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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1293030
審判番号 不服2013-21612  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-05 
確定日 2014-10-14 
事件の表示 特願2009-199416「半導体発光素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月17日出願公開、特開2011- 54598〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年8月31日の出願であって、平成25年3月12日付けで拒絶理由が通知され、同年5月14日に特許請求の範囲の補正がなされたが、同年7月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲の補正がなされたものである(以下、この平成25年11月5日になされた補正を「本件補正」という。)。

2 本件補正についての却下の決定
(1)結論
本件補正を却下する。

(2)理由
ア 補正の内容
本件補正は、特許請求範囲の請求項1につき、本件補正前の
「結晶基板の一方の面に電極層を具備し、反対側の光取り出し面に化合物半導体層と、前記化合物半導体層上に積層された金属電極層とを具備してなる半導体発光素子であって、
前記金属電極層の面積が1mm^(2)以上であり、
前記金属電極層が貫通する複数の開口部を有しており、
前記開口部の平均開口部直径が10nm以上2μm以下であり、
前記金属電極層の金属部位の任意の2点間は切れ目無く連続しており、
前記金属電極層の膜厚が10nm以上200nm以下の範囲にあり、
前記金属電極層のシート抵抗が10Ω/□以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。」

「結晶基板の一方の面に電極層を具備し、反対側の光取り出し面に化合物半導体層と、前記化合物半導体層上に積層された金属電極層とを具備してなる半導体発光素子であって、前記半導体発光素子に流される電流が100mA以上であり、
前記金属電極層の面積が1mm^(2)以上であり、
前記金属電極層が貫通する複数の開口部を有しており、
前記開口部の平均開口部直径が10nm以上2μm以下であり、
前記金属電極層の金属部位の任意の2点間は切れ目無く連続しており、
前記金属電極層の膜厚が10nm以上200nm以下の範囲にあり、
前記金属電極層のシート抵抗が10Ω/□以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。 」
に補正する内容を含むものである。

イ 補正の適否についての判断
本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項に、半導体発光素子に流される電流に関する発明特定事項を認めることができないから、「前記半導体発光素子に流される電流が100mA以上であり、」との記載を追加するものである本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものとは認められない。
したがって、上記アの補正内容を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものとはいえない。
また、同補正内容が、同条第5項第1号、第3号または第4号に掲げる事項を目的とするものともいえない。

ウ 小括
したがって、上記アの補正内容を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)付言
なお、以下に検討するとおり、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、特許を受けることができないものであるから、本件補正を認める余地はない。

ア 引用例の記載
原査定の拒絶理由に引用した特開2004-55646号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに以下の記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体基板と、その上にn型バッファ層を介し或いは直接に形成されたn型クラッド層と、n型クラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層の上に直接にあるいはp型半導体層を介して形成されたp型コンタクト層と、n型半導体基板の裏面に形成されたn電極とを含む発光ダイオード素子のp側の金属電極の構造であって、p型コンタクト層の上に形成された10%以上の透過率をもつ被覆部と20%以上の面積比率をもつ網目状の開口部とを有する電流拡散用のp側透光性薄膜金属電極と、p型コンタクト層の周辺部に設けられ透光性薄膜金属電極と直接に接合されたワイヤボンディング用の台座電極とよりなることを特徴とする発光ダイオード素子のp側電極構造。

【請求項5】
網目状のp側透光性薄膜金属電極の開口部の直径Lが100μm以下である事を特徴とする請求項1?4の何れかに記載の発光ダイオード素子のp側電極構造。
【請求項6】
網目状のp側透光性薄膜金属電極の被覆部の厚みdが10nm以上60nm以下である事を特徴とする請求項1?5の何れかに記載の発光ダイオード素子のp側電極構造。」

