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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1292990
審判番号 不服2012-8089  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-02 
確定日 2014-10-14 
事件の表示 特願2008-132412「組織修復用支持マトリックス上の細胞」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月11日出願公開、特開2008-207002〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成15年9月29日(パリ条約による優先権主張 2002年9月27日 米国(US))に出願した特願2004-539047号の一部を平成20年5月20日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年10月27日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年12月28日付けで拒絶査定がなされ、平成24年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年6月18日付けで前置報告がなされ、平成25年9月20日付けで審尋がなされ、平成26年3月24日に回答書が提出されたものである。

第2.平成24年5月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結論]
平成24年5月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成24年5月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成23年10月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の内容について、
「 【請求項1】
細胞不含コラーゲン膜および該膜に近接した幹細胞を含んでなる、任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物。」
を、
「 【請求項1】
細胞不含コラーゲン膜および該膜に接着した骨髄由来の幹細胞を含んでなる、任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物であって、該コラーゲン膜はI型コラーゲンとIII型コラーゲンとの組み合わせを含み、該幹細胞は分化誘導培地中で培養されたものである、組織修復構造物。」
とする、補正事項を含むものである。

2.本件補正の目的について
上記した特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「幹細胞」を「幹細胞は分化誘導培地中で培養された」「骨髄由来」のものに限定する補正事項、「コラーゲン膜」を「I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの組み合わせを含」むものに限定する補正事項、さらに「膜に近接した」なる事項を「膜に接着した」を限定する補正事項を含むものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから、請求項1についてする本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は以下に記載のとおりである。

「細胞不含コラーゲン膜および該膜に接着した骨髄由来の幹細胞を含んでなる、任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物であって、該コラーゲン膜はI型コラーゲンとIII型コラーゲンとの組み合わせを含み、該幹細胞は分化誘導培地中で培養されたものである、組織修復構造物。」

(2)特許法第36条第6項第1号について
A.本願明細書の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

0A「【0001】
本発明は、細胞不含コラーゲン支持マトリックスを含む組織修復構造物、その調製方法、および細胞不含コラーゲン支持マトリックスの使用に関する。

・・・

【0007】
本発明は、支持マトリックス上に播かれた細胞、好ましくは自己細胞を用いた、組織欠損の効果的な処置のためおよび組織再生のための方法に関する。本発明はまた、1つ以上の特定の組織の修復および/または再生用の1つ以上の特定の型の細胞を播種された膜を含む組織修復構造物にも関する。」

0B「【0025】
本発明はまた、本発明で教示される、任意の組織欠損の処置または任意の組織の再生の方法の使用を意図している。ある態様において、自己幹細胞を支持マトリックス上に播く前に分化させるか、部分的に分化させるか、または分化させず、次いで支持マトリックス上に播き、細胞播種支持マトリックスを移植部位内または移植部位上に移植する。任意に、細胞播種支持マトリックスの移植前、移植中、移植後に、分化を助ける因子を用い得る。本発明はまた、幹細胞の培養および分化、支持マトリックス上への幹細胞または分化した細胞の播種、ならびに移植部位内または移植部位上への細胞播種支持マトリックスの移植の方法を提供する。」

0C「【0034】
あるいは、任意の型の組織欠損を処置するために、患者の骨髄、臍帯血、皮膚または軟骨から幹細胞を含む生検を摘出し得る。該生検から、患者由来の幹細胞が単離および培養される。幹細胞は、特定の組織欠損の治療用に分化される。
【0035】
幹細胞はまた、従来の方法によって胎児組織および臍帯から単離される。ある幹細胞は臍帯血からのみ入手できるが所望の細胞型へ分化できるので、幹細胞は自己または非自己であり得る。具体的な修復対象の欠損または再生対象の組織に応じて、造血幹細胞、間葉幹細胞、全能幹細胞および多能性幹細胞を含む任意の型の幹細胞を本発明に用い得る。」

