一部を広告料から還元しダウンロード購入料の一部を広告料から負担する」点で一致する。

エ 以上のとおり,本願発明と引用発明は,いずれもコンテンツの購入時に広告を表示するシステムであるから,いずれも「購入時広告表示システム」と呼称することができる。

(2)以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
携帯電話機など携帯端末を使用して楽曲,動画,ゲームなどを購入する際,携帯端末の画面に広告を表示するとともに,携帯端末使用者の通信料の一部を広告料から還元しダウンロード購入料の一部を広告料から負担する,購入時広告表示システム。

[相違点]
本願発明は,コンテンツの「ダウンロード購入」を前提とし,携帯端末の画面に,「ダウンロード中の画面表示に代わり又はダウンロードの前後」に広告を表示するのに対し,引用発明は,必ずしも「ダウンロード購入」を前提としたものではなく,「ネットワークへの接続待ち時間,及びネットワーク接続後コンテンツデータがユーザ端末にバッファリングされコンテンツが再生されるまでの待ち時間(再生コンテンツデータのバッファリング時間帯)の内の少なくともいずれか」に広告を表示するものである点。

5 判断
(1)引用発明は,「携帯電話などのユーザ端末を用いてコンテンツのダウンロードなどを行う情報提供システム」であり,その技術思想が,コンテンツをダウンロード購入する形態を排除するものでないことは明らかである。
また,引用例2には,前記「3(2)引用例2」のとおり,「相手先からの着信時に内部メモリに蓄積された着信音データを再生する携帯電話端末に対して外部から前記着信音データを配信するための着信音データ配信システムであって,携帯電話端末は,着信音データに広告情報が添付されている場合(「着信音データ本体+広告データ」の形態の場合),着信音データ本体のダウンロード中又はダウンロード完了後に,広告情報をディスプレイに表示する,着信音データ配信システム」が記載されており,着信音データ,すなわち「コンテンツ」を配信するシステムにおいて,コンテンツ(着信音データ本体)のダウンロード中又はダウンロード完了後に広告を表示する技術が記載されている。
これらの記載から,引用発明におけるコンテンツの購入手段として,「ダウンロード」が含まれることは,当業者であれば自明である。
(2)引用発明は,「ユーザ端末は,ネットワークへの接続待ち時間,及びネットワーク接続後コンテンツデータがユーザ端末にバッファリングされコンテンツが再生されるまでの待ち時間(再生コンテンツデータのバッファリング時間帯)の内の少なくともいずれかに広告情報を表示」に当たり,「ネットワークへの接続待ち時間」,すなわちコンテンツの配信前に広告を表示する態様を含むものである。
また,引用例2には,「着信音データのダウンロード前後の時間・・・を宣伝として利用可能」とすること,及び「着信音データ本体のダウンロード中又はダウンロード完了後に,広告情報をディスプレイに表示する」ことが記載されている。ここで,ダウンロード中に広告情報を表示することは,「ダウンロード中の画面表示に代わり」広告を表示することにほかならない。
これらのことから,コンテンツの配信中又は配信前後に広告を表示することはいずれも知られており,コンテンツの配信中又は配信前後のいずれの期間に広告を表示するかは,当業者が適宜選択できる事項というべきである。
(3)以上のとおりであるから,引用発明において,コンテンツの購入を「ダウンロード」により行う構成に特定するとともに,携帯端末の画面に「ダウンロード中の画面表示に代わり又はダウンロードの前後」に広告を表示する構成とすることは,引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が容易に想到し得たことである。
そして,本願発明による作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
(3)よって,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

6 請求人の主張について
上記判断のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるが,平成24年10月19日付けの意見書,及び平成25年3月3日付けの審判請求書における請求人の主張についても,念のため,以下に検討する。