(イ)「【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明の発光ダイオード電極構造は、p型コンタクト層の全面に薄い金属電極を開口部と被覆部が交代するよう網目状に配置し周辺部に設けたワイヤボンディング用台座電極と薄膜金属電極を直接に接触させ網目状金属電極の開口部と薄い金属電極被覆部を通してpn接合で発生した光を外部へ出力するようにした。
【0031】
薄膜電極の被覆部からは従来通りの透過率で出力光が出て行く。その透過率は10%以上とする。望ましくは50%程度ある方が良い。薄膜電極の網目からは出力光が無損失(透過率100%)で出て行くので、その分だけ出力光が増える。
【0032】
しかし反面、薄膜金属p電極と接触しないp型コンタクト層部分ができるから電流が充分にp型コンタクト層で広がらない可能性もあり、その分の損失が発生する可能性もある。p型コンタクト層の抵抗率が低ければ低いほど、開口部(窓)が狭ければ狭いほどp型コンタクト層で電流は広がり易い。だから網目状p電極の開口部は狭い方が良い。開口部直径は大きくても100μm程度で20μm?10μm程度が良い。開口部直径を狭くすると被覆率も増えるから出力光の増えが少なくなる。」

(ウ)「【0053】
[h.薄膜電極の厚みd]
先述したように従来は20nmの一様全面電極を用いていた。20nmで透過率は約50%であり半分は吸収され無駄になる。もっと薄くすると吸収は減るが反対に電気抵抗が増えるので台座電極から透明薄膜電極へ電流が流れないようになる。だから最低でも10nm以上である。製造工程からしても10nm以下の薄い薄膜電極は作りにくい。
【0054】
薄膜電極があっても10%程度の透過率が欲しいので、それから上限が決まる。Auは電気抵抗が低くてp型コンタクト層にオーミック接合できて優れた材料である。製造の方法にもよるが厚みが20nmだと抵抗率が2×10^(-6)Ωcm程度の高伝導度のものを作製することができる。文献▲1▼で用いられているITO(インジウムと錫の酸化物)はうまく作っても4×10^(-4)Ωcm程度の抵抗率である。ITOがAuよりも約100倍もの抵抗率をもつからITO層は600nm程度の厚い電極としなければ電流が流れない。それが▲1▼において台座電極はITOを介して金属電極と接続されITOの存在は台座電極・金属薄膜電極の間の抵抗を高めてしまうので不利である。
【0055】
本発明は台座電極とAu電極を直接に接続しておりAu膜厚を10nm?30nmと薄くしても電流を充分に流すことができる。製造方法にもよるがAu層は20nmで吸収率が約50%である。10nmでは吸収率は約30%に下がるが電気抵抗が上がる。10nm以下にすると抵抗のあがりが大きくて好ましくない。被覆部でどの程度の透過率が必要かということで厚みの上限が決まる。被覆部でも0.1以上の透過率がほしいものである。厚みをdとし吸収係数をαとすると、透過率はexp(-αd)で表現される。d=20nmで透過率が0.5なのでα=0.0346nmである。0.1の透過率を与える厚みは、0.1=exp(-0.0346d)から66nmと計算される。しかし薄膜の電気抵抗は製造の方法条件によって大きく左右される。Auは比較的安定で再現性は他の金属より優れている。
【0056】
だから膜厚の上限は約60nmということである。
10nm≦d≦60nm (14)
これは目安であって実際には製造条件方法によりAuの抵抗率が変わる。被覆部の透過率が10%以上になるように電極厚みdを決めれば良い。」

(エ)「【0057】
【実施例】
[1.実施例1(ZnSe白色LEDにハニカム構造を適用)]
…。
【0062】
その後、発光領域(中央部分)全面に、Auよりなる厚み20nm(d=20nm)の蜂の巣状(ハニカム構造)の網目電極20を形成した。さらにn型ZnSe基板の底面にn電極(InまたはTi/Au)10を形成した。
【0063】
電極(9、10)形成後のエピウエハを縦横に切断して400μm角の多数のLEDチップに切り出した。図2は一つのチップの平面図を示すが、上面の上隅に台座電極9があり、蜂の巣状の薄膜電極20が上面を覆う。開口部から下地のp-ZnTe/ZnSe超格子8が見える。四辺は台座電極と同じTi/Auとなっており、ここには電流が流れないようになっている。p型電極が形成されている面を上にしてリードフレームに固定しリードとp電極(台座電極9)をワイヤボンディングした。その後、樹脂封止して砲弾型LEDランプに仕上げた。
【0064】
網目状電極の配置形状は既に説明したように、六回対称、四回対称などの対称性のある隅点に円、正方形、正六角形などの窓を配置する。図3は四回対称性のあるパターンにおいて正方形の窓を設けたものである。図4は四回対称性のある隅点に丸の窓を設けたパターンである。窓の直径Lは例えば10μm?40μmとする。
【0065】
本発明のLEDの発光出力を定電流モードで測定した。20mA通電時で、発光強度が5mWにもおよぶ高輝度の白色発光が得られた。」