0D「【0090】
実施例8:任意の組織欠損の処置方法
生検材料を骨髄から採取し、生検材料を細胞成長培地中で一回洗浄する。成長培地はHAM F12および15 mM HEPESバッファー、70μmol/l 硫酸ゲンタマイシン、2.2μmol/l アンホテリシン、0.3mmol/lアスコルビン酸、および20% ウシ胎仔血清を含む。1または複数の特定の成長因子が、特定の細胞系列を誘導するために成長培地中に含まれる。例えば、トランスホーミング成長因子βが軟骨細胞分化誘導用の培地に含まれる一方で、線維芽細胞成長因子が腱細胞分化誘導用の培地に含まれる。幹細胞を培地中で培養し、生存率を測定するために数える。分化した細胞を、CO_(2)インキュベーター内で、HAM F12および15 mM HEPES バッファー、ならびに5?7.5%自己血清を含む最小必須培地中、37℃で増殖させ、クラス100実験室内で操作する。培地の他の組成が細胞の培養に使用され得る。細胞を、トリプシンEDTAを用いて5?10分間トリプシン化し、Buurker-Turkチャンバー内でTrypan Blue生体染色を用いて数える。細胞数を7.5×10^(5)細胞/mlに調整する。
【0091】
Geistlich Sohne (Switzerland) またはMatricel GmbH (Kaiserstr., Germany) から得られるI/III型コラーゲン膜を支持マトリックスとして使用する。該マトリックスを、NUNCLON^(TM) Delta 6ウェル組織培養トレイのウェルの底に合うように適切な大きさにカットし、無菌条件下でウェルに置く(NUNC (InterMed) Roskilde, Denmark)。血清を含む少量の細胞培地を、マトリックスに吸収されてウェルの底でマトリックスが湿った状態に保たれるように、マトリックスに適用する。
【0092】
培地1 ml中のおよそ10^(6)細胞を、マトリックスの頂部に直接置き、マトリックスの表面にわたって分散させる。次いで、組織培養プレートを、CO_(2)インキュベーター内で、37℃で60分間インキュベートする。5?7.5% 血清を含む2?5 mlの組織培地を、細胞を含む組織培養ウェルに注意深く添加する。必要な場合は、pHを約7.4?7.5に調整する。3日目に培地を交換して、プレートを3?7日間インキュベートする。
【0093】
インキュベーション期間の終わりに、培地をデカントし、細胞播種支持マトリックスを洗浄する。次いで、支持マトリックスを、細胞側を下にして欠損部位に移植し、任意に被覆パッチで覆う。次いで、欠損をそれ自身で治癒させておく。」

B.刊行物の記載事項
以下、信州医学雑誌、2002年6月、vol.50,No.3、p141-142を「刊行物C」という。
本願の優先日前に頒布された刊行物Cには、以下の事項が記載されている。

C1「骨髄間葉系細胞は骨髄血を採取,培養し,接着細胞を増殖させたものである。この細胞が骨,軟骨,脂肪,筋肉に分化することが報告されたため,間葉系幹細胞と呼ばれることが多い。」(142頁 左欄1-4行)

C2「しかしながら、この細胞から上記4つ以外の間葉系組織の細胞への分化はまだ証明されていないこと,・・・さらに最近,骨髄間葉系細胞から神経細胞、肝細胞など他の胚葉由来の組織にも分化することが報告され,細胞の分化能が以前から考えられていたほど限定されたものではなく,可逆性があると考えられるようになってきた(分化転換)。」(142頁左欄 4-12行)

