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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1293130
審判番号 不服2012-12990  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-06 
確定日 2014-10-20 
事件の表示 特願2006-538335「潤滑油組成物の高速大量処理審査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月12日国際公開、WO2005/042765、平成19年 6月 7日国内公表、特表2007-514801〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2004年10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年10月31日 米国)を国際出願日とする出願であって,その請求項1?29に係る発明は,特許請求の範囲に記載された事項により特定されるのものであって,そのうち請求項16に係る発明は次のとおりである。
「複数の潤滑油組成物を高速大量処理により審査するためのシステムであって,下記を含むシステム:
(a)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油,
(b)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤,
(c)複数の試験容器,
(d)試験用の候補潤滑油組成物試料を調製するための少なくとも一種の潤滑粘度の基油の候補と少なくとも一種の潤滑油添加剤の候補とを示す手段,
(e)上記の複数の試験容器の各々にて,それぞれ所定量の上記で示された少なくとも一種の潤滑粘度の基油の候補と少なくとも一種の潤滑油添加剤の候補を一緒にして,複数の試験容器の各々に複数の試験用の候補潤滑油組成物試料を調製する手段,
(f)上記の複数の候補潤滑油組成物試料の各々を試験ステーションに別々に位置させて,候補潤滑油組成物試料の摩耗安定度を試験するように構成された移動手段,ただし,この試験は,極圧試験,流体試験,腐食試験およびそれらの組合せからなる群より選ばれる,および
(g)試験ステーションに連結していて,複数の候補潤滑油組成物試料の各々の摩耗安定度の測定値を受信して保存するように構成された制御装置,ただし,この測定値は,(i)出力された各々の摩耗安定度の測定値に関連する勾配パターンを生成させ,そして(ii)摩耗測定値に対応する,非常に急峻な勾配の応答にて増加する特性のパターンを調べることにより解析される。」(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物及びその記載事項
原査定で引用された,本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特表2002-541442号公報(以下,「刊行物A」という。)には,次の事項が記載されている。

(A1)
「【請求項13】 別個のサイトまたは別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステムであって,
各配合物は,機能,活性または性質が知られている少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっており,該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものであり,そして,該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能であるか,または該手段によりアクセス可能であり,
配合物試験アレイ,
配合成分を貯蔵するためのレザバー手段,
レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および
各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルまたは各サイトに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段,
を含んでなる上記システム。
【請求項14】 各配合物の1以上の性質をスクリーニングするための手段をさらに含む,請求項13に記載のシステム。

【請求項21】各配合物を別々にアレイからスクリーニング手段へ送るためのプロセッシング手段をさらに含む,請求項13に記載のシステム。
【請求項22】 1以上の望ましい特徴を有する2種以上の物質を含む配合物を決定する方法であって,
該物質を選択して該配合物をつくり,
少なくとも1つの機能的,生物学的,物理的または化学的特徴を確認することにより該配合物をスクリーニングし,そして
該物質を,別個のサイトまたは別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイに配合する,
ことを含んでなり,ここで,各配合物は少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,少なくとも一方の物質は機能,活性または性質が知られており,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっており,該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものであり,そして該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能であるか,または該手段によりアクセス可能である,上記方法。
【請求項23】 意図した機能,活性,化学的または物理的性質を測定するために前記アレイ中の各配合物をスクリーニングすることをさらに含む,請求項22に記載の方法。
【請求項24】 意図した機能,活性,化学的または物理的性質の最も望ましい測定値を有する配合物を選択することをさらに含む,請求項23に記載の方法。」

(A2)
「【0001】
発明の背景
本発明は,一般的に,配合物を同時にまたは逐次にプロセッシングし,アッセイすることにより,…医薬品,…および工業用製品のための最適化された配合物を開発するための方法およびシステムの分野に関するものである。」

(A3)
「【0011】
本明細書で使用する場合,組成物とは2種以上の成分の組合せをいう。成分ではなく組成物を,最適な配合物を決定するためのスクリーニングにかける。これは,特定の活性を有する化合物を同定するためのスクリーニング法ではなく,最も望ましい性質を有する配合物を同定するための,公知化合物の新規な配合物のスクリーニング法である。…「ハイスループット」とは,本明細書に記載のように作製され又はスクリーニングされるサンプルの数が,典型的には少なくとも10サンプル,より典型的には少なくとも50?100サンプル,そして好ましくは1000サンプルを越えることをいう。「自動化された」とは,作製されるサンプル数が100以上の範囲のハイスループットであること,又はサンプルを配合するソフトウェアを用いたサンプルの作製をいう。」