(オ)「【0075】
本発明のLEDを定電流モードで測定したところ、20mA通電時で発光強度が4mWにも及ぶ高輝度の青色発光が得られた。」


イ 引用発明
上記アの(ア)によれば、引用例には、
「n型半導体基板と、その上にn型バッファ層を介し或いは直接に形成されたn型クラッド層と、n型クラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層の上に直接にあるいはp型半導体層を介して形成されたp型コンタクト層と、n型半導体基板の裏面に形成されたn電極とを含む発光ダイオード素子であって、
p型コンタクト層の上に形成された10%以上の透過率をもつ被覆部と20%以上の面積比率をもつ網目状の開口部とを有する電流拡散用のp側透光性薄膜金属電極と、p型コンタクト層の周辺部に設けられ透光性薄膜金属電極と直接に接合されたワイヤボンディング用の台座電極とよりなるp側金属電極構造を備え、
網目状のp側透光性薄膜金属電極の開口部の直径Lが100μm以下であり、
網目状のp側透光性薄膜金属電極の被覆部の厚みdが10nm以上60nm以下である発光ダイオード素子。」(以下「引用発明」という。)
が記載されているものと認められる。

ウ 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「n型半導体基板」、「n型半導体基板の裏面に形成されたn電極」、「n型バッファ層を介し或いは直接に形成されたn型クラッド層と、n型クラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層の上に直接にあるいはp型半導体層を介して形成されたp型コンタクト層」、「(p型コンタクト層の上に形成された)p側透光性薄膜金属電極」及び「発光ダイオード素子」は、それぞれ、本願補正発明の「結晶基板」、「(結晶基板の一方の面の)電極層」、「化合物半導体層」、「化合物半導体層上に積層された金属電極層」及び「半導体発光素子」に相当する。
(イ)引用発明の「開口部」が本願補正発明の「開口部」に相当するところであり、引用発明のp側透光性薄膜金属電極は網目状であるから、引用発明においても本願補正発明と同様に「金属電極層の金属部位の任意の2点間は切れ目無く連続して」いるものと認められる。
また、引用発明において、「網目状のp側透光性薄膜金属電極の被覆部の厚みdが10nm以上60nm以下である」から、本願補正発明と同様に「金属電極層の膜厚が10nm以上200nm以下の範囲に」あるといえる。
(ウ)以上のことから、本願補正発明と引用発明は、
「結晶基板の一方の面に電極層を具備し、反対側の光取り出し面に化合物半導体層と、前記化合物半導体層上に積層された金属電極層とを具備してなる半導体発光素子であって、
前記金属電極層が貫通する複数の開口部を有しており、
前記金属電極層の金属部位の任意の2点間は切れ目無く連続しており、
前記金属電極層の膜厚が10nm以上200nm以下の範囲にある半導体発光素子。」の点で一致する。

(エ)一方、次の点で相違する。
a.本願補正発明では、「前記半導体発光素子に流される電流が100mA以上であり」とされているのに対し、引用発明の発光ダイオード素子に流される電流がこのようなものであるか不明であり、実施例においては、引用例の【0065】及び【0075】に記載されるように20mAとされている点。
b.本願補正発明では、「前記金属電極層の面積が1mm^(2)以上であり」とされているのに対し、引用発明のp側透光性薄膜金属電極の面積がこのようなものであるか不明であり、実施例においては、引用例の【0063】に記載されるように400μm角とされている点。
c.本願補正発明では、「前記開口部の平均開口部直径が10nm以上2μm以下であり」とされているのに対し、引用発明では、「開口部の直径Lが100μm以下であり」とされているものの、開口部の直径Lがこのような範囲であるか不明であり、実施例では、引用例の【0064】に記載されるように「窓の直径Lは例えば10μm?40μmとする」とされている点。
d.本願補正発明では、「前記金属電極層のシート抵抗が10Ω/□以下である」とされているのに対し、引用発明のp側透光性薄膜金属電極のシート抵抗がこのようなものであるか不明な点。