C.当審の判断
本願補正発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるか否か検討する。
本願補正発明は、「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物」であることを発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として備えるものである。
そして、摘示0Aに、「本発明は、支持マトリックス上に播かれた細胞、好ましくは自己細胞を用いた、組織欠損の効果的な処置のためおよび組織再生のための方法に関する。」との記載があり、摘示0Bに、「任意の組織欠損の処置または任意の組織の再生の方法の使用を意図している。ある態様において、自己幹細胞を支持マトリックス上に播く前に分化させるか、部分的に分化させるか、または分化させず、次いで支持マトリックス上に播き、細胞播種支持マトリックスを移植部位内または移植部位上に移植する。」との記載があり、幹細胞として摘示0Cに、「任意の型の組織欠損を処置するために、患者の骨髄、臍帯血、皮膚または軟骨から幹細胞を含む生検を摘出」することが記載されており、上記全体として、本願補正発明が対象としているのは「任意の」組織欠損の治療または「任意の」組織再生であることが記載されているといえる。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明中に実施例として記載されている、骨髄由来の幹細胞を用いた任意の組織欠損の処置のための組織修復構造物の例は実施例8であるが、該例は単に該構造物の製造方法及び該構造物による治療の手順を記載するのみであって、組織欠損部に細胞播種支持マトリックスを移植し、播種細胞が実際に欠損部を治癒したことを示したものではない。また、実施例8のような、培養地で細胞を培養するという好適条件の場合と同様に、実際に体内においても欠損部を補充できる程度に細胞成長が行われるかについては不明であることからすると、上記指摘の単なる製造方法及び治療手順を記載したことから直ちに本願補正発明の組織修復構造物が任意の組織欠損の治療あるいは任意の組織再生のために用い得るものであることが示されているとは認められない。そして、本願出願時の技術常識を考慮しても、組織修復構造物の製造方法及びその治療手順が記載されていれば、本願補正発明の組織修復構造物が任意の組織欠損の治療あるいは任意の組織再生のために用い得るものであるということが当業者に自明であるとも認められない。
また、骨髄由来の幹細胞といえども必ずしもあらゆる細胞に分化することができるものではないことは、周知の事項であるところ(摘示C2)、本願明細書中実施例において分化の手順として記載されているのは、骨髄由来の幹細胞を軟骨細胞や腱細胞へ分化させることのみである。そうすると、本願発明特定事項である「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物」とするために必要な、幹細胞を任意の細胞に分化させるという技術的事項が、本願明細書中のその他の記載を参酌しても確認できないし、本願出願時において、骨髄由来の幹細胞を任意の細胞に分化させることが可能であることが技術常識であったとも認められないことからすると、本願補正発明の組織修復構造物が任意の組織欠損の治療あるいは任意の組織再生のために用い得るものであるということが当業者に自明であるとも認められない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、本願補正発明の「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物」に関してまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、この出願は、本願補正後の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件補正は改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年10月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1にかかる発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「細胞不含コラーゲン膜および該膜に近接した幹細胞を含んでなる、任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成23年5月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由2、3の概要は、

2.本願の請求項1?21に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

引 用 文 献 等 一 覧
1. Microscopy Research and Technique,2002年 7月,Vol.58,No.1,p14-18
・・・
3. 特表2002-502272号公報
・・・
6. 信州医学雑誌,2002年 6月,Vol.50,No.3,p141-142
というものである。

3.当審の判断
(1)理由3について(特許法第36条第6項第1号)
本願発明は、本願補正発明が発明特定事項としていた、「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物」を備えるものであることからすると、上記、「第2.」「3.」「(2)」「C.」に記載した理由により、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物」に関してまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)理由2について(特許法第29条第2項)
A.刊行物及びその記載事項
以下、
特表2002-502272号公報を「刊行物A」、
Microscopy Research and Technique,2002年 7月,Vol.58,No.1,p14-18を「刊行物B」という。
なお、上記引用文献6は、上記「第2」「3.」「(2)」「B.」に記載の刊行物Cである。

(a)刊行物Aの記載事項
刊行物Aには、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付した。

A1「【特許請求の範囲】
1.治療対象部表面に止血障壁及び被覆パッチを用いて適切なマトリックス中の軟骨細胞を移植することにより関節表面軟骨を有効に治療するための方法であって、止血障壁を治療対象部表面の近位に配置し、適切なマトリックス中の軟骨細胞を前記止血障壁に対して遠位の治療部位表面上に配置し、かつ治療対象部表面を被覆パッチで被覆することを包む方法。
2.移植部位を被覆する軟骨の表面にまず前記被覆パッチを付着し、次いで前記軟骨細胞を前記被覆パッチの下の前記移植部位内に配置する請求項1に記載の方法。
3.前記被覆パッチが半透性コラーゲンマトリックスを含む請求項1または2に記載の方法。
4.前記被覆パッチが多孔性表面を有する半透性コラーゲンマトリックスを含む請求項3に記載の方法。
5.前記多孔性表面が移植された軟骨細胞と接触する請求項4に記載の方法。
6.前記被覆パッチが無傷の細胞を実質的に含まない半透性コラーゲンマトリックスを含む請求項3、4または5に記載の方法。」