(A4)
「【0041】
D.消費者用および工業用製品
工業用製品とは,食器洗浄剤および洗剤などの家庭用洗浄剤製品から,車およびその他の機械用の油およびその他の潤滑剤,…ならびにコンクリートおよび充填剤などの建築工業で使用する材料まで,広範囲の物質を網羅する。」

(A5)
「【0055】
図1は当該プロセスのフローチャートであり,物質ソース,すなわち1種以上の濃度の1種以上の成分の選択に始まり,サンプルウェル若しくは別個のサイトに成分を混合若しくは投入し,物質アレイを形成し,1種以上のパラメーターについてアッセイし,その後の分析のためにデータを採取するものである。」

(A6)
「【0061】
実施例
本発明は,所望の性質を持つ薬物配合物のハイスループット配合およびスクリーニングのための,本明細書に開示したプロセスについての,以下に示す限定するわけでない実施例を参照することによって,さらに理解されるであろう。」

(A7)
「【図1】



3.刊行物に記載された発明
ア 刊行物Aの摘記(A1)の【請求項13】には,
「別個のサイトまたは別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステムであって,
各配合物は,機能,活性または性質が知られている少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっており,該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものであり,そして,該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能であり,
配合物試験アレイ,
配合成分を貯蔵するためのレザバー手段,
レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および
各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルまたは各サイトに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段,
を含んでなる上記システム。」
と記載されている。

イ 刊行物Aの【請求項13】に記載のシステムが含むとしている手段等は,次のものである。
(1)「配合物試験アレイ」
(2)「配合成分を貯蔵するためのレザバー手段」
(3)「レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段」
(4)「各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルまたは各サイトに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段」
また,上記システムは「配合物試験アレイ」を含むとしているが,該配合物アレイは次の事項を満たすものとされている。
(i)「(アレイを構成する)各配合物は,機能,活性または性質が知られている少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっており」
(ii)「該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものであり」
(iii)「そして,該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能であり」

ウ したがって,上記【請求項13】の記載は次のように言い換えることができる。
「別個のサイトまたは別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステムであって,
(1)配合物試験アレイ,とともに,
(2)配合成分を貯蔵するためのレザバー手段,
(3)レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および
(4)各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルまたは各サイトに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段,
を含んでなるシステムであり,
前記「(1)配合物試験アレイ」は,以下の事項を満たすものである,システム。
(i)アレイを構成する各配合物は,機能,活性または性質が知られている少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっている。
(ii)該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものである。
(iii)該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能である。」(以下,「引用発明」という。)

4.対比
ア 本願発明は「複数の潤滑油組成物を高速大量処理により審査するためのシステム」とされているのに対して,引用発明は「多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステム」とされているものであるが,ここでいう『配合物』と『組成物』とは技術的に同義と解される用語であると解される。
また,刊行物Aには,用語『自動(化)』に関連して,摘記(A3)の【0011】に
「『ハイスループット』とは,本明細書に記載のように作製され又はスクリーニングされるサンプルの数が,典型的には少なくとも10サンプル,より典型的には少なくとも50?100サンプル,そして好ましくは1000サンプルを越えることをいう。『自動化された』とは,作製されるサンプル数が100以上の範囲のハイスループットであること,又はサンプルを配合するソフトウェアを用いたサンプルの作製をいう。」
と記載されているので,引用発明も『高速大量処理』を行うシステムと解される。
さらに,スクリーニング手段に関して,引用発明では,
「…各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能である」
と引用発明に係るシステムの1構成としては組み込まれているとはいえないものの,ここで「?接続可能」とされている上,引用発明に係る【請求項13】を引用する【請求項14】においても,
「各配合物の1以上の性質をスクリーニングするための手段をさらに含む,請求項13に記載のシステム。」(摘記(A1))
との記載もあることから,引用発明に係るシステムは,スクリーニングすることを前提としていると解されるので,「?スクリーニング(審査)するためのシステム」といえる。
よって,引用発明には,「潤滑油(組成物又は配合物)」との特定がなされていないものであるが,本願発明とは,「多数の配合物試料をハイスループット(高速大量処理)によりスクリーニング(審査)するためのシステム」という点では共通するものである。