エ 判断
(ア)上記相違点aについて検討するに、引用発明において、発光ダイオード素子に流される電流を100mA以上とする点は当業者の設計的事項である(100mA以上の電流で発光ダイオード素子を駆動する点が格別なものであるとは言えない。)。
本願明細書の【0002】及び【0003】に記載する「従来のパッド電極を具備する半導体発光素子」において素子に流す電流を多くすることには、本願明細書の【0003】に記載されるような問題があるものと認められるが、引用発明は、パッド電極を具備する構造のものではなく、網目状のp側透光性薄膜金属電極を備えるものであるから、素子に流す電流を多くして100mA以上の電流で発光ダイオード素子を駆動する点に格別の阻害要因は認められない。

(イ)相違点bについて検討するに、引用発明において、電極(発光素子)のサイズをどの程度のものとするかは当業者の設計的事項である。
引用例に記載される実施例では、400μm角とされているが、これを1mm角とすることに格別の困難性は認められない。
本願明細書の【0002】及び【0003】に記載する「従来のパッド電極を具備する半導体発光素子」において素子をそのまま大きくすることには、例えば、特開昭62-141788号公報の第2頁右上欄第2?8行に「大型表示用の発光ダイオード素子として、第9図に示した構造の素子をそのまま大型化することも考えられる。しかし、このような構造の大型素子は、表面電極が小さ過ぎると、電流分布が不均一になって発光ムラを生じる。逆に、表面電極が大き過ぎると、電極による光の遮断により充分な発光輝度を得ることができなくなるという不都合を生じる。」(ここで、「第9図に示した構造の素子」とは、第1頁右下欄第18行?第2頁左上欄第3行に「第9図に示すように、素子表面の略中心位置に、例えば金薄膜よりなる円形状の表面電極(ボンディングパッドともいう)6が形成されている」と記載されるように、本願明細書に記載する「パッド電極を具備する半導体発光素子」のことである。)と記載されるように問題があるものと認められるが、引用発明は、パッド電極を具備する構造のものではなく、網目状のp側透光性薄膜金属電極を備えるものであるから、素子を大きなサイズで切り出すようにすることに格別の阻害要因は認められない。