A2「実施例5
HAM F12及び15mM Hepesバッファ及び5?7.5%自己血清を含む最小必須培養培地において、CO_(2)インキュベータ内、軟骨細胞を37℃で成長させ、Verigen Europe A/S、シンビオン・サイエンス・パーク(コペンハーゲン、デンマーク)のクラス100実験室で扱った。これらの細胞を、トリプシンEDTAを用いて5?10分間トリプシン処理し、Burker-Turkチャンバにおいてトリパンブルー生存度染色を用いてカウントした。細胞総数を、ml当たり7.5×10^(5)?2×10^(6)細胞に調整した。NUNCLON^(TM)プレートの1つをクラス100実験室で開封した。
止血障壁に加えて培養軟骨細胞が移植される関節の欠損領域を被覆するパッチ又は帯具として用いられる二層膜として、Bio-Gide^((R))を用いることができることが見出されている。Bio-Gide^((R))は、(E.D.Geistlich Sohne AG、CH-6110ボルフーゼン(Wolhusen)による)標準化され制御された製造プロセスによって得られる純粋なコラーゲン膜である。このコラーゲンは、獣医学的に認定されたブタから抽出され、抗原反応を回避するように注意深く精製され、二重ブリスター内でγ線照射により殺菌される。このブリスター膜は、多孔性表面及び高密度表面を有する。この膜は、I型及びIII型コラーゲンから、さらなる架橋もしくは化学処理なしに作製される。このコラーゲンは、24週以内に再吸収される。この膜は、その構造的統合性を湿潤したときでさえ保持し、縫合糸又は爪で固定することができる。また、この膜は、縫合糸の代わりに、又は縫合糸と共にTisseel^((R))のようなフィブリン接着剤を用いて隣接する軟骨又は組織に“接着”させることもできる。
Bio-Gide^((R))をクラス100実験室で開封し、細胞研究作業用のNUNCLON^(TM)デルタ6-ウェル無菌使い捨てプレートのウェルの底部に、無菌条件下で、その二層膜の多孔性表面を上向きにして、又は高密度表面を上向きにして置いた。血清を含む組織培養培地1ml中の約10^(6)個の細胞をBio-Gide^((R))の頂部に直接置き、Bio-Gide^((R))の多孔性もしくは高密度表面全体に分散させた。次に、このプレートをCO_(2)インキュベータ内、37℃で60分間インキュベートした。5?7.5%の血清を含む組織培養培地2?5mlを、細胞を有するウェルに、この培地放出の際にピペットの先端をウェルの側面に対して接線方向に保持して細胞が跳ねるのを回避しながら、注意深く添加した。
Bio-Gide^((R))を有するウェルに軟骨細胞を入れた2日後に、細胞をNikon倒立顕微鏡で検査した。幾つかの軟骨細胞がBio-Gide^((R))の縁に付着していることが認められた。もちろん、この顕微鏡を用いて、Bio-Gide^((R))それ自体から通して見ることは不可能であった。
このプレートを、第3日に培地を交換しながら、3?7日間インキュベートした。このインキュベーション期間の最後に培地をデカントし、細胞と、多孔性表面もしくは高密度表面のいずれかで細胞が培養されたBio-Gide^((R))支持体とを調製するため、ジメチルアルシン酸の0.1Mナトリウム塩(カコジル酸ナトリウムとも呼ばれ、pHはHClで7.4に調整)を含む冷蔵2.5%グルタルアルデヒドを、固定剤として添加した。次に、このBio-Gide^((R))パッチを電子顕微鏡検査のためデンマーク、ハーレブ病院(Herlev Hospital)病理学部に送付した。
電子顕微鏡検査により、Bio-Gide^((R))の高密度表面上で培養した軟骨細胞は、Bio-Gide^((R))のコラーゲン構造内に成長することはないが、多孔性表面上で培養した細胞は、実際にコラーゲン構造内に成長することが示され、さらにプロテオグリカンの存在が示されたが、線維芽細胞構造の徴候は示されなかった。この結果は、コラーゲンパッチ、例えばBio-Gide^((R))パッチが軟骨の欠損を被覆するパッチとして縫合される場合には、培養軟骨細胞を注入しようとする欠損に向けて多孔性表面を下向きにすべきであることを示す。それにより、それらがコラーゲンに浸透することが可能となり、無傷の表面に沿って滑らかな軟骨表面が生じて、この領域にプロテオグリカンの滑らかな層が積層する。これに対し、コラーゲンの高密度表面が欠損に向けられている場合、移植しようとする軟骨細胞がコラーゲンと一体化せず、細胞が上述のものと同じ滑らかな表面を生成することはない。」

(b)刊行物Bの記載事項
刊行物Bには、以下の事項が記載されている。

B1「To facilitate the repair of articular cartilage defects, autologous mesenchymal cells from bone marrow or periosteum were transplanted in a rabbit model.」(p14、ABSTRACT 1-2行)(当審訳:関節軟骨欠損の修復を促進するため、骨髄や骨膜から得られた自己間葉細胞がウサギに移植された。)