イ そして,本願発明における,
「(a)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油,
(b)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤,
(c)複数の試験容器,
(d)試験用の候補潤滑油組成物試料を調製するための少なくとも一種の潤滑粘度の基油の候補と少なくとも一種の潤滑油添加剤の候補とを示す手段,
(e)上記の複数の試験容器の各々にて,それぞれ所定量の上記で示された少なくとも一種の潤滑粘度の基油の候補と少なくとも一種の潤滑油添加剤の候補を一緒にして,複数の試験容器の各々に複数の試験用の候補潤滑油組成物試料を調製する手段,」
は,組成物試料の調製の段階であり,組成物の具体的な用途として「潤滑油」と特定されていることを除いては引用発明における
「(1)配合物試験アレイ,とともに,
(2)配合成分を貯蔵するためのレザバー手段,
(3)レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および
(4)各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルまたは各サイトに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段,」
に相当するものである。

ウ また,引用発明の(i),すなわち,
「(i)アレイを構成する各配合物は,機能,活性または性質が知られている少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっている。」について検討すると,
本願明細書には,例えば,
【0016】に「本発明の高速大量処理審査方法に使用される潤滑油組成物には,第一成分として潤滑粘度の基油が主要量で,…」及び
「本発明に使用される基油は,…潤滑油組成物を配合するのに使用される,現在知られているか,…」と,
【0031】に「本発明に使用される潤滑油組成物の第二成分は,少なくとも一種の潤滑油添加剤である。そのような添加剤は,潤滑油組成物を配合するのに使用される現在知られているか,…」と,
それぞれ記載されていることなどから,本願発明における組成物を構成する第一成分及び第二成分ともに公知の基油・添加剤が使用されるものであることが理解され,更に,例えば,
【0015】に「本発明の審査方法の第一工程では,…基油と…潤滑油添加剤の量を変えて試験溜め(容器)それぞれに導入し,それにより各溜めは,各受け器内で潤滑粘度の基油と組み合わせた添加剤の量百分率及び/又は種類に応じて組成が違っている異なる潤滑油組成物を含んでいる。」とも記載されていることから,本願発明の各候補組成物試料は,濃度や組成において異なるものであるといえるので,引用発明(i)は,本願発明に該当するものであり,この点で両発明は異ならないものといえる。

エ 次に,引用発明の(ii),すなわち,
「(ii)アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものである。」
については,
本願明細書には,例えば,
【0015】に「『高速大量処理』なる表現は,…比較的多数の異なる潤滑油組成物を迅速に製造して分析できることを意味する…。本発明の審査方法の第一工程では,…潤滑粘度の基油と…潤滑油添加剤の量を変えて試験溜め(容器)それぞれに導入し,それにより各溜めは,各受け器内で潤滑粘度の基油と組み合わせた添加剤の量百分率及び/又は種類に応じて組成が違っている異なる潤滑油組成物を含んでいる。…操作は,プログラム制御下で有利に遂行され,例えばマイクロプロセッサ又は他のコンピュータ制御装置により自動制御される。『プログラム制御』なる表現は,…本発明で複数の潤滑油組成物を用意するのに使用される装置が,マイクロプロセッサ又は他のコンピュータ制御装置により自動化され制御されることを意味する…。」と,
【0043】に「一般に容器110は,前記潤滑粘度の基油Bの供給物を含んでいる。容器120は,添加剤Aの供給物を含んでいて,基油の性状を改良するのに有用な前記添加剤のうちのいずれかであってよい。」と,
【0044】に「管路111は,基油Bをノズル部分113まで導く導管であり,後述するようにノズル部分から基油Bを選択した試験溜めに分配することができる。分配する基油の量は計量ポンプ112で決められるが,コンピュータで制御することができる。」と,
【0045】に「管路121は,潤滑油添加剤Aをノズル部分123まで導く導管であり,後述するようにノズル部分から添加剤Aを選択した試験溜めに分配することができる。分配される潤滑油添加剤の量は計量ポンプ122で決められるが,これもコンピュータで制御することができる。」と,
それぞれ記載されていることなどから,本願発明でも,プログラム制御下で,種類の異なる基油や添加剤について供給物容器から各試験溜めに分配するものであるといえ,引用発明の(ii)も,本願発明に該当するものであり,この点で両発明は異ならないものといえる。

オ 以上を踏まえて,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を,本願発明の表現に即して記載すると次のようになる。
[一致点]
「複数の組成物を高速大量処理により審査するためのシステムであって,下記を含むシステム:
(c)複数の試験容器,
(d)試験用の候補組成物試料を調製するための少なくとも一種の候補を示す手段,
(e)上記の複数の試験容器の各々にて,それぞれ所定量の上記で示された少なくとも一種の候補を一緒にして,複数の試験容器の各々に複数の試験用の候補組成物試料を調製する手段」