(ウ)相違点cについて検討するに、本願補正発明の開口部直径に関し、本願明細書の【0015】には「化合物半導体層に均一に電流を流すためには開口部の大きさ、開口部の中心間隔はある程度限定される。シミュレーション等の計算による検討を行うと、電流が流れる範囲は、電流を流す半導体層のドーピング濃度等にも依存するが、金属電極層端からおおよそ2μmまでの範囲である。すなわち、開口部の直径がそれ以上であると電流が流れない範囲が生じて、直列抵抗を下げることが出来ず順方向電圧を下げることが出来ない。実際に、間隔が5μm以上であるメッシュ構造を有する金属電極を具備した半導体発光素子においては特に、順方向電圧が低下したという報告は無い(非特許文献1参照)。そのため、平均開口部直径の上限は2μm以下、好ましくは1μm以下である。一方、下限に関しては抵抗値の観点からは特に制約は無いが、作製の容易性の観点から10nm以上、好ましくは30nm以上である。」と記載されているところ、引用例においても、【0032】に「薄膜金属p電極と接触しないp型コンタクト層部分ができるから電流が充分にp型コンタクト層で広がらない可能性もあり、その分の損失が発生する可能性もある。p型コンタクト層の抵抗率が低ければ低いほど、開口部(窓)が狭ければ狭いほどp型コンタクト層で電流は広がり易い。だから網目状p電極の開口部は狭い方が良い。」と、引用発明における開口部の直径Lは小さければ小さいほどp型コンタクト層で電流が広がり易いので、網目状p電極の開口部の直径Lは小さい方が良い旨記載されているのであるから、引用発明における開口部の直径Lとして、本願補正発明で規定する範囲内のものを想定することに格別の困難性は認められない。
確かに、引用例に記載の実施例では、「10μm?40μm」とされ、引用例の【0032】にも「開口部直径は大きくても100μm程度で20μm?10μm程度が良い」と記載されているものの、10μmより小さくしてはならない理由は特に認められない。
【0032】には「開口部直径を狭くすると被覆率も増えるから出力光の増えが少なくなる」と記載されているが、これは、開口部の数を変えずに開口部直径のみを小さくした場合について述べているものと考えられるところであり、開口部直径を小さくしても、開口部の数を増やして開口率(被覆率)を変えなければ、このような不都合は生じないものと認められるから、引用発明において、開口部の直径Lを10μmより小さくしてはならない格別の理由は認められない。
してみると、引用例において「20μm?10μm程度が良い」とされているのは、本願補正発明が開口径の下限を上記のごとく作製の容易性の観点から定めているのと同様に、引用例に係る特許出願の出願時点における開口部の作製の容易性の観点からではないかと推認されるところ、例えば、原査定の拒絶理由に引用した特開2006-294617号公報(【0008】の「格子定数をaとし、…孔125の半径は約0.36a」、【0009】の「a/λ[λは自由空間波長]が0.326」の記載から、孔125の直径は、0.23λであり、λを500nmとすれば、100nm程度となる。)や特開2009-76361号公報(【請求項1】の「平均開口部径が10nm以上、前記光の波長の3分の1以下の範囲にあり」の記載参照。)に記載されるように、本願の出願時点においては、本願補正発明で規定する大きさの開口径を有する薄膜金属電極が知られているのであるから、開口部の直径として、本願補正発明で規定する範囲内のものを採用することにも格別の困難性は認められない。

(エ)相違点dについて検討するに、引用例には、【0054】に「Auは電気抵抗が低くてp型コンタクト層にオーミック接合できて優れた材料である。製造の方法にもよるが厚みが20nmだと抵抗率が2×10^(-6)Ωcm程度の高伝導度のものを作製することができる。」と記載され、【0062】に「発光領域(中央部分)全面に、Auよりなる厚み20nm(d=20nm)の蜂の巣状(ハニカム構造)の網目電極20を形成した」と記載されている。
ここで、シート抵抗は、抵抗率を厚みで除したものであるから、Auよりなる厚み20nmの薄膜金属電極のシート抵抗は、2×10^(-6)Ωcm/20nm=1Ω/□と計算されるところであり、結局、この相違点dは、本願補正発明と引用発明との実質的な相違点とはいえない。