(1)請求人は,引用発明は,ユーザ端末が通信を行っていない間に広告情報を受信するものであり(引用例1,段落【0048】,【0057】参照),「接続遅延,かつ本来受信したいコンテンツデータの帯域を圧迫するおそれ」(同,段落【0051】参照)があるのに対し,本願発明は,通信を開始する情報を受信した際に広告情報の配信がなされるものであり,広告情報はダウンロード形式のものではなく圧縮されたストリーミング配信であるため,引用発明のような問題は生じない旨主張する。
しかしながら,本願発明には,本願発明の広告情報が,ダウンロード形式のものではなく圧縮されたストリーミング配信であることは特定されていない。むしろ明細書には,「広告取出し配信手段は・・・,予め登録された広告の中からランダムに広告を取出し配信する手段である。」と記載されていることからして,ダウンロード形式をも含むと解される。請求人の主張は,特許請求の範囲に記載されていない事項に基づく主張であり,採用できない。

(2)請求人は,引用例1の段落【0111】を引用し,引用発明は,ユーザが広告情報の閲覧を許容することで,少なくとも待機時間の通信料金の負担を軽減するものであるのに対し,本願発明は「通信料の一部とダウンロード購入料の一部を広告料から負担する」ものであるから構成が異なる旨主張する。
しかしながら,引用例1には,「ユーザは,上記の広告情報の表示を許容することにより,少なくともコンテンツ再生までの通信料金およびコンテンツ料金のうちの一方における一部/全部を広告主が負担することとなり,ユーザは,料金の割引サービスの恩恵を受けることが可能となる。」(段落【0055】参照)と記載されており,広告料の一部又は全部を用いて,通信料金の少なくとも一部及びコンテンツ料金の少なくとも一部の割り引きを行うことが明示されている。
これは,請求人が主張するところの「通信料の一部とダウンロード購入料の一部を広告料から負担する」ことにほかならないから,この点において,引用発明と本願発明との実質的な構成上の差異はない。

(3)請求人は,引用発明のコンテンツは,ダウンロード形式のものではなくストリーミング形式のものであるのに対し,本願発明は「ダウンロード中の画面表示に代わりまたはダウンロードの前後に広告を表示する」ものであり,構成が異なる旨主張する。
しかしながら,請求人の主張する点については,前記「4 対比」において,相違点として認定しており,また,前記「5 判断」において,引用発明におけるコンテンツの購入手段として,「ダウンロード」が含まれることは,当業者であれば自明であり,また,ダウンロード前,ダウンロード中又はダウンロード完了後のいずれの時点で広告を表示するかは,当業者が適宜選択できる事項である旨判断している。
引用発明が,表現上本願発明の構成と異なるとしても,上記判断のとおり,当業者が容易に想到し得たものであることに変わりない。

(4)請求人は,引用例2に記載されたものは,「広告情報を前記着信音データに添付する」(引用例2,特許請求の範囲【請求項1】)ものであり,「上記の着信音データ及び広告データをスポンサから提供するようにすることで,着信音データのダウンロード前後の時間や着信音データそのものが宣伝として利用可能となる」(同,段落【0009】)が,本願発明は,スポンサーから提供されるのは広告データのみであり,広告情報をコンテンツに添付するのではなく,広告情報はコンテンツとは分けて配信されるものであり,また,ダウンロードするデータは,楽曲,動画,ゲームなどの有料コンテンツである点で,引用例2に記載されたものと異なる旨主張する。
しかしながら,本願発明には,スポンサーから提供されるのは広告データのみである点や広告情報とコンテンツとが分けて配信される点(広告情報の配信形態)については特定されていない。
請求人の主張は,特許請求の範囲に記載されていない事項に基づく主張であり,採用できない。

(5)請求人は,本願発明は,ダウンロードするデータが,楽曲,動画,ゲームなどの有料コンテンツである点で,引用例2に記載されたものと異なる旨主張する。
しかしながら,コンテンツが有料である点については,引用発明が前提とするところであって,前記「4 対比」のとおり,実質的な一致点として既に認定しており,引用例2に,ダウンロードするデータが,楽曲,動画,ゲームなどの有料コンテンツであることが開示されているか否かにかかわらず,本願発明の容易想到性判断に影響しない。

(6)以上のとおり,請求人の主張は,いずれも採用できない。

7 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願は,請求項2の発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-28 
結審通知日 2014-08-05 
審決日 2014-08-18 
出願番号 特願2008-88428(P2008-88428)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮地 匡人  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 清田 健一
西山 昇
発明の名称 ダウンロード購入時広告表示システム  

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