[相違点1]
「複数の組成物試料」が,本願発明では「(a)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油」と「(b)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤」とを含む「潤滑油組成物」と特定され,それに応じて,(d)の候補を示す手段において,基油及び添加剤のそれぞれの候補を示すとされていて,さらには(e)の試料を調製する手段においても,基油と添加剤とを区別して記載しているのに対して,引用発明では,単に「各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有する」とされているに止まる点。

[相違点2]
本願発明では,
「(f)上記の複数の候補潤滑油組成物試料の各々を試験ステーションに別々に位置させて,候補潤滑油組成物試料の摩耗安定度を試験するように構成された移動手段,ただし,この試験は,極圧試験,流体試験,腐食試験およびそれらの組合せからなる群より選ばれる」
という手段があるのに対して,
引用発明では,
「(iii)該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能である。」とされていて,試験に関して一般的な記載に止まり,スクリーニング手段に関しては『接続可能』とするに止まって,移動手段についても直接記載がない点。

[相違点3]
本願発明では,「(g)試験ステーションに連結していて,複数の候補潤滑油組成物試料の各々の摩耗安定度の測定値を受信して保存するように構成された制御装置,ただし,この測定値は,(i)出力された各々の摩耗安定度の測定値に関連する勾配パターンを生成させ,そして(ii)摩耗測定値に対応する,非常に急峻な勾配の応答にて増加する特性のパターンを調べることにより解析される。」
という制御装置があるのに対して,引用発明では,そのような装置がない点。

カ なお,引用発明の(i)及び(ii)については,本願発明には直接対応する記載がないことから,一致点又は相違点としては特には言及しなかったが,上記「ウ」及び「エ」で検討したとおり,このような事項によって両発明の相違点が生ずるものではないことは明らかである。

5.検討
(1)[相違点1]について
ア 引用発明における「配合物(混合物)」として,刊行物Aにおいて実施例を伴って具体的かつ詳細に記載されているものは,医薬組成物に関するものである(例えば,摘記(A6)【0061】など)。
しかしながら,まず摘記(A2)【0001】で「医薬品,…工業用製品のための最適化された配合物を開発するための方法およびシステムの分野に関する」と記載され,さらに摘記(A4)【0041】において「工業用製品とは,…車およびその他の機械用の油およびその他の潤滑剤,…まで,広範囲の物質を網羅する。」と記載されていることから,これらの記載を基に,車用の潤滑剤組成物に対して,引用発明を適用することについて示唆があるといえる上,医薬組成物と潤滑剤組成物とは,ともに通常は数種類以上の成分からなる混合物であって,この点で共通することもまた周知であるといえる。加えて,両者はともに各種性能の向上が引き続き求められ,配合成分の量比に応じてそれら各種性能が影響されるものであることも共通するものである。
したがって,引用発明に関する手法を自動車エンジン用の潤滑油組成物に対して適用しようとすることは,当業者が容易に想到することといえる。
イ そして,自動車エンジン用潤滑油組成物は,主要量の潤滑粘度の基油と少量の添加剤とを含むことは技術常識であるから,引用発明における配合物(混合物)として,自動車エンジン用の潤滑油組成物を想定した場合に,それに応じて,該配合物の成分として,主要量の潤滑粘度を有する基油と少量の添加剤とを含むものとすることも当業者が当然の如く想到することである。
ウ よって,引用発明に係るシステムを,自動車エンジン用の潤滑油組成物に適用し,その配合成分として主要量の基油と少量の添加剤とを特定することは当業者が容易になし得ることである。