(オ)作用効果について
請求人は、審判請求書において、「金属電極層の、面積、開口部のサイズ、厚さ、抵抗値などを特定のものとし、さらに発光素子に流される電流値を100mA以上に特定したことを特徴とするものであって、このような構成を採用したことにより、発光表面全面に金属電極が施されたことによる放熱性の改良と順方向電圧の低下による発熱そのものの低下を実現し、それによって大きな電流を流すことを可能とし、結果的に高い発光輝度を実現する(本願明細書段落[0010]をご参照ください)という顕著な作用効果を奏するものです。」と主張するが、本願明細書の【0010】の記載は、「発光表面全面に金属電極を施すことにより半導体発光素子内部から発生する熱をその金属電極を介して十分に放熱することが可能となり、多くの電流を半導体発光素子に流しても輝度は低下することなく、電流増加とともに輝度は維持されるか上昇するものである。また、金属電極を発光表面全面に形成することにより、半導体発光素子自体の直列抵抗を下げ、順方向電圧を低下させることが可能となる。そのことから半導体発光素子内部で発生する熱も少なくなり、半導体発光素子の高輝度化に有利となる。」というものであるから、この効果は、発光表面全面に金属電極を施す構造としたことによるものと認められるところ、引用発明は、既にこのような発光表面全面に金属電極を施す構造となっているから、引用発明もこのような作用効果を奏するものであることは明らかであって、この作用効果が格別とはいえない(また、上記(ウ)で指摘したように、引用例には、p型コンタクト層で電流が広がり易いので、網目状p電極の開口部の直径Lは小さい方が良い旨記載されているから、引用例には、開口部の直径を小さくすることにより、半導体発光素子自体の直列抵抗を下げ、順方向電圧を低下させることができることの示唆があるといえる。)。
また、請求人は、本願補正発明が開口率以上の光透過率を実現するものである旨の主張をするが、本願明細書の【0020】には、「また、本発明に用いられる開口部を有する金属電極層は、開口部のサイズや配置される位置を調整することで、開口率以上の光透過率を実現することも可能である。このような技術は、例えば特許文献1に記載されている。すなわち金属電極層における開口部に阻害されない連続した金属部位の直線距離が、化合物半導体層から発生する光の波長の1/3以下である部位が、全面積の90%以上であり、平均開口部直径が10nm以上、化合物半導体層から発生する光の波長の3分の1以下の範囲にあることで、光透過率が高い金属電極層を達成できるので好ましい。」と記載されており、開口率以上の光透過率を実現するためには、「金属電極層における開口部に阻害されない連続した金属部位の直線距離が、化合物半導体層から発生する光の波長の1/3以下である部位が、全面積の90%以上であり」との要件を必要とするところ、本願補正発明は、このような要件を発明特定事項とするものではないから、本願補正発明が開口率以上の光透過率を実現するものである旨の請求人の主張は採用できない。
なお、本願補正発明において、さらに「金属電極層における開口部に阻害されない連続した金属部位の直線距離が、化合物半導体層から発生する光の波長の1/3以下である部位が、全面積の90%以上であり」との要件を発明特定事項としたものについてみても、このような金属電極は、本願明細書の【0020】に記載される特許文献1(当審注;上記(ウ)に記載した特開2009-76361号公報のことである。)に記載されており、引用発明におけるp側透光性薄膜金属電極として、当該特許文献1に記載される光透過性金属電極を採用することに格別の困難性は認められない。
この点に関し、請求人は、「引用文献3に記載された金属電極は、一辺が300μm以下のような相対的に小さな電極です(引用文献3段落[0002]をご参照ください)。従来、このような用途に用いられていた電極は、そのまま大きくすると発熱が大きくなるために輝度の低下が大きく、また発熱のために電流量を大きくすることが極めて困難でした(本願明細書段落[0002]?[0003]をご参照ください)。」(当審注;この「引用文献3」とは、平成25年3月12日付け拒絶理由通知書において引用文献3として引用されたものであって、特開2009-76361号公報のことであり、前記特許文献1のことである。)と主張するが、この「引用文献3段落[0002]」の記載は、「光、とりわけ可視光の領域において透過性を示すと同時に電極としての機能をも有する光透過型金属電極は、主にエレクトロニクス産業において幅広く利用されている。例えば、現在、市場において流通しているディスプレイのうち、ブラウン管型ディスプレイ、いわゆるCRT型を除いたすべてのディスプレイが電気的駆動方式を用いるため光透過型金属電極を必要とする。近年の液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイの爆発的な普及に伴い、透明電極の需要は急速に増加している。」というものであり、「引用文献3に記載された金属電極」が「一辺が300μm以下のような相対的に小さな電極」であると認めることはできず、請求人の当該主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるところであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年5月14日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記2(2)アに本件補正前のものとして示したとおりである。

(2)判断
本願発明は、本願補正発明から「前記半導体発光素子に流される電流が100mA以上であり、」との事項を省いたものであるから、前記2(3)において本願補正発明について検討したのと同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められる。

4 むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-20 
結審通知日 2014-08-22 
審決日 2014-09-02 
出願番号 特願2009-199416(P2009-199416)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下村 一石  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 半導体発光素子およびその製造方法  
代理人 鈴木 順生  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 関根 毅  
代理人 前川 英明  

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