B2「This investigation demonstrates that large, fullthickness defects of the weight-bearing region of the articular cartilage were repaired with hyaline-like cartilage after implantation of autologous osteochondral progenitor cells that had been isolated from bone-marrow or periosteal tissue and grown in cell culture.」(p16、conclusion の項)(当審訳:本研究は、関節軟骨の体重負荷領域における大きな、全層からなる欠損が、骨髄や骨膜細胞から採取され、細胞培養された自己骨軟骨前駆細胞の移植後に、ガラス質軟骨で修復されることを明らかにした。)

(c)刊行物Cの記載事項
刊行物Cは、上記「第2.」「3.」「(2)」「B.」に記載されているとおりの事項が記載されている。

B.刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、被覆パッチが「純粋なコラーゲン膜」との記載(摘示A2)があることをふまえ、摘示A1の記載からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。

治療対象部表面に止血障壁及び被覆パッチを用いて適切なマトリックス中の軟骨細胞を移植することにより関節表面軟骨を有効に治療するために用いるための方法に用いる被覆パッチと軟骨細胞との組み合わせ構造体であって、
止血障壁を治療対象部表面の近位に配置し、適切なマトリックス中の軟骨細胞を前記止血障壁に対して遠位の治療部位表面上に配置し、かつ治療対象部表面を被覆パッチで被覆し、
前記被覆パッチが多孔性表面を有する半透性コラーゲンマトリックスであり、
前記多孔性表面が移植された軟骨細胞と接触し、
前記被覆パッチが無傷の細胞を実質的に含まない半透性コラーゲンマトリックスであり、
前記被覆パッチが純粋なコラーゲン膜である、
方法に用いる組み合わせ構造体。

C.対比・判断
刊行物A発明における、「被覆パッチ」が「純粋なコラーゲン膜」であり、「無傷の細胞を実質的に含まない半透性コラーゲンマトリックス」であることからすると、刊行物A発明における「被覆パッチ」は、本願発明における「細胞不含コラーゲン膜」に相当する。

本願発明は、治療部位に適用する前の包装された組織修復構造物のみならず、治療部位に配置された後の構造物としての組織修復構造物をも含みうることをふまえ、刊行物Aにおける「多孔性表面が移植された軟骨細胞と接触し」における「多孔性表面」は上記被覆パッチの表面であり、組み合わせ構造体は軟骨細胞を含んでいることからすると、刊行物A発明における「多孔性表面が移植された軟骨細胞と接触し」は、本願発明における「膜に近接した細胞を含んでなる」に相当する。

刊行物A発明における「細胞を移植することにより関節表面軟骨を有効に治療するため」は、移植により欠損部の組織の治療、再生をしていることが明らかであることから、本願発明における「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための」に相当する。

刊行物A発明は、移植により欠損部の組織の治療、再生をしていることから、刊行物A発明における「組み合わせ構造体」は、本願発明における「組織修復構造物」に相当する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
細胞不含コラーゲン膜および該膜に近接した細胞を含んでなる、任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のための組織修復構造物。

〔相違点〕
本願発明において、膜に近接した細胞を「幹」細胞と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

刊行物A発明と刊行物Bに記載の事項とは、関節軟骨部の修復のために細胞を培養し、欠損部の修復を行う点において、共通する技術分野に属しているところ、刊行物Bには、骨髄由来の間葉細胞(本願発明における「幹細胞」に相当。)を移植して軟骨を再生することが記載(摘示B1,B2)されていることからすると、刊行物A発明に用いる細胞として、幹細胞を用いることは、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において、容易になし得ることである。また、その効果も格段優れたものとは認められない。

よって、本願補正発明は、刊行物A発明と刊行物Bに記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4.補正案について
請求人は、平成26年3月24日提出の回答書において、請求項1の「幹細胞」を「部分的に分化しているか、又は分化していない」ものに限定する補正を行いたい旨記載している。
しかし、上記「第2.」「3.」「(2)」「C.」でも述べたとおり、本願補正発明は「任意の組織欠損の治療における使用または任意の組織再生のため」である点が問題なのであって、この点を備えている本願発明もまた同様である。そうするとこの点に関する補正案ではない上記案を採用しても上記判断は変わらない。

第5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない及びこの出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという原査定の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-21 
結審通知日 2014-05-22 
審決日 2014-06-03 
出願番号 特願2008-132412(P2008-132412)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
P 1 8・ 537- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 冨永 保
加賀 直人
発明の名称 組織修復用支持マトリックス上の細胞  
代理人 細田 芳徳  

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