(2)[相違点2]について
ア 前記「4.対比 ア」でも記載したように,引用発明においては,「アレイは,…スクリーニングするための手段に接続可能」とするに止まり,スクリーニング手段をシステムの1構成とすることまでは記載されているとはいえないものの,このような「?接続可能」との記載に加えて,摘記(A1)の【請求項14】に 「各配合物の1以上の性質をスクリーニングするための手段をさらに含む,…システム。」と記載されていること,並びに,摘記(A5)の【0055】及び摘記(A7)の【図1】において,
「物質アレイを形成し,1種以上のパラメーターについてアッセイし,その後の分析のためにデータを採取する」旨の記載がなされていることから,引用発明のシステムに対して,分析のためのデータを採取する試験を行うスクリーニング手段を,さらに設けることは,当業者が適宜なし得ることである。
イ また,摘記(A1)の【請求項21】に「各配合物を別々にアレイからスクリーニング手段へ送るためのプロセッシング手段をさらに含む,…システム。」との記載がなされていることから,この記載に基づいて,スクリーニングするための手段へ配合物を移動するための手段を,さらに追加することも当業者が容易になし得ることである。
ウ そして,引用発明は,スクリーニングに関して「意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングする」と一般的な記載に止まるものであるが,自動車エンジン用の潤滑油組成物においては,摩耗安定性は基本的な性能として求められること,及び,それらに関する極圧摩耗試験や腐食摩耗試験などの試験内容も,また各試験により得られたデータを用いて評価されていることも,何れも当業者により広く知られていることである(例えば,特開2000-119680号公報の【0023】など,特開平6-264084号公報の【0048】?【0050】など,特開平7-18368号公報の【0016】?【0017】など参照)から,引用発明における「意図した機能,…または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングする」試験として,周知の極圧摩耗試験や腐食摩耗試験などを選択することは当業者が容易になし得ることといえる。
エ したがって,引用発明を自動車エンジン用の潤滑油組成物に対して適用した際に,各配合物について,摩耗安定度に関する極圧摩耗試験や腐食摩耗試験を行う手段を設け,さらに該試験への配合物を送るための手段を設けることは,当業者が適宜なし得る程度のことに過ぎない。

(3)[相違点3]について
ア 本願発明でいう「この測定値は,(i)出力された各々の摩耗安定度の測定値に関連する勾配パターンを生成させ,そして(ii)摩耗測定値に対応する,非常に急峻な勾配の応答にて増加する特性のパターンを調べることにより解析される」とは,「測定値を種々な変量に応じて変動するパターンとして解析して,得られた複数の変動パターン間の対比を行って,特定の性能に対する種々の条件の相関性・依存性の大小といった傾向を調べる解析」といった意味であると解される。
(この点に関して,請求人が提出した平成26年1月10日付け意見書における,以下の記載参照。
「…勾配傾向は,複数の潤滑油組成物試料について,高速大量処理の方法で行った試験の結果ライブラリに保存されたデータに基づき,決定されるものであります。その結果,種々の添加剤の勾配応答を追跡すると,例えば,多くの添加剤が上述した試験のうちの一タイプには有効であるものの,他の試験に使用すると鼓舞するような結果を生じないことが分かり,またこの情報を電子ライブラリに保存することによって,一定の試験についての新たな要求条件に応じて多重の潤滑油組成物を迅速に選別することが可能になるだけではなく,この情報によって必要な添加剤の変更を最小原価で算定することも可能になるものです(本願明細書段落[0065]等参照。)。」)
以上のことを前提として,相違点3について検討する。
イ まず,上記相違点2についての検討で記載したように,自動車エンジン用の潤滑油組成物に関して,極圧摩耗試験や腐食摩耗試験などを行うことは,本願優先権主張の日前において当業者に周知であり,また,これらの試験の測定値が,例えば,温度条件や添加剤の種類や添加量などに依存して異なるパターンとなることも,周知のことといえる。
ウ そして,引用発明において,「意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングする」のは,例えば,摘記(A1)の【請求項24】において「意図した機能,活性,化学的または物理的性質の最も望ましい測定値を有する配合物を選択することをさらに含む,…」と記載されているように,多数の配合物の中から,意図した機能や性質について,もっとも望ましい測定値を有する配合物を選択することが目的であるといえる。
エ そうすると,引用発明において,スクリーニングの結果得られた測定値をデータ処理することは当然に行われることといえるから,引用発明に係るシステムを自動車エンジン用の潤滑油組成物に対して適用した際に,各測定値をデータ処理することは,当業者が当然に行うことであって,それにより,例えば,温度条件や添加剤の種類や添加量などに応じた傾向についても解析され,所望の性能・性質に関して,どのような条件が最も影響が大きいか,などの相関性や依存性が把握されることは,それらのデータ処理に伴ってごく自然に行われことに過ぎないというべきものである。
オ したがって,引用発明において,上記相違点3に関する特定事項を採用することは,当業者が容易になしえたものである。

(4)効果について
さらに,本願明細書の記載を見ても,本願発明に係る特定事項を採用することにより,当業者にとって格別予想外の効果が奏されたものとすることもできない。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,上記刊行物Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,他の請求項について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-26 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-09 
出願番号 特願2006-538335(P2006-538335)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 松浦 新司
菅野 芳男
発明の名称 潤滑油組成物の高速大量処理審査方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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